「立て! 立ちやがれアキト!
貴様は・・・貴様だけは俺の必殺技で倒さなけりゃあ意味がねぇ!
だから立って来い! かかってこいッ! アキトォッ!」
咆哮。雄が雄に戦いを宣言する挑戦の雄叫び。
ナオの体が、ナデシコマックスターが、ハイパーモードを意味する金色の輝きに覆われて行く。
低い笑い声が響いた。
あの怒涛のラッシュを受け大地に叩き付けられながらも、ゆっくりとゴッドナデシコが身を起こす。
「ナオさん、アンタって人は・・・・つくづく嬉しい人だぜっ!」
挑戦に応じる、聞き違えようのないその意志を滲ませてアキトもまた吼える。
ナオと同じ、黄金の輝きがその全身に燃える。
二つのハイパーモードが対峙した。
「そうこなくっちゃなあ・・・アキトよぉ・・・!」
ナオのその言葉とともに二人が動きを止めた。
互いに静かに闘気を高め、その一瞬を待つ。
動かぬままにその場に張り詰めた緊張だけは高まってゆく、まさしく嵐の前の静けさ。
ごくり。
ガイが生唾を飲みこむ。
観戦していたメティの目が鋭く細められる。
「・・・先ほどまでは本当に一方的な展開に見えたのに・・・」
「ヤガミ・ナオの闘志があやつにも火をつけたのさ。
相手が燃えれば燃えるほど、自分も否応無しに燃えあがる・・・ファイターと言うのはそう言うものさね」
思わず呟くメグミにホウメイが答える。
答えながらもその目は弟子とその好敵手から片時たりとも離れることはない。
「そして、ただ死力を持って魂の拳を打ち放つ。そうよ、それでいい・・・・・・・!」
シュバルツはリングを見渡せる廃ビルの屋上で静かに頷いた。
ナデシコマックスターが動いた。
全身の装甲が爆裂ボルトで排除される。
身軽になったボディの中で、両拳に装着した装甲グラブのみが鈍い輝きを放つ。
あとはただ、渾身の力を込めて必殺の一撃を繰り出すのみ。
「さぁ・・・カズシさん、プロスさん、ゴートさん・・・ネオアメリカのみんな・・・そしてミリア・・・見ててくれよ。
この一撃で、俺は夢を掴む!」
ナオの全身を包むハイパーモードの輝きが一段と強さを増す。
「行くぜアキトォッ!」
「来いッ! ナオさん!」
「轟ォォゥ熱ッッッッ!
マシンガァァン!パァァンチィッッ!
ナオの右腕が霞む。次の瞬間それは轟熱の拳となって弾けた。
灼熱の尾を引く十の流星が空気を切り裂き、音の壁を貫き、風を灼いてアキトに迫る。
ガイが、メティが、メグミが、カズシ達ですら声も無い。
だがその中で、
「さあ、どう受け止めるテンカワ!」
ホウメイが吼え。
「ナオの、熱き魂の拳を!」
シュバルツが鋭く問う。
そして、アキトもまた正面からそれを見据える。
「ナオさん・・・感じる・・・感じるよ、あなたの夢を!
だからこそ!
俺も全力でそれを受けとめるっ!」
智拳印を結んだアキトの双眸がまばゆいばかりの黄金の気迫を放った。
「分身殺法!
ゴォォォッド! シャドゥッ!」
空気を灼いて飛来する轟熱の拳をゴッドナデシコが両手で受けとめた。
二発目の拳がそのボディに突き刺さる寸前、別のゴッドナデシコが両手でそれを受けとめる。
三発。四発。五発。六発。
轟熱の拳が飛来するたびに、ゴッドナデシコの両手がそれを受けとめる。
七発。八発。九発。十発。
放たれた十発の拳の全てを、その勢いに押されながらも十体のゴッドナデシコはことごとく受け切った!
ゴッドナデシコの両手の中の練りこまれた「気」の塊が遂に力を失って四散する。
ナオの必殺パンチを、そこに込められたナオの思いを。
文字通り全て受けとめて、十体のゴッドナデシコが再び一つになった。
「俺の、必殺パンチを・・・」
ナオが何か言いかけたのを遮り、アキトが指をつき付ける。
その視線が、燃えるように熱い。
「貴方の熱気が俺に火をつけた!
ナオさんが強くなればなるほど!
ナオさんが燃えれば燃えるほど!
俺も強くなる!
俺も燃える!
我が、ライバルよっ!」
「フ・・・フフフ・・・。そうだったな、アキト。それでこそ・・・・
だが! だからこそ俺はおまえを倒したいっ!
来い! 次はおまえの番だっ!」
再びナオの双眸が燃えた。
そして、アキトがそれに応える。
「ならば・・・・・勝負っ!」
「俺のこの手が真っ赤に燃えるッ!」
アキトが吼える。
右拳のキング・オブ・ハートの紋章が燃える。
繰り出すのは灼熱の右手。
武闘家とは拳と拳で語り合うもの。
ナオが繰り出したパンチに魂を込めたように、己の武闘家としての魂を込めて!
アキトのこの手が真っ赤に燃える!
「勝利を掴めと轟き叫ぶッ!」
ナオが返す。
彼の紋章、クイーン・ザ・スペードもまた燃えている。
必殺の技を破られた彼が最後に繰り出すのは、無心の右ストレート。
己の全身全霊を込め、ボクサーとしての矜持を込め、全てを掛けてただまっすぐに打ちぬく。
ナオの全てを込めた、まさしく最後のパンチ!
