機動戦艦ナデシコifストーリー

 <黒き牙を継ぎし者〜wolf・fang〜>

 

 

 

 第一話  

       『男らしく』でいこう  

          壱の章   〜NAMAE〜

 

 

 

 

 

 

休日の昼下がりの公園_____

 

それは普通、子連れの夫婦、男女のカップル、散歩をしている人々などで賑わい、人々の幸せが溢れる

和みの場である。

それも今のように5月という陽射しの暖かい時期ならば至極当然の事である。

そんな公園の一つであるサセボシティ中央公園で一人の青年がぐてっ、とした格好でベンチに腰掛けていた。

青年の年齢では標準であろう中背で、黒の上着に黒のスラックスという全身黒ずくめで、ぼさぼさの黒髪に

ひんやりと水気を帯びた青いスポーツタオルを掛けていた。

青年は隣に置いてあるペットボトルの蓋を開け、冷えたカフェ・オレをこくっ、喉に流し込む。

喉が潤ったためか少し気が楽になる事を感じながら水気を得た唇を開く。

 

「・・・・・なんっで、こうなるんだ?」

 

言って青年____テンカワ・アキトは再び気が重くなるのを感じた。

タオルを首に掛け直しながら太股に肘を置き頬ずえを突く。

 

(まず最初についてないと思ったのはここに・・・・・、地球にきちまった時だな・・・うん)

 

雲一つない青空を見上げながら胸中でぼやく。

 

(俺はこんな形で地球には来たくなかったんだ、まったく!

 おまけに身分証明するモンがなにもないからろくに働ける所がなかったし・・・・・・)

 

自分の第二の故郷____と、呼んでもいいだろう____で使っていた身分を証明する物は大事に取って

あるがそんな物が地球で使えるはずがなかった。

 

(せっかく見つけた住み込みのラーメン屋でのバイトはクビになっちまったしな、しかもついさっき)

 

アキトは現在の全財産であるオタマやコップがぶら下がっている異様に膨らんだリュックの方に視線だけを移す。

このリュックを背負って街をうろつくのはかなり抵抗があったのでこーやって暇を潰して、夜にでも活動しようと

思っているのだが・・・・・・・

 

(・・・・・・・・・・もしかして俺は見張られてンのか?)

 

現在進行形の不幸(?)であろう不審者の視線をアキトは林の中に感じていた。

 

(たくっ、中途半端な気配の隠し方しやがって。

 どうせ見張るんなら俺に気付かれないくらい完璧に気配を断てってんだ、まったく・・・・・・・)

 

自分に気付かれないほど完璧に気配を断てる能力を、こんな所で林の中に隠れている者に求めるのは無理

かな、と、思うがアキトはそんな考えを無視して残ったカフェ・オレをすべて飲み干す。

 

(どーせ、ろくな用件じゃないんだろーなー、隠れてるぐらいだし。それに・・・・・・)

 

ベンチの横にある立て札の『この林、立ち入り禁止』という自己主張の弱い文字を一瞥しながらリュックを手に

立ち上がる。

 

(立ち入り禁止の所に入るのってあんまり好きじゃないんだよなー、なんとなく・・・・・)

 

昔の経験上、そーいう所に入った時はロクな事がないという予感がした。

 

(・・・・・んでっ、俺の悪い予感ってあんまり外れた事ないんだよなー・・・・・はぁ)

 

背中から哀愁を漂わせながらアキトは林に足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「予感的中・・・・・・・・・・当たっても全然嬉しくないな」

 

呟きながら自分を囲むように____実際囲んでいるのだろう____立っているスーツ(もちろん黒)に

サングラスといういかにもそっち系の仕事してます、って感じの格好をした男達を見渡し、最後に自分の正面に

立っている女性に目をやる。

 

「そっちから来てくれた事に対してお礼を言うべきかしら?テンカワ・アキト君」

 

肩より少し上で黒髪を切り揃え、純白のスーツを見事に着こなしている女性はそう言った後、

エリナ・キンジョウ・ウォンと名乗った。

 

「単刀直入に言うわ。テンカワ・アキト君、私はあなたをスカウトしに来たの。

 ・・・・いえ、どちらかと言うと取引かしら、言っておくけど悪い話じゃないわよ」

 

