機動戦艦ナデシコ
遺失文明乱入?
第9話:前編
<アキト>
「アキト。話があるから俺達の部屋に来てくれないか?」
前回の戦闘後、キャナルちゃんのケーキから逃げた俺は、
イツキちゃんと共に部屋で休んでいた。
部屋で休む事10分くらいした頃、
部屋にケインが尋ねてきた。
そして先程のセリフを言った後、すぐさま部屋を出て行ってしまった。
おそらく自分の部屋で待ってるのだろう。
俺もケイン達に聞きたいことがあったので、ちょうどよかった。
「イツキちゃん。俺はケイン達の部屋に行って来るからね。
なにかあったら隣の部屋に来るんだよ。」
部屋を出る前に、イツキちゃんに声をかけておく。
イツキちゃんは先程の戦闘の疲れか、おもいっきり脱力していた。
その姿は……なんていうか……そう、例えるならタレパンダのようだ。
「わかりましたぁ。気をつけてぇ、くださいねぇ。」
脱力してるイツキちゃんの返事を聞いた後、隣のケインの部屋に向かう。
まぁ、すぐ隣だから10秒もしないうち部屋に着く。
部屋のドアをノックすると、中からキャナルちゃんが現れる。
「来たわね。さぁ入った入った♪
いろいろと報告したい事があるんだからね。」
そう言って、俺の背中を押して部屋に入るキャナルちゃん。
部屋の中には、ケインとサリアちゃんがいた。
ケインはサイブレードの柄を磨いていており、
サリアちゃんはテーブルの上の料理を食べるのに夢中になっていた。
しかし本当に食べれたんだ……立体映像なのに……。
「来たか。いろいろ聞きたいことがあるだろ、アキト?」
柄を磨く手を止め、話し掛けてくるケイン。
ちなみにサリアちゃんは、まだ食事中……
マイペースな子だな……
「ああ。ナデシコが火星から脱出した後の事。
そしてあの機体のこととか……
まぁいろいろとね。」
「キチンと話したあげるから、とりあえず座りなさいよ。
話はそれからよ。」
キャナルちゃんがお茶と茶菓子を出しながら言ってくる。
キャナルちゃんに促されて座り、
目の前に置かれたお茶をすすって気持ちを落ち着ける。
別に気が立っているわけではないけどね。
「さてっと。それじゃあアキトが聞きたいことを、私たちが答えるって事でいいわね?
そのほうが手っ取り早いでしょ。」
「ああ。それでいい。」
確かに、俺の聞きたいことを答えてもらうほうが話は早く済む。
「それじゃあ最初の質問。まずは火星での事を教えてくれないか?
できる限り詳しく。」
やっぱり火星での事を最初に訊かなければならない。
あの後どうやって脱出したのかが気になるからな。
しかも提督を連れてだ。
「ああ、あの時の事だな。簡単に話すけどいいか?」
「ああ。」
「んじゃ話すぞ。
ナデシコがチュ―リップに突入した後、
俺達はリープレールガンを使ってチューリップを破壊した。後を追えなくするためにな。
その後、無人機を半分ほど掃討した後、隙をみて提督をコクピットに入れて火星を脱出した。
んで、火星宙域をある程度離れたところで、フェイズドライブを使って地球まで帰ったわけだ。
とりあえずはこんなとこだな。」
なるほど。フェイズドライブを使えば火星―地球間の移動はすぐだ。
しかし、気になることがあるな。
どうして無人機を全滅させてから脱出しなかったんだ?
ケイン達の腕なら全滅させることなんて楽勝のはずだけど……
俺はそのことを訊いてみた。
「確かに全滅させる事も出来たんだけど……
そうすると、どうしても大規模な攻撃をしなければいけないでしょ?
