ルリがブリッチから出て行くのを確認したプロスとバイツ、ゴートの三人は小さく頷くとそれぞれの持ち場に戻った。ゴートは顰め面をしてブリッチで佇み、プロスはブリッチ勤務の為その場に残った。バイツは休憩に入った為取り合えず腹ごしらえをするため食堂へと向ったのだった。

「オモイカネ、アオイさんとムネタケ副提督の動向に注意して見てて」

ルリは部屋に戻りながらオモイカネに指示を出すのであった。「それと、逐一アキトさん、プロスさん、バイツさん、ゴートさんに連絡を入れて」と告げ部屋に戻るのであった。




















機動戦艦ナデシコ
Lone wolf
第二話:緑の地球…中編






















オモイカネに監視されている事など露知らず、ジュンはムネタケと話をしていた。
どことなしにジュンは周りを気にしながら小声で話し合っている。あまり人通りの多くない通路際で離している為、人目につくことはめったにないと思うのだが、それでも用心にこしたことはないからだ。とは言え、オモイカネを通じてその様子は4人に対して筒抜けであるのだが…。

「やっぱり僕は…」

ジュンが言葉を濁すようにして言い澱んだ。冴えない表情から戸惑いが見て取れる。生来気が弱いのかもしれない。そんな印象を持たせるジュンの雰囲気が益々際立っている。

「しっかりしなさいよ副艦長!アタシがこんな事になって、アンタが頑張らないといけないのよッ!?」

ムネタケの言うこんな事とは、無論バイツによる投げっぱなしジャーマンスープレックスが原因だ。とは言え、完全に首がひん曲がっていたにも関わらず復活したムネタケの回復力には目を見張るものがある。

「でも、ユリカを裏切る事に…」

「あーっ!じれったいわねぇ。良い事?こんな戦艦を民間企業が持って良い筈ないでしょう?それに艦長の父親はこの事を承諾してるのよ?あの艦長だって、父親の言う事なら聞くに決まってるじゃない!」

言い澱むジュンにムネタケは、怒りを露にしてキーキー騒ぎ立てる。そんな大声で騒がれたらわざわざ人通りの少ない場所を選んでも意味がない。ジュンは、慌てて自分の口元に人差し指を当て黙るようにとジェスチャーをした。

「コウイチロウおじさんが承諾してるのは僕だって知ってます。さっき通信が入りましたし、ただ僕が不安なのは、ユリカがどうなってしまうか、って事です」

「艦長は親のコネですぐにでも昇進するでしょ。例え先の初戦がまぐれにしろ実力にしろコレだけの戦艦をみすみす民間に渡す事なんてないわ」

ムネタケはそう言ってナデシコの壁をコツンと叩いた。ナデシコの機動性能は目を見張るものがある。実際の戦闘を目にしたわけではなく、後に映像を確認したのだがそれだけでもナデシコがいかに強力な戦艦か手に取るように解った。特にあのグラビティブラストと呼ばれる主砲。一瞬で数多の蜥蜴を屠ったのだ。それを確認したムネタケはどうしてもナデシコを手に入れたくなった。

「コレを持っていけばアタシの昇進は間違いないわ。それに、あわよくばトカゲに一泡ふかす事も可能…」

「ですが、副提督。ナデシコがいかに強力でも、扱う人間にもよると思うんですが…」

「解ってるわよ。ナデシコのクルーは確かに優秀ね。でも、良く考えてもご覧なさい。
 所詮は烏合の衆。なんの実戦経験もないひよこの集まりよ。中には違うのも何人か混じってるみたいだけどね。
 それにしても、それをカバーできるほどの人数じゃないわ。ミスマル艦長も確かに天才。認めるわ。
 …でもねアオイ副艦長。卓上の計算と実際の戦闘は違うの。
 どんなに卓上の計算が素晴らしかろうと、実戦で活かされなければ意味を持さないわ」

ジュンは目を見開いてムネタケを凝視した。「こんなふざけた髪形をしたオカマが何まともな事言ってやがんだ」と少しばかり思ったりしたのは心の中に秘めておく事にして、この男も曲りなりに親の遺伝子というものを受け継いでいるのだと思った。

