悠久を奏でる地にて・・・

 

 

 

 

 

第12話『貴女に光を・・・・・』

 

 

 

 

 

 

 

―――――六月二十七日―――――

 

 

六の月、最後の週末・・・ともいうべき日なのだが、アキト達は仕事がなかった。

毎週のことなのだが、最後の日までには仕事を終わらせているため、実質上、週休二日制みたいになっている。

しかし、急な依頼が入るときがあるため、店の誰か・・・主にアキトとアリサが店番をしていた。

 

そして、二人アリサとアキトに付き合うように、お茶を飲みに来るメンバーもいる。

この日も、朝食後のお茶を楽しんでいた・・・・

 

 

「はい、クレアちゃんにシーラちゃん、クリス君も紅茶をどうぞ」

「ありがとうございます。アリサ様」

「ありがとうございます。アリサおばさま」

「あ、ありがとうございます」

「アレフ君はコーヒーで良かったかしら?」

「ええ、ありがとう、アリサさん」

「どういたしまして」

「アリサさんも座ってゆっくりして下さい」

 

 

シーラにクレア、クリスとアレフに飲み物を渡すアリサ。

そんなアリサに、台所から紅茶を二つ持ってきたアキトが声をかけた。

 

 

「そう?ごめんなさい。食器洗い朝食の後始末まで任せてしまったのに・・・」

 

「気にしないで下さい。さ、紅茶でも飲んで・・・・と、言っても、

俺が淹れたものですから、アリサさんほど美味しくはありませんけど・・・・・はい、テディも飲んでくれるかな?」

 

「ありがとうッス!」

 

 

紅茶をもらったアリサとテディは、一口飲んでみる・・・

 

 

「アキト君、充分美味しいわ」

「そうッス!ご主人様程じゃないけど、もの凄く美味しいッス!」

「ありがとうございます」

 

 

その様子・・・正確にはアキトが淹れた紅茶を、羨ましそうに見るシーラとクレア・・・・・

 

その時、店の入り口が騒々しく開き、黄色い大きなリボンをした少女が飛び込むように入ってきた!

 

 

「大変大変!!みんな聞いて聞いて!!」

「おはよう、トリーシャちゃん」

「あ、アキトさんおはよう・・・・じゃなくて!大変なの!!」

 

 

アキトの挨拶に、反射的に挨拶するものの、トリーシャは興奮がおさまらない!

と、言わんばかりに大きな声で騒いでいた。

そんなトリーシャを見かねて、アリサはやんわりと声をかけた。

 

 

「とりあえず落ち着いて、トリーシャちゃん。この紅茶でも飲んで・・・・・」

「あ、はい・・・・・・・美味しい!でも、アリサさんの味と違うような・・・・」

「アキト君が淹れた紅茶ですもの」

「そうなんだ、美味しかったよ!ボク、アリサさんが淹れた紅茶以外で、こんな美味しいの飲んだことないよ!」

「ありがとう、トリーシャちゃん。それで?何が大変なんだい?」

「あ、そうそう!アリサさんの目が治るかもしれないんだ!!」

「え?私の?」

 

 

目が治るかもしれないと言われたアリサは、驚いた表情をしていた。

それを聞いたアキトも、仕事中のような真剣な表情となった。

 

それを見たトリーシャは、ドキッとして、顔を赤らめた。

 

 

「詳しく話してくれないかな?」

「うん、目薬茸って言うキノコが、どんな目の病気の治せる特効薬になるんだって!」

「それでは、アリサ様の目も?」

「治る可能性があるんじゃないかな〜・・・・と、思うんだけど・・・」

 

 

言葉がやや尻窄みになるトリーシャ・・・不確かなものだけに、保証ができないのだろう。

 

 

「そのキノコは何処にあるんだい?」

「え〜っと・・・洞窟などのジメジメしたところで、なおかつ陽がよく当たるところ・・・・だったかな?」

「なんだそりゃ。無茶苦茶だな・・・」

「確かに、アレフの言うとおりだな・・・それよりも、この近辺に、その条件に該当する所はあるかい?」

「ん〜〜〜難しいなぁ・・・・」

「そもそも、洞窟とは暗いところですからね・・・・陽が当たる場所など、普通は考えられませんわね・・・・・」

 

 

クレアの一言に、皆の顔に不安が広がる・・・・

クレアも、不用意な一言を言ってしまったと理解し、拙そうな顔をした・・・・・

そんな様子とは裏腹に、何かを考えていたクリスが顔を上げた。

 

 

「あ、あの・・・・・」

「ん?心当たりでもあるのかい?クリス君」

「うん・・・天窓の洞窟なら、条件に合うんじゃないかな」

「あ!」

「確かにそうだ!あそこならそのキノコの条件にピッタリだ!!」

 

 

シーラとアレフが、クリスの一言にパッと顔を輝かせた。

一方、その洞窟を知らないアキトとクレアは、訳のわからない・・・・といった表情だった。

 

 

「あの、天窓の洞窟とはどういったところなのでしょうか?」

 

「洞窟の最奥部にある広場の天井に大穴が空いているんだ。

そこから日の光が入ることから、天窓の洞窟っていうようになった所なんだ。

結構綺麗な所で、ピクニックとかには最適なところなんだ」

 

