機動武闘伝
ナデシコ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロンドンは今日も深い霧に包まれている。

ビッグ・ベンの針が午前二時を指した時、火線が走った。

赤い機動兵器が頭を破壊されて倒れる。

再び静寂が周囲を包んだ。

霧の街を白と青とで塗り分けられた、優美な機体、

ネオフランスのナデシコローズが油断なく進んでいた。

コクピットの中ではユリカが落ちつきなく周囲を見渡している。

だが不可解な事に、コクピットの全周モニターは一面ノイズが走っていた。

ユリカの左後方八時の方向。赤い巨人の足が道路に放置されていたコンクリート塊を踏み砕いた。

「!そこねっ!ローゼスビットォ!」

巨人が頭部を粉砕されて倒れる。

その残骸を見てユリカが唇をかんだ。

「・・・またダミー・・・本物は一体どこに・・きゃぁぁぁぁっ!」

真後ろから、三条のビームがナデシコローズを貫いた。

ユリカの膝が崩れ落ちる。

「くっ・・・霧に紛れて伏兵を忍ばせておくなんて・・・。」

これまで破壊された物によく似た赤い機体が、

身長の半分ほどもある長銃身のライフルをナデシコローズの頭に突きつけた。

『どうした?もう終わりか?・・・戦いとは非情なものだ。勝つ者がいれば必ず負ける者がいる。』

「くっ・・・・!」

『・・・あばよ!』

男の指が引き金を絞る。

霧の中に銃声が一発、やけに高く響いた。

 

 

ロンドンのどこかで、遠くから聞こえてくるかすかな爆音にアキトが立ち止まった。

「・・・いやな音だ・・・。」

音の聞こえた方を見て呟く。再び歩き出すと間もなく、

目的の店を見つけ、両開きのドアを開けてその中に入っていった。

 

 

 

 

「さて、テンカワさんはある一人のファイターを尋ねてここ霧の街ロンドンにやってきました。

果たしてアキトは彼に打ち勝ち、デビルホクシンとともに

地球に落ちた妹アイの手がかりを掴む事ができるのでしょうか?

ナデシコファイト・・・

レディィィ!ゴォォォゥ!」

 

 

 

 

 

 

 

第九話

「強敵!

英雄テツヤの挑戦!」

 

 

 

 

 

 

スペードA、スペード6、ハート6、ダイヤ6、クラブ9。

最高級の職人の手によって作られたポーカー・テーブルの上に五枚の手札が開かれる。

「スリーカード。」

ギャラリーが低くざわめいた。これで七回連続の勝ちだ。

目つきの鋭い、どこか暗い影を感じさせる男のもとに勝ち取ったチップが押しやられる。

男もギャラリーも、この場にいる人間の殆ど全員が整った身なりをしていた。

そして、唯一の例外がギャラリーの中から進み出て、今勝った男、

ネオイングランドのナデシコファイター、テツヤ=チャップマンの前に荒荒しく手を置いた。

「お前がテツヤだな。・・お前に訊きたい事がある!」

赤い長鉢巻に同色のマント。

いつも通りの格好をしたネオジャパンのナデシコファイター、テンカワアキトであった。

半ばからちぎれた写真を懐から取り出す。

「女を探している。」

「・・・悪いが今は勝負で忙しい。後にしてもらおうか。」

アキトが大股でテーブルの反対側に歩いて行く。

そこに座っていた男を視線でどかすと、席に斜めに腰掛けてポーカーテーブルに肘を突いた。

「なら、俺と勝負してもらおうか。

お前が負けたときは知ってる事を洗いざらい話してもらう、という条件でな。」

「・・・お前が負けたときは?」

「男は負けた時の事は考えないもんだろう?」

「フン・・・いいだろう!」

ニヤリと笑い、テツヤが金髪の女性ディーラーに目配せする。

ディーラーは頷くと、封を破って新しいカードをおろし、

それを見事な手つきでシャッフルすると、アキトとテツヤの目の前に交互に一枚ずつ、

測ったような正確さでカードを飛ばす。

互いの目の前に伏せた五枚のカードが綺麗に並んだ。

 

 

 

 