「御言葉ですが副提督、初戦は卓上の計算ではなく実戦です」

「そうね。でも、人は死んでないわ。コレは戦争なのよ?何時誰が死ぬかわからない。
 それはもしかすると友人かもしれない。
 さっきまで話してた同僚かもしれない。
 家族だったり、恋人だったりするかもしれないわ。
 戦争にはね、余計な感情は必要ないのよ。使える物は使う。使えない物は切り捨てる。果して、ナデシコのクルーにそれが出来るのかしら?
 人の死に直面して今まで通り戦争に出る事が出来るのかしら?」

ムネタケの言葉にジュンは言葉を詰らせた。自分だって、直接に人の死に直面した事はない。軍に入った事も単に言ってしまえばユリカの追っ駆けだ。確かに、軍に入れば幼い頃に憧れた正義の味方になれるかもしれないと密かに思ってもいた。だが、自分にはそんな度量がない。乗り越える壁に直面した事もない。もしかするとあるかもしれないが知らず知らず気付かぬフリをして避けているのだろう。幸い、戦時下にも関わらず親しい知人は皆無事だ。果して、自分もそう言った局面に遭遇した時、乗り越える事が出来るのだろうか?ジュンはそう思い、下唇をぎゅっと噛み締めた。

「それが出来る人間なんて、稀にしかいないわよ。だからアタシ達はそれを守るのよ。
 その為にはね、コイツが必要なのよ。たった一隻、されど一隻。戦況が変るだなんて安易に思わないわ。
 だからせめて、コイツを軍に引っ張ってトカゲ達にアピールするのよ」

ムネタケはナデシコを叩きながらジュンを見た。ジュンは俯いたまま拳を握り締め呟いた。

「…ナデシコは神輿ですか」

「その通り。軍に持っていけばナデシコクラスの戦艦を量産する事も不可能ではないわ。
 金銭面でかなりの苦渋を強いられるでしょうけど、それは仕方ないわ。
 別に、ナデシコ乗っ取りも今でなくて良いのよ。もっと活躍してからでも良い。その方が神輿としては最適ね。
 それだけトカゲもナデシコを襲ってくる。でも、そうしてしまえばナデシコを徴収する事が難しくなるわ。
 活躍するって事は烏合が烏合でなくなり、ひよこは成長してしまうでしょうね。そうなってしまえば乗っ取りは難しいわ。
 まして、活躍する事態が増えると言う事は、それだけトカゲと遭遇すると言う事よね?
 そんな状況でナデシコが消えたら戦況が悪化してしまうわ。…ベストなのよ。今の状況が」


ムネタケの話を黙って聞いていたジュンは、それを聞き終えると消え入るような声でムネタケに聞いた。

「僕に、何をしろって言うんですか?」



「貴方は、艦長を説得したら良いのよ。青臭い理想主義者に汚い仕事なんて無理よ。アタシだってこんな所で終わりたくないわ。
 もっと贅沢したいし、良い目を見たいわ。ま、アタシの場合は理想とは程遠い欲望だけどね。
 良いじゃない。欲望だって、欲望がない奴なんていないわ。そんな奴は絵空事を本気にしてる世間知らずよ。
 貴方はアタシの事嫌いなタイプでしょうね。でもね副艦長。クズにはクズの意地と誇りがあるのよ」

ムネタケはそう言うと、腕につけたコミュニケに向って各所に配置した部下達に交信した。
そんな様子をジュンは茫然自失といった表情で漠然と見る事しか出来なかった。



──僕の意地や誇りって…なんだろう…










オモイカネを通じて、克明にその様子を見ていたアキトやバイツ、プロス、ゴート達はそれぞれのいる場所で様々な感慨を持った。アキトは、元々軍に対してあまり良い印象を持っていない為だろう。苦々しくその様子を見ていた。



──そんな勝手な都合で…!また火星を裏切る気かよっ!



