それは乱戦だった。


 ナデシコ側の六機のエステと優華部隊の神皇七機、真っ向からぶつかり合う。

 それぞれ、ガイ機、リョーコ機、ヒカル機、イズミ機、アカツキ機、イツキ機。

 優華部隊は雷神皇(千沙)、風神皇(万葉)、炎神皇(三姫)、氷神皇(京子)、竜神皇(百華)、闇神皇(飛厘)、光神皇(零夜)となっている。


 優華部隊は一機多いものの、やはりキャリアの差か均衡を保っている。


「先手必勝っ!!」


 ガイがゲキガンソードを手に突撃するも、真正面からの攻撃など当然のように受け止められる。


『隙ありだ!』


 攻撃を受け止めた雷神皇の背後から、風神皇が飛び出してくる。

 しかし、ガイも読んでいたのか、すぐさまバックして風神皇の刀をかわす。


 読み間違えたとしたら、パイロットの実力だろう。


「うお!?」


 完全に回避できるタイミングだったにも関わらず、胸部に切っ先が掠っていた。


「へへ・・・燃えてきたじゃねぇか! おい、あいつら相当やるぞ!」


「みれば解りますよ。それより、相手の日本刀みたいな武器って、フィールドを無効化してませんでした?」


「やれやれ、条件はほぼ同じってわけか」


「やるしかないけどね〜」


「そういうこと。おしごとおしごと」


「っしゃあ!! んじゃ、いっちょやってやっか!!」





 ――――――――――





 ブリッジのスクリーンには、一進一退の攻防が映し出されている。


「ちょっと、なんかやばい感じじゃないの?」


 エリナがそう言ったのも無理は無い。現在のリョーコらは、少しずつ押され始めていた。


「ああっ! リョーコちゃん、だから今ので行動不能にせなあかんて! 優華部隊は超実戦派なんやから、操縦にこれ以上慣れる前に短期決戦で行かんと・・・!」


『っせーッ!! ンなこたぁわあってんよ!! 静かにしてろってんだ!』


 リョーコは武器を振り下ろして隙が出来た風神皇にCFランサーを叩きつけようとするが、


『甘いです!』


 光神皇の神皇専用速射機関長銃(いわゆるラピッドライフル)がリョーコ機に打ち込まれる。


『ちィッ!?』


 なんとか避けてダメージを軽微におさえたが、またしてもチャンスを邪魔される。


『う〜! さっきからちまちまうっとうしいよー!』


「零夜ちゃんは牽制専門だから早めにつぶさな・・・」


『零夜って誰だよ!?』


「光神皇・・・じゃわかんねーか、さっきからこっちの邪魔ばっかりしてる黄色っぽい機体のパイロット!

 牽制や支援がほとんどやけど、それのスペシャリストだけに実に厄介で、ああっ、でもまともに戦っても他と遜色ないけど・・・」


『つまり何が言いたいんだい?』


 言いよどむ横島に、メグミが解説を入れた。


「機動兵器戦に限らず、スポーツやゲームで相手に確実に勝つ方法、それは、「相手のやりたいことをさせないで、自分がやりたいことをやる」ことです。先程からの、皆さんに仕事をさせない邪魔っぷりは実に絶妙かつ効果的ですね。

