どうもこんにちは。私、天河明乃です。横島くんとモモちゃんが合流して早三日。ナデシコもようやく以前の活気を取り戻したような気がします。


 それはさておき、実は今から、横島くんとバーチャルルームに行くんです。何故かって?えーと・・・ま、まあ、無事に生還したことに対するお祝いみたいなもんですよ!あはは・・・じ、自分でも何故かよくわからないんですからこれ以上この件には触れないでください・・・。


「あ、ここか」


 着きました。


「殺風景だけど・・・」


「まさか、入ったこと無いんですか?」


「実はどういうことをする場所かも知らない」


 う・・・・・・だから大した感情の動きも見せずにあっさりOKしたわけですか・・・。


「あのですね、バーチャルルームとは、(中略)って部屋なんですけど・・・」


 とりあえず説明。・・・・・・う、あの顔・・・(汗)。


「・・・イメクラ?」


 大きな声で違うと言い切れない・・・


「で、でも、男の子同士で燃える展開を演出することだって・・・」


「でも女の明乃ちゃんが男の俺を誘ったってことは―――」


 やな予感。


「つまり俺にオールオッケーってことなんだねーーーッ!!」


「文法変って言うか意味解りませんよ!!」



 どこん!



「・・・・・・!!」


 言葉も発せずに吹っ飛ぶ横島くん。あ、めりこんだ。


 余談ですが、この攻撃は羅刹掌って言うらしいです。


「あ〜、曲解しないでくださいね?これは・・・そう、生還祝いですよ生還祝い!」


 照れ隠しにさっさとヘルメット被っちゃいました。


「人を・・・めり込ませておいて・・・そんな可愛く照れられても・・・」


「細かい状況設定とかはこちらでやりますので」


「きいて・・・・・・」








GS横島 ナデシコ大作戦!!





第十七話「亀裂」





 冒頭の続き。


「じゃあスイッチ入れますよ?

 あ、本当に設定とかはこっちで勝手に決めちゃっていいんですか?」


「別にいいぞ」


「はい。それではスイッチ・オン」


 ポチッとな。


 二人の視界が、ぶれた。





 ――――――――――





「・・・・・・ん?」


 目を開ける。見えるのは自分の膝。どうやら堅く目を閉じて下を向いていたようだ。


(おお、学生服!なっつかしーなおい)


 目線を少しずらすと机の脚が見える。


(成る程。中学か高校って設定か?それにしてもリアル―――――)


 考えつつ校庭側の窓のほうに目をやる。そこには・・・







「――――――――――」


 夕日だった―――――。









 何で一番最初に気が付かなかったのか。










 ここは、あの時のように、









 とても、とても赤い世界だった―――――





 ――――――――――





「・・・・・・ん」


 明乃は目を開けた。


「ふむ?」


 周りを見回してみる。

 まずセーラー服の自分。学生服の横島(なんて新鮮!)。そして夕日に赤く染まる放課後の教室。完璧だ。設定した通り。


「あ、横島くん、こんな設定で良かったですか?」


 周りを見ながら問い掛ける。


「・・・・・・・・・・・・」


「セーラー服って着たこと無かったんですけど、あの、へ、ヘンじゃないですか・・・?」


 ちょっと恥ずかしそうな顔の明乃。


「・・・・・・・・・・・・」


「・・・・・・?」


 何も言わない横島にやっと気が付き、恐る恐る声をかけてみる。


「あの・・・もしかして気に入りません―――」


 そこで初めて横島のほうをまっすぐに見て、そして気が付いた。


「・・・・・・・・・・・・」


 横島の顔に。


「ぁ・・・・・・・・・」


 明乃は何か喋ろうとしたが、わずかに声らしきものが漏れただけだった。


「・・・・・・・・・・・・」


 横島は、ただ夕日を見ていた。


 明乃は、そんな横島の横顔から目が離せない。


「・・・・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・・・・」


 時間が、過ぎる。


(・・・・・・なんて表情なんだろう・・・・・・)


 泣きそうな、悔いるような、それでいて、ほんの少しだけ嬉しそうな、懐かしそうな、そんな複雑な顔―――。


「・・・・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・・・・」


(こんな表情、見たこと無い・・・。あ、一回だけあったかも?いつだったっけ・・・?)