「コール!」

女性ディーラーの低いがよく通る声とともにアキトが手札を開いた。

スペードA、ハートA、クラブA、ハート9、ダイヤ7。

「エースの、スリーカード。」

ギャラリーが再びざわめく。

わずかに笑みを浮かべ、テツヤも手札を開いた。

ハートQ、クラブQ、ハート3、ダイヤ3、クラブ3。

「フルハウス、だ。」

ざわめきが一段と大きくなる。

女性ディーラーがわずかに視線を伏せた。

「残念だったな。勝つ者がいれば負ける者もいる。勝負とはこういうものだ。」

「さすがだな・・・・・・だが!」

アキトがディーラーに手を伸ばし、素早くその腕を掴んで捻り上げる。

白いシャツの袖口から数枚のカードが覗いた。

黒いタキシードを着た数人の男が拳銃を抜き、アキトに突きつける。

それでもなお獰猛な笑みを浮かべながら、アキトがテツヤの方を見る。

「らしくないじゃないか?こんなイカサマ、ナデシコファイトじゃ通用しないぜ!?」

「探したぞアキト!こんなところで何、やって・・・」

人ごみから出た途端、左右のこめかみに銃を突きつけられた

ガイの声が次第に小さくなって、途切れる。

冷や汗を浮かべながらガイが笑ってごまかした。

つられる様にテツヤも笑う。

「フ・・フフフフ・・いい目をしている。お前、名は?」

「テンカワアキト。お前を倒しに来たナデシコファイターさ。」

後頭部に押し当てられる銃も意に介さず、アキトが言葉を継ぐ。

「どうせならナデシコファイトで決着を着けてもらいたいものだな、テツヤ・チャップマン!」

薄い笑みを浮かべていたテツヤの口が開き、低い哄笑が響いた。

 

 

 

 

 

「・・・・今夜はここをお使い下さい。」

案内された部屋に一歩入り、アキトが低く口笛を吹いた。

続いて入ってきたガイも部屋の豪華さに目を見張る。

「豪勢なもんだな〜。てっきり牢屋かなんかに入れられると思ったんだけどな。

・・・・・・・・・・おおっ!?」

壁に掛かっていた巨大な肖像画にガイが感嘆の声を上げる。

第九回から第十一回(前々回)までのナデシコファイトを連続で制した名機ブリテンナデシコと

そのファイター、バーナード・チャップマンを見事な筆致で描いたものだった。

「ナデシコファイト史上、連覇したのはこのオッサンだけなんだよなぁ・・。」

「ああ。」

「確かテツヤってのはこいつの息子なんだろ。」

「ああ。前回のナデシコファイトにも出場し、この国では「英雄」と呼ばれている。

・・・・・・・親の七光では、無さそうだな。」

ガイが何か言おうとした時、扉が開いた。

黒スーツの男たちと若い執事に囲まれて姿を現したのは、アキトも知った顔だった。

「ユリカ!?」

「えへ。お久しぶり、アキト。」

ジュンに肩を借り、ユリカが苦しそうな息の中で笑った。

 

 

 

長椅子にユリカを寝かせ、ガイがユリカの手足に包帯を巻いていた。

ひびの入った骨が痛むのか、時々ユリカが顔をしかめる。

「みっともない所見られちゃったね・・・痛ッ!」

「ユリカがここまでやられるとはな・・。さすがにあなどれないか・・・。」

「あの人のお父さんは・・・正々堂々としたファイトをする事で有名だったの。

いかなる時も王者の風格と貫禄を漂わせていたし、

それは私の理想のファイトのひとつでもあったの。

・・・でも、あの人は、テツヤは違う。」

 

あの時・・・テツヤは「一対一」というナデシコファイトの原則を破って、

霧に紛れて大量のダミーを用意してきたの。

私を疲れさせ、追い詰める作戦だったのよ。私はあいつの思惑通りに躍ってしまった。

倒しても倒しても偽者だった。遂に私は後ろを取られ、あの人の銃弾に倒れた。

 

「・・・にわかには信じがたい話だな。」

「ユリカはアキトに嘘なんかつかないもん!

