悠久を奏でる地にて・・・

 

 

 

 

 

第19話『出会えた君に祝福を・・・《中編》』

 

 

 

 

 

 

エンフィールドの西にある山岳部にて・・・

リカルド達が雷竜サンダー・ドラゴンと戦闘を開始したのと時を同じくして、司狼達も火竜ファイアー・ドラゴンとの戦闘を開始していた!!

 

 

「こんにゃろっ!!」

 

 

司狼の鋭い剣撃が、火竜の胴体部に見事に決まる!!

 

―――――だが!!

 

 

「やっぱだめか!」

 

 

火竜の胴体には、一筋の傷が出来上がったのみ・・・いうなれば、鱗に傷を付けただけ。

内部・・・肉体にはまったくダメージを与えてはいない!!

 

 

「まったく!ドラゴンの鱗ってヤツは・・・たちが悪いぜ!」

「司狼様!!気をつけてくださいませ、武器が壊れてしまいます!」

「わかっている、クレアも気をつけろよ!」

「重々承知しております」

 

 

司狼の武器は刀、そして、クレアの武器は長刀なぎなた・・・どちらも、相手を斬ることを重視したもの。

ゆえに、その刃は薄く、鋭利ではあるものの、その反面、脆く、欠けやすいと云う欠点があった。

 

人を相手にするのであれば、硬い防具の隙間などを狙い、中身を斬ればいいだけなのだが、

ドラゴン相手だとそうもいかない・・・何せ、全体の半分以上が鱗で覆われているのだ。

 

比較的柔らかい事から、防御力が低いと思われる腹部や関節などに攻撃を繰り返してはいるものの、

その効果はさっぱり・・・現に、攻撃を繰り返したクレアの長刀なぎなたは、かなり刃こぼれをおこしていた。

 

ただ・・・不思議なことに、クレア以上に攻撃を繰り返している司狼の刀は、刃こぼれ一つおこしていなかったが・・・

 

 

「チッ・・・やっぱり、このままじゃ・・・」

《リィィ……ン》

「わかってるって『深雪』、でもな・・・」

《リィィィン…リィィィン》

「わかった、わかったって!!いざとなったら『深雪』にも手伝ってもらうよ」

《リィィィ…ン》

「はいはい・・・っとと」

 

 

司狼は、轟音を立てながら襲いかかってくる火竜ファイアー・ドラゴンの尻尾を、後ろに跳んバック・ステップで避けると、

改めて愛刀『深雪』を握りしめ、気を引き締める・・・

 

 

「できる限りやってみてからの判断だけどな・・・シーラ、前に出すぎだ!後ろに下がれ!」

「はい!」

 

 

身の軽さを利用して、火竜ファイアー・ドラゴンの攻撃を避け、注意を引きつけていたシーラは、

司狼の注意に従い、素直に少し後方へと下がった。

 

 

「クレアとシーラはヤツファイアー・ドラゴンの注意を引きながら攻撃!決して無理はするな!

マリアは後ろから魔法でみんなを援護!間違っても俺達には当てるなよ」

 

「わかりました」

「はい!」

 

 

司狼の指示に、クレアとシーラは即座に返事をし、行動に移す。

だが、やっぱりというべきか、派手好きな少女は素直に従うことはなかった!

 

 

「マリアに向かってなんて事いうのよ!」

「俺の本音だ」

「ぶ〜☆」

「ブーたれてないで、さっさと援護しろ!」

「援護じゃなくて、大きな攻撃させてよ!マリアの魔法だったら・・・」

「馬鹿なことぬかすな!マリア程度の魔法で傷つく相手じゃねぇんだぞ!」

「なによ〜、見てなさい・・・ニードル・スクリーム!!」

 

 

マリアの並外れて大きい魔力と魔力許容量キャパシティの所為か、

放たれたエネルギー針の嵐ニードル・スクリームは、通常の数倍もの威力で荒れ狂う!

 

しかも、珍しいことに制御も完璧!効果範囲にのみ、その猛威をふるっていた。

・・・だが、鍛えられた鋼以上の硬度をもつ竜の鱗の前に、

マリアの放ったエネルギー針は文字通り歯が立たず、あまつさえ、当たる先から次々に砕け散っていた!!

 

 

「そんな!マリアの魔法が!」

『痒いな・・・攻撃とは、こうするのだ!!』

 

 

火竜ファイアー・ドラゴンがマリアに向き直り、息を大きく吸い込む!

 

 

「てめぇの相手はこの俺だ!剣衝・風牙!!」

 

 

司狼の振るった刀より放たれた衝撃波が、火竜ファイアー・ドラゴンの背に衝突する!!

が、それすらもドラゴンの肉体に傷を付けるこなく、弾かれて消滅した!!

 

 

『邪魔をするのか・・・ならば、まず貴様から相手をしてやる!!』

 

「上等!かかってきやがれ!!」

(アレも効かないのかよ!なんて身体してんだ!!)

 

 

威勢良く啖呵を切った司狼だが、内心では剣衝・風牙渾身の衝撃波をまともに喰らいながらも、

傷一つ負わずに平然としている火竜ファイアー・ドラゴンに、少々焦りを感じていた!!