 つまり、地味に見えても実際は部隊の中核をなす実に厄介な牽制要員、だから撃破するならお早めにって横島さんは言いたいのではないでしょうか」


「そうそう、その通り!」


『簡単に言いますけどね・・・』


 イツキがぼやくのも無理は無い。常に後方に位置し、決して無理をせず、攻撃を届かせるには邪魔者が六機ある。撃破するのは一番厄介である。


『え〜いチクショウ! だがやるしかねー!』


 リョーコがちょっとやけくそ気味の声を張り上げた。


 そして一方、明乃と北斗の戦いも目に入る。こちらの方もリョーコらと同じような状況だ。

 互いに二刀で打ち合い、弾き合い、鍔迫りあう。


「ああっアキノ!」


 ユリカが悲鳴をあげたのは、危なく北斗の一撃がまともに入りそうになったからである。


「うう、メグちゃん! とりあえず明乃に通信が繋がるようにして!」


「はいはいっと」


 そして通信回線を開くと同時に、明乃と北斗の声が飛び込んできた。





『ちぃッ!! スープの分際でしつこすぎるぞ貴様!!』


 北斗が左手の刀を横に薙ぐ。


『誰がスープよ! 出汁の取り方も知らないくせに!!』


 明乃は中剣の腹で弾き、ディバインアームで切り下ろす。


『ダシ? そんな物、カツオブシを煮るだけだろうが!』


 北斗は明乃の一撃をかざした左手の刀で防ぎ、右手の刀で突きかかる。


『な、なんですって!? 料理に対する冒涜にも等しい暴言よそれは!!』


 明乃は突きを読んでいたかのように体を捻って避け、ディバインアームで逆袈裟で振り下ろす。


『フン、カツオブシを煮ることでダシができることくらい子どもでも知っている! 忠夫に湯の沸かし方でも教わったらどうだ?』


 北斗は十字止めで逆袈裟を受け、鋭い回し蹴りを放つ。


『出汁のなんたるかも知らないくせに! あんたこそ料理の本を一文字だけでも読んだらどうなのよ!!』


 回し蹴りを何とかかわし、お返しとばかりに素早い前蹴りを放つ。だが体勢が崩れていたからかフィールドを貫通することは出来なかった。










「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(全員)」


「最悪」


 沈黙に支配されるブリッジに、モモの冷たい言葉が響いた。


「あ」


 そんな中、突然声を上げたのはミナト。


「ど、どうしたんですかミナトさん!?」


 何かをごまかすようにユリカは振り向く。


「新手だわ。無人兵器多数! 数も多いし、ちょっとやばいわよ!?」


「新手!?」


「まずいねユリカ。ここは撤退したほうがいいんじゃないか?」


「たぶん無理だ。北斗が明乃ちゃんを見逃すとは思えない・・・。

 ああもう、コマンダーフレームでもいいから出撃しちまうか!?」


 横島がブリッジから駆け出そうとすると、


「待ってください」


 メグミが不意に引き止める。


「コマンダーフレームで前線に出たら、あれほどの技量を持つ集団相手では文珠がいくつあっても足りません」


「でも、ただでさえ押されとんのに、そこに無人兵器が来てもたら・・・!」


「話は最後まで聞いてください。何も出撃するなとは言ってません。コマンダーフレームで出る事は無いといったんです」


 横島は怪訝な顔をする。


「だったら・・・」


「コンメリアですよ」


「コンメリア!? でもそれは使えないって・・・」


 そこまで言ったとき、横島の脳裏に閃きが走った。


「・・・そうか」


 呟くが早いか、横島はブリッジから走り去った。


「何か思いついたのかしら。横島クン」


 ミナトの言葉にも、ブリッジの人間は首を傾げるばかりだった。


「エリナさん。ちょっと通信代わってもらえませんか? いまは操舵士二人も要りませんよね」


「え? ええ」


 戸惑うように頷くエリナを確認すると、メグミは横島と同じくブリッジを出て行こうとした。


「メグちゃん?」


「ちょっと、野暮用です」





 ――――――――――





「じーさん!!」


「おう、なんじゃ小僧。コマンダーフレームでも使う気になったのか?」


「いや違う。俺が使うのはコンメリア!」


「コンメリア? ・・・むぅ、確かに動かせるが武器はライフルとナイフ程度じゃぞ?」


「十分! って言うか、こいつなら未完成でもエステより使えるかもしれんからな!」


「ふん? 小僧がそういうなら出さんでもないがの」


 そう言い、カオスはマリアと近くの整備員ズに指示を出し、出撃準備を整える。


(とりあえず北斗を止めたら撤退できるかも知れん・・・)



 〜数分後〜



「よーし! 小僧。いつでもいけるぞい」


「おしゃ! んじゃ行ってくる!!」


 横島は、準備が整ったコンメリアに乗り込み出撃する。


「・・・・・・」


「? どうした、マリア」


 横島が出撃した方向をじっと見つめていたマリアを見、カオスは問い掛けた。


「ドクター・カオス。いまこの艦は・危機に陥っているのですね。横島さんが・あそこまで必死になるのは・考え方に・変化が生じたとは言っても・珍しいことだと・思うのですが」


「まーそうかもしれんが。なに、いざとなったらわしとマリアだけでも脱出できるわい」


「ノー。みすみす・ナデシコを・見捨ててはいけません。

 そこで・私に考えが・あるのですが」


 マリアは、自分の「考え」をカオスに語る。


「ふ〜む・・・成る程、面白いな。解った。試してみるかのう。しかし・・・」


 マリアのほうへ振り向き、頬をニヤリと歪ませる。


「小僧と嬢ちゃん(明乃)がおるとはいえ、短時間でそれなりに愛着が湧いたようじゃな。ま、確かに退屈せんことは同感じゃが」


「イエス・ドクター・カオス」










「ウリバタケさん」


「お? なんだ、メグミちゃんじゃねーか」


 ここは格納庫の一角、カオスらとは離れた場所にある。


「実はお願いがありましてね・・・」





 その「頼みごと」をする時の表情は、珍しくわくわくしているような顔だったと言う。










「はあああああああっ!!」


「うおおおおおおおっ!!」


 明乃と北斗は二刀を激しくぶつかり合わせる。やや明乃が押され始めているように見えるが、まだまだ伯仲していると言える。しかし、


「っ!!」


「ふッ!!」


 応酬の中に隙を見つけたか、お互い渾身の力を込めた一撃を同時に振るう。



 キィンッ!!!



 明乃の中剣と北斗の刀の片方が各々の手から弾き飛ばされる。


「く・・・!」


 明乃は一層表情を引き締めてディバインアームを構える。だが、その表情は瞬時に凍りつく。


 なぜなら、北斗の神皇、「鬼神皇」は、刀が弾き飛ばされたにも関わらず、二刀流を保ったままだったからである。


「な!?」


「言っていなかったが、この鬼神皇には対時空歪曲刀が、いま飛ばされた「閃刃鶴(せんばづる)」のほかに三本装備されていてな」


「四本装備・・・!?」


「そういうことだ。腰の二本の他に背中にも背負っていたんだが気が付かなかったか?」


 気が付かなかった。集中していたからか。


「フ!」


 それ以上の問答は無用と、北斗は一気に畳み掛ける。


「くぅぅぅ!!」


 北斗の連斬に今度は一方的な防戦を強いられる。


 一気に劣勢に追い込まれたエステに、急所は避けている物の傷がいくつも刻まれ、明乃の心に焦燥感が湧き起こる。


(う、ううううう・・・!!

