赤き力の世界にて・・・

 

 

 

 

 

第34話「命を賭けた試合・・・・<リベンジ編>」

 

 

 

 

 

 

 

 

ゼフィーリアに帰って約一ヶ月・・・・

まだ霧も晴れないほどの早朝、街より少々はなれた高原に、一人の男が軽い運動をしていた。

 

 

「フゥゥ・・・・・・ハッ!」

 

 

男は、ゆったりとした動作で、武術の型を一つ一つ行っていた。

その動きに無駄はなく、どこから見ても隙という隙は見あたらない・・・・・

限りなく実戦的な舞・・・・男の動きを見た武術の達人なら、そう称していたかもしれない・・・・・

 

 

「ハァァーー・・・・・フッ!!」

 

 

軽い呼吸音と共に繰り出される拳や蹴り・・・それを行う度に、その延長線上の霧が切り裂かれる。

まるで、何か目に見えないものが、攻撃と共に飛んでいるかのように・・・・・・

 

やがて、男は一通り演舞をやり終えたのか、軽く拳を握りしめ、自然体で立ちながら、長く・・・・・深く息を吐いた。

それと同時に、周りに漂っていた霧が、男を中心に渦巻き始める。

その光景は、まるで、大渦か台風を連想させる。

 

男が全て息を吐き終えると、その現象も、ピタリ・・・と、止まった。

その次の瞬間!男は一息に空気を吸い込むと、蓄積していた氣と共に、爆発的に吐き出した!!

 

 

「―――――ッ!!」

 

 

気合いと共に放たれた氣は衝撃波を生み出し、辺り一面の霧を文字通り『霧散』させる。

その所為で、霧に隠れていた男の姿は、朝日によって照らしだされた。

 

 

「ふぅ・・・かなり良い調子だ。むしろ、以前より動きがいいな・・・・」

 

 

霧を散らした男・・・・・アキトが、手の平を二、三度程、開いたり握ったりしている。

その動きに、不自然な感じはなく、表情も無理をしているということもなかった。

 

 

「今日はアルバイトが休みだし・・・・本格的に腕を慣らしておいた方がいいな・・・・」

「それなら、私と手合わせしてみる?」

 

 

アキトの周りを再び埋め尽くそうと漂ってくる霧の中から、ルナが姿を現した。

アキトは、別段驚いた様子もみせず、ルナが居る方向へと向き直った。

 

 

「それは良いですね。ルナさんが相手だったら、申し分はありませんよ。

これがニースだったりしたら、慣らす前に、真剣勝負になりかねませんからね」

 

「フフフッ、そうね。ニースは結構真面目で融通がきかないから。

手を抜くって事をしたがらないものね。少しは、リナに見習わせたいものだわ」

 

「リナちゃんだって、やるときにはやりますよ」

 

「問題なのは、やるときまで遊びがすぎるって事なんだけどね。

それで・・・いつ頃る?私はいつでも良いけど・・・・」

 

「昼過ぎにしませんか?その時間帯だと、皆は忙しいですから、思う存分闘えますし」

「そうね。そうしましょうか」

 

 

それはつまり、観客や見物をしている人にも、

とばっちりが行きかねないほどの闘いになる・・・との示唆になっている。

ルナも、アキトの言いたいことを承知の上で、了承している・・・・

 

 

二頭の竜ルナとアキトが、相まみえるときが来たようだ・・・・

手合わせとはいえ、その闘いの勝敗の行方は、誰にも予想がつかない・・・・・

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「・・・・・・で?なんでリナちゃん達がここにいるのかな?」

「かたいこと言いっこ無し!こんな面白そうなこと、見ずにいられますかっての」

「ちょっとした用事もあったしな」

 

 

リナとガウリイが気楽そうな顔で、戦闘訓練の場湖のほとりについてきていた。

もちろん、その二人だけではない・・・・・

 

 

「私は、そこの二人に呼ばれただけだ。もっとも、呼ばれずともこの場には来たがな」

「私は仲間はずれなの?」

 

 

ニースとメアテナも、アキトとルナの闘いに興味があったらしく、進んで付いてきたようだった。

むしろ、アキトとルナの闘いに興味を持つなという方が、無理な話だろう。

 

他にも、アナスタシア女王やティシア、そして、その護衛の四騎士も来ようとしたのだが、

ルナの『例え観客でも命の保証はできません』宣言と、急な仕事のため、この場に来るのを断念した。

 

 

