機動戦艦ナデシコSS

サレナ 〜希望の花〜
第二章
 新しい未来へ
第二話 Aパート  一時の休息、好きなおかずはなんですか?

 

「ルリルリ、もうそろそろお昼だって。

一緒に食べに行かない?」

ウィンドウの時間を確認して、ミナトは席を立つ。

それを見てメグミも席を立った。

 

「いえ、私は艦長に頼まれた仕事が残っていますから・・・・」

ルリは先ほどからジッと一点を見つめて、ミナト達の呼びかけにも席を立とうとはしない。

先ほどからユリカに頼まれた、情報の整理を続けていて手が放せない。

 

「うーん、そうだったわねぇ。」

「艦長はルリちゃんに仕事を任せて自分だけお昼食べにいきましたよ。」

ミナトが残念そうにそしてメグミが気の毒そうにルリを見る。

不意にウィンドウに映る文字の速度が遅くなり、それを見ていたルリが

ミナトとメグミに顔を向けた。

 

「私は結構ですから、お二人さんどうぞ。」

「ん〜〜じゃぁ私たちは先に行くわね。」

元々食べ物にあまり執着しないルリは、ミナトの誘いを断り先ほどからの仕事を始めた。

 

「はい、行ってらっしゃい。」

そうして二人はウィンドウを見つめるルリを残して食堂へと向かった。

 

 

二人がブリッジを出た後もルリは黙々と仕事を続けた。

「・・・・・パターン127チェック・・・・」

「パターン127該当無し」

 

「・・・・・パターン128チェック・・・・」

「パターン128該当無し」

 

「・・・・・パターン128チェッ・・・・・」

不意にルリの手が止まり、顔を上げた。

ルリの前にはチャーハンを持ったアキトが立っていた。

 

「ルリちゃん、仕事頑張ってるかい?」

アキトは腰を少し落とし視線をルリの高さに合わせ、

ルリの目をジッと見つめた。

 

「・・・・・?

アキトさん、何か用ですか?」

だが、そんなアキトの好意も全くルリには伝わらず、

アキトは冷たい視線でにらみ返されてた。

 

「う・・・・

いやね、ルリちゃんが仕事中だからちょっと出前にね。」

 

「私、出前なんか頼んでいません。」

ユリカに頼まれた 『西欧地域における無人兵器の移動及び攻撃地点の整理』 という

仕事が途中ではやめられないため、食堂には出前を頼まなかった。

チューリップだけの移動の整理なら大した量ではないのだが、

小型のバッタ全ての情報も整理しなければならないため、きわめて膨大な仕事量である。

さらにユリカが今日中に知りたい、と言うことで期限を3時間としたため食事どころではない。

オモイカネの力をフルに使っているため、途中での一時停止が難しいため

仕事が終わるまでルリのサポートが必要だった。 

 

「ははは・・・・いや、ミナトさんがねルリちゃん心配してたから

僕が様子を見るついでにね。」

 

「人間一食ぐらい抜いても死にませんよ。」

ルリは少しムッとしているようだ。

ミナトらしい行為だが、

今のルリには『いらぬお世話』と取られても仕方なかった。

 

だめだって!!

育ち盛りなんだからちゃんと食べないと!!

食事に関してはアキトは強かった。

ルリぐらいの年齢の少女が、一日三食の食事を抜くというのはあまり好ましいモノではない。

アキトは食事を軽視しているルリに対して強い口調で注意した。

 

「は・・・・・はい」

さすがにこれには面食らったのか、一瞬ビクっと体をふるわせた後ルリは素直にうなずいた。

滅多に怒らないアキトが怒ったからこそ聞いたのかも知れない。

 

「じゃぁ仕事いったんやめて、お昼にしよう。」

ふぅ、と一息入れて心を落ち着かせた後アキトは、

さっきの言葉がルリを怖がらせたと思い出来るだけ優しい口調で話しかけた。

 

「あ・・・でもこの仕事今手が放せないんです。

途中で中止するのも難しいですから・・・・」

この計算は途中で止めるとまた再開するためには1時間以上の時間がかかる。

期限はささやかな余裕はあるのだが、1時間のロスは痛い。

ルリは食事のために自分の仕事をおろそかにするのは絶対にイヤだった。

 

「うーん、ユリカのやつルリちゃんに仕事を押しつけて・・・

まったく・・・」

アキトはぶつぶつとつぶやいている。

 

「うーん、どうしよう。オモイカネ一人じゃ無理なの?」

アキトはしばらく考えていたが、全く良い考えが浮かばないので

オモイカネに聞いてみた。

 

『ちょっと難しい・・・・途中で止めたらはじめからやり直さないといけないし・・・・』

・・・・だからオモイカネに聞いても・・・・・

 

「うーん、じゃぁ後どのくらいかかる?」

 

「後2時間ぐらいですね。」

 

「うーん、うーん・・・・」

ご飯を食べろと言い出した訳だが、これではどうしようもない。

ルリもまた始めからやり直すのはいやだろうし・・・

 

 

「2時間したらちゃんとご飯食べますから・・・」

 

「でも持ってきた出前もったいないなぁ。」

 

「じゃぁアキトさん食べちゃってください。」

 

「いやね、二人分用意してたんだよ。

ルリちゃんと一緒に食べようかなって・・・・」

ははっ、と少し照れながらアキトが二人分のお弁当を見せた。

ふぅ、とルリの軽いため息。

 

「・・・はぁ、でも今手が放せませんから・・・・

誰かもう一人オペレーターがいればいいんですけど・・・・」

このルリのつぶやきは、アキトにあることを思い出させた。

良い考えを思いついたアキトはすぐに行動に出る。

 

「そうだ!!ちょっと待っててね。」

そういって、コミュニケで誰かを呼び出そうとするアキト。

そんなアキトをボーっと見つめるルリ。

 

「はぁ・・・」

 

「サレナさんちょっといいですか・・・・」

 

「はい・・・・」

 

「じゃぁそういうことで・・・・」

どうやらサレナと話していたようだ。

ブラックサレナのAIをリンクして処理速度を上げるのかな?とルリはひらめいた。

だけど、それではせいぜい2倍程度しか速度は上がらない。

2時間の半分1時間はかかってしまうだろう。

それに初期設定だけでも1時間以上はかかる。

これじゃぁ意味がない。

 

「サレナさんをどうするんですか??」

たぶん無駄だと思いつつ、ルリはアキトにどうするか聞いた。

 

「いやルリちゃんの代わりにオペレートをやってもらおうかなって・・・・」

だが、アキトの答えはルリの考えとは全く異なる物だった。

 

「あのぉ〜〜、サレナさんはコンピューターですよ?

コンピューターがコンピューターのオペレートなんて・・・・」

この突拍子もない考えに、目が点になるルリ。

そんな滅多に見ない表情を見てアキトはクスリと笑う。

 

「うーん、僕も変だと思うんだけど・・・・出来るらしいんだよ。

確かブラックサレナの説明書にもちゃんと書いてあったよ?」

言った本人がなんだが、アキト自身にも信じられないのだ・・・・

 

「はぁ、・・・・ムチャクチャですね」

 

「はは、だね」

二人の意見はほぼ一致していた。

 


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