提督もいたのにそんな攻撃するわけにはいかないもの。
それに提督の乗ったクロッカスを、守りながら戦わなければならなかったから、
かなりきつかったわよ。ソードブレイカーも結構被弾してたし・・・
あまり被弾しすぎるとフェイズドライブが出来なくなるから、敵そっちのけで脱出したの。」
言われてみればそうだ。2人だけならあの数相手でも、余裕で全滅させる事ができる。
けど何かを守りながらとなるとそうはいかない。むしろそんな状態で半分も落せたのが凄いくらいだ。
「火星での事はわかった。それで、その後はどうしたんだ?」
「地球にたどり着いた時にはもうエネルギーが残り少なくてな。
サツキミドリから地球に下りた。ソードブレイカーをコンテナに入れて一緒にな。
地球に下りた後は、残り少ないエネルギーで光学迷彩を施して本部格納庫に戻ったんだよ。
しかしあの時は驚いたな。なぁキャナル?」
「ええ。」
「なにがあったんだ?」
俺には2人が何を言っているのかわからない。当然と言えば当然だが。
すぐに2人がなんの事をいっているのか訊く。
「いやな、格納庫に入ったのはいいんだけど、
いざ機体を格納しようとしたら格納庫にいっぱいだったんだよ。」
格納庫がいっぱい? あそこは戦艦サイズの物が入るくらいの広さはあるはずだが…。
「いったい格納庫に何が入ってたんだ?」
俺の問いにケインは少し笑いながら答えた。
「機動兵器が一体と遺失文明の船が一隻。」
ケインのセリフに俺は驚愕した。
最初の機動兵器はともかく、後に言った遺失文明の船って……まさか……。
「そう、ソードブレイカーよ。本物のね。」
俺の考えている事がわかっていたのか、質問する前に答えるキャナルちゃん。
しかしなんでまたソードブレイカーが本部の格納庫にあったんだ?
「その理由はこのディスクにあるわよ。」
そう言ってディスクを差し出すキャナルちゃん。
またしても質問する前に答えられてしまった。なんでだ?
「…口に出てたわよ。まるでどこかの誰かさんみたいにね♪」
もの凄く楽しそうに言うキャナルちゃん。
しかしまさか口に出していたとは……あいつの癖でもうつったかな?
「まあそのことは置いといて……ディスクの中身、見るでしょ?」
「ああ。」
キャナルちゃんが、手にしたディスクについていたボタンを押す。
するとディスクから小さな光が浮かび上がり、光が人の形となった。
その姿は、過去に戻る前に会った遺跡の代理人だった。
「はっはっは。やあ、久しぶりだね。記録映像なので一方的にしゃべる事になるが許してくれ。」
映像の代理人が無駄にさわやかに笑う。
どこかユキトに似た笑い方だった。
「さて、伝えたい事を簡潔に話そう。
君たちの元にソードブレイカーと機動兵器を一体送った。
この映像を見ているのなら、それは確認済みのはずだ。
まずはソードブレイカーだが、修理が完了したので君たちの元へ送った。
なお、少し改造してるが気にするな。したら負けだ。」
なにが負けなんだ?
「次にソードブレイカーと一緒に送った機動兵器のついてだが、
あれは機動兵器のソードブレイカーの後継機だ。
機体名はユーリクレス。詳しい事は機体の制御コンピューターにでも訊いてくれ。
あとブローディアだが、まだ改造が済んでいない。
とある事情……まぁ言っちゃうと、某同盟から逃てるため、改造が中々進まないからだ。」
……彼女達か……(汗)
しかし、遺跡なんだから簡単に逃げられると思うんだけどな……?
「何故逃げているかと疑問に思うだろ? 私はあくまで代理人であって遺跡本体ではない。
普段は一般人として過ごしているから遺跡の力は使えないのだ。
例え使えても私自身に関わる事には使えない。
だから力を使って逃げることは出来ない。よってブローディアの改造が済んでいないわけだ。
しかし…某同盟は凄いねぇ…君達を過去に送ってから1ヶ月もしないうちに私の所在を見つけたよ。
ほんと、どうやったんだろうねぇ……?
まあ見つかる少し前にある事をしたから、そこから足がついたのかも知れないけど……。
ともかくブローディアについてはもう少し待っていてくれ。
例え同盟に捕まろうとも必ず君たちの元へ送るから。
最後に……この先、歴史がどう動くかわからない。
前回と同じ事もあるだろうし、まったく別なイレギュラーが発生する可能性もある。
……まあできる限り阻止するけどな。
それじゃあ……私が同盟に捕まらずに生きていたら火星の遺跡前で会おう。」
代理人の映像はそこまで言うと光になって掻き消えた。
代理人……生き延びてくれ。
俺には祈る事しか出来ないが逃げ延びてくれ。
「とまあこういう訳よ。わかった?」
キャナルちゃんが先程のディスクを部屋の片隅に放り投げて言う。
なんかディスクの扱いが雑だなぁ……(汗)
「ああ、わかったよ。
それじゃあ、ユーリクレスと他の機体について教えてくれないか?
