パン、と言う音と共に私の体を何かが貫く。
私はその場に膝をつく。
一瞬の後、私の体をすさまじい痛みが走る。
でも、まだ倒れるわけには行かない。
それに、痛みを感じるのならまだ生きているという事。
だから・・・
機動戦艦ナデシコ
〜宇宙に散る雪〜
3
「ゲキガン祭り・・・ゲキ・ガンガーって空気感染するのかな・・・?」
「言いえて妙、ですねユキナさん」
私の独り言に後ろから声がかかる。
「私に何か御用ですか?」
「うん、まぁね。
ルリちゃんは、この和平交渉成功すると思う?」
「どうでしょう?
成功すれば良い、とは思いますけど」
確かに、成功するに越した事はないんだけどね。
でも、事実未来では失敗した。ほかならぬ、ゲキ・ガンガーの所為で。
「私は、恐らく無理だと思う」
「え?」
「ゲキ・ガンガーの終わりってね、敵を滅ぼして終わってるの。
あぁ、別に私はあの漫画好きじゃないからね。
お兄ちゃんに無理やり見せられただけで。
でも、木連の人たちがあの正義を信じてるのはほかならぬ事実」
「・・・地球が、私達が悪だと?」
さすが、ルリちゃんは鋭いね。
「私がそう思っているわけじゃない。
もしかしたら取り越し苦労で終わるかもしれない。
でも、その危険性が高いのは事実。
だからね」
私は一枚の封筒を取り出す。
「もし、私がこの会談で死んだとき、これを開けてほしい。
もちろん、私は死ぬ気は無いし、そうならない事が理想だけど・・・」
「なぜ、私なんですか?」
「一番信用できるから。
お兄ちゃんでも、ミナトさんでも駄目。
これを読んだ時、自分のすべき事を冷静に考えられる人でないと・・・
でも、ルリちゃん以外にそんな人いる?」
「・・・・・・・・・無理ですね。
みんな、優しすぎますから」
「優しいのはルリちゃんも同じだけどね・・・
でも、優しさは必ず利点とはならない」
「はい。でも、私は空けませんよ。
必ず、帰ってきてください」
ぴぴぴ、と着信を知らせるアラームがなる。
「じゃあ、またねルリちゃん」
「気をつけてください」
判ってる、といってその場を離れる。
「何でユキナが・・・」
「流石にナデシコで待ってるわけにはいかないでしょ?
仮にも木連の特別外務官が会談に出ないなんてことになったら場合によっては人質にとられたと思われるかも知れない。
だから、どうしても私が出る必要があるでしょ? それに・・・」
私はそこで言葉をとぎる。
これ以上いって、無駄な心配をかけたくは無い。
もしかしたら、杞憂かもしれないから。
でもやっぱりその道が変わる事はなかった。
だから、私は無理やりにでも変える。
「なんなんですかこれは!?」
「和平交渉を円滑に進める為に此方で作成した文書だ」
「違う! これはそんな平和的な文書ではない」
確かに・・・でもここまで酷いなんて・・・
「この文書の撤回をお願いします!」
「理由を述べよシラトリ少佐」
「理由は、彼らもまたゲキ・ガンガーを愛しているからです!
私はここに来るまで、彼らと一緒にもう一度ゲキ・ガンガーを見ました。
すばらしい漫画です。勝利、友情、そして愛。
人として大切な事があの話には込められていました。
彼らもそれに気付いたからこそ和平を求めてきたんです」
すばらしい漫画・・・所詮作り話だし・・・
「正義は、正義は一つのはずです!」
「そうだ! 正義は常に一つだ!!」
「お兄ちゃん!」
「「「なっ」」」
パン、と言う音と共に何かが私の体を貫いた。
それに重なる驚愕の声がいくつか。
私はその場に膝をつく。
一瞬の後、私の体をすさまじい痛みが走る。
でも、まだ倒れるわけには行かない。
それに、痛みを感じるのならまだ生きているという事。
だから・・・
「はっ!」
銃を構えていた元一朗めがけてナイフを投げる。
正確には、その腕めがけて。
それは見事に元一朗の持つ銃を弾き、床に刺さる。
・・・多分、元一朗の姿は誰にも見えてはいないと思うけど・・・
「つぅ・・・」
「ユキナっ!」
「何で、何で撃った!?」
何で? そんなこと、初めから決まっている。
望んでいる物が違うから。
だから、この道はすれ違うしかなかった。
「ゲキ・ガンガーの終わりは悪の帝国を滅ぼす事で終わる。
つまり、初めから和平に応じる気なんて無かったんだ!」
「ユキナ、しゃべるな!」
「ユキナちゃん!」
「でも、ならば初めからこんな事には応じずナデシコを沈めてしまえば良い。
ならなんでこんな事をしたのか・・・ケホッ!」
鮮血を吐く。当たり所が悪かったらしい。
意識を失わなかった事は幸いだった・・・
だから、ここで話を続ける事ができる。
「そんなに私達の命が欲しい?
お兄ちゃんにしろ、私にしろ、殺したのをナデシコクルーの仕業にすれば木連はもう和平なんて考えないものね」
「ククク・・・なかなか鋭いな。
その通りだ。君たちには私達が新たに作る秩序のため、犠牲になってもらう!」
「正義が、聞いて呆れる。
だまし討ちにし、それを人に擦り付けるなど、ただの悪だろう!」
「すべては、人類の未来の為! そして、我々が悪だろうと、誰がそれを知る?
