ムネタケの反乱で乗っ取られたナデシコ。
ナデシコ艦長ミスマル・ユリカはプロスペクターと副艦長アオイ・ジュンと共にユリカの父ミスマル・コウイチロウが搭乗する連合宇宙軍戦艦「トビウメ」に向ったのだった。そして、ムネタケ達軍人に食堂に押し込まれたクルー達は別の意味で危険だった。






『行くぜッ!レッツゲキガインッ!!!』




「れっちゅ、げきがい〜ン!」







「…誰か止めろ」


誰が言ったか、それは皆の意見を代表した台詞なのかもしれない。





















機動戦艦ナデシコ
Lone wolf
第二話:緑の地球…後編






















「それにしても何だってナデシコでどこに向うつもりだったのかねぇ」

椅子に座り、麦茶を飲みながらホウメイがポツリと呟いた。クルー達にはナデシコの目的地を知らしていなかったのだ。勿論それには理由がある。軍部の目を欺くと言う理由があったのだが、そんな事はお構いなしにナデシコは掌握されてしまった。
よってそれを知る者はネルガルの関係者のみとなる。自然とクルー達の視線はアキトやバイツ、ゴートに向けられた。

「勿論、教えてくれるんだろ?何も知らないままってのはちょっと癪にさわるからね」

ホウメイがそう言うと他のクルーも頷いた。因みにガイはいまだに幼児退行したままだ。そんな様子をバイツは憐憫の眼差しで見た後、おもむろに口を開いた。

「ネルガルの目的地は火星だ。スキャパレリプロジェクトってな、火星に残された生死不明の人間を救出するって言う綺麗事の作戦よ」

「ふーん、別に良い事じゃないのかい?」

ホウメイがそう言うと、バイツはクックと喉で笑う。そんな様子を見て不快感を露にしたのがエリだった。その様子を敏感に察知したサユリがたしなめている。バイツもチラリとそちらを一瞥すると何事もなかったかのように言葉を続けた。

「綺麗事だけで企業が動くか?損得勘定があるからこそだ。あそこにはネルガルの研究者達が残した機材や研究データが大量にある。目的はそっちさ。火星の住民は言ってしまえばついでだ。もし民間人が残されているのであれば、ネルガルがそれを救う。一躍民衆の支持が上がるって奴だ」

それを聞いていたゴートは苦虫を噛み潰したような表情になりバイツを睨んだ。しかし、バイツはそれを涼しい顔で流すとアキトに話しかけた。

「お前は知らなかったか?」

アキトはバイツの独演を聞き、驚きを隠せないでいた。アキトは純粋に火星に行けるということを喜んでいた。火星の知り合い達の安否が気になっていたからだ。それゆえ、ネルガルの真意を聞いたのは初めてだった。

「企業ってのはそんなもんだ。別に悪くねぇよ。綺麗事ばかり言ってたら成長なんてしねぇ」

バイツはそう言うと煙草を咥え火をつけた。辛辣な物言いにクルー達は言葉を失った。
そんな中で響くゲキガンガーが癪にさわったのかバイツは電源を落した。すると、ガイは玩具を取り上げられた子供のような表情で今にも泣きそうだった。

「お前は、知ってたのか?バイツ…」

「阿呆。知ってるから今言ったんだろ。言ったろ?そんなモンだよ。気にしねぇよ」

バイツはそう言うと頭を乱暴に掻いた。アキトの表情がなんとも悲しげに歪んでいたからだ。
それを見たバイツは気まずげに表情を顰めて「あー…、悪かった。お前には言っとくべきだったな」とアキトに告げた。
だが、アキトは顔を伏せると「そうじゃない」と弱く首を横に振る。

「確かに、黙ってたのもショックだったけど、それよりもショックなのは知ってたのに、なんでそんなに平気なんだって事だよ…バイツ」

「…余計な感傷なんて必要ねぇからさ。でけぇ企業になればなるほど汚ねぇ裏事情ってのがあるもんだ。それを知ってるから、かな」


──それに、どうでもいいしな。


バイツは心の中でそう付け加えると、自分を睨んでいるエリを見た。そして、口元を歪めるとエリに向って言う。

「コレが戦争の一部だよ。それでも何かをしたいのか?下手すれば犬死だ」

「なによっ!さっきから自分だけは全部知ってるぞみたいな言い方で!ふざけないでよっ!」

エリは身を乗り出してバイツに向い激昂した。他のクルー達も概ねエリに近い感情をバイツに抱いた。バイツはそんなクルーをみまわすと小さく呟く。

「少なくとも、ここにいるあんた等よりは知ってる」

その言葉に遂にエリはサユリ達の制止を振り切り、バイツの胸倉を掴んだ。それには流石に他のクルーも唖然としてその成り行きを見るしか出来なかった。

「そりゃ私達は民間人よ!でも、民間人は軍人の玩具じゃないわ!軍人に一泡吹かせたいって思って何がいけないのよ!なにも知らないかもしれない。でも、なにも知らずに死ぬのが嫌なのよ私はっ!」