いいもん、そんな事言うなら、

もうひとつ大事な事を教えてあげないんだからね!」

「分かった分かった。信じる!信じるから教えてくれ!」

「じゃあ教えてあげたら御褒美くれる?」

アキトの武闘家としての勘・・・と言うよりも、

もっと本能的なレベルの直感が最大限に警報を鳴らす。

だが同時に、理性ではユリカから情報を聞き出さなければいけない事も理解している。

二秒ほど迷ってから全身全霊の勇気を振り絞ってアキトが尋ねた。

「御褒美って・・・なんだよ?」

「アキトだから、キスひとつでいいよ!もちろん、」

と、自分の唇を指すユリカ。

「ここにね!」

「ば、馬鹿言ってるんじゃない!」

「・・・アキトって。」

「な、何だよ?」

「ひょっとしてヤマダさんとそう言う関係なの?」

絶句するアキト。

「なんでそうなる!」

「だってアキトが私以外の女の人を好きになるわけないもん!」

アキトが反論する前に例によって何か勘違いしたらしいガイが大声で宣言する。

「無論!アキトと俺とは一心同体!

全てを許しあった特別な友人だ!」

顔を引きつらせたジュンがさりげなく、アキトとガイから距離を取った。

「そうなの・・・やっぱりそうなのね・・。

結婚の約束までしておきながら・・・・・不潔よ!」

「結婚の約束って・・・・五歳の時の話、しかもお前が一方的に決めたんだろうが!」

その後、ガイを半殺しにしてユリカの誤解を解き、情報を聞き出すのに数時間かかった。

ちなみに「御褒美」はジュンの仲裁(?)により、

丸一日のデートと言うところで妥協が成立したらしい。

再びユリカが話し始める。

「・・・それでね、テツヤは動けない私に銃を突きつけたんだけど・・・

銃弾はナデシコローズの頭を砕かずに頬をかすめただけだったの。

ううん、目をつぶってても外すような距離じゃなかった。

そのままあの人は苦しむ様に霧の中に消えていったの・・・。」

難しい顔でアキトが黙りこむ。

長話に呼吸を荒くしながらユリカが再び口を開く。

「あの人・・絶対にどこかおかしかったよ。

どこがどうって、うまく言えないんだけど・・・。」

「分かった。もういいから喋るな。それ以上話すと傷に触るぞ。」

「心配してくれるんだね、アキト。」

「ま、まあな。」

「・・・・ありがと。」

微笑んでユリカがまぶたを閉じる。

すぐに規則正しい寝息が聞こえてきたのを確認して、

アキトとジュンが同時に安堵の溜息をついた。

床に転がる「物体」を指差して小声でジュンが聞く。

「ところで、どうするんだい、これ。」

「放っとけばその内に復活するから、気にしなくていい。」

「・・・・君達は本当にそう言う関係じゃないのかい?」

「違う!それより、聞き忘れていたがなんでネオイングランドに来たんだ?

当分はネオフランスにいるという話だったじゃないか。」

「・・・国にいると日に一回はコロニーからのラブコールが来るんだよ。」

「ラブコールって・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・アレか。」

「そう、アレ。」

再び、男二人はそろって溜息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

夜明け。

テツヤがベッドの上で胸を押さえ、喉をかきむしる。

あの金髪の女性ディーラー・・・・ライザが、

テツヤの口にカプセルをひとつ押し込み、水の入ったコップをあてがう。

水とともに薬を飲み干し、テツヤは深く息をついた。

「かなり量が増えているわよ。・・・もう、やめた方がいいんじゃないの?」

「大丈夫だ。心配ない。・・・この大会が終わったらナデシコファイターなんざやめてやる。

ああ、きっとだ・・・。」

「・・そうね。」

ライザがカーテンを開ける。

部屋の中に差し込んで来た光にテツヤが目を細めた。

「ねえ、あの子・・」

「ネオジャパンのファイターか。」

「午後のお茶に呼んでもいいかしら?」

「気に入ったのか。」

「どこか、あなたと似ているのよ。どこか・・・。」

「・・・・好きにしろ。」

「あなただって気に入っているのでしょう?」

「さあ、な。」

 

 

