閃光が天空をかけぬける。
雷鳴が轟いた。
会場は既に寂として声も無い。
しわぶきの音一つ、聞こえては来なかった。
黄金の輝きをまとうゴッドナデシコ。体をやや開き、半身になって構えは青眼。
真紅に輝く羅刹と化したマンダラナデシコ。こちらも剣を八双に構えて半身になる。
互いの纏う輝きが徐々に薄れ、それと反比例して剣の放つ同色の輝きが強まる。
斬撃の威力は双方共に一撃必殺。
即ち、勝負は一瞬。
暗くなった空に稲光が走る。少し遅れて雷鳴が轟いた。
それが合図であったかのように、輝く金色の剣が徐々に切っ先を上げる。
呼応するかのように真紅の剣がこちらもゆっくりと、切っ先を下げて脇に引きつけられてゆく。
対峙する二人をじっとシュバルツが見つめている。
アキトの剣が完全に上がりきった。大上段に剣を構えたまま身じろぎもしない。
逆に北斗は身を沈め、脇に剣を引きつけている。刺突にも払いにも臨機応変に移行できる構えだ。
稲妻が閃き、雷鳴が轟く。土砂降りの雨が降り始めた。
雨に打たれたまま、アキトも北斗も身じろぎもしない。
何度目かの、今までで一番巨大な稲光が閃く。
アキトと北斗が同時に動く。
天を稲妻が疾ったその刹那、まさしく電光に等しい速度で二人は交差した。
雷鳴が轟く。
互いに背を向け、二人が再び動きを止めた。
身を屈めて剣を振り下ろした姿勢のアキト。
伸びあがるように振り抜いた剣を斜め右上に、天を切り裂くかのごとく右手一本で北斗が握る。
そのまま二体とも微動だにしない。
稲妻が疾る。
ゴッドナデシコの右腕が爆散し、その体がぐらり、と傾く。
北斗の唇が笑みを形作った。
「楽しかったぜ。」
羅刹の額が割れ、どろりとした液体が流れ出す。
一瞬遅れて頭部が爆発し、轟く雷鳴と降りしきる豪雨の中マンダラナデシコはどう、と倒れた。
『ゴッドナデシコの勝利です!』
先ほどに数倍する歓声が雷鳴すら圧して響き、大地を揺るがす。
その歓声が一層ネオネパールの監督を激昂させていた。
デッキ上にいるその他の連中も多かれ少なかれ同じようなものである。
監督はひとしきり悪態を突き終えると下卑た笑みを浮かべてコンソールに手を伸ばした。
「ええい、北斗の無能めが!こうなれば、暗殺の証拠を消す為に・・・」
黄色と黒の縞で塗装された安全カバーを開き、赤いボタンを露にしたその唇がニヤリ、と歪む。
「奴には自爆してもらおう・・・・・!」
その指がボタンに触れる寸前、一本のナイフ・・・日本人なら「くない」と呼ぶたぐいの手裏剣・・・
がボタン脇のコンソールに突き刺さる。
既視感を起したのか監督が全身を硬直させた。
ネオネパール監督の後ろ、サポーターデッキの手すりにいつのまにか覆面の女がいた。
言わずと知れたシュバルツ・シヴェスターである。
「証拠隠滅とは念の言った事ね。でも余計な真似はご遠慮願いましょうか。
さもなくば、これまでの一件洗いざらいぶちまける事になるわよ!」
「・・・・・勝手にせい!」
観念したような、あるいは不貞腐れたような表情でデッキ上のクルーが一斉にそっぽを向く。
「よろしい。」
頷き、シュバルツはアキトとゴッドナデシコに視線を転じた。
(いい戦いだったわ、アキト君・・・!)