 解らない。


「・・・・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・・・・」


 そして永遠に続くのではないかと思われる時間の中(実際は十分ほど経過している)、横島がポツリと言葉を漏らした。





「・・・・・・・・・・・・ちがう」


「え!?」


 突然声を出した横島に驚き、間抜けな声を出してしまった。


「これは・・・違う」


「え・・・なにが・・・」


「この夕日は、似てるだけだ」


「・・・・・・」


 そうなのだろうか。そもそも何の話だろうか。そんな疑問の声をはさむ事が出来ないような雰囲気。


「夕焼けは昼と夜の一瞬の隙間で、短時間しか見ることが出来ないから・・・綺麗なんだ。

 ・・・・・・・・・・・・受け売りだけど」


「・・・・・・・・・・・・」


 明乃は横島の表情と妙な迫力に気圧されて何もいえない。そして横島は顔を伏せ、


「・・・・・・ごめん。俺、行くから」


「あ!」


 明乃が止める間も無く横島は消えた。バーチャル空間から抜けたのだろう。


「あ・・・・・・」


 明乃は伸ばした手を下ろし、さっきまで横島が見ていた夕日を見た。


「・・・・・・」


 眺める。何で夕日は眩しくないんだろうとか何とか余計なことまで考えてしまう。


「・・・・・・・・・」


 そして、


「・・・・・・ワケが、解りませんよ・・・・・・」


 明乃の寂しげな呟きは、誰もいない夕日の教室に吸い込まれていった・・・・・・。





 ――――――――――





 昼時、夕飯時の食堂は戦場だ。ちなみに今は夕食時。


「ホウメイさーん!B定3火星4焼飯2マーボー2でーす!!」


 火星とは火星丼のことである。


「ほらっ、ワンタンメンとステーキ定食持っていきな!」


 ホウメイガールズも汗を流しつつ走り回っている。ウエイトレスも楽ではない。


「・・・はい、お水とおしぼり」


 モモまで食堂を手伝っている。手伝うと言っても水とおしぼりを運ぶだけだ。だが、桃色の髪(横島が戻した)をなびかせとてとて走る姿はクルーの誰もが心を和ませる。


「こりゃきついね・・・」


 今日はいつもより特に忙しい。休憩時間が多く重なったのだろう。思わずホウメイの口から弱音が漏れた。


「アキノーーーっ!私カルボナーラと春雨サラダー!」


「ユリカ!注文取りに行くまで待っててよ!」


 明乃と横島はそれどころではない。


「おいテンカワ!チンジャオロースー用のピーマンとタケノコと牛肉の線切り、頼めるかい!?」


 ホウメイが鍋を振りつつ言う。


「え!?えっと、今ちょっと・・・!」


 明乃も明乃で手が離せない。そこへ、


「俺がやりますよ。ホウメイさん」


「「え!?」」


 横島と自分は同じぐらい急がしかった筈なのに・・・と横島のほうを見ると、



 トントントントントントントントントントントントン・・・・・



 かなりの速さで細切りが量産されていた。


「ほう・・・やるようになったもんだね」


「・・・・・・!」


 細切りになった食材の細さはほぼ均一。それでいてあの速さだ。


(あれほどの正確さと速さ・・・私でも難しい・・・ううん、多分無理・・・)


