ミューテーション―――

日本語では突然変異。この言葉は簡単に言ってしまえば変化を意味する言葉と言えるだろう、その範囲は科学的なものを始めとして様々な分野に及んでいる。

例えば、生命の進化がある。

本来、人類を始めとする生命の進化とは、連綿と続く進化の系譜をゆっくりと一歩一歩、歩んで行くものである、だがその過程を全てスッ飛ばして一長足に飛び越え、それまでとは全く異なった姿の生命が表れることがある、これが進化における突然変異である。

他にも複数の薬品を混ぜ合わせてある薬品を調合する場合などでも、その場の気温や室温と言ったような何らかの外的要因が加わったために本来完成するべき薬品とは全く異なったベツモノができてしまう場合がある、このような場合も突然変異と呼ばれている。

つまり突然変異とは、僅かな時間で本来起こりうるべき変化でとは異なる急激な変化を引き起こす現象と言えるのである。

だが、これら突然変異と呼ばれるべき現象は本来そうホイホイ起こるものではない、突然変異など態々意図でもしない限り、お目に掛かれる現象ではないのである。

しかし……

 それが、非日常が日常と化している空間ならばどうだろう?一般常識を覆す幾多の法則が飛び交う、異常なまでに強力な外的要因が存在する場所ならば?

そう機動戦艦ナデシコであったならば……



 これは、ある機動戦艦の少しだけ変わった一日である。






 

 

 

 

 

 

機動戦艦ナデシコSS

みゅ〜ていしょん(前編)

encyclopedia

 















「チイッ!!あの爆発の中で何であんなにピンピンしてやがるんだあ?……やべえっ!!跳びやがったゾォ!!」

「ウリバタケ班長!!オダギリとナカムラのヤツがあぁぁ!!」

「なあっ?!目が合った?!!!」

「うわああぁぁぁ?!こっちに来ますよお!!!」



不吉なアラームと共に異変を告げるコミュニケが至る所に表示されてます。

怒鳴り声や警告の声がいたるところで飛び交っていて、ちょっと五月蝿いですね。

今、ナデシコは蜂の巣を突ついたような大騒ぎになっています。

そう、所謂、緊急事態ってやつです。

敵襲ですかって?いいえ、違います。

そもそも、このナデシコには私のアキトさんが乗っています、バッタやジョロなんかチョチョイノチョイです。

 

………

 

……………



……………………



あ……自己紹介がまだでした、こんにちは、私、ナデシコでオペレーターを勤めているホシノ・ルリです。

どうして、こんなことになったかといいますと……

話は数時間前にまで遡ります。











「侵入者ですか?」

『そうだよ、ルリ』



私の疑問に答えて幾つかのウィンドウが即座に展開します、確かに表示された情報によるとナデシコの船内に何かは良くは分かりませんが正体不明の、それもかなり大きい何かがいるようです。

でも、ここは普通の建物ではありません機動戦艦の中です、それも現在ナデシコは真空の宇宙空間を航行中、ハッキリ言って考えられません。



「オモイカネ、間違いないんですか?」



私の疑問に即答するオモイカネ。



『うん。間違いないよ』



ウィンドウのバックの色が赤いのはもしかして拗ねてるんでしょうか?



私が首を傾げていると後ろから声を掛けてくる人がいます。

ナデシコの操舵士、ハルカ・ミナトさんです。ミナトさんはその綺麗に手入れされた髪をかきあげながらモニターを覗き込んできました。



「ど〜したのかなぁ?ルリルリ」



アングルの関係で私の視界にミナトさんの豊かな胸が飛び込んできます。

……うらやましいですね……私も何時かはこれ位大きくなれるんでしょうか?(泣)

やっぱり、大きくするには
入念なマッサージをしてもらった方がいいですね、ここはアキトさんに……はっ!!いけません脱線してしまいました、本筋に戻らないと。

取り敢えず、ミナトさんにも今のことを説明します。

興味を引かれたのか、キャプテンシートで欠伸をしていたユリカさん、おしゃべりをしていたはずのラピスやメグミさん、サラさん、それにさっきまで何か打ち合わせをしていた筈のエリナさん、プロスさんにゴートさん、それに書類の整理をしていたアオイさんまでもが何時の間にか興味深げに聞き耳を立てているのが分かります。



「オモイカネ、この部屋の室内を映し出せますか?」

『ウン。できるよ、ルリ』



直ぐにウィンドウにナデシコの一室が映し出されます。

何に使われている部屋なんでしょう?電気は点いてないらしく薄暗い部屋にダンボールやコンテナ、他にも机の上にフラスコや試験管といった実験器具が幾つか置かれているのが見えます。それしても倉庫にしては荷物が少ないようですし、誰かが使っているにしてはその気配もありません、それに壁に据えられている棚にズラリと並んでいるものは何でしょう?



