「・・・・・・で、一体なんなの白鳥君? 私たちに聞かせたいことって」
ここは木連の一コロニー。我々優華部隊が生活している区画。私、東舞歌は、食堂(横島君が居た時の習慣で、相談事は食堂で行なうことが多くなってるのよね)に居る。
地球への遠征から帰ってきてすぐ、白鳥君と月臣君は話したいことがあると言い、私たち優華部隊と秋山君を食堂に集めた。
「単刀直入に申し上げます。
―――――横島君が、生きていました」
「!!?」
白鳥君の言葉が発せられた瞬間、食堂は大きくどよめいた。
・・・・・・かく言う私もものすご〜く驚いている。そりゃあもう。
「本当なのか少佐!? 本当に横島が生きていたのか!?」
万葉は驚きと喜びが入り混じった感じで、
「良かったぁ・・・」
「どうやったかは知らないけど、とりあえず安心ね」
「さすがにあれで終わるとは思ってなかったけど・・・」
「うむ・・・」
「うちは最初っから心配ばしとらんかったけどな」
「私も!」
上から京子、千沙、飛厘、秋山君、三姫、百華。純粋に安堵しているわね。
「・・・・・・・・・・・・」
零夜はビッミョ〜な表情ね。安堵半分、複雑半分ってとこかしら。
「それで? どうやって再会したの? 機動兵器に乗りながらじゃあお互い誰かなんてわからないんじゃないの?」
「ま、舞歌様、別に今そんなこと聞かなくても」
生存を喜ぶだけで良いって? ふん。あんたらが驚きすぎるからタイミング外しただけよ。
「はい。地球の軍を蹴散らしつつ地表に降下し、そこで横島君所属の艦と交戦したのですが、」
「ボロ負けした、と」
まぁあんな小型の機動兵器とは相性悪いからね。
「はい。そして何とか脱出し、敵艦内に侵入したは良いんですが」
そこでなんか顔を赤らめる。
なんで?
「そこで結局見つかったのですが、横島君の手引きで脱出したのです」
「横島さんに変わりはありませんでしたか?」
「ええ。それはもうまったく」
そんな千沙と白鳥君のやり取りを眺めていると、
「ふぅ」
なんかやっとこさ、あのセクハラ少年が生きていたことの実感がじわじわ〜っと湧いてきた。
「ふふ」
「舞歌様、顔笑ってますよ」
「そういうことは思っても言うな」
びしっと千沙のでこにデコピンをかます
「あぅ」
一言多いからよ。
「・・・・・・」
そんな気分に浸っていると、となりで誰かが立ち上がる気配。
いままで一言も喋らなかった北斗だ。
「北ちゃん、どこ行くの? あの人が生きてたって聞いても何も言わないし」
零夜が北斗の態度を解せず、呼び止める。他の皆も北斗に視線を向けた。
「フン、忠夫が生きていることなど最初から解っていたことだ。
所在がわかれば、死合いに行くのみ」
・・・めちゃくちゃ嬉しそうに笑ってますよ北斗君・・・。
でもそんなこと言って、いままで横島君と戦っても殺すことなんか無かったじゃないの。
「そ、そんな。死合うって、殺したらもう戦えないし、ご飯だって!」
ほら、零夜が真に受けてる。って言うか、
「馬っ鹿ねー。そんな許可(一人で出撃することよ)が出るわけ無いじゃないの」
「いえ、そうでもないんですよ」
「え?」
「いえ、我々があまりに大敗を喫したことから、地球の機動兵器と似た性能を持つ機体を有する優華部隊に地球に侵攻してもらうこととなったのですが・・・」
「嘘!?」
「嘘なら良かったのですが。ですが様子見程度で、高機動機の有効性を測る意味合いが強いですから、それほどの危険は・・・」
それは甘すぎる認識よ・・・
「死合った後のことなど知らん。後のことを考えつつ戦って全力など出せるものか」
「「・・・・・・・・・・」」
殺(ヤ)る気まんま〜ん・・・一瞬・・・だけど閃光のように!! byポップ。振り返らない青春に乾杯♪
・・・・・・胃に穴あきそう。
そんな木星の状況など知る由もないナデシコ。
「おいしい!」
「へぇ・・・大したモンじゃないか。美味いよ、これは」
「・・・(うんうん)」
上の台詞は、俺が作った「炒めナスの味噌和え」を食べた明乃ちゃんとホウメイさんの言葉だ。モモも無言だが、その身振りで悪くない感想を抱いているであろうと思うことは自惚れじゃないと思う。
ナデシコの中の誰もが認める腕前のコック2人とモモのこの反応を見て、ちょっと気分が良い。
「いや〜木星って和食が主だから。自然とそういうのを作る機会が多かったんだ」
「ほう、なるほどね。自分が腕を上げているときは他人も腕を上げているというけど、こりゃあ大したもんだよ横島」
「むぅ、悔しいけど和食では勝ち目が無いですね・・・。
あ、勿論「今は」、ですよ! あくまでも」
言いつつ、明乃ちゃんは同じく俺が作った味噌汁(具は大根の細切りと油揚げの細切り)をすする。すると、
「・・・う」
ピシッと固まり、一言うめく。
「はっはっは。こりゃあますます気合を入れなきゃね、テンカワ?」
「うう、頑張ります・・・」
和やかな雰囲気が食堂に広がる。
「しっかし、」
「ヒマだね」
がらーーーーーーーーーん
という擬音が、漫画なら背景に書かれていそうだ。
とにかくほんとにガ〜ラガラ。食堂に居るのは俺と明乃ちゃんとモモとホウメイさんだけ。
それもこれも、自分たちが戦っているのが謎の異星人ではなく同じ人間であると知った皆が、イネスさんに相談に行ったりしているせいだ。
・・・そういえば、シロとタマモが来た時の宴会は、見覚えがある人たちの参加がほとんどだったっけか。
そしてさらに、ブリッジに結めているのはルリちゃんしかいないと言う有様。
「出前でも持ってってやろうかな」
「? 何の話ですか?」
「ルリちゃんだよ。いま一人だろうし」
「ああ・・・」
「忠夫。それならわたしが行く。そろそろルリにオペレートを習う時間だし」
「そうか? なら頼もうかな。・・・落とすなよ?」
「わかってる」
それを合図に、俺と明乃ちゃんとホウメイさんが動き出す。メニューは定番のオムライス。三人同時に動くんなら出来るのはあっという間だろう。
いまナデシコの中でいつも通りなのは、俺たちと艦長とウリバタケさんと整備員ズ、メグミちゃん、プロスさん、アカツキとエリナさん、ゴートのおっさん、イネスさん、コンメリアとヘリアンサスの修理のために新たにクルーになったカオスのじーさん+マリア、それと一部のパイロットぐらいではなかろうか。
・・・・・・・・・・・・
―――――あら? 意外と多いぞ?