アキトはぎゅっと拳を握ると険しい表情で地面を殴った。ドン!と言う音が近くにいたウリバタケの耳に入り、何事かと振り向いた目に入って来たのは地面を殴った拍子にズル剥けたのだろうアキトの手から鮮血が流れ出していた。

「お、おい!アキト何やってんだ!?」

「ちょっと、ムシャクシャして…」

ウリバタケの驚きの叫び声にアキトは複雑な苦笑を浮かべ答えた。地面から離された手からは血が滴り、痛々しい。

「痛くねぇのか?って、痛いに決まってるよな」

「…痛くないんスよ。昔、ちょっとあって痛覚が麻痺しちゃったんです」

アキトはそう言ってポケットにある筈のハンカチを探した。そう言えば、ユリカに渡したままだと気付いたアキトは首から下げているタオルを手に巻きつけようとした。

「おい、ちょっと待ってろ。整備のタオルなんか傷口に当てたらばい菌が入るぞ。油とか汚れが酷ぇからな」

ウリバタケはそう言うとその場を離れ、整備室に入って行った。暫くたって戻って来たウリバタケの手には包帯と傷薬が握られていた。
ウリバタケは消毒液をアキトの手に塗ってから、器用に包帯を巻きつけると睨むようにしてアキトを見た。

「別によぉ、物に当るなとは言わねェぜ。でもよ、お前のやってる仕事は手が命だ。料理にしろ、整備にしろ、エステを使うにしろな。アキト、料理人は手が命なんだろうが。だったら、痛みが無いってもそれだけはやっちゃなんねェ」

「…すいません」

アキトは素直に頭を下げた。一瞬我を忘れ、憤怒したからと言って料理を作る手を傷つけてしまった。しかも、それを自分ではなく他人であるウリバタケが真先に気付いた。失念していたとは言え、いや、失念した自分が恥かしかった。

「ま、気ィ落すなや。人間、間違いはあらーな」

ウリバタケはそう言って豪快に笑った。そんなウリバタケをアキトは羨ましそうに目を細めてみていた。


──…良い船だよな。ナデシコって…絶対に軍の好きにはさせない


ウリバタケはひとしきり笑った後に手を叩いて「そうそう、出来たぞ。アレの修理」といって整備室に戻り、暫くたってから包みに入った何かを手渡した。

「ほら、あの暑っ苦しい馬鹿の宝物って奴だ」


「あ、そう言えば頼んでましたね」


アキトの爽やかな微笑みに混じって聞こえた台詞にウリバタケは引き攣った笑みを浮かべた。アキトは「申し訳無いんですけど」と言葉を続けソレをバイツに渡すように頼んでいた。何故、自分で渡さないのかとウリバタケが聞くと「だって、俺はそんなの無いって言ったような気がするんで」と言って頭を掻いた。

「まぁ、釈然としねェケドいいぜ。じゃ、渡してくらぁ」

ウリバタケは頭を掻きながらアキトから再び包みを預かり格納庫を後にした。
アキトはウリバタケを見届けると天を仰いでポツリと呟いた。



「俺、中身見ちゃったんだよな…」













その頃バイツはと言うと食堂でキムチチゲを食べていた。オモイカネから送られてきた映像は食事をしながら見ていた。バイツはムネタケとジュンの様子をチラリと一瞥すると、傍を歩いてきたエリにお代りを頼んでいた。

「あ、ネェーチャン。それとビール」

バイツはそう言うとコミュニケの様子を見る。


──理想ねェ…。どうでも良いけどな


フンッと鼻で笑うとバイツは頭を掻いた。アキトはどうせ歯痒く思っていることだろう。そう思うとコイツ等軍人もアキトの復讐対象なのかと思う。


──ま、どうだってかまやしねェか。価値観ってのはそれぞれだからな


そう思って目を閉じたバイツは、ふと自分の価値観とは何だろうかと漠然とした疑問を持った。しかし、すぐにそれすらもどうでも良くなった。考える事も億劫だ。自分が生きる価値など遠の昔に捨てた。今では大概、生きる事さえ面倒に思えてくる。
それでも生きているのはアキトやルリ、…ラピスがいるからだ。ルリはネルガルで初めてアキトと出会いお互いの境遇からか、打ち解けるまで時間はさほどかからなかった。だが、ラピスはルリの遺伝子から産まれたクローンであり、オリジナルと比較され続けた。


