>OOSAKI

   〜 二日後。2015年、ダークネス秘密基地、大会議場 〜

「祝☆皆勤賞〜♪」

「………明後日の方向を向きながら、何を訳の判らない事を言ってるんですか、提督?」

のっけからジト目で苦言を呈してくる我が副官殿。
まったく。人が良い気分に浸っていると言うのに、どうして水を差すような事ばっかり言うのかね〜コイツは。
「そう言うなよ。もうチョッとで、今回、俺の出番は無くなる所だったんだぜ。
それを思えば、少しくらい浮れたってイイじゃないかよ」

「はいはい。嬉しいのは良く判ったから、サッサと会議を始めようよ、提督。
 でないと、終いには画面の右下に持ち時間のテロップを。
 『大変ですぞ、コー○の守様! 今回、我々の出番は1分28秒しか無いそうです!』っていうアレを流しちゃうよ」

って、ラピスちゃんまで。 つまりアレか。俺とナカザトで、棒読みで大雑把な作戦内容を語って、最後にワーイワーイとワザとらしく喜べってか。
う〜ん。本気でやりかねないな、この子の場合。
仕方ない。実際、メンバー全員が忙しい中の参加とリアルで時間の余裕も無い事だし、チャチャっと巻きを入れていくとしよう。

「それでは、早速………」

「その前に、提督。アレを何とかしてくれよ」

と、その時、俺の号令に被せる形で、ナオがそんな事を。
指差すその先には、マッハ・バロンのマスクを被ったサイトウの姿が。
いやはや、やってる当人はTPOに合わせたつもりなんだろうが、
下だけ何時ものアメコミ風なスーツじゃなくてパリッとした背広姿というのがまた、その異様さを引き立てているな。
もはや、視覚の暴力と言っても過言じゃあるまい。

「(チッチッチッ)人を面と向かって指差すものではないよ、ヤガミ君」

そのムダに余裕タップリな態度に不快度指数が更に跳ね上がる。
必死に目で訴えてくる、ナオ。
当然、その求めに応じ、即座に親指をクルリと下に向けゴー・トゥ・ヘルのサインを。

「ヘイ、百華。マスク狩りの時間だぜ!」

「OK、ナオ様!」

「「クロス・ボンバー!」 」

「ウギャ〜〜〜ァ!」

かくて、某完璧○人のフィニッシュ・ホールドにて悪………じゃなくて正義は滅んだ。
そう。第三新東京市じゃブイブイ言わせている彼も、パワードスーツ抜きでは、まだまだナオ達の動きに対応出来るレベルじゃないのだ。
にしても、後ろからラリアートの体制で支えた所へラリアートを喰らわせサンドイッチにしただけで、何であんなに綺麗にマスクが剥れるんだろう?
まあ、『深く考えたら負け』ってヤツなんだろうけど。

「ごめんなさい。私が無理にこの会議に誘ったばっかりに………」

「違うよ、ラピスちゃん。
 良いんだコレで。何時か……こんな日が来るのは判っていた事だから。
 それより……誰か俺の顔を見て笑っていやしないか?」

「誰にも…誰にも笑わせはしないわ…」

「ありがとう………(ガクッ)」

「マッハ・バロ〜〜〜ン!」

そんなこんなで、オープニングセレモニーも無事終了し、いよいよ全体会議の開幕である。
しかも、いきなりクライマックス。のっけから最大の懸案事項であるアレを議題に語って貰う。
そう。ハッキリ言って、コレについてはもう、話し合いによる解決を俺は諦めている。
それ故、予め腹案を用意してはあるのだが………まあ、後は野となれ山となれ。行ってみますか。



【議題その1:後期主題歌について】

一体ドコのドイツなのだろう、1クルーごとに主題歌を変更するなんて阿漕な商業展開を最初に思いついたヤツって。
正直、ネ○ミ○に代表されるマ○チ商法並に………否、法によって規制出来ない分、さらに性質が悪い気がする。
ともあれ、当って欲しくない予測通り、候補が乱立。
前回が諸般の事情から結構強引と言うか、ほとんど俺の独断によって決定した反動もあって、もう揉めに揉めた。
そして、その過程において泡沫候補者達が淘汰され、

『私らしく 桑島○子Ver』   歌手:ミスマル ユリカ 
『あなたの一番になりたい』  歌手:ホシノ ルリ 

と、各々の立場を利用して前回も絡んできたこの双璧に加えて、他薦ながらも強力なプッシュにより、

『パールピアスが外せない』 歌手:メグミ=レイナード(本業の激務等の諸般の事情により、当人不在)
『素顔のままで』        歌手:音無マリア(以下同文)
『世界に一つだけの花』    歌手:ホウメイ・ガールズ(以下同文、しかも、新曲を撮る余裕が無いので続投)
『恋愛の才能』          歌手:スバル リョウコ(推薦された際いきなり暴れ出したので途中退場)
『Innocent Starter』      歌手:ミルク=ボナパルト(此方は半ば諦めているらしく現在は静観中)

と、チョッとやソットじゃ引きそうもないメンバーが残った。
これまた概ね予想通りなのだが、それだけにチョッとキツイ。
ラピスちゃんが『恋のダウン○ード』とか言い出さなかっただけマシと言った所だろうか。
あと、大穴中の大穴として、某曲にてユキナちゃんも混じっているが、これは単に、誰もが彼女のバックボーンを敵に回す愚を避けた結果に過ぎない。
そう。残念だが、此処から先は、ごく普通の少女では到底ついて来れない弱肉強食の展開………

『チョッと待った〜〜〜っ!』

と、俺が例の腹案を発表しようとした直前、それを遮る形で今回は欠席だった。
それ故、俺的には既に死亡説すら流れていた某ロンゲの男の姿がスクリーン一杯に現れた。

「どういうつもりですか、ダッシュ?」

『ゴメン。ダッテ、幻ノダイ○ーン3ドラマ編 限定版白ジャケットLPヲクレルッテ言ウンダモーン』

冷静に突っ込むホシノ君とダダを捏ねるダッシュ。
にしても、絶対無敵だと思っていた此処のセキユリティにこんな盲点があったとは。
流石、腐っても大会社の会長。『金持ち舐めんなよ』な見事な賄賂攻撃だ。

『件の後期主題歌候補には、この僕も立候補させて貰うよ』

そんな驚愕する俺を尻目に、カメラ目線のまま徐にそう宣言するアカツキ。
そして、画面の袖から『バッチリです。もうワンダホーです、御主人様』とか煽てられつつ手渡された、
昨今では演歌歌手しか使わないような旧式の棒型マイクを気取った仕種さで握り締め、

