>SYSOP
〜 2015年10月2日午後4時、弟3&弟7使徒戦跡地近くの某海岸〜
ザパ〜ン
暦も10月に入り、気温こそ真夏のそれでありながら波は高い。
ある意味、サーファにとっては夢の様な環境の中、一人の少女が、荒れ狂う高波をものともせずに、波間に僅かに見える岩の出っ張りを目指して泳いでいる。
行楽シーズンを過ぎ閑散としている御蔭で左程目を引かずに済んでいるが、それは異様な光景だった。
そう。恐ろしく早いのだ。人の身ではあり得ない程に。
と、そんな事を行っている間に、出っ張りの部分を捲くる形でUターン。
折り返し、今度は海岸を目指して泳ぎ出す。
そして、そんな彼女が上陸を果し、海水に濡れていない部分の砂浜に達すると同時に。
「(ピッ)2分57秒」
ストップウオッチを構えていたケンスケが、今回のタイムをウミに告げた。
「(フーッ)漸く、コンスタントに3分以内に纏められる様になってきたわね」
一息突くと共に、その結果に満足げに頷いた後、渡された海水をタオルで拭きながら小休止に。
そんなイイ笑顔の。特訓の成果が上々で御満悦中のウミに、ケンスケはやや躊躇いつつも、
「え〜と。取り敢えず、この訓練の主旨だけは。
多分、800mダッシュを水泳版でやっているんだって何となく判るんだけど………何の役に立つのコレ?」
「え?『何の役に』って、見たまんまって言うか、水泳の練習なんだけど。判り難かった?」
不思議そうにそう聞き返す、ウミ。
どうやら『これ以上速くなってどうするんだ?』という、此方の意図は伝わらなかったらしい。
一体、ナニに勝つつもりなんだろうか、彼女は?
泳ぐだけなら、あの北斗先生よりも。水面を走るという反則技を使わない限り追いつけないくらい速いというのに。
「(コホン)まあ、それは良いとして。
そろそろ例のレポートの製作に取り掛かろうよ。ほら、取り敢えずの結果も出た事だしさ」
怖い考えになってきたので、当座の疑問はスルーする事し、ケンスケは彼的にはストレートに本題に入った。
そう。わりと必死と言うか、既に余裕は全く無い。
漫画家に喩えるならば、とっくに修羅場に入って缶詰になっている筈の状況だったりするのだ。
だが、その当事者はと言えば、
「レポート?……………おお(ポン)そう言えばそんなものもあったわね」
前回、それが元で散々な目にあったにも関わらず、この程度の認識だった。
「思い出してくれて嬉しいよ。
とゆ〜ワケで、丁度、此処に予備のノートPCがあったりするから、忘れない内に早速始めようか。
ああ、大丈夫。こんな事もあろうかと、すぐに作業に移れる様、君のPCの最新のデータをHDに落してあるから」
「わお。気が効いてる〜」
頓着無く微笑む、ウミ。
もっとも、これはお世辞にも良いリアクションとは言えない。
如何に細かい事には拘らないのが彼女の長所とは言え、
個人情報の塊であり、また、大切な『筈』の各種研究データが入っているPCを弄られてなおこの反応は拘らなさ過ぎ。
ケンスケへの信頼感を論じる以前の問題である。
無論、彼の方とて、好きでこんな犯罪紛いの事をしている訳では無い。
最近はもう、此処までやらないと作業が遅々として進まないのだから仕方ない。
そう。あたかも二人は、どこかの元特殊部隊の隊員と某作戦部長の如く、互いに無駄なスキルばかりがズルズルとレベルアップしてゆく泥沼な関係だった。
とは言え、そこはそれ。相手は美少女で、此方は思春期の男の子。
こんな風に手放しで喜ばれれば、それが罠だと判っていても、思わず口元が緩もうというもの。
実際、そんな心の隙を抉る様に、
「んじゃ、○○フォルダに入っている資料を、ナッピーに目を通して貰ってて。
私、その間にもう一泳ぎしてくるから〜」
と、雑用を押し付けられても、充分許容範囲内だったりする。
「よ〜し。んじゃ、頼むぞナッピー」
という訳で、早速、水槽の前で、一応は日本語らしい難解な文章がギッシリ詰ったPAD形式のそれを一定の速度でスクロールする。
一見、何の意味も無いとしか思えない作業であるが、さにあらず。
過去の経験から言わせて貰えば、予めこれをヤルかヤラナイかによって、その後のウミの作業効率が明らかに違ってくる。
つまり、ナッピーは彼女の重要なアドバイザーなのだ。
……………無論、只の現実逃避だと判っている。
だが、そうとでも思わなければ、やっていられないケンスケだった。
プ〜プププ〜プ、ププププップ、ププププップ、プ〜プププ〜プ………
と、此処で携帯より『忍者ハッ○リ君』のメロディーが。
上からの命令で、今回、臨時で組む事になった、さるフリーのスィーパー用に設定してあったそれが鳴り響いた。
『此方カスミ。
臨時報告。約30分程前にミオ達を発見。予定通り、接触の前にその様子を観察。
その際、懸案事項AとCの発生を確認。貴公の判断を求む』
取り急ぎ電話に出ると、普段以上に堅苦しい口調の。
所謂、お仕事モードのカスミからの指示追加の要求が。
と、その直後に、動画メールが送られて来た。
その内容を確認するに、どうもミオは、かの地にて、以前北斗先生達がやっていた盗賊狩りっぽい事をやっていたらしい。
それは良い。概ね予想範囲内である。
そして、俗に『男子三日会わざれば活目して見よ』と言うが、僅か一週間程のブランクでありながら、携帯のワンセグの画面に映るミオの姿には別人の様な風格が。
ぶっちゃけ、素人目ではあるが、実戦経験を重ねる事で甘さが消えたと言うか。
以前の様な、人間場離れした身体能力に任せた力押しな戦闘スタイルが大分矯正されている様な。
『爆砕重撃キック!』(自身の体重を軽減して高くジャンプし、蹴りつける瞬間に数倍のGを掛ける鷹爪蹴)とか、
『重嵐タイフーン!』(掴んでから投げる間は相手の体重を軽減し、叩きつける瞬間に数倍のGを掛ける背負投げ)とか、
まるで某機動兵器のパイロットの如く、一々技名を叫ぶ事に目を瞑れば、チャンと武術として確立してきている様な気がする。
そう言った意味では問題ないと言うか、向こうの盗賊さん達には悪いが、寧ろ好結果とさえ言えるだろう。
問題なのは、向こうでの放浪生活中に、ミオの素性が。
彼女が使徒娘である事がバレてしまった事。
しかも、その相手というのが若干7歳の少女であり、しかも、そのまま拉致同然に連れ回して。
あの人外な1対多数のストリートファイト(?)の場にまで同伴させている点である。
これは、かなり拙い。
相手が相手だけに金銭等による口封じが通じないし、その保護者から見れば、コッチは誘拐犯も同然。
説得は困難。まして、現場に居るのは、お世辞にも弁が立つとは言えないカスミときては絶望的である。
と、これだけでも充分グレーゾーンにドップリ嵌っていると言うのに、かの少女には更なる秘密が。
その理由は不明だが、同じく使徒娘であるアカリちゃんのステルス能力が、彼女には全く通じないとの事。
聞いた話では、2199年最新の探査レーダですら完全無効化するというソレを見破る眼力の持ち主。
もはや完全にクロ。取り敢えず、此方に御招待するしか。
その後の判断は上に。悪の大首領様に任せるしか無いと思われる。
「判った。それじゃ、まずその子に……………そう。鈴音ちゃんと代わってくれ」
素早くそう算段した後、なるべく優しい声音にて、件の少女にその素性を尋ねる。
その内容は、済崩しに巻き込まれた今回の一件すら霞む様な。つい、貰い泣きしてしまいそうなものだった。
にも拘らず、同時進行で、彼女に身寄りが無い事やシンジの知り合いだった事を好都合だと考えてしまう、そんな自分の腹黒さに吐き気がする思いのケンスケだった。
それでも、やらない訳にはいかない。
そして、やるからには最低限のスジも通さなくてはならない。
「うん、うん、判った。大丈夫、悪い様にはしないから。
それじゃ、雨宮に……………そう。その、おかしな格好をしたノッポのお姉さんと代わって貰えるかな?