男すべてを魅了できるほどの美しい笑みを浮かべながら言う。

だが厳つい男達に囲まれているアキトは魅了されるでもなく、ため息を吐きながら近くの木の方に寄る

____周りの男達が懐に手を伸ばすのを視界の端で捉えたが、大して気にせず持っていたペットボトルで

木の幹をコンコンと、軽く叩き始める。

 

エリナはしばらくそれを見守っていたが、自分が無視される事が嫌いなのかすぐに怒気を含んだ声を上げる。

 

「ちょっと、テンカワ・アキト君。取引するの?しないの?返答次第でこっちは実力行使も・・・・・・」

 

「はい、あげる」

 

アキトはそう言ってエリナの言葉を遮り、ペットボトルにくっ付いて来た物をエリナに向かって投げつける。

 

「えっ?」

 

さっきの知性的な声からは想像できないほどまぬけな声を上げながら、エリナは自分の体にくっ付いて来た物に

目をやる。

自分の肩を這っている物____10cmほどの毛虫をたっぷり5秒は見つめる。

そんな彼女の顔が青ざめた直後、信じられない程の悲鳴が林に響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

(おっしゃぁぁっ!!)

 

予想通り、っていうか予想以上の毛虫効果に胸中で歓喜の声を上げながら、一番近くに立っている男の鳩尾に

蹴りを叩き込む。

 

「がっ?!」

 

地面にへたり込みイヤンイヤンするエリナに余程焦っていたのか、抵抗もなしにあっさりと地面にひれ伏す。

 

(後ろは潰した、あとは左右に二人、近づく奴から潰す!!)

 

左右を一瞥しながらリュックを投げ捨てながら倒れている男よりも後ろに下がる。

そうする事によって左右の男達全員が視界に収める事ができる。

 

男達はアキトが逃げると思ったのか、離れつつあるアキトに向かって突進してくる。

 

「逃がすか!!」

 

「逃げるかよっ!」

 

言い返しながらアキトは目を細めながら構える。

 

『銃を抜かれる前に片付けるためには一撃で決める事。

 間を空けない事、そしてこれはどんな時でも言える事だが・・・・・・・・』

 

自分の師が言った事がまるで確認されるかのように心の中に浮かんでくる。

 

『敵に向かって深く踏み込む覚悟を決めろ』

 

突進して来る男その一が無駄のない動作で突き出してくる拳を男に対して深く踏み込みながら、

体を半身ずらしてかわし、伸びきった腕を外側に打ち払う。

 

「ひゅっ!!」

 

小さく息を吐きながら、がら空きになった脇腹に拳を打ち込み、引き戻す拳を追う様に膝をもう片方の脇腹に

叩き込む。

 

「・・・・・・っ!!」

 

悶絶しながら持たれてくる男をすぐ前に迫っていた男二人に向かって突き飛ばし、回り込んで来た男その三に

ローキックを放とうとする。膝でブロックしようとするその三に対して、しかしアキトはローキックを打たずそのまま

体を回転させて裏拳を頬に打ち据える。

 

「がっ?!!」

 

少々大げさに吹き飛びながらその三が仰向けに倒れる。

その男の腹に鉛入りのシューズをめり込ませながらアキトはスラックスの後ろのポケットからバタフライナイフを

取り出し、拳銃を抜きかけていたその二の腕に向かって投げつけ、そのナイフを追うように駆け出す。

 

「これで四人目ぇぇぇっ!!!」

 

なんとなく叫びながら、慌ててナイフをかわしたその二に飛び後ろ回し蹴りを放つ。

横殴りに蹴りを食らったその二は、ようやく最初に潰した男から抜け出したその四に派手に突っ込む。

 

「うぷっ?!」

 

変な悲鳴を上げながら再び倒れ込むその四を、脳天に踵を落として昏倒させておく。

 

「ったく、五人がかりでこれかよ・・・・」

 

呼吸を落ち着かせながら木に突き刺さったナイフを抜き取り、未だ泣きじゃくっているエリナに歩み寄る。

 

「さて・・・・と、どうします?皆ダウンしちゃいましたけど」

 

「うっ、うっ、ひっく・・・・・・・・」

 

「・・・・・あのー、もしもしウォンさん?」

 

「えぐっ、えぐっ、・・・・・・・・」

 

手で目もとを覆い、へたり込んで泣きじゃくるというのはある意味可愛らしいポーズなのだが・・・・・・

 