『神がぼ〜く〜を〜、選んで〜告げた〜』

って、よりによってソレかよ!
暫く見ない内にドコまで壊れたんだか、この男は。
嗚呼、一体ラシィちゃんは何をやって………いや、もう大喜びで全面肯定しているに決まってるわな、あの娘の性格からして。
この場合、寧ろ問題なのは、

「チョッと追詰め過ぎたんじゃないのかい、エリナ女史?」

「ええ。そう言えば、就任以来、あの娘はずっと働き積めだったわね。
 なまじアレの面倒を良く見てくれるものだから、つい。
 思えば、可哀想な事をしてしまったわ。帰ったら、早速、まとまった日数の有給をあげないと」

「いや、ソッチじゃなくて………」

僅かに憐憫の表情を浮かべつつそんな事を宣うエリナ女史に、恐る恐るそう突っ込む。
だが、そんな俺に向かって嘆息交じりに、

「(ハア〜)残念だけど、それは愚策よ。
 実際問題として、提督はアレに良識だの節度だのを期待出来る? 出来ないでしょう?
 正直、下手に休日なんて与えたりしたら、何を始めるか判ったもんじゃないわ。
 そんな百害あって一利無い事をする位なら、まだ改善の余地のある方に手を掛けた方が。
 アレの外付けの良心回路のバージョンアップを図った方が、ずっと効率が良いって思わない?」

お…鬼だ。本気で鬼だぜ、この筆頭秘書殿は。
しかも、完璧に理論武装済み。聞いてて思わず納得するしかない辺り、もう救い様が無いとゆ〜か。
いやもう、本気でギリギリの崖っぷちで勝負しているんだな、アイツって。

『野望を〜父に〜、勝利〜を母に〜、栄光を〜兄に〜、寄付を、義理の姉に〜』

嗚呼、画面に映る君の勇姿も、涙で目が曇ってよく見えないや。
迷わず成仏してくれよ、アカツキ。まあ、無理っぽいけどさ。



「それでは、後期主題歌の決定方法を発表する」

そんなこんなで、せめてもの情けに、現世を彷徨う亡者の気が済むまで。
ぶっちゃけ、やってる当人とその従者だけが完璧だと思っているアピールタイムが終了するまで付き合った後、徐に話しを進める。
当然だが、さっきのアレは論外。この最終選考に出す気は毛頭無い。
後で適当に。『接戦の末、惜しくも落選となったよ』とでも伝えておけば充分だろう。

「後期主題歌に関する権利の総ては、これより行うレースの優勝者への賞品とさせて貰う。
 勝負方法はトライアスロン。コースはOD(オリンピック・ディスタンス)に準拠し、スイム(水泳)1.5q、バイク(自転車)40q、ラン(マラソン)10qで。
 なお、コレへの参加資格は、立候補者当人、若しくはその推薦者のみとする」

有無を言わせぬ口調での、俺のこの発表を前にざわめく関係者達。
無理もない。まさか此処まで強引な手に出るとは思っていないかったのだろう。
だが、どんなに反対されようと、俺はこれで押し通す腹でいる。
だって、ウチの部隊の性格上、明確な形に白黒付けた方が後に引くものが少ないし、この方式をとった場合、とある嬉しい副産物が付いてくるんだも〜ん。

「是非もない。雨宮カスミ、音無マリアの代理人として参加させて頂く」

予想通り、この件をマリアちゃんに依頼されてきたっぽいカスミ君が二つ返事で名乗りを上げる。
と同時に、俺的下馬評では優勝候補の筆頭だ。
何せ、彼女にしてみれば、裏世界のスィーパー(?)たる自分の実力をアピールする絶好の機会。
今後の依頼増加を狙って、本気で勝ちに来る事だろう。

「イズミ」

「ええ、判ってるわ。アニタ、お願いね」

「オ〜ライ、ママ」

二番手として、スバル君の推薦者たるアマノ君とマキ君の指示を受け、アニタ君が参戦。

「…………うん。…………うん。それじゃ、その条件で。
 はい! はい! はい! 魚住ウミ、メグミさんの代理として参加しま〜す」

「それじゃ、ホウメイガースルズの代理としてラシィを。
 そういう事なので、彼女の迎えの方をお願いね、カヲリさん」

次いで、携帯越しに何やらレイナード君と密約を交していたっぽいウミちゃんが。
それに続く形で、ホウメイガールズのスポンサーたるネルガルより、エリナ女史を通してラシィちゃんが代理出走する事に。

「こうなりますと、空条さんと胎動さんが失踪中なのに加えて、体力だけは折り紙付きなヤマダさんとサイトウさんが不在なのは痛いですね。
 仕方ありません。私は、テレサを代理に立てますので、ついでに彼女の迎えも宜しくお願いします」

「ほえ。それでイイの、ルリちゃん?」

「ええ。確かに勝算は薄いですが、余人に任せるよりはマシでしょう、多分。
 それより、ユリカさんこそどうするんです? 
 ジャンプ可能なカヲリさんの参加は論外ですし、まさか北斗さんに出場を依頼する訳にもいかないでしょう?」

「うん。さっき、チョッとお願いしたんだけど二つ返事で断られちゃった。
 と、そういうワケですので、ナオさん、お願いしますね」

「(フッ)良いのかい、艦長? 俺のギャラは高いぜ。ソッチの小娘達と違ってな」

更に、いかにも『不本意です』言わんばかりな不満顔で、ホシノ君がテレサ君を。
艦長が、ハードボイルド気取りつつも、久しぶりに見せ場に喜びを隠しきれないナオを指名。

う〜ん、予測しなかった訳じゃないが、まさか此処まで出揃うとは。
正にオリンピックすら及ばぬ超人の祭典だな。
使徒娘達はもとより、(済崩しで参加の)ミルクちゃんととて彼女達に優るとも劣らない実力が。
また、体力面ではやや見劣りするものの、勝負事の駆け引きに長けたナオの存在も侮れない。
こうなると、本命と目したカスミ君の勝利も、鉄板どころか、かなり危いな。
マリアちゃんのファンクラブの会長でもある身としては、少々辛い所だ。

「提督、チョッとイイかしら?」

「ん? 何かね?」

「コレって、一般人も参加して構わないのよね?」

そう言いつつ、此方の腹の内を探る様な目で見詰めてくるハルカ君。
そんな彼女の態度こそが、言外にその意図を物語っていた。『ハンデを頂戴』と。
無理もない話である。
此処は当然、

「勿論だ。もっとも、競技の性格上、ユキナちゃん本人の参加はチョッと遠慮して貰えるかな?
 その代わりと言っては何だが、君が参加する分には、スイムパートは免除、バイクパートも半分だけで構わないから」