……………あっ、雨宮か。追加の任務を頼む。
彼女の居た孤児院の位置は聞いていたか?……………うん。それじゃ、早速ソコへ行って、今回のご招待についての説明をしてくれ。
それと、判ってるとは思うけど服装は代えてから……………そう。フォーマルとまでいかなくてイイから、せめて一般人ぽい格好に……………
うん。勿論、それも経費で落してくれて構わない。だから、絶対に着替えてから行ってくれ」
そんなこんなで一時間後。
『此方カスミ。
現在、院長と名乗る老婆と面会中。何故か酷く怯えられている。
このままでは屋敷内に入れて貰う事すら叶いそうもない。貴公の支援を求む』
「って、いきなりそれかよ。
チャンと着替えたか? チャンと教えた通りに挨拶したか? 出会い頭にガンを飛ばすのも自重したか?」
『無論だ………いや、一つだけ忘れていた』
矢継ぎ早にチェックを入れるケンスケの声に、ハッとした顔に。
そして、ややバツの悪そうな声音で、
『失敬。コレは宿願を果すまで外すつもりは無かった物故、つい忘れていた。許されよ』
おかっぱ髪の下に嵌め込んであったバンダナ状の鉢金を外しつつ、そう謝罪を。
だが、当然ながらこれは逆効果だった。
額の下の、真っ当な人生を送る者にはあり得ない天下御免の向こう傷に、老婆は更にドン引きした。
「………OK。取り敢えず、携帯を渡して。院長さんと直接話しをさせてくれ」
電話越しに聞えてきた引き攣った悲鳴に、カスミによる説得を諦めざるを得ないケンスケだった。
そんなこんなで更に30分後。
どうにか院長の警戒心を解くところまでは成功したが、所詮はガキの口先三寸。それ以上のものにはならない。
そこで、空手形で無い事を示す為、カヲリを通してネルフ中国支部の黄司令に根回しを。
此方の身元の保障をして貰うと共に、院長の本格的な説得のお願いを。
また、他言無用の約束の下、移動時間の短縮を兼ねてデモンストレーションに光遁の術を披露。
現在、鈴音ちゃんが置かれている立場の危険性を、さり気無くアピールする。
その際、シンジの関係者だと言ったら、何故かこの異常事態をアッサリ受け入れられ。
ぶっちゃけ、『矢張りあの方は仙女様だったのですね』とか言いつつ泣き出されたのにはチョッピリ引いたが、それで納得してくれるのであれば構うまい。
とゆ〜か、敢えて追求したくない。何かコワイし。
「(フゥ)やれやれ、何とかなったか」
一仕事を終え、ホっと一息。
だが、まだまだやらなければならない事が山積している。
結局、ウミのレポートが全く進まなかったのも、その一つ。
そして、現在、最大の懸案事項はと言えば、
「『私、海がみたいの』(フン)こんな只デカイだけの水溜りの、どこがそんなに有り難いんだか」
あの運命の日以来、何故か頻繁に。
ぶっちゃけ、これまでアレコレ世話を焼いていた時間帯は、概ねダークモードで居るラナの存在だった。
今も、これまでは寸暇を惜しんで打ち込んでいた睡眠道(?)をどこぞにうっちゃり、
此処へ来る途中で購入した少女漫画をナナメ読みしつつ、その内容に悪態を吐いていたりする。
無論、それに不満がある訳では無い。
寧ろ、色んな意味で実に良い変化。諸手を上げて万歳三唱しても良いくらいだ。
そう。あれ以来、元々頭が良い事もあってか、イノセント丸出しだった彼女の非常識振りは為りを顰め、
情緒面もまた、かなり成長してきている。
「ん? 何だよ、そのビミョーそうな顔は。
わ…私が此処に居たら何かマズイのか?」
言外に『私の前では出来ない様な事をするつもりなのか?』と睨みつけてくる所も、どこか可愛いと言うか、チョッと良いなあと感じてしまう。
嗚呼、まさか自分がツンデレというものを体感する日が来ようとは。
つくづく、あの時、一時の激情に流されなくて良かったと痛感する。
後は、上手くフラグを重ねて行けば………
いや、フラグと言えば、何となくウミとも脈がありそうな気が。
今の所は、御互い恋愛感情らしきものは無いと言い切れるが、それでも友情と呼ぶには些か微妙な。
一人にしておくと派手に自爆しそうなので、目が離せないと言うか。
少なくとも、誰かシッカリした相手と付き合い出すまでは放って置けない。
そんな父性愛っぽい思いが確かに存在する。
この辺、告られる(?)まではラナに対して感じていた想いと酷似しているだけに、ひょっとしたら彼女が勘繰っている様な展開が訪れる可能性も………
更に良く考えてみると、この所、女ッ気が矢鱈と増えた様な気がする。
同世代のクラスメイトだけ取っても、ツンデレ、電波系、お嬢様、タカビー、腹黒眼鏡っ娘、素直クール、体育会系、委員長、そしてTSキャラと、
妙にバリエーションが豊富と言うか………
(ハッ! ひょっとして、傍から見れば、俺ってギャルゲーの主人公!? これが伝説に聞くモテ期と言うヤツか? 時代が…時代が俺に微笑んでいるのか!?)
ちなみに、何気にコレが現在のマイ優先順位。
ヒカリの順位が低いのは完全非攻略キャラだから。
とゆ〜か、せめてシンジだけはそうだと信じたい所である。
もっとも、そんな二人が、嫁スキルに関しては双璧なのだから泣けてくる。
嗚呼、トウジがチョッピリ。否、かなり羨ましい………
シュッ
気付けば、風切り音と共に己の髪が数本舞っていた。
「ゴメン。蚊が居たのよ」
そんな謝罪を口にするも、瞳が別の事を物語っている。
此処で漸く思い出す。ギャルゲーの主人公達の安全が保障されていたのは、その黎明期である20世紀末まで。
21世紀の今日では、何気にBADエンドとなるケースの方が多いという修羅の道だった事を。
そして、自分がライブで参加中のコレには、当然ながらコンティニュー機能など付いていない。
そう。タ○ガー道場は勿論、教えて○得留先生も高町な○はのエンディング講座も存在しないのである。
もっとも、その亜流が。何となく、日本刀を持った白いガクラン姿の北斗先生とブルマを穿いた桃色髪の少女が出てきそうな気もするが、楽観(?)は禁物だ。
「お待たへ〜」
と、此処で、食事時が迫って来た事もあってか、ウミが帰って来た。
それに合わせて、ラナが通常モードへ。
と同時に、スゥスゥと寝息を立て始める。
その姿に、何となく安堵する。
彼女的にはコッチがツンなのだが、見慣れている事を差し引いても、此方の方が何となく癒されるものが。
とゆ〜か、全然似合ってないのだ。ダークモードだと、第一中学校の制服が。
普段は、この様にタレパンダ状態なので余り目立たないが、何気にボリユームのあるそのボディラインと相俟って、まるで制服プ○イがウリなお店のお姉さんの様………
シュッ
「ゴメン、俺が悪かった。だから、おさげでベアハッグするのは止めてくれないか。ほら、万一人に見られたら色々と困るし」