「そうなのですか」

「どうだい?クレア。天窓の洞窟で俺と二人っきりでデートでも・・・・」

「ご遠慮しておきますわ」

「ガクッ・・・・・」

 

 

クレアの間をおかない返事に、アレフは傍目にわかるほど肩を落とす・・・

アキトはそんな光景を微笑みながら見ると、やや真剣な顔をしてアリサに向き直った。

 

 

「アリサさん、済みませんが・・・・・・」

「洞窟に行くつもりなの?」

「はい。少しでも可能性があるのなら、試した方が良いので・・・・」

「別に私は、今のままでも・・・・・・」

 

「アリサさん、確かに、目が見えないことで、逆に見えてくるものもありますが・・・・

それでも、やっぱり目は見えた方が良いですよ。」

 

「アキト君・・・・貴方、目が・・・・」

「昔の事です。今は治っています・・・だからこそ、解るんですよ」

「そう・・・・」

「じゃぁ、済みませんが、お昼は・・・・」

「自分で作るから気にしないで、それよりも、気をつけてね」

「はい・・・・アレフ、それとクリス君、すまないが洞窟まで案内してくれないかな?」

「任せとけ!しっかりと案内してやるぜ」

「わ、わかりました」

「アキト様、わたくしも微力ながらお供しますわ」

「わ、私も。アリサおば様の為ですもの!それに、人手が多い方が良いよね、アキト君」

「ボクも!絶対一緒に行くからね!」

「・・・・・・・・まあ、大丈夫か・・・・よし、じゃあ一緒に行こうか」

「「「はい!!」」」

 

 

それから小一時間後・・・・それぞれ準備した面々が、ジョートショップ前にそろった。

アキトはいつもの服装に、何か大きなものが入った袋を背負っただけ・・・

他の面々は、動きやすい服装に、それぞれ必要だと思われる道具・・・もしくは武器を持っていた。

 

 

「みんな、気をつけてね」

「怪我をしないように気をつけるッスよ〜」

 

 

アリサとテディに見送られながら、アキト達は一路、天窓の洞窟に向けて出発した・・・・

 

 

そして・・・街から洞窟までの途中にある広原にて・・・・アキト達は思いもよらぬ相手に出会っていた。

それは・・・・・・・

 

 

「あ〜ら、これはこれは、『何でも屋』の皆さん、暇を持て余して遠足かしら?」

「いいですねぇ、暇な人達は・・・それに比べて私達はいくら体があっても足りない位なのに・・・・」

「所詮、凡人は暇と体を持て余すものだな・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 

(一名を除き、)口々に嫌味を言う集団・・・・公安維持局の面々だった。

その服装は、いつもの制服姿ではなく、どこかに探検でもするのか?と思われる服装だった。

 

アキトは、その四人を横目で見ると・・・・そのまま前を向いた。

 

 

「俺達はなにも見なかった。先を急ごうか」

「そうね、アキト君」

「そうですわね、早く先に行きましょう」

「そうそう♪レッツ、ゴー!!」

 

 

そのまま歩き去るアキトの後ろに、ピッタリとくっついて去るシーラとクレア、トリーシャの三人。

その様子に顔を真っ赤にして怒る公安・・・・・・・(一名を除く)

それをチラチラと、振り向きながら見ているクリスは、すぐ前を歩くアレフに声をかけた。

 

 

「ア、アレフ君、いいの?」

 

「クリス、俺達はなにも見なかったんだ。人間は、見てないことを知ることはできない。

つまり、あの場所にはなにもなかったんだ。いいな」

 

「う、うん・・・・・・」

 

 

その言葉を聞きながらも、後ろを振り向くクリス。

そこには、怒りの形相で追いかけてくる公安の三人が居た!

一人は、ゆっくりと、疲れた・・・という表情で歩いてきている。

 

 

「待ちなさい!」

「・・・・・・・何か用か」

 

 

アキトは、相手にするのが嫌だという表情で、声をかけてきた公安の女性・・・パメラに返事をした。

アキトの返事に、パメラは無意味に胸を張りながら、高飛車にしゃべり始めた。

 

 

「この先の洞窟にある財宝は、我々公安維持局が回収します!よって貴方達は引き返しなさい!

貴方達みたいな一般市民は、ドブ掃除でもして、小銭でも稼いでいなさい!!」

 

「・・・・・・・クリス君、天窓の洞窟に財宝そんなものがあるのかい?」

 

「いいえ、まったく・・・そもそも、十数年前に国が調査をし尽くしたらしいですから、

あったとしても、その時に回収されたでしょうし・・・

それに、数年前・・・魔物が異常発生する前までは、観光名所にもなっていたぐらいですから・・・・」

 

「そうそう、それに、今時あの洞窟に財宝なんて子供でも信じねぇぜ?」

 

 

アレフは呆れた目で公安の職員を見ている・・・

先程の言葉の裏には、子供でも信じないことを信じている馬鹿・・・・・と言う意味もあるのだ。

 

しかし・・・・・公安維持局の三人組それを信じた馬鹿には通用しない・・・・・

 

 

「その様な虚言に惑わされる私達ではないわよ!」

「その通りだ!私達には嘘は通用しない!」

「そこまでして財宝を得たいのか・・・・見下げ果てた奴等だな・・・・・」

 

