今日も平和な火星、ネオ・ユートピアコロニー。
そんなコロニーの一角に、あの『漆黒の戦神』テンカワ・アキトとその妻天川(旧姓各務)千沙、
そして彼らの子供達(と居候達)が営む喫茶店、Milky
Wayがある。
ご近所からは、安くて美味しく、しかもお腹いっぱい食べれるとあって大評判だ。
だが、不思議に思ったことはないだろうか?
一体どのようにしてアキトと千沙がゴールインしたのか、ということを。
「ねえ、お母さん」
「なんですか、千聖?」
「お父さんとお母さんって、どんな感じで結婚したの?」
「・・・え?(汗)」
・・・という質問が、千沙の娘の口から出てくるのも、仕方が無い事だろう。
時ナデアフター
Milky Wayへようこそ♪
Act.03:思い出のラブソング
ガチャンッ!!
「ど、どうしたのよ千聖、藪から棒に・・・って、結婚記念日に買ったペアグラスがぁ・・・(泣)」
天川(旧姓各務)千沙は、アキトとの間に設けた娘である千聖にこう訪ねられて、ものすごく困惑していた。
その困惑振りは、磨いていたグラス(二人の結婚記念日に買った、アキトと千沙用の大切なペアグラス)を
落っことして割ってしまったくらいである。
今の彼女の格好は、薄手のセーターにロングスカート、
そしてディフォルメされた彼女の顔がアップリケしてある緑色のエプロンを身に着けていた。
ちなみに、アキトも同じようなエプロンを持っており、もちろん千沙お手製だ。
いい年こいて恥ずかしくないのだろうか、この二人は?(汗)
「別に、単なる好奇心よ。 ・・・で? どんな感じだったの?」
「あ、それ私も興味あります〜。 その話聞きたいですね、ママ」
カウンターに座った緑色の長い髪をウェーブヘアーにした少女―天川千聖(十五歳)が、率直に訪ねると、
その右隣では彼女の妹で、テンカワ家の末っ子である天川理紗(十一歳)が興味深そうに身を乗り出していた。
ちなみに、理紗はショートヘアーで、美人タイプの千聖と違い、どちらかというと可愛い部類に入る。
「私もその話聞きたいなぁ〜、千沙おばさん」
理紗の隣では、もう三杯目になるイチゴサンデーをぱくついている少女―ナオとミリアの間に生まれた
ヤガミ・メティス(愛称メティ、十三歳)が身を乗り出しており・・・。
「私も、ぜひともその興味深い話を伺いたいですね」
メティの隣に座っている、年の割には落ち着いた(おばさんくさいともいう)
東舞歌の娘である夕菜(十三歳)が日本茶を啜りながら賛成し・・・。
「・・・わたひほひひはい(私も聞きたい)」
夕菜の隣で、ヨモギ大福を黙々と食べていた燃えるような紅の髪を持つ少女
―あの真紅の羅刹である影護北斗の娘、影護命(みこと、十三歳)が食べながら話し・・・。
「う〜ん、なんかよくわかんないけど面白そうだねっ!」
理紗の左隣りに座っていた、小学校低学年に見える(こう見えても、小学校五年生である)少女、
紫苑弥生(十一歳、もちろん名前の通り紫苑零夜の娘)が楽しそうに手を叩く。
ちなみに、夕菜、命、弥生の三人は、とある事情によりテンカワ家に居候しているのだ(詳しくは前回を参照のこと)。
「それどころじゃありません! アキトさんとのペアグラス、割っちゃったじゃないですか・・・」
「・・・お母さん、もし話してくれたら、私が何とかしてあげるけど?」
「ホ、ホント!?」
「ええ、女に二言はないわ。 ・・・それには、お母さんが当時の話を話してくれることが条件ね」
「話します、話しますからお願い!」
千聖にすがりつく千沙。 これじゃ母子の立場が逆である(汗)。
「はい、じゃ、これ。
こんな事もあろうかと、昨日のうちにグラスをすり替えておいたのよ。
・・・今日この話を聞こうと思ってたからね(ニヤリ)」
コト、と足元からペアグラスの片割れを出す千聖の顔には、悪戯が成功して嬉しそうな少年の笑みが浮かんでいる。
流石は中等部で三年間学年主席を保持した事はある、悪知恵を働かせたらピカイチだ(笑)。
「ち、千聖!?・・・はめましたねッ!? 」
「何のことかしら? 私はお母さんがグラスを割りそうだったから取り替えておいただけよ?