「・・・・・・・・ウォンさん、その泣き方をするのはちょっと・・・・・・・・」

 

言葉を続け様とした瞬間、足を綺麗に払われる。

 

「っんな?!」

 

なんとか受身を取るが衝撃で一瞬視界がブレて目に何が映っているのか分からなくなる。そして、

 

 

 

 

ジャキッ・・・・・・・

 

次の瞬間には聞き慣れた音が聞こえるとともに、眉間に突きつけられた拳銃が瞳に映っっていた。

ちなみに拳銃とエリナの安全装置は外れているようだ。

 

「年齢的に・・・・・・・何?」

 

先程まで乙女(?)の涙を流していた目は邪眼に変わり、口元は北辰系の笑みを浮かべている。

 

「い、いやっ、あの、ちょっとプリティーすぎるなーと思いまして、はい」

 

年齢的に無理があります、とは決して今は言わない、死ぬ前に遺言として告げるだろう。

 

「そう?ありがと♪」

 

笑顔の品質を180度変えながら立ち上がる。

銃をしまう時、エリナの美しい太ももが一瞬露わになるがアキトはそれを堪能する気分にはなれなかった。

 

「・・・・・・・・・・参考までにお聞きしたいのですがウォンさんはどのような役職に就いていらっしゃるのでしょうか?

 お手数ながら教えてくださいませ」

 

立ち上がりながら聞くアキト。なぜか恐ろしいまでの敬語である。(ちなみにちょっと変)

 

「え、ええ・・・・、ネルガルで会長秘書をやってるの、すごいでしょう♪」

 

アキトの口調に一瞬戸惑いながらも自慢げに答える。

(確かにあのネルガル重工の会長秘書ってのは凄いけど・・・・・・・・・・・・)

そんな事より気になる事がある。

 

「・・・・・・・・・・・普通の会長秘書ってえのは拳銃なんか所持してないと思うんですけど?」

 

「あら、そんな事ないわよ。この御時世、銃は秘書の必需品なんだから」

 

あっけらかんと答える。

 

「そ、そーなんスか・・・・・・・・・。やっぱり会長を狙ってくる他企業のスパイなんかに?」

 

「いいえ、セクハラしてくる上司」

 

「・・・・・・・・・・」

 

「そんな事より、なんなの?あなたのこの滅茶苦茶な強さ。聞いてないわよ」

 

倒れている男達を見渡しながらやや不満げに言う。

 

「聞き忘れたんじゃないんスか?結構ドジっスね」

 

「失礼ねっ!!そんな事ないわよっ!!」

 

「な、何もそんな怒鳴んなくても・・・・・・・・・」

 

「ま、何にせよちょっと無理矢理だったのは確かね、謝るわ」

 

だが頭は下げない。

 

「でも、それでもあなたをスカウトしなきゃいけないのよねー。

 ねえ、とりあえず話しを聞いてくれない?接待ってヤツね」

 

「う〜ん、って言われてもなー」

 

「別にいいじゃない、ね、お願い〜」

 

手を胸の前で組み目を潤ませながら擦り寄ってくる。別段悪い気はしないのだが・・・・・・・・・

 

「・・・・・・・・ちなみに断ったらどうなります?」

 

ジャキッ・・・・・・・

 

いつのまに取り出したのか、聞き慣れた音とともに腹部に衣服を通しての冷たい感触。

エリナはにっこりと微笑み、

 

「やっぱり実力行使しかないわね」

 

「・・・・・・・・・・・・喜んでお話を聞かしていただきます」

 

アキトはなんだか泣きたくなった。

 

 

 

 

続く

 

 

 

 

管理人の感想

 

 

琴音祐希さんからの続編の投稿です!!

アキト・・・いきなりエリナさんに仕切られてるな〜

ここまで可愛い仕草のエリナさんは、かってこのページに存在していなかったでしょう(爆)

しかし、男性には強いんだな(笑)

倒された男性達の行く末が気に掛りますね〜

・・・ゴートさんとプロスさんにお仕置きされてたりして(笑)

でも、アイちゃん・・・何処いったんだろう?

やっぱり過去なのか?

でも精神的に、やたらタフなアイちゃんだったからな〜(爆)

 

では、琴音祐希さん!! 投稿有難うございました!!

 

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