 

パメラの言葉に、後ろの男二人・・・・ボルとギャランも嫌みったらしい顔で、同調する。

その目は、完全にアキト達を見下していた。

 

仕事の関係で会う度に、アキトに突っかかり、襲いかかっては返り討ちにあっている者達の態度とは思えない・・・

全く学習能力のない愚か者なのか・・・それとも、大物なのか・・・・・・判断つけがたいものがある。

 

ただし・・・アキトと公安の戦闘を見たことのある者なら、迷うことなく前者を支持しただろう・・・・・・

 

アキトは、人の話を聞こうともしない公安の面々に、軽い頭痛をおぼえた・・・・

こういった連中を相手にするのは、誰であろうとも心労が伴う・・・・・

 

 

「・・・・・・・・・やっぱり、なにも見なかったことにできないかな・・・・」

わたくしも、それが宜しいと思いますわ」

「私も・・・・その方がいいかなぁ、と思うんだけど・・・・」

「そうそう、あんなのほっといてさ、早く洞窟に行こうよ!」

 

 

そういいながら、アキトの背中を押して先に進もうとする女性陣・・・・

彼女達も、公安の連中を相手にするのが嫌なのだろう。

アレフとクリスに至っては・・・・すでに歩き始めていたりする。

さすがに、人のいいクリスでも、公安の相手は嫌になったらしい・・・・

 

 

アキト達の態度に、公安の三人組は、さらに顔を真っ赤にしている。

しかし、そのまま怒ることはプライドが許さないのか、無理矢理に表情を元に戻すと、無意味に胸を張った。

 

 

「ハッ!逃げる気?それもそうよね、今日は足手まといが居るのですもの・・・・」

 

 

パメラの一言に、シーラとクレア、アレフの三人の足が止まった・・・・

アキトに師事して日々鍛錬し、それなりに厳しい戦闘訓練を繰り返していると思っている三人にとって、

今のパメラの発言は聞き捨てならないのだろう。

 

三人は、持っていた手荷物をクリスとトリーシャに渡すと、公安に真っ正面から立った。

 

 

「全てにおいてプロフェッショナルな僕たちに挑もうというのか?無謀だな」

「実力の程もわきまえない愚民に、エリート自ら教育してやるのも悪くはないな・・・」

「ギャランとボルの言う通りね・・・・かかってきなさい、足手まといさん」

 

 

ギャラン、ボル、パメラの三人は、余裕綽々の嫌みったらしい表情でシーラ達三人を見下している。

 

対するシーラ達三人は、公安の言葉にいちいち反応することはなく、それぞれ得意な武器を構える・・・

公安の面々も、それぞれ剣を抜いたりと、構えをとった!

 

 

「俺はあのボルとかいうおっさんを相手にする・・・・」

「では、わたくしは向かって左にいるお方の相手を致しますわ」

「えっと・・・・私は、あのパメラという相手をすればいいのかな?」

 

「あ〜・・・・俺は・・・・」

 

「アキト様はそこで見ていて下さいませ。わざわざお手を煩わせることはありません」

「そういうこと、アキトはそこで俺達の戦いでも見てなって」

「私も大丈夫だから。アキト君はそこで待ってて」

 

 

そういい終わると、三人はそれぞれの相手に向かって移動し、対峙する・・・・

それを見ていたアキト達の傍に、公安の一人・・・・ヴァネッサが近づいてきた。

 

ヴァネッサ・ウォーレン・・・・年の頃は二十歳ぐらいで、若くして政府の役人になるほどの能力を持っている。

いつも、ピシッとスーツを着こなす、キャリアウーマン。

他の公安職員と同じく、プライドは持っているものの、それほどは酷くはない・・・・というか、無くなった。

 

 

「こんにちは、テンカワ君。それにフォスターさん、クロス君も」

「こんにちは、ヴァネッサさん」

「こ、こんにちは」

 

「こんにちは、ヴァネッサさん、それよりも、ボクのことはトリーシャでいいって言ったじゃない。

『フォスターさん』なんて言うと、お父さんと一緒の時に、間違うかもしれないし・・・・」

 

「そうだったわね、ごめんなさい、トリーシャさん」

「うん」

 

 

謝ると同時に、言い直すヴァネッサに、トリーシャは満面の笑顔で応えた。

それを見たヴァネッサは、今度はアキトに向き直った。

 

 

「今回は見学?」

「そうみたいです。ところで・・・・ヴァネッサさんはいいんですか?こんな所で話をしてて・・・・」

「いいのいいの、こんな所に来たのは任務じゃないし・・・なにより、テンカワ君を相手にするほど馬鹿じゃないわ」

 

 

以前、仕事上でかち合うことがあり、邪魔だということで、パメラ達と共にアキトに襲いかかり、

あっと言う間に気絶させられたことを思い浮かべるヴァネッサ・・・・・

それ以来、パメラと行動することはあっても、アキトと戦闘をしようという気は完全になかった。

 

公安にしては珍しい、非常にまともな考えをもった人物だといえる。

 

 