 ヘリアンサス・・・ヘリアンサスさえあれば!!)


 しかしそれは無いものねだりだ。明乃にもそれは解っているが、悪態の一つもつきたくなる。










「・・・・・・・・・・『速』」










「て、テンカワ・・・!?」


 ムネタケは呆然とうめく。そしてそんな自分に驚く。自分はほとんど死ぬ気で飛び出してきたと言うのに、もう何もどうでも良くなっていたと言うに、自分と何の関係も無い小娘の心配を一瞬してしまった。


(って言うか・・・)


 もうさっきまでの心を吹き荒れる暴風は去り、いつもの自分に戻っている事に気付いてしまった。いや、明乃の心配をするのはいつもの自分とも違う気がするが。


(そういえば?)


 二人の戦いを観察していて気付く。さっきまでめまぐるしく位置を変えながら戦っていた二人だが、いまは防戦一方の明乃に怒涛の攻撃を仕掛ける北斗。さっきほど位置の変化は激しくない。

 それに気が付くと同時、反射的にレールガンの照準を合わせようとするが、


「?」


 あわせられない。調べると、


「バーニアとスラスターが壊れてんじゃない!?」


 つまり、現在ヘリアンサスはほとんど動けない状態にあると言うことである。しかも、ヘリアンサスのレールガンは腰に装備されていると言う構造上、相手のほうへ機体を向けなければ命中させられない。

 無人兵器との戦いで負った損傷がいま効いているのだろうか。


「くッ!!」


 拳をコンソールに叩きつけるが、無論そんなことで事態は好転しない。


 そのとき、



 シュオン!!



 ムネタケの隣を、何かが高速で通過していった。


「・・・なにあれ」










「畜生! なんで、なんで俺らの攻撃が通じねーんだよ!? 実力でも、性能差でも負けてるわけでもねーのに!」


 こっちはエステ隊VS優華部隊。零夜に攻撃を届かせるどころか先程から徐々に押され始め、明乃ほどではないにしても苦戦を強いられている。


 リョーコらが押され始めている理由、それは連携にあった。

 ナデシコ自体、出航してから一年程しか経っていない。さらにアカツキやイツキが加わったのはつい最近のこと。いくら能力は最高クラスといっても、部隊の連携まで最高レベルを求められるのはいくらなんでも酷だろう。いろいろな場所からスペシャリストを求めたことの弊害が、いま顕在化したということか。

 逆に優華部隊はナデシコ完成以前にすでにチームを組んでおり、その連携の巧みさはエステ隊の数段上を行く。ナデシコ側でその域に達しているのはリョーコ、ヒカル、イズミのトリオくらいである。

 さらに人数も一人少ないとなれば、こうなることは自明の理だったと言うべきだろう。










「・・・・・・使用可能兵器検索。・・・検索中・・・検索中・・・・・・完了」










「向こうはもう虫の息のようだな。しかしよくぞここまで持ちこたえた物だ」


「気を抜いちゃ駄目よ万葉。まだ横島さんが出てきてない」


 それを聞いた京子は、形のいい眉をひそめる。


「そういえば、なんで横島さんはでてこないのかしら」


「さー? いいじゃない。そのほうが楽だし」


(皆横島さんを買いかぶりすぎなんじゃ・・・)


