※このSS内では、セッテ、オットー、ディードは原作より早く調整が終了し、すでに活動しています。
 実戦はまだ未経験。



代理人注:ナンバーズの外見についてはこれらを参照されたし。

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「横島の馬鹿はどこだぁっ!!」


 その日もスカリエッティのラボに怒声が響き渡った。
 それが聞こえた面々は、すぐに横島がまた何かしでかしたと察した。

 ある者は、不快気に眉を潜ませ、
 ある者は、我関せずとすぐに思考を切り替え、
 ある者は、深々とため息をつき、
 ある者は、愉快そうに笑った。


 ため息をついた者の一人のウーノは、ずいぶんここも騒がしくなったものだ、
 と横島が騒ぎを起こすことが日常になりつつあることに微妙な表情を浮かべた。








GS横島 ナデシコ大作戦!!
分岐IF、リリカルなのは編


前編

















 スカリエッティの研究所に泊まりがけで訪れていたゼストは、横島とルーテシアらを引き合わせた。
 彼女とは比較的すぐに仲良くなる事ができた。
 横島は子どもと仲良くなる事が上手いし、ガリューを見ても、「うぉ! かっけぇ!!」と怖がるどころか目を輝かせた。
 それがかなりの好印象になったようだ。


 アギトともすぐに打ち解けた。
 恩のあるゼストとルーテシアが心を許すのを見て、信用できると判断したからだ。

 だが、横島とナンバーズが出会った瞬間、アギトの横島への評価は暴落する。なぜ暴落したかは……言わずが花。

 
 この研究所に定住しているわけではないゼスト一行は、後ろ髪を引かれる思いだった。
 横島が一緒に来ないと知り、ルーテシアはあからさまに落胆していたし、
 横島の評価を下げたアギトも、つまらなそうな表情だ。

 見送りに来た横島が、脳天気に手を振るのを見て、思う。
 命の心配ももちろん、管理局員に見つかれば犯罪者の一味として扱われることは免れない。
 横島に大きく何度も手を振るルーテシアを見て、殊更強く思うのであった。









 そんな心配が全くの杞憂に終わる事は言うまでもない。









「今日はトーレ姉が叫んでるっすねぇ」


 愉快そうに笑った一人、ウェンディが、後ろで纏めた赤い髪を揺らしながら言った。


「……また覗きぃ?」


 不快気に眉を潜ませ一人、髪を両サイドでくくってメガネをかけた女性、クアットロは、半眼で呟いた。
 いつもは笑っていることが多い人物だが、今は非常に不機嫌そうである。


「……覗いたとは限らないのでは? 何度かは冤罪だっただろう」


 愉快でも不快でもなさそうに、銀髪に眼帯の少女、チンクがフォローするかのように言った。


「…………」


 我関せずと思考を切り替えた一人、十人中六〜七人は少年と間違えるほどに中性的な少女、オットーは特に意見は無いようだった。


「確かに冤罪もあったさ。でも、実際その何倍も覗きをしてるじゃないか」


 ショートカットの赤髪の少女、ノーヴェは腕組みをしつつ言った。
 苛立たしげな表情だが、別に横島の件は無くてもいつもそんな感じである。


「確かに、私たちに隙が多かったのは認めるけど……」


 ダークブラウンの長髪の少女、ディードが難しい顔で言った。


 実際そうである。
 男性にしろ、女性にしろ、同性が共同生活を行う場では、自分の身なりなど殆ど気にしなくなるものである。
 もっとも、身なりに限れば彼女らは殆どの場合ボディスーツを纏っているので問題ないが、それ以外では実に無防備であった。
 というか、そのボディスーツ自体、ボディラインが丸分かりな代物で実に扇情的である。

 未来での大冒険を経て結構落ち着きが増した横島だが、そんな場所に放り込まれたら、理性を失うのは美神を怒らせるより容易い。


「だからって、覗きをしていい理由にゃならねーでしょ」


 水色の髪を持つ少女、セインが、手をひらひらさせながら言う。実に正論である。


「……ドクターが彼の存在を認めてる。だったら私たちで気をつけるしかない」


 茶髪を後ろで細く括っている少女、ディエチが言った。


「私も同意見」


 薄紫の長髪の少女、セッテが無表情のままで言った。


「結局はそこに落ち着くんだよなぁ」


 セインが、頭の後ろで手を組み、椅子の上で大きく仰け反る。
 自分たちで気を付ける一環として、ウーノとトーレ以外のナンバーズは、作戦中、訓練中、待機中以外は普通の服を着ている。
 普通の服で接するなら、横島はただのちょっと助平で気さくな兄ちゃんである。

 ちなみに、ウーノは戦闘が得意でない為、普段はボディスーツを着ない。
 トーレは、なぜか頑なに普段着を拒んでいる。デバイスどころか護身道具の一つも持たず、低ランク魔導士ですらない横島のために、
 普通の服という「無駄」を受け入れるのは彼女には難しいのかもしれない。
 単に、それで普通の服を着だしたら、なんとなく負けた気分になるからかもしれない。


「て言うかトーレ姉って、あれで結構、忠夫からセクハラ受けて喜んでるんじゃないっスか?」


 二ヒヒ笑いをするウェンディに、セインもつられて笑うも、ウェンディの後ろを見て、笑みを引きつらせた。


「?」


「誰が、何をされて、喜んでいるって……?」


「ひぃ! トーレ姉!?」


 うっすらと汗を掻いたトーレが、休憩室に入ってきた。その背丈は、他の姉妹より頭一つ分高い。
 濃い紫の短い髪からは時折り汗が滴り落ちていた。


「け、結局忠夫は逃がしたんスか?」


「いや……」


 誤魔化すように訪ねてくるウェンディに、トーレはかぶりを振った。


「今回は冤罪だったようだ。どうも最近、奴の行動に過敏になりすぎていかん」


「ま、のぞきは兎も角、視姦されるのは自業自得というか」


 セインの軽口にじろりと睨むが、自覚があるのか直ぐに視線を戻す。
 トーレは、(戦闘機人だが)鍛え上げた肉体と、それに相反する豊満な肉体を持っている。
 普段から服装を変えない彼女は、必然的に横島のリビドーを暴走させる原因になりやすかった。
 彼女が高い戦闘能力を備えているのも、おかしな言い方だが安心してセクハラを敢行出来る原因の一つだろう。