「任務じゃない・・・ということは、アレは何でここに来たんですか?まさか本気で財宝探しなんて・・・・」

「半分はそのつもりじゃない?」

「というと・・・・残り半分は?」

「そこに向かったって聞いたテンカワ君の邪魔をするため・・・・今度こそ!って息巻いてたから」

「それって、かなり無謀ですよね・・・・」

 

 

クリスの一言に、トリーシャはウンウンと頷いていた。

 

 

「そうそう、お父さんが『アキト君に勝つのは魔獣に勝つよりも難しい』って言ってたぐらいなのに・・・・」

「フォスターさんがそんな事を・・・・」

 

 

トリーシャの言葉に、かなり驚くヴァネッサ。

大戦の英雄『剣聖』リカルド・フォスターといえば、遠い国でも知らぬ者がいないほどの猛者。

ヴァネッサの反応は、至極当たり前の反応だった。

 

 

「そんなこと無いんじゃないのかな?(普通の状態力を使わない条件だったら・・・・)」

「え〜、そんなこと無いと思うなぁ。アキトさん強いんだもん」

「ははは、ありがとうトリーシャちゃん。でも、みんなも強いよ。ほら」

 

 

そういうと、アキトは仲間達の方に向かって指をさした。

そこには・・・公安を圧倒する三人の勇姿があった。

 

 

 

 

「さ、どこからでもどうぞ」

 

 

クレアは、持っていた長刀なぎなたを、ギャランに向かって突き付ける。

対するギャランは、腰に下げてあった剣を抜き、中段に構える。

 

 

「たぁっ!!」

 

 

ギャランはクレアに向かって、走りながら間合いを詰め、渾身の突きを繰り出す!!

対するクレアは、刃先を少々下げ、特攻するギャランの身体の、中心にくるように構えただけだった。

 

 

「ク、クソッ!!」

 

 

ギャランは舌打ちをしながら、慌てて間合いを広げる・・・・もし、あのまま特攻していたら・・・・

自分の突きがとどくよりも先に、長刀なぎなたの刃が自分に刺さっていたことに気がついたのだろう。

ギャランが左右に移動しても、クレアの長刀なぎなたの先は、ピッタリと体の中心に向かっている・・・

動きを不規則にしたり、フェイントを織り交ぜたりするものの、それが外れることはなかった・・・

 

クレアは、長刀なぎなたの間合いや使い方をよく理解していると言ってもいい。

どのような武器でも、間合いを外せば、威力は半減・・・・場合によっては無効化するのだから・・・

戦闘中、自分の間合いを保ち続けるというのは、意外に難しいのだ。

 

 

「ハァ・・・・ハァ・・・・・・」

 

 

ギャランは、戦い始めてすぐなのに、肩で息をし始める・・・・その額には、びっしりと汗が浮かんでさえいた。

この攻めあぐねる状況と、ずっと刃を突きつけられている状態に、精神が疲労しているのだ。

その上、エリートだというプライドの所為で、かなり自分を追い込んでいるため、その疲労度は著しい。

 

今まで、木刀での訓練の上、アキトに瞬殺され続けていたため、まともな戦闘というのが初めてだったのだ。

肉体・・・そして精神が疲れれば疲れるほど、人の思考能力は下がり、判断力も低下する。

 

 

「オオオォォーーー!!!」

 

 

ギャランは剣を振り上げると、渾身の力で長刀なぎなたに向かって打ち下ろした!

おそらく、弾き飛ばすなりして、強引に隙を作ろうとしているのだろう。

だが・・・この街エンフィールドに来た当時ならいざ知らず、今のクレアには生温い攻撃だった。

 

クレアは、長刀なぎなたに剣がぶつかった瞬間、その力を受け流すように、自ら同じ方向に動かし、

さらには、長刀なぎなたの穂先を円を描くように操り、逆に剣を絡め取った!!

 

クレアの長刀なぎなたに絡め取られた剣は、空高く宙を舞い、二人から離れた場所に落ちた!

それを思わず見るギャラン・・・現実が認識できないのか、ポカンと口を開けていた・・・

その決定的な隙を、見逃すほどクレアは甘くはない。これは戦闘なのだから!

 

 

「ハッ!!」

 

 

クレアは、長刀なぎなたを半回転させながら、ギャランとの間合いを詰め、

勢いを殺さずに石突きでギャランの鳩尾を強く打つ!!

 

ギャランは、くぐもった声を上げながら、大地に膝を付き、そのまま倒れた・・・・

近寄り、怪我がないか調べるクレア・・・・・結果は、ただの気絶。

 

 

「怪我はないようですね。これで、少しは態度が改まってくれればよろしいのですが・・・・・」

 

 

一息ついたクレアは、携帯用の長刀なぎなたを折り畳み、しまいながら、アキトの元に歩いていった・・・・

 

 

 

 

一方・・・・シーラ対パメラは・・・・かなり一方的な展開になっていた。

 

 

「ルーン・バレット!!アイシクル・スピア!!」

 

 

パメラが放つ魔術が、シーラに襲いかかる!!が、シーラは軽いステップでそれら全てを避ける!

 

ルーン・バレット、アイシクル・スピア、共に個人対象の魔法だが、そのスピードはかなり速い!

だが、シーラの動きはそのどれよりも速かった!