それぞれの機体の特徴は格納庫では少ししか言ってなかったからな。」
「ああ、わかった。
まずユーリクレスからだ。
この機体の最大の特徴はCシステムだな。
このシステムは搭乗者の意思に応じて、様々な形のサイクリスタルを精製できる。
剣・棒・盾・翼・・・まあいろいろだな。だからこの機体には標準装備なんてものがない。
これのおかげで、装備が邪魔なんてこともない。
それでだ…このシステムをさらに解析してみたら、応用すると高速機動が可能なことも判明した。」
なるほど。
確かに機体自体が武器を作れるなら装備をつける必要もない。
しかし……。
「高速機動?」
どう応用したらCシステムが高速機動に繋がるんだ?
「わからない、って顔してるなアキト。
今からその理由を教えてやるよ。
Cシステムが搭乗者の意思しだいで形状が変わるのはわかってるよな?」
ケインが確かめるように聞いてくる。
「ああ。さっき聞いたからな。」
「そのCシステムを使って、ユーリクレス全体を包み込むようにサイクリスタルをある形状に形成するんだ。
そう…おまえがプリンスオブダークネスだった頃の愛機……
ブラックサレナが、アマテラス強襲の時に装備していた高速ユニットのようにな。」
ブラックサレナの高速ユニット?
あれのようにってことは鳥……いや、戦闘機に近い形状か?
「しかし、そんなことで本当に高速機動が可能なのか?」
「可能なのは事実だ。実際この目で見たからな。
もっとも、その理由はわからない。
まだ完全に機体を解析できたわけじゃないからな。
それに形状だって制御コンピューターのサリアが知っていたからだしな。
あと言う事は、ソードブレイカーと同じくEドライバを搭載しているって事くらいだな。」
ケイン達にもわからないのか……。
まぁ代理人とはいえ遺跡が作った機体だからな。
わからないのも無理はないか……。
「それじゃあ、次はユキト達の機体について教えてくれないか?」
そう言うと、キャナルちゃんが一歩前に出てきた。
「それは私が話すわ。一応あれを作ったのは私だからね。」
へー…あの2つの機体を作ったのはキャナルちゃんだったのか。
「それじゃあお願いするよ。」
「まっかせなさい♪」
嬉しそうにしながら、軽く胸を叩くキャナルちゃん。
その表情は新しいおもちゃを自慢する子供のようだ。
「あの2つの機体は、アカツキから脅し取っ……
もとい、快く提供してくれたエステバリス数機の内、2機を改造して造った機体よ。」
脅し取っ……てなんだ?
いや…聞かないほうがいいな。聞かなかった事にしよう。
アカツキよ、不憫だな……。
「2つの機体に共に言える事は、
サイシステムが搭載されている機体であること。
コクピットのシステム。
そして簡易型のCシステムを搭載している、の3つよ。」
ふむ……つまりエステバリスにサイシステムを移植……いや、この場合悪質な改造か……。
しかしCシステムはともかく、コクピットのシステムってなんだろう?
……聞いてみたほうが早いか。
「キャナルちゃん。コクピットのシステムって?」
「サイシステムを搭載された機体を操縦するには、
メタサイコロジー対応のIFSが必要なのは知ってるわね?」
知っている。サイシステムを搭載した機体は普通のIFSでは動かない。
プラズマブラスト等、ロストウェポンを使うために必要なサイエネルギーは、
IFSから抽出され、増幅器を通して機体各部に伝わると前に聞いた事がある。
「2つの機体は普通のIFSでも操縦できるの。
そうするとIFSを通じてサイエネルギーが抽出できなくなるでしょ?
それを改善するために、コクピット自体がサイエネルギーを抽出できるように改造したの。
結構手間がかかったわ。……でもまぁ満足のいく出来になったけどね。
これでIFSを持っている人なら誰でも機体を操縦できるようになったわけだし。
といっても、私がプログラムしたAIを搭載してあるから、
そのAIが認めた人でないと操縦できないけどね。」
なるほどね、セキュリティは完全かな?