 明乃はその手腕を呆けた顔で見ていたが、


「ほらテンカワ!手が止まってるよ!」


「あ、すいません!」


 急いで自分の仕事に戻った。








 そして客がほとんどいなくなった午後九時頃。


「つ、つかれたよぅ・・・」


「これはもうプロスさんに給料引き上げを交渉しなきゃやってられないわね・・・」


 ホウメイガールズが、テーブルに突っ伏し幽鬼のようにうわ言を言っている。


 明乃は先程のバーチャルルームでのことを考えていた。仕事時は忙しすぎてそれどころではなかったが。


(・・・・・・横島くん・・・仕事前に会ったときは土下座しそうな勢いで「今度埋め合わせするから!」って言ってた。その後はいつもの様子に戻ってたし・・・)


 厨房のほうを見る。横島がまかない食を作っているようだ。


(でもバーチャルルームの様子はただ事じゃなかった・・・。あれは一体何なんだろう・・・)


 そんなことを考えていると、横島が料理を運んできた。


「ヘイお待ち〜。今日のまかないはカルビクッパとチンゲン菜炒めっスよん」


(いいにおい・・・・・・)


 考え事をしながらでも反応してしまった。


「おっ。美味そうじゃないか。んじゃ、頂くよ?」


「どうぞどうぞ」


「「「「「「「「いただきまーす」」」」」」」」


「ほら、取ってやるよモモ」


「ありがと。忠夫」


 全員が同時におかずを口に運ぶ。


「・・・おいしい!」


「ホントですねぇ」


 みんなから口々に賞賛の声が。


「・・・うん。初めて食べた忠夫の味だ。やっぱりこれが本当の味だったんだね」


「え?どういうこと?」


「ナデシコが行方不明ってわかってからご飯の味がちょっとだけ・・・」


「モモ・・・頼むからそれ以上言わんといて・・・」


 みんなが楽しそうに食事する中、明乃は、


(やっぱり・・・)


 チンジャオロースー用の細切りを見たときに感じたことは確かだった。


(横島くん・・・私と同じ・・・ううん、それ以上においしい料理が作れるようになってる・・・)


「横島。あんた腕上げたねぇ」


「そうっスか?まーナデシコと合流するまでの九ヶ月間、恩人とそのお仲間さんのメシを毎日三食作ってたっスからね。レパートリーも増えましたよ」


 ああ、やっぱり。明乃は思った。


(私は・・・何してたんだろう・・・)


 空白の八ヶ月間は仕方ないとして、それから一ヶ月は?


(落ち込んで、ただ料理を作るだけで上達とかはまったく考えないで、何度も失敗して、エステの腕前はかなり錆付いて―――)


 表情が暗く沈む。


「明乃ちゃん?失敗したとこでもあった?」


「あ、いえいえ、おいしいですよ。とっても!」


「あ、なら良かった」


(・・・・・・そうだよ!料理の腕前なら追いつき追い越せばいい。エステの操縦はどうせ一番下手なんだから、焦らずみんなの足手まといにならないようにもっとシミュレーターとかやろう!)


 心の中で気合を入れる。


 そこに、


「あのー。モモちゃんいますか?」


 ミナトだ。


「あれ?どうしたんですか、ミナトさん?」


「うん。これからモモちゃんと漢字のお勉強なんだ。ね、モモちゃん?」


「うん」


 こともなげに頷く。


「でも、仕事終わったばっかりですよ!?」


 明乃のみならず、ホウメイとホウメイガールズも驚いている。


「私と横島クンもそう言って止めたんだけど・・・」


「それどころか、朝にはルリちゃんからオペレーターのレクチャーまで受けるって言ってるし」


 朝にはオペレーター、昼食時と夕食事はウエイトレス(水とおしぼりのみ)、夜は漢字の勉強。


「それって・・・明らかなオーバーワークじゃないですか!」


 他の面々もこくこく頷く。


「俺も何回もそう言ったんだけど・・・」


「でも、わたしは忠夫の役に立ちたいから」


 突然のその言葉に、全員の視線が、自分の身長の半分にも満たない少女に集中する。


「わたしはこのまま忠夫に養われるだけなんて嫌。

 少しでも忠夫の負担を減らせるのなら喜んで頑張るし、オペレーターの素質があるって言うなら、私をモルモットにした人たちに感謝したっていい。マシンチャイルドって能力をくれたんだから。漢字は・・・最低限欲しい知識と言うか・・・まぁ、とにかくわたしは兄で恩人の忠夫の力になりたい・・・あ、もちろん恩人って言う理由だけでこんなに頑張るんじゃないからね?」