「いいじゃないの、アキト君。このメンバーなら、自分の身は自分で守れそうだし」

「・・・・いいんですか?この中で、一番危険なのは、リナちゃんなんですよ?」

「え?私!?なんで・・・・」

「なんだ、気がついてなかったのか・・・・」

「どういう事なのよ、ニース」

「考えても見ろ、この中で、一番運動能力が低いのは誰だ?」

「それは・・・・・あたし?」

「そうだ。リナには魔法もあるだろうが、急な危機的状況で、咄嗟に使えるものでもあるまい」

 

 

戦いの余波で飛んできた岩などであれば、確かにリナでも迎撃は可能だろう。

だが、高速で迫る剣閃やエネルギーとなると・・・・避けるのすら危うい。

 

リナはそこまで考えながらも、やや顔をしかめただけで、特に取り乱した様子はなかった。

 

 

「気にしない・・・と、言えばうそだけど、大丈夫。伊達に姉ちゃんに訓練してもらってないって」

「よく言ったわ。それなら、気兼ねなく闘えるわね」

「いえ、ちょっとは気にしてほしいかな〜・・・・なんて・・・」

 

 

リナは、ルナの発言に弱気になって言うものの、その言葉は黙殺されてしまった。

ルナは、リナのことなど微塵にも気にせず、胸の前で両手を付き合わせ、赤い光球を創り出す。

 

 

「あ、姉ちゃん。ちょっといい?」

「なに?」

「姉ちゃんとアキトが闘う前に、私達にやらせてほしいの」

「やらせてほしいって・・・私かアキト君と闘うっていうの?」

「ううん。違う・・・・・私とガウリイが闘う相手は・・・・あんたよ、ニース」

 

 

リナは、闘う気満々といった表情で、ニースを指名してくる。

対するニースは、予想してなかった事態に驚きつつも、面白いと云わんばかりに、ニッ・・・と、笑う。

 

 

「なるほどな・・・・だから、私をこの場に呼んだのか」

 

「まぁね・・・別に、今さらあんたが憎いとか思ってないわよ。

でもね、けじめだけはきっちりとつけておきたいのよ。元々は、あんたに対抗するために特訓した訳なんだしね」

 

「それに、前にも言ったよな。負けたままなのは性に合わないって。

・・・・・正直、今でも勝てるかどうかは分かりはしないが・・・・・

だからといって、このまま・・・・てのも、やっぱり嫌だからな。悪いがつきあってくれ」

 

「白黒はっきりつけたい・・・・か。確かに、私がリナ達の立場であっても、同じ事をしただろうな・・・

むしろ、遅すぎたぐらいだが・・・・アキトが完治するまで待っていたのか?」

 

「そうよ。いざって時の止め役がいないとね。

(姉ちゃんじゃぁ、瀕死の状態になるまで助けてくれなさそうだし・・・・・・)」

 

 

リナは、後半の言葉を、かろうじて心の内だけで呟く・・・・

しかし、ルナはリナが何を言いたいのかわかっているらしく、苦笑していた。

正に、リナの思った通り、瀕死になるまでは助けない・・・それは自分でも解っていたからだ。

 

 

「そうか・・・・メアテナ」

「なに?」

「丁度いい機会だ。メアテナも、リナ達と一緒にかかってこい」

「え?いいの?ニース姉さん」

「かまわん。リナもそれで良いな」

「私達は別に構わないけど・・・一体何で」

「メアテナの成長のためにな。剣技は教えたものの、実戦には馴れていない。そういうわけだ」

「そう・・・・・(つまり、実戦並に本気でいくという事ね・・・・)」

 

 

「話はもういい?結界のことで言いたいことがあるんだけど・・・・」

「ん、悪かったな。なんなんだ?」

 

「これから張る結界は、精神世界面アストラル・サイドにも影響を及ぼせるものじゃないと、対象を傷つけられないものよ。

リナ達は、以前にもやったから理解しているだろうけど・・・・一応ね」

 

「なかなか器用なことをするな。面白い」

「つまり・・・・魔族に効くような攻撃じゃないとだめ・・・って云う事なの?」

 

「そうだよ、メアテナちゃん。でも、メアテナちゃんはあまり気にすることはないかな。

攻撃に使っている力自体、精神世界面アストラル・サイドに有効だからね。難しく考えなくても大丈夫だよ」

 

「うん。解った!アキト兄さん」

「じゃぁ、頑張っておいで。応援してるからね」

「は〜い!!」

 

 

メアテナは、意気揚々とリナとガウリイの近くに寄った。

それを確認したルナは、手に持っていた光球を、天にかざす。

その次の瞬間、光球は激しい閃光を放ち、辺り一面に結界を形成する。

 