バイツはエリの手を解くと捕まれた服の乱れを直し、首の骨を鳴らした。それがまたエリの怒りに油を注ぐ。

「馬鹿にしてんのっ!?」

「馬鹿にしてるわけじゃないが…知らないで良い事まで知ることはない」

バイツはそう言うと、近くにあった椅子に座る。エリは憮然とした表情でバイツを睨む。バイツはもう一度立ちあがり向かいの席の椅子を引いた。

「座りなさい。興味深い話をしてあげよう」

エリはバイツの命令的な口調にむっとしつつも椅子に腰掛けた。バイツはエリに「互いの名前を知らないからな。自己紹介しておこう。俺はバイツだ。プロスペクターのようなモンだと思ってくれ」と告げた。エリは憮然とした表情を崩さず「ウエムラ・エリ」と小さく名乗った。

「では、ミス・ウエムラ。話しても良いかな?」

「どうぞご自由に」

バイツは小さく肩をすくめると、話を始めた。

「昔ある所に、老人と孫が住んでいた。孫は老人を愛し、老人も孫を愛した」

「それが戦争とどう関係あるって言うんですか?」

エリがバイツを睨むようにして言うとバイツは苦笑を浮かべ「話の腰を折らないでくれ」と言った。そしてまた話を続ける。

「老人は昔、兵隊で孫の父親も兵隊だった。母親は孫を産み、暫くたって里に帰った。
 まぁ、別離というわけではない。里に帰った母親は、二度と帰ってこなかった。戦火に巻込まれてね命を落したのさ。
 父親は自暴自棄になって呆気なく死んだ。残されたのは孫だけだ。そこに老人が現れた。父親の父。孫から見れば祖父だな」

バイツはそう言うと煙草を取りだし火をつける。もうもうと紫煙が立ち込めあたりは静寂に包まれた。因みに五月蝿かったガイはウリバタケの一撃で静かになっている。

「孫はなんの疑いも持たずに生活し、幼子は少年になった。そんな時、父親の遺品の中から一枚の写真を見つけた。
 両親と、両親の親が写っていたんだ。だが、その中に祖父の姿がない。おかしく思った少年は祖父に問い詰めた」

バイツはふぅっと煙を吐くと「大体想像はつくと思うが」と言葉を続け、言った。

「老人は、父親を殺した敵兵だった。老人は戦争で息子夫婦をなくしていたらしく、少年を孫に照らし合わせて見ていた。
 それを知った少年はとんでもないショックを受けた。憎い憎い父親の仇。だが、それと同時に愛すべき育ての祖父。
 愛と憎悪は表裏一体というがな、そうでない場合もある」

バイツは煙草を灰皿で揉消すと席を立ちあがる。
エリが立ちあがったバイツを目で追い「結局どうなったんですか?知らなくて良い事ってそれなんですか?」と聞いた。
バイツはフッと肺に残っていた煙の残りを出すと、呟いた。

「少年はジレンマにたえかね発狂して死んだ。老人は自責の念に囚われ首を吊って死んだ。それが結果だ」

酷い結果にエリ以下、ナデシコクルーは沈痛な面持ちになる。バイツ「興味深い話だっただろう?」と言うと、エリは眉をひそめる。気分を害す話をしておきながらしれっとした態度のバイツが信じられなかったからだ。重い話をした人間は大抵、黙りこくる。稀にそれを誤魔化すようにおどけたり、ショックを和らげるように言葉を続ける人間もいるがバイツは話を始める前と何ら変りが見られなかった。それこそごく稀にいる一般的に言う、欠落した感情を持つ人間だ。