あ、さっきの会話は私のMDウォークマンで録音してあるから、言い逃れできないわ。
それに、ディアにも頼んで記録してもらっているので、あしからず」
『・・・ごめんなさい、千沙さん。 手伝わないとデータ改竄するぞって脅されてるの・・・(泣)』
「くッ・・・!」
優越感に浸る千聖に対し、悔しさに顔を歪ませる千沙。 そして、ディアは済まなそうに謝る。
娘に丸め込まれるとは思わなかった・・・油断しましたね・・・と悔しそうだ。
だが、この時代にMDウォークマンなんぞあるのだろうか?
そっちの方が不思議である。
『千聖さん(お姉ちゃん)って、敵に回すと恐ろしい(よ/です/ですね)・・・』×残りの少女達
千聖の悪知恵に、戦慄を覚える残りの少女達。
ちなみに、テンカワ家長男の和人(十三歳)は、父親であるアキトと元ブローディアA.I.である
ブロスと一緒に喫茶店の物資調達のために、火星中央卸売市場に行っている。
ナオとミリアさんは、メティがユートピア商店街で引き当てた3泊4日の温泉旅行(火星に温泉なんてあるのか?)
に行っているので、今店内にはいない。 そのため、メティはアキトの家で預かることになったのだ。
「わ、わかりました、話せばいいんでしょう、話せば・・・。
そうね、あれは十五年前、今は戦争終結記念館になっている機動戦艦ナデシコの中で始まったの・・・」
洗い物をしていた千沙は、一息入れるとカウンター備え付けのいすに座り、静かに思い出話を語り始めた。
・・・嫌がっていたわりには、口元に優しい微笑みを浮かべながら。
*ここからは、過去と現在を織り交ぜて進行していきます。
「『第二回ナデシコ一番星コンテスト』ぉッ!?」×ナデシコメインクルー
「はい、ちょうど戦争も終結したのですから、木連の方々と交流を深めるという意味で
優華部隊の方々も交え、お祭り騒ぎをしてもよろしいかと」
プロスのこの一言に、驚愕の声を上げるナデシコメインクルー。
木連の人たちは、今後の和平について話し合うためにナデシコに来ていたのだ。
ナデシコ一番星コンテストを突然やる、と言い出したプロスもプロスだが、疑問が残る。
あのドケチのプロスが、何故金も時間も浪費するナデシコ一番星コンテストなんかをやろうと言い出したのか。
「何でまたナデシコ一番星コンテストなんかやるんですか?
木連の交流に余り関係ないような気がするんですけど・・・」
「ちなみに商品は、『テンカワ・アキトを一年もの間自分のものにできる権利』です。
もちろん、『生殺与奪』はあなたのもの!・・・ですよ」
「!!!!!!!!」
これを聞いた瞬間、同盟連中+2の目が怪しく、そしてぎゅぴーんという音を響かせながら閃く。
ちなみに+2というのは、真紅の羅刹影護北斗と木連一の才女東舞歌である。
「では、第二回ナデシコ一番星コンテストの内容をせつめ・・・ゲフッ、ゴフッ、解説します。
ルールは簡単、一人、またはグループで一曲歌を歌ってもらい、各審査員に評価してもらいます。
グループで出場した人は、そのグループ全員平等になるようにさせて頂きますので安心してください」
「・・・俺の場合はどうなるんだ?」
「そうですな、北斗さんと枝織さんは別人格ですので、一個人として扱わせてもらいます。
ただし、そうなると不公平ですので、北斗さんと枝織さんは、それぞれ別の歌を歌ってもらい、
二曲の総合点数の平均を最終点数とさせて頂きますが、よろしいですかな?」
「わかった・・・うん♪」
「コスチュームなどは自由です。 それでは、一週間後のコンテスト頑張ってください」
「ちょ、ちょっと待てぇ! 俺の意見はどうなる!!(汗)」
「そんなもん最初からありません(断言)」
アキトの魂の叫びを、無常にも切り裂く同盟連中。
「いーんだ、どうせ俺の人生は人に弄ばれて終わるんだ、どうせ・・・(泣)」