ギシギシと嫌な音を立てる己の肋骨の音色を聞きながら必死に弁明を。
そんな薄れゆく意識の中、保身の為にも、今後はもっとポーカーフェイスに勤め様と切実に誓うケンスケだった。
〜 同時刻 2199年の某教会の地下室 〜
「(ピッピッピッ)うん。これで良しっと」
親愛なる神父様にナイショで作った己のプライベートルームから、クライアントへの報告を。
無数のサーバーを経由して巧妙にその足跡を消す、これまたナイショの回線にて、それを送信。
この所ずっと掛かりきりになっている仕事の中間報告を終えてホっと一息吐く、シスター言峰。
そう。敬虔なキリスト教徒としてご近所でも評判な彼女の正体は、実は裏世界でもチョッと名の知られた情報屋なのである。
もっとも、シスター本人に言わせれば、それすらも仮初の姿なのだが。
ともあれ、今回の降って沸いた幸運を有効利用し、まんまと調査対象の本拠地への潜入に成功。
マシンチャイルドが組んだと思しき厳しいセキュリティの網を、ご先祖様から受け継いだとある裏技を駆使して誤魔化し、
首尾良く幾つかのトップシークレットを奪取した彼女だったが、その内容は実にコマッタちゃんなものだった。
なんと言うか、余にも荒唐無稽な。明確な物的証拠を上げない限り、歯牙にも掛けて貰えそうも無いヨタ話………
否、これまで自分が顧客にしてきたボンクラ共には、勿体無くて教えたくない様な素晴らしい話なのだ。
そう言った意味では、この秘密を正しく共有出来る今回のクライアントは、シスターにとって正に理想のお客様だった。
そして、今一人、この秘密を横流ししている相手が………
「(クスッ)」
もう一人の。とある金髪のお客様について思いを馳せ、つい口元を綻ばす。
彼女は本当に面白い。
自分でさえ舌を巻く情報通だったかと思えば、知っているのはソレだけで、具体的な全体像が全く見えていない。
そんな、どうにも偏った視点の持ち主なのだがソコが良い。
ああいうタイプには、常識なんて只の足枷に過ぎない。
是非とも、あのまま突っ走り『例の計画』を成功させて欲しいものだ。
自分の祖国では、来年の事を言うと鬼が笑うと言うが、それでも思わず期待せずにはいられない。
何せ、その暁には、速攻で『とある宗教』に改宗するつもりだったりするし。
「さてと」
そんな物思いを一通り巡らした後、シスターは外套を羽織ると何時もの所へ。
本日の糧を得るべく、泰山へと向かった。
尚、蛇足ではあるが、例の勝負は、最後まで生き残った三人(シスター言峰、イツキ、カヲリ)の満場一致により跋さんの勝利に。
よって、今日も程好く辛い方の。麻竦ではなく麻婆豆腐が、イツキと共に彼女を待っている。
〜 同時刻 木連の某道場 〜
「……………以上、シュン提督は、此方の申し出を快く了承してくれました」
「そうか。でかしたぞ、万葉よ」
満足げに頷く、この真刀荒鷹流の道場主こと御剣早雲。
だが、そんな叔父の嬉しそうな態度は、彼女にしてみればカンに触るものでしかなく、
「この際ですから、非礼を承知で言わせて頂きます! ハッキリ言って、今の叔父様は最低です!
手痛い敗北を喫し、色々と鬱屈していたガイを唆して、あの地獄の修行場へ送り出した事までは、まだ理解もしましょう。
剣を取って未だ2年にも満たないアイツに、叔父様ですら断念せざるを得なかった最終奥義を会得させようとしている事も、無茶の極みとは思いますが敢えて口は挟みません。
ですが、ガイの本分を妨げ。例の計画を妨げるが如き事を、此方の都合で一方的に決定するなんて。
叔父様は、いったい如何いうおつもりなんですか!?」
これまで溜まりに溜まっていた憤りが、ついに爆発する事に。
「判っている。確かに、此度の私の企ては卑劣の誹りを受けても仕方のない事だろう。だが…だが、もはや時間が無いのだ」
そんな激昂する彼女の気勢を制する様に、うって変わって沈痛な表情でそう宣う、早雲。
そして、今度の事で半ば根回しが終った事もあって、『もう良かろう』とばかりに、そのままポツポツと事の真相を語りだした。
「お前も南郷めの事は知っていよう」
「えっと。確か、優人部隊の重鎮の一人であり、若い頃は、叔父様の好敵手だった人ですよね。それが何か?」
「『だった』では無い! 今でもアレは私の敵。
否、今となっては、この木連に弓引く逆賊めよ」
「はい?」
話が飲み込めず、面食らう万葉。
それもその筈、叔父が逆賊と称した彼の人物、南郷大佐は今も現役の。
それも、熱血漢揃いな彼の部隊あって尚、一際熱い事で知られるバリバリの木連将校なのだ。
まあ確かに、今でも草壁中将を尊敬している様な発言をする事もあるが、それは何も彼一人に限った事では無い。
寧ろ、現在の木連に上手く迎合出来ず『草壁中将の時代は良かった』と埒も無い愚痴を零す者達に比べれば、その言は充分公平な視点に立ったものとさえ言えるだろう。
何せほら、今の首相ってば舞歌様だし。
「………それ故、此度の雷台祭だけは絶対に負けられんのだ!」
と、元優華部隊ならではの感慨に耽っていた間に、早雲の話は佳境に入り更に熱を帯びていく。
だが、それに反比例する様に、万葉の心は冷めていった。
確かに、これまで通りであれば、雷台祭の優勝者には、木連全土からの絶大な賞賛と共に名誉顧問の役職が。軍部への大きな発言権がもたらされる。
舞歌様の統治下でも、敢えてそれを変更するとは思えない。
それ故、草壁派である南郷殿の息の掛かった者をその席に就けたくないという理屈は判る。
しかし、聞けば聞くほど、そんなものは只の建前としか思えない。
本質の部分は、積年の好敵手である二人の意地の張り合い。
それも、どう考えても、士官学校時代のノリで行なわれる代理戦争でしかないのだ。
機せず後悔の念に囚われる。
今度の事が、そんな馬鹿な諍いに巻き込まれた結果かと思うと、正直、ガイに会わせる顔が無い。
「まあ、そう心配するでない、万葉よ。
無論、そうした心遣いは貴重なものだが、婿殿ならば大丈夫だ。
そう。遅くとも来年の今頃には、お前は木連軍名誉顧問の夫人となろう。もっとデンと構えておれ」
な…なるほど。名誉顧問就任ともなれば、木連での永住権を始めとするこれまでの諸問題が一気に解決する事に………
って、こんなミエミエのエサに引っ掛って如何する、私!
嗚呼、さも訳知り顔でニヤニヤ笑っている叔父様の余裕な態度がまた憎たらしい!
「今一度、言わせて頂きます。今の叔父様は最低です」
「(フッ)それで構わんよ」
万感の思いを込めた一言を軽く流され、何かもうボロ負けした様な気がしてくる。
無論、この道場にガイを引っ張って来た日から、結構期待していたと言うか、
ある意味、半ば自分で描いた絵図面通りなのだが、それでもコレはナイんじゃないかと思うのは、ひょっとしたら我侭なのだろうか?
