サレナ 〜希望の花〜 第二章 第一話 Bパート

 

 

前線基地の就任式典で、ほぼ全ての人の思考が一時停止した。

いくら死線を彷徨う様な戦場の兵士達であっても、

軍の常識が当てはまらない事態には、さすがに驚いたらしい。

いや、一般常識でもあり得ない。

民間人ならともかく、戦艦の艦長が晴れ着で出てくるなんて・・・・・

もしかしたら、「びっくりテレビ」と勘違いしたかも知れない。

 

「ミスマルユリカです初めまして・・・・」

いつぞやの晴れ着姿で周りの非難の目を浴びつつ、

全く意にしないその姿は、クルー達にため息をつかせる。

もちろん感動したわけではない。

 

「よろしくおねがいします。」

顔に斜め線が幾筋も入った基地の司令を始め、ユリカの前に立つ

前線基地のメンバー達は返事をするので精一杯だった。

一部には周りに視線を向けながら、本当にテレビカメラがないか探している者もいた。

 

「・・・・・大丈夫なのか?」

「はぁ、一応戦艦ですからここらの兵器よりは

かなり優れているとは思いますので、頼りにはなるとおもいますが・・・・」

「・・・・艦長があれじゃぁなぁ・・・・」

「はぁ・・・・、とっておきの援軍などといって本部の奴らめ・・・・」

頭を抱える者、顔を真っ赤にしている者など駐屯地の軍人の反応は様々だった。

たとえいくつもの輝かしい功績があろうとも、実物を見ている者にはその功績も全く意味がない。

多種多様の考えが渦巻いているが、ナデシコに対して疑問符がついた事は確かだろう。

 

「・・・・しかし、彼らは火星から無事脱出し、さらに

月軌道解放戦において多大の功績をしているのだ。

このまま無下にするわけにもいかん。」

「・・・・はぁ・・・・」

「・・・・まぁあとは会議で・・・・。」

ユリカの暴挙に完全に寝耳に水の軍人。

水面下では着々と話しが続いていた。

 

 

「全く、戦場というものを全く意識しておらん。」

「・・・・まぁそうでしょうね、あれじゃぁねぇ・・・・」

「そうだ! そうだ!」

「ここを遊園地かどこかと勘違いしているぞ。

あんな奴らホントに役に立つのか?

結局あいつらの尻拭いをする羽目になるんじねーか?」

「・・・・全く面倒な奴らだな。

かといってそのまま追い返すわけにもいかん。」

「ああ、まぁナデシコという最新鋭の戦艦に乗っているんだ。

戦艦ぐらいはまともだろうよ?」

「「「そうですね。」」」

周囲からはナデシコの実力を疑問視する意見が続出していた。

クルー達に聞こえる声ではなしているわけではない。

しかしこれを聞いたとしても、いつものことなのでクルーは何も思わなかっただろう。

その後、式典は慎ましく進む。

ユリカはトンデモ艦長だけど、一応お嬢様なのだ。

ちゃんと式の礼儀作法は分かっていたらしい。

 

 

 

式典終了後のブリッジ

 

「・・・・・・(青筋)」

「あははっ、やっぱりどんなときでも正式な式典には晴れ着できまりっ。」

プロスの冷たい視線を浴び、少し顔を引きつらせた笑顔を振りまくユリカ。

しかしプロスの視線は弱まるどころかさらに、鋭くなっていく。

 

「軍隊の式典と一般の式典を一緒にしないでください!!」

普段吠えないプロスが吠える。

滅多に怒らない人が怒るとかなりの迫力である。

ユリカは完全に縮まってしまった。

 

「はうぅぅぅ〜〜」

ウルウルと瞳に涙を浮かべるユリカ。

ただ、ユリカの涙は悲哀感が漂うというより、コミカルという方が正しいのかも知れない。

 

「ねぇねぇルリルリ?

私たちってやっぱり舐められちゃったかなぁ・・・」

そんなユリカとプロスのやりとりを遠くから見ながらミナトがルリに問いかけた。

 

「・・・・何で私に聞くんですか?」

少しムッとして振り向く。

ナデシコを馬鹿にされたというのは、ナデシコが全てのルリにとっては

自分を馬鹿にされるのと同じだ。

だからかなりむかついていた。

 

「いや何となく子供の視点から・・・・」

メグミが答えようとした時、ルリが言葉を止めた。

 

「私子供じゃありません、少女です。」

こう訂正しておかないとなぜか落ち着かないルリだった。

 

「あ・・・そうだった、そうだった。

少女の視点からみて、今のナデシコってどう見える?」

はっと気がついて訂正するミナト。

ルリの女心を分かっているのだろう。

 

「・・・・・バカばっか」

はっきりと言葉を紡ぐルリ。

この台詞はルリのお決まりだが、ここまではっきりとした台詞は滅多に聞けない。

 

「「同感」」

このときばかりはルリの台詞がよく似合うと思うミナトとメグミだった。

 


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