〜 一時間後、ロサ・カニーナ艦橋 〜

作戦名『MW』と『MQ』。
正式名称『MAGIウオーズが出たぞ』と『MAGIクエスト 〜 そして伝説へ 〜』の二つの内、
色々編集が必要っぽい『MQ』に先んじて『MW』の。ドライデント中隊の子達の戦いが画面に映っている。

『HAHAHAHA(ガン、ガン、ガン!)』

本来は、なるべく固定させる事が望ましい銃口の先を不自然なまでに振り回して。
時に、ロー○ングバスターランチャっぽく回転撃ちをしたりと、敵の虚を突いてはいるのだろうが、正直、あまり意味があるとは思えない。
どこかのガン型使いっぽいアクションを決めつつ、2丁拳銃を駆使して敵の歩兵を蹴散らし捲くる赤木士長。

『Hasta la vista,baby(ガガガガッ、ダーン!)』

M4カービン(アサルトライフル)を乱射しつつ、時折、銃身の下部に装着されたM203A1(グレネードランチャー)で敵を一掃。
身体に予備弾丸と40×46mm擲弾を巻き付け、顔にはグルグル眼鏡の代わりに特大のサングラスを。

コッチの歩兵の頭数を増やす為に急遽スポット参戦。
夏休み中の短期特殊訓練としてラピスちゃんが組んだ特別メニューの成果か、最近はもうマッチョで通じる身体付きになってきた事もあって、
正体を隠す為の変装を兼ねてター○ネーターのコスプレをした白鳥沢君が、もうノリノリで殲滅戦を。

『本来、俺は衛生兵なんだが』

いつもの三白眼な仏頂顔でそんな愚痴を零しつつも、どこかの無精髭を生やしたスパイなど及びもつかない動きで音も無く侵入。
得意の空手技を駆使して、周囲に気付かれる事無く見張りを撃破し、工場の中枢部分へ。
最小限の労力にて最大限の戦果を上げる紫堂一曹。

『Shot!(ドゴ〜〜ン!)』

通常は固定砲台として使用する大口径対戦車ランチャーを、その超人的な筋力をもって通常歩兵火器として使用。
拠点制圧作戦中の三人と、外の戦車小隊の双方をサポートするワークマン士長。

そして、既に制圧が完了し、味方の補給地点となった拠点では、

『畜生、敵は一体どの位いるんだ?
 次から次へと、二昔前のシューティグゲームみてえにエンドレスに現れやがって。正直、やってられねえぜ!』

『うむ。そんな疲弊したお前の為に、此処にドクターが調合されたドリンク剤が。
 『気休め程度の効果しかないが、人体には無害なもの』
 『元気百倍になる代わりに、後で猛烈に疲弊するもの』
 『何かと引き換えに、潜在能力を総て引き出すもの』
 と、正式名称はまだ決まっていないんだが、効能的にはそんな感じの三種類があるんだが、どれが良い?』

『だあ〜っ! そ〜ゆ〜冗談は笑えねえつ〜の!』

と、連戦につぐ連戦で疲弊した隊員達のケアをする(?)薬師一曹。

そんな、これまでイマイチ目立てなかった指揮小隊の隊員達が、その鬱憤を晴らすかの様に大活躍している中、

『40点』

艦の制御の片手間に、普段は俺とナカザトがやっている各種放送の制御を。
その合間に、彼等の奮闘振りを何故かつまらなそうに眺めいたホシノ君が、ポツリとそう呟いた。
正直、あまりにも辛すぎるジャッジだ。

「おいおい。そりゃ〜ないんじゃないかい?
 確かに、オーソドックスな策ばかりで戦術的には面白みが無いの認めるが、それは逆に堅実とも言える事。
 せめて60点くらいはやったらどうだい」

と、取り急ぎ秘匿回線よりフォローを入れておく。
そう。今回の戦いは、春待三尉にとって、ある意味、授業参観の様なもの。
ぶっちゃけて言えば、ハーリー君の姉貴分であるホシノ君へチョッと良い所を見せたい局面なのだ。

しかも、そのプレッシャーから凡ミスを連発しているという事ならば兎も角、チャンと結果を出している。
此処までに既にメルキオールの1/4を復旧させ、今も着実にポイントを稼いでいるし、
前述の通り、基本に忠実と言うかやや意外性に欠けるものがあるが、
それでも、配下の隊員達の特色を上手く生かしたその采配は、結果として各々の個人プレーを光るものにしている。
つまり、着実に戦果を上げつつ、ビジュアル&娯楽性の追及という初期も目的をキチンと果しているのだ。
にも拘らず、こんな不当なまでに低い評価を下されては、彼女が浮かばれない。