GS横島 ナデシコ大作戦!!
第二十二話「目覚めるもの」
ナデシコブリッジ。
まともに仕事している人がほとんど居ない状況で、いつも通りに楽しげに鼻歌を歌いながら、ナデシコ艦長がブリッジに入ってきた。
「あれ?」
ユリカが疑問の声を上げたのは理由がある。ブリッジを見回しても、見えるのは銀髪の頭と桃色の髪の頭の一部。つまりルリとモモの後頭部しか確認できなかったためである。
そして2人でオムライスを食べていた。
「あっれー? ルリちゃんとモモちゃんだけー? アキノはー?」
(そもそもテンカワさんはブリッジクルーではないんですけど・・・)
「皆さん、イネスさんとこでカウンセリングを受けてます。たぶん戦う相手について迷いが出てきてるんでしょうね」
「あれ〜。だったらルリちゃんとモモちゃんは?」
問いに対する返答は、なんともそっけない物だった。
「・・・別に。私は言われたとおりにするだけです」
「忠夫についていくだけだから」
「う、そうですか・・・」
(うむぅ。モモちゃんはともかく、ルリちゃんの態度はちょっと問題ありだよね。ここは年長の私が見本にならないと・・・)
密かに気合を入れるユリカ。
100%見本としては失格だろうが。
「あ、そういえば、アキノ何処に居るか知らない? アキノもカウンセリング受けてるのかな?」
「さぁ」
「・・・あの人の居場所なんかしらない」
「ああ、アキノ! アキノだって思うことは有るよね!? 辛いよね!? 悩んでるよね!!?
こうしちゃ居られない! 今すぐ私が慰めてあげないと・・・アキノーーーーーっ!!」
二人の言葉は聞こえなかったのか、一人で盛り上がってダッシュで消えるユリカ。
しかし、二秒後にムーンウォークで戻ってきた。
「なんですか、艦長」
「ねえねえ、そのオムライス・・・一口頂戴?」
「「嫌(です)」」
返事は0.2秒だった。
――――――――――
明乃を探して医務室に足を運んだユリカ。そこには長蛇に並ぶ人・人・人。
「凄い人・・・アキノは・・・う〜ん、見える範囲には居ないな〜」
仕方ないので医務室に向かいつつ並ぶ人を確認するユリカ。
「あれ? ジュン君」
渋い顔付きで警備部の人間と会話をしているジュンを発見。
「・・・僕だって軍人だ。命令なら誰とだって戦う覚悟はあるつもりさ。
でも正直、軍には裏切られたと言う思いはぬぐえない」
「お察しします」
「お〜い! ジュンく〜ん!!」
「ユリカ?」
ジュンと警備班Aが振り向く。
「何話してるの? やっぱり木星の人たちのこと?」
「うん・・・僕も含めて、やっぱり上に不信感を覚える人や、そこから来る迷いについてイネスさんに話を聞いてもらいたいんだと思う。
そういえばユリカ。今更訊くのもかなり変だけど、今回のことでユリカは戸惑いを覚えたりはしていないのかい?」
ジュンからの問いに対しても、ユリカは数秒思考するそぶりを見せただけであっさりと返す。
「うん、でも悩んだって状況は変わらないわけだし、だったら降りかかる火の粉を払いつつどうすればいいのか考えなきゃ!」
いつも通りの明るい笑顔のユリカに、しかしジュンと警備班Aは目を伏せる。
「ユリカ。僕にだってそれが正しいって事ぐらいはわかるよ。でもさ、皆が皆ユリカや横島みたいに割り切れるような強い人ばかりじゃないんだよ」
強い、と言う言葉を横島が聞いたら反論の言葉が聞けるだろう。それはともかく、この長蛇の列を見ればジュン言葉の正しさが伺える。人間、メンタル面と言う物は、思った以上にコンディションを左右するのである。
「う〜ん、私が強い・・・そうかなー」
ユリカはむーんと悩み始めるのを見て、ジュンは慌てて左右に手を振る。
「あ、ごめんユリカ! 何か用が有るんだろ?」
「そうだった! ジュン君、アキノが何処に居るか知らない?」
「テンカワ? さあ、見てないよ。少なくとも僕の見える範囲には居ないし」
「うー、そっかぁ・・・。ん! じゃあいいや! 私向こうを探してくるね!」
そのまま列を無視して医務室に直行するユリカ。
「・・・・・・まったく、嵐みたいな人ですね。うちの艦長は」
「否定はしないよ」
ジュンは苦笑いする。
「でも、染まった染まった、って最近よく言われるけど、やっぱりまだユリカの隣には立てないな。
正直、横島が羨ましいよ」
「羨ましい? 横島が、ですか」
「うん。正直、今まで僕が見てきた中でユリカについていけるのは横島くらいだよ。ずっと見てきた僕が言うんだから間違いない」
「ふむ・・・ですが、心配は無いのでは? あの二人の間に特別な感情はなさそうですし」
その言葉にジュンは変に焦る。
「そ、そういうことを言ってるんじゃない!」
イネスに相談に乗ってもらう前に、悩みがさらに増えそうなジュンだった。
医務室に辿り着いたユリカは部屋の中を覗き込む。すると、
「ふむ。パイロットにはパイロットの悩みがある、ということね」
とイネスの声が耳に入った。
(パイロット・・・ということは、アキノ!?)