周りの景色は微かな違和感を発し、奇妙な雰囲気を感じさせ始める・・・・

 

 

「さて・・・準備は整ったようだし・・・・やりましょうか?ニース」

「いつでも・・・私は既に準備を終えている」

 

 

いつの間に創り出したのか、ニースの手の内には、一振りの長剣ロング・ソードがあった。

それを見たリナ達は、反射的に飛びずさり、各々の得意な戦闘姿勢をとる。

ルナとアキトはというと・・・・ニースが魔剣を創っていることに気がついた時点で、離れた所に移動していた。

リナとガウリイ、メアテナの三人が気がつかなかったというのに・・・・である。流石というべきだろう・・・・

 

早くも・・・リナの頬には、一滴の冷や汗が流れていた・・・・・

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

(まったく気がつかなかった・・・・もしあれが実戦だったら・・・・)

 

 

最悪の予想に鳥肌を立たせながら、ニースに集中し始める。

一瞬でも気を抜けば、次の瞬間には地に倒されている・・・・それは、あながち間違った想像ではないだろう。

私はまず、戦闘の流れを掴むことが優先と考え、ガウリイとメアテナに話しかける。

 

 

「ガウリイ、メアテナ。サポートするから行って!」

「解った!!」

「はい!」

 

 

ガウリイは、妖斬剣ブラスト・ソードを構えながら、もの凄いスピードで一直線にニースに迫る!!

メアテナはといえば、正面から向かうガウリイを隠れ蓑にするかのように、

気配を消しつつ、死角に回り込もうとしている!

 

 

「ダリャァァーーッ!」

 

 

ガウリイの上段から振り下ろした斬撃を、ニースはその場から動くことなく、赤い魔剣で受け止める。

ガウリイはそれにかまうことなく、次々と攻撃を繰りだす!!

 

(あのバカ!!それじゃぁ、最初の時と変わってないでしょうが!!)

 

ニースはあの場から一歩も動かず、ガウリイの攻撃を受け流している!

その光景は、初めて闘ったときの様子を再現しているかのようだ!

 

(まったく!あれじゃあフォローをするにも・・・・って、メアテナはどうしたのよ)

 

私は、死角に回り込もうとして動きを止めたメアテナに、注意を向けた。

メアテナの視線の先には、激しく打ち込むガウリイと、それをさばいているニースがいる。

別に、躊躇しているなどということではなさそうだが・・・一体どうかしたのか?

メアテナの視線を辿って、再びガウリイに目を向けると、私の目に、信じられないものがあった。

 

(速い!ガウリイの奴、攻撃をくり返すたびにスピードが上がっている!?)

 

ガウリイの攻撃は、既に私の目に捕らえられるスピードではなかった。

妖斬剣ブラスト・ソードが纏う魔力光がなければ、攻撃の軌道を理解することすらできなかった!

ニースの表情も、冷静な顔は変わらないが、目は獲物を狙う鷹のような鋭さをもったものへと変わっていた!

 

そして、ついにガウリイの剣がニースの防御をかいくぐり、胴を薙ぎはらおうとしていた!

だが、ニースは半歩後ろにひくだけで、ガウリイの攻撃をかわし、

そのまま、左手に集束させた魔力弾をガウリイに投げつけた!

ガウリイは、それを辛うじて剣で受け止めるも、衝撃によって吹き飛ばされる。

 

(あの馬鹿!何から何まで再現しなくてもいいでしょうに!)

 

が、私の考えとは裏腹に、

すぐさま立ち上がったガウリイの顔には、してやったりという表情が浮かんでいた。

とてもじゃないが、吹き飛ばされたものの表情とは思えない。マゾというのであれば別だが・・・・

 

 

「どうだ!」

「・・・・あの時より、格段に動きがよくなっている。大したものだ」

 

 

そうか・・・ガウリイの行動は、あの時、一歩も動かずに全てをさばききったニースに対しての挑戦だったのか・・・

そして今度は、当たりはしなかったものの、ニースを動かすことに成功した・・・

ガウリイ的に、一矢報いたということか・・・だが、

 

 

火炎球ファイアー・ボール!!」

「どわっ!いきなりなにすんだ!リナ!!」

 

 

あたしの放った火炎球ファイアー・ボールをかわしつつ、文句をたれてくるガウリイ。

もちろん、この結界内だからできる行為だ。普段だったらだったら、もうちょこっと弱い呪文を放っている。

 

 

「そんな事は一声かけてからやりなさい!そもそも、あの返事はなんだったのよ!」

「あ?ああ、あれ?後ろで見ているから、好き勝手やれって事なのかな・・・・と思ってな」

「んな事いうか!」

 

 

私は、二度ふたたび火炎球ファイアー・ボールを放とうと、光球を作りだし・・・・それをニースに投げつける!!