 

斬撃ではなく、打撃系の技ならば、内部に衝撃によるダメージがあるかと考えたのだが、

司狼は、魔獣や幻獣の中でも最強種であるドラゴンの肉体強度を少々甘く見すぎていたのだ。

 

 

(チッ・・・こっちは一撃でも喰らえば洒落にならないってのに・・・)

 

 

幸い、マリアを除いた皆は、スピード重視の戦闘スタイルの為、

火竜ファイアー・ドラゴンの大振りな一撃に当たることはまず無いと言ってもいい。

だが、その代わりにというべきか、決定的な攻撃力に乏しいのも、また事実であった。

 

司狼は刀、クレアは長刀なぎなた・・・シーラにいたっては、蹴り技主体の格闘技。

マリアの魔法は・・・竜を倒せるほどの魔術を求めるには、まだまだ未熟すぎる。

そもそも、竜を倒した魔術師など、長い歴史上にもそうそうはいない。

 

 

「くそっ、打つ手無しかよ!」

 

 

火竜ファイアー・ドラゴンの攻撃を避けつつ、幾度となく攻撃を繰り返す司狼。

だが、その努力も虚しく、全ての攻撃は、火竜ファイアー・ドラゴンの鱗を傷つけるだけに終わっていた。

 

セオリーというか、同じ箇所を狙って何度も攻撃を繰り返しているのだが、

貫くまでに、後、何十回掛かるかわかりはしない。

 

―――――その時!

 

 

「あっ!!」

 

 

耐久力の限界か、クレアの長刀なぎなたの刀身が、バキンッ!という音と共に、微塵に砕け散ってしまった!!

いきなりの事態に硬直するクレアに向かって、火竜ファイアー・ドラゴンが右腕を振り上げ、押し潰そうとする!

 

 

「クレアさん、危ない!ルーン・バレット!!」

 

 

シーラが放ったルーン・バレットが、火竜ファイアー・ドラゴンの顔面に当たり、ほんの僅かな時間、動きが止まった!

その隙に、クレアも後方へと素早く下がった!

 

 

「シーラ様、ありがとうございます!」

「気にしないで。それに、クレアさんから習った魔法が役にたってよかったわ」

「とても見事な魔法制御でございましたわ」

 

 

どうやら、シーラはアキトに鍛えてもらっているほかに、クレアに魔法の手ほどきを受けていたらしい。

ピアノのレッスンや、仕事の休憩時間に教えてもらっているのだろうが・・・

覚えたてとは思えない、見事な魔法だった。

 

 

「クレアにシーラ、二人とも後ろに下がってマリアと一緒に魔法で援護してくれ!!」

「わかりました!」

「はい!!」

 

 

シーラとクレアは司狼に返事をすると、それぞれ別方向に下がった。

丁度、マリアとシーラ、クレアの三人を線で結ぶと、火竜ファイアー・ドラゴンを中心に三角形を描くように・・・

 

 

「マリア様、シーラ様、足元を凍らせます!」

「わかりました!」

「地味でなんか嫌だけど・・・わかった」

 

「「「アイシクル・スピア!!」」」

 

 

それぞれ三人が放った氷の槍アイシクル・スピアが、火竜ファイアー・ドラゴンの足元の大地に突き刺さり、脚と大地とを一緒に凍りつかせた!

一時的とはいえ、自由を失う火竜ファイアー・ドラゴン

その期を逃さず、司狼は刀を、今度は大きく右に振りかぶった!!

 

 

「これならどうだ!!剣衝・風牙三連!!」

 

 

司狼の放った三連続の衝撃波は、火竜ファイアー・ドラゴンの胴体部にまともに当たる!!

その凄まじい衝撃波に、火竜ファイアー・ドラゴンの鱗がかなり削られる!

だが、それでもその内部・・・肉体までは達していない!!

 

 

「畜生!こいつでもまだ駄目か!」

『いや、効いたぞ・・・おかげで、目が覚めたわ!』

 

 

身じろぐことによって足元の氷を砕きながら、火竜ファイアー・ドラゴンは強烈な眼光で司狼達を貫く!!

魔獣や幻獣の中でも、最強種に位置付けられるドラゴン族・・・

さらにその中でも、もっとも気性の荒く、殺戮本能の塊と云われる火竜ファイアー・ドラゴンの眼光は、

生物の奥底に眠る原始の恐怖を呼び覚まさんばかりだった。

 

 

(こいつは・・・本気マジでやばい!!)

 

 

自分達の中途半端な攻撃で、火竜ファイアー・ドラゴンの本能が目が覚めたことを知った司狼は、

刀を・・・『深雪』を強く握りしめた。覚悟を決めつつ!!

 

 

―――――その時!!

 

リカルド達の居る方向から、雷を帯びた衝撃波が襲いかかってきた!!