「…………イイの? こう見えても、今でも軽く40分を切るのよ、私の1万メートルのタイム」

キョトンとした顔で、ハルカ君が聞き返してくる。
全工程の半分と、一見、大盤振る舞いっぽいハンデの量に戸惑っているらしい。
この辺、彼女が常識人な。コッチの世界の住人としてはマダマダ甘い証左だろう。
正味の話、俺の見立てじゃ、この条件でも尚、君の優勝はまず無いってのに。

「ちょ…一寸待って下さい! 幾ら何でも、ユキナの我侭でそこまでミナトさんに御迷惑をかける訳にはいきません! 此処は自分が………」

と、此処で、何やら騒ぎ出す白鳥少佐。
相変わらず、空気の読めない男である。

「って、それじゃ勝てるものも勝てないじゃない!」
「何を言うユキナ。お前は、この兄の実力が信じられないと言うのか!?」

「お兄ちゃんこそ理解してる? ハルカさん『だから』ハンデをくれるのよ」

そのままユキナちゃんに論破され、往生際も悪く何かを訴える様な目で此方を見詰てくる。
しかし、当然ながら、世間の相場というものは、彼の思っている様な甘いものでは無い。

「ファースト・インプレッション。
 白鳥少佐にもハンデを与えるべきか?否か? 今のお気持はドッチ?」

俺の求めに応じて、会場には一斉に『ノー』の札が上がる。
無論、『イエス』の札は一枚も上がっていない。
見れば、数少ない同胞である御剣君ですら中立を。双方の札を掲げる事無く知らん振りを決め込んでいる。
完璧な。こういった形式では滅多に成立しない満場一致の回答だった。

「…………(クスン)」

かくて、イジケた白鳥少佐が隅っこの方でノの字を書いている中、カヲリ君に送られ、選手達は後期主題歌決定レースのスタート地点へ。
当然ながら、彼女達は決着が付くまで帰ってこない。
つまり、首尾良く新参の問題児達の隔離に成功したという訳である。
済崩しに風紀委員長までが不在となってしまったが、そう悪い選択ではなかった筈。
(コホン)まあ、なんだ。兎に角、この隙にチャチャっと話しを進めるとしよう。



【議題その2:新トライデントΓについて】

そんな訳で、我がダークネスが誇る三大博士のうち、兵装担当の二人に、今後の戦闘に備えての新兵器のビジョンを聞いてみる。
いきなりヤバイネタだが、どうせ避けては通れない事。
嫌な事はサッサと終らせようという訳である。
が、この考えはチト甘かった。

「おう、良くぞ聞いてくれた。
 コイツは凄いぜ! 基本重量38,000t、全長333.33m。メイン動力炉にオルフェウス型大型縮退炉。サブ動力に対消滅機関を2基搭載。
 兵装も、50口径50cm電子熱線砲が連装2基。60口径12.5cm冷線砲が連装4基。
 フェザー砲が3連装14基、連装20基。短8cmホーミングレーザー砲が60門。三式航空爆雷U型が6基。誘導弾6連装が3基に超電磁バリアーを………」

「チョっと待った! 何処のNノー○ラス号だよ、それ!」

「(チッチッチッ)慌てなさんな、提督。
 良く見てくれ。これは決して、不○議の海のナデ○アのパクリじゃねえって。
 超弩級万能宇宙戦艦ヱク○リヲンの詳細諸元………」

「同じだよ、馬鹿野郎!」

ってゆ〜か、幾ら2199年の技術力でも再現不可能だろ、それは。
いや、敢えて不可能だと言ってくれ、頼むから。

「見損ないましたよ、ウリバタケさん。
 貴方ともあろう人が、そんな安易なネタに走るだなんて。
 情けない。技術者のプライドはドコへやったのですか?」

おお。良く言った、時田博士。もっとこう、ビシッと言ってやってくれ!

「此処は素直に、トライデントΓEX改をベースに改良すべきです。
 改造案としましては、全長を150m、重量1万t。
 空中速度マッハ2、水上速度80ノット、水中速度50ノット、地中速度20q、地上速度300km。
 武装として艦首ドリルをメインに主砲として………」

「それじゃ轟○号そのまんまだろうが!」

「おや、ミスティク」

と言いつつクスクスと笑う時田博士。
嗚呼、何か知らんがからかわれている〜

「いや、提督の言いたい事は判るんだけどよ〜
 トライデントΓに関しちゃ、新ネタがまるで出てこないんだよ。
 ナンつ〜か、もうヤルべき事は総てヤッちまったって感じでさあ」

「ええ。後、やっていない事と言えば、人型ロボットへの変形くらいですかね。
 ですが、そういった事は、主人公メカとの合体の前に済ますべきプロセス。
 今更やっても、少々興醒めというものでしょう」

相変わらず、良く判らないと言うか理解したくない理屈で駄々を捏ねる二人組。
それを敢えて意訳すると、要するに、トライデントΓの改造には飽きたらしい。
何とも呆れた話である。
とは言え、この手の天才達は『気分がノるか?ノらないか?』で、その作品のデキが激変する人種。
無理強いは愚の骨頂でしかない。
仕方ない。今後、浅利三曹には、白兵戦で頑張って貰う事にしよう。

(コホン)それじゃ、次に行ってみようか。



【議題その2:簡易型DFSの改良案について】

あの運命の日、匿名希望の整備員Aからの意見具申の投書から始まり、今や完全にミルクちゃんの魔法杖として定着した感のある、自称『バルディッシュ』。
そう。この『自称』が曲者なのだ。
本体の余の超重量故に実戦投入を絶望視されお蔵入りになっていた汎用携帯型(?)DFSの試作品。
その内の一本。ミルクちゃんが手にしたそれのOSに(呆れた事に)オモイカネが勝手に入り込み、その制御を始めた物。
それが、この素敵に無敵で殲滅戦上等な超絶破壊兵器の正体なのである。
嗚呼、夢も希望もありゃしねえ。

(コホン)まあ、本来あるべき魔法少女のスタンスに関する考察なんて、この際どうでも良い。
注目すべきは、これまでの魔法杖……じゃなくて汎用携帯型DFSの運用データの総てが、
細大洩らさず(戦闘中に起こったパンチラの回数なんて本気でど〜でも良い事まで)オモイカネのライブラリーに記録されている点だ。