ともあれ、いよいよ年貢の納め時と言うか、色んな意味で責任を取らなくてはならない事を実感する万葉だった。
木連軍人の性質とは言え、実に男前な結論である。
そして、この数ヵ月後、そうした部分を上手く突かれ、とある足抜け不能な事態に陥る事になるのだが、それはまた別の御話である。
〜 翌日。2015年では午前5時、ゼーレとの謁見の間 〜
弟33次中間報告。それは、予定を数時間繰り上げ、早朝より行なわれた。
委員会メンバーの予定調整の為という話だったが、それが名目だけのものであり、これが只のジャブ。
場の主導権を握る事を目的とした、軽い嫌がらせである事は疑う余地が無い。
どうも、流石のゼーレにも焦りがあるらしく、最近の彼等の行動は、どうにも底が浅い気がする。
それも、碇ではなく自分にすら見透かされる様な体たらく。正直、凋落の跡が既に色濃く出ていると思わざるを得ない。
そんな事を胸中で物思うポーカーフェイスの冬月が控えていた真っ黒な部屋に、突如、光が溢れ、
彼を囲む様に円卓とでも呼ぶべき陣形に、数人の老人達の姿が。
通常ならば、モノリスが映し出されSOUND ONLYとなっているそれに、それぞれの主達が映し出される。
そして、その内の『01』の位置に。冬月の立つ、円卓の中央部から見て真正面に映る議長席の人物。
キール=ローレンツが、バイザーをキラリと光らせつつ、重々しい声で議会の開幕を宣言した。
待つ事2時間。参加の数は総員の2/3ではあるが、いよいよ使徒戦の検証の開始である。
時に、2015年3月29日。弟3使徒サキエル来襲。
『何処からともなく怪獣来襲か。
(スパ〜)ふっ、女房子供に良い土産話が出来そうだぜ』
戦略自衛隊弟61戦車部隊とボナパルト元大佐の率いる国連軍。後のトライデント中隊となる部隊の連合軍が、使徒上陸ポイントにて戦闘を展開。
獅子王中将指揮の下『N2作戦』を決行し、同使徒の足止めには成功するも撃破には至らず。
『シンジ君、死なないでよ』
同日18:00.。使徒、市街地へと到達。
これに合わせ、国連より指揮権を移譲を受けたネルフは、急遽召集された3人目の適格者、碇シンジを初号機に乗せ会戦に臨むも、これに敗退。
「ふむ。こうして振り返ると、これがケチの付き始めだったな」
「左様。だが、順当な結果だったとも言えよう。
聞けば、当時、サードチルドレンは、シンクロ不能だったとか。
まったく。我等が与えた準備期間に、碇めは一体何をやっていたのやら」
流される当時の記録映像を前に、口々に勝手な事を並べ立てる老人達。
敢えて反論はしない。無論、それが許されていないという事もあるが、それ以上に、冬月もまた全くの同感だった。
嗚呼、せめてこの時、あの愚行極まりない出撃を止められていれば、現在の歪な人間関係も今少しはマシなモノだっただろうに………いや、よそう。所詮は只の愚痴だ。
初号機の敗退直後、謎の巨大戦艦が出現。
『私が、悪の秘密結社ダークネスの女幹部、御統ユリカです。ブイ!』
謎の組織ダークネス、全地球政府に対し宣戦を布告。
同組織の人型機動兵器ダーク・ガンガーによって、第3使徒サキエル撃破。
『シベティ、シベティ、シンダラ、バシニ、ソワカ』
使徒戦終結と同時に、人型を基本形とする謎の光球が飛来。
不可思議な舞踊を披露した後、使徒のコアを回収。
「そう。今、最も問題なのはコレだ!
御蔭で、いまだ正常稼働するS2機関のサンプルが手に入らん。
これの。識別名『エンジェル』の行方は、まだ掴めないのか!」
「現在、各諜報機関に手を回し、ローラー作戦で探させている。発見は時間の問題だ」
(フッ)時間の問題ねえ。
そんな老人達のやりとりを前に、思わず胸中にて苦笑する。
どうも彼等は、いまだに自分達よりも格上の存在というものを認められないらしい。
何より、その身一つで瞬間移動する様な相手の居場所を、如何やって特定させるつもりなのだろうか?
あれから半年が経過したにも関わらず、アレよりは場所を絞り易いであろうロサ・カニーナの。
あんな巨大な戦艦の潜伏場所の特定すら出来ずにいると言うのに。
ましてコレは、かくれんぼとはワケが違う。見付ければ捕まえられるというものでは無い。
何かの間違いで発見できたとしても、その場で逃げられるのがオチだろう。
その辺、捜索の担当者達は如何考えているのだろうか?
同病相憐れむ。チョッピリ同情を禁じ得ない冬月だった。
同年4月20日。弟4使徒シャムシエル来襲。
『よっしゃあ、いくわよ!』
同日13:00.。使徒、市街地へと到達。
これに合わせ、ネルフは急遽選抜された4人目の適格者、葛城ミサトを初号機に乗せ会戦に臨むも、これに敗退。
「いやはや。前回と異なり良く動いてはいるが………その結果がコレでは、いっそ動かない方が、周囲への被害が少ない分マシだったかも知れんな」
「左様。如何に唐突に作戦部長が不在となったからと言っても、この失態は酷過ぎる。
後任者は一体何処まで無能なのかね? 無策のまま特攻させるなど愚の骨頂だよ、君」
それは『元』作戦部長が勝手にやった事。
そう言いたいのをグッと堪えてスルーする。
そう。先はまだまだ長いのだ。
同年5月20日。弟5使徒ラミエル来襲。
攻守共にパーフェクトな空中要塞とも言うべき同使徒に対し、さしものダーク・ガンガーも初の敗退を喫する。
『そんな、ミスったの!?』
同日19:00。作戦部長兼初号機パイロットたる葛城三佐(当時は一尉)の提唱により、ヤシマ作戦決行。
同時に展開中だったダークネスの作戦行動。
トライデント中隊による波状攻撃を隠れ蓑として利用し、戦自より貸与された陽電子砲による砲射を試みるも、
計六発の何れもが有効打とはならず。途中、電力切れによりリタイヤ。
『弾丸鷹嘴撃!』
次いで行なわれたダークネスによる作戦の最終段階。
修理を終えたダーク・ガンガーを装填した後、それを超音速の弾丸として打ち出す新兵器によって、ラミエルを撃破。
「この時点で三連敗。それも、敵の戦力を利用してなお、この様かね。情けない」
「左様。しかも、この折のエヴァ二機の改修代。
特に、装甲部分を全面改装する事となった零号機のそれは、国が一つ傾くよ、君」
「おまけに、この折、変電所をジャックしたマッハ・バロンなる道化者の存在とて無視出来ないものがあるねえ。
ふざけているとしか思えぬ格好だが、その白兵戦能力は正直異常だ。
いまだシッポを掴ませぬ、我がゼーレに弓引く愚かなる反逆者。
識別名『カイン』との関係者。或いは、その本人という事も考えられる」
此処で、老人の一人がチラッと此方を見るが、敢えて気付かないフリをする。
確かに、半年ほど前からアレコレと愉快犯的な事を繰り返しては、第三新東京市のタブロイド誌を賑わしている件の怪人は勿論、
一年程前より、各地で神出機没なテロ活動を繰り返している、謎の敵対勢力を捕らえる事さえ造作も無いと思われる絶対的な切り札が、此処ネルフ本部には存在する。
だがそれは、此方を破滅させる可能性をも多分に含んだ、触れてはイケナイ禁断のジョーカーなのだ。
これまで勝ち残ってこれたのは、偏に葛城博士の忘れ形見の信じ難い豪運の賜物。
少なくとも、自分からそれを引く気など、冬月には欠片も無かった。
また、だからこそ、老人の側も敢えて『ヤレ』と明言はしなかった。
我等が作戦部長じゃあるまいし、そんな真紅の羅刹の逆鱗に触れる可能性を秘めた。
あたかも、実弾入りのリボルバーでロシアンルーレトでもやるかの様な真似など願い下げというのが、彼等の偽らざる方本音だった。
同年6月14日。弟6使徒ガキエル来襲。
『ちょ…止めなさいアスカ』
『うっさい! 負けてられないのよ、アタシは!』
この初の海上戦に、2人目の適格者、惣流=アスカ=ラングレーが弐号機にて挑むも、
海中戦を想定されていないB型装備という事もあって、結果は惨敗に。
また、この際に、弐号機は完全に大破。
葛城ミサトとのダブルエントリーに関するデータも同様に失われる。
「そして、惣流=キョウコ=ツエッペリンの魂もまた永遠に失われ、我々は生贄の子羊の一人を失った訳か。
あの娘の養育に。セカンドチルドレンに仕立て上げる為に掛けた費用の額を考えるに、何とも頭の痛い事だな。
役立たずめが。碇と言いコヤツと言い、とんだ無駄金を使わせてくれるわ、まったく」
「左様。とは言え、所詮はあの能無しなラングレーの娘。
メッキが剥れれば、こんなもの。期待するほうが誤りだったのであろうよ」
さも忌々しそうに、口々に毒舌を吐く老人達。
その後のアスカの活躍を無視した言動だと思われる向きもあると思うが、彼等にとってはコレが正しい彼女への評価だったりする。
そう。問題なのは、人類補完計画の成否のみであり、使徒戦など『使徒を倒した』という結果さえ出れば、その経緯など如何でも良い話。
ぶっちゃけ、老人達にしてみれば、計画の依り代候補の一人が失われた事の方が遥に重要な案件なのだ。
同年6月25日。弟7使徒イスラフェル来襲。