 

 

「なんだっ!?」

「「きゃあっ!!」」

 

 

それなりに距離があったためか、司狼達は軽く吹き飛ばされただけで、酷い怪我はなかった・・・

が、帯びていた雷の所為で、司狼以外は一時的な麻痺状態に陥っていた。

 

 

『咄嗟に手持ちの武器を地面に突き刺し、電撃を大地に逃がしたか・・・面白い』

「偶々だよ・・・(チッ、それでも少し痺れたか・・・手足の反応が鈍い・・・)」

 

 

司狼は大地に突き刺した刀を引き抜き、眼前まで持ち上げる。

手足の痺れは戦闘ができない程度ではないが・・・無視できるというレベルではない。

 

 

「後の厄介事が面倒で、できるなら使いたくなかったんだが・・・そうも言ってられないようだ」

 

『ほう?奥の手があるようだな・・・そんな状態の貴様を殺すのはつまらんと思っていたところだ。

見せてみるが良い、その奥の手を・・・

今度迎える戦いを、乗り越えられるほどの力か否か、我が見極めてやろう!』

 

「待て、今度迎える戦いって何だ!お前等は一体・・・」

 

 

司狼の問いに火竜ファイアー・ドラゴンは答えることなく、大きく息を吸い込む!

その口から溢れ出る炎から、間違いなく『炎の吐息ファイアー・ブレス』だろう!

 

司狼は何も答えることのない火竜ファイアー・ドラゴンに舌打ちすると、刀を大上段に構え、精神を集中する・・・

すると、刀がぼんやりと輝き始め、刀身全体から白い煙のようなものが発生しはじめる!!

 

 

―――――その時!!

火竜ファイアー・ドラゴンの右後方から氷の槍が飛来し、先程と同じように大地と脚を凍りつかせた!

 

 

司狼が驚いてそちらの方向を見ると・・・そこには、何とか立ち上がっていたマリアの姿があった。

位置的に、火竜ファイアー・ドラゴンが盾となる形で衝撃波を防いだ為、被害が少なかったのだろう。

 

おそらく、火竜ファイアー・ドラゴンと対峙する司狼をフォローしようとしての行為なのだろう。

だが、少しばかり、タイミングが悪い!

 

戦いを邪魔されたと感じた火竜ファイアー・ドラゴンが振り向き、攻撃目標を司狼からマリアへと変えた!!

 

 

『人間の小娘如きが!我の楽しみを邪魔するな!』

 

 

火竜ファイアー・ドラゴンの吐きだした超高温の炎が、地面を溶かしながらマリアに襲いかかる!

今だ完全に痺れが抜けきっていない上に、運動が得意ではないマリアには、逃げきることができない!!

 

 

 

それを見た司狼は・・・迷いなく、愛刀『深雪』に語りかけた。

 

 

「深雪、頼む」

《ええ…任せて、司狼》

 

 

司狼の持つ刀より、鈴を転がしたような綺麗な声が響いた直後、

マリアの前に、巨大な氷柱つららが地中より出現し、盾となって火竜ファイアー・ドラゴンの炎を真っ二つに切り裂いた!!

 

 

『たかだか氷の塊如きに、我が炎が遮られるとは!』

「その程度の炎で、私の氷は溶かせませんよ・・・」

 

 

声が辺りに響いた瞬間、マリアの前にあった氷柱つららが四散し、その中より一人の女性が姿を現した。

 

年の頃は十五、六・・・透き通るような白銀の髪に、漆黒の瞳をもち、

東方風の白い服・・・着物を着た、涼しげな雰囲気を纏った、人とは思えないほどの絶世の美少女・・・

 

その少女は、火竜ファイアー・ドラゴンからマリアを庇うように立っていた。

 

 

「大丈夫ですか?」

「う、うん・・・ありがとう」

「お礼なら司狼に・・・私はただ、頼まれたから守っただけですので」

「で、でも・・・直接助けてくれたんだし・・・」

「そうですか・・・」

「うん・・・」

 

 

マリアの態度に好感を抱いたのか、着物を着た少女は、優しげな微笑みを返した。

その顔を見たマリアは、母親に褒められたような錯覚を感じ、恥ずかしくなって俯いた・・・

 

そんな微笑ましい光景を見ていた司狼は、少女・・・深雪の態度に、嬉しそうな顔をした。

 

 

「(俺以外にあんな顔をする深雪は久しぶりに見るな・・・良かったな、深雪・・・)

さて・・・そこのでっかいトカゲファイアー・ドラゴン、これ以上は超過勤務なんでな。そろそろ終わりにするぜ!」

 

 

冷気を発する刀を構えた司狼は、火竜ファイアー・ドラゴンに向かって疾走する!!

それに気がついた火竜ファイアー・ドラゴンは、振り向き様、炎の吐息ファイアー・ブレスを薙ぐように吐く!!

 

 

「ハッ!ぬるいぜ!!」

 

 

怒濤の如く襲いかかる炎の津波を、司狼は刀の一薙ぎだけで斬り裂いた!!

しかも、業火によって灼熱した大地も、その一撃によって発生した冷気の衝撃波に、瞬く間に凍りついた!