 その実力は嫌と言うほど知っている零夜だが、なんとなくひねくれた考えが先に立ってしまう。


「百華の言う通りばい。出てこんほうが良かとよ。それよりさっさと決めるばい」


「そうね。いないのなら居ないうちに終わらせたほうが得策ね」


「よし。ならば一気に攻めて何機か墜とすとしよう。いまでギリギリなようだからな。一機居なくなるだけで趨勢が決まる」


 万葉がエステ隊を見据えていった。


「わかったわ。行きましょうか。

 零夜、援護をお願いね」


「うん」


 そして零夜を除く六機が一斉に飛翔する。


「?」


 その時、戦場全体を眺めていた零夜は、一番最初に異変に気付いた。


「!! みんな、散開っ!!」


 その言葉に反応した六機は、言われた通りとっさに散開する。赤と青のエネルギーが螺旋状に絡まりあうという形状のビームが優華部隊が0.5秒前までいた地点を貫いた。


「何者だ!?」


 優華部隊だけでなくエステ隊もが注視したその先には、一体の機動兵器が。






「威嚇射撃・完了。これより・援護に・移行します」





 そして、





「よぉ。久しぶりだなー、北斗」


「忠夫・・・! フ、このときを待っていたぞ!!」


 いままさに明乃を捉えようとしていた北斗の斬撃を間一髪で防いだ横島の第一声は、あまりにものんきな声だった。


「よ、よこしま・・・くん?」


 正直、明乃はこんな状況で、いや、こんな状況だからこそ、少しだけときめいてしまっていた。


「明乃ちゃん・・・勝手に俺のエステに乗ってくなよ〜。おかげでややこしいことになったし」


「あ、えと、すいません・・・」


 ちょっとだけぼーっとしてしまっている。いまなら明乃を切り放題なのだが。例え横島が邪魔しても。


 北斗はちょっとだけイライラした様子で喋る。


「おい忠夫。ここに来たということはまともに戦う気があるということだろうな? なにを明乃とぺちゃくちゃと、」


「いやいやちょっと待てよ。そんな場合じゃないんだって。ほら、あっち見ろよ。団体さんのお着きでございますよ」


「ええ!?」
「何?」


 明乃と北斗は示されたほうを見る。すると確かに、たくさんの数の光点が。


「だからさ〜、」


「・・・だからどうした」


「え?」


「戦いとは戦うと決めた時から始まっている。いつもいつも道場やリングで戦えるわけではない。足場が悪い場所、見通しが悪い場所、邪魔が入る場所。良い条件を引き寄せることもまた武運」


「北斗君、何時からそんな長い台詞を・・・」


「前から言っとるだろうがっ!!」


 あてが外れた。やる気だ。


「だが悪いな北斗。こっちは生き延びることを最優先とするからな。二人掛かりでやらせてもらう!」


「フン、一向に構わん。  だが!!」


 北斗は裂帛の気合と共に手の刀を明乃の方向へ投擲した。


「!!」


 横島はとっさに反応するが、一瞬間に合わず、


「あうっ!!」


 刀は、明乃のエステに突き刺さる。


「明乃ちゃん!?」


「フン、急所は避けたか。しかしもう戦えまい」


 北斗の言う通り、串刺しにされるほどの損傷を負ったエステは、その機動力のほとんどを発揮できない状態に陥っていた。


「う、ごめんなさい・・・このエステでは・・・」


「やべッ!? 2人がかりなら何とかなると思ってたのに!」


「・・・・・・そういうこと言いますか」


「はっはっは、冗談冗談」


 明乃の声があまりにも怖かったので笑ってごまかしておく。


「・・・まあいいですけど。

 では、私は離れておきます。動けないほどではないんですけど、ナデシコまで帰るには時間がかかりそうですから」


 そう言って、明乃は横島からふらふら〜っと離れていく。


「てめぇ北斗コノヤロウ。貴重な戦力・・・ゲフンゲフン! もとい、よくも明乃ちゃんを!」


「どれが本音か良く解らんが、やつが戦力にならなくなったのは忠夫のせいだぞ」


「何を・・・」


「貴様が明乃の緊張の糸を切ったんだ。もっと登場の仕方には気を配るべきだったな」


「・・・」


 そうなのだろうか。横島には良く解らなかった。


「しかし・・・。やっとお前と一対一で戦うことが出来る!

 フ、フフフフフ・・・歓喜で身がはちきれそうよ!! ああ、これ以上焦らしてくれるな・・・!」


『なんかいやらしい台詞ですよねー』


「突っ込まないでやってくれ・・・って言うか聞いてたのかよ明乃ちゃん!!

 ま、それはともかく、お前、ほんっと相変わらずなのな」


「フン」


 北斗は、それ以上の問答は不要であるとばかりに、再び二刀流で突っ込んできた。


「!!」


『剣』


 横島はとっさに文珠の「剣」と霊波刀の二刀流で北斗の斬撃を防ぐ。速い。


「!? 貴様、あらかじめ文珠を握りこんでいたのか!?」


 北斗は文珠の弱点の一つである、「発動するまでのタイムラグ」を突き、速攻を仕掛けたのだ。イメージ〜発動までの流れをいくらスムーズに行なったとしても、自己強化系の効果以外では、機動兵器に塔乗している限り文珠を外に出さなければならないはずである。


「いいや違うね。この機体は特性のほとんどを発揮できない状態にあるが、一つだけ残っている特性がある。

 それは、「文珠を機体の掌の上に直接喚び出せる」!!」


「な、なんだと!?」


 横島がコンメリアを選んだ理由はこれだった。多数の無人兵器が相手では、武装の多いノーマルエステの方が良い。しかし、強敵との一対一では、絶大な威力&汎用性を持つ文珠を素早く喚び出せることは大きなアドバンテージとなる。


(しかも、特性のほとんどを発揮できない状態だと?)


 北斗はぶるりと体を震わせた。言うまでも無く嬉しいからである。


「フン、だが文珠にはまだ個数制限があるという弱点があるだろう。貴様の力が尽きるのが先か、俺が競り負けるのが先か。

 ・・・試してみるか!!」


「やっぱり楽に行かせてはくれないんスね・・・」


 横島はげんなりしつつも身構える。そして思う。





(あれ? そろそろ無人兵器の第一波が到着する頃だと思ってたけど・・・?)





