(その2)





>リョーコ

 きょ、今日はバレンタイン前日

 今、俺はチョコを作っている。

 俺は料理が下手だから、チョコレートだって、もしかしたらヤバイのが出来ちまうかもしれねぇ。

 前、俺と艦長とメグミの料理(メグミはジュースだったが)でアキトが死にかけちまったからな。

 慎重に作ってる。

 ただ単にチョコを溶かして型に流し込むだけ。

 だけど、この作業を俺や艦長、メグミの奴がやると、どうなるか分かるか?

 チョコが型の外に零れても、「まっ、いっか」の一言で、それをかき集めて型に戻す。

 俺はさすがにやらないが、艦長やメグミだったら、多分床に落ちてもそうする。


 あっ!


 ・・・・・・言ってるそばからやっちまった。

 チョコが床に零れちまったんだよ!

 やり直しだ・・・・・・・・・

 だけど、俺は諦めないぞ!

 絶対に、きちんとしたは、はは、ハート形のチョコを作って、アキトの名前をホワイトチョコで書いて、渡すんだ!



 あ・・・・・・また失敗・・・・・・





>エリナ

 全くもう!

 一体全体バレンタインデーって何なの!?

 みんな仕事をしないし、戦闘中にも妄想で暴走しまくるし!

 危うくナデシコが墜ちちゃうところだったじゃない!

 それもこれも、バレンタインデーなんてものがあるから悪いのよ!

「あのー、エリナさん?」

「なに、プロス」

「・・・・・・全部、声に出ていますが」

「あ、あら」

「それに、そんなことを言いながら何ですか。

 そのエリナさんだって、戦闘中にトリップして。

 お陰で艦長を妄想から引きずり戻すのに私がどれだけ苦労したことか」

 ・・・・・・始まったわ、プロスの必殺、お小言攻撃が。

 因みに、何時も戦闘中に限らず、艦長のトリップを元に戻すのは、私の役目。

 それでもって、その役目は私が適任。

「聞いてますか!エリナさん!!」

「聞いてるわよ・・・」

 私がいくら会長秘書でも、この状態のプロスには勝てないわ・・・・・・

「どこが聞いているんですか!

 本当に聞いているんだったら、そのチョコを掻き混ぜる手を止めてください!!
 
 あ・・・・・・





>サラ

 さあっ、明日はバレンタインデー

 アキトにあげるチョコを作らなくちゃ!

 最低でも妨害を潜り抜けて、アキトにチョコを渡す。

 良ければ一番乗りや、2人っきりで、最高は一人勝ち!

 でも、まずはチョコを作らなくちゃ、捕らぬ狸の・・・・・・・・・何だっけ?(正解:『捕らぬ狸の皮算用』)

 まぁ、それよりも早くチョコを。

 えーと、確かこの棚の奥に、通販で買った惚れ薬が・・・・・・


 ゴソゴソゴソ・・・
 

 あっ、これだこれだ。

 この怪しい緑色のドロリとした液体

 間違いないわ!

 たしか、これを摂取して一番最初に見た人にベタ惚れするのよね。

 ・・・・・・やっぱり、2人っきりで渡して、その場で食べてもらわないと駄目ね。

 じゃないと、アリサやレイナみたいな他の女に取られちゃうわ、アキトを。

 さあ、待っててね、アキト!

 もうすぐアキトを私の物にしてあげるからね!





>アリサ

 ・・・・・・・・・姉さん、惚れ薬とは卑怯よ。

 ・・・え? 何で私がそんなことを知ってるかって?

 なんか、イズミさんから聞いたんだけど・・・・・・彼女はどこで知ったのかしらね?

 随分と謎が多い人みたいだけど・・・・・・

 いえ、そんなことを考えるよりも、今はおいしいチョコレートを作ることに専念しなくては。

 刻んだチョコを溶かして型に入れるだけじゃなくて、ほんの少しだけ、匂い付けにバニラエッセンスを加えてみたり、いろいろ実験してみる。

 ・・・・・・もちろん、どこかの誰かさんみたいに、洗剤を入れてみたり、ネギを入れてみたりとか、そういうことはしないけど。



「あら? アリサじゃないの。

 アリサもチョコレート作り?」

「あ、姉さん。

 そうよ。姉さんと同じで、アキトに食べてもらうチョコを作ってる所よ」

「へえー。

 でも、アリサのチョコじゃ、私のチョコには勝てないわよ」

「惚れ薬入りだから? 姉さんのは」

「え? 何で知ってるの?」

「・・・・・・さあ?

 イズミさん、どこで仕入れてるんでしょうね、情報」

「・・・・・・まあいいわ。

 例えそのことが分かっていても、貴女にはどうすることも出来ないんだから。

 そう、私はアキトにチョコを食べさせちゃえば勝ちなんだから・・・・・・!」

 ・・・・・・そう言いながら姉さんは去っていきました。

 さあ、こんなコトしてる暇に、おいしいチョコを作らなくちゃ!





>レイナ

「・・・・・・・・・」

『・・・・・・・・・』

「レイナ姉、何作ってるの?」

 私がとある作業をしていたとき、ディアにそう質問された。

「何って、見て分からない?

 チョコレートよ」

 そう。私は今、チョコレートをデコレートしている。

「いや、でもさ、レイナ姉・・・・・・」

 何か、先を言いにくそうなディア。

「・・・・・・? 何よ」

 とりあえず先を促したけど、

「・・・・・・・・・・・・」

 ディアは黙りっぱなし。

 だからもう一度、

「だから何なのよ」

 と訊くと、ブロスが答えた。
 
『・・・なんだって、1/1ブローディアなのさ』
 
「??? 何? 何か変なとこがある?」

 私が問い返すと、2人とも、溜息を付いた。

「??? ディアもブロスもおかしいんじゃない?」
 
「『いや、おかしいのはレイナ姉だってばさ』」
 
 しっかりと唱和した声で2人が返す。

「・・・・・・・・・・・・?」

 私は、何で2人に『おかしい』と言われるのか、全く理解できなかった。

「・・・・・・・・・はっきり言った方が良いのかな、ブロス?」

『さあ? どうだろ?』

「いいわ、はっきり言うわ」

 ディアはブロスとそう会話した後、私の方を向いて、大真面目な顔で言った。

「・・・・・・はっきり言うわ、レイナ姉。

 はっきり言ってそのチョコ・・・・・・・・・大きすぎよ」
 
「そうかなぁ・・・・・・・・・」

 私は顎に手を当て、ちょっと考えて言った。

「・・・・・・そうね、大きすぎたわね。

 ほんのちょこっと大きかったわね」
 
「『・・・・・・・・・・・・』」

 ・・・・・・・・・・・・。

 何で2人に、そんな白い目で見られなきゃならないの?





その3へ続く