折角のコレを有効利用しない手は無い。
そんな訳で、一度は凍結された汎用携帯用DFS計画が再燃。
常人でも扱えるレベルへの軽量化を研究するプロジェクトチームが、ネルガルの本社技術部にて組まれ、
コッチでは、現在の強大過ぎる破壊力をセーブしつつ(何せ、元ネタと違って非殺傷モードなんて便利なものは付けようがない)
更に見栄えの良い必殺技を繰り出せる様にする為の改造案が、班長と時田博士を中心に、日々検討されていたりする。

か…勘違いしないでよね。
別に、2クルー目に入ったのに合わせての新兵器投入じゃ。玩具の売上向上を狙っての梃入れじゃないんだからね。(プィ)
と、ツンデレに挑戦してみるテスト。チョッと違うか。

「ですから、巨大剣、光線技、と来たら次は体当たり系。三大必殺技を全て揃える方向で。
 そう。総てを穿ち抜く巨大ドリルで決まりです! 他には考ええられません!」

「って、それはもう散々ヤッただろうが。  此処は寧ろ、圧倒的大質量によって叩き潰す巨大ハンマーで行くべきだ!」

「ウリバタケさんともあろう人が、なんて俗な事を!
 それなら、敢えて外連に。『○○剣○○斬り』といった書き文字を入れる路線の方がまだマシというもの」

そんな喧喧諤諤の議論の末、

「……………よ〜し、判った。
 この際だ、巨大剣、光線技、ドリル、ハンマー、その他諸々、全部ヤっちまおうぜ」

「なっ!? 何を言ってるんですか、貴方は。
 幾ら超AIであるオモイカネ君がOSを勤めていると言っても、所詮は携帯機。
 どれほどチューンを重ねても保有エネルギーには限界が…………って、まさかベ○カ式を導入するつもりですか!?」

「その『まさか』さ。
 足りない分は、カードリッジを打ち込む事で補充する。
 この方式とオモイカネの制御とが合わされば、それこそアキト顔負けな。
 否、それ以上の。某煩悩少年の操る栄○の手並の形状変化すら可能だろうぜ」

「馬鹿な! それでは、バルディシュの重量は更に重く。恐らくは、軽く100sオーバーに………」

「大丈夫だ! 俺達のミルクちゃんならきっとやってくれる!」

「ウ…ウリバタケさん、貴方って人は………」

「ホント、馬鹿だよね」

と、互いに感極まった。80年代の熱血アニメ風な議論を重ねていた中年二人組に、ホシノ君張りに冷静に突っ込む少女の声。
振り返れば、そこには後期主題歌レースに出走中な筈のミルクちゃんの姿が。
どうやら、スタート同時に棄権して、そのままカヲリ君と一緒に帰ってきたらしい。

いや、この娘の身体能力にばかり目がいって“つい”忘れていたが、
よ〜く考えてみれば、当人にその気が無い以上、これは当然の成り行きだろう。

「………おかしいな。二人共どうしちゃったのかな?
 頑張ってるのは判るけど、試作兵器の製造っては遊びじゃないんだよ。
 テストプレイの時だけ物分りの良いフリして、本番でこんな無茶を言い出すんじゃ、私の話なんて………聞く意味ないじゃない。
 チャンとさ………使用者の意見も取り入れようよ。
 ねえ、私の言った事。私のお願いした事って、そんなに間違ってる?」

「「まっ、待った。俺(私)が悪かった。だから…………」」

「少し………頭、冷やそっか」

かくて、何時に無くブラックな。
DVDで修正が入る前の第八話の様なまるで虫ケラを見る様な瞳をしたミルクちゃんに引き摺られ、壇上を後にする班長と時田博士。
その後、彼等が如何なったかは、本編とは全く関係の無い話なので割愛させて頂こう。
何せほら、最近は色々と規制も厳しいし。

(コホン)さて、次に行こうか。



【議題その3:最終決戦時用の必殺技について】

嵐山アニタ(陽気な声で)『このソウル・オブ・ファイヤー!』
日暮ラナ(めんどくさそうに)『極限まで高めれば〜』
雷鳴ラシイ(本家ばりのテンションで)『倒せぬものなど!』
魚住ウミ(海が見えないので普通に)『何も無い』
音無マリア(輪唱)『『『これで〜』』』
胎動アカリ(破れかぶれに)『決まりだ〜〜〜!』
雨宮カスミ(やや上擦った声で)『わ、私のこの手が』
空条ミオ(躍動感あふれる声で)『真っ赤に燃える!』
テレサ=クトゥルフ(スローテンポで)『しょ〜りを掴めと〜』
レリエル(興味無さ気に)『パスじゃ』
ゼリエル(予想外の展開に慌てて)『ええっ! えっと、えっと………』
アラエル(さも仕方なそうにフォロー)『轟き叫ぶ』
カヲリ(何事も無かった様に)『ハ〜レ〜ル〜ヤ〜〜〜!!』

全員で『『『エンジェル同盟拳!!』』』

   チュド〜〜ン!!

カヲリ『う〜ん、今一つかな。やっぱり、ぶっつけ本番では無理があったってことね』



「…………なんですの、これは?」

「何って、使徒娘総出演による超必殺技のイメージ映像だけど」

痛む頭を押さえつつ、今しがた流された映像について尋ねたカヲリ君に、さも当然の様にそう宣うラピスちゃん。
それでも、その不機嫌振りを察したらしく、

「ひょっとして、気に入らなかったの?」

「…………良いでしょう。耐え難きを耐え、忍び難きを忍んで、先程の映像の様な事が可能だったと致しましょう。
 アダムさんとレイは当然としても、どうしてバルディエルさんとアルミサエルさんを除外なさるのか? その理由も、敢えてお聞きしません。
 そうした前提条件の上にお答え下さいな。それで、一体『何を』倒すんですの?」

「えっ?」

「ですから、私を媒体として放ったと思しき、13人掛かりの必殺技をぶつけるべき相手のプロフィールをお尋ねしているんですの。
 先程のそれは、爆発力だけでしたら戦術核に値するエネルギーでしてよ。軽々しく使って良いものではないってことね」

もはや怒りを顕にしてそう詰問するカヲリ君を前に、タジタジとなるラピスちゃん。
苦し紛れの反論も、

「え…え〜と、戦略自衛隊?」

「まさか皆殺しにするおつもりですの?
 いえ、それ以前に、あんなものを第三新東京市で使ったりしたら、どうなると思っているんですの?」

「だから、そういうんじゃなくて。
 皆の各種能力が上手く干渉しあって、ネ○まみたく武装解除になると思ってたんだけど………ダメ?」

「少なくとも、現状でそれを期待し得る要素は何一つありませんわよ。
 キチンとした目算が立たない限り、この件に関する協力はしかねるってことね」

かくて、カヲリ君の活躍によって、今回のラピスちゃんの計画は未然に塞がれた。
だが、彼女の野望が、これで潰えた訳では無い。
いけ、負けるなカヲリ君。太陽系の未来は、君の双肩に………

「そういう他力本願はお止め下さいませ。先程のそれは、本来ならば提督の役所ってことね」

あっ、やっぱり?