 

 

「すごい・・・」

「あのような事ができるのは、アキト様ぐらいだと思っていました・・・」

 

 

やっと痺れが抜け、何とか立ち上がりながら見ていたシーラとクレアが、司狼の行為に呆然としていた・・・

先程から見ているマリアも同様・・・ただ、深雪という少女のみ、至極当然という表情であった。

 

 

『我が炎がたった一撃で!!』

「力を解放した深雪の宿るこの刀に、斬れない存在モノはそうそうないぜ!!」

 

 

司狼の一撃が、火竜ファイアー・ドラゴンの右腕をいとも容易く斬り落とす!!

先程までとは比べ物にならないほどの切れ味に、シーラ達は再び目を見開いた!

 

 

『ガァァアアアアーーーッ!!』

「これで最後だ!」

 

 

跳躍した司狼は、身悶える火竜ファイアー・ドラゴンの眉間に刀を突き立てると、宿る力の一部を解放した!

 

 

「相羽流・封神剣・・・絶対零度!!

 

 

眉間の突き立てられた『深雪』の刀身より放たれた凄まじい冷気が火竜ファイアー・ドラゴンに流れ込み、内部より凍てつかせる!!

 

大地すら溶かし、焼失しない物質などほとんど無いとまで云われる炎を生み出す火竜ファイアー・ドラゴン・・・

その様な存在を問答無用で凍らせる冷気・・・まさしく、絶対零度そのものだろう!

 

 

『我が・・・凍らせられるとは・・・恐ろしき力よ・・・』

 

 

その言葉を最後に、火竜ファイアー・ドラゴンの身体は氷に包まれ、粉々に砕け散った・・・

竜の肉体の破片を含んだ氷塊が、大地の上に散乱してゆく様を、司狼は静かに見ていた・・・

 

 

「相羽流・封神剣・・・神を己が武器に封印し、その力を利用する・・・最低の技だ。

俺がすごいんじゃねぇ・・・深雪の力がすごいんだよ・・・」

 

「そんなに卑下する事はないと思いますけど?」

「深雪・・・」

 

 

司狼のすぐ傍に姿を現した深雪が、優しげに微笑んだ・・・

 

 

「私の力を扱っているのは、貴方自身の技量・・・自信を持ってください。

それに、今まで何度も言いましたが、私は自分の意志で貴方と共にいるんです。

封印とか、利用しているとか・・・そんな悲しいことは言わないでください・・・」

 

「わかっている・・・つもりなんだけどな。すまない、深雪・・・」

 

「いいえ、気になさらずに・・・

貴方が嫌悪しているのは、それすらも気がつかない・・・いえ、理解しようともしない、あの連中なのですから。

ですが、これで知られたかもしれませんね」

 

「たぶん・・・いや、確実にな。そう遠くない日に、奴等は来る」

「そうですね・・・気をつけてください、司狼」

「ああ、わかっている。心配をかけてばかりですまないな、深雪」

「お気になさらずに・・・では、私はもどります」

「そうか・・・ありがとうな」

「貴方の役に立てるのが。私は何よりも嬉しいです、主様・・・」

 

 

司狼の礼に、深雪は嬉しそうな笑顔を見せながら、その姿を消した・・・

 

 

「司狼様?先程の女性は・・・」

 

「ん?ああ、クレアは・・・というか、みんなああいう形で会うのは初めてだよな。

彼女の名前は深雪。俺の刀に宿って・・・いや、住んでいる。俺の何よりも大切なパートナーだ」

 

「そうだったのですか・・・」

「そんな事、まったく知らなかった・・・」

「マリアも・・・」

 

「そりゃ仕方ねぇさ。秘密にしてたしな。ああやって姿を現せるのも、エンフィールドでは初めてだし・・・

それに、深雪の事を知っているのは、ノイマン隊長うちの親父とリカルド、それにアキトぐらいだしな」

 

「ほう?アキト君も知っていたのか。それは初耳だな」

 

 

シーラ達が声がした方向を向くと、そこにはこちらに歩いてきたリカルド達がいた。

司狼達の戦闘が終わるのがほんの少し遅かったため、リカルド達の方から近づいて来たのだ。

 

一名を除き、全員無事なようで、自分の足でしっかりと歩いていた。

 

 

「ええ。しかも、一目で深雪の存在を見抜きましたよ」

「うむ・・・自分で気がついたか。さすがだな」

「正直、俺もビックリしましたけどね・・・それよりも、リサ、パティは大丈夫なのか?」

「ああ、ただ単にぐっすりと眠っているだけさ」

「パティちゃん、何かあったんですか?」

 

 

リサの背中に背負われているパティを心配して、シーラは軽く容態を見ながらリサに尋ねた。

クレアとマリアも心配らしく、何も言わないが、問いかけるような視線でリサを見ていた。

 

 

「さぁね・・・実のところ、私達にも原因はさっぱりさ。

わかっているのは、パティの持っている棍が原因の一つだって云うこと・・・

そして、パティは何の異常もなく、ただ単に眠っていることぐらいさ」

 

 