初の分離、相互補完能力を有し、その圧倒的な回復力をもって相対した零号機と初号機を翻弄。
ネルフ作戦部は、現時点での使徒撃破を断念。戦略自衛隊に指揮権を移譲しN2爆雷投下による時間稼ぎを依頼する。
『『『『なんてインチキ!』』』』
同年7月1日、同使徒と再戦。
元セカンドチルドレン発案による、二体のエヴァによるコアへの同時攻撃が試みるも、これが失敗。更なる分身を促す結果に。
この際、ダークネスよりダーク・ガンガーの亜流と思しき二体の機動兵器が参戦。
臨時に共同戦線を張り同作戦を続行するも、使徒は更に7体に分離。
と同時に、7体揃っての強力な超音波を開始。
最終的には、その陣形を逆手に取り、タンデム搭乗が可能とした新兵器『ホーミングショット』によりイスラフェルを撃破。
「(フン)御膳立てして貰った御蔭で、漸く勝てたといった所だな」
どうにか及第点を取った出来の悪い生徒を評す減点主義の教師の様な、半ば貶す口調。
それでも、多少は空気が和んだ気がする。
だが、それも束の間の事。
次の映像が映し出されると同時に、老人達の顔は苦いものに。
今度は、ピンと張り詰めた重苦しい雰囲気が立ち込め出す。
まあ、それも無理からぬ事だろう。
何しろ現在の彼等の苦境の7割は、次の使徒を切欠とするものなのだから。
同年7月14日。浅間山にて弟8使徒サンダルフォンが発見される。
ネルフはA−17を発令。D型装備による初の捕獲作戦を決定する。
『お茶の間の皆さん、お待たせしました。
悪の秘密結社ダークネス女幹部見習い、春待ユキミ只今参上です。ブイ!』
作戦開始直前、ダークネスによる介入が。
新兵器トライデントΓ改EXの攻撃と同時に、サンダルフォン、火山内にて羽化。交戦状態に入る。
『でや〜! 必殺、スカーレット・トマホーク!!』
『えい(プス)』
トライデントΓ改EXに追い立てられ、使徒、噴火口より地上へ。
同小隊による足止めの間隙を狙い、エヴァ初号機と零号機の連携によりサンダルフォン撃破。
『……………』
これまで率先して不平を並べていた者も含め、誰もコメントを入れようとせず、暫し、時ならぬ沈黙が場を支配する。
そう、この速攻な使徒戦の終結。
それに伴うA17の。資産凍結の即時撤回は、ゼーレにとって余にも大きな痛手だった。
事実、今回の会議に出席していないメンバーの中には、彼等のアイデンティティである絶対者の地位から転げ落ちようとしている者さえ出ている程だった。
とは言え、この件で八つ当たりを。冬月を糾弾する様な真似はしない。
何故ならば、捕獲の決定を下したのは委員会の方だからだ。
そう。現代における支配者という名の椅子は、生まれながらに与えられるものでは無い。
完全実力制による、数多のライバル達の血によって紅く塗装された朱色の玉座。
そこに、世襲制による血統支配等という甘ったるいものが。
中世の王侯貴族の如く、癇癪持ちの子供染みたメンタリティーが入り込む余地など皆無。
それ故、選民思想に凝り固まっている彼等ではあるが、その言動は、あくまでもキチンと計算されたもの。
間違っても、そんな不条理な感情論を振りかざす事はあり得ないのである。
従って、この沈黙は、別に仲間の不幸を悼んでの事ではない。
あくまで、激減してしまった自らの財布を慮っての事。
そして、忌まわしき逆賊、マーベリックの台頭によって、絶対者である筈の自分達の支配が及ばぬ国が更に増えた所為である。
今はまだ、本社のある日本の一部地域と、金銭的及び技術的面での多大な支援に釣られ、侵略者であるダークネスに降伏しその支配下に入った愚かな発展途上国だけだが、このままでは………
同年7月22日。弟9使徒マトリエル来襲。
『『トライデント・クラッシャ〜ア〜〜〜!!』』
奇しくも戦自によるジオフロントへの破壊工作により、第三新東京市はその機能を完全に停止中。
ネルフ側が使徒戦に参加出来ない中、ダークネスの新兵器によってマトリエル撃破。
「まあ、コレに関しては多くは言うまい。
現時点でのネルフへの大規模な破壊工作等、我々ですら想定外の事態だったからな」
「左様。事なかれ主義な日本政府らしからぬ大胆な一手。
正規部隊を多数投入してなお秘密裏に。確固たる証拠を掴ませなかった手際も中々のもの。誰ぞ、裏面にて唆し、その指揮を執った者が居るやも。
これを教訓に。後顧の憂いを経つべく、今の内に”処分”をしておいた方が………」
「そ…それには及びません!」
と、その不機嫌さも相俟って、大分きな臭くなってきた老人の言を、冬月は強引に遮った。
相手が相手だけに、少なからず危険な行為であるが背に腹は代えられない。
そう。ネルフ本部は、人を駒と割り切り、利用出来るものは何でも利用する。
それを躊躇いなく実行出来る、あの外ン道な男が作った箱庭なのだ。
『有能でありさえすれば、それ以外は総て二の次』という、どこかの大会社も真っ青な採用基準の下、
スネに傷どころか、『私はスパイです』と看板をブラ下げている者さえ少なくない。
しかも、そういうヤツに限って妙に有能だったりするのだ。
そんな彼等を粛清する等、正に一利の為に百害をもたらす行為。
只でさえギリギリの所で運営している言うのに、今、そんな真似をしたら致命傷になりかねない。
「ほう。それはまた豪胆な」
「良いのかね。次に同じミスをしたなら、相応の責任を取って貰う事になるよ、君」
「む…無論です。現在、総ての各種回線を、内部破壊工作を念頭に置いたものに設計変更している所です
同様の問題は今後、発生することはありません」
老人達の嫌味にもメゲず、一抹どころではない多大な不安を強引に押さえ込みつつ、そう断言する冬月。
ちなみに、どこかの無精髭の遊び人はと言えば、コッチでの仕事は完全にほったらかしな状態。
ひょんな事から再会(?)した某馴染の女博士から聞いた、無駄に裏事情に通じた世間話から推察するに、
毎日の様に、日本内務省調査部とマーベリック社のオフィスとを往復で日参中。
その双方の受付に座るグラマスな美女達を口説くのに忙しい日々を送っているらしいが、これはもう本気で如何でも良い話である。
同年8月20日 死海文書に記載されていない謎の使徒来襲。
伍号機の軌道実験の為、奇しくも居合わせていたサードチルドレンが同機体を駆り迎撃にあたるも、同使徒の怪光線を浴び沈黙。
その際、その後遺症によって少女化する事に。
『元に戻るんだろうな、コレ?』
同年8月25日、同使徒と再戦。
『くたばれ〜〜〜っ!』
サード・チルドレンの奮戦により、初のネルフ単独による使徒撃破に成功。
しかし、同チルドレンの異常は修復せず。以後、経過を観察中。
「(フム)悪くないな」
「然り。イレギュラーな物が相手とはいえ、充分賞賛に値する戦果だね」
「早急に、今の様な曖昧な立場を如何にかしたまえ。
アレは今後使徒戦のエースとなり得る。碇の子とは思えぬ有為の人材だよ、君」
と、ややソワソワとした口調で、シンジの正規加入を促してくる老人達。
無論、彼等が頭ごなしに命令しないのは、前述した通り、単にそのバックが怖いからである。
とは言え、簡単に引く事も出来ない。
何故なら、今後の使徒戦での勝利の鍵となる人材だから………ではなく、老人達にとって、今やサードの肉体は宝の山。
彼等が欲して止まない、不老長寿の妙薬となり得る可能性を秘めているからである。
そう。命じた当人である黄司令は、恩人を救うべく必死だったが故の事だったが、
当時、サードの治療にあたった医師達によって、細大洩らさぬ完璧な身体データが記録されている。
その項目の一つを信じるのであれば、彼女の肉体は生活反応レベルでの劣化を全く見せない状態。
無論、長期に渡ってデータを取らねば何とも言えない部分が数多いが、ぶっちゃけ不死身っぽい。
……………いや、これは言葉のアヤと言うべきか。
実際、各種データを見る限り、サードは決して不死ではあり得ない。
真紅の羅刹に鍛え上げられている拘らず、チョッとした事でアッサリ死にそうな。
まるで深窓のお嬢様の様な体力しかない、お世辞にも頑丈とは言えない脆弱な肉体でしかない。
だがそれでも、その老化が極めて緩慢であるという点は、老い先短い身としては極めて魅力的な固有スキル。
補完計画という希望が無ければ。否、サードが貴重な依り代の一人で無ければ、今すぐにでも徹底的に解剖して、その秘密を調べたい所である。
もっとも、シンジのこの現象は、使徒を内包する事でS2機関を。
命の実をその身に宿した、所謂、神話の時代の人間と化しているからであって、只の器に過ぎない肉体の方を幾ら調べても全くの無駄なのだが。
そう。だからこそ、あのイネス=フレサンジュ博士が、こんな美味しい話しをほったらかしに。
『つまり、私の管轄外の話なのね』とばかりに、この問題をカヲリに丸投げしているのである。
また、ついでに言わせて貰えば、この件において怖〜いバックは、北斗やカヲリだけではなかったりする。
もしも、お母さんが本当に命の危機に晒されれば…………
賢明なる読者諸氏ならば、もう判りますよね?
