機動戦艦ナデシコSS サレナ 〜希望の花〜 未来からのメッセージ |
第一話 Aパート 物語の終わり、幸せの始まり |
「ふぅ、戻ってくるまで結構かかっちゃったわね。」
「はは、まぁまぁあれから一年ぐらいか・・・」
「まぁ、ルリちゃんの誕生日に間に合ったからいいんじゃないの?」
これから幸せになるであろう家族をそっと見守りながら三人の男女が
リムジンの中で次々に口を開いた。
「おいおい、エリナ君そんなにガッカリして・・・・
アキト君がいなくなって寂しくなったかい?」
アカツキがいつものように殴ってくれというかのように、エリナに聞いた。
「な・・・・なにいってんのよ!!」
ドカ・・・ドカ・・・・バギ・・・・
無論殴られるのはお約束である。
「ぐふっ、エリナ君 はいってる はいってる」
降参のポーズを取りながら、アカツキが許しを求めている。
「まぁ喧嘩するほど仲がいいということわざもあるしね。」
いつもの光景なのでいつもとかわらずイネスがそっと感想を漏らした
「ふん、まぁいいわこれぐらいで許してあげる。
で、これからあの二人はどうするのかしら?」
息切れしているエリナが少し間をおき、これからの不安をつぶやいた。
「アキト君ならまだしばらく治療が必要ね。
まぁ味覚は残念だけど完全にはねぇ・・・・
それでもまぁ日常生活を送るのに支障がない程度まで回復する事は保証するわ。」
『保証するわ』この言葉には力が込められていた。
もし困難なことが起こってもこの人類最高の知能であれば、必ず何とかなるであろう。
エリナとアカツキはそんなイネスに力強さを感じた。
「ラピスちゃんの方はまぁあの二人に任せておけば大丈夫だろう?
あれでも、ホシノ ルリを教育した実績もあるしね。」
「教育・・・・あれが?」
「はは、まぁそうなるんじゃないかなぁ
まぁナデシコの仲間全員が教育したともいえるけど、
中心は間違いなくあの二人だからね。」
昔のことを考えているのだろう。
アカツキの顔がずっと遠くを見ている。
「で・・・・後の処理はどうするつもりなの? お二人さん」
「まぁ火星の後継者関係はもう決着つくでしょう?
裁判の方も佳境だって言うし。」
そんなことに興味はないね。
まさにアカツキはそんな顔をしていた。
だが、その顔が優秀すぎる秘書の逆鱗に触れることに気がついていなかった。
いや、もし気がついていても気にしなかったかも知れない。
「『だって言うし』ってまさかニュースとか最近見ない?」
「いやぁ、最高だよねホウメイガールズ。
ネルガルプロデュースとはいえあそこまで大きくなるなんて・・・・
いやぁ会長はいいよね。
ホウメイガールズの最新アルバムなんて発売2週間前に届くんだから
ふふ、最近は知り合いに自慢できるよ。」
「・・・・・で、ニュースは?」
少し間をおいてアカツキは素直にこたえた。
「ん? なにかあったかい、最近?」
「このボケェ〜〜!! 会長だったらニュースぐらい見なさぁぁぁい!!」
完全に堪忍袋の緒が切れ、怒り狂ったエリナをたとえ会長といえど止めることなどできはしない。
ドス・・・・
「ぐはっ、痛い痛いって・・・・
・・・・あたたた・・・本気じゃなくてもいいじゃないか・・・・
まぁ最近は忙しいからテレビを見ること無いんだけどね。
・・・でもまぁいいんじゃない?
最近はクリムゾングループもだいぶおとなしいし・・・・」
「ネルガルの敵はクリムゾンだけじゃないのよ!!
世界の情勢に耳を傾けず、アイドル追い回している会長はあなたぐらいよ!!」
「あらら・・・・ひどい言われようだねぇ・・・」
自分のことをまるで人ごとのようにアカツキの口からつぶやきがこぼれた。
「ふふっ他人事ね・・・」
完全に他人事のイネスのつぶやきも聞こえた。
「はは・・・・。
会長なんて動かない事こそが会社が正常な証なんだよ。」
「だからって、いつまでもこの状況が続く訳じゃないでしょう!!」
「はいはい、ちゃんと定期報告は聞いているって。
新統合軍の受注もナデシコシリーズに決まって、ネルガルの株も上がったしね。」
大丈夫だという顔の無責任会長に完全に頭に来ているエリナだった。
ネルガルにはまだまだ難題が残っているというのに・・・・
「ナデシコシリーズの量産・・・・
数ある企業の中なぜネルガルが新統合軍の受注を獲得したのか?