「信じらんないっ」


エリは吐き捨てるように言うとバイツを睨んだ。バイツはさも驚いたと言わんばかりの表情で大袈裟に肩をすくめた。

「ミス・ウエムラ。何が信じられない?」

「アンタの態度よ!アンタおかしいんじゃないの?なんでそんなに平気な顔で話せるのよ!?」

「別に悲痛な顔して言った所で何が変るわけでもあるまい。これが事実なのだから」

あくまで涼しい顔で言うバイツの頬をエリは反射的に叩いた。パァーン!と言う音が食堂に響く。バイツは叩かれた頬を少し撫でると、口元を歪める。

「怒る元気があるなら、嫌いな軍人にでも反抗したらどうだ?まぁ、良い。行くぞゴート」

バイツは席を立つとゴートに呼びかける。ゴートは頷くとアキトにも目配せをした。それに続いて、次々にクルー達も扉に向って歩き出す。

「…バイツ」

バイツの隣に立ったアキトは小さくバイツを呼び止めた。バイツは立ち止まるとアキトをチラリと一瞥し「何だ」と聞き返した。

「お前、嫌われるぞ」

「馴れてる。俺が嫌われてギクシャクするのであれば俺がナデシコから降ろされるだけだ。一向に構わんよ。第一、好かれるのは好かん」

バイツはそう言って少し微笑むと「面倒だからな、好かれると」と呟く。アキトは苦笑するとクルー達に向き直り、真剣な表情をして言う。

「今から、ナデシコを制圧した軍に報復します。出来れば皆さんは、ここにいてください。危険ですから」

「好きにさせろよ。やる気充分な奴等もいるし、な」

アキトの言葉を挟むようにしてバイツは言った。その視線はエリや、他のクルーに向けられていた。アキトはしょうがないなといった感じで頭を掻くと、苦笑した。


「あまり、危険な行動は取らないようお願いします」


プシューと、空気の抜ける音がし扉を開くとアキトはそこで整備していた軍人を有無を言わさず腹部に強烈な一撃を加え、気絶させた。その後、アキトは整備班と共に格納庫へゴートは屈強な男性クルーを数人引き連れてブリッチへ向った。バイツはルリとラピスの部屋へ向うのだった。何故かエリがついて来た。バイツは怪訝そうな表情で走りながらエリに問う。

「おいおい、何故君がついて来る?一緒にいても不快になるだけだろうに」

「私の勝手よ。それに私もあの子達が心配なの!」

エリ達ホウメイガールズやホウメイと言った食堂のクルーは色々な搬入作業や食品の管理、食品配置等の段取りで他部署のクルー達より若干早く乗り込んでいたのだ。アキトやバイツはナデシコに乗り込んだのが出立当日だった為、食堂に足を運んでいなかったのだ。ルリやラピスは昼食をナデシコの食堂で摂っており、ホウメイガールズともそれなりに会話するまでになっていた。それゆえ、バイツがルリとラピスの元へ向かう事を知ったエリはついて来たのである。

バイツはフッと頬を歪めると、横にいるエリに言う。

「…勝手にしろ」

「言われなくたってっ!」

暫く廊下を走っていった後に、二人はルリとラピスの部屋の近くまで到達した。なにやら部屋の周辺が騒がしい。バイツは壁に身を潜めチラリとその様子を見た。

「どうなってるんですか?」

「立て篭もってるようだ。中から錠でも付けているんだろうが開けられるのは時間の問題だな」

バイツは小さく舌打ちをするとエリをチラリと見た。

──…殺すと後々面倒だな

エリがいなければ躊躇いなく殺しているだろう。死体はどうとでも処理できる。オモイカネもデータを書き換えてなかった事にすれば良いが、人の記憶は誤魔化せない。
まして、目の前で見られたら言い逃れなど出来ない。

「…どうするつもり?」

「…思案中」

バイツは隠し持っていたデリンジャーを取り出すと弾を確認した。今やブラスターが主流だが、バイツはこう言ったアンティークな物を好む。
本人曰く「硝煙の匂いが好き」だからだそうである。

「撃つ、つもり…?」

「面倒は避けたいから撃ちたくはないが、もしあいつ等に手が及ぼう物なら躊躇はしない」

バイツは壁から部屋の前にいる軍人の様子を覗き見る。激しく扉に向って体当たりをしている。中にいるルリやラピスは気が気ではないだろう。特にラピスは、泣いているかもしれない。バイツは忌々しそうに舌打ちすると壁から相手の立場を確認すると腕だけ残し引き金を引いた。