同年9月3日。第10使徒サハクイエル来襲。
成層圏よりATフィールドによる爆雷を落下。着弾位置によるデータ収集を。
『って、なんじゃそりゃあ!!』
その全長、なんと25、374m。
過去類を見ない最大の使徒を前に、再びダークネスと共同戦線を張る事に。
『ターゲット・ロックオン!』『了解、ジャンプ!』
『いっけ〜〜〜え! ホーミング・ショット!!』
ロサ・フェティダの支援を受けたスーパーダークガンガーの連続テレポート攻撃と、
初の三人搭乗によって実現したエヴァの新必殺技により、36個のコアを総て貫き、サハクイエル撃破。
「拙い。これは実に拙いぞ」
「左様。ダークネスのそれは元より、此方の手札もまた余に強力過ぎる」
「まして、それを操るのは、あの葛城三佐。これは実に由々しき事だよ、君」
まったくもって、ごもっとも。
思わずそう頷きたくなる。
そう。遂に確立した此方の必勝体制とも言うべき、三人搭乗による例の必殺技は、超長射程かつ超音速で正確無比と三拍子揃った。極論すればICBMの様な物なのだ。
ATフィールドでコーティングされているので、迎撃レーザーで打ち落とす事も出来ず、
また、核汚染の心配も無い上に、威力も高威力かつ極地的とスマートな。正に理想の戦略破壊兵器。
そして、そのトリガーを握っているのが、何処かの将軍様よりもフェザータッチな、かの葛城三佐。
ゼーレの面々でなくても、文句の一つも言いたくなる。
思わず顔色を失うシュチエーションだろう。
「兎に角、せっかく伍号機を其方に回してやったのだ。上手く有効活用したまえ」
「左様。二機では出来なくとも三機ならば出来る事も多々あろう。
敵の兵力が測れぬ状況おいては、持てる最大の戦力をもってあたるのが戦略の定石だよ、君」
「判りました。日向君にはその様に伝えておきます」
なまじ有効な手段であるが故に、老人達も表立って禁止する訳にいかない。
冬月自身もまた同じ事。まさか、ミサトの『うっかり』が怖いという理由で、折角の必殺技を『使うな』とは言えない。
この辺、双方共にツライ所である。
同年9月23日。弟11使徒イロウル来襲。
ネルフは、初の本土決戦を強いられる事に。
「使徒によるネルフ本部へ侵入か。
これもまた拙いぞ。明らかに早過ぎる」
「左様。ましてや、セントラルドグマへの接近を許すなど、あってはならない事。
この失態の責任を、如何取るつもりなのかね、君」
先程の一件が不完全燃焼のまま終った事もあって、更なる追求の声が。
それを受け、思わず声を詰らせる。
そう。使徒侵入からその撃退までの一部始終は、例によって全世界へと放送されてしまっているのだ。
従って、正史における某司令の如く、『その報告は誤報です。使徒侵入の事実などありません』といけしゃあしゃあとハッタリをかます訳にもいかない。
色んな意味で“詰み”な状態。
少なくとも、これを上手く凌ぐ術が、彼には思い付けなかった。
進退窮まる冬月。と、その時、
『先生をイジメるのは、その辺にしておいて貰えないかしら』
場の空気を読んでる様で、その実、頭から無視して。
窮地に立つ彼を救う(?)形で、赤木ナオコ(M)が、呼ばれもしないのに現れた。
「どういうつもりかね、赤木君?
我々は、君の本会議への参加を。ましてや、発言を許した覚えなど無いのだがね」
「然り。この場は、君の居て良い場所では無い。
如何にしてこの回線への侵入を果したのかは問わぬ故、疾く去りたまえ」
『え〜ん。怒ちゃいや〜ん&hearts』
「「「ふざけるのは止めたまえ」」」
と、思わず声を揃えてそう絶叫するも、絶対者たるゼーレの面々をして、それ以上の事は出来なかった。
何せ、処罰しようにも、今や相手はMAGIの化身。簡単には手を出せない。
また、サードそれ程では無いが、イザという時の保険として期待していると言うか、
『己もまた自身の記憶をコピーし、その後釜に』という下心もある故、彼女との仲は、あまり拗れさせたくない。
そんなこんなの裏事情から。
更には、絶対的な階級世界に生きてきた彼等にとって、赤木ナオコのこの言動は、色んな意味で未知のものだった事もあり、完全にペースを乱される事に。
「五十も過ぎたイイ歳をして、恥かしくはないのかね」
「左様。何より、この場でのその様な態度は死に値するよ、君」
「残念でした。私はもう、4×歳から先は歳をとらないの。
そう。ドリームランドで暮らす方を選択したウ○ンディなのよ」
「馬鹿な! トウが立ち過ぎだろう、幾らなんでも!」
「然り。全世界のピー○ーパンファンに喧嘩を売る気かね、君は!」
かくて、普段のドライスティクな判断能力を奪われ、済崩しに。
神聖不可侵な筈のゼーレの会議は、罵詈雑言の飛び交う泥沼な展開に突入。
総ては有耶無耶の内にタイムアップとなった。
〜 数時間後。午後五時、ネルフ本部司令室。 〜
と、そんな事があった所為か、その日、冬月は何時もに増して鬱だった。
「(ハア〜)」
思わず溜息が零れる。
早朝から八時間以上に渡って、使徒戦の検証会という名目にてゼーレのお歴々より小突き回され、ほうほうの体で帰ってきてみれば、
待っているのは書類の山の乗った己のデスクのみ。
いきおい、暗澹たる気分にもなろうというものである。
「失礼します」
そこへ、更なるトラブルの種が。葛城ミサトが入室してきた。
だが、何やらその様子がおかしい。
この半日、記録映像で散々見てきた勇姿(?)とは似ても似つかない。
これまで、良くも悪くも使徒戦の現場を引っ張ってきた、あの独特の覇気が感じられないのだ。
いぶかしみつつも、提出された書類を受け取ると、入ってきた時と同じ棒読みな口調で退室の挨拶を。
その後ろ姿もまた、何やら力無いと言うか、何時ものダルそうな態度ともまた何かが違うと言うか…………
「(フム)どうしたのだろうね、葛城君は?」
何となく、そう語散る。
保護者である赤木君(リツコ)辺りに訪ねれば、その理由も判るのだろうが、生憎、そこまでして知りたいとは思わない。
とゆ〜か、知らぬが華な様な気がする。
と、冬月が胸中でスルーを決め込んだ時、先程の独り言に応える形で、
「ああ、アレなら心配無用よ。
某酒造メーカーが、ミサトちゃんにとってチョッとショックな決定を発表しただけだから」
卓上電話のディスプレイに赤木ナオコ(M)登場。
「と言うと?」
「えっとね。昨日付けで唐突に、エビちゅの値段が一本辺り30円も上がったんですって」
その答えに、眩暈を覚えると共に何となく納得する。
これまで漏れ聞く武勇伝の数々が事実ならば、あの生きる希望を見失った虚ろな瞳もむべなるかなだろう。
とは言え、これは何もミサト一人の問題では無い。
そう。此処半年程の間に起った使徒戦の所為で。
特にラミエル戦において、主要道路の一つが完全断線した所為で、第三東京市と他の都市を繋ぐ交通網が慢性的な麻痺状態に。
その煽りを食って。ついでに、中東の某国との石油問題の肩叩きで、他所からの輸入に頼っている食料品関係の値段が軒並み急上昇。
これまで概ね定額を保ってきた、スナック菓子やインスタントラーメン系に加え、
味噌、醤油、ソース、マヨネーズといった調味系もまた、その神話を崩される事に。
ジュースの自販機に至っては、何気に観光地用の価格設定になっていたりするのだ。
無論、戦時下の戦地の物としては、それでもなお驚異的なまでに良心的な価格設定なのだが、
そこで暮らす者にとっては、正に痛恨の極地的インフレ現象。何とも頭の痛い事である。
『う〜ん。その辺は、『気にしたら負け』ってヤツだと思うわよ』
「私としては、『放任したら負け』だと思うのだがね。立場上」
ナオコ(M)のお気楽なセリフに、思わずそう突っ込む。
長年一人身故、実は教職時代は家事経験豊富だったりする所為か、わりと上位の支配者層でありながら、この手の感覚は庶民的な冬月だった。
「いや。翻って考えるに、寧ろ君が気にするべき内容ではないのかね、こういう事は?」
「(チッチッチッ)その辺、チョッと違うわね。私は『母としての人格』であって主婦じゃないもの」
さよけ。
「そんな事より、少しお休みになった方が良いんじゃありませんか?