脅威の短絡思考により話し相手を確かめようとするが、並ぶ人が邪魔でよく解らない。
ユリカは業を煮やし、
「艦長命令でーーーーーす! どきなさーーーーーーーーい!!」
突然の大声に、医務室内の人はギョッとした顔で左右に割れる。そこには。
「・・・艦長?」
イズミだった。
「あら、何かしら艦長。相談事ならちゃんと並んでね」
「あ、いえ、アキノ居ないかな〜って。イズミさんでしたか」
「相談事じゃないのね。そういえば、艦長は平気なの? 行動と言動はいつも通りに見えるけど」
「ハイ! 愚痴を言っても始まりませんから。横島さんじゃありませんけど、常に最善と言える行動を取らないと。
何しろ私、艦長さんですからね!」
またも笑顔で言い切るユリカを見て、イズミは突然イネスに質問する。
「ドクター。艦長って、英語で「コマンダー」って言うわよね?」
「そうとも言うわね。「キャプテン」のほうが通りはいいけど」
「こんな状況なのに艦長はいつも通り。コマンダーなだけに、こまんないんだー・・・・・・。く、くっくくくくくくく」
「「・・・・・・・・・・・・」」
ユリカとイネスの頬に、一筋の汗が流れた。
「あ、ええと・・・アキノは結局ここには居ない、と」
「え、ええ。ここにも来てないし、行列にもいないんじゃ心当たりは無いわね」
「そうですか。う〜〜〜ん」
とユリカが考え込もうとした時、
「おい艦長。後がつっかえてるんだから悩むのは余所でやってくんねーか?」
「あ、ごめんなさいウリバタケさん!
・・・・・・・・・・・・はい!? ウリバタケさんまで木星の人たちのことを!?」
そんな悩みとは無縁だと思ってました!
とは台詞には出なかった。
「あ? ああ違う違う。俺の悩みはもっと深刻なんだよ」
「深刻なこと?」
「ああ。月で何人か補充人員が来ただろ? 整備班にも一人来たんだが」
「その人が何か?」
「ああ・・・・・・」
ウリバタケは、何時に無くシリアスな顔で黙り込む。
そこに真剣さを感じ取った2人(イズミは既に立ち去っている)は、自然と真剣な顔になる。
「実はそいつ・・・とんでもない美形でよ」
「「はい?」」
「しかもそれを全然鼻にかけねぇってんだから尚更気に入らねーんだ」
「「・・・」」
「さらにそいつの持ち場は目立たねぇ裏方なのによぅ、早くもファンが出来初めて・・・って艦長は?」
ユリカはもうこの場に居なかった。
「ハイ、次の人ー」
「おいドクター! 俺の話はまだ終わってねーぞ!?」
「だったらもう何も悩まなくて済むようにしてあげましょうか? コレで」
手に持つは、形容しがたい色の液体が入った注射器。
「え、遠慮しときます!」
ウリバタケは、脱兎の如く逃走した。
――――――――――
「まったく、無駄な時間を使っちゃった」
えりかは、「ぷんぷん!」と実際口に出しつつ廊下を歩く。明乃の居場所の心当たりは無いので、とりあえず食堂にでも行こうと思っていた。その時、
「艦長、艦長」
脇の通路からプロスがユリカを手招きする。
「プロスさん?」
「ハイ。少々お話があるのですが」
「いいですけど、手短にお願いします」
とりあえず牽制してからプロスの後に続く。プロスはすぐ近くにあった空き部屋に入る。
「ありゃ」
そこには、プロスのほかにエリナ、ゴートもいる。
「一体何があったんですか?」
「それがですな、ウリバタケさんのことなんです」
「ウリバタケさん?」
「そうなのよ。どうも彼・・・・・・使い込みしてるみたいなの」
「使い込み、ですか」
ユリカは拍子抜けした様子で呟く。さっきから皆さんで私をからかおうとしてるんじゃないかと思い始めかけたとき、
「ふう・・・私もそんな反応をしたい物ですが・・・」
プロスは持っていた電卓をユリカに見せる。
ユリカはそれを覗き込む。
「げ」
ユリカがそこに見た物は、金銭に不自由したことが無いユリカでさえ驚愕する大金。
「これだけ使い込みしたんですか!? ウリバタケさんが!?」
「いえ、さすがにそれだけの金額を一人で使い込むことは出来ないでしょう。これは整備班全体で算出した使い込み額です」
「実際に調査した所、ドクター・カオスがアンドロイドの充電に使用した電力と、横島・テンカワ専用機の修理以外の機械いじりに使用したと見られる金が38%、その他が3%、ウリバタケの使い込みは残りだ」
「そ、それでも59%も・・・」
開いた口がふさがらない。