「ルリルリ。何もいない見たいだよ?」

「でも、ここに間違いないそうです」



確かにミナトさんの言う通りその部屋には正体不明の生物どころがひとっこひとり見当たりません。



「ねえねえねえねえ、ルリちゃん。ここってどこなのかなあ。」



何時の間にやって来たのか、脇からウィンドウを覗いていたユリカさんが口を挟んできました、よっぽど退屈だったのかその目は新しいオモチャを与えられた子供みたいにキラキラ輝いています。



「fブロックのナンバー1823の部屋です」



「うむ?その部屋は誰も使っていないと思ったのだが…」

「ええ、その通りです」



ゴートさんとプロスさんが揃って首を傾げています、でも、問題の場所はこの場所で間違いありません。



「ねえ、ここでアレコレ考えるよりも実際に行って見た方がいいんじゃない?」



ミナトさんの提案に皆さんは少しだけ考える素振りを見せましたが、直ぐに乗ってきました。



「そうね、ここにいても暇だし♪」

「そうそう、何だか面白そうだしネ♪」

「危ないときにはアキトさんに守ってもらえれば良いし(はぁと)」

「興味深いわ♪」



サラさん、ラピス、メグミさん、それにエリナさんの4人は何だか楽しそうです。他の方は黙ってる所を見ると賛成と言う事でいいんでしょうか?



「それじゃあ、みんなで探検にれっつごぉ〜〜〜♪」



こうして、ユリカさんの号令の下、私達はこの問題の部屋に向う事になったのでした。













…………………それにしても何かを忘れているような?

「ルリさ〜〜〜ん。忘れるなんてあんまりです!!!(号泣)」

 

まあ、いいでしょう。

 

シクシクシクシク……













「さて、我々ナデシコ探検隊は謎の反応があった、例の部屋の前まで着ています、この閉ざされた扉の向こうには一体何が待ちうけているのでしょ〜か?我々はその正体をこの目で見極めちゃいたいと思います!!!」



ユリカさんがどこから調達してきたのかマイクを片手にしゃべってます。

誰に向って話し掛けてるんでしょうか?不思議です。



あれから、私達は念のためにと言う事でコミュニケで自室に居たアキトさんに来てもらうと、例のナンバー1823の部屋の前までやって来ました。



「ルリちゃん、ここなんだね?」



アキトさんは閉じたままのドアに右手を添えながら、私達の方を振りかえると確かめるように言いました。

廊下はブリッジにいた全員とアキトさんに加えて、途中で偶々会ったヤガミさんも合流したおかげで少々過密気味です。



「ハイ。この部屋のはずです」



閉じたままのドアの右上に、『1823』の数字がナンバリングされた金属製の小さなプレートが、確かに備え付けられていることを確認して私は頷きました。



「じゃあ、早速入ってみようか、ナオさん頼みます」

「了解っと」



アキトさんの求めにヤガミさんが、背中をぴったり壁に張り付けて銃を構えます。

その姿は流石にさまになってます。



「それじゃあ、行きますよ」



そう言うとアキトさんは右手に銃を構えたまま、左手でマスターキーをドアの横のスリットに通しました。

















しかし……















「あれっ?!!」















開かない?