【議題その4:使徒戦の幕間に入れるイベントについて】

『日本国某都内某水道橋某野球場地下。
 そこで今、この世で最も熱いバトルが繰り広げられようとしていた。
 そう。ありとあらゆる、武器・技・魔術・魔法・ESP・ス○ンド能力・その他諸々。
 拡声器に準じるものを除く総ての特殊能力の使用が認められている。
 真の説明王を決定する総合的説明大会『サイエンスグラップラーズ』の幕が切って落とされようと………』

「はいカット」

大雑把な内容の検討がついた所でダメ出しを。
ついでに、ダッシュに命じて映像もストップさせる。

「って、どうしてよ提督?」

「『どうして』じゃありません!
 こんなヤバイ………しかも、誰が優勝するかが判りきっている最大トーナメントの開催なんて許可出来る訳が無いでしょう、絶対に」

ハッキリとそう断言する。
『せめてプロモに目を通すくらいはしてくれてもイイじゃない』とか『ラピスちゃんの時は何も言わなかった癖に〜』とかいった抗議の声にも、真っ向から立ち向かう。
そう。如何に衝撃映像系が鉄板でウケると言っても、物には限度というものがあるのだ。
とゆ〜か、イイ歳してダダを捏ねるのは止めてくれ、イネス女史。
貴女とラピスちゃんでは、立場と年齢が違うでしょうが。

『提督、レースガ終ッタヨ』

「そ…そうか。で、結果は?」

『ビミョー。審議委員会ノ判断ヲ求ム』

と、此処で、ダッシュからのさり気無いアシストが。
それを受け、なおもブチブチ言っているイネス女史の繰言を黙殺し、強引に主題歌レースの模様をダイジェストで流して貰う。

『ヨ〜イ・ドン!』『ギブアップ』

と、スタートと同時に、のっけからミルクちゃんが脱落。
正規のスタート地点のメンバー達が腰砕けになった事もあって仕切り直しに。
既に300m地点に達していたハルカ君に定位置に戻って貰って、再スタートとなった。
なお、蛇足ではあるが、このレースのコースは箱根の郊外にある再開発予定地区。
マーベリック社の私有地でもある場所なので、この日に合わせて人払いは万全。
従って、どんな非常識な技(トリック)を繰り出してもモーマンタイである。

   ザザザ〜〜〜

最初からバイクパートに入っているハルカ君を除く暫定トップはウミちゃん。
混元潮流と名付けた、自分の周りの水の流れを意のままに操る技を駆使して、まるで潮流に乗って回遊する魚群の如く流れる様な流麗なフォームで。
それでいて、イルカも真っ青なスピードにて独走中。
それに続くは、なんとナオ。それも、ウミちゃんの真後3m程の位置に付け、ストリップストリーム風に彼女の特殊能力の恩恵を受けているっぽい。

「って、汚ね〜ぞ、ナオ!」

と、あの苛烈なオシオキの直後だと言うのに、何時の間に復活した班長を中心に某組織の間からブーイングが上がる。
それを制する様に、これまた何時の間にか復活したラピスちゃんが、

「いいえ、あれこそが本物のプロの姿。
 勝つ為には手段は厭わない。バレない反則は寧ろ高等技術とも言えるもの。
 私が彼のセコンド(?)だったら、今頃は“してやったり”とほくそ笑んでいる所よ」

そんな身も蓋もないフォローを。

「でもでも、アレって反則なんですよね、公式ルールですと」

そして、正規のセコンド(?)である艦長が、小声で恐る恐るそう尋ねてきた。
その問いに、小さく手を振るだけのジェスチャーで答える。
そう。どうせ仲間内の戦い、この程度は黙っていれば判りはせんから全く問題ない。
とゆ〜か、ラピスちゃんじゃないけど、寧ろ上手いと褒めたい。
実際、これ位はやらないと、ナオには優勝の目が無いし。

『私のこの手が真っ赤に燃えるです! 勝利を掴めと轟き叫ぶです!!』

そんなこんなで、トップのウミちゃんが人間ではあり得ないスピードでスイムパートを終えようとしていた時、
いまだ半分程の位置と何気に最下位なラシィちゃんが、早くも勝負に。
一発逆転を狙って、

『爆熱!メイド・フィンガーです〜ぅ!!』

今の職場にデューダした際に名前もリニューアルした自身の必殺技を。

   バシャ〜〜〜〜ン!

その反発力を利用して大ジャンプ。
一気に距離を稼ぎ、浜辺まで数十メートルの位置に着水し、

  ゴチン!

その浅瀬の海底にあった『何か』と、イヤな感じの鈍い音を立てて正面衝突した。
そのまま、5秒、10秒………1分程もしただろうか?

『ふ…不覚』

『ううっ、ゴメンなさいです〜』

長身のカスミ君の身体を引き摺って、ラシィちゃんが上陸を。
そのまま浜辺に寝かせるとバイクパートへ。

  キラ、キラ、キラ………

その直後、カスミ君の身体から光る粒子状の物が。
それは、そのまま人型に固まると、一昔前の特撮の転移シーンの様な唐突さでテレサ君の姿に。

『本当にゴメンなさい』

そう言い残すと、彼女もまた自転車の用意されている地点へと走っていった。

「説明しましょう!
 先程の映像からの推察するに、ウミちゃんと良く似た特殊能力を持つ雨宮嬢は、その相互干渉を避けるべく水上ではなく水中に。
 所謂、潜水を選択していた様ね。
 そんな訳で姿が見えなかったんだけど、それが災いして、跳弾と化したラシィちゃんとゴッンコする事に。
 この際、着弾タイミングの予測出来て対衝撃姿勢の取れていた方よりも、いきなり衝突された方が大ダメージになるのは自明の理。
 ましてや、被害者の方がATフィールドの強度においても劣るときては、この結果はまあ順当な所でしょうね。
 そして、もう一つ。
 先程のテレサ嬢の使ったトリックは、ある意味、ラシィちゃんのそれよりも単純なもの。
 単に、その身体をナノマシン化してくっついていただけでしょうね。
 ちなみに、この際、ウミちゃんではなく雨宮嬢をそのターゲットとしたのは、相手が彼女ならば、後で謝れば許して貰えるだろうという打算が働いたものと………」

それまでの不満顔も何処へやら。
出番が来たとばかりに絶好調で説明を始めるイネス女史。
その間にも、レースは順調に。ダイジェストモードという事もあってサクサク進む。
既にハルカ君はマラソンパートの半分を走破。
それを追うバイクパートの面々も、既に終盤戦に突入。

トップはラシィちゃん。その直ぐ後ろに、温存していたスタミナを使ってナオが。
そう。ウミちゃんの純粋な体力は、精々『見た目よりはある』程度のもの。
スイムパートで想定以下のリードしか稼げなかった以上、陸上競技でこの二人に勝てる筈が無いのだ。

そして、意外な事に、そんなウミちゃんとドッコイ程度の体力しかない筈のテレサ君が三番手に。
それも、トップ………じゃなくて、二番手争い中の二人に遅れる事無く、そのすぐ後ろを追走しているのだ。
如何にグルグル眼鏡無しの本気モードとはいえ、コイツは予想外な展開。一体ナゼ?

