機動戦艦ナデシコ
BAD BOY
プロローグ 2
AKITO
星の瞬きは誰にでも平等に降り続ける。そうそれは望まぬもの、咎人であったとしても・・・
船や武器、そして命の残骸が漂う、星の海原に一つの影がある。
黒き闇の鎧を纏い、そこにある破壊を創り出したもの。ヒトが自らの容貌をかたどって創り出した最新の刃、機動兵器。
銘をブラックセレナという。
その胎内に一人の男がいた。テンカワ・アキト、復讐人であろうとした青年。
その目は意思の光を灯していない。
虚の空気しかない薄暗い棺桶の中に一枚のメッセージウィンドウが表示される。
【敵兵力の全滅を確認しました】
「・・・・わかった。ユーチャリスに戻る。」
生きていることの証明である、その声にすら生というものが感じられない。
ただ機械的に操作を行い、ブラック・セレナを近くに待機していた白亜色の戦艦に向かわせる。ブラック・セレナに並んでテンカワ・アキトにとって自らの業の象徴戦艦ユーチャリス。
「オカエリナサイ、アキト」
身にまとわり着かせる虚ろをそのままにブリッヂに上がって来たアキトを薄桃色の髪をした少女が迎える。
以前、彼女と同じマシンチャイルドであるホシノ・ルリをして人形と称した者がいた。そして皮肉なことにその男を誰よりも憎んでいたアキトにとっての彼女はまさにそれだった。お互いがいくらそのことを否定しようともアキトの心の中のしこりは取れない。それ以外に方法がなかったとはいえ、無くした自分の感覚を代行させる。どのように言い繕うとも道具の延長上にある存在だった。その罪悪感がアキトをさらに空虚なものにさせる。
「ああ・・・」
故にやさしく笑いかけることも、逆に距離を置くこともできない。
(次はどこに行こうか。)
火星の後継者の残党狩りも自らの妻である、ユリカを助けた時点でもはや惰性のものと成り果てた。
他にやりたいことも、やらなければならないことも自分の中に見つけられないから。
このままどこかで泡のように消えるのも悪くない、むしろ今の自分には勿体無いくらいだ。そう思う自分がいた、
しかしそれに反対するものもいる。
【前方に機影を確認】
「敵か?」
【識別信号が出ています。ND−002ナデシコBです】
ナデシコとの遭遇ははじめてではない。事件後、数度出会い、出口の無い議論を繰り返しその度に逃げていた。場合によっては武力を行使してでも逃げた。後味の悪いものだった、後味の悪いと感じた自分にも驚いたが。
「前回から二週間か。今回はずいぶん早かったな。誰かが情報を流したか・・・。」
何人かの顔が浮かんだが特に気に留めない。恨むつもりは無い。彼らがいなければ自分はここにいない。
【通信を求めています。開きますか?】
「ああ、頼む。」
本来ならば無視してそのまま逃げるのが正しいのだろう。いくら彼女が相手ではその行為が無駄であることを知っていたとしても、通信を開いてしまうのは弱さだろうか。
【通信、正面モニターに出します】
正面にかつて自分、自分達が娘とした少女、ホシノ・ルリの成長した姿が映る。
すこし顔色が良くない、あまり寝ていないのだろうか眼の下にはうっすらとくまも確認できた。
(オレは何を心配している?そんな資格ありもしないのに、これも弱さか)
苦笑し自分を嘲る。沈黙は相手から破られた。
『・・・こんにちは、アキトさん。』
「ああ、二週間ぶりだな、軍もあせっているようだな。」
あえてそんなことを言ってみる、くだらない逃げだと分かっていても。
それは彼女も気づいていた。無視して切り出す。
後で金髪の青年に取り押さえられた少年が騒いでいるようだがそちらも無視する。
『くだらない前振りは無しにします。帰ってきてください。』
「オレの答えは変わらない。これまでも、これからも。」
また双方押し黙る。何度も繰り返してきた会話だ。だが今回はいつもと違った片方に焦りがあった。
『・・・ユリカさんの体調があまりよろしくありません。それでも帰れないというのですか!ユリカさんも、わたしも、いえ、みんながあなたを待っているのですよ!!アキトさん!!』