結界内はもちろん、素の状態でも効果がないのはわかっている。

その光球は、ニースの足下に着弾し、爆炎にて視界を遮る!

 

 

「冗談をいいつつも、抜け目はないな・・・」

「それはどうも!烈火球バースト・フレア!!

 

 

私の魔術が発動すると同時に、ニースの前に光の球が生成され、次の瞬間、

青白い色をした激しい炎を巻き上げる!!

 

本当なら、石人形ゴーレムすらもあっさりと溶かす程の高熱の炎。

しかし、ニースは些かも慌てた様子はみせず、剣の一振りにて炎を散らす!!

 

 

「この程度の炎・・・・普段の私ならともかく、戦闘時の氣を纏っているのなら、さほど問題はない」

「そうでしょうね」

 

 

だが、私の目的は達した!!

ニースの右後ろから、右手に赤い光の剣を創り出したメアテナが斬りかかる!!

しかし、ニースはそちらの方を見ることもせず、迫り来る光の刃を受け止める!

 

 

「なるほど・・・炎で視界を塞ぐのと同時に、爆音で足音を消し去る。

惜しむのは、メアテナの隠形が完全ではなかったということか」

 

「まだだよ、ニース姉さん!!」

 

 

そう言うのと同時に、左手にも光の刃を創り出すメアテナ。

だが、それを振るう前に、ニースは剣を持つ腕に力をこめ、メアテナを弾き飛ばす!

なんつう腕力!人一人を押しきって飛ばすか?普通・・・・

姉ちゃんといい、ニースといい・・・あんな細腕の何処にそんな力があるのやら・・・・

 

飛ばされたメアテナは、流れに逆らうことなく体勢を立て直して着地し、再びニースに挑みかかる!

ガウリイもその反対側からニースに斬りかかるべく、距離をつめている!

 

ならば私のできることは、ニースの体勢を少しでも崩しておくこと!!

私は詠唱を素早くすませ、ニースに向かって魔法を解き放つ!

 

 

裂閃砲エルメキア・フレイムッ!!」

 

 

詠唱の短さ、スピード、威力・・・その三つから言って、これが一番最適!

私が全力近くで放った魔法は、真っ直ぐにニースに向かう!

その大きさ、普段の二倍から三倍もある!結界内の視界の変化を差し引いても、その威力は普段の倍以上!

たとえ、魔王の力をもつニースといえど、直撃を無視できるとは思えない!

 

 

「三方同時攻撃か・・・・」

 

 

ニースは、ガウリイ、メアテナと目を向けた後、迫り来る魔法の方に体を向けた。

そして、魔法に向かって、刃ではなく腹をみせるように、剣を縦に構えた。

あまつさえ、右手は柄をもち、左手は剣を押し出すように、剣の腹にそえられている。

 

 

「まさか、受け止める気なの!?」

 

 

私の言葉に、ニースはニヤリ・・・と笑い、裂閃砲エルメキア・フレイムを真正面から受け止めた・・・次の瞬間!

私の目に、信じられない光景が入ってきた!

 

 

「うそでしょ!!」

 

 

ニースが受け止めたと思った瞬間、裂閃砲エルメキア・フレイムは二つに裂かれた!

さらに、分かれた光の奔流は、それぞれガウリイとメアテナに向かって飛んで行く!!

 

メアテナは慌てたように避け、ガウリイはその光を斬り裂く!

二人とも、予想外の出来事によって、動きが完全に止まった!

 

 

「以前、光の精霊術で似たようなことをやったことがあってな・・・

微妙な角度の調整が難しいのだが・・・上手くいったか」

 

「んな非常識な事、普通思いつく?そもそも、光の精霊魔術って何よ」

「今は失われた力の一つだ。気にするな」

「気にするって・・・・」

「知ったとしても、使えないのだから・・・・」

 

 

ニースの言葉を遮るかのように、ガウリイが斬りかかる!

ちぃ!もう少し聞きたかったが・・・・後で聞けばいいか・・・・

 

 

「ダリャァァーーッッ!!」

「もう少し、フェイントを上手く使うのだな。生来の勘の鋭さに頼りすぎて、攻撃がやや単調だ」

 

 

ガウリイの攻撃を、全てさばき、避けているニースが、ガウリイにアドバイスをする。

完全に遊ばれている・・・とまではいわないが、力量レベルが違う。

それでも、ガウリイを認めているのか、軽いステップを織り交ぜた防御をみせるニース。

剣だけでは防ぎきれなかったということに、敬意をみせているのだろうか?