だが、そんな俺の思いは通じず、溜息と共に告げられたホシノ君の返答は更に辛辣なものだった。

『(フゥ)チョッと甘やかし過ぎですよ、提督』

「えっ?」

『良いですか。仮にも春待三尉は、将来は連合のハーリー君の隣に立って、統合軍を背負って立とうかと言うポストに居る人材なんですよ。
 これ位は出来て当然な事………と言うよりも寧ろ、ボーダーラインギリギリ。
 コレ以下な無様な戦い方をしている様なら赤点で落第。プレーヤー交代を宣言している所です。
 ついでに申し上げれば、その指揮能力に関してのみならば、大負けに負けて『まあまあ』と言ったレベルですので、現時点でならば及第点を上げても良いでしょう。
 ですが、固定観念に縛られ過ぎと言いますか、正々堂々と正面決戦をやっている所が頂けませんね。
 実際、このままですと、多分ジリ貧で負けますよ、彼女』

メ…メッチャ厳しいでんな、ホシノはん。
どこかの名門旧家のお姑さんかいな、君は………って、考えたら、ピースランドのプリンセスにしてハーリー君の姉貴分だから、実はまんま良家の小姑だったりするのか。
(フッ)良かったねえ、ハーリー君。君は、確かに彼女に愛されてはいたみたいだよ。
ただ、君の求めるものとは少々方向性が違っただけで。
とゆ〜か、シャレになってないぞ、コレは。 既に全員が愛機を取り戻し、概ね勝利が確定したかに見えるこの状態から敗北するって事は………

  キュ〜〜イン

『なっ!? 何で向こうにATが!?』

そんな俺の最悪な予測はモロに的中した。
突如、それまで敵の主力だった90式戦車に代わって人型兵器が。AT(アーマドトルーパー)が続々参戦。
しかも、数世代は進んだ技術が投入され、コッチがス○ープドックの試作機なのに対し、
向こうはサイズも一回り上で、両肩にはミサイルランチャー右手に巨大なクローが装着された、幻のラン○ージャックドックが。

  ガゥリン

『くっ! あそこから方向転換だと!?………って、何でジェット機に足が付いてるだよ、おい!』

『故人曰く『無理が通れば道理引っ込む』。大方、アレが奴さん急旋回の秘密ってトコだろう』

『畜生! 上等だ、やってやるぜ!!』

空戦では、F-16に代わって投入されるバ○キリー部隊。
その半数がガウォーク形態に変形し、ジェット機&VTLO機の二面攻撃にて戦闘機小隊の子達を翻弄。
此処に来て、その陣容の薄さが露呈した形に。
紫堂一曹が歩兵として参加していた事もあって、そのゴーストパイロットである故ハーレイ三尉が参戦していないのが実に痛い。

『『『ガウォォォォオン』』』

『嘘ッ!? 何でギャレオンが敵に! おまけに一杯!』

『それも只のギャレオンじゃないぜ、マナ!
 良く見ろ。両脇のミサイルポッドの代わりにアイアンカッター(?)が。
 脚部マニピュレーターの関節部にも防御用のガーターが付いてやがる。あれは多分、前回より更に接近戦に特化したタイプだぞ』

『う〜ん。頭数は、ざっと20ライオンってとこかな?
 出来れば、5ライオンくらいにまけて欲しい所だよね』

『って、冗談こいてる場合じゃないだろ、ケイタ!
 つ〜か、どうして何時もみたいに慌てたり騒いだりしないんだよ? キャラ変わっちゃってるぞ、お前』

『いやだって。ほら、今回は別に、ヤられても死ぬ訳じゃないし』

と、強敵を前に、いつもの掛け合い漫才を始める鋼鉄のGF三人組。
偵察任務を主とした小隊の性格上、他の部隊よりも一歩も二歩も先行している分、
危険度が高いと言うか、今にもタコ殴りにあいそうなポイントに陣取っているというのに、何とも豪気な事である。