パァーン!と言う銃弾が発射される音が鳴り響くと共に軍人の叫び声が聞こえる。銃弾はどうやら軍人の身体を掠めたようだ。バイツは叫びながら転がる軍人を確認すると銃口を軍人に突き付けたまま歩み寄る。撃たれた拍子に落したのであろう、相手の銃を拾うと口を開いた。


「よぉ、気分はどうだい?」


口調こそ柔らかな物であったが行動は正反対だった。射貫くような視線が軍人を捕らえ鈍く光る銃口が軍人の頭に標準を合わされていた。それを見て気が緩んだのかエリはふぅっと安堵の溜息を吐き隠れていた壁から出てきた。


「…どうなるかと思った〜」


エリがそう言って、バイツに近寄ってきた時、銃声を聞きつけたのか軍人の仲間であろう男が血相を変えて曲がり角から飛び出してきた。その男は反射的にバイツよりも先にエリに標準を合わせた。バイツを狙うよりも、隙だらけのエリを狙った方が良いと本能的に思ったのかも知れない。銃口を向けられたエリは一瞬キョトンとした表情になったが事の重大さを瞬時に理解し腰を抜かしてへなへなと地面に座りこむ。



「チィッ!」



バイツはエリに銃口を向けていた軍人に銃弾を放つと、そのままエリに向けられている銃の軌道へ飛び込んだ。エリまで距離がありすぎて、間に合わない。エリに動けと言っても動けないだろうし、的にされてしまうだけだ。


バイツが飛んだ瞬間、交錯した銃声が鳴り響いた。



「キャアアアアアアッ!!」















その頃、ユリカ達が向ったトビウメではコウイチロウがユリカと会談と言う建前の親子対面を果していた。

「さぁ、ユリカ。お前の好きな苺のショートケーキだ。オペラもあるぞ」

「わーい!有難うお父様っ」

ユリカの喜んだ様子を見てコウイチロウは満足そうに頷く。心なしか頬は緩みっぱなしだ。このミスマル・コウイチロウ実は自他共に認める親バカなのだ。ユリカが美味しそうにケーキを頬張る姿をデレ〜ッとした表情で見ている。もしかしたら親バカではなく変態なのかもしれない。

「ところでお父様。火星でお隣だったテンカワさん、覚えてますか?」

ケーキを食すのに一段落ついたのか、ユリカがコウイチロウに聞いた。目はこれでもかと言うほど真剣だが、口元についたケーキの生クリームが凄いギャップだ。

「…テンカワ、テンカワ…。!おぉ!覚えているよ。ユリカが随分とお世話になったねぇ」

コウイチロウはその事を思い出したのか、目を細め楽しげに微笑んだ。


──テンカワさんの息子さん…。なんと言ったか、何時も何時もあのボーイフレンドを自慢して、家では何時も彼の事ばかりだったな…


と、そこまで思い出したコウイチロウはピクッと眉を動かした。娘の心を奪った年端もいかぬテンカワ息子に殺意を覚えたのを思い出したのだ。我ながら大人気ないと思ったが、兎に角本気で殺意がわいた。


「お父様、アキトの…」


「ちょっと待った!
アキトとは誰だユリカ!?」




思いを駆け巡らせていたコウイチロウの耳は、男の名前がユリカの口から洩れたのを聞き逃さなかった。ぴくぴくと額にはくっきりと青筋が浮かぶ。

「何故か解らんがその名前は妙に気に障る!その男に改名するように伝えなさい!」

「お父様、落着いて!アキトはテンカワさんの息子ですわっ!」

「な、なんだとォ!?」

コウイチロウは、「そうか、そう言えばそんな名前だった…通りで、な…」と呟いた。ユリカはコウイチロウの様子を確認すると、フゥッと溜息をついた。因みに未だに口元には生クリームがべっとりついている。コウイチロウは苦笑すると、ハンカチを取り出しユリカに口元を拭くように言う。

「さ、話しなさいユリカ。話を聞こうじゃないか」

ユリカはハンカチで口元を拭うと、頷き真剣な眼差しでコウイチロウを見る。思わずコウイチロウは頬を赤らめた。

「お父様、テンカワさん夫妻が死んだ事はご存知の筈ですね?」

「…何故そんな事を聞く」

思いもよらない質問を愛娘の口から聞かされたコウイチロウは険しい顔をしてユリカに聞き返す。ユリカは「今、ナデシコにはアキトが乗っています」とこちらもコウイチロウに負けず真剣な面持ちで告げた。