 ――――――――――





 場面は変わって、エステ隊。


「ビットミサイル・・・一号射出・二号射出・三・四・五号射出」


 合計五発発射されたミサイルは前衛の神皇めがけ、それでいて死角を狙って突き進む。


『くっ!?』


 それでいてラピッドライフルによる牽制も忘れない。ビットミサイルを五発操りながら戦闘を行なう。アンドロイドのマリアだからこそ出来る芸当だ。


 ゴスペリオンは人一人分のスペースしか空いていない。だが逆に言えば人一人分のスペースは確保できると言うこと。そこでマリアは、自らをアサルトピットの役目を果たすことができるのではないかと考え、急遽カオスに改造してもらった結果がこれである。


「おっおっ、余裕が見えてきたな!」


「よし、この機を逃すな!」


 零夜がビットミサイルの迎撃に躍起になっているのを機に、再びエステ隊は猛攻を仕掛ける。


「マリアは!?」


「申し訳・ありません・さすがに・機体と・ミサイルを・同時に操りながらでは・牽制程度の・行動しか・できません・足手まといに・なります」


「ちッ! しゃーねーか。

 おい、ここで俺らが決めねーと無駄飯食らいの烙印押されちまうぞ!!」


「よか・・・あたしの本気、見せたると!」


 リョーコと三姫がお互いを敵と見定める。ちなみに、お互いの台詞は通信をつないでいないので聞こえていない。


「ここが踏ん張りどころだね」


「さっ、零夜ちゃんにばかり負担はかけられませんからね!」


 ヒカルに相対するのは、竜神皇の百華。


「ま、真面目にやるしかないか。落ち目にならないようにね」


「横島君以外にも興味深い人たちが多そうね・・・。やる気出てきたわ!」


 イズミ(&微妙なギャグ)と飛厘がお互いの隙をうかがいあう。


「へっ、ここで決めるのがヒーローってもんさぁ!! 新兵器でピンチを脱出したんだ。ならこれで勝利になだれ込むのが王道ってもんだろ!?」


「・・・君ねぇ」


 相変わらずのガイと、そんなガイに溜息をつくアカツキ。


「千沙。私はあの紺色をやる。あの無謀さでまだ十分余力を残している。それなりに楽しめそうだ」


「じゃあ私はそのとなりか。って言うか、一気に不利になったのになんでそんなに皆乗り気でタイマンやる気になるかなぁ」


 自分と同じタイプであるガイに狙いを定める万葉。ぼやきつつアカツキと向き合う千沙。


「横島君たちが心配です。まだ無人兵器群が来るんですから、出来ればここで決めたいですね」


「条件はやや不利・・・。でも、そう簡単にはやらせません!!」


 イツキと京子が、油断無く敵を見据える。


 そしてイツキはロンギコルニスを構えつつ、ふと思った。





「・・・あれ。もう無人兵器の第一波は到着してもおかしくない頃合だけど・・・?」





 横島とほぼ同時に、そう思った。





 ――――――――――





「ふーむ。おっかしいわねー」


「何がですか? 舞歌様」


 ここは木連戦艦、「ふみひろづき」。戦場の遙か後方に位置し、戦場の様子を眺めるのみである。やる気は有るのだろうか。

 訝しげな様子の舞歌に、オペレーターが声をかける。

 当然ながら、戦艦には優華部隊以外のクルーも存在する(それでも準優華部隊と言うべき立場なのだが)。


「さっき接近してきた無人兵器群よ。来たら来たで頭が痛いけど、来ないってのもおかしいでしょ」


「そうですね」


 そうオペレーターが頷いた時、


「え!?」


 他のクルーが驚きの声を上げた。


「何、どうしたの」


「いえ、ちょっと無人兵器について不審に思いさっきから注意してみてたのですが、急に爆発したんです」


「爆発? 急に?」


「はい・・・あ、また爆発」


「ってこれ、砲撃ですよ!!」


「なんですって!?」


 ブリッジを緊張が包む。砲撃とは穏やかでない事態だ。


「細いから気が付きませんでしたが、どうやらビームのようです! 発射元は・・・

 な、ナデシコ!?」


「ええ!? 冗談じゃないわよ、むこうとこっちどれだけ離れてると思ってんの!? 戦艦出力の重力波砲でも無理よ!」


「冗談じゃないみたいです。超長距離射撃、しかも無人兵器のみをほぼ正確に打ち抜いてます・・・」


 報告の声も、驚きよりも呆然とした色を多く含んでいる。


「うそでしょ・・・」










「ふむぅ、これは予想外になかなかの兵器ですね。いい仕事してます」


『ちょっと、そこで勝手に出撃してる人は誰ですか!? しかもコマンダーフレームじゃないですかそれ!』


「あ、艦長、私です」


『はい!? メグちゃん!!』


 ナデシコのブリッジも騒然となる。単なる・・・とは口が裂けてもいえないが、一応通信士だったはず。


『メグミさん、どこに行ったと思ったら』