だがまあ、浅利三曹の言ではないが、死にはせんから問題無し。
とゆ〜か、彼等がフルボッコにあってる間は相応に敵の注意を引けるし、
撃墜されたらされたで、機体を再び生産するのに数ターン掛かる事にはなるが、
パイロットの方は、新たな歩兵ユニットとして最初の拠点に強制送還されるだけ。
よって、ゲームのルールを逆手に取った些か現実味に欠ける戦術ではあるが、寧ろアレで正解なのかも知れない。

とは言え、その程度の裏技で誤魔化せるほど、現在の戦況は甘くはない。
いや、それ以前に、明らかに反則だろコレは。どう考えても。

「(コホン)あ〜、ホシノ君。そのなんだ。チョッと難易度設定に無理があると言うか、少々無茶が過ぎる気がするんだが」

それとなく、この劣勢の主原因に翻意を促してみる。
だが、彼女はニコリともせずに、

『御承知の通り、拠点となる生産工場の保有数×経過ターンが資金に。
 そして、資金さえあれば、より上位の性能をもったユニットを投入可能になるのが、このゲームのルールです。
 従って、これは寧ろ甘めの設定だと思いますが?』

『いや、そりゃそうなんだけど。そこはそれ、御約束と言うか。イイ意味で、バランス調整をすると言うか………』

淡々と正論を述べるホシノ君を前に、タジタジとなる俺。
とは言え、此処で引く訳にはいかない。
そう。何と言うか、此処まで厳密にルールを適用するのは拙いだろ、流石に。
スパロボ風に言えば、イベント戦闘以外でも敵パイロットが精神コマンドをフル活用してくる様なもんだぞ、コレは。

『(クッ)総員、Bポイントまで撤退! 急いで!』

とか言ってる間にも、敵の攻勢に押されて戦線の後退を余儀なくされる春待三尉率いるトライデント中隊。
そんなこんなで、内心焦り捲くっている俺に向かって、

『では、お聞きしますが、提督が彼女と同じ条件で指揮する事になったら、どういう基本戦略を執りますか?』

「どうって…………ああっ!」

『(クスッ)そうです。正攻法に拘りさえしなければ、答えは至極簡単なもの。
 これがユリカさんなら10分もあれば。私の場合は、安全策を取って母艦となるアレの開発を待つでしょうけれど、
 それでも30分足らずで決着が付く程度のシュミレーションなんですよ、コレは』

驚愕する俺に補足説明を入れた後、『彼女を猫可愛がりするあまり、大分御目が曇っていらっしゃったようですね、提督』と言いつつ、ニッコリと微笑むホシノ君。
いや、まいった。正直、グウの音もでない。

『なんかその、此処が死に場所になりそうですね』(byヴィヴイ三曹)
『あり得んな。所詮、只のシュミレーションだ』(by郷谷三曹)
『(ハッハッハ)相変わらず空気を読まないって言うか、情緒が無いなあ、キリコは』(by阿間田三曹)
『とゆ〜か、死んだら死んだで、もう一辺、マナ達みたいに敗者復活戦が待ってるし。ある意味、普通に死ぬより性質が悪い様な気が………』(by中原三曹)
『だあ〜、男のクセにグダグダと。トットと覚悟を決めな!』(by山本三曹)

と、心理的盲点を突かれると共に唐突に答えを得た事で俺が混乱している間に、春待三尉もまた同じ結論に達したらしく、
防御力を重視してか戦車小隊の隊員全員を防御力を重視してウィスカーE型に乗せ、隊列を縦深陣に。
『これより下がったら本陣が落とされる』という最終防衛ラインを構築させ、次いで、特車小隊と戦闘機小隊にも同様の指示を。
兎に角、そこだけは守る様に厳命した後、

『ロサ・フェティダ発進!』

彼女と歩兵要員達を乗せ、生産こそしたものの攻撃力が皆無に近いんで使っていなかった。
だが、実はこのゲームのルールを逆手に取れば、武器20段階フル改造で射撃もMAXまで上げたテッカ○ン・イー○ルよりも反則なユニットが満を持して出撃した。

『(ハア〜)やれやれ。漸くそこに気付きましたか』

その勇姿を眺めながら、安堵混じりな溜息を一つ。
出気の悪い生徒が漸く課題をクリアした所を目にした教師の様な顔付きとなる、ホシノ君。
そう。このゲームの最終目的は、あくまでも、使徒に占拠されたメルキオールの中枢部分の開放。
従って、当たるを幸いに矢鱈滅多羅攻撃し、途中のメモリーを全部オシャカにしかねない、御馴染みの熱血バカが駆る某機動兵器の様な真似は論外としても、
此処までの春待三尉の戦略の様に、あまり拠点制圧に拘わらなくても。
アスカちゃん曰く『えらく手間暇を掛けてるって言うか、気の長い方法ね』と評したそれ行なう事無く、
必要な武装が整い次第、一気に敵の本陣を狙っても構わないのである。