「なるほど、さすがですねアキトさん・・・次の試合も楽しみにしていますよ・・・・!」
まばらな拍手をしながらメグミが笑う。
ホウメイもまた凄みのある微笑を口元に浮かべている。
「フフフ・・・テンカワめ、この難敵に勝ちよったか・・・!」
「おやホウメイ先生・・・彼の勝利がひどく嬉しそうですね?」
目を細め、くすくすと笑いながらメグミが尋ねる。
「無論さね。愛弟子が近づいてくるんだよ・・・アタシと戦うために!」
ホウメイの凄みのある笑みが更に大きくなる。
その鋭い目はじっとアキトに注がれていた。
夜明けの光が山あいの間道を照らす。
朝もやが渦を巻き、旅立つ者とそれを見送る者を薄く包んでいた。
アキトと、真紅の衣をまとい、錫杖を突いた北斗とが向かい合っている。
「俺は忘れない。貴様との勝負を。そして貴様が教えてくれた事を・・。」
優しげな風が北斗の髪を揺らす。
満ち足りた、そして穏やかな微笑を浮かべる北斗にアキトが頷いた。
「礼を言おう。そしてさらばだテンカワアキト。我が唯一にして最高の強敵よ!」
身を翻して歩き出そうとした北斗の前に、大きな荷物を背負った零夜が立ちはだかる。
そして、当然のように自分の脇に並んで歩き始めた幼馴染を見て北斗が苦笑を洩らした。
「別について来いとは誰も言ってないぞ?」
「だって、ホクちゃんったら危なっかしいんだもの。とても一人になんかしておけないよ!
それに料理も洗濯も繕い物だって、私がいなければ何もできないじゃない。」
「・・・・ふん、物好きめ。好きにするがいいさ。それと、だ。ちゃんづけはやめろといっているだろう。」
二人がそのまま数十メートル歩いた後、不意に零夜が振り向いた。
口に手を当て、精一杯の声を張り上げる。
「テンカワアキトさぁーん!
ありがとうございましたぁーっ!」
言うなり零夜はくるっ、と振り向き、先に行ってしまった北斗の後を追うべく小走りで駆け出した。
朝もやの中に北斗たちの姿が消える。
「北斗・・・あいつとは、いつかまた会えそうな気がする。」
また戦うことになるかもしれない、とアキトは思った。
だが、今度は殺し合いではなく正々堂々のファイトを仕掛けて来るだろう。
それを思うと、自然と笑みがこぼれる。
いまから再会の日が待ち遠しい、そんな気さえするアキトだった。
その頃。
(俺の立場って・・・。)
北斗に一瞬で叩き落され、顎とアバラと右手を骨折して入院した上
いまだに誰にも見舞ってもらえないサブロウタが流動食をすすりながら病院の枕を涙で濡らしていた。
次回予告
皆さん、お待ちかねぇ!
ファイトが近いというのにナオはどうにも落ちつきません!
何故なら彼は、美しき乙女ミリアにすっかり夢中になっていたからなのです!
しかし、二人の前には余りにも皮肉な運命の悪戯が待ち構えていたではありませんか!
機動武闘伝Gナデシコ、
レディィィ!Go!
あとがき
「ベースアップする」なんて言っておいてまた一週間ばかりかかってしまったなぁ。
まあ、北斗の話だからよしとしよう(笑)。
実際、力の入り具合がまるで違いますしね。
ちょっと裏をばらしてしまいますと、実は第一稿が完成したときは
今回だけ「機動武闘伝Gナデシコ」じゃなくて「忍法秘話・秘剣撫子之太刀」とでもタイトルを変えようか、
と思ったくらいに白土三平か横山光輝な話でした(山田風太郎・・・ではないな)。
・・・・これでも随分「ナデシコ」ライクな話にしたんですよ(笑)。いや本当に。
ちなみにアキトが冒頭着の身着のままで寝ているのは「常在戦場」の心構えです。
決して服を一着しか持っていないからではありません(爆)。
後、言うまでも無いと思いますがラストの北斗のセリフ。
「強敵」と書いて「とも」と読むのは
日本人として、いや人間として最低限の常識です。
(とは言え▽ァン■ードの人名辞典から「アミバ」が消えるご時世だからな〜)
管理人の感想
鋼の城さんから連載第二十八弾の投稿です!!
世界が違いましたね(笑)
それと鋼の城さんの作品に対する気合も(爆)
もう、その言葉しか無いでしょう(うんうん)
それにしても、縦横無尽に暴れましたね北斗。
最初はアキトも翻弄されっぱなしでしたし(苦笑)
零夜は零夜で何時も調子ですけどね。
そして、次回ではナオさんのあの話です(ニヤリ)
ミリアさんが出てくるらしいのですが・・・さてさて、どうなるのかな?
では、鋼の城さん!! 投稿有難うございました!!
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