リカルドが雷竜サンダー・ドラゴンを一刀両断した後、パティは崩れ落ちるように大地に倒れ、そのまま目を覚まさないのだ。

リサはただ単に寝ているだけ・・・と言ったものの、本当は軽い衰弱症状にあった。

しかし、二日程、仕事を休んで静養すれば治る程度なので、特に問題はないと言ったのだ。

 

 

「何はともあれ、重傷者がでなくて何よりだ」

 

「そうだな・・・後は、アキトだけだ。

援護しに行くにも、疲れきった今の俺達じゃあ、足手まといになるだけだしな・・・」

 

 

司狼はそう言うと、アキトとトリーシャが閉じ込められている漆黒の結界に目を移した・・・

リカルド達も同様に・・・

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

時は遡り・・・

 

 

積層型の魔法陣結界魔法陣が積み重なって作り上げた結界によって隔離されたアキトとトリーシャ・・・

 

 

隔離結界が完成した直後、一瞬だけ視界が暗闇に覆われたものの、その後は何も変わりはなかった。

そう・・・周囲の光景も・・・一切、何も変わってはいなかった。

隔離される前と、まったく同じ光景が、アキト達の目の前に存在していた。

 

 

「・・・次元をずらした・・・いや、次元をずらした異空間を創生したのか・・・

なるほど、確かに、これなら仲間に迷惑はかからないな・・・」

 

『ほう?一目でこの結界の特性を見破るか』

 

「ああ、俺の知り合いに、似たような結界を創る人がいてな・・・

それより、時間が勿体ない、早く始めようか・・・」

 

『そう急くこともあるまい・・・せっかちな人間だな』

「今日という日はもう半分以上終わっているんだ・・・これ以上、くだらない事に時を費やすつもりはない!」

 

 

アキトは右手に持っていた赤竜の大剣グレート・ソードを持ち上げると、その切っ先を神竜王に突きつけた!

それに伴い、たかる闘氣が身体より立ち上り、渦巻き始める!

 

 

『・・・御主ほどの人間がそこまでするのは、そこの娘のためか?』

「そうだ・・・トリーシャちゃんは、絶対に助け出す!!」

『我らの言葉は全て娘にも聞かれておるのだぞ?』

「それがどうした?」

『御主・・・鈍いの・・・』

 

 

神竜王は、何を言いたいのかわからない・・・という表情をしているアキトを、呆れを含んだ視線で見た後、

光球の中で、顔を赤くしているトリーシャを見た。

 

 

アキトは・・・

今日は、普段から親に甘えることなく、家事などに勤しんでいるトリーシャの誕生日・・・

本当なら、親のリカルドや、大切な友達に祝ってもらい、楽しくパーティーでもしているだろう。

それなのに、リカルドは娘よりも仕事を優先させ、当のトリーシャはドラゴンに囚われている・・・

普段から健気に頑張っている娘なのだ。こんな不幸な誕生日を迎えて良いはずはない!!

 

・・・・・・そう、考えていた。

 

 

だが、しかし・・・トリーシャから見れば、ドラゴンに囚われた自分を、アキトが命懸けで助けてくれる・・・

まるで、お伽噺によくある『囚われのお姫様』を実際に再現している様なものなのだ。

 

その様な状況下、男性に『絶対に助け出してみせる!!』などと面を向かって言われれば、顔も赤くなるだろう。

それも、相手が最近気になる男性アキトならば尚更である・・・

 

だが・・・まあ、やはり鈍感王の上に超が付くアキト・・・

自分の言った台詞、行動にどんな効果があるのかを、まったく理解していない。

 

 

『・・・・・・(何というか・・・ここまで鈍いと、いっそ哀れだな・・・)』

 

 

神竜王はあからさまにため息を吐くと、改めてトリーシャに目を向けた。

すると、トリーシャを閉じ込めていた光球は、音もなく浮かび上がり、奥の方へとフヨフヨと飛んでゆき、

離れた所にあった大岩にあたり、止まった。

アキト達との距離は、約百メートル少々といったところか・・・

 

この距離を近いと見るか、それとも遠いと見るか・・・

少なくとも、不安げに見ているアキトにとって、その距離は近い方になるらしい。

 

 

『さあ・・・始めようか!』

「ああ・・・」

 

 

赤竜の大剣グレート・ソードを両手で握りしめ、凄まじいほどの氣を練り上げるアキト。

しかし、それに対して神竜王は、訝しげな視線を送るのみだった・・・

 

 

「いくぞっ!!」

 

 

言うや否や、アキトの姿は忽然と消え、直後、神竜王のふところ近くに出現した!!

そして、アキトは神竜王の首筋に向かって、大剣グレート・ソードを振るった!!

 

 

一刀両断!

神竜王の首はいともあっさりと切断され、胴体と首が分断される!!

 

 

・・・・・・と、遠くで見ていたトリーシャは、信じて疑わなかった。

 

だが・・・現実は、予想通りになるとは限らない!!

 

 

ギィィーーン!!

 

 

振るわれた赤竜の大剣グレート・ソードは、神竜王の首に受け止められていた!

神竜王の身体を覆う虹色の光・・・それが、アキトの一撃を完全に受け止めたのだ!