ちなみに、先程、『ユリカさんなら10分もあれば』とホシノ君が見積もったのは、艦長の性格からして最初の五分で勝負に。
二つ目の拠点を制圧してYF−10が完成した時点で、パイロットの技術と機体の性能差にまかせた奇襲攻撃を行なうと読んでの事であり、
彼女の言う『安全策』とは、強襲揚陸を仕掛けるのにもってこいの強固な防御力を誇る母艦、ロサ・フェティダの完成を待つという意味である。

『ですが、それまでに支払った代償が大き過ぎますね。
 何より、既に敵陣営の機体のモデルチェンジが終了した現状で、戦闘機小隊まで陣地防衛に回したのは明らかに失策です。
 20oバルカン砲と数発のサイドワインダーしか武装の持たないF―16が相手ならまだしも、
 55o3連装ガンポッドにAMM-1 対空対地ミサイル×12と、それなりに強力な武装のバル○リー中隊を相手に単騎での突入など愚の骨頂です。
 相互の機体スペックの試算から見て、十中八九、途中で撃墜されますよ』

と、チョッと持ち上げたと思ったら、またも辛辣な評価を。
最後の鬼コーチと呼ばれた男、オオ○コウイ○ウも真っ青なスパルタ振りである。
しかし、ホシノ君の視点から見れば、まだまだな。経験の足りない新米指揮官な春待三尉ではあるが、一人の兵士としてはさにあらず。
絶えず最前線に。それも実戦の場に立つ彼女にもまた、ホシノ君の知らない世界があるのだ。

「そうかい? 俺としては、この強襲作戦は絶対に成功すると思っているんだが」

『随分と自信タップリですね』

訝しげにそう宣うホシノ君。
その目の前に、俺は更なるチップを積んでみせる。

「まあね。なんなら、次クールのウチの放映権を賭けてもイイぜ」

『バーター(対価として賭ける物)は何です?』

「それに見合うだけの価値があると、君が思う物なら何でも構わんよ」

『判りました。では、作戦成功の暁には、提督と春待三尉に私から個人的にプレゼントを差上げましょう』

不敵な笑みを浮かべつつ、ホシノ君は俺の持ちかけた賭けを了承。
その自信に満ちた態度からして、裏でテレサ君に良からぬ指示を出すくらいはヤルだろうが、その程度は丁度良いハンデ。
寧ろ、ギリギリ感を高め、ドラマを盛上げるのに都合が良いだろう。
(フッ)貰ったぜ、この勝負。




『……………少々お聞きしても良いですか、提督?』

「ナニかね?」

『あのロサ・フェティダのパイロット。鈴置シンゴ二曹と言うのは、本当に人間なんですか?』

「自分の目で見た事が真実だよ、ホシノ君」

約2年前、月の衛星軌道上で初めて北斗を。
彼の乗った真紅のサレナを見た時の様な、そりゃもう『信じられない』と言わんばかりな顔のホシノ君に、徐に止めを刺す。

そう。どういうカラクリか、規定の最大ユニット数を越えているっぽい。
三桁近い数で編隊を組んだバル○リーのガンポットの絶え間ない波状攻撃にて、もうボ〜コボコ状態。
終いには、なんか板○サーカスっぽいノリで、数多のミサイルが雨アラレの如く降り注ぐ事に。

そんな絶え間ない波状攻撃の嵐の中。爆煙につぐ爆煙で、禄に本体が見えなくなるくらいの数の攻撃を貰ったにも関わらず、常に最短ルートを維持して。
前述のフルボッコの所為で、流石に最高スピードこそ若干落ちたものの、それでも出発から約10分後に。
『当たらなければ、どうと言う事はない』とか『装甲なんて飾りですよ、偉い人にはそれが判らないんです』と言わんばかりに、外部装甲が綺麗サッパリ無くなった。
今にも墜落しそうなズタボロな。もう、どこに攻撃を貰ってもそれで御終いな状態ながらも、ロサ・フェティダは敵本陣の上空まで到着した。
アキトや北斗でさえ狙ってやるのは難しいかもしんない、神技………否、魔技とも言うべきダメージコントロール。
ラプラスの悪魔の寵愛を受けているとしか思えない、鈴置二曹にならではの荒業である。
だが、そんな彼の技量を持ってしても、この辺が限界だった。

   バララララララララッ! 
          チュイン!チュイン!チュイン!チュイン!

