本当にこの仕事を受けてよかったのだろうか?

もしかしたら私は とんでもない悪事に荷担してしまったのかもしれない

だが

私が生きていくため 仕方がなかった事も事実だ




私は名は明かせないが フリーのライターだ

生活のため仕事を探し いくつかの出版社に顔を出しても成果がなく

行きつけのバーで飲んだくれてたところ 不審な女から声をかけられる

なんと あの世界的な人気シリーズである『漆黒の戦神』の暴露本の執筆を依頼したいと言うのだ

最近、下世話な芸能人のスキャンダルばかりを追っていた私にとっては願ってもないチャンスだ

しかも 取材中の滞在費含む諸経費は向こう持ち こんなうまい話はない

私のような者にこのような大きな依頼が舞い込んだとういうのも不審な話ではあるが

まっとうな仕事を待っていられる程 財布の中身に余裕がなかった事もあり この依頼を受けることにする


報酬の正確な額は伏せるが 前金だけでも行きつけのバーに溜めていたツケと

滞納していたアパートの家賃を払ってもなおオツリの来る額だったとだけ言っておく


早速、家に戻った私は飼い猫を大家に預け、荷物をまとめ西欧へと発った

この仕事は長くなりそうだ




漆黒の戦神アナザー

あるライターの軌跡




西欧に着いた私は まず驚いた

私の部屋のTVを質に入れ酒代と化したのが半年前

その頃のニュースで見た西欧の様子とは一変していたのだ

なんだ? この のどかな雰囲気は?

この半年の間に何があったと言うのだ?

漆黒の戦神が滞在していたというホテルに向かう途中

タクシーの運転手に聞いてみるとこんな答えが返ってきた


「漆黒の戦神様のおかげで木星トカゲも逃げ出しちまったから復興も滞りなく進みましてね」


正直、信じ難かった

白状しよう、私は漆黒の戦神というのは軍のプロパガンダで実際には存在しない人物だと思っていたのだ

はっきり言って その戦果が非常識すぎる

しかし、彼の言葉、そして街の様子が 漆黒の戦神の存在が現実のものだと如実に語っているのだ


私の悪いクセだ

仕事を抜きにした好奇心が沸きあがってきた

趣味を仕事にできる・・・この仕事、楽しくなりそうだ






それから数日

取材地を幾度となく変えながら取材を進めた結果

私はドーバー海峡を越えイングランドへと辿り着いた

なんと、このイングランド海軍に漆黒の戦神の親友だという男がいるらしい

私はすぐさま アポイントをとり取材を申し込もうとしたが、すげなく断られてしまう




兵士達の集まるという酒場等で聞き込みをした結果

どうも このイングランド海軍には 漆黒の戦神の親友だけではなく

漆黒の戦神と敵対する人物もいるらしいのだ

しかも その人物はイングランド海軍の中でも高い地位にふんぞり返ってる者らしい


私は納得した


確かに西欧の国民的英雄である漆黒の戦神と敵対している等という事が暴露されれば

他の西欧諸国を敵にまわす事になりかねない

この証拠を探し出して 大々的に発表してやるのも一興だが

さて、どうしたものか・・・




その後も取材を続けたが どうも決定的なのが見つからない

やはり、軍本部に潜入するか、当事者に接触するしかないだろうが

どちらにしても 危険が付きまとう・・・


と、思ったら案の定 私は酔っ払った兵士達にからまれてしまう

何やら 艦隊司令の名を出して私を脅してきたが

ギルバート? あいにくと 私はその名を知らない

知らないという事は 例の親友ではないのだろう

そのまま私は路地裏に連れて行かれた

連合上層部の腐敗は聞いていたが 下っ端のモラルというのも随分なモノらしい

しかし、私には あの仕事が舞い込んで以来 幸運の女神がついている

いや、悪運の女神か? あのうさんくさい女だし

ともかく 私は天に見放されていなかったらしい

路地裏に颯爽と現れた2人が 私にからんでた酔っ払いを瞬く間に蹴散らしてしまったのだ

その2人も軍人なのだろうか? 片方は威厳溢れる英国紳士

もう片方は 顔に傷のあるチンピラっぽい荒くれ男 まったくと言っていいほど共通点のない2人だ


「おい、兄ちゃん 大丈夫かい?」

「あ、ああ・・・」

「すまなかったな、イングランド海軍のすべてが あのような者達ばかりだとは思わんでくれ」

「・・・あんたらは?」


「私はイングランド海軍の末席に名を連ねる オットー・ラッセルという者だ」

「で、俺がオットー提督の副官 マシュー・フィッチさ」


なんてこった

スマン、うさんくさい女 あんたホントにいい女だ 幸運の女神だ

私の探してた 漆黒の戦神の親友というのは このオットー提督に他ならない




「助かったよ 俺はしがないライターなんだがな、どうだろう?