「腕は良いのですから多少の使い込み位は目をつぶりますが・・・さすがにこれほどともなると。ハイ」
「で、艦長には格納庫に行って欲しいのよ。そこで問いただして頂戴」
「む〜〜〜〜仕方ありません。アキノを探してる最中ですが、格納庫にも寄ってみます」
パイロットだから格納庫にいる可能性も高いだろうし。
――――――――――
『―――――以上だ』
事務的な口調を残し、軍人は一方的に通信回線を閉じる。
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
ムネタケは、一人暗い自室で微動だにしない。
否。握り締めた両拳が小刻みに震えている。
「冗談じゃないわ・・・」
ようやく呟いた声は、掠れていた。
「木星人が民間人にばれたことの責任!? 何言ってんのよ!? ばれたのはあたしの所為じゃないじゃない!! 大体何よ!? もともとは自分たちが原因の醜聞じゃないのよ!!」
掠れた声は、徐々に甲高く部屋に響く。無論、答える者は無い。
ムネタケは追い詰められていた。スキャンダル暴露の責任を押し付けられ、このままでは連合軍での彼の地位は、最も悪い形で失われることとなる。自分以外のせいで。
「冗談じゃ・・・ないわよ」
彼は優秀な軍人である父を目指して軍に入った。いまだ現役である彼の父に認められたく、また役に立ちたいためにこれまでやってきた。地位を得るためにいろいろ汚い手を使ったこともある。しかしその甲斐有って、ナデシコの提督にまでなることが出来た。
しかし、もうここまでだった。スケープゴートとなったからにはいかなる足掻きも無意味だろう。経験上、ムネタケはそれを知っていた。
「・・・・・・・・・・・・」
だがしかし。これで終わるつもりは無い。限りなく絶望的な状況だがまだ糸は切れていない。ばれたことは仕方が無いが、それを帳消し・・・は無理にしても、軽減できるような手土産を持ち帰れば・・・。
「そうよ。それしかないわ」
そうだ。あの横島というしまりの無い顔をした青二才は、木星から生還するという今の自分以上に絶望的な状況を生き延びている。やって出来ないことは無いはずだ。
「・・・・・・―――――」
まず初めに思いついたのは文珠だ。横島の弱みなり何なり握って文珠を作らせる。これなら失敗を帳消しにして余りある手土産ではないか? なんせなんでも出来るのだから。
「いいえ、駄目ね」
ムネタケは限りなく不本意ながら、これまでの経験により超常的な存在を認めざるを得ない状況に陥っていた。そして、その超常的な力はむやみに使えばその記憶と痕跡を消される。これでは意味が無い。
横島はむやみに使っている気がするのだが、もしかして監視役が居るのなら、お目こぼしを貰っているのかもしれない。
「はっくしょん!!!」
その時神界に大きなくしゃみの音が響き渡った。
「ううん・・・風邪かしらねー」
かなり奇抜な格好をした三つの目を持つ女性は、鼻の下を指でこすった。
それはともかく、ならば他にどんな物があるか。
「・・・あいつらなら、あるいは貴重な物を作ってるかも・・・」
何かを思いついたムネタケは、善は急げとばかりに心当たりの場所へ向かう。
その目は、追い詰められた獣のように血走っていた。
――――――――――
「うーん、でもこれだけの使い込みをしてたとしても、どうやってその使い道を突き止めようかな。まさか堂々と置いてあるわけ無いだろうし」
考え込みつつ格納庫へ入る。そこには、
「ふっふっふ、これぞウリバタケ謹製、「エステバリス月面フレーム改め、コマンダーフレーム」!!」
「なんのわしも負けておらんぞ! ヨーロッパの魔王・ドクターカオスの技術と遊び心の粋!「ゴスペリオン」じゃ!!」
だあああっとユリカがずっこける。使い込みの結果が目の前に堂々と。しかもカオスまで一枚かんでいた、否、当事者だ。
機動兵器二体分の費用+失敗作等のことを考えれば、あの天文学的単位のお金の使い道も理解できる。つーか仕事しろ。
「このコマンダーフレームは凄いぞ! 初の相転移エンジン搭載化け物フレームの月面フレームを流用し、なんと重力波ビームを照射することを可能にしたぁ〜ッ!!
これでエステの活動範囲と作戦行動に大きく幅が出来る! さらに通信機能もノーマルより充実! まさにコマンダー!!」
「このゴスペリオンはエステバリスの高機動を維持しつつ、絶大な火力を持たせた意欲作! 通常のマニピュレータに加え2本の隠し腕!