満身創痍な機体に向かって、最後の砦たるDFを破る止めの一撃。ガンポットによる無慈悲な集中砲火が。
それでもなお中枢への。駆動系や燃料係の部区への着弾は避けられたらしく、誘爆はしない形で。
その巨体から黒煙を上げつつ、ゆっくりと墜落してゆくロサ・フェティダ。

『(コホン)惜しかったですね。どうやら、賭けは私の勝ちの様で』

何となく意図せずに弱い者イジメをやってしまったかの様な罪悪があるらしく、あらぬ方向に目線を逸らしつつそう宣うホシノ君。
だが、そいつはチョッとばかりスゥイートな考えだぜ。

「いいや、俺の勝ちさ。何せ、もうとっくに射程内だからな」

『え?…………(ポン)ああ、なるほど』

かくて、先程とは立場が逆転する形に。
そんなホシノ君の洩らした感歎の声を合図にしたかの様なタイミングで、

『トライデントΓ改EX、発進! 突撃形態へ!』

そんな浅利三曹のヤケクソっぽい叫び声と共に、黒煙の中からトライデントΓ改EXが出現。
ロサ・フェティダの最大積載量の関係から後部の推進ユニットは外してあったらしく、カタパルトから打ち出されて以後は自由落下にて。
だが、それを感じさせない絶妙な角度と勢いで。その真価とも言うべき前部のドリルをフル回転させつつ、某氷河の戦士の母艦宜しく敵本陣に突貫。
勢い余って、その外壁だけでなくほぼ中央部まで穿ち抜いたものの、乗っているのは、隊員達の中でも取り分けタフな子ばかり。
チョッとばかり想定外な衝撃を喰らった位で如何にかなる様な、ヤワな身体はしていない。
逆にそれを奇貨として。中枢部までの進軍の手間が省けたとばかりに、春待三尉の号令の下、元気良く白兵戦を開始。
一気に勝負を決めに掛かる。

『あんな状態でも母艦の各種センサーは生きていた? 
 いえ。寧ろ、そうでなければ、あの位置取りは明らかに不自然ですね。
 つまり、アレは狙って出した結果。キチンと外壁と内壁の強度等を見積もった上での突入ですか。
 やっている事こそ中世のバイキングとドッコイですけど、その実、デリケートな計算を要求される作戦。(フッ)存外やってくれますね』

と、どこかのライバルキャラっぽく説明セリフを入れつつ、春待三尉の執った策を賞賛するホシノ君。
どうやら、今度こそ合格点を………

『ですが、このゲームの最後の関門は、少々難易度が高いですよ。
 メルキオール軍総司令官、ボナパルト大佐を貴女がどうやって攻略するか、ジックリと見せ貰いましょう』

って、待てやオイ。

「あのなあ、ホシノ君。そりゃあチョッとやりすぎだろ、幾ら何でも」

半ば本気で呆れつつ、俺はそう突っ込んだ。
だが、ホシノ君は悪びれもせずに、

『おや。ラスボスが主人公より高スペックなのは当然の事でしょう? 何せゲームなんですし。
 それに、提督が御考えになっている様な理不尽な設定でもありませんよ。
 所詮はデータ上の大佐。おまけに、コピーしたのは彼の白兵戦技能だけですし』

「それでも充分理不尽だって。もうチョッとまけて。せめて、彼の部下達の誰かにしてくれないか」

『そう言われましても、他の方達の技能はチョッと一分野に偏り過ぎと言いますか、拠点防御には向いていないんですよ。
 その点、大佐でしたら、格闘と射撃のどちらも一流で、更には罠の設置にも長けていらっしゃらるオールラウンダーですし。
 それに、容姿と風格の観点から見ても、矢張りボスキャラと言ったらこの方しか居ないと………
 無論、どうしてもご不満でしたら別のソレっぽい方に。(ポン)そうですね。今からでも提督のデータに差換えさせましょうか?』

「………いや、大佐のままで良い」

かくて、俺は全面敗北した。
ううっ。ゴメンよ、春待三尉。何せ、俺のデータなんて使われた日には、世界一弱いラスボスのサタンよりも弱い事に。
ぶっちゃけ、此処までの緊張感が一気にグダグダになってしまう。
こうなった以上、二重の意味で君が頼りだ。どうにか頑張って頂戴。

   ボゴ〜〜〜ン!
          ドカ〜〜〜ン!