その後もアキトさんが何度か繰り返して見ましたが、やっぱりドアは堅く閉ざされたままウンともスンともいいません。



「何か別のセキュリティがあるようですね……」



マスターキーを受け付けないようなプログラムが、組み込まれているに違いありません。



「オモイカネ、調べられますか?」



『う〜〜ん、ちょっと待ってて』



オモイカネが即答できないところを見ると、かなり高度なモノのようですね。

その時、私の視界の隅に仕切りに首を捻るエリナさんの姿が入ってきました。



「どうしました?エリナさん」



「ええ、何か忘れてるような気がするのよねぇ」



エリナさんはそう言っては何度も首を捻っています。

ちょうどその時、オモイカネの解析完了を知らせるウィンドウが開きました



『解析しゅ〜りょう♪』

「それで、このプログラムを組んだ人は誰だが分かりましたか?」

『このプログラムを作ったのはイネスさんだよ♪』



それを聞いてエリナさんが思い出したとばかり手のひらをポンと叩きました。



「ああ!!思い出したわ!!!少し前にドクターが来て実験に使いたいから空き部屋を使いたいって言ってたのよ」



……そういうことは、もっと早く思い出してください。



それにしても、イネスさんですか……

ハッキリ言って厄介ですね。



「で、どうしようか?破ろうか?」



アキトさんがドアを軽く叩きながら言いました。

いいえ、それは危険すぎます、このドア一枚を隔てた先は言うなればイネスさんの領域です。

どんなに常識人を装うと所詮は
マッド、どんな罠が仕掛けてあるとも限りません。

そんなとこに私の大切なアキトさんを踏み込ませるわけにはいきません、ここは
使い減りのしない彼に頼むとしましょう。



「いいえ、ここは力技で破るよりも、彼に活躍してもらいましょう。ハーリー君、お願いできますか?」



プロスさんも後ろで「予算が……」とか呟いてますしね。



「はい。僕に任せてください!!!」



どうしました?何をそんなにリキんでるんですか?



それからハーリー君が暫く弄っているとピピッという電子音が聞こえました、どうやらロックが解除できたようですね、ハーリー君にしては上出来です。



「それじゃあ開けます」



プシュウ。



空気が抜ける音がしてドアが開きます。

全員がその場で身構えます。



……?何も起こりませんね、意外です。

イネスさんのことだから爆弾か神経ガスぐらいは仕掛けてあると思ったのですが。



「わあ〜〜一杯あるわねぇ」



一足先に部屋に入っていたサラさんが周りを見まわして驚いてます。



部屋はそれほど大きい物ではありませんでしたが、確かに四方の壁にある天井にまで届こうと言う大きな棚一面にズラリと同じモノが並んでいる様は壮観です。



「ねえねえ、コレって何かなぁ?」



ユリカさんが棚に並んでいたと思われるケースのひとつを玩んでます。

銀色に光る丈夫そうなそれは棚に並んでいるものと確かに同じものです



「艦長それってどうしたんです?」

「そこに転がってたんだよ〜〜」



メグミさんの質問に、ユリカさんは床のある一ヶ所を指差しました。

その手前の棚にひとつ分の空きがあるところを見ると、どうやらソコから転がり落ちたようですね。



「ねえ、艦長。中身はどうしたの?入ってなかったの?」

「うん、カラッポだったよ」



ミナトさんの指摘する通り、ケースには何も入ってません。

何が入っていたんでしょうか?それにイネスさんは何の実験をしてたんでしょうか?



「ちょっと!!みんな、来てくれ!!」



私が自分の思考に沈みかけたとき、突然、アキトさんの何処か焦った声が室内に響き渡りました。



「どうしたのアキト?」

「なんなの?アキト」



むうぅ〜〜。ラピスとサラさんに先を越されてしまいました(怒)。



アキトさんが見上げていたのは部屋の隅、天上近く、棚の影になっているところでした。



どうしたんです?なんで三人とも黙ってるんですか?

アキトさんも見上げたまま固まったままですし、ラピスもサラさん、ふたりとも何で呆然としてるんです?



「ぬぅ…ミスター…これを見てどう思う?」

「どうと言われましても…何でしょうねぇ……」



ゴートさんが難しい顔で唸ってます、プロスさんも珍しく本当に困った顔をしてます。



「どうしたんです?アキトさん」



私の言葉にアキトさんは右手を上げると無言で指を指しました。



「一体、どうしたん………」



私は言葉を続けることが出来ませんでした。



何故ならアキトさんの指の先には格子の外れた通風孔とそこにこびりついた不思議な
青い粘液の跡があったからです(泣)。



「何だかものスッゴクイヤな予感がします……」



「オレもそう思うよ……」



私の言葉にアキトさんは疲れた様にガックリと肯いたのでした。






後半へつづく。




後書き

どうも、妄想を文章にするencyclopediaです。

いつも、短編を書いている私には珍しい事なのですが、初の前後編となりました、取り敢えずはルリの一人称という形で、後編の方も行きたいと思いますのでよろしくお願いします。

では。

 

 

 

 

管理人の感想

 

 

encyclopediaさんからの投稿です!!

今回はハーリー君が活躍する場面が無かったですね(笑)

まあ、後編に期待をしましょう!!

しかし、イネスさんに一室を貸し与えるなんて・・・

結構冒険者だったんだな、エリナさんってば(苦笑)

 

それでは、encyclopediaさん投稿有難うございました!!

 

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