 そもそも、メタな発言で申し訳ないが、横島は原作でも美神相手にしかそれほど覗きをしていない。
 銭湯の覗き等に手馴れていた感はあったが、実際はそんなに描写は多くない。
 セクハラも同様で、見知った強い女性ならともかく、いくら超美人と遭遇しても、即座にルパンダイブなどしない。するときはするが。
 彼女らは、今まで出会ったことのないタイプの人間である横島の最初の行動のインパクトに些か囚われている感がある。
 
 もっとも、それもだいぶ薄れてきたのだが。


「トーレ姉様、もう半ばトラウマになってませんか……?」


「トラウマになっても仕方ないっスけど……」


「……」


 休憩所の姉妹は、話題の中心となった横島のことを、ぽつりぽつりと話し始めた。
 以下はその一例である。





 ケース@:トーレの場合。


「はぁ、はぁ、何故だ? 何故こうも何度も逃げられる……」


 トーレは、ナンバーズの3番目であり、上の二人は基本的に前線に出ないため、現場における実質的な姉妹のリーダーである。
 当然ながら戦闘能力は高く、公私共々妹達を引っ張る頼れる姉である。
 ……のだが。


(横島……奴は一体何なんだ? ただの生身の一般人でないはないのか? もう結構全力で追跡しているというのに……)


 ダミーにデコイは当たり前。どこから調達したのかトリモチのようなしょうもない罠まで駆使する。

 彼女的に、むしろ実力を隠したプロの戦闘者であって欲しいとすら思った。
 でないと、一般人すら追い詰められない自分は何なの? ということになってしまう。


「あ、ディエチ。おっす」


「ん」


 横島が、逃亡しつつも通りかかったディエチに片手を上げて挨拶し、ディエチも片手を上げて応じた。


 イラッ。


 他者への挨拶を片手間に行えるほど、自分の追跡がぬるいと言うのか?
 イラついてしまったトーレは、つい足元への注意が疎かになった。


 がくん。


「!?」


 落とし穴。横島の得意技、平安京エイリアンの術である。

 穴など掘りようもない硬質の床に落とし穴。この異常事態に、トーレも一瞬反応が遅れた。


 地面ならまだしも、まさか見知った廊下に落とし穴があるとは誰も考えない。
 成る程、そんな思い込みによる思考の裏にこそ罠を仕掛けたか。


 面白い。


「ライドインパルス!」


 落とし穴に落ち切る前に、トーレは咄嗟に自身のIS、ライドインパルスを咄嗟に発動させた。


 ※IS(インヒューレントスキル):ナンバーズが有する、魔力以外の力を原動力とした特殊技能の総称。インフィ○ット・ストラトスではない。


 トーレのIS、ライドインパルスは、高速移動に特化した身体強化系の能力である。
 トーレの両大腿部と踝の部分に備えられた装甲から、虫状の羽が伸びた。


 ISを発動させたトーレは、一気に横島に肉薄する。
 さすがに殺す気はないので、びっくりしているディエチを尻目に、それなりの手加減をした拳を振りかぶった。


 がくん。


「なっ」


 トーレは、踏み込んだ足の下にまるで手応えを感じず大きくバランスを崩した。
 まさかの落し穴二個目。攻撃に移る際にスピードが落ちていたトーレは、今度こそ落とし穴に落下する。


「ワイのトラップは、隙の生じぬ二段構えじゃあーーーーーっ! っておわぁ!?」


 落し穴の前で勝ち誇る横島の足首を、落下しきらず踏ん張ったトーレが掴んだ。


「ようやく捉えたぞ……! 貴様も道連れだ!」


「だー!」


 二人は、仲良く落下して、その結果、


「貴様、どこを触っている! 早くどけ!!」


「てめーが引っ張り込んだんやろ! 確かに役得やけど流石に不可抗力やー!」


 トーレが引っ張り込んだことにより、当然トーレは横島の下敷きになる。
 さらに胸が横島の背中に密着し、それに気付いた二人が変に暴れたため、もう何が何やらわからない。
 ちなみに今回ばかりは、横島は自発的にセクハラをしていたわけではないと明記しておく。


「インパルスブレード!」


「んぎゃあ!!?」


 業を煮やしたトーレは、咄嗟にエネルギー翼で横島を穴の外に吹き飛ばす。
 そして気付く。やばい、殺したかもしれない。


 急いで穴の外に出たトーレが見たものは、


「あー、死ぬかと思った……」


 何事もなかったかのように体を起こす横島だった。




「…………」




 トーレは、しばし呆然とした。

 戦闘機人である自分が、生身の人間の追跡に手こずり、
 ISを使用するも結局罠にはまり、
 手加減を忘れた攻撃にもけろりとされた。


 それらの事実が頭に浸透したとき、自然とorzと床に手を付いていた……。





「今までの鍛錬とか努力とかは一体なんだったんだ……」





※廊下で見ていたディエチのコメント
「気の毒すぎてコメントできない……」





 ケースA:クアットロの場合。


 実を言うと、クアットロは当初横島を特別嫌ってはいなかった。
 来た当初は覗きセクハラも多かったが、最近は落ち着いているし、
 自分たちが客観的事実として魅力的だからある程度はしょうがないことだと、一定の理解すら示していた。
 実際は別に横島などどうでもよかった、というのが正直なところだが。 

 
 そんなある日。


(風呂場に覗き防止用のトラップを作れ、ねぇ……)