 その瞳は何よりもまっすぐで。


 明乃は息を呑んだ。


「・・・こんな調子なのよ」


 ミナトはやれやれと肩をすくめる。


「・・・イネスさんは少しでも無理してると感じたら睡眠薬を打ってでも休ませるって言ってたけど・・・」




「それは大丈夫。倒れたら余計に忠夫に迷惑かかるもの」




 あっけらかんと言い放つ。やはり大物だ。


「・・・・・・うわぁ・・・横島さんにはもったいないほどの妹さんですねぇ・・・・・・」


「アッハッハッハッハ!こりゃあ兄としても無様な姿は見せられないね!」


「頑張ってね!お兄ちゃん」


「・・・・・・・・・うぐぅ」


 横島は頭を抱えてテーブルに突っ伏した・・・・・・。





 明乃は先程、今まで以上に頑張ると決意した。だが、


(私は・・・あの子のように頑張ることが出来るの・・・?こんなに弱い・・・中途半端な私が・・・)





 明乃は自問した。だが、ついに答えは出なかった・・・・・・。





 ――――――――――





 数日後。


「というわけで、エステバリスの出番です!」


 パイロットのコミュニケを開き、どーんと胸を反らしながらユリカが言う。


「何が『というわけ』かと言うと、今まで軍の特殊部隊を3回も全滅させた木星蜥蜴の新兵器・・・通称ナナフシをグラビティブラストで遠距離から撃破しようとしたけどそれ以上の超長射程だった重力波レールガンによる砲撃によりナデシコは航行不能になっちゃったのよ。

 で、ナナフシの完璧ともいえる対空能力により地上からの攻撃を余儀なくされた・・・って言うか今のナデシコは一歩も動けないし・・・まぁすなわち、エステバリスの出番ね。おそらくマイクロブラックホールの生成にかかる時間は12時間。さっき攻撃を受けた時間から予測するに次の攻撃は明朝5時。そのため早急にエステバリスで攻撃を仕掛ける必要がある。

 ・・・というわけよ」


『『『『『『・・・・・・・・・・・・・・・』』』』』』


「わ、わざわざ説明ありがとうございます・・・。凄い肺活量ですね・・・」


 パイロットは唖然と、ユリカは汗ジトだ。いつのまにかブリッジにいたイネスがちょっと怖い。


 だがメグミ同様、考えても仕方の無いことはさっさと頭の隅に追いやり、咳払いをした。


「おっほん。んでですね、パイロットの皆さんは7人だから、ナナフシ撃破に3人、ナデシコの防衛に4人という振り分けで行きたいと思います」


『はい・・・』


「はい、イズミさん」


 挙手して発言を求めたイズミとそれにう許可を出すユリカ。


『何故わざわざナデシコを守るのに4体も割くの・・・?2体で十分だと思うけど・・・』


「それはですね、ここ、クルスク工業地帯には戦車製造プラントがありまして、どうやら蜥蜴さんがそこを乗っ取っちゃったらしいんですよ。だから旧式戦車がわんさかと。まだナデシコに到達するまで2時間ほどあるんですけどね」


『数は・・・?』


「それが・・・一万ほど・・・」


『『『『『一万!?』』』』』


「ええ・・・。いくら旧式といっても数が数ですから。ですから手堅く六体が防衛に回っても良いかも知れなかったんですけど、ナナフシ付近にも何があるかわかりませんし・・・」