他に様々な火器、例をあげると「ビットミサイル」!! なんと操縦者の脳波で操る事が可能な実弾兵器じゃ! 敵の死角を狙い撃ちする様はなんとなくニュータイプ! 味方にとってはまさに福音とよべる出来じゃぞ!!」
見た感じエステのフレームの一種のようだが、名前がリオンシリーズな所にDCかぶれな所を感じられる。
「うおおおおおおおおおお〜!!!」
歓声を上げる整備員ズ。皆ノリノリ。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
呆然としているユリカ。顎がかくんと落ちている。
「コマンダーフレームの主武装は「ピアッシングスナイパービームライフル」! 略してP.S.B.R.! ピスバーと読むぞ。ちなみに。
対ディストーションフィールド用の兵器で、限界まで集束させたビームがフィールドを容易に貫通し、ナデシコのグラビティブラスト以上の射程距離を実現! 後方支援用のコイツにおあつらえ向きだろ!?」
「いやいやいやいやいやいやいやいや! ちょっと待ってください2人とも!!」
我に返ったユリカが二人に突っ込みを入れる。
「あン? ああなんだ、艦長か」
「なんだじゃありませんよ! 整備班で莫大な使い込みがあるからって来てみれば! 仕事してくださいよ! 仕事を!!」
ユリカ、人生でも有数の真面目な台詞。
「してるよ」
「へ?」
「仕事だろ。してるって。俺は一応整備班長だからな。敗北や戦死を整備不良のせいにはされたくねーからよ」
「え、じゃあ、これは余った時間で?」
「おう」
ユリカはううっと口篭もり、
「じゃあ、カオスさんは!?」
「ジャンプフィールド発生装置も文珠変換装置も、手間がかかることもさることながら、材料自体もなかなか無いんじゃ。じゃから、結構ヒマな時間と言う物が有ってな」
「そ、それで暇つぶしに?」
「まさしく」
「う、ううん・・・それじゃあ仕方ないのかも・・・」
そこで気付く。
「――――――――――って! それって使い込みの言い訳になんか全然これっぽっちもなってないじゃないですか!?」
余った時間に暇つぶし。確かに言い訳としては的外れだ。
「「ちっ」」
「いま「ちっ」って言いましたね!?」
「「いや全然」」
二人はぶんぶん首を振る。そんなわざとらしい二人に半眼のユリカ。
「――――――――――まぁ強力な機体なら使い込みもいくらかは大目に見てもらえるかも知れませんけど」
渋い顔のまま言うユリカに、しかし2人は微妙な表情で顔を見合わせる。
「? 何か?」
「いや〜それがな・・・」
「これよ! これだわ!!」
ウリバタケが何か言いかけたところで、後ろから甲高い声が響く。
「提督?」
「あんた達ナイス過ぎるタイミングよ! いい!? 今すぐこの2機は私が接収するわよ! 反論は聞かないわ!」
「提督・・・パイロットでもないのに一体なんに使うんですか?」
「え? 決まってるじゃない。これを手土産に上の連中のご機嫌取りよ。私はこのまま終わるつもりは無いのよ!」
(何か失敗でもしたのかな。提督)
ユリカは内心で首をかしげる。木星云々等のことは考えつかないらしい。
「あんたらアンだけ大口叩いたんだから、他にもさぞかし凄い仕組みが・・・」
「いや、それ以前にいまのこいつら持っていっても、別に評価はされねーと思うぞ」
「うむ」
「な、なんでよ!?」
「さっき言おうとしたんだが、まず一つの原因として、このコマンダーフレームの武器にある」
ウリバタケの言葉に、ムネタケは当惑の色を浮かべる。
「な、なんでよ? さっき自慢してたじゃない。ぴすびーとかぴすべーとか」
「ピスバーだ。
いや、そのピスバーだが、フィールドに通じる仕組みってのは意外と単純だ。
まず、ディストーションフィールドってのは、重力兵器とビーム兵器の威力を大きく減らすよな」
「それくらい知ってるわよ」
「ピスバーはそれを逆手に取った武器でよ。強力な貫通力を持ったビームは、フィールドに着弾しても容易に貫通するほどの物だが、そこはそれ、腐ってもディストーション。貫通されるまでにビームを止め拡散させようとする力が大きく働く。
結局あっさり貫通するわけだが、フィールドを貫通するまでに、ビームの形はかなり歪んじまう。だが、歪むことにより貫通力は激減し、しっかりビームは敵にダメージを与えられるわけだ」
「ああなるほど、つまり」
「そうだ。この武器は歪むことがまず前提。フィールドが無い相手には滅茶苦茶細いビームが何事もなく内部を通り過ぎるだけなんだよ。当たり所が良くても、まずダメージは期待できねぇ。いくら敵にフィールドを持ってるやつが増えたとはいえ、これじゃあ採用されんだろう」
「じゃあ、他の武器は!?」
「大したモンはねーな。ちょいと大型のラピッドライフルぐらいか。だが後方支援機には気休め程度の意味しかねーよ。こいつはでけぇから、前に出りゃあいい的だぜ」
「これって、一応正式採用されたフレームが元なんですよね? 地球より低い重力下だから実現した大型フレーム。だったら無重力の宇宙空間だったらもっと良いんじゃないんですか?」
ユリカは素朴な疑問、と言う感じで言うが、
「違うぜ艦長。月面フレームってのは、「低重力&地面あり」って条件でしか使えねーんだ。つまり月とかな。
さっきも言った通り宇宙では360度なんにもねーからただのでかい的。だが月面なら、少なくとも地面の下からは攻撃がこねーだろ? 攻撃位置が限定される分しのぎやすい+重力が小さいから軽快な動きが可能って訳だ。ま、それでも被弾率はノーマルより上だろうけどな」