 正直、姉妹が横島にどんなことをされようがどうでもよかったが、
 現在ちょうど暇であったし、自身の腕を見込まれて頼られるのは悪い気分ではない。

 覗きは褒められた行為でないのは確かだし、ちょっとお灸を据えてやるか、と軽い気持ちでトラップを設置した。


 が。


「クア姉ー! 全然トラップ意味なかったじゃないっスかー!」


 ウェンディその他がクアットロに苦情を言いに来たのは、次の日のことだった。


「え? そんなはずないわぁ。テストもしたし、ドクターからもお墨付き貰えるくらい強力なトラップだったはずよぉ」


「どこがだよクア姉! せっかくあいつを気にせずゆっくり入れると思ったのにさあ」


 不満を口にするノーヴェにウェンディもうんうんと頷く。


「てゆーか、最近覗きも少なくなってきたのに、ノーヴェとウェンディが無駄に挑発したのがいけなかったんじゃねーの?」


 具体的には、クア姉お手製のトラップがあるから、もう覗きなんて無理だよ! といった感じで横島を煽ったらしい。


「んだよセイン! あたしとウェンディが悪いってのか?」


「そう言われてるんスよ」


「な、な……」


 クアットロは正直ショックであった。あの一般人にしか見えない男が、自分のトラップなど歯牙にもかけなかったというのだ。

 さらに、


「やはり効果はなかったか。時間をずらして正解だったな」


 予想通りとトーレは嘯く。そして、セッテとディードもトーレの言葉にうんうんと頷いた。


「ぐ……」


 クアットロはプライドを大いに傷つけられた。
 罠突破もそうだが、トーレらには最初から失敗するであろうと見られていたのである。
 実際失敗したわけだが。


(やってくれるわねぇ……あの男ぉ……)





「ねぇ、横島ぁ?」


「はい? なんっスか、クアットロさん」


「悪いんだけどぉ、手が空いたらでいいから、お風呂の掃除をお願いしてもいいかしらぁ?」


 横島は、ここでも雑用を仰せつかせられていた。


「いいっスけど」


 横島は、特に疑いもせず風呂場に向かった。


(フフフ! 今日のトラップはさらに強力よぉ。手加減なんかしてやらないんだからぁ。
もしかしたら死ぬかもしれないけど……。まあドクターならなんだかんだで許してくれるでしょ。
生き残ってたら、これを機に上下関係を叩き込んでやるわぁ。ついでに治療もしてあげないこともないけどぉ)


 クアットロは、覗き防止という当初の目的も忘れ、ようやく溜飲を下げて鼻歌を歌いながら立ち去った。


 一時間後。


「よ、横島ぁ!?」


「どうしたークア姉」


 クアットロが遭遇したのは、楽しそうにおしゃべりする横島とセインであった。


「あ、クアットロさん。風呂掃除終わりましたよ」


「だ、大丈夫だったのぉ?」


「へ?」


「トラップよぉ! 今回のは下手したら死ぬくらい気合を入れたのに……」


 いきなりトラップのことをばらすのは自分でもどうかと思ったが、それ以上に無傷なのが看過できない。


 しかし横島はしばらくキョトンとしたあと、数秒考えてから、言った。




「下手したら死ぬって……あれで?」


「……………………」









 横島の悪気ゼロの発言に、クアットロは二日ほど部屋から出てこなかったそうな。





※ウェンディのコメント
「クア姉にそんな繊細な神経があったんスね……ってあいたっ! クア姉、痛いっス!」





 ケースB:オットーの場合。


 その日、オットーは仲の良いディードと共に訓練をし、軽く汗を流して着替えていたところであった。


「〜♪」


 オットーが上半身裸になった、その時であった。
 横島が鼻歌を歌いつつ部屋に入ってきたのである。
 これは流石に彼女らが悪い。扉が空いていてはノックもできない。
 今までの女所帯の影響が抜けきっていないのだろう。


「っ!」
「……」


 ディードは咄嗟にタオルで胸を隠したが、オットーは隠しもせず入ってきた横島を横目で見ただけであった。


「え」


 掃除用具を担ぎながら入ってきた横島は、当然中の二人に気づき、固まった。
 オットーは眠そうな目でこちらを見るだけだ。
 それにしても、普段は少年にも見える彼女だが、こんな状況では女性を感じずにはいられない。


 そして、こんな状況では当然鼻の下を伸ばすだろうと思われたが、そうはならなかった。
 横島は、セクハラするにも(基本的には)相手を選ぶ。おキヌちゃんのような清純派はもちろん、
 オットーのような、無反応で見られるがままな少女も罪悪感が働くのである。


 マシにはなったが、やはり自衛してくれる女性こそセクハラに及びやすい傾向は変わっていないようだ。


「す、すんまへーん!」


 横島は、脱兎の勢いで部屋から走り去った。


「……」
「……」


 そんな横島の内心など知らない二人は、暫くそのまま立ち尽くしていたが、


「ねえ、ディード」


「な、何?」


「僕の体って、どこか変なのかな」


「え、ええ!?」


 ちょっとだけ眉根を寄せて、自分の薄い胸をぺたぺた触るオットーに、
 ディードは驚きのあまり胸を隠していたタオルを床に落としてしまった。





※トーレのコメント。
「読み切れん奴だな……」





 ケースC:チンクの場合。


 そもそも、忠夫はあれで結構紳士だと思うのだ。姉は。(※チンクの一人称は「姉」もしくは「私」)
 何故? そうだな、例えば、忠夫は、我々に不埒な行いを行う事が多かった。
 だが、あれは意図的に、わざと行っているに違いない! 
 ……まぁ、うん。確かにお前たちの言うように生来の気質も多分に含まれているだろが……。

 しかし、結局は深い所まで行わずに、その前にわざと見つかり、または捕まり、制裁を受けているのだ。
 意図的に道化を演じる事で、場の雰囲気を和ませているのだ。

 根拠だと? ふむ。逆に尋ねるが、我々の雰囲気が忠夫が来る前に比べ明るくなっていないか? 生活に張りが出来ていないか?
 ……心当たりは、あるようだな。

 だったらなぜ今はエロイ行為が減っているか、だと?
 簡単な事だ。そんな事をせずとも、もう我々の雰囲気は目に見えて良くなっているではないか。

 なぜわざと捕まっていると言えるのか、か。確かに今日までその説の明確な根拠は無かったが、今日それは正しいと確信した。
 ISをまともに食らってもけろりとしている。……間違って重傷を負えば流石に双方いろいろな面で自重をしなければならなくなる。
 致死性のトラップをもこともなげに突破する。……そも、不埒な行為を行わねば道化を演じる等の行為が出来ん。今回は掃除だったが。

 きっと同じなのだ。素手での捕り物も、ISも。簡単な仕切り窓も、トラップも。……そして生身の人間も、戦闘機人も。
 IS、トラップ物ともせず、戦闘機人にも欲情してみせる。はは、剛毅な事だ。きっと、いつか大成し大物になるのではないか?
 少し話は逸れたが、非難される事を承知で道化役を進んで行い、潤滑油役に徹する。これを紳士と呼ばずしてなんと言う?