ルーン・バレットが大地に炸裂した際に巻き起こる炎でさえも、シーラに掠る事はなかった。

 

素人目には、パメラが圧しているように見えるが、実際に追い詰められているのは全く逆だった。

その証拠に、パメラの顔は焦りに満ちているのに対して、

シーラは、真剣でありながらも、張り詰めた感じはしない、程々に緊張している表情だった。

 

 

「ええい!ちょこまかちょこまかと、鬱陶しい!!避けずに当たりなさい!!」

 

 

繰り出す魔術が全て避けられて腹が立ったのか、パメラはヒステリー気味に声を張り上げる。

 

 

「そういわれても・・・・あ!あまり怒ったり、ストレスが溜まったりすると、小皺が増えるらしいですよ?」

 

 

怒り狂っているパメラを、シーラはかなり本気で心配する。ずれているというか、天然というか・・・・

その言葉・・・特に、小皺という単語にパメラの中で何かが数本ぶち切れる音がした。

 

 

「大きなお世話よ!!ニードル・スクリーム!!」

 

 

パメラが放った、針の如く鋭く尖った無数のエネルギー体の嵐が、シーラの居た辺りに吹き荒れる!!

さすがに、全てをかわしきることは無理と判断したシーラは、後ろに大きく飛びずさる。

 

エネルギー針が一番密集している空間を、後ろに下がる事でやり過ごすシーラ・・・

本来なら、エネルギー針はもっと多く、範囲も広い為、そう簡単には避けられないのだが・・・・

パメラが冷静さに欠けた頭で発動させたため、完全ではなかったらしい。

 

術自体も、本来の半分以下の持続時間で完全に消滅した。

 

 

「ハァ、ハァ・・・・・ま、またしても避けるなんて・・・・・・」

 

 

連続した魔術の行使で疲労したのか、肩で息をしながら、般若の形相でシーラを見るパメラ・・・・

だが、その形相はすぐに変わった!シーラがもの凄いスピードで自分に向かって走っているのを見たからだ!

 

 

「クッ!ニードル・スク・・・・・・・」

 

 

またしても広範囲系の魔術を使おうとするパメラ!

しかし、予想外にもシーラの走る速度が速いため、発動させようとしたときには、

自分も巻き込むほどの距離になっていた!

 

自分を傷つけても発動させるか、それとも逃げるか・・・・その二者択一に、パメラは一瞬迷った。

そして、その一瞬が・・・・パメラが選択することを許された時間だった。

 

後数歩まで迫ったシーラは、大地を強く蹴り、一足飛びに間合いを詰めながら、

その勢いを殺さず利用して、パメラの腹部にアキトに習った掌底を叩き込む!

 

腹部を押さえ、頭を下げるパメラ!

シーラは、すかさず流れるような動作で、威力を落とした・・・・・・・回し蹴りを叩き込み、パメラを蹴り飛ばした!

 

シーラの手加減により、そんなに飛ばされることなく大地に転げるパメラ・・・・

立ち上がることなく、ピクリともしない・・・・・どうやら、完全に気絶しているようだ。

 

 

「ご、ごめんなさい、魔法を使われそうだったから、急いで倒さなきゃって思って・・・・ごめんなさい」

 

 

シーラは必死に謝るものの、気絶しているパメラの頭には届くことはなかった。

全く動かないパメラにオロオロするものの、一応息をしているようなので安堵するシーラ・・・

苦しくならないように・・・と、仰向けに転がし、何度も謝りながらアキトの元に戻っていった。

 

ちなみに・・・・謝りはしているものの、シーラは全く反省をしていない・・・

まあ、アキト辺り・・・というか、この場にいる面々から言わせてみれば、

謝るという行為すら、する必要の無い事だと断言するだろう。

 

 

(俺の知っている女性達だったら、この程度で済ませること自体、奇跡だよ・・・・)

 

と、アキトはシーラに語ったとか語らなかったとか・・・・・

 

 

 

 

そして・・・残るアレフは・・・・かなり調子が良いみたいだ。

ボルの繰り出す剣を容易く受け止め、さらには弾き返すほどの余裕があった。

 

 

「どうした、おっさん!足手まとい見下した相手に一撃もいれられないのかよ!!」

「クッ、凡人風情が生意気な!!」

 

 

アレフは防御一辺倒ではあるものの、無駄口を言うだけの余裕があるらしい。

かなり余裕な表情で、挑発をくり返していた・・・余程、足手まといと言われたのが腹に据えかねたのだろう。

 

アキトの見立てでは、この二人の腕の差はそうないのだが・・・・

戦闘の流れというやつがアレフを有利に導いているのだ。

 

相手アレフを雑魚と侮った公安と、足手まといではないことを見せようとするアレフ・・・・

実力の拮抗した二人のどちらが、戦闘の流れを握ることができるのか・・・それは火を見るよりも明らかだった。

 

(もっとも・・・・流れが逆になれば、アレフは負ける可能性が高くなると言うことだけどな・・・・・)

 

アレフの奮戦ぶりを見ていたアキトが、心の中で呟いた・・・・

アキトは、今戦っている三人のなかで、アレフが一番負ける可能性が高いと考えているのだ・・・・

が、今のところ、それは杞憂だったらしい。

 

手の内にある物の感触を確かめながら、アキトは少し安堵した・・・・

 

 

「おい、おっさん!いい加減に諦めたらどうだ?」

「学の無さそうな貴様にしては面白い冗談だ」

「そんなのに学なんて関係あるか・・・・よっ!!」

 

 

最後の一言と共に、斬りかかるアレフ!