何しろ、今日はもう、あんな理不尽な目にあった事ですし。
正直申し上げて、先生の方がミサトちゃんより重傷っぽいですよ」
「いや、そう言われてもねえ」
と、デスクに鎮座する書類の山を横目でチラリ見つつ、そう述懐する。
だが、それに構う事無く、
「良いから、今夜は羽根を伸ばしてきて下さいな。
ソッチは私が纏めて、決済印を押すだけにしておきまから」
「ナ…ナオコ君」
思わず涙が零れそうになると同時に、ナオコ(M)が母性の象徴である事を実感する。
実際、生前(?)の彼女に、こんな優しい言葉を掛けて貰った事なんて、当然の如く皆無だし。
「判った。それじゃ、お言葉に甘え、今日はもう上がらせて貰おうか」
そんな感動を胸に秘めつつ、いそいそと帰り仕度を始める冬月。
と、此処で終れば、チョッとイイ話だったのだが、
『とうとう見つけたわよ、母さん!』
狭いワンセグ画面に割り込む形で、かなりご立腹モードな赤木リツコ登場。
「な…なんて事をするのよ、リッちゃん。
直属の上司の専用回線をハッキングした挙句、いきなりの切り口上で。
母さん、貴女をそんな無法者に育てた覚えは無いわよ」
「育てられた覚えは無いし、いきなり此処に出たのだって、母さんが普通じゃ入れない様な秘匿回線の間を逃げ回っていた所為でしょうが!
それより、一体如何いうつもりなの、私名義の預金を勝手に引き出すなんて!
こんな事は、ミサトでさえまだやった事の無い暴挙よ!」
「え〜っ。イイじゃない別に。どうせ死蔵しているお金なんだし。
ってゆ〜か、階層社会において、富める者は富める者らしく、その所得に応じた消費をするべきなのよ。
いっそ、これは高額所得者の義務と言っても良いわね。
何故なら、富裕層の動かせる金額は、庶民のそれとは桁が違うもの。
つまり、個人が持つ一人辺りの経済効果が全く違うってこと。
だからこそ、それを使わなくてはいけないの。
そう。経済とは巨額のお金を動かしてナンボのもの。
それを溜め込んで出し惜しみするなんて個人のエゴ。資金の流れに動脈硬化をもららす害悪なの。
極論するならば、漫画に出てくる様な大金持ちのボンボン。
あんな感じに、湯水の如く金を使うアレこそが、金持ちの正しい姿なのよ。
ああいう多大な資金投入が経済を活性化し、また、その無理難題が先端技術の発展に寄与するの。
嗚呼、中○家よ。面○家よ。南○家よ。三○院家よ。張家よ。
正しいお金の使い方を知る、真の大富豪達よ。ビバ、格差社会」
「……………で、それがネットオークションで『限定版DVD、石原裕○郎全集』を落とした。
他の参加者とは桁の違う。ミサトの乗り回している様なスポーツカーが新車で買えそうな金額を突っ込んだ理由なの?」
『うん&hearts』
その後、何が起ったかは、冬月は知らない。
そう。彼は、ナオコの意味不明な口上が始まった辺りで、その場から逃げ出していたのだ。
後はもう、野となれ山となれである。
〜 午後10時、居酒屋『魚住』 〜
そんなこんなで、久しぶりに接待以外の席で一杯。
いつもの形ばかりに口を付けるだけの酒席ではなく、純粋に酔う為に飲みに来た冬月だった。
ヒヤのコップ酒。何故かコレが、どんな高級酒よりも美味く感じられる。
突き出しとして出された物を含めて、肴の方も実に美味いし、価格も良心的。
それを切盛りする矢鱈と長身な店主もまた、パッと見はコワモテだか慣れれば愛嬌があると言うか、客を寛がせる何かがある。
適当に飛び込みで入った居酒屋だったが、どうやら、かなりアタリを引いた様だ。
笑みが零れる。京都での教職時代に培ったこの辺の嗅覚は、まだまだ捨てたものではないらしい。
だが、そんな彼の上機嫌も長続きはしなかった。
そう。上等過ぎるのだ、此処のもてなしは。悪魔に魂を売った自分には。
思わず考えてしまう。ユイ君に一目会う為だけに、こうした数多の小さな幸せを踏みにるであろう己の業の深さについて。
そして、無性に誰かに尋ねたくなる。『どうして、こんな世界になったんだろう?』と。
だが、唯一、それに答えてくれそうな男はと言えば………
ガラッ
と、その時、店内に新たな客が。
店主ほどでは無いが充分に長身な。三十絡みと思しき、銀縁眼鏡を掛けた痩身の男が入って来た。
「らっしゃい」
「冷酒を」
外観的で損をしているタイプの店主のそれとは違う本質的な仏頂顔で注文を出すと、ことわりも無く隣りの席へ。
そのまま、当然の様に、自分の前に置かれた焼き鳥と枝豆をチョイチョイ摘み出す、眼鏡の男。
梯子の末に既に溺酔しているが故の暴挙かと思ったが、顔色を見る限りそうした兆候は見られない。
つまり、素でこんな図々しい事をやっているらしい。
何となくデジャブーが。
そう。何故か知らんが、自分はこのイヤな奴を知っている気がする。
「お久しぶりですね、先生」
「…………まさか、いか(パシッ)じゃなくて、六分儀か!?」
咄嗟に口元を押さえ修正。本名で呼ぶのも拙いと判断し、旧姓の方に言い直す。
只の気休めだか、やらないよりはマシだろう。
「お前、その格好は如何した? それに、何かまともな言動だし? 何か悪いものでも食べたのか?」
「…………半年振りに。それも、ああいう別れ方をしての再会だというのに、最初に尋ねる事がそれですか?」
「五月蝿い。お前が勝手に居なくなった後、俺がどれほど苦労したと思ってるんだ」
何故か学生時代の様な。曲りなりにも此方に敬意を払っていた頃の様なゲンドウの言動に、思わず当時の様な対応で。
その肩を叩きつつ憎まれ口を叩く、冬月。
「それについては後程。
まずは、此方に目を通して貰えますか」
後で振り返るに、コレが狡猾な罠だった。
そう。都合が悪くなると、自分を『先生』扱いするのだコイツは。
そして、駄目押しだったのが、ヤツより手渡された小さな手帳。
老眼の進んだ自分にはやや読み辛い、ビッシリと書き込まれレポート形式の計画書。
それは、10年前に聞かされた悪魔の囁き。
『人類補完計画』以上に魅力的な、更なる姦計だった。
「(ゴクゴクゴク………クハ〜)判った。お前の計画………じゃなくて新事業に手を貸そう」
数時間後。世間話を装って、幾つかの質問を。
『ゲンドウを取巻く現在の状況』
『今後のネルフの方針と自分の果すべき役割』
『心ならずも密約を交す事となってしまった、マーベリック社との対応』
『特に警戒が必要な事態や人物』
その他諸々のついて聞きだした後、冬月は苦い杯を飲み干すと共に、10年前のあの日と同様、再び悪魔との契約書にサインをした。
そう。今更、引く気など毛頭無い。毒喰らわば皿まである。
まして、喩えどんなに頼りない。葛城君の立てる作戦よりも低い成功確率とは言え、
僅かなりともユイ君が帰って来る可能性がある以上、彼にしてみれば是非も無しである。
「それで、最初の質問に戻るが、その格好は如何したんだ?」
「いやに拘りますねえ」
「拘らいでか」
何せ、何処から見てもヤクザか変質者だった男が社界復帰して。
それも、実年齢より十歳以上も若返って見えるのだ。
気にならない方がおかしいと、冬月的には声を大にして言いたい所である。
「実は、向こうの体制とて、決して一枚岩では無いらしくて、私に手を貸してくれる勢力が現れましてね。
そのツテで、コッチへの潜入用に、俗に言う所のプチ整形を。
で、そのついでに、出来るだけ若作りをしてみたという訳です。
いや。何せ、来年の春からは29歳の妻と14歳の娘と一緒に暮らすつもりなのでね。暢気に老け込んではいられんのですよ」
「それじゃ変装の方がついでだろうに。やり口が汚いぞ、六分儀」
ゲンドウの身勝手な物言いに、思わずそう突っ込む冬月。
「(フッ)今更ですよ、先生」
「(フッ)確かにな」
機せず笑い合う形に。
嗚呼、まさか碇との間に、こんな心の交流ぽいものが生まれる日が来ようとは。
長生きはするものかも?