あまりにも酷いその扱いに、アキトは艦橋の隅でいじけてしまっている(汗)。
自分の人生が賞品になり、そして自分の意見は全く聞き入れられていないのだから仕方がない。
「でも、どうして突然一番星コンテストなんかやりだそうなんて言い出したの、プロスさん?」
「・・・ルリさんをはじめとする同盟の方々に、脅されているんですよ・・・(泣)。
うう、また胃が痛み始めた・・・胃薬を飲まないと・・・(大泣)」
「そ、そうなの・・・た、大変ね・・・(汗)」
ナデシコの良心といわれるミナトさんのもっともな質問に、ジャラジャラと直接瓶から胃薬を喉に流し込みつつ答えるプロス。
何時の時代も中間管理職は辛いというが、まことにその通りである。
「・・・大変だな、アキト。 同情するぜ」
「・・・形だけの同情なら遠慮しますよ、ナオさん・・・って、アカツキのヤツは?」
「優華部隊の各務千沙さんって人にプロポーズして玉砕して、部屋で燃え尽きてるぞ。
あの会長、馬鹿なことを考えてなきゃいいが・・・(汗)」
「ですね・・・(汗)」
一方、アカツキの部屋。
「頼む、アオイくん! 僕はもう生きていたって意味がないんだ!!(泣)」
「だ、だからって死ぬことはないだろうが!(汗)」
「そ、そうだぜ会長! お、女なんて星の数ほどいるんだからよ、次があるじゃねぇか!!(汗)」
「次がある、だって・・・?
各務くんほどの女性はそうはいないんだよ!(大泣)」
「火に油を注いでどうする!!(大汗)」
「し、しまった・・・今の会長の状態だったらダイナマイト腹に抱えて某北の国に突っ込むぞ!(大汗)」
・・・自室で首を吊ろうとしているアカツキを、必死で止めているジュンとウリバタケの姿があった(汗)。
「助けてくれぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!」
「待って(ください)アキト(くん/さん)、私(俺)の歌を聞いて(ください/くれ)!!」×同盟
練習開始二日目。
アキトは、某生物災害3の追跡者の如く迫り来る同盟の追跡から逃げるため、ナデシコ艦内を逃げ回っていた。
基本的にアキトがいる場所(厨房はもちろん、トレーニングルーム、自室など)は、
これでもかってくらい徹底的にマークされているので、流石のアキトも迂闊には近づけない。
じゃあどこで寝ているのかというと、ブローディアのコックピットの中とかナオの部屋で寝ていたりする。
「な、何でこうなったんだぁぁぁぁぁぁぁッ!」
涙を流しつつ絶叫するアキト。 ・・・彼女達の関係を先延ばしにした結果がこれである。
『どうする・・・ナオさんの部屋は昨日襲撃されてナデシコ艦内から消滅してるし、
ジュン、ウリバタケさんに至ってはアカツキの説得で手一杯・・・。
プロスさんのところにいったら絶対通報されそうだし、ミナトさんやホウメイさんには迷惑掛けたくない・・・。
考えろ、考えるんだ俺!』
ミナトさんやホウメイさんに迷惑は掛けたくないって・・・ナオのことはいいのか、アキト。
ちなみに、ナオは全治三ヶ月の怪我を負って医務室送りとなっている。
「よ、ようやく撒けたぞ・・・。 でも、これからどうしよう・・・」
とりあえず、同盟連中の追跡から逃げられたアキト。
ちなみに、今彼はナデシコ内に張り巡らされた通気ダクトの中に隠れている。
アキトは無い知恵を働かせて状況を打破しようと試みるが、追われている獲物という
プレッシャーからか、あまりいい考えが浮かばない。
それもそのはず、今のアキトは賞金首なのだ。
つまり、同盟連中がこぞってアキトの首に高額な賞金をかけ、自分の所に持ってこさせて
自分の歌を売り込もう、というアキトの人権はどこに行った?という非道な考えに誰もが達したのだ。
ちなみに北斗や枝織、舞歌はこの作戦には参加していない。
・・・アキトに対してマイナスイメージを持たせるよりは、自分の実力で勝ち取った方がいい、と判断したからだ。