 

 

「私もいるよ!」

 

 

ガウリイとは反対方向から、斬りかかってくるメアテナ。

タイミングを測っていたのか、なかなかに絶妙なタイミングだ!

ニースの剣が、ガウリイの剣を受け止めた瞬間に割って入った!!

 

 

「良いタイミングだ」

 

 

ニースはそう言いつつ、メアテナに向かって左手を突き出す。

その左手から赤い光が発せられると同時に、盾が創り出された!

メアテナの繰り出す赤い光の剣は、そのニースが創りだした盾に受け止められる!!

そしてニースは、武具に力をこめ、ガウリイには剣からの衝撃波、

メアテナには盾から発せられた光の膜で、それぞれを吹き飛ばした!

 

 

「私に両手を使わせるとはな・・・・三人掛かりとはいえ、見事だ」

「三人掛かりでやっと・・・だがな」

「ニース姉さん、強すぎ・・・・」

「というか、非常識よ・・・」

「そんなものか?まぁいい」

 

 

ニースは、左手にもっていた盾を消すと、再び、一本の剣を持ち直し、自然体に構えた。

そこまでは以前と一緒・・・だが、身に纏う闘氣はまったく違う。

近くにいるだけで鳥肌が立ち、体中、見えない針でつつかれているかのように痛い・・・・

恐ろしい程までに高密度の闘氣・・・・これほどの闘氣を放つ者を、私は他に二人しか知らない・・・・

 

ガウリイは、斬りかかろうにもできないのか、顔を顰めている。

メアテナに至っては、体が硬直しているのか、身動きすらとれないみたいだ・・・

これほどの闘氣・・・・慣れていない者には、結構きついだろう。気の弱い者は気絶してもおかしくはない・・・・

 

 

「これから、私も手を出させてもらう。気を抜くなよ」

『・・・・・・・・・・』

 

 

ニースの宣言に、何一つ声のでない私・・・唾をのんだ音が、いやに大きく聞こえた・・・・

手を抜いているつもりは毛頭なかった・・・なかったのだが・・・私はまだニースを見くびっていたのかもしれない。

ニースは、私の目標であった姉ちゃんと、ほぼ同等の実力者なのだ。

死に物狂いで、やっと引き分けに持ち込めるかどうかの相手なのだ・・・・

 

私は体に力をこめ、気を引き締める・・・・自分の中から、甘えを全て排除するために・・・

そもそも、アキトにやばくなったら止めてもらおうという考えを持っている時点で、

私とニースには、決定的な差があるのだ・・・・ならば、それを捨て去るのみ!!

 

 

「ガウリイ・・・メアテナ、本気で行くわよ」

「わかった」

「はい!」

 

覇王氷河烈ダイナスト・ブレス!!」

 

 

ニースの隣に五紡星が描かれ、その上に巨大な氷塊が現れる!

ニースにとって、まったく意味のない私の魔法に、少々困惑げに眉を歪めた。

そんなニースを余所に、私は氷塊に意識を集中させる!

 

 

「ブレイク!!」

 

 

私のかけ声と共に、魔力を含んだ氷塊は四散し、辺り一面に握り拳大の氷の塊をふりまく!

ゼルとアメリアが以前に見せたものを、自分なりにアレンジしたものだ。

威力は比べるべくもないほど低いが、それでも、小規模ではそれなりの威力がある!

 

 

「器用なことを・・・・」

 

 

ニースは信じられないことに、その飛礫つぶてを紙一重で避けている!

あまつさえ、避けきれない氷塊は、剣で弾いて他の氷塊を迎撃している!?

 

 

「余裕だな!!」

 

 

飛んでくる氷塊を避けながらニースに向かったガウリイは、勢いそのままに斬りかかる!!

が、その寸前に、ニースが剣で弾いた氷塊がガウリイの眉間を狙って飛んでくる!!

ガウリイは首を反らせてなんとか避けたが、体勢は崩れてしまう!

 

 

「クソッ!!」

「この距離で避け、あまつさえ反撃に転じるとはさすがだな・・・・・」

 

 

ニースは、何とか繰り出したガウリイの剣を容易く弾くと、

その弾いた勢いを利用して、ガウリイの胸元に蹴りを入れる!

元々、全身に力を纏わせているニースだ。拳だろうが足だろうが、攻撃をすればダメージをうける!

 

飛ばされるガウリイと入れ替わるように、メアテナがニースに斬りかかる!