「あ…あれはエコノミーライン!」

「知っているのか雷○……じゃなくてラピスちゃん?」

そんな御約束の前フリを受け、民○書房ならぬイネス女史が、

「説明しましょう!
 F1等に代表されるこうしたレースの際には、相手の走行ラインを塞ぐ事が常套手段となるわ。
 トップを争うという競技の性格上、当然の帰結よね。
 けれど、逆説的に考えると、これは自分が理想とするラインでは走れない事を意味している。
 無論、ライバルとの接戦によるミックスアップによってタイムが縮まるという側面もあるけど、それはあくまでも副次的な結果に過ぎない。
 本当の意味でのベストラップとは言えないものなの。
 そこで考え出されたのが、ある意味、レースの本質とは真逆のアプローチ法。
 対戦相手の事を頭から無視した。
 たとえ、コーナの立ち上がりで外に並ばれても委細構わず『自分が最も速く走る事が出来る』と確信出来る、一切の無駄を排除した珠玉のライン取り。
 それが、エコノミーラインと呼ばれるものの正体よ」

なるへそ。如何にも机上の空論っぽいと言うか、漫画でしかあり得ない感じの技だが、そこはそれ、やってる本人がソッチの世界でもやっていけそうな人材。
まして、こうやって結果を出している以上、これは『そういうもの』なんだと割り切った方が無難だろう。

と、そんな事をつらつら考えていた時、レースは更に予想外の展開に。

「勿論、本来ならば経験がものをいう。所謂、膨大な量の走り込みの末に編出されるものなんだけど、その辺は情報処理に特化されたクトゥルフ嬢ならば………って、嘘!?」

絶好調で説明中のイネス女史が説明を中断するくらい驚愕の事態が発生した。
前述のそれを、『所詮は小手先のテクニック』と嘲笑うが如く、
なんと、それまでドベだったアニタ君が猛チャージを。
バイクパートに入ると同時に、百花繚乱顔負けな超スピードで怒濤の追い上げを仕掛けて来たのだ。

   シャ−

そんな彼女の身体を紅い光が。ATフィールドの輝きが包み込む。
その目的はATC。自分の乗機としては些か脆弱な市販品の自転車の強度を上げる為にやっていると判っていて尚、本家である北斗の昂氣を彷彿させる光景である。
にしても、使徒娘の中でも突出して体力があるのは知っていたが………
俺達はホンにでトンでもない女性に一介のバーテンをやらせていたんだなあ。
下手すれば。鍛え方次第では、彼女は本気で北斗の持つ太陽系(暫定)最強の座を狙えるんじゃなかろうか?

とか何とか言ってる間に、優勝の目がありそうな選手達は全員ランパートに突入し、

「よっしゃあ! ついに、待ちに待っていたこの時が!
 見て下さい、あの規則正しく∞の振り子運動を描いて揺れる、アニタさんのたわわな胸を!
 あれこそが、この世の正義! 何でも出来る証拠です!」

「何言ってやがる、マスオ!
 あんなス○ロボのカットインモドキな不自然な揺れなど邪道。天然物であるミナトさんの胸とは比べものに………」

「貴様等〜! 黙って聞いて居れば、二言目には『胸』『胸』と。ハルカさんを、なんというふしだらな目で!」

「おお。今、白鳥少佐がイイ事を言った!
 その通り。胸なんて飾りです! エロい人にはそれが判らないんです!」

「つ〜か、ナオ、ウザイ。ハッキリ言って目障り(バキッ)グハアッ!」

「(フッ)目障りなのは、お前の方ね」

そんな某組織の面々+αの声援(?)を受けつつ、いよいよレースは終盤戦に。残り1qの地点を通過。
先頭は未だハルカ君のまま。
タイムを見れば、マラソンパートは、まだ35分チョッと。
自己申告の通り、このペースならば多分38分台でゴールする事になるだろう。いや、大したものである。

だが、所詮それは表の世界での話。
100m走でもあり得ないスピードで疾走する超人達の前では止まっているも同然だった。
事実、すぐ後ろからダンゴ状態でやって来た三人組に、何の駆け引きも無く。
およそ700m地点にてアッサリと抜かれる事に。

「ギブアップ」

それと同時に、棄権を宣言するハルカ君。
この辺の潔さと言うか、状況判断の正確さは流石の一語である。
何せ、今や彼女の目の前では地獄絵図が。
その胸が邪魔で………じゃなくて、バイクパートでの無理が祟ってか、ランパートではその圧倒的なスピードが為りを顰めているアニタ君と、
ラストスパートを掛けてきたナオとの間での激しいデットヒート状態に。
良く言えば、互いにベストを尽くして鎬を削り合う、悪く言えば、己の肉体をフルに活用し、さり気無く(?)互いの進路を削り合う、とってもデンジャーなトップ争いが展開中だった。
そう。敢えてユキナちゃん本人の参加を禁じた理由は正にコレ。
負けん気の強い彼女が、突っ張った挙句、アレに巻き込まれでもしたら只では済まないからである。

そして、そんな激しい攻防の前に蚊帳の外に。
決して走力では負けていないもの、その小柄な身体が災いし、アッサリ弾き出され、一歩遅れた三位に付けているラシィちゃん。
これがカスミ君なら、二人に見劣りしないタッパとガタイを持つ故、第三の走者として目の前のポジション争い(?)に参加を。
或いは、その特殊能力を駆使しての瞬動の術で大外から一気に抜き去る事も可能なのだが、彼女にはそのドチラも実行不可能である。