 ……ただ、一つだけ疑問がある。
 忠夫は私にも気さくに接してくれて、手前味噌になるがとても仲良くやっていると思う。
 しかし、私に対しどうにも性的接触をしてこない。いや、別にされたいわけではないが。
 ……最初から仲良くしたから必要無いと判断されたか。それともこの眼帯がいけないのだろうか……。

 ん? 皆どうした。その眼は。
 なぜ私の胸を見る?





※オットーのコメント
「……………………」





「いやー、ないわー」


「チンク姉の説はちょっと極端すぎるんじゃないっスか? 良く解釈しすぎと言うか」


「そうかな。姉的には自信があるのだが」


 チンクの後も、姉妹から横島エピソードが出るわ出るわの大盤振る舞い。
 横島は居らずとも、確かにその存在により活気は出ているようである。










「はははは、ウーノ。思ったよりずっと仲良くやってるみたいじゃないか」


「……まぁ、全面的に同意するには若干微妙ですが」





 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





 今この時、ティアナ・ランスターは不機嫌であった。


 ガジェット出現の情報が入った為、緊急出動することになったこと?
 否。自分はそのために管理局に入ったのだ。


 出動によって休日が潰れたこと?
 確かに残念であるが、犯罪者はこちらの事情など斟酌しないであろうし、後々休日自体は補填されるだろう。


 ガジェットの情報が重要視されず、市民の避難がされなかったこと?
 それは腹立たしい。人の命は面子より大切ではないとでも言うのか。


 そして、





「こんにちは! ボク横島! ねーねー君可愛いね! ちょっとボクとお茶しない? キミとは仲良くなれそうな気がする!」


「あ、あははは……。ごめんなさいお兄さん。今ちょっと忙しくて……」





 休日が潰れてちょっとご機嫌斜めな所に、神経逆撫でするかのように冴えない男がナンパしてきた事であった。


「いーかげんソイツの誘いなんか切りなさいよスバルっ!」










「外出?」


「ええ、そーなんスよスカさん。ここで女の子に囲まれた爛れた生活もいーんスけど、ちょっと買い物もしたいなー、なんて」


 スカリエッティの私室。デスク前の椅子に座るスカリエッティに、横島は拝み倒さんばかりに頭を下げていた。


「爛れているかどうかはともかく、まあ君には雑用やってもらってるし、お金を渡すのには吝かでないけど一体何を……って、ははーん」


 スカリエッティはニヤリと笑った。


「アレか。18禁的な」


「それも目的の一つっス」


 横島は真顔で頷いた。


「一つ? 全部じゃないのかい?」


「いや、本当にそれは目的の一つにすぎないんスよ。マジで」


「あの、私席外しましょうか?」


「げぇっ! ウーノさん!? いたんスか!?」


「そりゃいますよ」


「なんてこったー! 今まで築きあげてきたワイの爽やかなイメージがー!!」


「あ、それは大丈夫です。男性なら仕方がないことですし、イメージは些かも損なわれてませんよ」


 頭を抱えて悶えていた横島は、優しい声にばっと顔を上げた。


「だって最初からそんなものありませんから」


「んなこったろーと思ったよチクショー!」


 微笑みとともにとどめを刺された横島は、いつもの決め台詞(?)で〆るのだった。


「はっはっは。その流れにはもはや様式美すら感じるねぇ。ウーノも、随分打ち解けてきたじゃないか」


「横島さんがここに来て、結構経ちますからね」


「そうだねー。あ、横島君、外出については構わないよ。羽を伸ばしてきたらいい」





 そう言って、割合あっさりと外出を認められた横島は、今までの給料をもらいクラナガンの繁華街に降り立つのであった。










「で、やってることはナンパか……」


 トーレは、サーチャーでモニタリングされている横島を見て、深々とため息をついた。


 横島は、その動向を監視されていた。
 それもそのはず。ある日突然スカリエッティのラボ付近に倒れている地球出身の青年。
 リンカーコアはあるものの、基本的な魔法も使えず、デバイスも持たず、特に情報収集を行うわけでもない。
 しかしそんな彼が急に外出したいと言い出したのだ。警戒しないはずがない。

 2番目以外のナンバーズも、やや緊張した面持ちでサーチャーからの映像を見ていたのだが……。


「ドクター、もういいじゃありませんかぁ。これ以上見ても時間のムダ!」


「ある意味面白いけどな」


 心底うんざりした顔で、もはや真面目に見る気がないクアットロは頭の後ろに腕を組んで後屈した。
 セインは横島の醜態を娯楽気分で見物している。
 繁華街から少し離れたところにある広場で、横島は飽きもせずナンパをしていた。


「……バリアジャケット着た管理局員までナンパしてる……」


「勤務中の局員ナンパしても怒られるだけでしょうに」


 ディエチとディードは、管理局員(ティアナとスバル)に声をかけ始めた横島に、呆れた視線を向けたが、


「彼女たちを見て思い出しましたが、この区画は、ガジェット・ドローンを派遣している区画ではないですか?」


 ガジェット・ドローンとは、スカリエッティが制作した機械兵器である。
 最近まで名前はなかったのだが、時空管理局がガジェット・ドローンと呼称したため、彼らもその名を採用している。

 閑話休題。ウーノの言葉に、スカリエッティは片眉を上げた。


「ああ、そう言えば。レリックの情報としては信頼度が低かったからそんなに数は出してないが」


「だからこの者たちはバリアジャケットを展開しているのか。スポンサーサイドから情報が漏れたか」


「でも、一般人は避難してないみたい……」


「どうせ管理局の上の方が情報を重要視してなかったんだろう」


 肩を竦めるチンクだが、はた、と何かに気付いたように動きを止めた。


「そう言えば、管理局がどう思おうとガジェットは確実にくる……」


 他のメンバーも、あっ、と口を抑えた。


「横島、ヤバくね?」










「あーもう、こっちは仕事なんだから邪魔しないでよ。しょっぴかれたいの?」


 ティアナのイラついた声に、ようやく横島はマズそうな雰囲気を察する。
 勤務中とのことだが、ならばこの少女らの服はバリアジャケットなのだろう。気付かんかった。


「なーんだ、それバリアジャケット? ちょっと変わった服の美少女達かと思ったわ」


 美少女……。と満更でもなさそうな顔のスバルをじろりと睨み、


「わかったなら邪魔しないでよ。ここがいつ危険なことになるかもわかんないのに」


 やれやれ、と額を押さえて頭を振るティアナ。そんな彼女に苦笑していたスバルは、俄かに表情を固くした。


「お兄さん、危ない!」


「んー?」


 横島は、スバルの声に後ろを振り向いた。そこには、今まさに何かを発射しようとする円錐状の機械。
 次の瞬間には、エネルギー弾らしきものが、横島に向けて発射されていた。