「あ、そっか」
「じゃあ、アンタのやつはどうなのよ!?」
ウリバタケのものが使えない(ことも無いと思うが)と解ったムネタケは、一縷の望みをかけてカオスの方を見る。だが、
「いや、わしのほうも問題があってな」
「どんな!?」
ムネタケの声は、もう悲鳴に近い。
「いや、後から気が付いたんじゃが、武器やらなんやら詰め込みすぎたせいで、アサルトピットを挿入するスペースがないんじゃなーこれが」
「何とかなんないの!?」
「今現在では、物理法則の限界に挑戦しても人一人分のスペースしか確保できん。無論、そんな状態では操縦は無理じゃな。狭いどころか身動きが取れん。機能を削るにしても、今すぐと言うわけにはいかんわい」
失敗失敗、と頭を掻くカオス。彼の失敗にしてはまだおとなしい物である。
「さらに、例のビットミサイルじゃが、」
「それにも問題があるんですか? ニュータイプじゃないと使えないとか」
「さすがにそれは無いわい。じゃが、実はミサイルを操作している間は他の行動がほとんど出来なくなるんじゃよ。ビットミサイルを正しく使おうとすることを例えるなら・・・。
そうじゃな。「アヌビス Z.O.E.」をベリーハードでプレイしつつ、口でくわえた棒でイライラ棒しつつ、戦場の空間認識を正しく行なう・・・と言った感じかの」
「そんなのニュータイプか分割思考の持ち主しか出来ないじゃないの!!」
ニュータイプでも出来ないと思うが。
「然り。普通ならミサイルを操るので精一杯。それをしながらでは機体の操縦もままならんんじゃろうな」
それを聞いても、ムネタケは食い下がる。
「ほ、他には!? ほら、例えばグラビティブラストを発射できるような」
「ああ、そりゃ俺も考えて計画案まで立ててたんだけどな。横島が身をもって証明したことなんだが、エステサイズにグラビティブラストってのは、ぶっちゃけ無理だ。エネルギーをチャージしただけで爆発もんだ。なんせ文珠で装甲固めてもそんなに持たなかったからなー」
「そ、そんな」
「まー半分趣味で作ったようなやつだからなー。使い物にならねー訳じゃねーし、文句いわれる筋合いは・・・ってぅお!?」
言いかけたウリバタケの胸倉をムネタケが掴みあげる。
「「出来ない」じゃ駄目なのよ!! いまのアタシはがけっぷちなの! もうギリギリなの!! それをそんなにあっさりと・・・! アンタなんにも解っちゃいないわッ!!!」
さらに目を血走らせ、ヒステリックにわめくムネタケ。言葉の意味はさっぱりだが、その気迫に思わずウリバタケは息を呑む。
「ハイハイハイハイ、ストーーーーーップ!!」
それを止めたのは、推移を見守っていたユリカ。
「提督! なんだかよく解りませんが、あなたは軍人なんです。もっとシャンとしてください!」
「あ・・・」
ムネタケは生気の抜けた顔で床にへたりこんだ。
「で? ウリバタケさんとカオスさん? もう他に作った物はありませんか?」
「ああ。これとかな」
ウリバタケが差し出した物は、
「これって、フィギュアってやつですか!?」
恐ろしく精巧に作られた、ユリカとルリとモモのフィギュア。
「おどろいたじゃろう? ヨーロッパの魔王と呼ばれたわしでさえこれほどのものは作れん。脱帽、というやつじゃな」
「〜〜〜〜〜〜」
ユリカはプルプルと震えている。
「・・・あれ、艦長怒ってる?」
「ふむ。制服なのが気に入らなかったのかのぅ」
「ううむ・・・やはりここは他のコスチュームにするべきか・・・」
「いや班長。それ以前の問題でしょうが」
「(無視)ここはオーソドックスに水着で行くか?」
その言葉を聞いた瞬間、ユリカは爆発した。
「ウリバタケさんッ!!!」
「は、はいっ!?」
「アキノのフィギュアをお願いします」
すうっと息を吸い込み、
「(くわっ!!!)―――――水着でッ!!」
「「・・・・・・・・・・・・はい?」」
〜整備員G(22歳)の証言〜
「ああ、俺はあんなに静まり返った格納庫なんかはじめてだよほんとに。ああいうの「水を打ったような」って言うのかねぇ。格納庫ってのはいつも大なり小なり音がするはずなんだけどな。とはいっても俺の知ってる格納庫はナデシコだけだけど」
ムネタケがいつのまにか姿を消していたことに気が付いたものは居なかった。
――――――――――
ムネタケの部屋。
ムネタケは自室の明かりもつけず、抜け殻のように座り込んでいた。身にまとう雰囲気は一気に十年以上老け込んだように感じる。
「・・・は、なんなのよあいつら。あんな役にも立たないようなものを馬鹿みたいに笑いながら・・・」
おそらくもう自分でも何を呟いているのか解っていないだろう
ムネタケは思う。そういえば自分にもあったのではないか。自分の出世以上に、尊敬する父親の役に立つ以上に、かつて自分にはあのゲキガンバカ(ガイ)のように正義の味方になりたいことがあったような。俗物を嘲笑しながら自らも俗物に成り果てるよりはるか昔、地球を守るために自分を鍛えた時が・・・。
そのとき、突然警報が鳴り響き、ムネタケは我に返った。
敵だ。
「そうよ。アタシが地球を守らなきゃ・・・」
ムネタケは立ち上がる。先程までの弱々しさはまるで無い。
「出撃よ!! レッツ、ゲキガイン!!!」
「はい!? ヘリアンサスが!?」
パイロット全機出撃のために格納庫に駆けつけた横島と明乃。しかし一番乗りのはずだったのに、格納庫にヘリアンサスは見当たらない。