そんな訳で、俺が勝負ありと思った瞬間、

『私のこの手が光って唸るです!(中略)必殺!シャイニング・メイド・フィンガーです〜ぅ!!』

残り300mの地点でクルリと後ろを振り返ると同時に必殺技の体制に。
ラシィちゃんは、大得意の力技に出た。
よ〜するにジェット噴射。とある武術大会の場において、カメハ○波の反動によって飛来した某仙人の如く、自身の加粒子砲を最大出力でぶっ放す事で一気に急加速したのである。

その結果は惨憺たる物だった。
取り敢えず、リタイヤと同時に安全圏に退避してくれていたハルカ君には。
そして、マラソンコースが一本道だった事が幸いし、唐突に大規模破壊光線に晒されたにも関わらず、後方には取り立てて被害は出なかった。
少なくとも、最悪の結果だけは避けられた訳である。
だが、その幸運に反比例するが如く、彼女が背を向けていた前方では……

まずは、ナオとアニタ君の二人をお約束通りに巻き込み、そんなダンゴ状態ままゴールをブッチギリ、尚も弾丸飛行を。
更に200m程飛んだ所で、空気抵抗の関係から軌道がフォークっぽくストンと落ち、45度の角度で地面に激突。
そのまま、車田落ちっぽく50mばかり道路を抉りながらの。
盛大に白煙と土煙とを上げる派手な胴体着陸(?)を遂げたのである。

そんな大惨事を前にシ〜ンと静まり返る会場内。
そして、煙が晴れ視界がクリアになった次の瞬間、

「「「ナオ(様)、ぶっ殺す!!」」」

と、心を一つにする某組織の面々と百華ちゃん。
そう。ATフィールドの加護のあるアニタ君とラシィちゃんが、あの程度で如何にかなったりする筈がない。
密着状態だったが故に、ついでにその恩恵を受けているナオもまた同様である。
此処までは良い。寧ろ、熱血格闘系のノリで通じる事象だ。

だが、流石に大ダメージは避けられなかったらしく、絡み合ったまま仲良く気絶状態。
しかも、激突の衝撃から衣服が千切れ飛んだ。
ぶっちゃけて言えば、爆発オチを決めた後のドロ○ジョ様達よりも際どい半裸状態ときては………
なまじチョッピリ心配していただけに、その反動はいかばかりか。
哀れナオ、ギャク漫画の定めよ。

「で、写真判定の方は?」

暫し胸中で苦笑した後、徐にダッシュにそう尋ねる。
スロー再生された後、画面に映し出されたそれを見る限りでは、飛び跳ねたラシィちゃんのポニーが一番最初に。
次いで、飛び散ったナオのサングラスがゴールラインを通過していた。
後はもう、パッと見では全く判りゃしねえ。
それくらい見事に密着状態だった。



「それでは、結果を発表する」

数分後、そう言って場の喧騒を制した後、熟孝の末に下した決定事項を述べる。
そう。この様に、勝負の行方が曖昧な形となってしまった以上、下手に長引かせては後々厄介な禍根を残す事になる。
此処は、少々怨みを買う事になったとしても、ジャッジ役である俺がスパッと決めるしかないのだ。

「写真判定の結果、一位はラシィちゃん、二位はナオ、三位はアニタ君。
 従って、後期主題歌は、ホウメイガールズの続投とする。
 但し、画面を見ての通り、ほぼ同着とも言える結果でもある事を鑑み、艦長とスバル君の曲は、挿入歌、若しくは最終話にて使用するものとする。以上」

チョッピリ玉虫色ではあるが、まあこんな所だろう。
ついでに言えば、さり気無く挿入歌という概念を持ち込む事に成功した事も大きい。
そう。これで、最終話にてマリアちゃんにアレを歌って貰う為の布石が整った訳である。
(フッ)問題ない。総てはシナリオ(成り行き)通りだ。



そんなこんなで、更に会議を進める。
といっても、既に最大の懸案事項が片付いてるので、後はもう気楽なもの。
霧島三尉の鋼鉄のガールフレンド計画を初めとする有象無象な。
あからさまに私情に走った実利の無い提案に、もっともらしい事を言いつつダメ出しをするだけで事足りる。

また、その途中で、望外な幸運にも恵まれた。
会議初頭からチョッと思いつめた様な顔をしていた御剣君が、満を持して意見を。
まるで駄目オヤジの尻拭いをする健気な奥さんの如くペコペコと頭を下げつつ、バルディエル戦でのヤマダ ジロウの降板を求めてきたのである。

木連人名物の興奮状態(例:白鳥少佐)な所為か、イマイチ要領を得ないその話を総合するに、
今回アレが欠席した理由は、例の叔父さんの道場の看板を背負って、四年に一度開かれる某武術大会で戦う為に、
流派口伝の奥義を修得すべく向かった某伝説修行場から、いまだ帰って来ないからなんだとか。
無論、この辺の事情はスルーする。どうせ、殺したって死にはせん生物。心配するだけ無駄無駄無駄だ。

肝心なのは、その某武術大会の日程である。
なんと、11月25日に。バルディエル戦の予定日と幸運にも重なってくれているのだ。
当然、二つ返事で。一ミリ秒で了承する。
いや、コレで漸くカザマ君の出番が回ってくる。目出度い事だ。



その後も、幾つかの案件を片付け、全体会議は無事閉幕。
程良く夕食時となった事もあり、そのまま次のイベントに。
今回、最もツイている思われる少女から依頼された料理対決の審査に移る。

無論、こうやって一般人を招き入れるのは些か拙いというか、本来ならばあり得ない愚行なのだが、
そこはそれ、ウチは軍隊じゃなくてそれっぽいナニか。
そんな四角四面な事を言い出したら、自分の足下を掘る結果になる。
何より、此処は2015年にあるダークネスの秘密基地。
仮に彼女達がドコかのスパイだったとしても、時空転移という概念がバレない限り、総ては空回りに終るのでモーマンタイである。
何せ、2199年においては、ココってば可燃ゴミの集積場だったりするし。
嗚呼、おごれる者も久しからずやな諸行無常。チョッと違うか。

「(カチャ)どうぞある」

そんな事をつらつら考えている間に、カザマ君に紹介された。
その折に聞いた話からすれば結構な年齢である筈なのに、何故か少女にしか見えない双子の一人。
姉である魃ちゃん(?)が自ら給仕を。
他の有志達の所には、メイド五人衆(この場合、ラシィちゃんも含まれる)が忙しく走り回っている。
どうやら、何時の間にやら隣の席に座ったカザマ君同様、審査委員長っぽい立場と目されているらしい。思ったより責任重大である。

かくて、責任感も新たに眼下の料理に目をやる。
勝負料理は麻婆豆腐。何故かアンの部分が、定番の茶色掛かった赤色で無く、良く炒めたタマネギの様なアメ色なのが些か気になる所だが、
芳ばしい香りと共に湯気を立てているそれは、充分に食欲を刺激するものが。
全員に行き渡ったのを確認した後、音頭を取って『いただきます』をした後、勇んでそれを食す。

うむ。予想以上にコッテリとした一品。 既存の物とはやや食感が異なるものの、豆腐に絡まるアンにコクがあってコレはコレでかなり美味い。
一口目はチョッと油っぽいと感じたが、後から来た山椒の香りがそれを打ち消し、口の中を爽やかにすると共に更なる食欲を誘ってくれる。
難を言えば、俺的にはもう少し辛い方が……………ひ、ひでぶっ!