ボルはそれを受け止めるものの、予想していたよりも重い斬撃に、思わず剣を落としそうになる!

そんな事にはお構いなしに、次々に斬撃を繰り出すアレフ!

さすがに最初ほどの重さは無いものの、代わりに剣速が上がったため、

ボルは避けるのが精一杯・・・・徐々に剣を受け止める回数が増えていった!

 

先程までとは攻守が入れ替わった二人!

しかし、立場が入れ替わろうとも、戦いの流れが変わることはなかった!

 

 

「おらおらおら!足元がふらついてるぜ!おっさん!」

「黙れ!私はおっさんではない!近頃の若造は口の効き方も知らんのか!!」

「そういうところがおっさんなんだよ!おっさん・・・・!」

「グヌヌヌヌ・・・・・・・」

 

 

まだ何かを言いつのろうとしたボルだが、その余裕は無くなっていった。体力が限界に近いのだ。

アレフの方は、アキトの言いつけ通り、毎日雷鳴山の麓までマラソンをしていたため、体力は異常にある。

かなり剣を振るっているはずなのに、今だ息を切らせてはいない。

 

 

「オラァ!!」

「グッ!」

 

 

アレフの渾身の一撃を受け止めるボル!しかし、剣撃のあまりの強さに手が一時的に痺れ、握りが甘くなった!

それに気がついたアレフは、すぐさま返す二の太刀でボルの剣を下から弾き飛ばした!!

 

 

「しまった!!」

「もらった!!」

 

 

手持ちの武器の無くなったボルに向かって、アレフは剣を振り上げる!!

さすがに斬る気はないのだろう、剣の刃を向けるようなことをせず、鎬の部分でボルを叩こうとしていた。

 

それを憎々しげに見たボルは、すかさず腰の横に手を回し、提げてあった銃に手をかける!!

 

―――――その時!!

 

高速で飛来する小さな礫が、銃を掴もうとしていたボルの手にぶつかった!

礫自体は小さなものだったが、かなりの速度の為、その威力はかなり大きい。

 

痛烈な痛みに思わず手を引っ込めるボル!

だが、今度はそれすら上回る衝撃を頭部に感じ、痛みをあじわう暇もなく意識を手放した・・・・

本来なら・・・痛みに悶える程度だったのだが・・・先の衝撃で気が抜けていたらしい。

 

 

「思い知ったか、俺だって遊び半分で訓練してるんじゃねぇ・・・・・」

 

 

そう言いながら、鞘に剣をおさめるアレフ・・・・

剣を学び始めて、初の戦闘終了、そして初勝利の瞬間だった。

 

 

「はいはい、三人ともご苦労様。じゃぁテンカワ君、私はこの三人を引き取るから」

「ええ、後はお願いします。いつもながら、手間をかけさせますね」

「良いのよ、気にしないで・・・それに、結構いい運動になるしね」

 

 

ヴァネッサは、気絶している三人の足に縄を掛けると、そのまま引きずりながら街に向かって歩き始めた。

大の大人三人を鼻歌混じりに引きずるヴァネッサ・・・なにげに凄い・・・・

 

アキトは、毎度おなじみの光景なので、特に気にすることはなかったが、

残りの皆は、後頭部に大きな汗を張り付かせながらその光景を見入っていた・・・・

 

 

「さ、みんな先を急ごう、早く行かないと、洞窟に着く前に昼になってしまいそうだし・・・・」

「そうだね、アキトさん・・・・・・??ねぇアキトさん、その手に持ってるのって、なに?」

 

 

トリーシャが、アキトの右手をジッと見る・・・・

言われたアキトは、手を広げて、中身の物を見えるように差しだした。

 

 

「ん?これ?ただの小石だよ」

「なんで持ってるの?さっきまで持って無かったよね?」

「ちょっとした保険。おかげで若干一名助かったし・・・・」

「保険???」

「別に気にしなくて良いよ、じゃぁ、みんな行こうか」

 

 

アキトは小石を捨てながら、洞窟に向かって歩き始めた。

皆も、アキトに続いて歩き始めた。

 

 

クリスやアレフの道案内の元、アキト達は森に入り、ひたすら道を歩いていた。

 

 

「クリス君、後どれぐらいなのかな?」

「後もう少しです。この森を抜けてすぐの所に、洞窟があります」

「そうか・・・後少しなのに・・・・面倒だな」

「どうかしたの?アキト君」

「お客さんみたいだよ」

「え?」

 

 

シーラ達は、訳のわからないという表情でアキトを見る・・・・

そのアキトはというと・・・・歩いてきた道を振り返って見ていた。

 

それだけで、シーラとクレアはアキトの言っていた言葉の意味を悟る。

 

 

「それで、アキト様。一体どの様な方が近づいていらっしゃるのですか?」

「それは・・・・・・・・」

 

 

