サレナ 〜希望の花〜 第四話 Bパート |
ナデシコ格納庫
ブラックサレナがナデシコの格納庫に入るやいなや、ものすごい歓声が響いた。
「うほぉぉすげぇぇぇぇぇ
こ・・・・これがブラックサレナってやつか・・・・・。
おうおうおうおうおうおうおうおう・・・・」
・・・・・あんなとんでもない力を秘めたブラックサレナが目の前にあるわけで、
ウリバタケが興奮するのは誰にでも分かっていること。
完全に暴走している班長をよそに整備班は着々とブラックサレナの着艦準備を進めていた。
「アキトアキトアキトアキトアキト・・・・」
もちろん、暴走する艦長もいつものことなので
アキトと連呼し艦内を疾走するミスマル ユリカを誰も気にすることはなかった。
ただ暴走する艦長を見た人たちは、その迷惑を一身に受ける
青年を哀れに思ったとか思わなかったとか。
シュン・・・・シュタ
黒い機動兵器のハッチが開き、エステバリスのパイロットに似合わない
黄色い生活班の制服をきた青年が降りてきた。
「うわっと・・・・
あ・・・テンカワ アキトただいまもどりました。」
完全に注目の的になっているアキトは、少し緊張して帰還の報告を済ませた。
「あきとぉ〜〜」
「ユリ・・ぐわぁ。
げほ げほ く・・・・苦しい・・・・」
ナデシコの艦長の熱い包容でアキトは、今日2回目の危機に直面した。
普段なら止めてくれそうなものだが、ナデシコクルーは黒いエステバリスに
意識が向いて、アキトのところまで気が回らない。
まぁいつものことだから・・・・
「すごいぞぉ〜〜このすべすべのお肌!!
あぁ機能美にあふれたこのフレーム」
「ありがとうございます。」
ウリバタケの真正面にウィンドウが現れた。
声から察するに、この機動兵器のAIだろう。
ただ、ウィンドウに写るのは黒髪の美女だったが・・・・
「あのぉ、あなたがサレナさん?」
ウィンドウには黒髪の女性が写っている。
「はいそうですが・・・・なにか?」
「いや・・・綺麗ですね・・・・」
格納庫にいるクルーが赤らめたり、嫉妬の目で見る中
サレナはやっと自分の姿に気がついた。
「綺麗??ああこの姿ですか・・・・
あの人のお節介ですね・・・・
これがあの人からの贈り物になるんでしょうか?」
たぶんこれはウリバタケが気を利かせたのだろう。
もちろん目の前にいるウリバタケではないが・・・・・
「でぇこれコンテナだよな?
ブースターにしちゃぁノズルがねえからな?」
そう今のブラックサレナを異様に見せる物は、何よりそのフレームだけではなかった。
ブラックサレナの背面に巨大な装置が取り付けられていた。
ウリバタケの指摘どうり、これはコンテナである。
「コンテナには何入ってるの?
結構大きいけど・・・」
「ああ、これはナデシコのみなさんへの贈り物です。
はい、どうぞ・・・・」
そうこの中には未来からこの世界に託された、思いが詰まっていた。
まぁ、中にはとても個人的な物もあったけど。
ドスッ・・・・
リョウコのエステバリスが手伝い、まるでリュックサックのように取り付けられていた
コンテナをブラックサレナから切り離した。
「うわぁ、このコンテナ結構大きいねぇ。
エステバリス一個分ぐらいかなぁ」
さすがにそれほど大きくはない、エステバリスの約1/4程度。
「これだけかついであんな動きが出来るのかよ・・・・
反則だぜ」
さらにナデシコ同様ディストーションシールドによって守られているため、
大気中でコンテナを背負っても空気抵抗の問題もないので行動には全く支障がないそうな。
「うふふ、この中に私が入ってたりしてね。」
自分が現れたときの状況を思い出すイズミ。
「あるかぁ!!」
エステバリスの中からツッコミを入れるリョーコ。
さすがにエステバリスでツッコミは入れられないが・・・・
「うぉぉぉ・・・・」
中をあけたとたん、整備班から歓声が聞こえた。
「こりゃぁエステ用の武器か?
すげぇぇ」
ウリバタケの興奮がピークに達した。
・・・・これ以上興奮すると、頭から血が噴き出すに違いない。
「うわぁぁこれ何?」
「きゃぁぁ〜〜」
女性陣にもなかなか盛況のようだった。
「・・・・・おい」
「・・・・・ものすごい大盤振る舞いですね・・・・。
いいんですかこんな物をもらっても・・・・。」
プロスとゴートもさすがにびっくりしているようだ。
プロスは特に珍しい。
「はぁ、私は何が入っているのか知らないので何とも言えませんが・・・・
これをナデシコの乗員に渡せとしか聞かれていないので。」
格納庫の熱狂ぶりには、さすがのサレナですら額から汗が流れていた。
まぁ、CGなんだけどさ。
「あれ・・・これなんだろう?
え?
アマノ ヒカル様へってわたしあてだぁ
あ・・・これ漫画用のトーンにペン・・・・
うわぁぁ欲しかったんだよねぇ」
「マキ イズミ様って・・・・
これは!!」
・・・・これほどギャグをいわないイズミも珍しい。
イズミの異様な状態をいち早く察知したのは、
やはりリョーコだった。
「おいイズミなんだよ。
なにがあったんだ??」
「『ギャグ大辞典』・・・・著者は『ナジャ』間違いない
すごい・・・・ホントにあったんだ。
ああっ、芸人の聖典がこんなところに・・・・」
完全にトリップしたイズミ。
イズミの手に取られているのは、小汚い分厚い本だったが・・・・
「おい・・・・イズミ・・・いつものダジャレは・・・・
そんなにすごい物なのか??」
そんなイズミを見て、リョーコはさらに驚いた。
イズミですらあんな状態にさせるほどの物がこの中に入っているのか?