ニースはおそらく、二人を同時に相手しないようにガウリイを蹴り飛ばしたのだろう。

 

 

「ニース姉さん!いっくよ〜!!」

「来い、メアテナ!」

 

 

ニースとメアテナは斬り合いを始める!

さすがニース直伝の剣技・・・・・メアテナの剣の腕はかなり凄い!

二本の赤い光の剣は、美しい乱舞を見せ、見るものの目を引きつけるほどの華麗さをもっている。

だが、その二刀の乱舞さえも、ニースの剣技には及ばず、徐々に防戦一方に追い込まれる!

 

 

「もっと腕に力をこめろ。二刀流である特長を生かせ。

一本で相手の剣を抑え込み、もう片方で相手を切り伏せろ!」

 

「やってるよ〜!!」

 

 

メアテナは、半分泣きそうな表情でニースの剣技を防ぎ続けた。

しかし、ニースはメアテナの泣き言には取り合わず、さらに言葉を重ねた。

 

 

「斬撃が軽いから、私の剣に弾かれるんだ。それに、弾かれても斬撃を止めるな。

二本の剣を使って闘うのではない。二本の剣を操って・・・闘うんだ!」

 

 

メアテナ圧倒的に不利・・・そんな状況に、あたしはただ単に見ているだけではない。

だが、準備は終わりはしたものの、あのスピードの戦闘に手を出すのは、メアテナを巻き込みかねない!

ならば・・・三人いることを有効に活用するのみ!

 

 

「ガウリイ!」

「オッシャァァーー!!任せとけ!」

 

 

私の云いたいことを理解したのか、ニースに斬りかかるガウリイ・・・・本当に理解しているのか?

 

 

「おりゃぁぁーー!!」

「二対一か・・・・だが、数の優位が戦闘の優位とは限らん」

「言ったな〜〜!!」

 

 

ニースに同時に斬りかかるガウリイとメアテナ。

ニースは今までとは違い、積極的に動き始め、二人の動きを分断させる!!

二人同時に攻撃されないような位置へと回り込み、一対一の状況を作りながら、

立ち替わり入れ替わり、ガウリイとメアテナの相手をしている!

 

 

(あの二人相手に有利に闘っている・・・しかも、まだ本気を出していない・・・・

さすが・・・・勝つのは難しいと思っていたけど、ここまでとは・・・・)

 

 

三人の乱戦に、迂闊に手を出せない私・・・やっぱり、ガウリイは私の考えを理解してなかったようだ・・・・

だけど・・・二人とも、流石に少しは余裕ができている。ならば後はタイミングを測って・・・・・

 

私が詠唱を始めると同時に、ガウリイがニースの動きを先読みし、間合いをつめて斬りかかる!

ニースは、ガウリイの攻撃を剣で受け止める!そして、ニヤッと笑った。

 

 

「面白いものを見せてやる」

「なんだと・・・・―――――ッ!?!」

 

 

ガウリイは再び斬りかかろうとするが、妖斬剣ブラスト・ソードはニースの剣にひっついたまま動かず、

まるで一本の剣に同化したかのように、頑として離れない!

よく見れば、ニースの魔剣に纏う赤い魔力光と、妖斬剣ブラスト・ソードが纏う紫色の魔力光が、

刃を合わせているところを中心に、絡み合うように結びついていた!

 

 

「魔剣同士の魔力を絡み合わせる・・・武器に宿る魔力を意のままに操る『魔影流』ならばの技だ」

「チィッッ!!」

 

 

ガウリイは自分の武器が無効化されたことを悟ると、左手で妖斬剣ブラスト・ソードを掴んだまま、

自由になった右手でニースに殴りかかる!!しかし、この結界内では物理攻撃は・・・・・!?

 

そんな私の目に飛び込んできたのは、うっすらとだが、光を纏ったガウリイの右の拳だった!

あれは、アキトやガイウスのおっちゃんと同じ・・・・・・・

 

 

「<氣>か。威力は弱いようだな・・・・」

「俺だってビックリしてるよ!」

 

 

昔、ガイウスのおっちゃんから聞いたことがある・・・

ある一定以上、武術を体得したものは、無意識の内に氣を扱えることがある・・・と。

ガウリイもそのくちなのだろう。

 

 

「剣の腕はかなりのものだが、格闘技はまだまだだな」

 

 

ガウリイの拳を難無く受け止めるニース・・・・しかしガウリイは、妖斬剣ブラスト・ソードを躊躇なく離し、

両手でニースの腕を掴み、背負うように投げ飛ばす!