アキトはクレアに目を向けるが・・・・すぐに目をそらし、言いづらそうに口を濁した・・・・

そうこうしている間にも、アキトが察知した多数の氣はどんどん近づき、視認できる位置にまで来ていた。

 

 

「あれは・・・・・・兄様!?」

「お?公安の次は自警団かよ・・・・アキトの言うとおり、今度のは面倒だな・・・・」

 

 

アレフの一言は、この場にいる全員の共通の思いでもあった。

先程の公安もだが、自警団・・・・特にアルベルトは、アキトアリサの同居人を目の敵にしているため、

事が無くとも・・・・というか、顔を合わせる度にアキトに突っかかってくるのだ。

今回もそのつもりなのか、険しい顔をしながらアキト達に向かって走ってきていた。

 

 

「おい、そこの犯罪者!!」

 

 

犯罪者・・・無論、アキトのことである。

アルベルトは、美術品盗難事件の犯人は、アキトであると頑なに信じているのだ。

 

それはさておき・・・・アルベルトは、アキトに人差し指を突き付けながら口を開いた。

 

 

「天窓の洞窟にある目の薬は俺が取ってくる!貴様はとっとと引き返せ!」

「なんでアルベルトの言うことを聞かなくちゃなんないんだよ。そもそも、仕事はどうしたんだよ」

 

 

アレフが、高圧的なアルベルトの物言いに顔を顰めながら、文句を言う。

 

 

「愚問だな、自警団とは、世のため人のため、そしてなにより所属する街の住民のために動くのだ。

そして!大切な一住民のために、目の薬を取りに行く!それが我々の使命、仕事なのだ!!」

 

 

キッパリと言い切るアルベルト。後から追いついてきた二人の自警団員が、盛大に拍手していた。

 

アルベルトの言っていることは至極正しい。ただ・・・・これが本音であれば尚更なのだが・・・・

最後の部分の本音・・・大切な一市民・・・

つまり、アリサのためということを、皆が解っているので、返す視線はどこか白々しいものだった・・・・

普段の彼ならば・・・・ここまで積極的に動くことはないのだから・・・・

 

だが・・・アキトの視線は皆とは少し違っていた。

 

 

「だったら、先に行くと良い。俺達は邪魔をしない」

『アキト(様)(さん)(君)!?』

 

 

シーラ達女性陣は、アキトの言葉が信じられない・・・と言わんばかりに、自分の耳を疑った。

大きく目を見開いて、アキトを凝視した。

驚きに硬直する仲間達・・・その中で、アレフが怒鳴るようにアキトに話しかけた!

 

 

「どうしたんだよ、アキト!お前・・・・アリサさんの目を治したくないのかよ!」

「落ち着け、アレフ」

「落ち着いていられるか!なに考えてんだよ!!」

「俺は・・・・アリサさんの目を治したいだけだ。それをやるのは・・・・俺じゃなくてもいい」

 

 

それは、アリサの目の治療のためには、ささやかな見栄に拘る必要はない。そう、アキトは言っているのだ。

自分の事など二の次、あくまでもアリサ優先の態度に、アレフ達は黙るしかなかった・・・・

 

 

「随分と謙虚だな・・・・・何か企んでいるんじゃないだろうな」

「―――――ッ!!兄様!アキト様のお心使いを貶すおつもりですか!!」

 

「フンッ!犯罪者の言うことを信用などできるか。クレア、お前もそんなやつなんかに関わるんじゃない!

そんな訳のわからない男など、このエンフィールドからさっさと出ていけばいいのに・・・・・・」

 

 

アルベルトの言葉に対する返事は・・・・突き付けられた長刀なぎなたやいばだった。

小さく畳んで腰に下げてあった長刀なぎなたを、瞬時にして組み立て、

アルベルトに突き付けたその一連の流れは、今までにないほどの早業だった。

・・・・・その動作を完全に見切れたのは、アキトと他一名だけだった。

 

 

「事を荒立てするつもりは御座いませんでした・・・しかし、アキト様に対する暴言の数々!

そして、アリサ様を思う優しいお心まで踏みにじったのは見過ごすことができません!

我が兄でも・・・いえ、我が兄だからこそ!許せません!!」

 

「クレアちゃん、俺のことはいいから・・・・」

「いいえ!そう言うわけにはまいりません!兄様の性根を、今この場で叩き直す必要があります!」

「ク、クレア!お前、血を分けた実の兄に逆らうというのか!?」

「無論です!お覚悟を!!」

 

 

一も二もなく、どキッパリと言い切るクレアに絶句するアルベルトだったが、

すぐに気を取りなおし、クレアに向かって愛用の得物ハルバートを構えた!

 

 

「そこまで言うのなら、相手になる。そこの犯罪者にたぶらかされたお前を、正気に戻すためにな!」

 

「兄様こそ・・・人の話を聞かない、その歪んだ性格を治して差し上げますわ。

アキト様・・・そして皆様、兄様の相手は私が致しますので、手出しは無用に願います」

 

 

クレアの力のこもった言葉に、アキト達は頷くことしかできなかった・・・・

 

 

「お前達、これは兄妹間の問題だ。手出しをするな。

それと、あいつらを足止めしていろ。特にあの犯罪者は、卑怯な手を使うかもしれんからな」

 

「兄様!まだそんな事を言うのですか!!」

「五月蠅い、お前は黙っていろ!!」

 

 

アルベルトとクレアの間に、もの凄い緊張感が満ちる・・・・・正に一触即発といった感じだった!