そんな俺の切なる願いも虚しく、隊員の誰かが総司令室の前に仕掛けてあったトラップに引っ掛ったらしく爆発音が。
と同時に、その方向に。いまだカタカタと揺れている高価そうな絵が飾られていた壁を狙って、
大佐は躊躇いも無く自身の義足に仕込まれたロケットランチャー(第十一話参照)を発射。
その駄目押しの一撃により、崩れた壁の向こうでは、先行していた今回の主力とも言うべき白兵戦要員達が。
赤木士長、ワークマン士長、更には白鳥沢君の三人が纏めて戦死する事に。

    ガガガガガガガガガッ! 

ゲームキャラっぽくポリゴンの粒子となって消えてゆくその遺体に頓着する事無く、手にしたH&K G38(アサルトライフル)を掃射。
爆煙に紛れての戦略的撤退を試みていた春待達を燻り出しに掛かる。
いやはや、俗に『戦いは機制を制した方が勝つ』と言われるが、その御手本の様なファーストアタックからのコンボ攻撃だ。
此処までやられてしまうと、何も出来ずにただ蹂躙されるだけ………

   ガン、ガン、ガン、ガン、ガン、ガン!

と、半ば諦めかけた俺を尻目に、春待三尉はいまだ意気軒昂。
手にしたSIGザウエルP220(9ミリ拳銃)を乱射して大佐を牽制すると、残った隊員達に激を飛ばしつつ、彼等を率いて大佐の射線の死角。
攻略目標である中枢ブロックを背にした大佐を挟む形となる、崩れた通路の奥へと撤退。
崩れた壁の内側より顔を出す形で撃ってきた大佐の追撃をどうにか振り切り、そのままトライデントΓ改のある場所へ。
DFを切ってなお2015年の技術力では再現不能な。
小型ミサイルなど物ともしない剛健さを誇るその装甲を盾とし得る絶好のポイントを確保し、今にも決着が付かんとしていた戦いを強引に長期戦へと持ち込んだ。

いや何と言うか、幾らホントに死ぬ訳じゃないとはいえ、主戦力を一気に失った事には変わりはないというのに。強いな彼女は。
今回の使徒戦では、公式にも戦死した事にならないのもラッキーだった。
何せ、一般人からは見れば冷血漢と呼ばれても仕方のない。三人のリタイヤを全く意に介していないかの様な素早い対応だったし。
とゆ〜か、あの極限状態で演技をしろという方が無理難題だし。

   チュイン!チュイン!
        チュイン!チュイン!

とか言ってる間にも、トライデントΓ改EXを挟んでの銃撃戦は続く。
そして、その趨勢はと言えば、明らかに春待三尉側が劣勢だった。
銃器の性能と射撃技能の差を頭数でどうにかカバーして膠着状態に持ち込んだまでは良かったのだが、そこから先の一手が。
重火器の類はワークマン士長と白鳥沢君の担当だっただけに、残った隊員達の手持ちの武器だけでは、状況を打破し得るパンチ力が無いのだ。
そして、皮肉にもトライデントΓ改EXの武装は、逆に強力過ぎて使えない状態だった。

そう。何せ、他の特機とは違って純粋に使徒との戦闘を想定して造られた機体である為、トライデントΓ改EXには対人用の武装など存在しないのだ。
あるのは、ドリルやレーザーと言った対使徒戦専用の。2015年世界ではオバーテクノロジーで強力な物ばかり。
それを、元々が左程強度のある設計では無かっただけに、突入時の衝撃によって崩壊寸前な。
外側から見た感じでは、地震が来たら真っ先に倒壊しそうな状態の敵本陣の内部で使うなど、もう自爆も同然な行為。
十中八九、メルキオールの中枢部を道連れに共倒れになるのがオチだろう。 さて、どうしたものか?

『フォーメーション、ブラスト!』

と、そんな事をつらつら考えていた時、唐突に春待三尉の号令が。
それに従い、どこから出したのかゴテゴテと金属プレートの付いた装甲服っぽい物を。
多分、開発中の班長なり時田博士なりが使用していたと思しきそれを着込んだ紫堂一曹と薬師一曹が、突撃を。
そんな彼等を盾とする位置に、二人のすぐ後方から春待三尉がそれに続く。
って、気持は判るがそれは無茶だ!