「くっ!!」


 ティアナもスバルも駆け出そうとするが、どう考えても間に合わない。
 円錐状の機械、ガジェット・ドローンT型は、レーザー攻撃を主に使用する。
 このエネルギー弾は、レーザーの威力をやや弱めたものだろうが、バリアジャケットを着ていない一般人に対しては、
当たり方によっては重傷は免れまい。


 間に合わない。ティアナは絶望的な思いに身を固くするが、





 ぺしっ。





 横島は、掌に小さめに展開したサイキックソーサーで、蠅でも叩き落とすかのように弾を叩き落とした。


「えっ」
「えっ」


「んー? なんだありゃあ」


 驚き固まる二人をよそに、緊張感ゼロの表情で、横島は頭を掻いた。


 その行為に警戒レベルを上げたのか、新たに二体合流したガジェットT型が横島に向けて一斉にレーザーを照射する。
 しかし、


「はーん?」


 横島は半歩横に移動すると、すぐ隣を三条の光が通りすぎた。
 次弾、次々弾も間断なく発射されるが、当たってやるのを待つ義理はない。横島はニヤリと笑う。


「レイストームより遅ぇ!!」


 ダッシュで駆け抜けざまに霊波刀を一閃。ガジェットを両断する。
 もともと宇宙戦艦に乗り、飽きるほど無人兵器を屠ってきた男である。基本ビビりであるが、今更この程度には臆したりはしない。
 ちなみに、レイストームとはオットーのISである。

 瞬く間に残り二体を切り伏せ、その時やっと避難指示のサイレンが鳴り響いた。
 突然鳴るサイレンに横島は上を見上げるが、彼にとっては馴染みのない音。意味がわからない。

 横島はティアナとスバルの方を向き、「?」と肩を竦めてみせた。
 ティアナはようやくはっ、と我に返り、横島に駆け寄った。










「忠夫、戦えたの……?」


 ディエチが表情少なに呟いた。これでもとても驚いている。
 驚いているのは他も同じ。ガジェット展開地域に放り込まれていたことに心配すらしていたが、今は驚きのあまり思考が止まっていた。


「デバイスも、バリアジャケットも、それに類する機器もナシで!? それでいてAMFを問題にしないたぁな……」


 ノーヴェが動揺も顕に言うが、AMFが問題にならないのは、彼女らは知る由もないが魔法ではないから当たり前である。


「間諜でしょうか」


 セッテは警戒した面持ちで映像の横島を見つめる。


「え?」


「横島は我々を騙していたのですよ」


「いや、それはどうだろう」


 スカリエッティが、真面目な顔で顎をさすりながら言った。


「別に聞かれなかったから言わなかっただけじゃないかな。それは騙しているとは言わない。
それに、彼の目的は、彼の言葉を信じるなら、とある機械の機能停止だ。それを私に任せて普通に暮らす分には言う必要はないな」


 訓練に付き合わされたり半殺し目的で追い掛け回されるのを普通の暮らしというかなぁ、と一同は思わないでもなかった。
 しかし、お手製トラップを軽く突破されたクアットロは、あの力があるならそんな暮らしでも確かに普通だろうと不本意ながら思った。


「……そうだな。これくらいはやってもらわないと」


 トーレは、むしろ安堵感溢れる様子で頷いていた。これなら、今まで追い詰め切れなかったことにもなんとか納得できる。


 一同は、多大なる興味を以て、映像に映る横島を見た。










「ちょ、あ、あんた」


 ガジェットをあっさり片付けた横島に、ティアナが恐る恐る声をかけようとするが、


「やべえ!」


「っ!?」


 ティアナとスバルが横島の見ている方を見ると、広場のガジェットの攻撃で、広場の直ぐ隣にあるビルが崩れ落ちそうになっていた。
 そしてビルの下には、小さな子供が。

 横島は間髪いれずに、


「(なのはちゃんの真似で)コンメリア、セットアップ!!」


 文珠を握りこんだ手を上に突き上げた瞬間、横島がパワードスーツに覆われた。
 実はこれ、未来から鳴海市に持ち込んだコンメリアである。
 敵が陸戦ならともかく、空戦魔導師では文珠を使わざるを得ず、それでは燃費が悪すぎる。
 そこで横島は、コンメリアを体を覆う程度の大きさまで文珠で縮小し、必要に伴い文珠で『召』『喚』しているのである。
 ちなみに、セットアップと叫ぶ必要はない。


「とうっ」


 横島は崩落しそうなビルに向けて高速飛翔する。だがその瞬間、ついにビルの上部が子供に向かって崩れた。


「んなろッ!!」


 横島は、爆発せず、それでいてできるだけ大きく作ったサイキックソーサーを、子供の真上あたりに水平に投げた。


 果たして、サイキックソーサー(大)は、子供のすぐ上の壁に突き刺さり、次の瞬間に落下してきた瓦礫を全て受け止める。


「……へっ?」


 頭を抱えてしゃがみこんでいた子供(女の子)は、いつまでも訪れない痛みに顔を上げ、周囲を見渡した。


「大丈夫かい、おじょーちゃん」


 空から舞い降りた横島は、ソーサーの下から女の子を引っ張り出し、すぐにその場を離れた。


「怪我はない?」


 横島は頭部パーツをかぽっと外し、笑いかける。
 ナデシコ時代の仲間が見たら、「それ取れるの?」と言いそうな光景である。


「は、はい。大丈夫です」


 安心した横島はちらりと広場を見る。
 どうやら、妙な無人機は広場から出てこないようである。広場の外で流れ弾の被害を受けたこの少女は運が悪かっただけだろう。
 見たところ、先ほどの管理局員の少女二人以外の人影は既にない。
 だからと言って、放っておくこともないだろう。