『メグちゃん、一体何を・・・』


「何って、露払いですよ。とりあえず第一波は全滅させました。横槍は無粋極まりないですからね」


『おいおい、ここから向こうまで一体どんだけ離れてると思ってんだよ!?』


 ウリバタケも割り込んでくる。メグミは涼しい顔で、


「ああウリバタケさんですか。このフレームの照準装置は実に優れていますね。おかげで百発百中です」


『いや、確かに自信作だけどよぅ・・・いくらなんでもなぁ・・・』


『ルリちゃん、本当?』


『はい・・・確かに命中率100%です』


『に、人間業じゃない・・・』


「人間が行なう以上、どんな行為も人間業ですよ。マニュアル操作もまた然り・・・よっと」


 最後の掛け声は、ハッチ付近から甲板の上に上って腰を落としたときの声である。


『あ、そういえばメグちゃんて・・・』


『ハイ。IFSは所持しておりません』


『んな・・・・・・・・・・!?』


 ブリッジの人間が絶句する様子が手にとるようにわかる。メグミは苦笑し、


「昔取った杵柄ですよ。昔は誰だってマニュアル操作です」


 そのままピスバーを構え、



 ビシュン! ビシュン! ビシュン! ビシュン! ビシュン! ビシュン! ビシュン!



 乱射乱射乱射。そして無造作にも見えるその射撃は、遙か彼方で確実に無人兵器を撃墜していく。


『何をやってるのよ!? どうせならあの神皇シリーズとやらを落とせばいいじゃない!』


「ええ、でも横島さんのお知り合いですしねー。あ、それと、出力上の関係で無人兵器でも戦艦タイプは落とせませんのであしからず」


『何を悠長な!』


 エリナの怒声が聞こえるがこれ以上は聞き流し、


(あとは横島さんとリョーコさん達次第)


 だが、


(でもちょっとだけ分が悪いかもしれませんねー)


 でもどこかのんびりと観戦モードのメグミだった。


 勿論、射撃は続けつつ。





 ――――――――――





「んなろっ!!」



 ガウンッ!! ガウンッ!!


 
 文珠『銃』で作り出した拳銃を連続で発射する横島。


「ぬっ!」


 しかし北斗は弾きかわし、一発たりとも受けてくれない。


 文珠『銃』は六発発射した時点で消滅した。


「畜生〜!」


 思わず悪態をつく横島。

 横島VS北斗は、明乃ほど激しく打ち合う展開にはなっていない。横島は回避に重点を置き、隙を突いて攻撃を加えるという方法を採っていた。


「クッ! こうも攻撃があたらんとはな!」


「なわっ!」


 北斗の斬撃を危なっかしく回避した横島は、そのまま霊波刀を振るう。しかし掠っただけだ。


 攻撃がお互いあたらない分、先程の明乃の戦い以上に決着は遠い気もする。

 しかし横島には文珠という切り札がまだ存在する。このままで行くと横島が有利と誰もが思うだろう。





「やはり本気を出さずに勝とうとはムシが良すぎたか」


「え!?」





 切り札は、先に北斗がきった。





「忠夫! これが俺の力だ!!!」


「!!?」


 どくん、と横島の心臓が波打った。





「うおおおおおおおっ!!!」





 北斗の発する威圧感が急速に膨れ上がる。


 それ錯覚か。北斗の鬼神皇の周囲を、赤く輝くオーラが取り巻いているように見える。


 言葉でその色を表すならば、朱金というべきか。


「こいつは・・・」


 コイツは錯覚などではない。正真正銘、北斗が放つオーラだ。どんな物かはさっぱりだが、強力であることははっきりと感じ取れる。





 だが。





「北斗君。一つ訊いていいか?」


「何だ」


「それが強力な物だってのは、解る。でもな、

 自分自身を強化しても機動兵器に乗ってたら意味無いんじゃねーの?」


「え」


 鬼神皇は突然ぶんぶん腕を振ったり腰を回したり珍妙な動きをし始めた。


「・・・・・・・・・」





 間。





「フン、鬼神皇も同時に強化されているに決まっている。俺が何の意味も無く大道芸じみたことをするわけないだろうが?」


「いや、お前さっき『え』って言ったしな。機能を確かめたりとか」


「違う。あれは『絵』だ。そして機能を確かめていたわけではなくコリを取ってたんだ! 昨日布団で寝なかったから!」


 さっぱり訳がわからない。


「お前、いきあたりばったりな」


「違うと言っとるだろうがっ!!」


 怒声と同時に二刀を構える北斗。


「さあ忠夫! 俺をがっかりさせるなよ!?」


「成功してよかったな。北斗君」


「その話題から離れろっ!!」


 叫び、対時空歪曲刀を今までを上回る速度で振るう。


「くっ!」


 横島はとっさに手に持つ文珠『剣』で防ごうとするが、



 バキィンッ!