ユリカに先が無いことは知っていた、いや予想できていた。自分の体が日に日に壊れていくのが分かる。やつらが自分の妻にだけ人道主義を持つとは思えない。それでも帰ることはできなかった。
「これだけ殺して、壊して、狂わせて、どの面を下げて帰れと?」
『どんな面でも私達は気にしません!!』
結局は変わらない議論だ。
「何度も言わせないでくれ、君の知っているテンカワ・アキトは死んだんだ。」
『何度でも言います!そんなのカッコ付けてます!!死んで何になるというんですか!』
(何も変わらないさ。そう、少なくとも変わらないでいることができるんだ。)
もう、何かを変えようするほどの意思も力も無い。そんな自分にできる後向きな唯一のこと。
「ダッシュ、ラピス、ジャンプの用意だ。逃げるぞ。」
一方的に話を打ち切って逃げる。
「・・・ワカッタ。」
【了解】
何度も繰り返してきた場面だラピスもダッシュも何も言わない、しかしその表情はいつも語っている「本当にこれでイイのか?」と。
ただし今回はルリにとって事情が異なった、自分の親であり姉である大切なヒトが最後を迎えるかもしれない。譲れなかった、どんなことをしても。
ユーチャリスを決して弱くない衝撃が襲う。
「っつ、どうした!?」
【ナデシコからの攻撃です。フィールドが低下します】
続けて二撃目の衝撃、しかし一撃目より弱く物体的だ。
「アキト、ナデシコカラアンカーガウチコマレタ。シカモジャンプ装置ニ直撃シテイル、制御ガデキナイ!!」
「ジャンプキャンセルだ!」
【制御不能、暴走しています】
「アキト!」
二人の焦りがこちらにも伝染する。ナデシコからに通信を開く。向こうにもこちらの異常は確認できているはずだ。
「くっ、ナデシコ離れろ!!どこに飛ぶか分からんぞ!」
『で、でも・・』
「クルーを皆殺しにする気か、ホシノ・ルリ艦長!」
あえて、そう呼んだ。最後の親心だったのかもしれない。
『・・!!ハーリー君、アンカー解除してください。はやく!』
「ダッシュ、なんとかジャンプを引き伸ばせ!!」
【無理です!ジャンプ開始しま・・・】
光が弾けた。残ったのは闇のみだった。
(ここはどこだ?)
アキトは光の中にいた。光に外も中も無いだろうがそれ以外の表現ができない。
上も下も無く、自分が移動しているのかどうかすら定かではない。
それともう一つ、感覚が分からない在るのか無いのかも。自分の存在がすごく曖昧な物になってしまったようだ。
(あれは・・・なんだ・・・)
・・・・・
前に何かが見える、見えること自体が今のアキトにとっておかしいはずなのに、それすらも曖昧だ。
(あれは・・・オレか?)
今見えている自分と同じような状況の人影、それは自分だった。
しかし今の自分じゃなかった。それは何も持たない、しかし希望や未来に満ち溢れていた頃の、火星にいたときの自分だった。だけど見えているものには何かが無い。
(・・・死んでいる)
そう目の前に在るものには命が無かった。開いた眼には光を持たず、四肢に温度は感じられない。
胸部が抉れ赤く染まっていることから原因はそれだろう。
突然、体が引っ張られた。かつて自分だったものが近づいてくる、まるで対極の磁石のようにお互いが引き寄せ合う。
(今度は何だ)
近づくにつれて意識が混濁し始める。
最後に認識できたのは溶け合うように重なり始めた二つの自分だった。
再度、光が弾けた。
−止まった刻が震え出す
NEXT TO 1st DANCE
交差−Cross Road−
「・・・新手のジョークか?」
あとがき (という名の独り言とか・・・)
カミサマワタシハここにいます、だから文という名の才を下さい(自爆)
文体滅茶苦茶だし・・・
とりあえず舞台は整いました。後は踊るだけです、それが大変なのですが。
はじめての小説を長編連載物にしているあたり無謀ですがそれは開き直ります。
先はまだまだ未定ですが良かったらお付き合いください。
私にとってはこれがナデシコです。皆さんにとっても・・・だったらいいなあ。