その間一秒もない・・・かなり素早く、流れるような動きだ。

 

 

「武器を離すとはな・・・思いきったことをするものだ・・・・」

 

 

ニースは事も無げに、空中で体勢を整える・・・前に、私はメアテナに向かって叫んだ!

 

 

「メアテナ!足止めできる!!」

「了解!!神魔混合・・・・烈光弾!!

 

 

メアテナは、両手に無数の魔力弾を造り出すと、ニースに向かって解き放った!!

明暗入り交じった赤い色の魔力弾の群は、ニースが着地すると同時に、背後から襲いかかる!!

 

 

「ハァッ!!」

 

 

ニースは振り向きながら赤い魔剣を一閃!

それによって生み出された赤い衝撃波は、無数の魔力弾の軌道を狂わせる!

軌道が狂った魔力弾は、他の魔力弾とぶつかり合い、お互いを相殺し合う形となって爆発した!

 

だが、その爆発を突き抜け、黒い魔力弾らしきものがニースが持っていた魔剣の柄もとにぶつかる!!

 

 

 

「―――――ッ!」

 

 

かなりの威力があったのか、黒い魔力弾はニースの魔剣を弾き飛ばし、そのまま遠くへ飛んでいった!

弾き飛ばされた魔剣は、離れた大地に突き刺さる!!

おっしゃぁ!ナイス、メアテナ!!

 

私は、メアテナがニースの動きを止めておいてくれた間に起動させた、覇王雷撃陣ダイナスト・ブラスに集中する。

(無論、いつも通りのではなく、以前、姉ちゃんの足止めに使った宙に魔法陣をえがくやつ)

宙に描かれた五紡星の頂点より放たれた雷は、その中心にて一つに集束、

眩しいほどの光を放つ、エネルギー弾を作りあげる!

こうすれば、従来の何倍もの威力をもった魔法になる。これが、私がこの魔法を改良した本当の理由だ。

一点における破壊力なら、竜破斬ドラグ・スレイブすら越えるかもしれない!

 

 

「いっけぇぇーーーっ!!」

 

 

私のかけ声と共に、エネルギー弾は一直線にニースに向かって飛ぶ!!

対するニースの手には魔剣が・・・・あった!ガウリイの妖斬剣ブラスト・ソード!!

ニースはそれを振りかぶる!おそらく迎撃するつもりだろうが・・・・

 

 

(ごめんガウリイ!折れたらまた新しいやつ探すから!!)

 

 

伝説上、最強最高の魔剣である『妖斬剣ブラスト・ソード』より上のものはないが・・・こうなった以上、私にはどうしようもない。

私は、剣の見納めにと、ニースの手の内にある妖斬剣ブラスト・ソードに目をやると・・・・

そこには、眩しいほど激しく点滅している妖斬剣ブラスト・ソードがあった。

私は、あの剣がそんな現象を起こしている場面など見たことがなく、驚きのあまりそれを凝視する。

 

ニースは、そんな私にかまうことなく、妖斬剣ブラスト・ソードを振り下ろす!!

 

 

「魔影二式 残光翔裂破!!」

 

 

三日月型の巨大な黒い衝撃波の三連射が、私の放ったエネルギー弾と衝突!

もの凄い閃光と轟音、そして洒落にならない衝撃波をまき散らしながら相殺した!!

 

私とガウリイ、メアテナはその衝撃波に巻き込まれ、吹き飛ばされる!

ニースはどうなったのか気にはなったが、確認する余裕はない!

私は体中にはしる痛みを無視して、ガウリイとメアテナに声をかける。

 

 

「二人とも、大丈夫!」

「わ、私は何とか防御が間に合ったけど・・・・」

「っ痛ぅぅ・・・無茶苦茶するな〜、おかげで頭うった」

「その様子なら大丈夫ね・・・・・」

 

 

私はニースの居た辺りに目をやる・・・・そこは、あの衝撃波によって、大地に大穴が空いていた・・・

少なくとも、ぶつかり合った瞬間は精神世界面アストラル・サイドにも影響があったということか・・・・

 

 

「ニースは!?」

「ここだ」

 

 

少し前まで居た場所よりかなり後方・・・そこにニースは居た。

どうやってあの衝撃波を受け流したのか知らないが、別段変わっているところはない。

 

 

「あんた一体どうやって・・・」

「簡単なことだ。あの衝撃波に合わせて後ろに跳んだ。思ったより飛んだが・・・・問題はないな」

(問題ありまくりよ!少しは人間らしいところを見せんかい!あんたも姉ちゃんも、ついでにアキトも!!)