「んじゃ、おじょーちゃん。アイツ等広場から出てこないっぽいし、早いとこ避難しな」


「は、はいっ」


 横島は手を挙げて返事し、広場の最寄りのガジェットを霊波刀で切り裂いた。





「……」


 少女は、飛び去る横島を見送ったあと、先程まで自分がいた場所を振り返る。
 そこには、瓦礫を受け止めたまま、まだソーサーが持続していた。
 そして、魔力を束ねた(ように思う)光の剣で、ガジェットをばっさばっさと切り捨てている。


「……すごいなぁ」


 少女は言われた通り避難しつつも、後ろ髪を引かれるように何度も振り返っていた。


 余談だが、少女、ミウラ・リナルディは、後に収束魔法を近接魔法として使用する異色の魔導師として名を広めることとなる。








「あのお兄さんすごいねっ、あの子怪我しないで済んだよ!」


「馬鹿っ! 気を散らしてたら怪我するわよ!」


 興奮するスバルを一喝しながらも、ティアナは内心で同意していた。
 空戦というだけで高ランクなことを伺わせるが、AMFを物ともせず切り裂く魔力剣(誤解だが)もかなりの威力だ。


(私もあれだけの力があれば……)

 
 と考え、すぐに首を振ってその考えを振り払う。


(今はやれることをやるしかないッ!)


 ティアナの放つクロスファイアシュートが、ガジェットに向けて放たれた。
 




(うーん)


 横島は、一体ずつ霊波刀でガジェットを切っていたが、


「埒があかん!」


 マウントしていたラピッドライフルを手に取り、ガジェットに向けて集中連射する。
 意外と軽い音ともに放たれた無数の弾丸は、当然のことながらAMFをすり抜け、ガジェットを破壊した。

 そのまま横島は高速飛行しつつ単独で動くガジェットを銃撃し、ある程度固まって動く集団は霊波刀で突っ込んだ。


「あっと、実弾は限りがあるから節約しねーと……」


 そう言い、ライフルのカートリッジを取り外し、そこに『弾』の文珠を突っ込んだ。すると、ライフルの銃身が淡い碧に輝いた。
 トリガーを引くと、先程とは違い霊力の弾丸が銃口から連発される。それは実弾より容易にガジェットの装甲に穴を穿った。


「よっしゃ、スピード上げていくぞ!」


 横島は『陽』『光』の文珠を発動させる。すると、コンメリアの白い装甲の一部が、赤い色に染まった。

 問答無用の出力と速度を発揮する反則機、コンメリア・ヘリオライトである。


「ヘリアンサスモード!! なんちて」


 コンメリア・ヘリオライトは、空戦魔導師を相手にするにしても強すぎる。
 だから機能の一部を文珠で封印し、ノーマルコンメリアを主に使っていた横島だが、
 なのはの「レイジングハート・エクセリオン」、フェイトの「バルディッシュ・アサルト」を見て羨ましく思い、
『陽』『光』の文珠を封印解除のキーとして設定し、いざという時に使用していた。

 先ほどのセリフも、なのはのエクセリオンモードを羨ましく思って言っているだけである。





「うわっ、遠距離攻撃まで強い!」


「マジなの、あいつ……」


 ティアナは唇を噛み、凄まじい速度で敵を葬り去る横島を睨む。
 さらに、ガジェットの攻撃もディストーションフィールドに全て阻まれ、紅白の装甲には傷一つ入らない。
 彼女らはそれを高度な防御魔法、スフィアプロテクションと勘違いし、ほぼノータイムで発動させたことにも驚きを隠せなかった。


 横島は、ティアナらが周囲の敵を殲滅する間に、かなりの広さの広場のガジェットをあらかた一掃してしまったようだ。
 そのまま横島はコンメリアを送還し、二人の前に降り立った。


「お兄さんすごい人だったんですね! ありがとうございます、被害が少なくてすみました!」


「いやー、はっはっは、それほどでも」


 ボーイッシュ美少女のまっすぐで素直な賛辞に、横島は粉をかけようと思えずに照れてしまった。


「ねえ……」


 そんな横島に、ティアナは神妙な顔で近付いた。


「ありがとう、助かったわ」


 そう言って、ティアナから握手を促すように片手が差し出された。


「い、いや。照れるな〜」


 頭を掻きつつつ、横島は素直に片手を出した。すると、





「確保」





 がしゃん、と横島の手に手錠がかけられた。





「えっ」
「えっ」




 横島とスバルは、間抜けな声を上げた。
 これを映像で見ていたスカリエッティらのいる部屋にも、全員分の「えっ」という声が響いた。




「な、な、な、なんでじゃーーーーー!!?」


「なんでじゃーじゃないでしょうが」


「えっ? ティア、どういうこと? あっ、局員じゃない(?)のに勝手に魔法使ったこと? で、でも人命救助とか正当防衛とか……」


「それもあるけど、コイツもっとわかり易い犯罪犯してるでしょうが」


「えっ……………………ナンパ?」


「馬鹿スバルっ! 違うわよっ」


「だったらなんでじゃー! イケメンやなかったら魔法使ったらあかんのかー! ワイは女の子も助けたどーっ!」


「それは感謝してるけど、それとこれとは話が別。あんたねぇ、」


 ティアナは呆れた声で、罪状を述べた。





「あんたのあの銃、質量兵器でしょう」





「えっ」
「あっ」




 横島はまだ解らないようだが、スバルにはやっと得心がいったらしい。


※質量兵器
火薬や化学など魔力によらず大量破壊を生み出す兵器。ミッドチルダ管理下の世界では基本的に違法。
ウィキペディア・魔法少女リリカルなのはStrikerSより抜粋。