 

 

 

 

荒れ果てたロンドンの、かつては中心街だった街路をアサルトランダーが疾駆する。

「なあ、アキト。本当にいいのか?」

「御招待を受けたんだ、行かなきゃ失礼ってもんだろ?」

「だけどよ、罠だったら・・・」

「その時は、罠ごと食い破るまでだ!それにユリカが言ってた事も確かめたいしな。」

アサルトランダーがテツヤの屋敷の門をくぐり、二人は口をつぐんだ。

 

 

 

 

紅茶の香りが鼻をくすぐる。

アキトやガイには分かるはずもないが、恐らくこれも最高級品のはずだ。

テツヤがカプセルらしきものを潰し、紅茶に白い液体を入れてかき混ぜる。

ガイが一気に半分ほど飲み干すその隣で、アキトはまだカップに口もつけずにいた。

「・・どうした、飲まないのか?」

「ウェールズのものだけど、玉露の方が良かったかしら?」

テツヤの声に非礼を責めるような調子はない。むしろ、どこか面白がっている風情だ。

アキトはライザの声にも耳を貸さず、正面に座るテツヤに挑戦的な視線を注ぐ。

「あいにくと、人に親切にされるのは苦手だ。」

「安心しろ。毒なんぞ入ってない。」

アキトが苛立った様にテーブルに拳を打ち付ける。

カップが跳ね、まだ口をつけていない紅茶がこぼれた。

「のんきに茶なんぞ飲んでる暇があるか!

俺は、貴様とファイトしにやってきたんだ!」

「ファイト・・・か。貴様はなんの為に戦う?」

「何ぃ・・?」

席を立ったアキトとテツヤの視線がぶつかり合う。

テツヤの口元が歪んだ。

「復讐・・・か。」

「!」

「・・・隠さなくてもいい。俺には、分かるんだよ。

だが・・・・倒せるつもりか?この俺を?」

「イカサマを使わなければ戦えないような男に負けはしない!」

「・・・貴様。」

「言った筈だ!俺は、お前を倒しにやってきたファイターだと!」

いきなり、テツヤがアキトにティーカップを投げつける。

アキトが軽く脇に動いて避ける。背後の壁にカップがぶつかり、澄んだ音を立てて砕け散った。

だが、その一瞬で立ちあがったテツヤの右手には

いつのまにか拳銃が握られ、アキトの心臓を正確に狙っていた。

ガイと、ライザが立ちあがる。

「分かるだろう、若いの。実力の差って奴が。今、俺の銃はお前の心臓をぶち抜く事も出来る。」

「こうも言った筈だな・・・男は、負けた時の事は考えないものだと!」

「・・・死に急ぐなよ!」

不意に、テツヤの視界がぶれる。

(まさか・・もう薬が・・・?)

額を押さえ、テツヤがテーブルに手をついた。

だがその視線はアキトに釘付けになっている。

「あなた・・・」

「貴様・・・その若さならまだ他にも道はあるだろうにな・・・!」

テツヤがライザに目配せをし、ライザが小さく頷く。

屋敷の庭が開き、地下格納庫からジョンブルナデシコがせり上がって来る。

テツヤが拳銃をふところに戻した。

「貴様の挑戦を受けてやる・・・ナデシコファイトだ!」

「望む所だ!」

テツヤがジョンブルナデシコの手に乗る。

空を舞い、ビッグ・ベンの前に降り立つジョンブルナデシコ。

「ナデシコォォォォッ!」

アキトが指を鳴らす。

テムズの水面を割り、シャイニングナデシコが姿を現した。

互いにモビルトレースシステムを作動させ、ファイティングスーツを身にまとう。

 

「テンカワアキト!戦いの重みと言うものを、貴様に教えてやろう!」

「行くぞ!ナデシコファイト!」

「レディィィィッ!」

「「ゴォォォォォッ!」」

二体のナデシコが正面から激突した。

 

 

 

 

 