その理由は、
「提督が、ぶんどって出撃した〜!?」
「ああ。俺たちも止めたんだがな、さすがにぶっ壊してでも通るって言われりゃ通すしかねーわな」
「でも提督ってパイロットも出来たんスか?」
『二十年以上前にパイロットの訓練を受けたことはあったようですが、IFSが出来る以前のことですし、提督自身IFSはもっておられません』
何処から聴いていたのか、プロスが解説を入れる。
「でも、なんで提督が?」
「うむ・・・わしらにも皆目見当がつかんが、普通の精神状態ではないように見て取れたわい」
「って言うか、提督ってIFS持ってないんスよね。どうやって操縦してんスか?」
「あ」
何気ない一言に、明乃はウリバタケとカオスを見る。
「―――ありゃ間違い無く、」
「マニュアル操作、じゃな」
「「マニュアル操作!!?」」
マニュアル操作は、IFSとは違い操作が手動とプログラムなので、操作が難しくどうしても動きや反応速度でIFSに劣る。いまや旧式の技術だが、二十年以上前の訓練しか受けていないなら当然と言えば当然だ。
「っ!!」
明乃は、とっさに駆け出す。
横島機の方へ。
「ちょ、ちょっと」
あれよあれよと言う前にアサルトピットに乗り込み、
『テンカワ機、出ます!!』
おいてあった明乃用CFランサー二本を掴み、止める間も無く出撃してしまった。
「えーと・・・」
横島が硬直している横を、他のパイロットが走っていき、それぞれ自分の機体に乗り込み、次々と出撃していく。
残されたのは、横島と整備員のみ。
「・・・・・・予備は?」
「「無い」」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
沈黙、六秒。
「俺、居残り!!?」
――――――――――
「堕ちなさい!」
ヘリアンサスのレールガンが新バッタをディストーションフィールドごと破壊する。それだけではなく、周囲には無人兵器の残骸がそこかしこに浮遊している。
「はぁ、はぁ、次よ!」
ムネタケは血走った目で周囲を見回す。だが第一波は全滅したようだ。しかし浅いながらもヘリアンサスは全身に損傷が見られる。マニュアル操作では仕方の無いことだろう。
「こないなら、こっちから行くわよ! 悪の木星蜥蜴めッ!」
また新たな敵影に向かって突進する。さながらその気迫は修羅にも見えた。
「て、提督、また敵に突進しちゃったわよ!?」
ナデシコブリッジでは、ミナトが悲鳴のような報告を入れたところだった。
「でも、提督って意外と凄かったんですね。IFSも無いのにあそこまでやるんですから」
「いや〜そうでもないですよ」
ジュンの意外さ混じりの賞賛を、否定の声が遮る。
「メグちゃん?」
「ハイ。メグミさんの言う通りです。こう言っては失礼ですが、確かに意外なまでの操縦技術は持っています。私も気が付きませんでした。
しかし、あれらはあくまで機体の性能のおかげです。しかも振り回されてるだけですな。いまは運良く生き残っていますが、次に囲まれたらどうなるか解りません」
「き、厳しいんだ・・・」
そんなやり取りを聞いていた他のクルーはどよめくが、
「そんなの忠夫が出ればすぐ解決するのに」
「確かに、横島さんのデタラメ具合は常軌を逸していますからね。これぐらいのことなら・・・」
そこまで言ったルリは、ぴしりと石化する。
「どうしたの?」
ルリは、モモの方へギギギギギ・・・と顔を向ける。
「・・・・・・横島さん、出撃できないそうです」
「何ぃ!!?(ほぼ全員)」
「じゃあ、あの人はもう駄目って事?」
ルリの言葉に無表情で返すモモ。その言葉を聞いてブリッジの中は騒然となるが、
「うろたえないでください!!」
ユリカの一喝で喧騒がぴたりと止まる。
「パイロットは横島さんだけではありません! 皆さんは他のパイロットは信用できないって言うんですか!?」
「ま、そうですな。私自らが厳選した優秀な方たちですから。それぐらいはやってもらわないと」
(そして艦長。あなたも予想より優秀だったようですな)
プロスは密かにほくそ笑んだ。
一方その頃。
ムネタケが一人で奮戦していた頃、その戦闘宙域に近づく八体の機動兵器の影。
「なんだあれは。出撃しているのはあの赤いやつだけか?」
『いえ、後方からも何機か近づいてくるようです。一機はもう十数秒で辿り着きそうですが、さらに後続の一群は合流まで暫くかかりそうですね』
「フン。しかしあの赤いの、はじめて見るタイプだが操縦者はお粗末だな。新兵に過ぎた玩具が与えられた、と言う所か」
『どうしますか?』
「俺があの赤いのと遊ぶとしようか。おまえたちはあの敵の増援を相手してやれ」
『了解!(×7)』
八体の機動兵器はナデシコに向かって突き進む。そしていち早く辿り着いた先頭の赤い機動兵器が、ムネタケ&ヘリアンサスに向けて日本刀のような外観をした武器を振り上げる。
『!!?』
敵機に気付いたムネタケは反応するが、機体反応は間に合わない。
「初めまして。そしてさようなら。恨むのは一向に構わんが、運がよければ生き残れるさ!!」
そう言って刀を振り下ろす。ムネタケはパイロットスーツを着ずに出撃したため脱出したところで生き残ることは不可能だが、勿論相手はそれを知るわけは無い。知っていても行動は変わらなかっただろうが。
『くッ!?』
ムネタケは諦めずにヘリアンサスを操作。しかし間に合わない。
しかし、
「そこまでよ!!」
がきぃんッ!!