「お父様は、アキトのご両親が殺害された事知っていますね。知らない筈はないですよね」

「真相は知らないが、な…」

「やっぱり!どうして今まで仰って下さらなかったのですか?お父様!!」

ユリカはそう言ってコウイチロウに詰め寄った。コウイチロウはユリカから視線を外すと「ユリカもテンカワさんの事は聞いてこなかったし、伝えるのは辛かったからだ」と言った。ユリカは「…それでも、言って欲しかったです」と声を落して呟いた。

「すまなかったね。でもねユリカ。パパはユリカが悲しむ顔を見たくなかったんだ」

コウイチロウが天を仰ぎ目を閉じてからユリカの手をぎゅっと握った。

「パパはずっとお前を蝶よ花よと育て…」

「お、お父様?…あ、プロスさん」

コウイチロウのトリップ最中にドアが開かれプロスが入って来る。眼鏡を直すとコウイチロウと握手をしているユリカを見て、一瞬引き攣るがそこは流石交渉人。真顔に戻り口を開いた。


「では艦長。ナデシコに帰還致しますぞ。ナデシコはネルガルが私的に運用する、宜しいですね?ミスマル提督」


「嗚呼、ユリカ。ユリカは可憐でお淑やかで…慎ましく、まさに大和撫子!雅だよユリカはっ!なんと言えば良いのかね。和み系?癒し系?パパはねパパはね…」


「お父様、私はナデシコに帰ります!では行きましょうプロスさんっ!」


「うんうん。解ってるよユリカ。ユリカも本当はパパと一緒にいたいんだよね。パパもねユリカと一緒にいたいんだよ。でも、宮使いの辛い所と言うのかね…」


ユリカは丁度プロスの隣にいたジュンを自分の席に座らせ、コウイチロウと手を繋げるとプロスを引き連れ部屋を出ていく。目指すはナデシコ。
今、ナデシコはどうなっているのだろうとユリカは思いを馳せながらプロスの操縦するヘリに乗り込んだ。


「アキト!今から帰るからねッ!」


ユリカはそこにはいない想い人にそう告げると、ナデシコに進路を取るヘリのシートベルとをつける。

「艦長!行きますよ〜」

「了解です!ぱぱっと行っちゃってください!」















その頃、ナデシコはと言うとブリッチを占拠していたムネタケ率いる軍人をゴートが片付けていた。ゴートについてきていたメグミとミナトがすぐに配置に戻る。そして艦長不在の為フクベが陣頭指揮を取った。

「格納庫、そちらはどうかね」

『任せろい!整備班の手にかかりゃお茶の子さいさいよぉ!がぁ〜っはっはっは』

フクベの応答にウリバタケがスパナを振り回しながら答えた。アキトは軍人達を縄で雁字搦めに縛り、身動きが取れないようにしていた。その様子を見たゴートは軽く頷きフッと頬を緩めた。

「あれ?ルリルリがまだ来てないわ!」

「確か、バイツさんが向いましたよね」

嫌な想像をしてしまったメグミとミナトが顔を見合わせたと同時にブリッチのドアから空気の抜ける音がして息を切らせたエリとエリに抱えらたルリがブリッチに入って来た。エリに御礼を言い、腕の中からぴょんっと飛び降りると小さく頭を下げた。

「ゴメンナサイ。遅れてしまいました」

「ルリルリィ!無事だったのねぇ〜」

「はい。全然大丈夫です」

ルリは小さく頷くとオペレーターシートに座った。そして、それとほぼ同時にユリカから通信が入る。

『今からナデシコに帰還します!後、状況が最低かもしれません。連合軍の戦艦クロッカスとバンジーがチューリップに吸いこまれつつあります!』

どよめきが起こる。慌ててメグミがその様子をメインモニターに映し出すとチューリップに吸いこまれる二隻の戦艦が映し出された。チューリップとは木星蜥蜴の兵器で詳しい事はよく解っていないのだが、それが危険な物質であると言う事は理解されている。


格納庫でその様子をコミュニケを通じて見ていたアキトはウリバタケにエステを動かせる状態にするよう頼んだ。

「任せろ!悪りィがお前のエステはまだ整備が済んでねぇんだ。細かい調整が済んでねぇがアイツで行ってくれ」

ウリバタケが指差したのは空戦フレームのエステバリスだ。前の戦いで使用したエステバリスは陸戦フレームで今回のような状況には向かない。それにあちらのエステバリスは先の戦闘で大破しており使えた物ではないのだ。