 

 

私はそう言いたいのをぐっとこらえ、心の内だけにしまっておく。

この距離だと、確実に姉ちゃんに聞かれてしまう・・・

そうなると、ニースとの闘いより恐ろしいことが起こってしまうのだ・・・

私は内心を誤魔化すように、別の言葉を口に出した。

 

 

「あんた・・・魔剣なら無差別に扱えるの?無茶苦茶ね・・・」

「基本的にそうだが・・・妖斬剣こいつは特別だ」

「特別?」

「ああ、元々これは、私が愛用していた魔剣だ。扱い慣れているのでな」

「ふーーん・・・・って、ちょっとまてい!あんた今なんて言った!」

「扱い慣れている」

「その少し前!!」

「私が愛用していた魔剣」

「それよ!何であんたが・・・・」

「私の技に、魔剣自体が耐えられなかったのでな・・・特別に作ってもらったのだ」

「んじゃぁ・・・元々はあんた専用ってことなの?」

「そういうことになるな・・・・」

「それにまつわる伝説・・・魔王竜ディモス・ドラゴンを一撃で倒すってのは・・・」

 

「懐かしい話だ。私はただ単に、魔影の技に耐えられるかどうか、試し斬りしただけなのだが・・・

まさか伝説になっているとはな・・・面白いものだ」

 

「ま、本気マジ・・・・・・」

 

 

私はことの大きさに、少しばかり呆然とした・・・

完全に呆然としないのは、少し前に、似たような話を聞いたからだったが・・・・・

確かに・・・ニースなら、伝説の一つや二つ、作っていてもおかしくはない。

 

 

「さて・・・そろそろ終わりにしよう」

 

 

ニースは、手の内にある妖斬剣ブラスト・ソードをガウリイに放り投げて渡すと、掌をクレーターの方に向ける。

すると、地面の一部が盛り上がり、そこから赤い刀身をした魔剣が現れ、ニースに向かって飛んでいった。

ニースはそれを左手で掴み、刀身に右手を添えた。

 

 

「殺すつもりで行く・・・死にたくなければ本気を出してかかってこい」

 

 

ニースの右手が赤い光を放つ・・・そして、その光は触れている部分から刀身に伝わり、吸収してゆく・・・・

その証拠に、魔剣は一回りほど大きくなり、刀身の赤い色もさらに黒く、濃くなってゆく・・・・

極めつけは、刃から立ちのぼる妖気みたいな光・・・見ているだけで、恐怖のあまり、背筋がゾクゾクする・・・・

 

その言葉に、嘘偽りはないって・・・ことか。

 

 

「このまま続けても、お前達は勝つ見込みはない・・・

出来ることがあるとすれば、それはせいぜい小競り合いを繰り返し、時間を稼ぐぐらいが関の山だ。

それならば、一瞬に全力を賭けて勝機を見いだしてみろ」

 

 

言ってくれる・・・・だが、まさしくその通りであったため、反論の余地はない。

ニースは怪我一つどころか、息切れすらしていない状態・・・力もまだまだ余裕があるだろう。

対して私達は、ほぼ全力近くで闘っている。まだまだ体力はあるが、余裕というほどではない。

一番体力を使っていないのは私なのだが・・・・これは切り札ラグナ・ブレードを扱うため。

ガウリイとメアテナも、そこの辺りは承知しているだろう。

 

 

「さて、どうする?リナ。誘いに乗るか?」

「あんただって解ってるでしょ?このまま闘っても私達は・・・・」

「ああ、確実に負けるな。桁違い・・・どころか、次元が違う。よくアキトは勝てたもんだ」

「あっちも次元が違うんでしょ」

 

 

私は、遠くの方でのんびりと見学している姉ちゃんとアキトを横目で見やる。

二人とも、私達の闘いを真剣な目でみている。

その表情に驚きといったものがないということは、ニースの異常な強さも、

アキトや姉ちゃんからいうと常識の範囲内ということなのだろう。

 

 

「まったく・・・ゼロスの方がからかえる分、可愛げがあるってもんよね・・・・」

「ん?何か言ったか?リナ」

「何でもない。ニースを待たせるのも何だし・・・ちゃっちゃと片をつけましょうか?」

「そうだな」

「メアテナも良い?これが最後だから全力で行くわよ」

「はい。全力を出していきます」

「いい返事ね。頼りにしてるわよ」

「はい!」

 

 

 

そして・・・私達は、ニースのと決着をつけるべく、一歩、足を踏み出した。

それが、勝利につながる道であるか、それとも敗北への道なのか・・・今は、誰も知らない・・・・

 

 

 

(その2へ・・・・)