──どちらにせよ、あいつ等にとって良い記憶ではないな


どちらかと言えば忘れたい記憶だろう。あの二人は共に試験管の中で生を授かった。ラピスは優秀な”実験体”のルリから作られた。境遇はルリよりもアキトに近いだろう。まだ幼い自我も芽生えないようなラピスは様々な実験をされていた。ルリとラピスを作ったのは自分が籍を置いているネルガルだ。アキトもそれは知っている。ネルガルに対して憎悪も抱いているだろう。
バイツは小さく頬を歪めると目を閉じたままポツリと呟いた。



「…大概、恨みが多いな」



アキトには自分に恨みは無いといった。それは嘘ではない。確かに恨んだ時期もあった。自分もアキトやルリ、ラピスと同じ実験体にされたのだから。それは以前に籍を置いていたクリムゾンだ。クリムゾンに捕縛される前は裏世界で暗躍していた。一寸した気の緩みをつかれ呆気なく連行されてしまった。多勢に無勢と言うのもあったかもしれないがそれでも当時は情けなく思ったものだ。そこで受けた実験で色々恩恵もあった。アキト達からすれば要らない物に違いないだろうが、元から裏世界に身を置いていた自分にとっては有難い飛躍的進化だった。遺伝子も色々弄くられた。それによっての後遺症…いや副作用と言うべきか。戸惑いもした。恨みもした。だが、それもどうでも良くなった。
途中で、それが気に入ってしまったからだ。


バイツは閉じていた目をゆっくりと開けると煙草を咥え火をつけた。基本的に禁煙だが無理を言って喫煙席も設けてもらった。食後に煙草を吸いたくなってわざわざ喫煙場所に赴くのが億劫だったからである。


「外道ねぇ…違いないな」


クックとバイツは喉で笑う。そこにエリがお代りのキムチチゲとビール…ではなく良く冷えた麦茶を持ってきた。

「すいません。ビールはちょっとダメみたいです」

エリはそう言ってすまなそうに頭を下げた。バイツは「別に構わないさ」と言うと麦茶に口をつける。キーンとした爽やかな冷たさが喉を通過する。
エリが戻ろうとした所にバイツは「なぁ、アンタ」と声をかけ、振り向いたエリに言葉を続けた。

「アンタ、この船の事どう思う?」

バイツの質問に真意を量り兼ねたのか、エリはきょとんとした表情でバイツを見返した。バイツは苦笑すると「言い方を変えよう」と言い、丁度横を歩いて来たホウメイに「この子借りるぜ」と言った。ホウメイは「暇だから構わないよ」と二つ返事で了解しそのまま厨房に入って行った。

