アキトの両手が自然に「智拳印」を結び、溢れる闘気が金色に輝く。
くわっ!と見開かれたアキトの目からもまた、黄金色の闘志が迸った。
顔の前にかざしたアキトの手に、キング・オブ・ハートの紋章が燃えた。
解放された胸のエネルギーマルチプライヤーが燃える。
背中の六枚のフィンが放射状に展開し、溢れるエネルギーが日輪を描く。
「俺のこの手が真っ赤に燃えるッ!
勝利を掴めと轟き叫ぶッッッ!」
腕に装備されていた青い追加装甲がスライドし、指先から手首まで、手の甲の側をすっぽりと覆う。
背中に輝く日輪の中央に光の粒子が集まり、右手が赤く燃え始める。
その一瞬後、右手から爆発的なエネルギーが噴出する。
大きく踏み出したアキトが、爆熱する右手を風を灼いて繰り出した。
「爆ァァク熱ッ!
ゴッドォッ!フィンガァァァッ!!!」
「アキト!」
「いけない!」
「やめろテンカワァッ!」
ガイが、舞歌がリョーコが悲痛に叫ぶ。
北斗が錫杖を持ち替え、素早く手元に引きつけた。
くん、と鯉口を切る。
「ここまでか、テンカワアキト!」
マンダラナデシコの錫杖から鋼の輝きが鞘走る。
銀色の軌跡を描いて稲妻の早さで閃いた刃がゴッドナデシコの首に吸い込まれる様をイメージし、
北斗が振りぬいた刀身は、だが宙に止まっていた。
北斗の剣を、ゴッドナデシコの右手から迸る灼熱の波動の圧力が・・・
爆熱ゴッドフィンガーが真正面から受け止めている!
「なん・・・だとっ!」
爆熱する右手と死をもたらす刃の間に火花が散る。
北斗の剣の切り裂こうとする力と、アキトの右手が生み出すプレッシャーが拮抗していた。
「う・・・おおおおおおおおおっ!」
アキトが咆える。
「馬鹿なぁっ!?」
瞬間、圧力が爆発的に膨れ上がり、マンダラナデシコが吹き飛ばされる。
リングを斜めに横切って飛び、今度は北斗がバリアに叩きつけられた。
バリアに激突した衝撃に、さしもの北斗が一瞬息を詰まらせる。
「ぐ・・・」
うめきながら顔を上げた北斗をアキトの燃える双眸が貫いた。
「よく聞け北斗・・・ナデシコファイトは、同じ命がけの戦いでも単なる殺し合いじゃない。
同じリングの上で勝つか負けるか・・・それが全てだ。
お前はそれを忘れ・・・戦いの前に俺に奥の手を明かしてしまった・・・・」
アキトの構えた拳に、再びキング・オブ・ハートの紋章が輝いた。
「キング・オブ・ハートに、同じ手は二度通用しない!」
鮮やかなアキトの逆転劇に会場が沸く。
くっくっくっくっく・・・・
その歓声の中低く、だがはっきりと北斗の忍び笑いが響いた。
「く・・くはははははは!確かにな!一本取られたぜ。
・・・・だが、これで一勝一敗一分け、って訳だ!」
「ああ。決着を着けよう北斗・・・・爆熱!ゴッドスラッシュ!」
ゴッドナデシコが抜き放った剣を青眼に構える。
背中に輝く光背の、日輪の輝きが膨れ上がり、黄金の「気」がゴッドナデシコの全身を包んだ。
「マンダラナデシコ・・・ブースターパージ!」
マンダラナデシコの釣鐘の上半分が、強制排除用の炸裂ボルトによって弾け飛ぶ。
その中にうずくまるようにして格納されていた「もの」がゆっくりと立ち上がった。
ゴッドナデシコとほぼ同じサイズ、機動性重視のやや細身の機体である。
全身はやはり真紅で染められていた。
まなじり鋭く、これも真紅に輝く瞳。角の如きマルチブレードアンテナ。牙を剥くが如きフェイスマスク。
それら全てが否応なく北斗の異名を思い出させた。
そう。真紅の羅刹、と。
「久しぶりだな・・この形態も。ブースターもいいが蹴りが出せんからな、あれは。」
微笑しながら呟くと、目を閉じて再び気を満たす。
背中の四枚のスタビライザーが放射状に大きく広がり、真紅のエネルギーの翼を生み出した。
その全身が一瞬ほのかに輝き、次の瞬間爆発的に膨れ上がった「気」が全身を覆う。
それは朱と金の入り混じった、輝ける真紅とでも言うべき色をしていた。
「ハイパーモード・・・・!」
誰かがごくり、と唾を呑みこむ。
それは、まさしくアキトのそれに匹敵する力、ハイパーモードに違いなかった。