流石木連の人達は潔い・・・。
「こんな所で悩んでも仕方が無い、とにかく行動しよう・・・」
そう呟くと、アキトは通気ダクトを黙々と四つんばいで歩いていった。
「ふう・・・」
ベットに寝転がり、天井を見つめるのは、優華部隊所属各務千沙。
自分にあてがわれた部屋で、どうして私にはこういう不幸な役回りしか無いんでしょうと、自分の運の無さを嘆いていた。
アカツキがプロポーズしてきたことなんて覚えていないようだ(汗)。
ゴソゴソ・・・
「・・・あれ?」
不意に寝転がったベットから起き上がる千沙。
天井から聞こえる、ゴソゴソという音に気がついたからだ。
暫くの間、耳をすましてその音の正体を確認してみることにする。
・・・少なくとも、ネズミでないことは確かだ。
「・・・ここから聞こえる・・・んでしょうか?」
千沙が見つけたその音の出所は、彼女が立っているすぐ上にある通気口からだった。
彼女が不思議に思ってその場所を覗き込んでみると・・・。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
上から降ってくる黒い影。 そしてそれは、狙い違わず千沙に覆いかぶさるように落ちてくる。
「キャアァァッ!?」
「いてててててて・・・って、す、すみません! その、き、緊急事態だったものですから!」
「え? ・・・あ、アキトさん?」
「はい? ・・・千沙さん?」
通気ダクトから落ちてきて、自分の上に覆いかぶさっていたのは、なんとあの漆黒の戦神テンカワ・アキトその人だった。
たまたま千沙の部屋の換気ダクトの格子が緩んでいたため、アキトの体重を支える事ができず落ちてしまったのだ。
ちなみに、このお話内ではアキトと千沙の二人には面識(それもかなり親しい関係)がある。
「ど、どうしたんですか? そんなところで?」
「ははは・・・それが、かくかくしかじかで・・・」
アキトに組み敷かれた事による動揺を隠しながらも、千沙は訳をアキトに聞いてみる。
・・・それは、同盟連中による執拗な追跡(もしくは脅迫?)であった。
話には聞いていたが、いくらなんでもそれはやり過ぎでは・・・と思う千沙だった。
「・・・わかりました、それなら同盟の方々にとってノーマークな私の部屋にいた方が安全です」
「いや、それは流石に問題があると思うんだけど・・・だって、その・・・ど、同棲するってことでしょう?(汗)」
「そう・・・なりますね。 そ、その、わ、私は大丈夫ですから(真っ赤)」
「だけど・・・」
『でも、アキト兄。 千沙さんだけだよ? こんな優しいコト言ってくれるの」
『オモイカネ兄もダッシュ兄も、ルリ姉達のサポートで手一杯だから監視の目は緩いんだ。
たぶん、今のところナデシコ内でここが安全な所だよ。 それに、僕達もいるしね』
千沙の考えに渋るアキトを、焚きつけるディアとブロスの二人(?)。
生みの親であるルリとラピスを裏切るつもりらしい。
「・・・ルリちゃんやラピスは、お前達の生みの親なんじゃないのか?」
『・・・ルリ姉とラピ姉は人使い(?)荒いし、アキト兄のことで私達のことなんかそっちのけだもん。
あんな人達のことなんか助ける義理は全然無いよ』
『そうそう、その点千沙さんは僕達に誠意を持って接してくれるし。
ルリ姉達と千沙さんのどっちかをとれ、って言われたら僕達は間違いなく千沙さんをとるよ』
ねー、と顔を見合すA・I二人組。 普段ディアとブロスの扱いに問題があるようだ。
・・・やはり付き合いっていうのは大切だね。
『『それに千沙さんだったら、アキト兄の病んだ心を優しく癒してくれるかもしれないよ?』』
「・・・千沙さん、いいんですか? 俺がいても・・・?」
「は、はいっ、大丈夫です(真っ赤)」
ディアとブロスの鶴の一声により、アキトと千沙の生活が始まることとなった。