「な!?」


 文珠『剣』は、朱金のオーラに包まれた刀にあっけなく砕かれた。


「ま、マジで・・・?」


 横島は動揺する。普通の人間に、発動中の文珠をこうも簡単に壊されたのは初めてのことだから。


『横島くん!! よけてーーーッ!!』


「!」


 体が動いたのはほとんど無意識。紙一重でかわせたのは強運。実際は明乃のおかげなのだが。


「ちっ! 今のを回避するか!!」


 舌打ちするのも無理は無い。先ほどよりはるかに上回る斬撃スピードだったのだが。


「畜生!」



『速』



 文珠を発動させて距離を取り、



『長』『剣』
『長』『剣』



 剣を二本取り出す。合計五つの文珠を発動させていることになる。こうでもしなければ北斗の猛攻を防ぎきれない。が、五文字同時使用ではないものの、五個の文珠を一度に失ったのは痛い。


 ちなみに、長剣にさほどの意味は無い。二つ以上の文珠を使って剣を作ることが重要だったからである。別に大剣でも細剣でも良かった。とにかく昴氣ブレード(仮)を防ぎ、なおかつ威力の高い物を作らねばならない。


「そうだ。せめてそのくらいの大盤振る舞いはしてくれんとな!!」


 北斗は嬉し楽しい声を上げる。


「俺は全然楽しくねー・・・」


 横島は呟くが、それで事態が好転するはずも無かった。


 そんなことより、





 ざわ





 横島の胸中は、静かにざわめいていた。










「ああ、横島くん・・・」


 明乃はもどかしげな様子だ。しかし現状のエステでは足手まといにしかならない。


 使える物が無いか辺りを見回す。あるのはさっき自分から抜いた鬼神皇の対時空歪曲刀くらい。さらに見回すと、


「あ、あれ・・・」


 少し離れた場所で浮遊している赤い機動兵器。


 ヘリアンサスだ。


 明乃は壊れたエステでへろへろ近寄り、


「提督!」


「? なんだ、テンカワ。

 邪魔しないでよいま隙をうかがってるんだから」


「はい? いえ、それより今すぐヘリアンサスから降りてください! 加勢しなくちゃ!」


「はぁ!? 何言ってンのよ! こいつだって動力やられてンだから大差ないわよ」


「ヘリアンサスの扱いには慣れてます! レールガンが有るだけで大分違いますよ」


 明乃は食い下がるが、ムネタケは降りようとしない。


「あのね! パイロットスーツ着てないから外に出たら死んじゃうでしょうが!?」


「どうせ死ぬカクゴで出撃したんでしょう!」


「人間、余裕が出来たら欲が出るモンなのよ!!」


 2人とも焦っているのか、なかなか過激な発言が飛び交う。


 なんにせよ、ブリッジの連中に会話(?)を聞かれていなくて幸いだったというべきだろう。










 一方その頃、エステ隊。


 ビットミサイルで優華部隊の要(かなめ)、零夜を封じ込めていたマリア。しかし、


「残弾・・・エンプティ」


 零夜についに全弾打ち落とされた。弾切れである。


「ドクター・カオス・他に何か・有効な・武装は」


 自ら検索するのは隙が出来る。


『ならばさっきのあれを使え! ほれ、ゴスぺリオンの掌に穴があいとるじゃろ? そこからそれぞれ性質の違う高出力エネルギーを放出、絡み合わせて威力を向上させるおなじみ兵器! その名も・・・!』


「プリキュア・マーブルスクリュー?」


 通信先でなにかがずっこける音が聞こえた。


「ドクター・カオス?」


『ってどこで憶えたそんなもん! それはクロスマッシャー!』


「ぶっちゃけ・すぎましたか」


『ありえないってやつじゃろ』


「・・・イエス・ドクター・カオス」


 いつも通り平坦な声だが、どこか残念そうな気もする。気のせいか。


(その間はなんなんじゃ・・・)


 内心はともかく、両手をかめはめ波のように組み合わせる。


「・・・クロスマッシャー・“マリア・ブレス”」


 謎の単語を追加し、クロスマッシャーを発射する。だが、


「危ないっと」


 光神皇はあっさりと回避。


「・・・」


 マリアは毛ほどの動揺も見せず、ラピッドライフルを斉射。


 しかし、その悉くが掠りもしない。


「もらった!」


 光神皇は接近戦を仕掛けようと突進をかけてきた。


「・・・!」


 マリアもイミディエットナイフ(CFランサーは搭載されていない)で迎え撃とうとする。しかし・・・。










「・・・これで決まりじゃな」


 カオスが見ている映像では、明らかにマリアが劣勢を強いられている。その実力差は歴然だ。


「おい、なんでだ? マリアちゃんの頭脳は人間とはけた違いなはずだろ?」


 同じ映像を見ていたウリバタケが疑問の声を上げる。


「そりゃそうじゃ。ビットミサイルを操りながらでも機動戦をこなせることから、その演算能力は破格の性能を持っておる。もちろん、普通のパイロットなんぞ軽く蹴散らせる技術もある」


「だったらなんでなんだ?」


「ま、そこがアンドロイドには決して超えられん壁ってやつじゃな・・・。さっきも言った通り、マリアには高い演算能力、情報処理能力、戦闘技術、そして一応感情ももっておる。

 だがしかし、人間がたまに発するひらめき、気まぐれと言ったいまだに現代科学で上手く説明できんもの・・・。それがマリアは極端に苦手でな。わしの研究課題でもあるが」










 マリアの一撃はやはりあたらない。


(なんでだろう。なんでかわからないけど・・・その動きが卓越してることもわかるけど・・・それでも全部見える!!)