「解りました!ルリちゃん、ハッチオープン頼んだよ!」

アキトはコミュニケに向ってそう言うとエステに向って走る。コミュニケからルリの声が聞こえ、ハッチオープンが始まった事を告げる。

『アキトさん気をつけてください』

「うん。じゃ、行ってきます」

『ハイ。行ってらっしゃいアキトさん』



アキトがエステバリスに乗りこむ為走っていた頃、ルリを連れて来たエリはバイツの元へ走って帰っていた。息切れが激しく苦しい。腿も張ってしまい筋肉が攣りそうだ。汗も滝のように流れてくる。だが、走らずにはいられなかった。
エリは元々責任感が強く、正義感も強かった。その為バイツの行動が認められたものではなかった。だが、バイツは身を挺して銃弾から守ってくれた。





「キャアアアアアアッ!」






エリの悲鳴と交錯する銃声が響いた廊下は次の瞬間静寂に包まれた。
左膝を撃ち抜かれ、バランスを崩し横倒れに地面に倒れこむ軍人と、右肩に銃弾を撃ちこまれ、地面を転がりどうにか体勢を整えながら座りこむバイツがいた。
バイツは激しく痛む肩を押さえるとよろけるようにしてどうにか立ち上がる。腕から滴り落ちる鮮血がエリの目に焼きついた。バイツは拾った銃を無事な左腕で構えると、銃口を向ける。そのままゆっくり歩くと、初めに撃った軍人の顎に思い切り蹴りを撃ちこむ。「ゲフッ!」と言う短い悲鳴を吐き、軍人は意識を失う。バイツは気絶したのを確認すると銃を拾おうと腕を伸ばす軍人に向って発砲した。

銃弾は、拾おうとしていた銃に直撃し距離を開かせた。

「動くな。次、動いたらお前を撃つ」

そのまま傍まで歩き銃のグリップ部分で後ろから頭を殴りつけた。バイツはフゥッと溜息をつくとエリを呼ぶ。

「ミス・ウエムラ。平気か?」

「あ、わた…私は、大丈、夫…です」

バイツは「なら良い」と呟き、撃ち抜かれた肩を押さえる。ズキン!と激しい痛みを訴える。バイツは顔を顰めるとよろよろしながら近づいてきたエリに聞く。

「すまないが、ハンカチ持ってるか?」

エリが慌ててハンカチを差し出すとバイツは「汚れるが、構わないか?」と聞いた。エリは頷くとバイツに渡す。バイツは一言短く「有難う」と言い、ハンカチをきつく肩に巻きつける。じわりと血が滲む。バイツはそれをコートのファーで隠すと扉の前に立った。

「ルリ。大丈夫か?」

バイツの声を聞き、がたがたと音がした後ドアがプシューッと空気の抜ける音を出し開いた。それとほぼ同時にラピスが飛び出しバイツに飛びついた。顔は涙と鼻水でくしゅくしゅになり、眼は真っ赤になっている。

「泣くな。可愛い顔が台無しだぞ」

くしゃくしゃっとラピスの頭を乱暴に撫でると左腕でラピスを抱きかかえルリに言った。

「ブリッチに急げ。ミス・ウエムラ頼めるかな?」

バイツがそう言うとエリは頷きそのままルリを抱きかかえブリッチに走ったのだ。そして、今ルリを送り届け元来た道を走って帰っている。
部屋の傍まで帰ってきた頃にはエリの額には大粒の汗が幾つも浮かんでは滴り落ちるといった状態になっていた。ぜぇぜぇと肩で息をする。ふと何かを捉えた視線に飛びこんできたのは動かないのにご丁寧にも縄で縛られた軍人だった。用心に越した事はないと言うことなのだろう。

エリは一旦部屋の前で立ち止まり、大きく息をして身体を落ち着かせてノックした。

「静かに、入ってくれよ?」

バイツの穏やかな声が聞こえエリは中に入る。そしてエリの目にベットですやすやと眠るラピスが目に飛び込んできた。バイツはエリを見ると頬を緩めて初めて自然に微笑んだ。

「今寝付いた所だ。可愛いモンだろ?」

そう言ってバイツは視線をラピスに戻すと桃色の艶やかな髪を撫でる。ラピスはくすぐったそうに身をよじるともごもごと口を動かした。バイツはフフッと笑い立ちあがった。その瞬間腕の痛みでバランスを崩しよろける。