礼がしたいんだ 一杯付き合っちゃくれねぇか?

「いや、しかし・・・」

「提督、いいじゃねぇですかい 酒を奢ってくれるのを断るなんてイングランド男児失格ですぜ?」


失格なのか? そいつは初耳だ


ともかく、私は2人を連れて先ほどとは別の酒場に連れて行く事に成功した

さて、どうやって話を聞き出そうか・・・






「ほぅ、そなた テンカワ アキトの足跡を追っているのか」

「ああ、仕事でね まさか あんた達が テンカワ アキトの知り合いだったとはな」


嘘800


「そりゃ あんた運が良かったな イングランド海軍でアイツと親しいヤツは俺達ぐらいだぜ」

「ホント 偶然って怖いねぇ まったくあてもなかったからよ」


嘘8000


「提督、ついでだ コイツにギルバートの野郎の悪どさを世界中に発表してもらいませんかい?」

「確かにあのアキトも関わってない事はないが・・・それは流石にマズくないか?」

「おいおい、俺はそんなだいそれた事はできんぞ」


嘘80000






おお、いつのまにやら嘘が80000まで大きくなったぞ

本音としては テンカワ アキトの暴露話のついでに ギルバート卿の話も聞きたいところだがな


「いいじゃないですかい ここらでギルバートをなんとかしとかねぇと

イングランド海軍は あの男1人のせいで 西欧から孤立しますぜ?」

「・・・・・・しかし、このような手段でだな」


がんばれ マシュー 俺が心の中で応援してるぞ

ちょいと 酒でも入れてみるか 見たところ酒癖悪そうだし 経費持ちだし




数十分後




「ええい! 提督がやらねぇってんなら 俺がやってやる!!」

「マシュー、何をする気だ?」

「ギルバートの野郎を 連れてきて 直接 懺悔させてやりますよッ!!」

おお、なんて酒癖の悪さだ

「おめぇら! 今からギルバートの屋敷に乗り込むぞ

イングランド魂のあるヤツぁ俺について来いッ!!」

「「「「「おおーーーーーッ!!」」」」」

げっ いつの間にやら 周りの連中もでき上がってやがる

なんて ノリのいい連中なんだ


「待てマシュー! わかった 彼の取材に協力しよう!!

お前達も見てないでマシューを止めないか」

オットー提督の言葉に 周囲のまだしも理性を保ってる連中がマシュー達を取り押さえる

4人がかりか 結構強いんだなアイツ


「すまんな 見苦しい所を見せてしまって」

「いや、それはいいんだが・・・」

それよか 取材だ

「取材に答えるのは 後日としてもらえるだろうか? 長い話になるのでな」

「わかった、連絡先を教えておくよ 都合がついたら連絡をくれ」

「ああ、ではまた後日」

オットー提督はマシューを引きずって帰っていった

あの人も豪傑だな軽々と・・・しかも あの人も相当飲んでなかったか?

ぜんぜん 酔ってる素振りもねぇ 手強いなありゃ




勝負は後日だ

なんとしても 話を裏の裏のまで聞き出さないとな
















さぁて、経費でうまいものでも食って 鋭気を養うとするか































「報告が届いたようね・・・」

「ええ、読みますか?」

「もちろんよ、私がわざわざ出向いて 依頼したんだから」

報告書を受け取り 目を通すうさんくさい女

「誰がうさんくさいのよッ!!」

「サングラスにマスクにコート・・・あれだけ揃えれば流石にアヤしいですよエリナさん

「うっさいわねー」


「でも、ルリルリ達もよくやるわねぇ わざわざ人を雇ってアキト君の浮気調査なんて」


なんと 依頼主は某・同盟だったのだ


「悪いのは 調べても調べても尽きないアキトさんの浮気癖です!」

ごもっとも

「まぁ、あの男は思ってた以上に優秀だわ 浮気の証拠はないけど

これから味方になってくれそうな人と 敵になりそうな人 一度に 見つけてくるんだから」

「確かに、予想以上に優秀ですね ただ、これは浮気調査とは言えませんが・・・」

「ま、そこはそれよ この仕事が終わってから 専属ライターとして雇えばいいわ」

幸い 常日頃 仕事に困ってる人らしいから」


一体 彼女達は何をしてるというのだろうか?


「とりあえず 次の報告を待ちましょう」

「ふぅ〜 お仕置はできそうにありませんねぇ」

「ルリルリ・・・」


それが本当の目的か






終・・・らない



あとがき


ちょいと実験してみました

漆黒の戦神アナザーで続きモノです




オットー・ラッセルの場合に続く