『だから・・・3:4?』


「そういうことですね」


『納得したわ・・・』


「他に質問は?」


『『『『『『・・・・・・』』』』』』


 無いようだ。


「それではナナフシに向かう人ですけど・・・」


『そりゃ当然俺たちだよな?ちょうど三人だし』


 リョーコの主張。俺たちというのは当然リョーコ&ヒカル&イズミだ。


「違いますけど」


『・・・なんで?』


「ナナフシを攻める時は重機動フレームで行ってもらうから。リョーコちゃん苦手だよね?だからリョーコちゃんには陸戦用で軽快に蹴散らして欲しいな〜って思ってるんだけど・・・」


『・・・苦手なのは・・・まぁ』


「重機動フレームで行く理由は、単純に火力が大きいから、予備バッテリーをたくさん積んでもあまり動きが鈍らないからです」


 予備バッテリーを積むわけは、ナナフシ撃破部隊は重力波ビーム圏外に出る事になるからである。


「では改めて、ナナフシに向かう人は、作戦指揮として・・・・・・アカツキさん!」


『了解だ』


「砲撃戦が得意なイズミさん!」


『わかったわ・・・』


「んで、向こうに何があるか解りませんから、横島さんに行って貰います」


『おれっスか!?』


「?何か不都合でも?」


『いや・・・別に』


 できれば解りやすい防衛のほうが良かったとはさすがに言えない。


「では残りの人にナデシコの護衛をやってもらいます!時間がありませんから今すぐ用意を!アカツキさん、イズミさん、横島さんは必ず三人そろってから出撃してください!」


『『『『『『了解!』』』』』』


(は〜。ユリカが優秀なのって本当なんだなぁ・・・)


 今までの指揮から解っていた事だが、普段が普段なだけに今でも新鮮な驚きを覚える明乃だった。






 ――――――――――






「それじゃ、いこうか?イズミ君、横島君」


「解ってるわ・・・」


「へいへい・・・」


 横島は自分の嫌いなタイプ(気障で美形でロン毛で金持ってそう)であるアカツキにおざなりな返事を返す。イズミは地だ。


『なんか納得いかね〜!何で横島ばっかり見せ場がありそうな役やるんだよ!』


『適材適所だよ』


『イズミ〜!しくじるんじゃねーぞ!』


「あんたたちもね・・・」


『横島くん、無茶は駄目ですよ?』


「明乃ちゃんもな!」


 言葉は短く。時間が無いのは解っていたから。


(もう行方不明とか重傷って展開は勘弁してくださいよ、横島くん・・・・・・)





 〜二時間後。アカツキチーム〜


 一、二、三、四! 二、二、三、四!

 山を越えて 行くよー 口笛吹いて ひゅひゅひゅのひゅ

 腕を伸ばして 山登り エイホッ エイホッ!

 エステバリスの実力さ



 一、二、三、四! 二、二、三、四!

 川を渡って行くよー 腕を伸ばして ひゅひゅひゅのひゅ

 みんなで歩こう 地雷原

 エステバリスは無敵さ






 ・・・・・・三人は、エステバリスのテーマを合唱していた・・・・・・





「おいアカツキ!ちょっと音程ずれてんじゃねーか?」


「この歌は初めてなんだから、ちょっとぐらい大目に見てくれたまえよ。

 君こそ「ひゅひゅひゅのひゅ」の部分はもうちょっとやる気なさげな感じのほうがいいんじゃないか?」


「そうか〜?」


「・・・みんなで休もう焚き火を囲め〜♪」


「・・・イズミ君はマイペースだね・・・」


「・・・そうね」


 結構楽しくやっていた。





 〜ナデシコ防衛チームの場合〜


「があああっ!!数が多すぎるんだって!!」


「確かにこれじゃあフォーメーションなんて関係ないね〜」


「地上掃射地上掃射!!ああっ!?撃っても撃っても後から後から〜!!」


 ドンッ!・・・・・ドゴォン!!