 

虹色の光と赤き刃は、形容しがたい音と弱い閃光を発しながら拮抗している・・・

つまり、神竜王の肉体・・・いや、鱗にすらとどいてはいない!

 

 

「―――――ッ!!」

 

『その様な、形だけ取り繕ったような中身のない剣で行う攻撃など、避けるまでもないわ。

頭でも冷やすが良い・・・存分にな!』

 

 

神竜王の周囲に、二十近い空間の歪みが発生し、

その中心より数えきれないほどの氷の槍が、凄まじい勢いで放たれる!

 

アキトは神竜王の首をけり、後方へと跳び下がって、氷の槍の群を避けた!

だが、大地に着地したアキトを狙い、一斉に氷の槍が襲いかかる!!

その数は千にも及び、まるで津波か何かのように押し寄せる!

 

 

(全てを迎撃するほどの力を溜める時間がない・・・剣での迎撃は不可能。ならば!)

 

アキトのイメージに従い、剣を形成していた赤竜の力が、赤い盾へと変化する!

そして、中央に填め込まれている蒼銀の宝玉が輝き、赤光の防御膜を展開した!!

 

ガガガガ!!

 

赤い光の天蓋ドームに衝突した氷の槍が、破砕音と共に粉々に砕け散った・・・

 

氷槍の攻撃がやみ、盾を剣へと戻したアキトは、油断なく神竜王に向かって構える・・・

神竜王はその様子を、追撃することもなくただ黙って眺めていた。

 

 

 

『少しは力を篭めたようだな・・・だが、まだまだその程度では話にならん。

我が常時纏っている竜氣すら突破できぬわ』

 

「・・・・・・」

 

 

神竜王の言葉に、アキトは何も言うことがなかった・・・

実際、アキトが今持っている赤竜の大剣グレート・ソードは、僅か数瞬で具現化させたもの。

見た目的には大きいのだが、使われている力の容量はそこそこ・・・はっきり言って常時より少なめ。

ルナのように熟練すれば、より短い時間で強力な武具を創れるのだが・・・アキトはそのレベルまで達していない。

 

しかし、今の赤竜の剣の状態でも、並の魔剣や神剣より強力・・・なのだが、今回は相手が強すぎるのだ。

 

 

『全力も出さずに我に勝とうというのか?だとすれば随分と見くびられたものだな・・・』

「・・・・・・」

 

 

アキトは反論することなく、ただ黙って赤竜の大剣を握りしめた・・・

そして、内にある神の力・・・赤竜の力を、本格的に呼び起こした!!

 

 

「別に・・・手加減しているわけじゃないし、して勝てる相手じゃないのもわかっていた・・・」

 

 

アキトの体より発せられる暁の如き眩い光!

それら全てが、赤竜の大剣グレート・ソードに吸収され始めた!!

 

 

「俺は・・・全力でこの力を使うのを、心の何処かで躊躇していた・・・」

 

 

赤い光を吸い込むに従い、赤竜の剣の刃がさらに鋭くなり、刀身に金の紋様が浮かび始める・・・

しかし、大きさは一回りほど小さくなっていた・・・

 

だが・・・無意味に小さくなったという感じではなく、力が凝縮した・・・という印象を受ける。

 

 

「徐々に・・・だが、確実に強くなってゆく赤竜の力・・・

底知れない可能性を秘めたこの神の力が、怖かったのかもしれない・・・だが・・・」

 

 

赤竜の力を恐れる・・・それは、自分を信頼し、助けとなるよう、赤竜の力の欠片を託してくれた女性・・・

ルナ・インバースを信じないということになる・・・

 

 

(この力は、ルナさんから譲り受けた大切な力・・・信じないでどうする)

 

 

そう、アキトは心の中で呟いた・・・

同時に、ルナとの色々な事を思い出したのか、優しげな微笑をうかべるアキト・・・

 

神竜王は、アキトの体から発せられる赤い光が強くなってゆく様を、面白げに見ていた。

 

 

『ようやく本気を出す気になったか・・・だが・・・』

「・・・・・・??」

『その蒼銀の光は飾りか?』

「―――――ッ!!」

 

 

アキトは驚きに目を大きく見開いた!

今現在、アキトは昂気を発動させていない・・・少なくとも、視認できるレベルでは・・・

 

それでも昂氣が見えるということは・・・神竜王は、特殊な眼をもっていることになる・・・

精神世界面アストラル・サイドという、特殊な世界を見る眼を・・・

 

 

『まだ全力を出さぬつもりならば・・・』

 

 

神竜王は首を曲げ、顔を左の方向に向けた。

その先には・・・大きな岩壁と、光球に閉じ込められているトリーシャがいた!!

 

 

『出さざるを得ない状況を作り出すのみ!!』

「―――――貴様っ!!」

 

 

神竜王の意図に気がついたアキトは、その行いを阻止すべく、身を低くして飛びかかろうとする!

だが、すでに時は遅く、神竜王の眼前に、虹色の光が集束し、光球を形成していた!!

 

 

『さあ!御主の本気を見せてみよ!!』

 

 

その言葉と共に、虹色の光球は一際輝き、一条の閃光レーザーを解き放つ!

