――――――軍司令部


強大なスクリーンの前に立つ男。厳格なひげに体格の良さ。見たところ位は高いと見える。

スクリーンにはナデシコの姿があらゆる角度から映っていた。

「この非常時に民間用戦艦。ネルガルはいったい何を考えている!」

「あの威力を見せられたからには、戦艦ナデシコを放置しておくわけにはいかない。」

軍の将官たちが口々につぶやいた。そのなかで、スクリーンの前の男はただひたすら何かを考えているようだ。

「あの船の副提督は君の息子だそうだな?」



「もしナデシコが連合軍への参加をするなら受け入れよう。」

「提督。」

そういいながら男に向かい一人歩み出る将官

男はぐっと顔を上げ、口を開いた。

「直ちに発進準備。機動戦艦ナデシコを拿捕する!」




逆ナデシコ?





第1話 いろいろな再会


ナデシコ――――――


「アキト〜。アキト。ア〜キ〜ト〜!」

アキトの周りをうろちょろ、うろちょろするユリカ。アキトはまるっきり無視している。


「ねぇ、アキト〜!」

無視されているからか、ユリカの声の中に怒気が混じり始めた。


「もう、アキトってば!!」

アキトの目の前に立ち思いっきり声をあげた。


ぴくっ

「なぁ、ユリカ・・・・」

ようやくアキトが口を利いた。

「なになに?アキト?」

相手にされたのが嬉しく、笑顔で答えた。対するアキトは眉がピクピクと動いている。

「ここ、どこだと思ってるんだ?」

静かに問うアキト。だが、明らかに怒気が含まれている。

ユリカにはどうも伝わっていないみたいだが。

「え?アキト、そんな事もわかんないの?ここはブリッジに決まってるじゃない。」


そう、ここはブリッジ。アキトのほかにもルリ、ミナト、メグミなどブリッジ要員がいる。

皆アキトとユリカの方を向いている。ルリ以外の全員がなにやら面白そうと! いった表情をしていた。


ピクピクピク

アキトの眉がさらにつり上がった。

「ああ、そうだ。ここはブリッジ。で、なんでコックのお前がここにいるんだ?」

「アキトに会いたいからに決まってるでしょ。」

にっこりと微笑みながらユリカは答える。



ぶちっ


ついにアキトの何かが音を立てて切れた!


「コックがどこで働くか分かるか?」

「調理場だ・・ね・・。」

ようやくアキトの雰囲気に気付いたのか、おびえ気味にいった。



「だったらな・・・・・



ここにいるんじゃなくて、さっさと調理場いって仕事しろ!!!」

「ふぇぇぇぇ!!!」



アキトはユリカの首根っこを掴み、ブリッジから放り投げた。



「ったく、あいつは・・・・」

頭を抱えるアキト。と、ルリの方を向き

「ルリちゃん。」

「はい。なんですか?艦長。」

無表情に答えるルリ。

「アイツ、ユリカをしばらくの間ブリッジ立ち入り禁止にしてくれないかな?

あいつがいたら仕事が出来ないんだ。ね、だからお願い!」

手を合わせて懇願するアキト。少し考えるルリ。



「わかりました、オモイカネに頼んでおきます。」

「ありがとう、ルリちゃん。(ニッコリ)」

で、でたぁ!!アキトスマイル!!数々の女をとりこにした伝説の笑顔!

はたして電子の妖精(予定)に通用するかぁ?!!


「いえ、どういたしまして。」

ナイス無表情。電子の妖精(予定)には通用しないようだ。



ん?いや、うっすら頬が染まっている。やはり、アキトスマイルは強烈だった。














―――――とある軍の戦艦の中

さきほどのスクリーン前の男がデッキに立っている。どうやらこの艦の艦長であるようだ。

モニターにはナデシコの姿が移っていた。


「ナデシコ、進路捕捉。」

と、オペレーター。

「進路そのまま。レーダーに察知されぬよう、注意。」

軍服の男は指示を飛ばす。



すっ

男のそばに一組の男女が現れた。

「あ、なんか前方にチューリップあるみたい。」

「でも、活動は停止しているようだけどな。」



気配もなく近づいてきた一組の男女に、一瞬男は驚きを顔にしたが、すぐにそれは穏やかな微笑へと変わった。


「なんだ、君たちか。」

「なんだはないでしょう?おじ様。」

「そうですよ。」

「はは、それはすまなかったな。」


なにやら親しげに話している。どうやら知り合いらしい。


「でも、なんだ。2人とも、こんなところにいないで部屋でゆっくりしていたらどうだ?」

男は2人を促した。

促された方の男は頭をかいてすこし苦笑いのような表情で返事をした。


「いや、でもまぁ、、部屋でいても暇ですし・・・・・・・。」

「それに、なにより、久しぶりの再会が待ちきれないんです!」

男の言葉を続けるように女は軍服の男に言った。女の口は楽しそうに笑っている。


軍服の男も頬を緩めた。

「ふっ・・・はは、そうか。」

「ええ、そうなんです。」

女もニッコリと微笑んだ。


それにしても怪しい3人組。いったい何者なんでしょう?
