専用のIFS対応なら誰かに奪われる心配はほとんどない。
専用のIFS―メタサイコロジー対応のIFSを持っているのは、ケインとキャナルちゃんだけだからだ。
普通のIFSでも、さっきキャナルちゃんが言った方法を取れば特に問題はないだろう。
「だいたいはわかったよ。
キャナルちゃんのことだ。あとは秘密なんだろ?」
「よくわかってるじゃないアキト。」
「そりゃあ1年以上も付き合っていればね……。」
苦笑しながら答える。
ナデシコに乗るまでの1年間……ケイン達の考え方とかはある程度わかるようになった。
キャナルちゃんのことだから、いろいろと機体に機能を組み込んでいるだろうけど、それを口で言う事はほとんどない。
実物を見せて確かめさせ、そして驚かすのが好きだからな。
「機体についてはもういいよ。
あとは地球に帰ってから今までのことを教えてくれないか?」
「そうだなぁ……。
クリムゾンの研究所ぶっ潰したり、連合に依頼されて無人機の駆除をやったり、
連合のパイロットの教官やったり、ある団体さんに破壊された支部を直しに行ったりと……
まあ大体こんな感じだったな。
西欧のほうは、特に問題がなかったから手はつけてないけどな。」
そうか。いつもどうりの仕事をしていたのか……。
しかし……ある団体? しかも支部を破壊したって……。
支部とはいえ超一流のメンバーで構成されているのに……。
「アキト。支部が破壊されたのが信じられないようね?」
キャナルちゃんの言葉に俺は頷く。
支部のメンバーはナデシコでやっていけるほどの能力があるのだ。
メンバーは1つの支部につき10人前後だが、そこを破壊するなんて……只者じゃない。
「私だって最初は信じられなかったわ。
でもね、その破壊された支部にいったら納得したわ。」
肩をすくめながらキャナルちゃんが話す。
「というと?」
「支部のメンバーに訊いた所……相手は8人。
全員……17歳くらいの少女だったそうよ……。」
8人……17歳くらいの女の子……。
どっかで見たような……どこだったかな?
「思い出せない?
ならこう言ったら思い出すかしら? 『雪国』……。」
「雪国? ……って、まさか!!?」
「そう……彼女達よ。」
なるほど納得だ。
たしかに彼女たちの力なら支部を破壊する事は可能だろう。
全員が全員、不可解な力を持ってるからなぁ……(汗
しかし、まだ諦めてなかったのか……。
「幸い、潰された支部は今のとこ1つ。
本部の居場所はもばれてはいないわ。
……まぁ、ばれてたらただじゃすまないわね……(汗)」
ばれた時の風景が浮かぶ……。
………………………
本部から半径数十キロは……焼け野原かな……(汗
あはは……
……本気でそうなりそうだから怖いな……。
《みなさん、伝えたい事がって…どうしたんですか?
そんなに青い顔をして……なにかあったんですか?》
みんなして本部がばれたときのことを考えていたら、
部屋の中心にウィンドウが開いた。
オモイカネのようだ。用事があったので通信をつなげたのだろう。
「気にしないでくれ。それより伝えたいことってなんだい?」
《あっ、はい。ナデシコの修理・調整が完了しました。
それに伴い残りの補充クルーが来るそうです。
メインクルー及び暇なクルーは、歓迎のため格納庫に集まってください。
ってプロスさんが言ってました。》
残りの補充クルー……エリナさん達のことだな。
おそらくアカツキを追いかけてきたんだろ。
「わかった。すぐに行くと伝えといてくれ。」
《わかりました。確かに伝えておきます。それでは。》
ウィンドウが閉じる。
さてと、ケイン達を正気に戻して格納庫に向かわないとな。
ちなみにケインとキャナルちゃんは、青い顔をしてなにやらぶつぶつ言っている。
本部がばれたら下手すれば国自体が壊滅するかもしれないしな。
まぁ、国自体ってのは言いすぎだけど大変な事になるのは間違いない。
サリアちゃんはまだ食べていた。ほんとにマイペースな子だね……。
そういえば食べた物はどこにいくんだろう……。
直接質量再生のためにエネルギーにしてるのかな?
「ほら2人とも、しっかりしろ。
補充クルーが来るらしいから格納庫に向かうぞ。
サリアちゃんもいつまでも食べてないで。」
ケインとキャナルちゃんの肩を揺すりながらサリアちゃんに声をかける。
それを聞いて、少々名残惜しそうにしながらサリアちゃんが立ち上がる。
そして袴を軽くはたいたあと、残った料理を冷蔵庫等に保存し始めた。
よく出来た子だなぁ……。
……しかしなんで立体映像なのに巫女服なんだろう?
遺跡の代理人の趣味か?
そうこうしている内にケインとキャナルちゃんが正気に戻っていた。
しかし、まだ顔が青い……。
「2人とも、いつまでも気にしていても仕方ないだろう?
それより格納庫に行くぞ。補充クルーの歓迎をするそうだから。」
「ああ、わかったよ。」
「私としたことが……自分の想像で気分が悪くなるなんて……。」
「お片づけ終了って所ね。さっさと行こうよ。」
片づけが終わったサリアちゃんが俺達を急かしてくる。
俺達はサリアちゃんに押し出されるように部屋を出て、そのまま格納庫に向かった。
後編へ続く