ガイは、冷たい石の床の上で意識を取り戻した。

上体を起こし痛む頭を振って意識をはっきりさせようとする。

確か、アキトのサポートをする為に屋敷を出ようとしたら、

いきなりキツイのを後頭部に食らって・・・。

そこまで思い出した時、広い部屋の正面の壁一面が

巨大なモニターになっていることに気がつく。

モニターにはシャイニングナデシコとジョンブルナデシコの戦いの様子が映され、

その前のコンソールにライザが座っていた。

「・・・気がついたみたいね。もう少し、そこで大人しくしていて頂戴。

でも、こうするしかないの。・・・・女の私にはね。」

ガイがなんとも言えない表情になった。

まだ、状況が良く飲みこめていない。

ライザがコンソールを操作する。

画面の中が、急に霧で覆われて行った。

 

 

 

 

ジョンブルナデシコと間合いを取って対峙していたアキトは慌てて周囲を見渡した。

数十m先のジョンブルナデシコの輪郭がぼやける。

同時に、コックピットに表示される映像にノイズが走った。

アキトがコンソールを操作し、モードをいくつか切り替えてみる。

だが、殆ど全てのセンサーから送られてくる情報がノイズが掛かるか真っ白になっていた。

「電磁波・・赤外線・・メインカメラだけじゃない!

 この霧が・・・あらゆるセンサーをイカレさせちまった!」

舌打ちした時、アキトの耳が重い音を捉えた。

複数の重い足音。ユリカの話が思い出される。

ジョンブルナデシコの「影」が、それも大挙してやってきたに違いなかった。

アキトが唇を噛む。腰を落とし、全身の力を抜く。

気を落ちつけ、周囲の気配に注意を払う。長い戦いになりそうだった。

 

 

 

 

地下室のモニターには、ジョンブルナデシコ、シャイニングナデシコと

ダミー・ナデシコの位置がどのような方法によってか、正確に表示されていた。

ガイが立ち上がり、ライザに詰め寄る。

「・・・ライザさん!アンタって人は!」

「聞いて。あの人の体は、もう戦いに耐えられるような状態じゃないの!

でも・・それでもあの人は戦いつづけることを選んだのよ・・・・それだから・・・。

最後の一瞬までナデシコファイトする事を求めているのよ・・・・!

あの薬・・・精神強化剤もその為・・・。」

 

 

 

ぼりん、ぼりん、と音を立ててテツヤが精神強化剤を噛み砕く。

その視線の先わずか五十mほどの所を、アキトのナデシコが摺り足で進んで行った。

「青いな・・!視覚を奪われたくらいでうろたえるとは!

そんな事では俺の影を捉えることすら出来まい・・・!」

 

 

 

 

アキトの息が、早くも上がっている。

足音を、わずかな気配を頼りに敵を五、六体は寸断した。

だが、そのどれもがダミーであった。

神経を研ぎ澄ますのにも限界がある。

また一体、ビームソードが赤い機体を切り裂く。

だがそれもまたダミー。一瞬動きが止まったアキトに集中砲火が降り注いだ。

 

 

 

画面の中は地獄だった。火線が飛び交い、ダミーナデシコが次々と爆発する。

爆発の輝きに照らされるライザを、ガイは何故か美しいと感じた。

「男は勝手だわ。好きな時に命を賭け、惜しげも無く捨てる事を美しいと思っている。

でもね、私は決めたの。あの人の決めたとおりについていってあげようって。」

「・・・あんたは・・・アンタって人は。」

 

 

 

アキトが咆える。火線を躱しつつ間合いを詰め、

一体目を斜め下から切り上げ、二体目を袈裟懸けに切り下ろす。

三体目の胴を薙ぎ、四体目の胸を一直線に貫いた。

「霧に紛れ、数を頼みのなぶり殺しか!この下司が!

男なら正々堂々、出てきて勝負しろ!テツヤァァァ!」

咆えるアキトの肩に、ビームが命中する。第二射、第三射。

アキトが身を躱すにもかかわらず、ビームが発射される度に正確に命中する。

「小僧がしたり顔で説教を垂れるじゃないか。・・・甘っちょろいんだよ!

戦いとは所詮、食うか食われるか。そこに綺麗も汚いもない!