「あのパワードスーツみたいなやつは、変なバリアジャケットってことで納得してもいいけど、あの銃は無理ね」


「そ、そうなん?」


 横島は焦ってスバルに問うも、スバルは申し訳なさそうに頷くだけだった。
 ちなみに、ラピッドライフルin文珠『弾』は、火薬や化学じゃないから違法じゃないらしい。


「べ……」


「べ?」


「弁護士を呼んでくれーーーーーーーーーーっ!!」


「ハイハイ、人命救助したのは確かだし、弁護士くらい口聞いてやるわよ」


「ごめんね……お兄さん」


「いやじゃあああああああ!」


「弁護士呼べって言ったのアンタでしょうが。ほら、行くわよ」


 横島の手にかかった手錠を、ぐいと引っ張る。


「もう少年Aやないのに、前科持ちになりとーないー!!」


 何気にもう二十歳超えの横島は、うおーんと涙を迸らせながら、空いている手で文珠を発動させた。


『閃』


「きゃあ!?」
「うわあ!?」


 横島が発動させた文珠は、狙い違わず二人の目を眩ませる。


「く、そんなことしたって、手錠に繋がってる限りは…………あれ?」


 なんとか視力を取り戻した時には、既に横島の姿はなかった。


「うわ、あの一瞬で手錠から抜けたの?」


 スバルが目を丸くして、ぶら下がる手錠をちょんとつついた。


「ぬぬぬ……なんてヤツなの……」


 ティアナが悔しげに呻いた時、


「ごめん、もう終わった?」


「なのはさん!」


 エースオブエース高町なのはが、二人の前に降り立った。


「すぐに来るつもりだったんだけど、数がなんだか多くてね、ごめん!」


「いえ、それはいいんですけど」


 実際、まだ新人の二人にだけに現場を任せるのはありえない。
 しかし、今回は現場に出てこられるのが新人四人となのはだけであり、一番重要度が高そうな場所をなのはとエリオ&キャロが。
 その次の場所をティアナとスバルが担当したのである。


「それよりなのはさん! さっきまでここにすごい魔導師がいたんですよ!」


「へえ?」


 スバルは、横島のことを身振り手振りも加え熱心に説明し、なのはも興味深げに聞いていた。


「名前は……なんだったかな。ナカジマ?」


「そりゃあんたでしょ」


 スバルに突っ込みを入れながら、先程までの締りのない顔の男を思い返していた。
 ナンパしてきたかと思えば、ガジェットの不意打ちをあっさり叩き落し、驚異的な戦闘力を見せた。
 空戦適正があることもさることながら、遠近双方とも高次元に纏まった火力を持ち防御も隙がない。
 人命救助や、少し話した印象からすると悪人ではないようだが……。


「ナカジマ(仮)……。一体何者なの……」


「あの、ティア? 自分で言っておいてなんだけど、その名前で呼ぶの止めて欲しいんだけど……」





 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





「ははははははははははははははははは!!」


 スカリエッティ、自分の膝をバンバン叩きつつ大爆笑。


「ど、ドクター……。笑いすぎっス……」


「そう言うウェンディも引き付けを起こしているみたいだぞ」


 そう言うチンクも、良く見れば少しだけ肩が震えていた。
 鎧袖一触にガジェットを蹴散らした男が、少女に手錠を掛けられ引っ張られていた。
 その光景に、スカリエッティやクアットロ、セインやウェンディは大ウケにウケていた。
 ウーノすらもくすくす笑っているほどである。


「はぁ、はぁ、……いや、十年分くらい笑ったよ。あー、うん、それにしても、横島君はレアスキル持ちだったんだねぇ」


「レアスキル?」


「そうさ。一瞬魔導師かなーとは思ったけど、質量兵器が違法だって知らなかったみたいだし、
あの局員との接し方を見るに、やっぱり魔法がおおっぴらには存在しない世界の住人じゃないかな」


「むう、碧色の魔力光かと思ったが、成る程、レアスキルか……」


「もう少し彼を警戒しても良いのでは? 正直、私では勝てる気がしません。
あれで本気を出しているわけではなさそうですし……」


「いやいやセッテ。下手に警戒して横島君を敵に回すほうがよっぽど怖いよ。
それに、個人的にもっと仲良くなれそうな気がしてきたしね」


「でも、実際戦うとしたら確かに厄介。あのスフィアプロテクションみたいな防御結界、
どれくらい保つかはわからないけど、牽制が意味をなさないのは厳しい」


「とは言え、奴の回避能力では、大技ばかりを狙ったところで期待薄……。連携が肝になるか」


「いやいやトーレ姉、そんな物騒なこといいじゃないスか。これからも仲良くしてきゃいいんスよ!」


「姉も同感だ。驕らず、強く、弱きを救う。思った通りの好漢ではないか」


 横島の活躍に、姉妹はそれぞれ意見を交わす。


「ただいま帰りましたー」


「おや、帰ったかい」


 !?とばかりに、ナンバーズが全員横島に注目する。警戒するような目もあるが、だいたい好意的な目だ。


「な、なんスか?」


「いや、なんでもないよ。それより、どこに出かけてたんだい?」


「ああ、ちょっとナンパついでに食材買ってきたんス」


「食材?」


「ええ。ここって、サプリとか栄養剤とか、味を度外視したやつばっかりっスよね」


「それがどうした。必要十分の栄養は摂れている。それ以上は無駄だ」


 無駄を嫌うトーレが、当然とばかりに意見を言った。他の姉妹も、特に反論はないようである。


「ふっふっふ……。俺のメシを食っても、同じセリフが言えるかねぇ……」


「むっ。絶対貴様の料理などに負けたりしない!」


「何そのフラグ」









「手料理には勝てなかったよ……」


「即堕ち2コマかよ!」


 あれだけの啖呵をきったのに、胃が満たされるまで手を止められずorzなトーレにセインがツッコミを入れた。


「はーい、じゃあデザートのカスタード揚げとジャスミンティーのお代わりっスよー」


「お、おいしそう……!」


 控えめで、あまり感情を表に出さないディードも思わず身を乗り出した。
 中華は味が濃いものも多く、先に振舞った料理は油にも気を遣い、肉の脂身を取り除くなど材料面からも気を遣い、
 見た目よりヘルシーに仕上げていた。
 また、さっぱりとしたジャスミンティーを飲んだことで、カスタード揚げといった重そうなデザートにもみんな目を輝かせた。