・・・もっとも、千沙はまんざらでもなさそうだったが。
「・・・ふーん、漆黒の戦神シリーズで読んだから知ってたけど、お父さんって本当にモテたのね。
脚色されたものとばかり思ってたけど、それが本当なら、我が父親ながら本当に呆れるわ」
「でも、ママはそのパパ争奪戦という激戦を勝ち抜いてパパと結ばれたんですよね? ロマンチックですー」
「カーくん(和人のこと)って、ホントにアキトおじさん似なんだね」
「話には聞いてましたが・・・ここまでくると荒唐無稽な話ですね・・・(汗)」
「・・・アキトおじさん、モテモテ」
「えっと、総勢十八人がアキトおじさんを賭けて勝負したの? 凄いね〜」
一息入れるために紅茶をすする千沙の前では、自分の愛娘とその友達六人が
口々に感嘆の(どちらかというと呆れの色が強い)声をあげる。
「そうですね・・・。 改めてアキトさんの怖さを認識した気がします」
ほうっ、と息をつきながら千沙。
「で、二人は同棲を始めたわけだけど、続きはどうなるの?」
「そうです、今はそっちの方が大事です! パパとママのラブロマンス、気になります!」
「千沙おばさんはナデシコ一番星コンテストに出場したの?」
「母はナデシコはとにかく普通じゃないと言ってましたけど、コンテストが無事に終わったとは思えませんね」
「先が気になる・・・早く教えて・・・」
「ボク、何かワクワクしてきたよ!」
「はいはい、わかりました。 えーと、どこまで話しましたっけ?」
「「「「「「二人が同棲を始める所まで(だよ/よ/です)」」」」」」
「そうでしたね、私とアキトさんが同棲を始めた所からですね・・・」
紅茶をもう一口すすると、千沙は何処かこの会話を楽しんでいるかのように話し始めた。
「・・・うぅ〜んよく寝た、朝食の仕込みに行かなくちゃ・・・って、あれ?」
久しぶりにグッスリと眠る事ができたアキトは、ふと違和感を感じて辺りを見回した。
自分の部屋ではなく、見慣れない部屋で自分が寝ていたからである。
そして自分は、普段使っていないベッドの上ではなく、日本古来の布団の上に寝ている事に今気がついた。
「ここは・・・?」
「あ、おはようございますアキトさん。 昨日はよく眠れましたか?」
「あ、どうも・・・って、千沙さん! なんでここに!?」
「何でここにって・・・ここは私の部屋ですよ?
昨日の事を忘れたんですか・・・って、忘れるのも無理ありませんね、かなり焦ってましたから」
辺りを見回しているアキトに声をかけたのは、もちろん千沙。
薄いセーターにロングスカートという普段着の上に、可愛いクマさんのエプロンをしている。
そして右手には、お玉。 どこからどう見ても、料理してましたという風情だ。
「そうだ・・・ルリちゃん達から逃げようとして通気ダクト逃げこんで、千沙さんの部屋に転がり落ちたんだっけ・・・」
「思い出しましたか?」
「うん、思い出したよ」
ぐぅ〜
そこまでアキトが喋った時、アキトのお腹が食い物よこせと自己主張を始める。
その音を聞き、クスクスと笑う千沙と顔を赤くするアキト。
「朝ご飯ができたので呼びに来た所なんです。 冷めちゃいますから、早く来てくださいね」
「わかりました」
そして洗顔を済まし着替えを終えたアキトがダイニングに入った時には、既に朝食の準備ができていた。
テーブルの上には、ご飯が入っているおひつ(よく旅館かなんかにあるやつ)に、
出来立ての大根と油揚げの味噌汁の入った鍋、おかずは鮭の塩焼き、出汁巻き卵、ひじきの煮物、
白菜の漬物、納豆、焼き海苔という完璧な日本の朝食風景が完成している。
「これ全部千沙さんが?」
「ええ、アキトさん朝は和食派だとホウメイさんに聞きましたので・・・」
「すごい、すごいよ千沙さん! 俺が求める朝食はこれだったんだ!!(感涙)」
「な、何も涙を流して感激しなくても・・・(苦笑)。 ・・・はい、どうぞ」