表に出ない悪など、悪にあらず!」
ふふ・・・油断大敵・・・自ら自分を悪と言うとはね・・・
「この裏切り者どもを殺せ!」
「テンカワ!」
ゴートさんが銃を蹴ってアキトさんに飛ばす。
「ウオオォォォオオッ!!」
「走るよ、お兄ちゃん!」
痛みをこらえて立ち上がる。
とてつもない痛みが走る。今にも意識が飛びそうだ。
でも、まだ倒れるわけにはいかない。
せめて、逃げ切るまでは・・・
「北辰! 白鳥九十九を殺せ!」
「御意」
影から声が聞える。
「白鳥九十九は地球側のスパイだった。
そして、白鳥ユキナは九十九の放った銃弾を受けて死んだ。
すべては地球側の行った事。
和平交渉の破談も、責は向こうにある」
それだけをいって、部屋から出て行く草壁。
後には、月臣だけが残された。
「くっ・・・これが、これが正義のためだというのか?
これで、本当に未来が作られると?」
カチッ、と何処からか音が鳴った。
「な、何だ? 誰かいるのか?」
『元一朗へ。久しぶりね、私、白鳥ユキナ』
「な、何だ? これか!」
月臣は自分の銃を弾いたナイフを取り上げる。
声は、確かにそれからしていた。
『和平のための最後の鍵、元一朗に託す。もし、草壁のやっていることに少しでも疑問を持ったなら、やるべきことをやってほしい。
でも、もしその道をとるのが嫌だというのなら、これを壊してしまえば良い。
すべては元一朗に託す。私は何も強制はしない。私は何も恨まない。
だから、自分で自分の道を決めて。他の誰にも、強制する事なんてできないんだから・・・』
声が止まる。
そして、再び再生される。
その内容は・・・
走る、走る。
元一朗は如何動くのか、もうそれは彼にゆだねるしかない。
いまは、この動かない体を無理やり動かして走る。
倒れている暇は無い。
そんな時間があるのなら、少しでも早く。
「逆賊、白鳥九十九! 死ねぃ!」
「お兄ちゃん上!」
「なッ! クソッ!」
組傘をかぶった変態蜥蜴が落ちてくる。
それを間一髪で九十九が避ける。
「シャアアァァァ!!」
「北辰!」
「ナニッ!?」
私が名前を知っていたのに驚いたのか、僅かに動きが鈍る。
そこに、
「ヌオオォォォ!」
ゴートさんが攻撃を加える。
が、たいしてダメージを受けているようではない。
「貴様・・・何故我の名を?」
「そんな詮索している余裕があるの?」
北辰は影。
つまり木連兵が来る前に全てを片付けないといけない。
だが、奇襲は失敗し、その後も殺すのに手間取っている。
「まぁ良かろう、ここで殺せば何の問題も無い」
といって私に向って走り出す。
その剣を素手で受け、折る。
しかしそのままの勢いで、北辰は私を吹き飛ばす。
いや、吹き飛ばそうとした。
「ジャンプ」
「なにぃ!?」
有人ボソンジャンプ。
いまだアキトさんを除いては機材の補助無しでは実現されていない技術。
それが今、彼らの目の前で行われた。
そして、光の粒子が消えた時・・・
私は壁と融合した北辰の目に折れた刃をつきたてていた。
「我が・・・負ける?」
「私の勝ちね」
思い切り、刃を振りぬく。
廊下に、北辰の血と、肉と、脳漿が飛び散る。
「ユキ・・・ナ?」
「ッ・・・カハッ!」
・・・ボソンジャンプは、やりすぎたか・・・
流石に、もう持たない・・・
私の意識は、そこで途切れた。
「ユキナ、ユキナッ!」
「ユキナちゃん!」
ユキナが手術室に運び込まれる。
緊急手術。生き残れるかどうかは五分五分。
正直、死ぬ確率のほうが高い。
「ユキナさんは、こうなる事がわかってたんですね・・・」
「ルリちゃん・・・」
「どういうことルリルリ?」
「ユキナさんは、木連がゲキ・ガンガーの正義を信じている限り、和平は無いといってました。
悪は、正義に滅ぼされる物だと・・・」
和平会談前のほんの少しの時間の会話を思い出す。
遺書だといってわたされた封筒の事を。
それを開ければこれからやるべきことがわかるかもしれない。
でも、開ける気にはならなかった。
開けてしまえば、もうユキナが帰ってこないような気がして・・・
「そうか・・・ユキナがそんなことを・・・
ユキナがゲキ・ガンガーを嫌いだといっていたのはそういう理由があったのか・・・」
「でも、大丈夫です。
ユキナさんは生きて帰ってくるって言いましたから」
約束、護らなかったらお仕置きですから。
結局、カキツバタの助けがあってナデシコは窮地を脱する事ができました。
でも、今度はネルガルと共闘する事に・・・
アカツキさんが言うには、いま地球は大変な事になっているとか・・・
詳しくは話してくれませんでしたけど・・・
兎に角、ナデシコとカキツバタは火星へ行きます。
そこに、すべての答えがあるのでしょうか・・・?
後書き
月臣のところは第三者の視点、最後の所はルリの視点です。
わかりづらいかもしれません。
でも判ってください。
取り合えず、ユキナは死にはしません。
死には・・・ね。