 実際はもっと勝負になるはずである。だが、木連の人間は生まれた時から、日常生活レベルで無人機と関わっていたため、動きが読みやすいのかもしれない。










「・・・ま、そういうことじゃな」


 カオスは溜息をついた。


「・・・やべぇじゃねーか」


 そんなことは全員わかっていたので、その声に答える者は居なかった。





 ――――――――――





「そろそろ無理が出てきましたね・・・」


 メグミは射撃を実行しつつ呟いた。

 横島らの戦況ではなく、敵無人兵器がもう戦艦タイプくらいしか残ってないことがである。とてもではないが、ピスバーの出力ではその進行を止めることは出来ない。


(って言うか、さすがは指揮官フレームですね。索敵範囲がやたらと広い上に通信距離も長いようです)


 そして、その優秀なレーダーを元に敵艦の進行方向を算出。


「む、これは・・・」


 メグミは顎に手を当てて数秒ほど考え込み、


「一応皆さん・・・いえ、横島さんに知らせときましょう」










「マジで!?」


 横島はいったん北斗から距離を取る。

 文珠の効果が消えていないうちは、北斗の攻撃も捌ききることは十分可能だ。





 ざわ・・・ざわ・・・





 胸中のざわめきは強くなっているが、強引に無視する。


『ええ。残念ですがもう止めきれそうに有りません』


「何処に来るんかなー。俺んとこだったら困るなぁ」


『横島さんもちょっと危ないですが・・・』


 メグミはちょっと言いよどみ、


『テンカワさんとムネタケ提督がもっと危ないです』


「っ!?」


 その言葉が終わらないうちに、横島は機体を反転させてバーニアを全開にする。


 もちろん、北斗が黙っているわけが無かった。


「待て忠夫! 逃がすと思ってるのか!?」


「後にしてくれ! 明乃ちゃんが危ねーんだよっ!!」


「なっ」


 北斗は一瞬ぽかんとした顔をし、すぐさま怒気をみなぎらせる。


「何を言っている!? いまは俺だけを見ていればいいんだ!! 俺を満たすことが出来るのは忠夫だけなんだぞ!?

 俺はまだ燃え尽きていない!!」


「だからっ! 嫌だけどどうしてもって言うんなら後で戦うから! 戦うことは後でも出来るが明乃ちゃんはいま助けないと死んじまうだろ!?」


 しかし、北斗はもどかしげに顔を横に振り、なおも納得しない。


「違う!! お前は何も解っちゃいない!! 明乃なんぞ放っておけ! いまこの瞬間、この充実感の前であれば何もかもが塵芥でしかない!

 いや、それさえもどうでもいいことだ! お前が他人を気にすると・・・たまらなくイライラするんだっ!!」



 ざわ・・・ざわ・・・ざわ・・・ざわ・・・・・・。



 またも胸中でなにかがざわめく。だんだんと大きくなっている気がする。





 いや、横島には、それがなんなのかをうすうす気付き始めていた。





 だがそれさえも強引に無視し、


「くそっ、王蛇かてめーは!!」


 全力で逃げる横島。ようやく明乃らが肉眼で確認できるようになった。


 それと同時に、明乃らに照準を定めようとしている五体の無人艦。


「たああだおおおおおおぉぉおっ!!」


 絶叫しつつ北斗が激流の如く突き進む。


 その感情の高ぶりに共鳴するかのように、朱金のオーラはさらに激しく立ち昇る。


 それを推進力に変え、さらに速度を増してきた。


「おい! そんなんじゃすぐに力を使い果たすぞ!?」


「それまでに貴様を倒す!!」



 ざわざわざわざわざわざわ



「・・・いや、その力でも絶対お前は勝てない。だからやめとけ」


 横島は、その力を抑えることをやめようとしていた。


「むしろ望むところだ!! その力を俺は越える!! 越えて腑抜けた目を覚まさせる!!!」


「おいおい、目的変わってねーか? 俺を倒すんじゃなかったんかい」


 その言葉を言い終わった頃だろうか。


 無人艦が明乃らに向けてグラビティブラストを発射する。


 エネルギー到達前に横島が明乃らの下へ到達し、すぐ反転し背中にかばう。


 北斗が刀を振り下ろす。エネルギーが到達する―――――!





 そのほんの一瞬前、





「んじゃ、やるからな」










「よ、横島さん!?」


 メグミが、びくりと体を強張らせる。珍しく狼狽した声。


 彼女に霊力はほとんど無いが、確かに感じ取れた。


「気配が・・・変わった・・・?」










「これは・・・」


「何!? この感じ・・・」


「忠夫・・・」


 ブリッジではプロスとミナトとモモがなにかの変化を感じ取る。


 ブリッジのほとんどはエステ隊のほうに注目していたため、他に誰も気が付いていない。


 「何か」を感じ取れたプロスとミナト、横島だけを見ていたモモだけが気付いた。


(横島さん・・・「彼女」が叩き起こされたということですかな?)










「・・・!?」


 イズミが射撃の手を一瞬とめてしまう。


「イズミ!! なに手ぇ休めてやがる!!」


「・・・悪いわね」


 一瞬の途切れは、幸い致命的なミスとはならなかった。


(・・・・・・横島君?)


後編へ続く