――――――ナデシコ


「ぶぅ。アキトったら、何も追い出す事ないじゃない。」

頬をぷぅっとふくらませて廊下を歩くユリカ。

先ほどアキトに言われた通り食堂に向かっているのだ。


「あ〜あ、もっとおしゃべりしたいのにぃ〜〜〜」

ぶ〜たれながらもひたすら食堂への道を進む。




「と、ここだ。ここだ。」

ようやく食堂へとついた。


白衣の女性がユリカの存在に気付き、近づいてきた。

「お、あんたかい。プロスの旦那がいってたコックって言うのは。」

「はい。」

「あたしゃ、ホウメイ。一応ここの料理長さ。」

豪快さを感じさせる口調。白衣にコック帽。後ろで一つに束ねられた長い髪。見るからに恰幅のいい女性。そう、この人こそ一流の料理人といわれるホウメイだ。



「ちょっと、お待ち。――――――お〜い、みんなちょっと手を休めてここへ来な。新しいコックを紹介するよ。」


「「「「「は〜〜〜い!」」」」」

食堂のテーブル拭きや食器洗い。水場を手伝っていた女の子たちが声をそろえて返事をした。

そして、ユリカの前に一列に並んだ。エプロンを着た女の子達は全部で5人。


「ミスマル・ユリカです。コックとして働く事になりました。よろしくお願いします!」


元気な挨拶とともに、ユリカは拍手で迎えられた。



「じゃ、今度は私達の番ね。」

5人のリーダー的な存在、ポニーテールが特徴のテラサキ・サユリが言った。

「せ〜の・・・」


「「「「「私達、ホウメイ・ガールズで〜す!!」」」」」


5人それぞれがポーズをとった。まるでセーラー○―ンとかの登場シーンの! ように。






ぴんぽんぱんぽ〜〜ん♪


「ん?なんだろうかね。」



ピッ


『只今より、重大発表があります.皆さん、いったん作業の手を休めて聞いてください。』


食堂にある一際大きなスクリーンにメグミの姿が映った。


と、ブリッジの様子が流れる。

「いったい、何の発表なんだろう?」


もっともな疑問をユリカは口にした。


















――――――ブリッジ。

ブリッジ要員が全員勢ぞろいしている。

プロスが一歩歩み出て話し始めた。


「いままでナデシコの目的地を明らかにしなかったのは妨害者の目を欺くためであります。

今後ナデシコはスキャパレリプロジェクトの一端を担い、火星へと向かいます。」

「火星?」

「では、地球が抱える問題をみすみす見逃すというのですか?」

ジュンがプロスにたてついた。が、プロスは冷静に答える。

「地球軍は月や火星に人々が残されているというのに軍を引き上げました。

残された人はどうなったのでしょう?」

「どうせ、死んでるんじゃない?」

ルリの痛烈な言葉が響く。プロスは眼鏡をくっとあげた。

「わかりません。でも、確かめる価値は「ないわね。」・・・・!?」




!?