しかし、ギリギリ追いついた明乃のエステ(横島機)がそれを許さない。刀とぶつかり合ったディバインアームが火花を散らす。
「無事ですか、提督!?」
つばぜり合いをしつつ、明乃が言う。
『あ、アンタ、テンカワ!? なんで』
「話は後です! 早く戻って!!」
明乃は敵機の刀を弾き返しつつ構える。
(敵は新型八機・・・。皆が到着するまで持つか・・・?)
だが、
「お前達、行っていいぞ。コイツは俺がやる」
『え、でも北ちゃん・・・』
「零夜。俺の楽しみを取るな」
『・・・うん。気をつけてね、北ちゃん』
「おまえたちもな」
日本刀を抜いたままの機動兵器を残し、残り七機は後続部隊に向けて移動する。
「どういうつもり!?」
明乃は敵機に通信を繋げる。
「ほう・・・貴様、天河明乃か」
「!! お前は、北斗!?」
「フ、ついているな俺は! 明乃。貴様が居ると言うことは忠夫も居るんだろう!?」
「・・・そういう台詞は私を倒してから言うのね。横島くんが出るまでも無い。追い返してやるわ!!」
なぜかユリカと北斗相手では口調がちょっと乱暴になるらしい。
「笑わせるな。貴様など主菜の前のスープでしかない! 平らげてくれる!!」
「胃薬は当然用意してるんでしょうね!? ただで終わると思わないでよ!!」
言い終わるか否かのところでお互い二本目の武器を抜く。二刀流なのも同じだったようだ。そして同時に切り結び、また離れる。
「くっ!」
「フッ!」
いまのは挨拶代わり。今度は先程より数段早くぶつかり合った。
「な、なんてやつらよ・・・!」
ムネタケは戦慄をにじませる口調で呟く。
(目で追いかけるのがやっとだなんて・・・)
もしIFSを所持していたとしても、この二人の動きは次元が違った。
さっきまで会った狂的な熱が薄れるような気がする。
ひどく、自分が場違いなように思った。
なんで自分はここに居るのか。一体何がしたかったのか。
もうそれすらも解らない。
必死にがむしゃらに狂的に戦ったが、それを軽く凌駕する若造たち。
道化師にしても無様すぎる。
「でも、でもアタシは・・・・・・」
ムネタケは血がにじむほどに拳を握り締め、奥歯をかみ締める。
ムネタケは、何をするでもなく、宇宙空間に浮遊していた。
――――――――――
そう。もう言うまでも無いことだが、侵攻してきたのは優華部隊である。北斗以外の隊員は、リョーコら六人と接触した所だった。
「げっ!? じ、神皇シリーズ!? よりによって優華部隊かよ!」
横島が悲鳴のような声を漏らす。その声を聞きとがめたユリカが横島に質問する。
「優華部隊? それは?」
「うん、木星の有人機動兵器ってロールアウトされて日は浅いけど、そのほとんどは前出てきたみたいなでかいやつなんスよ」
「ああ、あのゲキガンタイプだね」
(・・・いや、だからあれのどこがゲキガンガーに似てるんだよ)
横島は心の中で突っ込みを入れるが、ややこしくなるので黙っておく。
「でも、それじゃあ戦艦に対抗できてもエステに対抗できないって事で、エステを参考にほぼ同じ性能を持った機動兵器を、少数ながら開発したんス」
「ふーん。それが優華部隊の神皇シリーズ」
横島は頷く。
「でも、そんなに強いんですか優華部隊って。それともタチが悪いとか?」
「「・・・・・・・・・」」
メグミの質問に、横島とモモは顔を見合わせた。
「いや、強いのもそうなんだけどなー・・・」
「他にもなにか?」
「優華部隊は、忠夫をかくまってくれた人たちだから」
モモの口添えに、横島は「まいったなー」と頭を掻く。
「そうですか・・・。でも、戦うんですよね?」
「そうじゃないとナデシコ沈むし・・・正直気は進まんけど。まー舞歌さんもハト派だから適当な所で帰ってくれると思う・・・思いたい」
立場はハト派でも「あの」性格の舞歌に、一抹の不安を覚える横島だった。
「横島。君の見たところでは、こっちと向こうでは戦力差はどれくらいなんだ?」
「え? あ〜どうやろなー。どっちも強そうな感じか?」
「欠片も参考にならないじゃないか」
「まーまージュン君。
横島さんの話からすると、有人機ができたのって地球と比べたらぜんぜん最近なんですよね? だったら、敵機が一体多いだけならリョーコさん達だったら退けることも十分可能なんじゃないですか?」
「確かにキャリアの差はでかいやろけど・・・」
「なにか問題でも?」
「うん・・・いや、まー大丈夫かな?
でも、」
珍しく真面目な顔で言った。
「早めに決着つけないと、やばいかな」
このときの横島は、まだ自分の予想がまだ楽観的だったことを知らない。
(って言うか。八機目のあの赤い神皇、やっぱりあいつか?)
別の方へ気が向いていたから読み間違えたのかもしれない。
まぁ横島にそこら辺りの感覚を完全に解れと言うのも酷な話だろう。
中篇に続く