そんな疑問符を付けねばならない所がミソな微妙な感覚だ。
と、その時、
ガラッ
「そこまでだ、碇ゲンドウ!」
既に暖簾を下ろした店の入口から、アメコミから抜け出したかの様な姿の。
今回は、監視の目を潜って逃亡中である凶悪犯を追って来た、マッハ・バロンその人が。
かくて、庶民の憩いの場所である筈の居酒屋が、一気に捕り物の場に。
「(チィ)」
突然の追っ手に、舌打ちをするも冷静に。
ゲンドウは、『こんな事もあろうかと』カヲリにダダを捏ねて用意して貰った護身用の煙玉を投擲。
狙い違わず、それは未だ名乗り上げの真っ最中だったマッハバロンに直撃を。
「(ゲッホ、ゲッホ)」
マヌケにも煙を吸い込み悶絶するマッハバロン。
そこへ、間髪入れず、その背後より金属バットで、
ドカ、バキ、グシャ………
殴る、殴る、殴る、更に殴る。
常人なら間違いなく即死なくらい、よ〜しゃなく殴る。
そして、流石の正義の味方も、そう簡単には復活不能となった事を見て取った後、
「(ハアハア)という訳で、俺はそろそろ帰らねばなりません。(ハアハア)先生、後は頼みます」
歳の所為もあってか流石に荒い息を吐きつつ、そう言い残して立ち去ろうとするゲンドウ。
そんな彼に向かって、冬月は最後の確認を。
「始まったんだな、新しく」
「ああ。総てはこれからだ」
振り返る事無く。
だが、かつてと同じ口調で、ゲンドウは力強くそう言い切った。
かくて、ゲンちゃん&コウちゃんの新たな戦いの幕は切って落とされた。
某天使:本当にコレで宜しかったんですの? しかも、皆様にはナイショでこんな無茶な策を。
某提督:ああ。皆には理解し難い話だからな。
ナニ、心配はいらんよ。これは、あくまで俺の独断によるもの。君にまで類が及ばない様にするから。
某天使:あら、水臭いお話ですわね。
私とて共犯者の一人。この件の責任を取って、最後に裁きの席に着く位の覚悟は既に固めているつもりですのに。
某提督:……………いつもながら、君には苦労を掛けるな。
某天使:(クスッ)それは言わない約束ですわよ。
次回予告
友人が次々と結婚して行く中、1人焦りを感じるミサト。
このままでは引き出物を配る事なく、コレクターに終始してしまう。
マジにゲロ不味な状況下。
残された20代すらも後わずかしかない。
30への大台へのステップを着実に踏みしめている事実。
果たして、加持との再会は彼女に与えられたラストチャンスなのか?
次回「嘘と真実」
ミサト、ボケに走るが本能か。
あとがき
Actionへの投稿前夜、花屋の娘として育てられた美少女○○○○は、でぶりんと名乗りキーボードを取って戦う。
しかし、彼女は自分の作品が、おもいっきり浮いている事を全く知らなかった。
『でぶりんを殺せ〜! 殺せ〜!』
ボオオオ〜(炎が燃え上がる効果音)
え〜とわ〜る、でらすぺ〜ん
…………今回はもう、全くシャレになってませんね。(汗)
またまた、とってもお久しぶりとなってしまい、もはや下げるべき頭も磨り減り禄に残っていない、でぶりんです。
正直、このまま、半年、一年、二年、四年、十年とドンドン投稿間隔が伸びそうで、自分で自分が怖いです。
しかも、またまた公約破りです。
そう。今回、夢の島よりも豊富なストックを誇る、これまでの作品の誤字脱字&矛盾点を修正をする筈だったのですが、
いっそ見事なまでに玉砕。現時点では不可能という結論に達しました。(泣)
嗚呼、あの当時の事は思い出すだけでも震えがききます。
何せもう、序章の修正を2/3位やっただけで一ヶ月近くも掛かっちゃたですよ、コレが。
そんな訳で、この件は一時棚上げに。
今回の目玉企画にと考えていました本作品の無駄に多い登場人物の一覧表共々、最終回を迎えてからにする事にしました。
どうか御容赦下さいませ。(ペコリ)
さて。(コホン)本編の方なのですが、此方の方は、もはや語るまでもありませんよね。
そうです。ゲンドウと使徒娘が主役の、本編とはほとんど関係の無い完全な馬鹿話です。
しかも、需要も無いのに、ライトノベル並に豪華(?)挿絵付き。
正直、色んな意味で、やってて死ぬかと思いました。
こんなアホな事は二度とやりませんので、どうか今回だけは見逃してやって下さいませ。(土下座)
………と言いつつ、その舌の根も乾かぬうちに更に馬鹿な事をする事に。
そうです。今回のオマケは、危険過ぎて本編では使えなかったネタの寄せ集めだったりするんです。(泣笑)
すみません。おもいっきり時間の掛かった物だけに、完全ボツにするには忍びないんです。
どうか、広い心でお目溢しを。通報だけは御勘弁下さい。(再土下座)
それでは、もったいなくも毎回御感想をくださる皆様に感謝すると共に再びお目にかかれる日が来る事を。
そして、今度の事で作家生命が断たれない事を祈りつつ。
PS:何気にミサトも(本編では)皆勤賞♪
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代理人の感想
・・・・まぁこの点に関してはフォローの仕様がありませんねぇ。
私も結構頑張って修正させてもらってるんですが。
まぁこちらからは頑張ってくださいとしか(爆)
とりあえず「シュチエーション(誤)」「シチュエーション(正)」と「シュミレーション(誤)」「シミュレーション(正)」あたりはよくある誤字だけに意図して避けた方がよろしいかと(本編修正済み)。
しかし結構強いな外ン道。一応パワードスーツ着てるサイトウをあっさりと沈めるとは。w
腕っ節はさっぱりだと思ってましたが、凶器を使えばこの程度の打撃力は出せるのか。
・・・・突っ込まないぞ、冒頭の寸劇については絶対突っ込んでやらないぞ。
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