   ガン! ガン!

向かってくる三人を前に、大佐は眉一つ動かさず冷静に。
即座に胸中で目算を立てると、H&K G38を投げ捨てて懐よりベレッタM92を。
連射能力を捨て、面ではなく点の攻撃に。愛銃による精密射撃へと切替えた。

狙い違わず、ベレッタより撃ち出された9o口径の銃弾が装甲服の僅かな隙間へとヒット。
只2発にて、先陣の紫堂一曹と薬師一曹の二人を打ち倒す。
そのまま、ポリゴンの粒子となって消えようとしている後ろから飛び出してきた春待三尉へとラストショットを。
かくて、俺の危惧通り、焦れた挙句のこの無謀な突撃は最悪の結果に………

   ドカ〜〜〜ン!

終ろうとした瞬間、事態は俺の右斜め上を行った。
なんと、着弾と同時に春待三尉の身体が爆発。
既に至近距離まで迫っていた事もあって、大佐もまたその爆炎に巻き込まれる事に。
かくて、この戦いは無理矢理に相討ちとなった。

『旧日○軍のバンザイアタック………否、自爆テロとさして変わらん手口だな。
 (フン)私は、お前にそんな戦い方を教えた憶えは無いのだが』

不機嫌そうに鼻を鳴らしつつ、ブリッジに立つ本物の大佐がゲーム内の。
新たな歩兵ユニットとして最初の拠点にて復帰したばかりの春待三尉に苦言を洩らす。
これに対し、欠片も悪びれる事無く、

『はい。ですから、御教授頂いた戦術論の基礎第5条。『ルールに縛られるな。ルールは利用しろ』の通りに。
 この戦いが、使徒戦であると同時に只のシュミレーションゲームである事を最大限に利用させて頂きました』

そう宣いつつニッコリと微笑む春待三尉。
これには、流石の大佐も苦笑をもってしか応え様が無かった。
と同時に、俺もチョッと安心した。あの極限状態の中で、彼女が心のバランスを失った訳では無い事に。

『え〜と。(カチャカチャ)これで良いんだよね?』

そんな中、何故か今回は漁夫の利を得た。
最後の最後。ゲームの勝利を確定させる中枢部の開放という桧舞台を与えられた浅利三曹が、おっかなびっくりな手付きでパネルを操作中。
って、今考えてみれば、あの劣勢の中、これをやらせる為だけに最後まで彼を予備兵力として温存していたってんだから凄いよね。

   パララララパ、パパパッ!

そんな感歎を抱いている間に作業は終了。
トライデント中隊の勝利を告げるファンファーレが鳴り響き、敵の本拠地を叩かんと波状攻撃を繰り返してたATやバ○キリー達が、その機能を停止する。
そして、浅利三曹の立つ制御パネル前部の床の一部が開放され、その奈落より豪奢な棺っぽいもの。
モダンホラー系のドラ○ュラ伯爵が眠るそれのオマージュっぽい感じの物がせり上がって来た。

その異様な光景を見詰めながらゴクリと喉を鳴らす、浅利三曹。
そして、『これは関わり合いにならない方が良い』と直感したらしく、棺を凝視したその体制のまま後ろ歩きに。ジリジリと後退を始めた。
だが、なまじ撤退に時間を掛け過ぎた為、

『(カタッ)まあ、貴方が私を助けてくれたのね

と、彼が出口に辿り着くよりも先に中の人(?)が。
赤木ナオコ(メルキオールのOSバージョン。以後Mと表記)が復活し、年甲斐も無い口調にてそんな事を宣った。

『いえその。貴女を開放したのは、あくまで姐さん………じゃなくて、春待三尉の率いるトライデント中隊であって、
 僕は………じゃなくて、自分は単に、最後まで残っただけなんですけど………』

と、何故かやたらと媚びを売って来るオバちゃん………じゃなくて赤木ナオコ(M)の勢いに飲まれシドロモドロな返答をする浅利三曹。
そんな初々しい態度にますます興が乗ったらしく、

「あら。たとえそうだったとしても、こうして実質的に私を助けてくれたのは貴方でしょ。
 だ・が・ら、これはそのお礼よ(チュ)」

彼の傍に歩み寄ると同時に右手の人差し指と親指で軽く顎を掴んで顔を上げさせると、そのまま赤木ナオコ(M)は感謝のキスっぽいもの。
それを、傍目にもハッキリと判るディープなヤツをかましやがった。