「爆ァク熱ッ!
ゴッドォッ! フィンガァッ!」
「ウオォォォォォォォォォォォッ!」
全ての思いと全ての闘志を込め、閃光と爆炎の中、最後の一撃が交錯した。
会場にはしわぶきの音一つ無かった。
アキトの爆熱の右掌がナデシコマックスターの顔面を完全に捉えている。
ナオの渾身の右ストレートがゴッドナデシコの顔面に深く突き刺さっている。
完璧なるクロスカウンターの形で、両雄は相討っていた。
ゆらり、とその体が揺らぎ。
地響きを立てて二体のナデシコは同時にリングに沈んだ。
「ONE!」
ナデシコファイト規約に従い、即座にカウントがとられる。
「TWO!」
テンカウントの内に立ちあがってくればよし、そうで無ければその場で敗北が決定する。
「THREE!」
3カウントを数えた時、アキトとナオの意識がほぼ同時に戻った。
「FOUR!」
テンカウント内に起き上がろうと、アキトが必死で四肢に力を込める。
全身が、まるで鉛が詰まっているかのように重い。
「FIVE!」
ナオが両手を付いた。必死に上体を持ち上げる。
アキトはまだ伏せたままだ。
「SIX!」
アキトが四つん這いになった。立ちあがろうともがく。
ナオが腕にあらん限りの力を込める。
片腕立て伏せ五百回をこなす腕が、今ばかりは頼りなく思える。
「SEVEN!」
ナオが上体を起こし片膝を立てる。
アキトも両膝を突いたまま、上体を起こした。
「EIGHT!」
アキトが片膝立ちになる。
ナオも最後の力を振り絞り体を持ち上げる。
「NINE!」
アキトが両足で立った。
不意に、ナオの視界が揺らぐ。
世界が回転し、ナオは受身を取ることも出来ずに目の前に広がるリングに叩き付けられた。
「TEN!」
テンカウントがとられる寸前、アキトが完全に立ちあがった。
カン、カン、カン、カン、とゴングが打ち鳴らされる。
「また、負けちまったか・・・・」
耳慣れたその音を聞きながら、ナオの意識は再び深く沈んでいった。
気がつくとナオの目の前にはアキトの顔があった。
力の限りを尽くした者だけが浮かべられる、いい表情をしている。
恐らく自分も同じ表情をしているのだろう、とナオは思った。
アキトの差し伸べた手を掴み、ナオが立ちあがる。
肩を借りてコックピットの外に出た。
今まで以上の、嵐のような大歓声が二人を迎える。
会場の全てから、ネオアメリカの応援団からも歓声が轟いていた。
大歓声がナオの名を呼んでいた。
アキトの名を呼んでいた。
二人の健闘を称え、二人の名を叫んでいる。
「ネオアメリカのみんなも、納得してくれたのかね」
尋ねられたアキトが返事を返すより早く、通信機から声が流れてくる。
『あれだけのファイトを見せたんだ、納得してくれるさ』
「カズシさん・・・すまねぇ、負けちまったよ」
『いいさ。また、やりなおせばすむこった』
「ああ・・・・そうだな。そうだよな」
ふとアキトと目があった。
かすかな笑みを浮かべ、無言のままアキトが頷く。
ナオが拳を握る。
「I'll never give up!」
右拳を高々と天に突き上げ、ナオが叫ぶ。
やむ事のない歓声が再び会場を埋め尽くす。
激しい戦いを終え、肩を組み互いの健闘を称え合う好敵手。
誰もがその姿に心を揺り動かされ、酔いしれている。
「いい・・いいファイトだったわ、二人とも」
覆面に包まれた頭が深く頷く。
シュバルツの、その目にすら掛け値無しの賞賛の色があった。
首相専用席に拍手の音が響く。
いつもと変わらぬ微笑を浮かべたまま、メグミ首相が手を打っていた。
ホウメイが無言のまま太い笑みを浮かべている。
「さすがはアキトさん。今日の所はさすがにファイターらしい戦い、と褒めておきましょう。
ですが、次の敵はネオフランスのミスマル・ユリカ。
彼女を相手にしても果たして今日のような戦いが出来ますか? アキトさん。」
その問いに答える者はなく。
唯一傍らのホウメイが笑みを深くしたのみであった。
次回予告
皆さんお待ちかねぇ!
ユリカに下された残酷な命令!
それはゴッドナデシコとの試合を放棄せよ、と言うものでした!
戦士としてのプライドを失ったユリカは、アッと驚く方法でアキトに決闘を申し込むのです!
次回機動武闘伝Gナデシコ、
レディィィィィィ!GO!
あとがき
皆さんお待ちかねぇっ!
いや、待っていて頂けてればの話ですが(爆)
・・・・・シャレになってないな、おい(汗)。
申し訳ない、殆ど三ヶ月も間を空けてしまいました。
一応原作があるってのにさすがに季刊はねぇ(苦笑)。
それなりの物はできたと思ってはいますが、もうちょっと早くてもええんじゃないかとか。
まぁ、代理人業務にも慣れてきた事だしもう少しはペースアップすると思います。
・・・・・隔月刊位には(殴)。