「知っての通り、ナデシコは戦艦だ。俺が聞きたかったのは、それをどう思うかって事さ。民間人が殆どを占める戦艦なんて世界広しと言えどコイツだけだろう」

バイツがそう言うとエリは暫く考える素振りを見せ、おもむろに口を開いた。

「何か、したかったから…。指をくわえて見てるだけって言うのは私は嫌だったから。確かに、私達は民間人です。でも、民間人の苦労や気持ちは軍人にはわかりません」

「一理あるな。だが、軍人の苦労や気持ちは民間人には解らないだろう?」

バイツがそう言うとエリはキッと眉をひそめきつい口調で語気を荒げた。

「軍人が何をしてくれるって言うんです!?戦争戦争戦争!うんざりですっ!」

「だから、コイツも戦艦だと言った。だから、どう思うか聞きたいんだ」

バイツは諭すかのようにゆっくりと言う。灰皿に置かれた灰の貯まった煙草を手に持ち、灰を落すと一吸いする。ふぅっと煙草の紫煙が昇り、沈黙が支配した。

「…まぁ、良い。忘れてくれ。それぞれ思いがあるだろうからな」

バイツがそう言うとエリは憮然とした表情で立ち上がりその場を後にした。バイツはその後姿を見送ると自嘲気味に苦笑した。


──俺も随分お節介なもんだ。あいつ等のおかげか、所為か…


バイツがそう思いおもむろにキムチチゲを口に運んだ時、入り口から男の大声が聞こえた。思わず、レンゲで前歯を強打したバイツはテーブルに突っ伏して悶えていた。



「にぃちゃん!探したぞッ!」



ぜぇぜぇ肩で息をしながら叫んだ男はウリバタケだった。そのままバイツの机の傍に歩み寄ると麦茶を一気に飲み干す。そしてバイツの目の前にアキトから言付けられた包みを渡すと「コイツをあの暑っ苦しい馬鹿に渡してくれってアキトからの伝言だ。確かに渡しかからな」ろ言ってそのまま帰っていった。バイツは痛む前歯を気にしながら包みを手に取った。何やら中に堅い物体が入っているのは確認できたが、それが何か知る由もない。因みにエリはと言うと憮然としたままの表情で厨房にいた。

「何なのアイツ!?お節介な奴!」

そんなエリを苦笑しながらエリがたしなめていた。それでもエリの不機嫌は直らないらしくホウメイガールズの4人を困らせていた。そんな様子を見ていたのだろうホウメイはエリを見ながら優しく言葉を投げかけた。

「純粋に疑問に思ったんだろうさ。民間の戦艦なんて、そうそうあるもんじゃないしねェ」

その後にホウメイは苦笑しながら「でも、あんな尋問めいた聞きかたしなくてもねぇ」とバイツを眺めた。バイツは食事を終えたのかじっとコミュニケを見て佇んでいた。ホウメイにつられるようにしてバイツを眺めたホウメイガールズもバイツのそんな様子を見ていた。



──さて、相手さんはどう出てくるかな?



バイツは興味深そうにオモイカネに監視されているジュンとムネタケに視線を注いだ。ブリッチにいるプロスとゴートもそれを見ており、プロスの結論では「軍と事を構えるのは後々面倒な事になる為、ここは相手の出方を見ましょう」と通信をいれた。続けて「まずはわざと乗っ取りをさせましょう。ブリッチはその時に占拠されてしまいますがこちらで時間を稼ぎます。他部署の解放を優先してください」と伝えた。

アキトは渋々ながらもそれに従い、バイツは手をひらひらさせて承諾した。
そして、暫く立ちブリッチは雪崩込んで来た軍人達に占拠されたのだった。


「困りますなぁ、既に軍との調停は結んだ筈ですが」

銃をつき付ける軍人にプロスが眼鏡を直しながら言う。それに対してムネタケはしたり顔でフフンと鼻で笑う。

「約束なんて、あてにしては駄目よ。それより、来るわよ」

そう言ってムネタケが見たメインモニターの映像に軍の戦艦が映し出された。
そして、ムネタケが通信を繋げるように言う。プロスはオモイカネに通信を繋げるように伝えた。

それと同時に相手艦の代表者がモニターにあらあれた。



「お父様ッ!?」



ユリカが叫び、モニターを見たクルー達の目には立派な口髭を生やした奇妙な髪形をした男が映し出された。





「おおお!ユリカーーーー!!

 
暫く見ない内にこんなに立派になってぇえええ!!」






「嫌ですわ。お父様、一昨日まで一緒だったじゃないですか」

メインモニターに号泣しているユリカの父、ミスマル・コウイチロウがどアップで映し出される。流石のプロスも一瞬固まったが、すぐに復活すると少しずれた眼鏡を直しつつメインモニターに歩み寄りコウイチロウに離しかけた。

