それは木星の向こう側からやってきた…
当初隕石だといわれたそれは…
牙をむき
今新たに歴史を紡ぎ始める…
【火星衛星軌道上】
「我が方のビーム全て捻じ曲げられました!!」
「重力波か…」
今、目の前で起こったことが信じられないといった様子でオペレーターが状況を読み上げる。
無理も無い、情報として知っていた、ワシでさえここまでの戦力差は想定していなかった。
「敵チューリップより多数の機動兵器射出」
「レーザー一斉発射!」
機動兵器を破壊すべく副官が指令を出す、しかしあたる直前に何かに弾かれたように消える。
「…効かない?!」
ここまでの技術差があるとはな…。
しかし、攻めてくることを知っておって何故上は公表せんかったのだ?
ふっ…上の連中は元から火星など守る気が無かったか…。
「チューリップ衛星軌道に侵入…あと六十秒で火星南極点に到達」
モニターに映る火星を見る…まだ多くの友軍、市民が残っている。
しかし、戦争を以後も続けるためにも地球の戦意を喪失させるわけにもいかんか…
「総員退避!本艦をぶつける」
「フクベ提督!?しかし…」
「ムネタケ…これしか方法は無い」
「…くっ!」
ムネタケの気持ちは良くわかる、しかし敗北だけで終わらすわけにはいかん…
今後の戦闘、地球の為にも、な…
Twice?
序:出会いのち別れところにより再会?
(ただし当事者気づかず)
【ユートピアコロニー】
朝、爆音と暖かな日差し、何かが割れる音によって目を覚ます。
眠気眼をこすりつつカーテンをあけ外を見ると500m位先を超低空飛行する戦闘機が有った…
「……。」
夢だな、この割れた窓ガラスも、いまこちらに来た突風も、荒れ果てた部屋の惨状も、そう夢に決まってる。
昨日のバイトは夜勤だったからな、まだ寝ぼけてるんだろう。
そう自己完結させ寝直そうと布団をかぶり仰向けになったとき、ふとあることにきづいた。
「……天井が無い」
そういえば日差しで目が覚めたんだったな、と少しずれたことを考えつつ周辺の状況を確認する。
ここは一月三万のぼろアパートの俺の部屋だ。
天井がないことと部屋が滅茶苦茶なこと以外はとくに変わったことは無い、では天井はどうした?
たしかに火星では雨が降ることはめったに無い、したがって屋根が無くても暮らせることは暮らせる。
が、一応早朝には屋根が付いていた筈なのだが?
予想はつくが屋根を求めてとりあえず窓の外を覗いてみる。
「おぉ〜」
予想通りだが中々シュールな光景に歓声を上げる。
屋根が表通りに落ちている。
ほかの建物も窓は割れているが屋根まで飛んだのはこのアパートだけのようだ。
欠陥住宅か?はたまたただの老朽化か?そんなことが頭をよぎる中、頭がようやく覚醒に向けて動き出す。
ユートピアコロニーの中心部セントラルタワーをはさみ、こことはコロニーの対極線上、20キロくらい、そう宙港のあたりで爆発が起きてる。
さっきの戦闘機は火星在駐軍だろう。
そうすると空港で大規模テロでも有ったのだろうか?
とりあえず外の情報を求め、我が家の端末を求めて移動する。
はるか遠方ではなんか爆音が轟いているがとりあえず情報も無く飛び出すのは危険だ…
「…繋がらない、いや電気すらきてない?」
どうやらそれなりに大変な事体になっているらしく、完全に電気供給が止まっている。
「……とりあえずシェルターに行くか…」
俺は情報を求めひとまずシェルターに移動することにした。
荷物をまとめシェルターを目指す途中、鍵のついたままのIFS式の車(車体にユートピア青果店と書かれている)を見つけた。
悪いとは思ったが爆音が近づいている現在一刻も早くシェルターに行きたかった俺は、その車を使わせてもらうことにする。
「不味いな…」
ここらには、いまだ戦火は移ってはいないがどうやら非難は終わっているらしく人影はない。
下手すると入り口は封鎖されてるかも知れんな…
そんなことを考えていると爆音が近づいてくる、俺は更に車のスピードを上げシェルターの入り口を目指す。
少しして郊外にでたところにある崖にぽっかりとあいたシェルターの入り口についた。
「すいません!!まだなかに入れますか!?」
俺は車から降りぬまま入り口の警備をしている軍の人に話し掛ける。
何がおきているのか聞きたいところでは有るがとりあえずは避難するのが第一だ。
「あぁ!運がいいなまだ入れる、もうここも封鎖する!
お宅が最後だ!IDカード出せ避難者のチェック入れるから!」
「はい、……お願いします」
俺は急いでポケットから財布を取り出しカードを出すと、警備の人に渡す。
彼が機械の端末にカードを通す。
「…AKITO02262178A、天河 明人…OK!
少しまっててくれ、ここをふさぐから奥まで俺も乗せてってくれ」
言うが早いがさっきの端末とは違う端末のガラスで覆われたスイッチを叩き割り、押す。
『E2ゲートはこれより封鎖されます…』
警告のアナウンスを聞きながら警備の人が助手席に乗ったことを確認し車を出し奥へと向かう。
俺はここでさっきから気になっていたことを尋ねた。
「いったいあの騒ぎ何があったんですか?」
「お前は知らんのか?