「ぐ、こ、この程度の料理で私に取り入れるだなんて思ってるのぉ!?」


「なんだ。クアットロは食べないのか? なら私が」


「た、食べないとは言ってないでしょう!? ……はっ」


 チンクがクアットロの分に手を伸ばそうとしたら、慌ててクアットロはチンクの手から皿を遠ざけた。
 そして、自分に注がれる生暖かい周囲の視線に赤面する。


 今日もラボは平和だったとさ。






 ちなみに、横島は毎日の夕食を作ることをいつの間にか義務付けられていたという。









 おまけ1


「横島め。あれほどの力を隠していたとは……。
ならば、今まで中々捉えきれなかったのも、私が奴を素人と思い無意識に手加減していたからに違いない!」


「いや、普段はあのバリアジャケット(?)を使ってないんだから、結局同じことじゃないのか?」


「……orz」









 おまけ2
 ケースD:ドゥーエの場合。


「あ、あなたドゥーエさんですね? こんちはっス!」


「え? ええ。こんにちは……。ところで、あなたは?」


 その日、休憩時間にミッドの繁華街を歩いていたドゥーエは、いきなり知らない青年に声をかけられ戸惑った。


「いや、前トーレとウーノさんの間にもう一人姉妹がいるって聞いてたもんスから、写真で見たことあるんスよ」


「!?(ど、ドクターの関係者!?)」


「いやー、スカさんからは諸用で家を空けてるって聞いてますけど、元気そうでよかったっス」


 スカリエッティは、ドゥーエが任務で管理局に潜入していることまでは横島に知らせていなかった。
 だから横島は、ドゥーエのことは独り立ちして自活している立派な女性と言うイメージを抱いていた。


「スカさん? 誰ですか?(まずい、私の素性が周囲に知られたら……)」


「ああ、ついあだ名で。スカリエッティスよ。ジェイル・スカリエッティ」


「わーっ! わーっ!」


 ドゥーエは慌てて横島の口を両手の平で塞ぎ、周囲を見回した。
 周囲の人たちは、急に叫んだ彼女に対して怪訝な視線を向けたが、会話までは聞かれていなかったようである。
 安堵の息を漏らそうとした時、一人の人物と目があった。


(げっ……)


 地上本部総司令、レジアス・ゲイズ中将である。
 彼は鋭い目で横島とドゥーエを見たあと、踵を返し雑踏に消えた。するとあわてて周囲の付き人が彼を追いかけていた。


「き、聞かれてた……?」


「ふぁにふぁっふふぁ?(何がっスか?)」


 横島は、どれだけドゥーエが焦っているかも知らず、呑気に言ったのだった。









「ドクターっ! なんなんですかあの男! 私の正体バレちゃったかも……!」


『……すまない。まさか偶然出会った上に、ナンバーズ時代の映像で変装中の君を看破するとは……』




 余談だが、この時の出来事によりレジアスは後に彼女による殺害をかろうじて回避することになる。
 それによって、彼女がゼストに殺されずに済んだのは皮肉という他ない。









 あとがき
ティアナと横島は相性がいい(確信)。

 で、どうしてもナンバーズのセリフがトーレとウェンディに偏っちゃう。特にウェンディ。
 これでも意識して他の姉妹に台詞を譲ったんですよー。


 以下、知らない人の為のナンバーズの基本情報。

 

ウーノ
1。紫のロングウェーブヘアー。
スカリエッティの側近であり理解者。彼に厚い忠誠心をもっている。クールだが、ナンバーズの中では優しい性格。戦闘能力は高くない。


ドゥーエ
2。金髪ロングヘア。
諜報、暗殺等が主な任務。現在管理局に潜入中。なのでセイン以降のナンバーズと面識がない。ついでに出番もない。
最もスカリエッティに近いとされており、仲間に優しく敵には冷酷。



トーレ
3。他の姉妹より頭一つ分は高い長身でショートヘア。
実戦経験豊富でナンバーズの実戦指揮を執る。厳格な性格で、無意味なことが嫌い。



クアットロ
4。大きな丸眼鏡(伊達メガネ)で、髪を両サイドでくくっている。独特の口調でしゃべる。
実働部隊の後衛であり参謀的役割。愛想はいいがかなり残忍な性格で、妹たちのことも内心見下している。



チンク
5。銀髪ロングで右目に黒い眼帯をし、灰色のコートを着ている。ナンバーズ内で一番小柄。
潜入、破壊工作が主任務。面倒見がよく、妹と接するときは一人称が「姉」になる。稼働歴はクアットロより長い。



セイン
6。水色の髪の愛嬌のある少女。
ナンバーズ内では明るくポジティブ。言動が子供っぽい。潜入捜査に長けているため、任務では非常に重宝されている。



セッテ
7。桃色の長髪。頭にバンド状の装甲を着けている。
クアットロの提案による余剰要素排斥により、非常に機械的な性格をしている。また、トーレが教育を施した為か、口調と性格が固い。
空戦も可能な高い戦闘力を持ち、「7」に由来する名前とは裏腹に、稼動は最後発。



オットー
8。散切り頭で茶髪。れっきとした女性だが、ボディスーツを着用していても少年に見えるくらいに中性的で一人称も「僕」。
セッテ同様余剰要素排斥により、感情表現に乏しく、やはり稼動は最後発。ディードは同じ素材を元にした双子のような存在。



ノーヴェ
9。赤い髪の少年的雰囲気を持つ少女。
能動的な性格で、スカリエッティに従順なナンバーズの中で唯一自らの意思で行動しようとしている。
短気で常に不機嫌な時期があり、敵はもちろん他の姉妹にも威圧的な態度を取っていた。



ディエチ
10。茶色の長髪をリボンで結っている。
寡黙で余り感情を表に出さないが、姉妹思いの温厚な性格。セインに次いで稼動時期は長い。



ウェンディ
11。赤い髪を後ろで纏めている。やや少年的容貌だがスタイルはいい。
語尾に「〜っス」とつく陽気かつ軽い性格。ややノーヴェに似た外見をしており、言動の荒いノーヴェの世話をするのも然程悪くは思っていない。



ディード
12。栗色のストレートヘアで、順番的には一番下だが容姿はかなり大人びている。
オットー同様にクアットロの余剰要素排斥により感情の発露が乏しい。最後の機人ということもあってその完成度は高い。

 

 

 

中編へ続く。

 

 

 







感想代理人プロフィール

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代理人の感想
最初にも書きましたけど、嘘予告 http://actionhp.sakura.ne.jp/tss/k999/k999_a27c.htm のなのはネタを引いてるんですね。
しかしなのはがStSになってるってことは、横島も20代半ば、下手すると後半か・・・全然行動が変わってねえなw

 「あんたのあの銃、質量兵器でしょう」

(爆笑)



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