説明しましょう。
それにはあの反乱『火星の後継者事件』があります。
事件が沈静化したのはナデシコが火星を占拠しておよそ2ヶ月ぐらい
最終的には半分近い離反者を出した統合軍は宇宙軍との対等合併。
さらに人体ジャンプ実験との関係も取りざたされて、
実質的には宇宙軍が統合軍を取り込んだ形ね。
宇宙軍に肩入れしていたネルガルは当然新統合軍の受注を受けられるわけ。
さらにジャンプ実験の被害者の一人テンカワユリカを単独で助け出したナデシコ。
結果世界で最も有名な船になり、ネルガルの知名度はうなぎのぼり・・・・
さらに、新統合軍もナデシコの武勇にあやかって同型艦を多数ネルガルに受注。
唯一の問題点だった、高度な能力を持ったオペレーターしか動かせない問題も
過去の実験データを元に、通常のIFSで船のオペレーティングが可能になったわ。」
「まぁね、ユーチャリスの実験データが思った以上によかったしね。
ナデシコの完成度は私たちの想像以上よ。」
何となくイネスの説明の補足をするエリナ。
イネスと共にいた時間が長い彼女に、どうやら説明癖がついたようだ。
いいことなのか、わるいことなのか・・・・
「あ・・・ところでユーチャリスはどうするの?
あれはさすがにまずいでしょう?
さすがにアキト君の破壊活動が合法化されても
被害者から見ればまさしく悪魔そのものでしょうね」
エリナはあれ以来ユーチャリスの事から完全に離れていた。
アキトの社会復帰のための下準備を始めたためだった。
「ええ、ユーチャリスはそもそも試験艦だったでしょう?
それに加えて、アキト君やラピスがムチャをしてもうボロボロ。
どっちにしろ廃棄は仕方ないわ。」
イネスはあのあとも、ユーチャリスやブラックサレナのサポートをおこなっていた。
整備などは出来ないが、二人に必要と思われる新技術をつぎ込んでいた。
「ブラックサレナは?
あれは悪魔ってよばれているのよ。
それなのに、最近新調したらしいじゃない?」
ブラックサレナはこれからどうなるのか疑問に思ったイネスはエリナに問う。
彼女は科学者であって経営者ではない。
最終的な処分は彼女たちが決めることになるだろう。
そして、彼女たちが決めた判断が正しい物であるという確信もある。
「そうよねぇ・・・・、
火星の戦いでかなり破損してたからあの後新調したのよねぇ。
あの事件の後始末もあったから必要だったし・・・・
それにイネスやウリバタケも新機能を、バンバンつぎ込んだからもったいないわねぇ」
エリナの頭の中にはせっかく高額な建造費をかけてけて新調した機体を
廃棄処分にすればプロスになんて言われるか?、でいっぱいだった。
「そうね、もう少しブラックサレナは実験したいわよね。
新型のオモイカネシリーズの実験にもなるし」
あのブラックサレナはイネスにとって、かなりの自信作である。
あの戦いの後アキトのことを思ったウリバタケが密かに改良に手を貸してくれたおかげだ。
友人達の思いがこもった『ブラックサレナ』というこの鎧は、
復讐の鎧という本来の目的とは違うのかも知れない。
「ふふ、ウリバタケも同じこといってたわ。
『これは俺の娘だ!!』ってね
まぁ新型サレナは、ウリバタケのカスタムメイドだものねぇ。
どうしようかしら・・・・」
「あのぉ〜〜会長の意見は聞かなくてもいいのかい?」
完全にのけ者にされたアカツキは寂しそうな目で二人を見ていた。
「・・・・・あなた会長する気あるの?
ボーとしているのが仕事だっていってたけど。」
エリナは冷たい視線でアカツキをにらみつけながらアカツキに答えた。
「いやぁ、僕もその話題に混ざりたいなぁと・・・・」
アカツキはエリナの攻撃的な目を見てびくびくしていた。
・・・・どっちが会長でどっちが秘書なんだろう??
「まぁいいわ、最終的にはあなたに任せようと思っているから。」
「あっそうそれならいいんだけどね・・・・」
今になって自分が会長だと言うことを思い出したアカツキは、本来の調子を取り戻す。
が・・・・・
「ついでに手続きなんかまかせましょうか?
あ、あと根回しもいるわね、さすがにコロニーを落とした機体だから
色々問題ありそうよね。」
「・・・・まさか仕事が増えるのかい??」
しまったやぶ蛇だ!!
アカツキの顔には顔にそう書いてあった。
「ええ・・・もちろん。
話題に入りたいんでしょ?
なら仕事はちゃんとしてもらわないと」
勝ち誇ったエリナが敗者アカツキを見下ろしていた。
「がぁぁぁ〜〜ん ヒューゥゥゥゥ」
真っ白になったアカツキが崩れ落ちていく中、
勝ち誇ったエリナが印象的な光景だった。
「・・・・さすがはエリナね。
アカツキの飼い方がうまいわ。」
そして最後にイネスの結論。