「おっと、と…。さて、医務室にでも行こうか」

「あ、あの…私はどうすれば…」

エリがそう言ってバイツを不安そうに見た。バイツは「手でも握っててやってくれ。暫くしたら帰ってくる」と言い残し部屋を出ていった。
エリはバイツの後姿を見送りラピスの手を握った。


──ちっさな手…


この子はどうしてナデシコに…戦艦に乗っているんだろう。エリはそう思った。そしてそう思ったと同時にバイツの台詞が頭をよぎった。





──「アンタ、この船どう思う?」





ナデシコはルリやラピスと言った子供も乗っているのだ。どんなに賢く、優秀な頭脳を持つ彼女達もまだ年端も行かない子供なのだ。
子供が乗る戦艦。なんと不自然で恐ろしい事なのだろう。自然とラピスを握る手に力が篭った。


バイツが廊下で自由の効く左腕で煙草を取りだし器用に咥える。くしゃくしゃっと空になった煙草の箱を丸めると無造作に地面に捨てる。後でまたとやかくプロスに言われるなと苦笑しながら、火をつけた。


「らしくねぇなぁ…」


何時の間にか、アキトやルリ、ラピスに感化されて丸くなっていた自分に気付く。他人から見れば充分冷徹な人間に見えただろう。だが、本人からしてみればそれでも丸くなった方なのだ。バイツがチラリとコミュニケに視線を落すとブリッチに繋いだ。



「よぉ、バイツだ。そっちの状況はどうだい?」



通信を入れられ、今し方ユリカと共にブリッチに到着したプロスがネクタイを締めなおしながら応答した。

「はい。大丈夫です。テンカワさんが良くやってくれています」

メインモニターに映されたアキトの操るエステバリスは、器用にチューリップから生えた触手をくぐり抜けナデシコから注意を逸らしていた。そして、モニターのアキトからナデシコに通信が繋がった。

『チューリップ完全に食いつきました。ユリカ、後頼むよ』

ユリカはそれに呼応するかのように強く頷くと宣言する。

「ナデシコチューリップに突っ込みます!」

そして引きずり込まれるようにしてチューリップの内部に潜りこんで行く。アキトは一瞬躊躇ったが、ユリカの考えに気付いたらしく触手を切り裂き、ナデシコの進路を切り開いて行く。ゆっくろゆっくりとナデシコは近づき、チューリップの目前まで迫った。

「皆さん!耐ショック、大丈夫ですか?」

クルー達は頷くとユリカの指示を待つ。そして号令が出された。ユリカは人差し指でチュ‐リップを指差すと叫んだ。

「ミナトさん!潜っちゃって下さい!」

「は〜い。ぱぱっと行っちゃうよ〜」

ずずず…とナデシコは吸いこまれ、次の瞬間チューリップの隙間から眩い光が洩れる。

「グラビティ・ブラスト撃てェェェェェっ!!」

どーん!と言う凄まじい爆音を轟かせチューリップは内部から吹き飛ばされ海の藻屑と化したのだった。
アキトはホッと胸を撫で下ろすとナデシコに繋ぐ。

「とりあえずは、おめでとうかな?」

アキトは微笑みながらブリッチを見まわした。ルリは小さく微笑み「御疲れ様です。アキトさん」と告げた。

『アキトー!ただいま
!』

「あはは。お帰りユリカ」

ユリカは身体全体で喜びを露にすると満面の笑顔で大きく両手を広げ手を振る。
ナデシコはどうにかピンチを抜け出したのだった。因みにバイツは耐ショックをとろうにも手摺さえ近くになかった為思い切りこけていた。



「ふ…無様だな…」



腕は痛いし、転がった拍子に壁に頭を強打したバイツは朦朧とする意識の中に沈んで行ったのだった。その頃、皆に存在を抹消されたヤマダ・ジロウことダイゴウジ・ガイはゲキガンガー3のスイッチを入れていた。





『緑の地球を守るぞッ!』



「ボクたんに任せるでしゅ!れっちゅ、げきがい〜ン!!」



そんな様子を見ていたのは、エリを除いたホウメイガールズとホウメイだけだった。


「やれやれ、先が思いやられるねぇ…」


疲れ果てた口調で言うホウメイに合わせホウメイガールズも肩をガクンと落した。





「緑の地球はまかしぇとけ〜」









ピンチを突破した機動戦艦ナデシコ。
ナデシコ総料理長リュウ・ホウメイの言葉通り先行き不安だ。しかも、ミスマル艦長とプロスペクターは誰かを忘れてきたみたい。
嗚呼、哀れ。ユリカ父の漢手に握り締められた彼の手は悲しみに満ちているのだった…。
王子様、魔法使いに辿りつけるのか…?










