そのコロニーの名は<アマテラス>という。
 全長25キロメートル。収容人員一万人を超える、人類最大の建造物である。
 そして、多くの人々が、アマテラスを<出産コロニー>とも呼んだ。
 過去に一度、テロの標的となり完全に破壊されたターミナルコロニーであったが、地球と火星が共同出資して再建したという過去をもつ。
 その目的は、<出産コロニー>の呼称が示すように、出産と育児だった。
 2201年末月に可決された「火星産児育成法」により、火星では五歳までの幼児に住民権が与えられることはなくなった。つまり、火星では子供を生み育てることが、法律で禁じられたのだ。
 その代わりに提供された場が、出産コロニーこと、アマテラスだった。
 すべては「火星の後継者」によるクーデターに端を発していた。
 火星の後継者が用いたボソンジャンプによる強襲戦法は、多量の被害と死傷者を地球連合に強いた。その恐怖が、A級ジャンパー管理法とでも言うべき火星産児育成法を可決させるに至ったのである。
 A級ジャンパーとは、遺跡の力を操り、ジャンプ先のイメージのみで自由に瞬間移動を行う能力を持った人間のことだ。また機械的な補助により、限定された瞬間移動を行う人間をB級ジャンパーと呼んだ。
 B級ジャンパーは、遺伝子調整による医学的な処置により、人類の手で生み出される。
 しかしA級ジャンパーが生み出される可能性があるのは、火星だけだった。その大気中に含まれるナノマシンが、胎児から五歳までの子供の脳に影響を与え、ごく低い確率でA級ジャンパーを生み出すのだ。
 それならば、A級ジャンパーを生み出さないために、火星での出産と育児を禁止するべきだ――――通常であれば、そのような非人道的な法案が可決することなどありえなかっただろう。しかし、火星の後継者が地球の人々に与えた恐怖心は、その倫理的な枷すらも取り払ってしまった。

 
『A級ジャンパーはヒトではない』
 

 それが2201年に人類が下した結論だった。

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