己の目的を果たすためには勝利するしかない!綺麗も汚いも、全てはそれからだ!」

「なんて正確な射撃だ・・・!これがあいつの実力か・・・!」

小さく呻きながらアキトが廃墟の影に飛びこみ、一瞬その表情が凍りつく。

目の前のビルの屋上にダミーが待ち構えていた。

既に銃口はアキトに照準を合わせている。

間に合わないと知りつつアキトが回避行動を取ろうとした時、

ダミーの頭部が爆発し、残った胴体が地面に落ちた。

「えっへん!」

「ユリカ!」

「・・・ガイさんが言ってたよ。『テツヤは精神強化剤を使っている』って!」

「な!?馬鹿な!そんな薬を使ってまで勝利を収めてどうしようというんだ!?」

「知らないよ!でも、急いで止めないと・・・副作用で廃人になっちゃうよ!

雑魚はユリカが食いとめるから・・・早く!」

アキトが頷き、後ろも見ずに霧の中を走り出す。

「もお。少しくらい心配してくれてもいいのに。」

ユリカがちょっと唇を尖らせた。

 

 

 

霧の中をアキトが疾走する。

「出て来いテツヤ!俺は逃げも隠れもしない!」

「戦いとは非情なものだ。強いものだけが生き残り・・・弱いものは泥に塗れる!」

再び、正確な射撃がアキトを捉える。

直撃を受けながらも射撃の来る方向へ、回避行動を取りながらアキトが間合いを詰める。

「・・・まだまだぁっ!」

「だがな・・・民衆は無敵の英雄を求める!俺の親父のような、英雄をだ!

だから・・俺も英雄でなくてはならないんだよ!」

テツヤがまた一つかみ、薬を飲み下した。

今やその目には狂気の色が揺らいでいる。

「教えてやろうか、テンカワアキト!俺がナデシコファイターになった理由をな!

それは・・・俺が親父を殺したからよ!この手でな!」

「!?」

アキトの動きが止まった。テツヤも、銃を構えたままではいるが撃とうとはしない。

「俺の親父は射撃と格闘技の達人だった。

小さな頃から手ほどきを受けて、尊敬する親父みたいになりたくて一生懸命練習したものさ。

だが俺が九つの時、急に親父はいなくなった。

俺と、お袋と、生まれたばかりの妹を残してな。

その後しばらくして、奴がナデシコファイターになった、という新聞記事を見かけた。

半信半疑で会いに行って見たら確かに親父だったよ。

・・・貴族様の婿養子になって、新しい家族に囲まれて暮らしていたがね。

奴は、俺を足蹴にして淫売の息子呼ばわりすると自分の子じゃないとはっきり言いやがった。

お袋が浮気して俺を生んだから離婚したんだと。

俺は足蹴にされ、半殺しの目に会って叩き出された。

それから九年、奴が三連覇を為し遂げた次の年だ。お袋と妹は流行り病で倒れた。

なにも知らないお袋は、最後まで親父のことを信じていたっけ。妹は、まだ十一だった。

あいつの所へ行ったよ・・・。殺してやるつもりでな。

顔を合わせるなり、いきなり襲いかかってきやがった。

俺の殺気を感じたのか・・・それともあいつにしてみれば俺は生きていちゃ都合の悪い人間、

それも自分が今まで築いてきたものを無に帰しかねない人間だったからなのか。

さすがにナデシコファイトで三連覇しただけの事はあった。べらぼうに強かったよ。

無我夢中で戦って・・・・そして・・・気がついたら親父は死んでいた。

それをネオイングランド政府の犬が見ていたらしいんだな。

警察がやってくるより前に軍の連中がやってきて、

俺をナデシコファイターにスカウトしたんだ。笑っちまったよ。

殺した親父の跡も俺が継ぐことになるというんだ。この俺が!

親父はそれを得る為に俺達を捨てたと言うのに、終わってみれば自分は死んで、

手に入れた爵位を継ぐのは捨てた筈の息子だ。

それがどうにもおかしくてな、ついついOKしちまったのさ。」

こらえ切れなくなった様にテツヤが低く笑う。

「政府の奴らは親父を国葬し、俺を新たな英雄として祭り上げた!