後日譚



後書き



ガイが復活できませんでした。こりゃぁ、修正不可能かもな>自分
しかし、3話は問題があるのです。…ビデオがない。参考に出来ないじゃないですかーー!
いやんいやん!いけずいけずぅ!
こうなったらトーテムポールと愛を語るぞォ!愛故に…!愛故にぃィィィィィィ!!

貴方の為なら眼球刳り抜いて見せましょう!
えぃやっ!

ブッシューーーーー!!(米国大統領にあらず)

いやーん!前が見えな〜いっ!

はふん…お先真っ暗でしゅ。


…お後がよろしいようで。



とまぁ、オチをつけた所で今回の登場人物情景描写となっています。



主人公二人組


アキト君

あんまり出番がないや。今回のお話は主人公分担で分けるとバイツ君よりですね。
特筆すべき点は別にありませんが、あえて上げるのであれば…やっぱりないや(見直した)


バイツ君

クルー達の印象は悪いです。しかもネルガルの秘密まで暴露。その上、殺してはいませんが、軍人二人に向って発砲。
立場がどんどん悪くなっていきそうな予感。しかし、本人は気にしていないようです。ナデシコを降りる事に関してもドライです。
はてさて、一体何が目的なのやら…?現在、廊下で意識を失っていた所を帰りが遅いと心配したエリさんに発見され、医務室に運ばれていきました。それはまた後日談として…。


今回の登場主要人物


ユリカさん

ケーキを食べてご満悦。でも、アキト君の事がもっと知りたいようです。ルリちゃんの冷徹視線を撥ね退け勤務中にも関わらずアキト君に猛ダッシュ。はてさて、何か語ってもらえるのかな?


プロスさん

バイツ君が発砲した軍人さんの後始末(殺しにあらず)に大忙し。オモイカネの細工やら、色々と頑張っているようです。
ふぁいとだプロスさん!


ミスマル提督

親バカ全開。ユリカさんが帰った後も、ジュン君の手を握ったまま悦に入っていました。ジュン君だと気付いた後華麗な一本背負いを決めジュン君をねじ伏せています。哀れジュン君(笑)


エリさん

主人公のアキト君より今回の出番が多いエリさん。(何故ならオイラのお気に入りだから。とか言いつつミカコさんとエリさんを間違えていた私。ちょっとブルーですバイ…)ちょっぴりバイツ君を見直したようです。
ミナトさんはルリちゃんがお気に入りのようですが、この件以来エリさんはラピスちゃんと良くお喋りするようになったようです。
はてさて、バイツ君との関係はどうなっていくのでしょうか?


ラピスちゃん

大泣きです。イメージ的にラピスちゃんがどのようなキャラクターになるか見えてきました。
ルリちゃんと違い、あまり冷静沈着な子ではないのデス。まだまだお子様なラピスちゃん。ただ今健やかにご就寝中。



その他クルー(爆)


一切合財出番なし(汗)
あ、ガイがいた。

ガイ君

ぶっ壊れ中〜♪


オマケでジュン君

前回のの出番に比べ今回は酷い事に台詞なし。コウイチロウさんと握手。その上投げられると来たもんだ。ふ…不憫な(涙)




ゴメンナサイ。
ガイ君修正不可能です。どうにか、微妙に修正を試みようとしてみます。一応ヒロインも考えてあるんで…。
ガイ君がこのままでは二進も三進も行きませぬゆえ…。         ↑あ、死なないってばれた…(汗)

愛故にィィッィィィイィィッィィィィィ!(謎爆)

※エリさんミカコさんを逆転修正。涼水夢様有難う御座いました\(T▽T)/(感涙

 

 

 

代理人の感想

や、微妙にオチてないし(爆)。

 

それはともかく・・・・・・・このままいくんですか、マジでっ!?

・・・・哀れよな、ガイ。

死なないだけマシかもしれないけど(爆)。