感激して涙を流すアキトに、苦笑しながらご飯をよそり、アキトに手渡す千沙。
茶碗を受け取ったアキトは、猛烈な勢いでご飯をかきこみ、味噌汁をすすり、おかずを平らげていく。
その勢いは、思わず千沙が箸を取り落とすくらいだ(笑)。
・・・そして、あっという間にご飯を平らげたアキト。
「ご馳走様でした」
「はい、おそまつさまでした。 ・・・お茶入りましたよ、アキトさん」
「あ、ありがとうございます」
湯気を立てるお茶を千沙から受け取り、一口すするアキト。
・・・暫くお互いのお茶をすする音が響く。
「・・・すみません、千沙さん。 匿ってもらうばかりか、ご馳走になっちゃうなんて・・・」
「気にしないでくださいアキトさん、私が好きでやっているんですから」
「・・・ありがとうございます、千沙さん。 さて、そろそろ食堂に・・・」
「その事なんですがアキトさん、ホウメイさんから伝言を預かってます。
コンテスト期間の間は、厨房に出勤しないでいいそうです」
「え、でも・・・」
『テンカワ、今は料理の心配より自分の心配しな。 艦長達が追いかけてくるんじゃ仕事にならないだろ』
口ごもったアキトの前に、突如開くホウメイのウィンドウ。 その顔は笑ってはいるが、心配げである。
「ホウメイさん・・・」
『大丈夫、アタシはアンタのことを売ろうなんてこれっぽちも考えてないよ。
そのかわり、コンテストが終わったら、ビシバシ鍛えていくからね。 覚悟しときな!』
「はい、お願いします!」
『その意気だ。 じゃ、アタシはまだ仕事があるから』
その言葉とともに消えるホウメイのウィンドウ。
「困ったな・・・いざ仕事しなくていい、となるとすることが無い・・・」
うーん、と腕を組んで考え始めるアキト。
そうなのだ、アキトにはこれといって趣味がない(はず)。
昔はゲキガンガーを見ていたが、今はこれといって見たいとも思わない。
料理が趣味といえば趣味だろうが、それは自分の仕事に直結している。
「・・・あの、アキトさん。 よろしかったら、私に料理を教えてくれませんか?」
「へ? 俺が、千沙さんに?」
「はい、私、中華や西洋の料理は全然知らないので・・・」
そんな所にオズオズと提案する千沙。
「わかりました。 いいですよ、それぐらいお安い御用です」
「ありがとうございます、アキトさん」
・・・こうして、コンテスト開催期間ギリギリまで、アキトによる千沙の料理教室が幕を上げたのだった。
なお、その間とってもいい雰囲気だったということを明記しておく。
「なるほど、二人で料理・・・このころから二人はイチャイチャしてたのね?」
「何ですか千聖、イチャイチャしてたっていうのは・・・。 私は真面目に料理に取り組んでましたよ!」
「でも、これがキッカケでママはパパのことを意識するようになったんですよね?
あぁ・・・ロマンチックですぅ」
「いいなぁ、私もカーくんと・・・(うっとり)」
「・・・理沙さん、メティさん、妄想するのは勝手ですが、話の途中でトリップしないでください(汗)」
「私も料理覚えなきゃ・・・。 そして和人と・・・(ポッ)」
「ふぇ〜ん、命お姉ちゃ〜ん早く帰ってきて〜(泣)」
千聖の辛辣な言葉に、ムッとして言葉を返す千沙。
その隣りでは、妄想に走る理沙、メティ、命の三人をなだめる夕菜と弥生の姿があった(汗)。
「で? 何時になったらコンテストの話になるの?」
「はいはい、今話しますよ」
早く続きを話して、という千聖に苦笑しながら、千沙はまた話し始めた。
「・・・そういえば千沙さん。 千沙さんはコンテストに出場しないの?」
「はい?」
コンテストまで後一日と迫ったある日、アキトはふと思ったことを千沙に話してみた。
ちょうど二人は中華風茶碗蒸しを作り終えた所で、蒸している間、お茶を飲んで休むことにしたのだ。
「ナデシコ一番星コンテストのこと、ですか?