あの男にとって邪魔っけな石ころでしかなかったこの俺が、

その後継者として名を上げる・・・考えてみれば、あの男に対する最高の復讐じゃないか?

そう・・俺にとってナデシコファイターであり続ける事が、

戦いつづけ、勝利し続ける事こそが即ち復讐なんだよ!」

含み笑いがヒステリックな哄笑に変わる。

哄笑しながらテツヤは引き金を引いた。

ビームソードが弾き飛ばされ、足を撃たれたアキトが倒れた。

膝を突いたシャイニングナデシコの頭部にテツヤが銃を突き付ける。

「さあ、最後だ・・・・・これが最後のチャンスだぞ、テンカワアキト・・・!?」

唐突に、ジョンブルナデシコの手から銃が落ちた。

テツヤが苦悶に呻き、震える手で頭を押さえて後退する。

「・・・・何をしている、テンカワアキト!何故撃たん!?」

「!?し、しかし!」

「だから甘っちょろいと言ってるんだよ!貴様にも戦う理由があるんだろうが!

無いとは言わせんぞ!貴様の目は、俺と同じだ!

親父を憎み、復讐に焦がれていた俺の目と!」

アキトが絶叫とともに、「輝く指」をテツヤの頭部に叩きこむ。

「そうだ・・・それでいい・・・!」

その言葉を最後に、頭部を握り潰されジョンブルナデシコが倒れた。

 

 

 

 

 

ライザが瀕死のテツヤを抱き起こす。

「テツヤ・・・・・」

「俺には・・・まあ、お似合いの最期だな・・・。お前にも・・・・・・・苦労を・・・・・」

「いいえ・・・いいえ・・・。」

涙をこぼしながらライザが首を振る。

自嘲するように笑みを浮かべ、テツヤが目を閉じた。

アキトが口を開きかけ・・・だが、言うべき言葉は見つからなかった。

「何も言う必要はないわ。・・・全ては覚悟していた事だもの。

この人も・・・私も。でも・・・私達の事を覚えておいて。

この、復讐に身を焦がした愚かな男の末路を。

良く見ておくのよ・・・いつかあなたもこうなるかもしれないの。

でも・・それを防ぐのもあなた達次第。」

 

 

(復讐者の、そして戦士の運命・・・・・。)

「復讐者」としての己に殉じ、そして溺れていった男テツヤ。

アキトの心に、ライザの言葉が何故か重く響いた。

 

 

 

次回予告

 

皆さんお待ちかねぇ!

ネオエジプトに来たアキトと舞歌の前に、

世にも恐ろしいミイラ男が現れ、

大昔のナデシコに乗って襲いかかってきます!

そして!アキトは遂に、デビルホクシンの手がかりを掴むのです!

次回!機動武闘伝Gナデシコ、

「恐怖!亡霊ファイター出現!」に

レディィィ、Go!

 

 

 

あとがき

 

・・・今回は苦労しました。

テツヤというキャラクターをどうこの世界にもってくるか?

原作では、「主人公に戦士としての心構えを教える」という

割と重要なゲストキャラだったと思うのですが、

何の因果か後半に復活した時は「只の悪役」になってました。

前半とは全くの別人なので、事実上二つのキャラクターを

考えなければいけないわけです。

特に前半の彼は短いながらも印象に残る役どころだったので

「テツヤがアキトに何を教えるのか?」というのは随分と悩みました。

まあ、結果はご覧の通りです。

うまくいったかどうかは少々自信が無いのですが・・・。

 

 

 

 

 

管理人の感想

 

 

鋼の城さんから連載第九弾の投稿です!!

いやはや、テツヤですか?

しかし、原作の流れをそのまま流用するとは・・・

恐るべし、鋼の城さん(汗)

また、精神破綻者役にはまってるテツヤがなんとも(苦笑)

このキャラを考えた俺って?(汗)

 

では、鋼の城さん!! 投稿有難うございました!!

 

感想のメールを出す時には、この 鋼の城さん の名前をクリックして下さいね!!

後、もしメールが事情により出せ無い方は、掲示板にでも感想をお願いします!!

出来れば、この掲示板に感想を書き込んで下さいね!!

 

 

ナデシコのページに戻る