「これはミスマル提督。困りますな、ナデシコはネルガルが私的に使用するということで承諾されたはずですぞ」

「状況は変ったのだよ…。我々は即戦力が欲しいのだ」

プロスの批判にコウイチロウは表情を崩さずそう言い放つ。ユリカはジュンが説得にかかっていた。

「ユリカ、おじさんが正しいよ。ナデシコは軍が使うべきだ。戦争は軍人がすれば良い。民間人が戦争に参加する事なんてないんだ」

「で、でも…」

ユリカが言いよどんでいるとプロスがジュンとユリカに向って言った。

「艦長。軍の言い分を聞く理由などありません。副艦長も、軍に肩入れするのは契約違反ですよ」

そして、その間にムネタケが部下の軍人に合図を送った。それと同時に軍人の銃口がブリッチクルー達に向けられる。

「言う事を聞きなさい。出来れば手荒な事はしたくないのよ」

銃口を向けられた事など初めての経験なのだろう。メグミやミナトは青い顔をして言葉を失った。フクベは椅子から立ちあがるとコウイチロウ睨みユリカに厳しい声で言う。

「言う事を聞く事などないぞ艦長!我々は軍人ではないのだ!」

「フクベ提督!これ以上生き恥を晒す気ですか」

その後、コウイチロウの泣き落としとジュンの説得でユリカはナデシコの機動キーを抜いてしまった。何故かと言うとコウイチロウがユリカとナデシコのキーを預かると豪語したからであり、その交渉にプロスが行く事になった。因みにジュンも連れていかれ、ブリッチにいたクルーや整備班の面々、ナデシコクルー達は食堂などへ押しこまれたのだった。因みにルリとラピスはオモイカネのロックがとかれた為、中から鍵をかけたのだった。


「あーあ、これで終わりか」

クルーの一人がそう呟くとあたりからも似たような溜息が洩れ始める。そんな中、熱血するヤマダ・ジロウがいた。



「なんだなんだ!

 そんな
辛気臭い面しやがって!
 
俺が元気が出るものを見せてやるっ!」





ヤマダ・ジロウはそう言うとどこからか旧式のビデオデッキとビデオカセットを取り出した。それに興味を引かれたホウメイガールズが一人タナカ・ハルミがそれを聞いている。

「なんですか?それ〜?」



「おう!よくぞ聞いてくれた
ナナコさん!!






ハルミの言葉にヤマダ・ジロウは嬉々として振り向き説明を始めた。因みにヤマダ・ジロウが言った「ナナコ」の所に疑問を持った者も大勢いる。

「ナナコって誰よ?」

「さぁ?」

「てか、誰だアイツ?」

などと、なかなか酷い言われようなヤマダ・ジロウは憤慨していた。ウリバタケは旧式のビデオデッキの配線を繋ぐのに手間取っていたが漸くそれを繋ぎ、ヤマダ・ジロウに話しかけた。

「おい、ヤマダ」



「違う!
俺の名はダイゴウジ・ガイ!
 
解ったか博士!間違えてくれるな!
 
!!だッ!」











「あ〜解った解った。それでよ、入れるテープ渡せや」

するとガイはテープを何故か回転させながらウリバタケに渡した。
ウリバタケが「一体何が入ってんだ?」と呟くと、ガイはにやりと笑い「その中には
俺のバイブル!ゲキガン…ゲキガン…うおおお!!俺のガンガー3ーーーッ!」と漢泣きを始めた。

バイツは渡すのってそれか?と思いながらアキトを見る。アキトはイライラしているらしくそれ所ではないようだ。バイツは苦笑し、ガイの肩を叩いた。

「おい、ダイゴウジ。アキトからなんかお前にって渡された」

バイツがガイに包みを渡し、ガイはそれを手にとって確認した。中には硬い超合金の造形物が入っている。それは、なくした何かの形に酷似している。ガイは目を輝かせ包みを急いであけた。その瞬間、ガイの顔はメデューサに睨まれたの如く石化する。
ぴくぴくと口元を引き攣らせ、途端に大声で号泣し叫んだ。







「ウォオオオオン!!違う!違うッ!
なんで、なんで俺のガンガー3が
マジン○ーZになってるんだァーーーーーーッ!!!!???
ウォオォォォォーンッ!」









その心の号泣を聞いたウリバタケはボソッと呟いた。

「アレって○ジンガーZじゃなったのか…?」

その呟きをガイが聞かなかったのが不幸中の幸いかもしれない。そして、ウリバタケはビデオにスイッチを入れた。すると画面にゲキガンガー3と銘打たれたオールドアニメが流れ始めた。






「っうぐッうっぐ…。ゲキガンガー…」








すすり泣くガイは極めつけに犯罪レベルの視覚効果を持っていた。腕にしっかりマジ○ガーZになってしまったゲキガン人形を握り、その手にぽたぽたと零れ落ちるガイの姿は兎に角、不気味で無慈悲な気持ち悪さを噴出しまくっていた。




「…ボクのね、ゲキガンにんぎょぷ、なくなっちゃったの…ぐす、ズズズズズッ」






バイツはそんな様子のガイを憐憫の眼差しで見ると弱く首を振った。

「手遅れだ」

「…うむ」

そんな悪夢のような食堂に無情にもゲキガンガーだけが動いていたのだった…。





『行くぜッ!レッツゲキガインッ!!!』


「れっちゅ、げきがい〜ン!」














…色んな意味でピンチだ機動戦艦ナデシコ。
軍に乗っ取られ、クルーの一人が重病だ。果して、出発できるのか!
王子様はどうやら恨みが多い様子だ。魔法使いは一体何者なのなのでしょうか?












