(その4)





>カグヤ

 わたくしは今、アキト様に差し上げるチョコレートを作っています。

 もともとは高級チョコにするつもりだったのですが・・・・・・

 ユリカさんまでもが手作りにするのだったら、ライバルたる私が市販品にするわけにはまいりませんわ。

 ですが、ユリカさんはチョコレートで副艦長を昏倒させて、調理場(厨房、自室両方含む)使用禁止を受けたらしいわ。

 これでは私も張り合う意味は薄いわね。

 ですが・・・・・・ユリカさん以外のライバルもいるのだから、私は手作りチョコレートを作るわ。

 アキト様、待っていらしてね!

 今、カグヤがアキト様のためにチョコレートを作りますわ!!



 ですけど・・・・・・

 チョコレート作りとは、意外と難しいものですわね。

 砕いたり刻んだりしたチョコレートを、熱して溶かす。

 調味料・香料で味・香りを市販のものと変えて、型に流し込む。

 それが冷え固まったら、ホワイトチョコレートなどでトッピングをする。

 料理の「り」の字も知らないようなわたくしには、これだけでも十分に難しいですわ。

 ・・・・・・聞いた話ですけど、ユリカさんは普通に作った料理で、充分人を殺傷することも出来るそうですわね。

 普通に作った料理でそうなると聴くと、自分で作るチョコレートも、少し恐いですわ・・・・・・

 でも、そんな物をアキト様に食べさせるわけにはまいりませんものね。

 ヨツハ(わたくしの家のメイド頭の名前ですわ)に聴いたのですけれども、料理の基本として、『味見』をしなくてはいけないとのこと。

 自分で食べるのも恐いですけれども、アキト様がそんな物をお食べになってお体を壊されることがないよう、しっかりと『味見』をしなくてわ。



 さあ、とりあえず出来ましたわ。

 『味見』をしてみましょう。


 ぱくっ
    ムグムグ・・・ムグムグ・・・
        ムグムグ・・・ムグムグ・・・


 ほっ

 きちんと食べられるものができましたわ。

 もう一度作り直して、しっかりとラッピングすればOKですわね!










〜木連〜



>北斗

 ・・・・・・俺は今、『ちょこれぇと』というものを作っている。

 舞歌に聴いたのだが、2月14日に、自らの好敵手と、『ちょこれぇと』の交換をするそうだ。

 後で、俺と入れ代わって、枝織も作るそうだ。

 それにしても・・・・・・・・・

 包丁とは扱い辛いものだな。

「北斗! もっと手早くするのよ!!」

 ・・・・・・舞歌、煩いぞ。

 口に出すと後が恐いから、口には出さんが、俺はそう思った。

 俺は、アキトが料理をするところは何度も何度も見たことがあるのだが、包丁を握ったことは数えるほどしかない。

 いずれも、舞歌に料理の練習をさせられた時なのだが、毎回毎回優華部隊に止められる。

 お陰で、ちっとも上達しない。

 最も早い上達の道は、実戦だ。

 「実戦は七日間の訓練にも匹敵する」という言葉があるらしい。

 正しくその通りで、俺の木連式柔の稽古は、訓練ではなく、実戦そのものだった。

 それが物心付いたときには既に始まっていたからこそ、10歳ほどの時に、クソ親父の左眼を刳り貫くことができるほどになった。

「ほら、刻み終わったらさっさと火に掛ける!」

「分かった分かった」

 そう言いながら、俺はガスコンロの栓を捻る。


 バキッ


 ・・・・・・・・・・・・。

 栓が壊れた。

「何やってるのよ、北斗!

 そんなことじゃ『漆黒の戦神』のお嫁・・・・・・もとい、ライバルにはほど遠いわよ!」

 ・・・・・・言ってくれるな、舞歌。

「分かった。 もう少し力を抜けばいいんだな」

 再度、栓を捻る。


 カチッ・・・
   ボォォォォォ・・・・・・


 ・・・・・・成功だ。


 ペシィッ


「何をする、舞歌」

 いきなり舞歌にハリセンではたかれた。

「いきなり強火にする奴があるかぁっ!」

 いつの間にか用意されていたちゃぶ台(+食物の乗った食器類)をひっくり返す舞歌。

 『ちゃぶ台返し』とかいうヤツだ。

 ・・・・・・・・・全く、本当に『ちょこれぇと』を作るのは骨が折れる。





>北辰

 くっくっくっくっく

 明日はバレンタインデー。

 そして我が愛娘、北斗がチョコレートを作っている。

 くっくっくっくっく

 これがどういうことだか分からぬ者は居るまい。

 そう! 答えは一つ!

 我のためにチョコレートを作っておるのだ!!!
 
「・・・・・・北辰よ、その不気味な笑顔はやめてくれ」

「草壁よ、喜びを素直に表現して何が悪い」

「いや、表現するのは全く構わないのだが、その顔はやめてくれ。

 夢に出てくる」

 ・・・・・・そんなに非道い顔をしているのか、我は?

「とりあえずこの鏡でも見ろ」

 草壁がどこからか手鏡を取り出す。

 むう・・・・・・

 手鏡なんぞという物を見ると、我が愛する妻、さな子のことを思い出す。

 うおおおぉぉぉぉ!!
 
 さな子!なぜ我の前から去ってしまったのだぁぁっっ!!!
 
「・・・・・・いいから早く見て見ろ」

「うむ。 そうであった」

 草壁から受け取った手鏡を覗き込んでみる。

「・・・・・・草壁、この手鏡には悪魔でも住んでおるのか?」

「・・・・・・・・・・・・それはお前の顔だ」





 草壁の言葉を聞いた後、自室で目覚めるまで記憶がない。










〜???〜

>???

 ふふふふふ・・・・・・

 覚悟なさい、テンカワ アキト。

 これを食べれば、例え貴男でも、生きていられる訳ないわ・・・・・・

 ふふふふふふ・・・・・・





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