…………ううっ。ゴメンよ、浅利三曹。生で全世界に流れちゃったよ、今のシーン。
今回ばかりはマジで悪かった。

『って、何をやってるのよ、母さん!!』

と、『今回も俺が画像チェックをしていれば、クロックアップを使って最初のコンマ数秒で画面切替えが出来たかも?』なんて『たられば』な事で落ち込んでいる間に、
もう片方の作戦『MQ』のサポートに参加せず、両作戦の推移を見詰めていた。
こういう時の為に、あえて出番待ちをして貰っていた赤木リツコが、満を持して参戦。
そのまま『良いぞ、もっと言ってやれ』という俺の内なる声に応えるかの様に、普段の彼女らしからぬテンションで。
丁度、駄々を捏ねだした葛城ミサトと相対している時の様な調子で捲し立て始めた。
だが、敵もさる者。とゆ〜か、実の母親。
色々と大ショックだったらしく(何せ、幾ら美人とは言え………否、皆まで言うまい)いまだ呆けたままの浅利三曹に意味ありげな一瞥をくれた後、余裕タップリに、

『あら、リッちゃん。久しぶりね………って、暫く見ない間にチョッと老けたんじゃない、貴女?
 目元になんてクッキリと小皺ができちゃってもう、しょうがないわね〜
 だから煙草の吸い過ぎには身体に良くないって、あれ程言ったのに』

『ニコチン(煙草)とカフェイン(珈琲)を主食に人生を送っていた母さんにだけは言われたくないわよ!』 

『ああもう。母親に向かって、またそんな口のきき方をして。
 御免なさいね皆さん。この娘ったら、遅れて来た反抗期の真っ只中と言うか、歳相応な落ち着きってものに縁が無くって。
 職場でも、さぞや御迷惑をお掛けしている………』

『って、止めてよもう! こう見えても、私は冷静沈着で通っているわよ!』

『(フッ)そろそろ、自分を客観的に見る事を憶えましょうね、リッちゃん。
 貴女ももう、そういう天邪鬼な態度を取っても、可愛く見える様な歳じゃない事だし」

あっ。一応、母親の人格なんだなあ、赤木ナオコ(M)って。
さっきは、いきなりアレだったんで、実はカスパーの間違いかと思ったんだが。
いや、コレはコレで重畳。少々毛色が変わってはいるが、本来、親子ってのは、こんな風に喧嘩しながら互いの絆を深めてゆくもの………

『それより、母さん。さっきのは一体どういうつもりなの? まさか、まだ使徒の影響が残って………』

『いいえ。ソレだったら、もう綺麗サッパリ除去されているわ』

『じゃあ、どうしてあんな真似を?  母さんの趣味は、こんな風な。(ピッ)いかにも求道者っぽい厳つい風貌の中年層だった筈よ』

と、暫しチョッと良いものを見る目で赤木家のホームドラマを眺めるうちに、漸く元の冷静さを取り戻したらしく、赤木リツコが画面上に画像データを提示しつつ。
とある重武装な潜水艦を指揮していながら『私を艦長と呼ぶな』などと宣うワガママ丸出しな某船長のポートレートを指差しながら、そう尋ねる。
それに対する母親の返答はと言えば、我が意を得たりとばかりに勢い込んで、

『その通りよ。でもね、リッちゃん。貴女は大事な事を忘れているわ。
 そう。少年は皆、明日の勇者に。ナイスミドルになれる可能性を秘めているのよ。
 だ・か・ら、有望そうな子を見かけたら、取り敢えずツバを付けておくってのはアリだと思わない?』

『……………ねえ母さん、青少年保護条令って知ってる?』

『大丈夫、大丈夫。そんなの黙っていれば判りっこないって言うか、今の私ってば電子の妖精だから現世の法律は適用されないし。
 それにほら、アダルト路線だけじゃなくて別のニーズに応える事だって。その気になれば(ポン)こんな風にロリっ娘に化ける事だって出来るし』

『って、そんなの単に表示画面の設定を代えただけでしょうが〜〜〜っ!!』

前言撤回、誰か止めれ。
つ〜か、いつの間に逃げやがった浅利三曹。
敵前逃亡は軍隊最大の御法度の一つ。軍法会議でオシオキものだぞ。




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