 

アキト達と自警団員達は、兄妹の戦いに巻き込まれないように、後ろに下がった・・・・

それをまっていたかのように、二人は得物を振るい始めた!!

 

 

「兄様・・・・その歪んだ根性と悪癖、今こそ叩き直します!!」

「やれるものならやってみろ!クレア!!」

 

 

こうして・・・・傍迷惑な兄妹喧嘩は開始された。

アルベルトとクレアの武器が、唸りをあげて襲いかかる!!

 

二人の武器は長刀なぎなたとハルバート・・・・・どちらも長柄の武器であるゆえに、

二人を中心とした辺りの空間は、非常に危険な地帯と化していた!!

 

 

「限りなく危ない兄妹喧嘩だな・・・・・」

「あれが兄妹のコミュニケーション・・・・なのかな?」

「それはちょっと・・・・違うような・・・・」

 

「でも、ボクどっちを応援したらいいのかな?お父さんの部下であるアルベルトさん?

それとも、友達のクレアさん?う〜ん・・・・」

 

 

微妙な問題を、真剣に悩むトリーシャに、アキトが声をかける。

 

 

「思うがままでいいんじゃないかな?リカルドさんはリカルドさん、トリーシャちゃんはトリーシャちゃんなんだし・・・・」

「う〜ん、そっかぁ・・・・だったら、クレアさん、頑張れ〜!!」

 

 

トリーシャの脳内にあった天秤は、クレア・・・・つまり、ジョートショップ側に傾いたようだ。

その天秤に、どういう思い、又は感情が乗っていたのかは・・・本人しか知らない。

 

 

「しかしアキトよ・・・実力はどっちが上なんだ?」

 

「アルベルトの方が強いよ。伊達にリカルドさん直属の部下じゃない。

俺の見立てでは、アルベルトの七割から六割程度で、クレアちゃんはやっと互角という所かな?」

 

「ゲゲッ、マジかよ・・・・」

「と言っても、その程度の差だったら、戦いようによってはどうとでもなるけどね・・・」

「戦いよう・・・だったら、クレアさんはどう戦ったらいいのかな?アキト君」

 

「シーラちゃんと基本は同じだよ。持ち前のスピードを活かす戦闘をすること。

アルベルトは力押しのタイプだからね、力勝負には絶対に持ち込まないこと。

相手と同じ条件で戦うことなく、自分の特技を活かすことは、戦闘の基本だよ。

なにも腕相撲をしているわけじゃないんだから、力に対抗して力で行くことはないよ。

技、速さ、魔法、それに武器・・・色々と、対応手段はあるはずだから。ほら」

 

 

アキトはクレアを指差す。

クレアは、アルベルトのハルバートを余裕をもって避けながら、

その攻撃の合間を縫うようにして自分も攻撃を繰りだしていた。

 

それだけを書くと、アルベルトの攻撃が遅いように感じるのだが、実際はそうではない。

ハルバートという重量級の武器でありながら、その速度はアレフの剣速よりも上。

 

ただ・・・クレアの組み手の相手が、尋常ではない実力者であるアキトだったため、

クレアにとってアルベルトの攻撃の速さは、驚異的なものでなくなっていたのだ。

 

 

「だったら、クレアのことは気にしなくてもいいな。それに・・・・俺達もそろそろ運動タイムみたいだし」

 

 

アレフの言うとおり、自警団員アルベルトの配下が、クレア達を避けるように迂回し、アキト達に近づいてきていた。

アルベルトの言いつけ通り、足止めをするつもりなのだろう。

 

 

「さぁ〜て・・・・一つ相手になってやるか!クリス、サポート頼むぜ」

「う、うん、頑張るよ、アレフ君」

 

「シーラさん、ボクが援護するから頑張ってね!」

「うん・・・・でも、いいの?トリーシャちゃん」

「いいのいいの!お父さんはお父さん、ボクはボクだからね!だから一生懸命頑張るよ!」

「ええ、お願いね」

「任せて!!」

 

 

クリスとアレフペア、そしてシーラ・トリーシャペアは、それぞれこちらを威嚇してくる自警団員に向かって構えた。

 

 

状況は二対一の戦いといったところ・・・それが二組だった。

 

すぐさま戦闘に入る二組!

 

シーラとアレフは前衛に立ち、正面から自警団と戦い、

クリスとトリーシャは、そんな二人が戦いやすいように、魔法を使ってフォローしていた。

 

だが、さすがアルベルト配下というところか・・・二対一という状況下でありながらも、なんとか奮戦していた。

 

 

 

そして・・・戦いの流れに乗り遅れたアキトはというと・・・・その場に立ちつくしたままだった。

少なくとも、表面上は・・・・・・

 

皆の戦闘を見ていたアキトが、不意に口を開く・・・・・

 

 

「そこで見ているだけだったら、こっちに来たらどうですか?」

「・・・・・・やっぱ気づいてたのかよ。隠れ甲斐がねぇな」

 

 

アキトの後方にあったしげみから、一人の男が立ち上がった。

 

 

 

 

(その2へ・・・・・・)