・・・正直な話、あのコンテストはアキトさんの人権を無視していると思いますので、参加しようとは思いません。
正々堂々と勝負する舞歌様や北斗殿はともかく、姑息な手を使う同盟の方達は特に許せませんね・・・」
ふうっ、とお茶を飲みながら千沙。
実際、千沙がホウメイの所に蒸し器を借りに行ったとき、某妖精姉妹が
不幸な少年Hに八つ当たり(リンチにしか見えなかったが(汗))を目撃している。
他にも、巨大スパナを振り回して辺りを破壊する某整備士、怪しげな薬を熱血男に注射して人体実験する
マッドサイエンティストなど、ナデシコ内は酷い有様だった(汗)。
特にアキトが彼女達の前から失踪して以来、彼女達のイライラは日に日に増し、
ここ最近では、爆発寸前までにストレスは達していた。
「そうなんですけど・・・彼女達にも悪気は無い(ハズだ)と思うんです」
「アキトさんは・・・優しすぎます。 でも、そこが魅力的なんですけどね・・・(ボソボソ)」
「え?」
「な、何でもないです。
・・・決めました、私もコンテストに参加します! そしてアキトさんを彼女達から守ってあげます!!」
「へ? ち、千沙さん??」
「アキトさん! コンテストの参加申し込みってどうすればいいんですか!?」
「え、えっと・・・」
突然参加を決意した千沙に迫られ、しどろもどろになるアキト。
『私達に任せといてよ千沙さん! ブロス、そうと決まれば早速手続きとって!!』
『りょ〜かい、ちょっと待って・・・。 ・・・あれ? もう申し込み締め切っちゃってる?』
『えっ? ブロス、それはおかしいよ。 開催日前日・・・つまり、今日までじゃなかったっけ?』
『そうなんだけど・・・ルリ姉達が勝手に初日で締め切っちゃったみたい。 ・・・横暴だよね、コレ」
『ふふ・・・ルリ姉達には痛い目にあってもらわないとわからないみたいだね・・・(怒)』
『奇遇だねディア、僕もそう思ってたよ。 ・・・僕達を怒らせたらどうなるか、思い知らせてあげないとね・・・(怒)』
『『フフフ・・・(ニヤリ)』』
・・・なにやら怪しい含み笑いをするA・I二人組み。
「お、おい、ディア? ブロス?」
『『安心して千沙さん、(私・僕)達が絶対優勝させてみせるからね! フフフ・・・(ニヤリ)』』
「はいっ、お願いします!」
「不安だ・・・ものすごく不安だ・・・。 何もなきゃいいけど・・・(汗)」
意気込む千沙を尻目に、不安に頭を抱えるアキト。
そんなこんなで、ナデシコ一番星コンテストを明日に控えるナデシコであった。
・・・ま、ナデシコはナデシコだから、何も無いはずは無いのだよ、アキトくん・・・(邪笑)。
「ここまでが、コンテスト前日までの経過ですね」
「・・・その場で見たかったわ、お母さんの暴走ぶり」
「いよいよコンテストですね〜。 楽しみです〜♪」
「そうだね、理沙ちゃん。 私も楽しみだよ」
「ナデシコという船についての見解を、改める必要がありそうですね・・・」
「あのお母さんが・・・歌を歌えるの・・・?」
「・・・ついにここまできたってカンジだね〜。 ううう、千沙おばさん、早く続きを話してよう!」
「はいはい、解ってますよ。 でも、続きはBパートで、ですね」
「・・・Bパートってなに?」×千聖と夕菜を除く四人
「大人の都合よ・・・」 ←千聖
「・・・気にしちゃ駄目です」 ←夕菜
Bパートへ続く