ざっ



プロスの語尾にキノコの言葉が重なった。

と、同時にブリッジのドアが開き、手に銃を持った軍服の男が数人、キノコと共に入ってきた。

完全に威嚇をしている。数はせいぜい5,6人というところか。

「ムネタケ、貴様血迷ったか!」

フクベ提督の怒鳴り声がキノコにかかる。が、キノコにはまったく聞いていない。

「ふふ、悪いわね提督。この艦を頂くわ。」

くっと、こぶしを握り悔しそうに歯を食いしばるフクベ。


「その人数で何が出来る?」

「私達だけじゃないわ、ほら。」

ゴートの言葉にも余裕のキノコ。目線をブリッジ前方に向けた。

次々と写っていくウィンドウ。格納庫。食堂。軍服の奴らが、占拠していた。

「わかったぞ!てめぇら、悪の木星のスパイだな?!」

くってかかろうとしたヤマダ。

だが、すぐに数本の銃が向けられた。とっさに手を上げる。



「勘違いしないで、ほら、来たわよ。」

すっと、目線を艦の前方へと向けた。

と、先ほどまで何もなかった海原から3隻の戦艦が浮上してきた。

一隻はナデシコのちょうど真正面にいる。



ピッ



『こちらは、連合宇宙軍艦隊提督ムネタケである。』

威厳のあるおじさんがナデシコに通信をつなげてきた。どうやら、ナデシコのまん前の戦艦からのようである。



「パパ!!」

「「「「「「パ、パパ??!」」」」」」




全員がパパと呼ぶ声が聞こえた方を見た。

そこには、なんともうれしそうなキノコが立っていた。2人は親子なのだった。


『パパなどというな。この愚息が。』

提督の冷たいお言葉。親からも嫌われているキノコ。

「そんな。パパ、冷たい。」

女々しく涙を浮かべるキノコ。はっきり言って気持ち悪い。

この際キノコはほっといて。



!


「おひさしぶりです。ムネタケおじさん。」

「「「「「は?」」」」」

バッ




今度はおじさんと呼んだ人を見た。

『お〜お〜、アキト君か。立派になったもんだな。うちのと違って』

艦長アキトとなにやら、親しげなご様子。いまいち話のわからない展開にまわりは?マークを浮かべていた。

「アキト、知り合いか?」

ジュンがアキトに皆の疑問を問い掛けた。

「ああ、両親の昔からの知り合いなんだ。でもまさか、キノコの親だとは・・・・・。」

なにやら思い悩むアキト。どうやらキノコと親子関係にあったことを知らなかったらしい。



「それで? 軍が何の用なんですか?」

プロスが其の場を仕切りなおし、提督へ問い掛けた。


「いますぐ、艦を明け渡してもらおう。」

ムネタケ提督も顔を引き締め本来の目的を離した。

「おかしいですな。軍とはすでに話し合いは済んでいるはずですが?」

プロスはぐいっとずれた眼鏡を上げ、提督を見つめる。

提督もさすがの威厳を保ち、冷静に言い返す。

「軍も必死なのだよ。あれだけの威力を持つものを見せられては、みすみす見逃すわけには行かないのでな。」


2人は見詰め合う。しばらく、無言のときが流れた。




「ふぅ・・・・仕方ありませんな。では、話し合いをするという事で。」

プロスは妥協策を提案した。

「ならば、艦長とマスターキーを渡してもらおう。」

「艦長!我々は軍ではない。従う必要はないぞ!」

ムネタケの要求にフクベが声を荒げた。

それに対し、ムネタケはすっと目を細めてフクベを見た。

「フクベ提督。これ以上生き恥をさらすつもりか?」

「く・・・・・」

フクベは唇をかみ締める。


「さ、アキト君。マスターキーを抜きたまえ。」

「いいや、従う必要はない!」

「そうだ、艦長。悪の指示に従うな!」

フクベとヤマダが艦長へと訴える。

だが、ジュンは違った。

「アキト。ムネタケ提督は正しい。提督に従うべきだ。」

「なんだてめぇ、悪の手先か!?」

ジュンの言葉に腹を立てたヤマダが食って掛かっていった。


「まぁ、まぁ、落ち着いて。2人とも。」

プロスが仲裁に入る。


「アキト君。」「艦長!」「アキト!」

みんなの視線がアキトへと集まる。顎に手を当て考えるアキト。



「アキト君、私が間違った事をいったことがあるかい?

それに、君にはあって話したい事もあるんだよ。」

ムネタケが何かを濁すように言う。


すっと、顔を上げマスターキーの前に立った。手をかざしてマスターキーを出す。


そして。。。。。。




すぽっ





「「「「「あ!」」」」」


「抜きました!!」


「「「「おお!」」」」



ナデシコの乗組員は嘆きの声を。軍の奴らは驚きの声を上げた。


「さっそくですが、私と艦長とあと1人・・・・・」

プロスさんが交渉に行く人を考えている。

「あたしが行くわ。」

キノコが言った。

「久しぶりにパパに会いたいし。」

キノコのその言葉に、皆鳥肌がたった。


「まぁ、いいですが・・・・」

とんとん。

プロスは言葉をさえぎるように肩をつつかれた。

アキトが小声で話し掛けてきた。

「プロスさん。別につれてってもいいじゃないですか。

ついでに、軍に置いてくれば厄介ばらいができますよ・・・・・」

「・・・ふむ。なるほど。それもそうですね。」



プロスはキノコを連れて行くことを承諾した。


「では、さっそくそちらの方へうかがわせて頂きます。」

「うむ、分かった。」

ムネタケの言葉を最後に通信はきれた。






その2