 戦車の砲撃がガイ機に直撃する。


「ってめーら!!百倍にして返すからな〜!!」


『エステバリスの武装じゃ、どれを使ってもかすっただけで撃破できます・・・。どうやって百倍返しにするんですか?』


 ブリッジからの突っ込みが入る。動けない分ヒマなのか。


「だ〜っ!気分だよ気分!!ってえい!!ゲキガンランチャー!!」


『みなさ〜ん!援護射撃を行いますからちょっとどいてくださ〜い!』


「どくって・・・どこに!?」


『ミサイル、一斉発射!!』


『了解』


「了解じゃな〜い!!」


 明乃の抗議が聞こえないのか(あるいは聞こえないフリか)、無情にも発射されるミサイルの群れ。


「あああああ!!」


 降り注ぐミサイル。その威力は戦車砲の比ではない。


 戦車を踏み潰しながら逃げ惑うエステ4機。


「絶対援護じゃねえ!!」


「味方に殺されたくな〜い!!」


「ナぁナコさ〜ん!!」


 そしてミサイルの雨がやむ。辺りには吹き飛ばされたり踏み潰されたりした戦車の残骸。


「・・・助かった・・・?」


 付近の敵機は一掃されたようだ。とは言っても遠方にはまだまだ山ほどいるようだが。


「「「「殺す気か!!」」」」


 4人の声がハモる。


『皆さんなら生き残るって信じてました!

 というわけで皆さん!敵はまだ7000ほど残ってます。張り切っていきましょー!!』


「「「「・・・・・・・・・・・・#」」」」


 とりあえずあの艦長に一言言うまで死ねない。そう心に誓った4人だった・・・・・・。







 作戦開始から5時間。


 〜アカツキチーム〜


 一、二、三、四! 二、二、三、四!

 がけを登って 行くよー 敵を蹴散らし ひゅひゅひゅのひゅ

 腕を飛ばして やっつけろ

 エステバリスの実力さ



 みんなで進もう ザク、ザク、ザク、ザク、

 エステバリスは 無敵さ

 一、二、三、四! 二、二、三、四! 三、二、三、四! 四、二、三、四!!



「・・・つーかこの歌何回歌ったっけ?」


「十回目くらいまでは数えたけどね」


「・・・さすがに飽きたわね」


「「同感」」


 やはり平和だった。


「そういや、みんな大丈夫かな・・・」


「心配無いと思うよ?フィールド張ってれば旧式の砲弾じゃほとんど意味が無い。さすがに直撃を食らいまくれば別だけど、動く目標にはそうそう当たるもんじゃないと思うよ」


「そうね・・・」


「そんなもんかなぁ・・・

 つーか、こっち側って拍子抜けするぐらい何にも起こんねーな」


「それだけ派手な戦いが向こうで起こってるのかもね」


「むー・・・・・・」


「焦ったってしょうがない。僕たちは僕たちの役目を果たすことだよ」


 その後は無言で歩く。さすがにエステバリスのテーマは飽きたのでもう歌わなかった。





 〜ナデシコ防衛チーム〜


「うおおおおおおお!!」


 ガイのエステが敵陣を駆け巡る。本人曰く、「攻撃を避けつつ敵を殲滅できる画期的方法」らしいが、目立つ分攻撃が集中することに気が付いているのかどうか。


「あ、あと1000ちょっと・・・!」


 明乃が自身を鼓舞するように呟く。さすがに疲労の色が濃い。


「ヒカル!次はお前が補給しろ!」


「助かったよ〜」


 弾薬が切れかける頃、三人で敵を食い止めつつ一人が補給というのをローテーションで行っているのだ。


「ふう・・・何とか無事にいけそうだな」


「そうですね!」


 リョーコと明乃が安心しかけた時、


『敵増援です。数およそ3000』


 ルリの通信によって疲労が倍加した。安心した直後というのが効いた。


『大丈夫だよ!援護射撃するから』


「・・・・・・お願いだから私達がいない方に向けて撃ってよね・・・・・・」


 

 タイムリミットまで、あと6時間・・・。





 後編に続く。