綺麗な外見とは裏腹に、凄まじいエネルギーを秘めた虹色の奔流!

 

トリーシャは、自分に迫り来る閃光を見て、恐怖のあまり、目を瞑った!

 

 

(お父さん!アキトさん!!)

 

 

何も見えない・・・いや、見ることを拒否した暗闇で、一心に助けを求めるトリーシャ・・・

その求めに応えるかのように、死の恐怖すら吹き飛ばす、力強い咆哮が辺りに響き渡る!

 

 

「させるかっ!!」

 

 

トリーシャは驚きに目を開けると、そこには赤竜の大剣グレート・ソードで、

虹色の光の奔流を受け止めている、アキトの姿があった!!

 

しかも、アキトの体からは、蒼と銀の、不可思議な色の光が力強く放たれていた!

 

 

「ア、アキトさん!」

 

「――――――――――カァッ!!」

 

 

裂迫の気合いと共に、赤竜の剣が紅く光り輝き、虹色の閃光を真っ二つに斬り裂いた!!

 

それを見た神竜王は、満足げに頷いていた。

 

 

『たいしたモノだ・・・それでこそ、闘いがいがある』

 

「・・・・・・本気の俺と闘いたいのならそう言え・・・トリーシャちゃんを巻き込むな!!」

 

 

そう言うと、アキトは後ろに振り返り、トリーシャを閉じ込めている光球を赤竜の剣で斬った。

 

(なんだこの硬さは・・・これだったら・・・)

 

光球を斬った手応えに、少々・・・いや、かなり疑問を抱いたアキト・・・

そんな思いを余所に、光球が消滅した事によって自由になったトリーシャは、すぐさまアキトに駆け寄った。

 

 

「アキトさん!」

「怪我はない?トリーシャちゃん。怖かっただろ?もう大丈夫。だから安心して」

「うん・・・」

 

 

開放され、安堵したのか、涙目になっているトリーシャに、アキトは優しく微笑みながら頭を撫でた。

少しでも落ち着くように・・・そして、安心できるように、と・・・

 

 

「御免なさい、アキトさん。ボクの所為でいっぱい迷惑かけて・・・みんなにも謝らなくちゃ」

 

「気にすることはないよ、トリーシャちゃん。これくらい、どうって事はないから。

きっとみんなも、トリーシャちゃんが無事だとわかったら、笑って許してくれるさ。絶対にね。

さ、ここは危ないから、もっと遠くに・・・できるなら、防護結界か何かを張って隠れてるんだ」

 

「うん・・・アキトさん、気をつけてね!」

 

 

トリーシャはアキトの言葉に素直に頷くと、さらに遠くにある岩壁の陰に隠れ、防御結界を作り上げた。

それを確かめたアキトは、位置をしっかりと記憶して、神竜王に向かって振り返った。

 

 

(おそらく、これ以上トリーシャちゃんへ手出しすることはないだろう・・・

だが、万が一ということがある、あっちに攻撃がいかないように気をつけないとな・・・

先程みたいな神竜王ヤツの攻撃を受け止めるのは、トリーシャちゃんの結界では荷が重すぎる・・・)

 

 

トリーシャに、戦闘の被害が及ばないよう心がけるアキト・・・

だが、その考えとは裏腹に、その必要がないことを、薄々と感じていた・・・

 

 

『もう良いな・・・ではいくぞ』

「ああ、待たせて悪かったな・・・礼に、望みどおり全力で行かせてもらう!!」

『望むところだ・・・それでこそ、我も目的を果たせるというものだ』

「目的だと?やはりお前は・・・」

『その様なことを気にする暇はないぞ!テンカワ・アキトよ!!』

 

 

神竜王の周囲の空間に、再び歪みが発生する。その数は全部で十五!

アキトはそれを、強力な魔力によって発生した副作用的なものだと看破する!

 

 

『これを如何にして避けるのか楽しみだ!ヤツを射抜け、雷光よ!!

 

 

全ての空間の歪みより放たれた十五乗の雷は、アキトに向かって殺到する!

しかし、本気を出したアキトにとって、雷を避けることなど、苦労するほどのものではない!!

 

空間に蒼い軌跡を描きながら、迫り来る雷を避けつつ、神竜王との間合いを詰める!!

 

 

「この程度でどうにかできると・・・」

『無論、思ってはおらぬよ』

 

 

背後から迫り来る何かを感じたアキトは、頭で考えるよりも先に、右に向かって跳んだ!

直後、アキトが居た空間を二条の雷が通り過ぎた!

 

 

「追尾型か!?」

『おしい・・・正解は、半自立型だ!』

 

 

神竜王の言うとおり、雷の群はただ単純に追尾するのではなく、

アキトの進行を妨げたり、回避先に回り込むなどと、複雑な動きを見せる!

 

しかし、アキトも黙って避けているわけではない!

赤竜の剣で、襲いかかってくる雷を次々に斬り裂き、消滅させる!