ゴクリと唾を飲んでのぞき込んだ。
自分宛の荷物は上の方にあったらしく、苦もせず見つけることが出来た。
「っと、俺宛?
っち、データディスクかよ風情がないぜ。
あと・・・ん仕様書?
・・・・・
・・・マジかよ・・・」
最初は、もう少し違う物が出てくるかと思ったが
仕様書を見て納得した。
そして仕様書を見たリョーコは、すぐさまウリバタケの下へ走っていった。
「あのぉ、みなさん宛の荷物は届きましたかぁ?」
どたどたの中サレナの声が響いた。
「で、誰からなんです?この荷物・・・・。」
完全にご機嫌斜めのルリが氷の視線をサレナに送っていた。
「ふふっ、ルリルリすねちゃって。
ちゃんとルリルリの分もあったよ。
ちょっと小さいけどね。」
と小さな箱を見せるミナト。
ミナトの持っている箱は、今までナデシコクルー宛に送られた物とは違い、
きちんと包装されていた。
そのきちんと包装された箱は小さいながらも、かなりの存在感があった。
「・・・・なんですか?」
「ん〜〜と、データディスクと何かの箱みたい。
ふふっ、箱にはちゃんとリボンまでしてる。」
データディスクと箱渡したミナト。
「・・・・そうですか、中には何がはいっているんですか?」
開けた箱を開けようとしたときサレナが止めた。
「あルリさん・・・・ですよね?
待ってください。
その箱とデータディスクは後で一人で見てくれませんか?」
「?どうしてですか??」
すぐにルリが聞き返した。
自分宛の物だからあけるのは勝手でしょ?
という無言の視線を送っていた・・・・
「はい、その箱を送った人物が、恥ずかしいから一人で見て欲しいと。」
「ふーん、もしかしたらラブレターかもね。」
いきなりのミナトの問題発言に、どんちゃん騒ぎが一瞬止まり
クルーの視線がルリに集まった。
「え、え・・・・」
クルーの今までにない反応で、完全に固まってしまったルリ。
「ラブレターですか・・・・
たしか、愛しい人に送る手紙あるいはメールでしたね。」
「ええ、そうよ。
片思いの男の子がよく送る物ね。」
ラブレター・・・・メールの発達とともにさすがに古い言葉になってしまったが、
手紙がメールに取って代わってもラブレターはなくなったりはしなかった。
「片思い・・・ですか。
ではそれはラブレターかも知れませんね。」
「えぇぇぇ・・・・」
そう、これを送った人物は間違いなくルリを慕っていた。
淡い恋心もあったかも知れない。
「ふふっ、ルリルリ照れてる照れてる。
でもとうぜんよねぇ。ルリルリ可愛いから。」
ミナトはルリの今の年頃らしい反応を見て、にっこりしていた。
・・・・・・・・真っ赤・・・・・・・・
トマトのように真っ赤になってしまったルリは、しばらく固まってしまった。
そんな状況を身ながらやっとの事ウリバタケが落ち着いてきた。
まぁ落ち着いたといっても、興奮しているのには変わりないけど。
「すげぇなぁ、っておれの分がねえじゃないか。」
ごそごそごそ・・・
コンテナをあさるウリバタケ。
まるで残り物のバレンタインチョコレートを漁る悲しい男を連想させた。
そしてついにコンテナの奥にお目当ての物を見つけた。
「んあったぞ、えっと・・・サレナ&おまけにウリバタケ宛
おれはおまけかよ・・・・」
「は?私ですか?
なんでしょうか・・・」
頭の上にはてなマークが現れたサレナのウィンドウ。
これを作った人はかなりの遊び好きだったのだろう。
「きいてなかったの?」
ミナトがすかさず聞いた。
「ええ・・・・
少し楽しみですね。」
サレナの人間のような仕草に思わずほほえんだミナトだったが、
重大なことを思い出した。
「あ、そうだそうだ。
まだ私たちの自己紹介がまだだったわよね。
わたしは・・・」
「自己紹介はもう少し落ち着いてからでもいいですよ。
あちらの方もかなりうるさいですから。」
ミナトの言葉を途中で止めるサレナ。
「えぇ、そうね・・・」
ミナトが向いた先には、自分宛の荷物をさっさと引き上げていく笑うウリバタケが見えた。
その笑い声だけで、1メートル先の声ですら聞き取りずらい。
「アキトォ〜〜 うぅぅぅ・・・・
ホントにホントに心配してたんだからね!!」
「く・・・・苦しい・・・」
さらに、サレナのウィンドウが向く方にはこれまた(ナデシコの殺人スピーカ)ユリカの
大声がこだましていた。
「そうね・・・・でも一体いつになったら落ち着くのかしら」
さすがにこれほどの大騒ぎがいつ終わるのかミナトすら分からない状況だった。
「・・・・・2時間は続きそうですね。
・・・・2時間って、大変!!
ああっ、早くユリカさんを止めないと・・・・
私のマスター、ホントに死んじゃいます!!」
そりゃぁあのまま2時間いたら死ぬかも知れない・・・・