後編



後書き


ン…?ガイが予定では後編で活躍する筈だったのに…?
と言うか、もしかすると今回でナデシコの世界観が壊れたかもしれない…Σ(■ ̄;) (吐血


ヲイヲイ修正できるのかコレ…?>なぁ自分よ



今回の登場人物情景描写となっております



主人公二人組


アキト君

痛みを司る器官が損傷しているようです。料理人の命でもある手を負傷してしまいました。己の未熟さに歯痒く思えているようです。
どうやらナデシコが気に入ってきたようです。アキト君の過去をバイツ君が色々知っている様子です。では、裏を返せばアキト君はバイツ君の過去を知っているという事でしょうか?


バイツ君

反乱を阻止しようという気よりも観察して色々考えているようです。バイツ君も被験者だったと発覚。バイツ君の副作用って一体なんなのでしょう?それよりもホウメイガールズのエリさんに悪印象を与えてしまったようです。さて、どうなってしまうことやら。



今回の主要登場キャラクター


ミスマル・コウイチロウ提督

年齢48歳(くらい)←アバウト
ユリカパパ。今のところTV版と同じ。今後も大して出番はないと思われる。(主要…なのか?)


ムネタケ副提督

うむ。なにやら結構カッコイイぞ。色々と策謀の香り…。ですが、頭でっかちの口先男ではないのか?なんてジュンに思われています。
因みに気絶中(バイツのジャーマンスープレックス)にジュンにキスした事は覚えていない。


ジュン君

結構目立ってますよ!ジュン君。て、言っても冒頭部分だけですけどネ。ムネタケ副提督との会話が今後どんな展開になるのか。ジュン君は何を思うのか!…て言うか報われるのか?


フクベ提督

…語る事は何もナイデスヨ。だって、TV版と大差ないもん。今回ボケてないし(爆)


ユリカさん

仕事中ゆえ出番なし(汗)

ルリちゃん

ラピスちゃんの看病中ゆえ出番なし(汗)


ラピスちゃん

ウンウン唸っています。ただ今37.7度。


プロスさん

交渉に向いました


ゴートさん

発病中(爆)


メグミさん

銃をつきつけられた為怯えてしまいました。


ミナトさん

メグミさんほどではありませんがそれでも少しショッキングでした。


セイヤさん

ゲキガンガーとマジン○ーZを間違えてしまいました。故意か、過失か…


ホウメイさん

出番なし(汗)


エリさん

バイツ君の第一印象は最悪です。今後どうなるのでしょうか?


ハルミさん

ガイ君に「ナナコさん」と呼ばれてしまいました。彼女の頭の中にはナナコさんって誰と言う疑問が渦巻いています。


その他ホウメイガールズ

出番なし(汗)


ガイ君

遂に魂の名前ダイゴウジ・ガイを名乗りました。でも大事なゲキガン人形がマジンガ○Zになってしまいショックのあまり幼児退行してしまったようです。今後もコレだと疲れるぞ…(オイラが…)



うむぅ、ガイ永遠アレ。
永遠アレだとアレだよなぁ。アレはやっぱアレにしかならないのかなぁ…。アレはアレな人にしかわかんないアレだよなぁ(謎爆)

そこはかとなく壊れた私でした。

※エリさんミカコさんを逆転修正。涼水夢様有難う御座いました\(T▽T)/(感涙

 

 

代理人の感想

うわ、壊れた(爆笑)。

しかし考えてみるとガイを壊したのは少なくともActionでは初めてではないでしょうか?

何故かって?

 

そりゃ元々壊れてるから(核爆)。