……先日火星に隕石群が向かってきているというニュースは知ってるな?」
「えぇ、確か火星に直撃するコースだったから昨日宇宙軍が破壊に向かいましたよね?」
「……実際は隕石なんかじゃなかったらしい、地球外生命体の母艦だったそうだ。
人類圏の外、木星方向から現れたことと、倒しても倒しても蜥蜴の尻尾きりのように母艦からわいてくる無人兵器から軍は『木星蜥蜴』という名称をつけた、その木星蜥蜴の攻撃だよ」
「……」
あまりの突拍子の無い話に沈黙している俺をよそに話は続く。
「奴ら俺たちを逃がす気はさらさら無いらしい。
宇宙軍を無視して降りてきた奴らはまっさきに宙港を狙いやがった…
地球に逃げようとした奴らはみんなし死んじまったよ」
「……」
俺は言葉がなかった…ただスピードを上げ目的地を目指す、薄暗い中、大きな貨物用のリフトの扉が見えてくる。
「車を捨てて下に行くぞ…」
車を乗り捨て家から持ち出した荷物と車の中にあった野菜や果物を持ち、警備の人に言われるまま後につづく。
【シェルター内部】
「本部!!本部!!」
さっきの揺れ以後、完全に連絡の途絶えた地上の本部と連絡をとろうと必死になって無線に呼びかける兵隊を後目に、俺は車から拝借したみかんを配り歩いていた。
「はい、これあげるね」
「お兄ちゃんありがとう!」
もの欲しそうにこちらを見ている十歳くらいの少女にみかんを手渡す。
元気いっぱいの彼女を見てふと頬が緩む。
彼女の母親だろう女の人がすまなそうに話し掛けてくる。
「すいません」
「いえ、もらい物ですから」
盗品とはさすがにいえないか、と苦笑しつつ返事を返す。
「お兄ちゃんアイとデートしよう?」
「えっ?」
「まぁ」
しかし、そんな戦場とはかけ離れたほのぼのとした空間はふいに崩れ去った…
誰かの叫び声が聞こえた。
とっさに俺はアイちゃんとお母さんを押し倒す。
ほぼ同時にシェルターの壁をミサイルで破り黄色い四つ目のロボットが進入する。
「うわぁ〜!!」
周りが混乱の渦に巻き込まれる、そんな中すぐ近くにあった運搬車が眼に入る。
「…っ!俺が抑えとく今のうちに逃げて!!」
気がつくと体が動いていた…
俺は運搬車に飛び乗り黄色い奴を無理やり壁際に押しやる。
背後で歓声が上がる。
「っ!いいから早く逃げて!!」
このままじゃ倒せない。
直感的に俺はそう思った。
一刻も早く逃げなきゃ…
後ろのほうで扉が開いたと歓声が上がった。
次の瞬間爆発音が響き渡り。
「っ!?………」
突然蒼い光に包まれ俺の意識は途絶えた…
【火星の名も無き草原】
風が俺の頬を優しくなぜる、
「………っん、ここは…どこだ?」
俺の意識がもどる、いったいどうなったんだ?
ここは…周りを見渡して呆然とする。
そこは草原、幼き日に駆け回った草原だった。
状態を確認してみる。
周りには誰もいない。
つけていた形見のネックレスから蒼い石が消えている。
これは仕方が無い、古い物なのでこの騒ぎの最中にどこかで落ちたのだろう。
残念ではあるが、命が有っただけ儲けもんだ。
俺は、ここまで考えて一つの憶測へと行き着く、全ては…夢?だったのか?
確かめるすべはここには無い。
ひとまず最も近い両親の勤め先だったネルガル重工の火星ラボを目指す。
この草原が俺の知っている草原ならユートピアコロニーを目指すよりはるかに近いはずだ…
歩くこと十数分黒煙を上げいまだ燻っているネルガルのラボだったモノが見えてきた。
「…夢じゃなかったのか」
今まで起きたことが現実であると改めて思い肩を落とす。
しばらくして黄色い奴の姿が見えないことを確認すると廃墟へと足を運ぶ。
周りに気を配りつつかろうじて骨組みの残っていた建物の内部に踏み込む、人の気配は無い。
「…っ!?」
そこには黄色い奴らが攻めてきたときに応戦でもしたのか、人であったろう炭の塊や重火器の類がそこらかしこに打ち捨てられていた。
それらの人たちの冥福を祈りつつ、何かの足しになるかもしれない火器を適当に見繕い奥へと進む…
全ての部屋のロックは破壊され、内部も破壊され尽くしている。
そんな部屋一室、入り口のプレートも破損しているため何の部屋だったのかわからないが、両親の形見のネックレスに付いていたものと同じ蒼い石がいくつか転がっていた。
火事場泥棒のようで気が進まないがその石をポケットに押し込み更に奥へと進む。
静寂の廊下に靴音が響く、自分以外の存在を求め奥へと進んできたが、今だ人影をみることはない。
心の中に諦めが浮かびはじめた時、地下へとつづく階段を見つけた。
俺は、明かりのない真っ暗な地下へと足を進める。
少し降りシェルターの扉らしきものが見え始めたとき。
俺の真上の暗闇に蒼い光があふれ始めた…
その光を見ようと身を乗り出したとき、
「うごっ!?」
頭上から落ちてきた柔らかいものに押しつぶされ再び意識を失った…