盛られた麻婆豆腐を1/3程も食べ終えた頃だろうか?
突如、体中を駆け巡る猛烈な辛味が。
慌てて、コップの水をガブ飲みするが、口の中の炎を鎮火する筈のそれが、まるで灯油の如く更なる延焼に拍車を掛ける。
水自体は普通のものの筈。つまり、既に此方の味覚が狂わされているらしい。

「ま…まさか、アレは伝説の黒マーボ!?」

「その通りよ。20世紀の半ばに陳○民老師によってアレンジされ、世界に広く認知される事となる前の。
 清の同治帝の御世に、その圧政を憂いた調理人の一人、劉○富老師が編出したと言われる本来のスタイルあるね」

「なんと。では矢張り、唐辛子ではなく大量の焦がし山椒で作った麻辣豆腐あるか?」

「勿論ね。所詮、麻婆(あばた顔)などというのは、後世名付けられた俗称。
 マーボとは、本来は麻辣と表記するもの。
 麻とは麻痺の、辣とは竦むの意。一度食したが最後の、正に必殺の一品あるよ」

「(クッ)そんな危険な物をお客様にお出しするなんて。
 姐さん! マーボの暗黒面に囚われたあるか!?」

「(フッ)表返ったと言って欲しいね。
 そう。私はコレで、今の緩み切った惰弱な料理界に牙を取り戻すあるよ」

何か知らんが、遠くで熱血格闘漫画っぽいやりとりが交されている様な。
斜め前の席の。既に痙攣すらせず完璧に沈黙しているイネス女史が『ズルイ。私の居ない所で説明セリフ争いをしないでよ』とか言ってる様な気がする。
嗚呼、総てが遠くなっていく。まあ、悪くない人生だったなあ……………なんて思えるか〜〜〜っ!!

気合一閃。今にも霧散しそうだった自我意識を根性で再構成。
そして、既に麻痺した五感に頼らぬ弟六感。思念体レベルにて必死に善後策を練る。

兎に角、原状はヤバ過ぎる。
特に、ほぼ全員がアレを完食してしまっている点が明らかにマズイ。
そう。こうやって冷静に振り返ってみれば、あのコッテリした旨味こそが巧妙な罠だった。
アレによって、最初のウチは美味しく食べられる。
そして、辛味が発現して以後は、味覚そのものが狂わされている為、その煉獄から逃げる為に更にマーボを食べ、その瞬間的な旨味によって辛味を中和させるしか。
まるで、重度の麻薬中毒者の如く、更なる地獄が待っていると判っていながらもズルズルと食べ続けて、終には破滅するという寸法なのだ。

正直、実に良く出来ていると思う。
もしも、俺にタイムワープ能力があったなら、紫苑君から預かっている釘バット持参で、コレの発案者らしい劉氏を抹殺に行かずには居られないくらい見事な物だ。

取り敢えず、フィリス君に連絡し、解毒治療をして貰うしか無いだろう。
問題は、表の医師に過ぎない彼女の手に負えるか否かという点だ。
だが、イネス女史があの有様な以上、他にアテが無い。
その弟子達に頼るには、流石にまだ時期尚早過ぎるし。

「しっかり。気を強く持つよろし」

えっと、跋ちゃんだっけ?
判っているさ。此処は、疑似第四階梯故に辛うじて生き残った俺とカヲリ君とで何とかするしか………

「仕方ないある。事此処に至った以上封印を解くある。
 (フッ)今思えば、媽媽(ママ)が姐さんにコレを教えなかったのは、今日という日が来る事を見越していたからかもしれないあるな」

と、俺が朦朧とした頭でアレコレの算段している間に、そんな独白を入れつつ、素早く自分の鍋の料理に幾つもの香辛料をドバドバと加えた後、

「(カチャ)さあ、コレを食べるよろし」

って、チョッと待てや嬢ちゃん。 もう料理勝負どころじゃ無いとゆ〜か、それ以上に、その燃える様に真っ赤な物体はなんなんだよ、おい!

「早く! 黒マーボによる麻痺を抜くにはコレしか無いある!」

なるほど、解毒薬なのか。そういう事ならば(パクッ)………あべしっ!!

辛い! 辛い! 辛い! 辛い! 辛い!
百万言辛いと言っても、まだ足りない。
タカの爪や豆板醤を直食いしてもあり得ない殺人的な。全身から汗が噴出し干乾びそうな。
もはや言語による表現が不可能な、辛味というものの一つの到達点………

「(パクパク)う〜ん。確かに、チョッと辛過ぎと言いますか、(パクパク)
 メインの食材であるお豆腐が、過剰に加えられた香辛料の所為で溶けて無くなってしまっている以上(パクパク)これはもう麻婆豆腐とは呼べない物ですよね。
 でも、これはこれで美味しいと言いますか(パクパク)所謂、裏メニューとしてはアリなんじゃないかと」

って、ど〜して普通にコレが食えるんだよ、カザマ君!
それが、俺の脳裏に浮かんだ最後の思考だった。



PS:一応、解毒効果の方もあったらしく、他の者達が最短でも丸三日寝込んだ所を、俺は半日程で復帰する事が出来た。
   主治医であるフィリス君の専門用語だらけな話を噛み砕くに、各々の香辛料が絶妙なバランスでその効果を打ち消しあった結果らしい。
   無論、その代償も少なく無く、暫くの間はトイレの度に泣く事に。
   今回の一件で確信した。あの後、事の後始末までしてくれたカヲリ君は元より、あの二皿を完食してなお全く普段通りなカザマ君は、絶対人間じゃないと。
   そして、心から誓った。もう二度と、その場のノリでの安請け合いなんてするもんかと。

   閑話休題。そんなこんなで、心身共にズタボロの俺は、現在、ラシィちゃんお勧めの有名甘味処の数々を行脚して、狂った味覚のリハビリ中。
   嗚呼、生クリームの甘味が堪らない。チョコパフェってサイコ〜! 




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