 

 

『襲いかかるものから迎撃し、その数を減らす・・・か。基本ではあるな。では、これではどうかな?』

 

 

再び神竜王の周囲に、二十個の空間の歪みが発生し、先程よりも強力な雷を放出する!

しかも、今度はアキトの周囲に散開し、一斉に襲いかかってきた!!

 

 

(下を除いた全方位攻撃・・・どうする?もう一度、盾で防御をするか?)

 

 

先程の手応えから、赤竜の盾による防護結界であれば、迫り来る雷を防御することは可能・・・

そう判断したアキトは、赤竜の剣を盾に変化させ・・・ようとして止めた。

 

代わりに、赤竜の剣を頭上に掲げた!

そして、昂氣蒼銀の光が収まり、代わりに赤竜の力赤い光が発生し、アキトを守るかのように渦を巻き始めた!

 

 

(わかる・・・俺の中にある赤竜の力の使い方が・・・今、何ができるのかを・・・

まるで、赤竜の力自身が、俺に語りかけているかのように・・・・・・)

 

無数の雷が赤い光の渦に接触し・・・絡め取られるかのように、その内に取り込まれた!

 

 

『―――――!!』

 

 

赤い光の渦に取り込まれた雷は、中心にある赤竜の剣・・・その刀身へと吸収される!

そして、最後の雷が吸収されると同時に、赤い光自身も刀身へと集束し、消え去った・・・

 

そして、光のおさまった後には、最初の構えのまま・・・雷光を帯びた赤い大剣を掲げた、アキトの姿が現れた。

 

 

「お前が放った雷・・・全部返すぞ!」

 

 

アキトは、凄まじい雷を纏った赤竜の大剣を、真っ直ぐに振り下ろした!

凄まじい雷のエネルギーを付与され、放たれた赤い閃光は、大地を切り裂きながら神竜王に襲いかかる!!

 

 

 

『―――――守護光盾!!』

 

 

神竜王の眼前に発生した虹色の光盾と、雷を纏った赤い剣閃を真正面から衝突する!

 

アキトの放った剣閃は、雷を幾つも束ね、さらには手加減のない剣閃を加えた一撃であるにもかかわらず、

神竜王の張った虹色の光壁は揺らぐどころかビクともせず、完璧に剣閃を防ぎきった!

 

 

『我の放った雷を吸収し、逆に返すか・・・』

「以前・・・似たような技をした人がいたんでな・・・」

 

 

アキトの言う、似たような技・・・というのは、リナが使った電撃系の黒魔術ダイナスト・ブラスを、

ルナが剣で受け止め、逆に絡ませて返した時の事を指していた。

無論・・・今回、アキトがやったような行為ではない。

 

先程、アキト自身が感じていた通り、赤竜の力がかなり馴染んできたのだろう。

力の使い方、応用、そして、今現在の限界を、自然と・・・違和感無く理解していた。

 

その為、先程の剣閃越しの感じた感触から、今の赤竜の力だけでは、

神竜王の張った虹色の光壁を突破できないことも、否応なく理解していた。

 

 

(赤竜の力だけでは無理・・・とすれば、答えは二つ・・・

その内の一つは、使えるかどうか・・・いや、使えない。となると・・・)

 

 

アキトは赤竜の武具の形状を変えようと、剣を持つ手に力を込める。

だが!アキトが思考している間に、神竜王は次の一手の準備を終えていた!!

 

 

『雷はうまくさばいたが・・・これではどうだ?』

 

 

神竜王の周囲の空間が三度みたび歪み始める!

強力すぎる魔力ゆえ、魔術が発動する際に空間が歪んでしまうのだろう。

しかし、それを逆にとらえれば、魔術の発動と発生場所が一目でわかるという利点がある。

 

もっとも・・・赤竜の力によって、『神眼見えない存在を見る力』を得つつあるアキトには、魔力の流れが見えていた!

 

 

(空間の歪みから炎が発生している。

集束の仕方や形状から判断して、複数の火球による攻撃・・・おそらく、暴爆呪ブラスト・ボムのような術・・・

そして、先程の雷の魔術から考えて、これも半自立型と考えるのが自然・・・だったら!)

 

 

アキトの左手に赤竜の力が集束し、赤い装飾銃となった!

そして、グリップを握りしめると、神竜王の周囲に発生した火球に狙いを定め、引き金を引いた!!

 

具現化させて引き金を引くまでの所要時間、僅か一秒と少々・・・まさに神速!

だが、速いのはそれだけではない!

 

 

ガガガガガゥゥン!!

 

連なった轟音と共に、銃口より射出された複数の蒼銀の弾丸は、二十近い火球を一つ残らず貫き、

火球の内に秘められていたエネルギーを無理矢理に開放させた!

 

それにより、術者たる神竜王は、巻き起こった劫火の炎に包み込まれる!!

 

 

『フン!なかなかやりおるわっ!!』

 

 

神竜王の軽い咆哮で発生した衝撃波によって、まとわりついていた爆炎が吹き飛ばされる。

それによって鮮明となった視界に、剣の柄だけを持ち、自分に向かって疾走するアキトの姿をとらえた!

 

 

 

(その2へ・・・)