「ああ〜、遅刻遅刻!初日から遅刻じゃ、かなりヤバイって感じだよね」
あたしの名前は星野ルリ。
銀髪と金色の瞳がチャームポイントの、14才の女の子。
花も恥らう中学生。
今日から、ここ第三新サセボシティ第壱中学校に転校してきたの。
でも、初っ端から遅刻しそうで大ピンチ!
朝ご飯を食べる時間もないから、パンを咥えながら投稿中・・・・・・・もとい登校中なの。
「ああ〜!」
その時突然、曲がり角で男の子が飛び出して来て、超びっくり。
ゴチン!
急ブレーキをかけたけど間に合わず、あたし達は鈍い音を立てて激突したの。
ああ、こういう時、頭の中に星が見えるって本当だったのね。
ショックでパーになったら、どうしよう。
そういえば昔、パーマンに出てきたパー子の本名って星野スミレだったのよね。
なぜかしら、とっても親近感を感じたわ。
「痛たたた・・・・・・・・・・・・・きゃ!」
気が付くと、男の子の視線が、あたしのスカートの中に注がれていたの
「ゴメンね!マジで急いでたんだ。ホント、ゴメンね〜!」
あたしは、慌てて立ち上がると、その場から逃げるように立ち去ったの。
うう〜、恥かしいよう。やっぱり見られたわよね。
でもでも、あの男の子、ちょっとカッコ良かったな。
これって、ひょっとして運命の出会いってやつ?
あたしは、頬が赤くなるのを自覚していた。
「よろこべ、男子!今日は噂の転校生を紹介する」
学校に着いたあたしを、担任の葛城ミナト先生がクラスに紹介している。
この先生、あたしよりほんのちょっと美人で、プロポーションもほんのちょっと・・・・・・・・・・・・・・・
お、女の価値は身体じゃないわよ!(涙)
「星野ルリです。よろしく♪」
あたしは、内心の動揺を表に出すことなく、とびっきりの笑顔で挨拶したの。
なんといっても、第壱印象って大事だものね。
「ああ〜っ!」
突然、男子生徒の一人が叫び声を上げて、あたしを見つめているの。
けっこう、タイプの子だったわ。
ひょっとして、あの子、あたしに一目惚れ!?
そう、そうなのね。
一目惚れ・・・・・・一目で恋に落ちること・・・・・・・・・恋・・・・・・・・・鯉・・・・・・・・魚・・・・・・・・・?
魚・・・・・・・海に居るモノ・・・・・・・海・・・・・・大きい水溜り・・・・・・・水・・・・・・・ミミズ・・・・・・・?
ミミズ・・・・・・地下に居るモノ・・・・・・・・モグラ・・・・・・・モグラ叩き・・・・・・・・ゲーム・・・・・・・・?
ゲーム・・・・・・・・TVゲーム・・・・・・・ドリームキャスト・・・・・・・・湯川専務・・・・・・・・じーさん・・・・?
じーさん・・・・・・・じーさんは用済み、じーさんはしつこい・・・・・・・じーさんは打ち止め・・・・・・・・赤い玉・・・・?
赤い玉・・・・・・・もうだめなのね・・・・・・S●X・・・・・・・・ひとつになること・・・・・・それは、とてもとても気持ちの
良いこと・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・はっ!!いけない、いけない、驚かせちゃったよ。
あたしって時々、脈絡もなく連想(妄想?)ゲームを始めちゃうのよね。
・・・・・電波かしら?(某電波少女と、名前同じだしね)
ああ、まだ彼の熱い視線を感じるわ。
そんな、そんな真剣な眼差しであたしのことを・・・・・・・
『そんなに、見つめちゃ嫌ですう〜〜〜〜!(ポッ)』
某鬼姉妹の長女みたいに、あたしは心の中で、悶えまくったの。
(でも、このセリフをマルチと勘違いする人、きっといるんだろうなあ(笑))
でも、彼って前にも何処かで会ったような・・・・・・・・・・・って、ああ!
「ああ、あんた!今朝のパンツ覗き魔!」
「ちょっと、言いがかりはやめてください!あなたがアキトに勝手に見せたんです!プンプン!」
あたしのセリフに、胸のでかい女(はっきりいって敵ね(怒))が反論してきたわ。
「あんたこそ何?すぐにこの子庇っちゃってさ。なに?できてるわけ、二人?」
「え?や、やだ。・・・・・・・・・・やっぱりわかります?やーんアキト、ばれちゃった♪」
「こ、こらユリカ、デタラメ言うな!只の幼馴染だろうが!」
うれしそうに頬を染めているデカ胸女のセリフを、彼が否定してる。
そうか、アキトさんっていうのか。
やっぱりカッコ良い。あの女にはもったいないわね。
「(ムカ)ちょっと、授業中よ。静かにしてください!」
そばかす顔のクラス委員長、たしか洞木メグミとかいう女が、嫉妬に燃えた目でデカ胸女を睨み付けてる。
そうか、この子も彼のことを・・・・・・・・・
「あら〜、楽しそうじゃない♪私も興味あるわ〜、続けてちょうだい(はぁと)」
ミナト先生が、面白そうにはやしたてると、みんなの笑い声があがった。
その騒ぎの中、あたしは何故か、アキトさんから目を離すことができなかった・・・・・・・
「はい、アキトあ〜ん」
「アキトさん私のも、あ〜ん」
昼休み。あたしは、アキトさん達と昼食をとっている。
目の前では、アキトさんの幼馴染だというデカ胸女、惣流・ユリカ・ラングレーと、クラス委員長の洞木メグミさん
がアキトさんにお弁当を食べさせようとしている。
「かーっ!毎度毎度、見てらんねえな。一人もんには目の毒だぜ」
「まったくですな!男なら、涙を流すべき状況ですな」
アキトさんの親友だという熱血漢、鈴原ガイと、老け顔のメガネ男、相田プロスがくやしそうにしている。
それにしても、みんなおかしな名前よね。
ちなみに、アキトさんの姓は天河なんですって。
「アキ・・・・・天河君、モテモテだね♪」
「や、やめてよ星野、そんなんじゃないよ。それに、僕のことはアキトでいいよ」
あたしの冷やかしに、真っ赤になって反応するアキトさん。かーわいいんだ♪
「じゃあ、あたしのこともルリって呼んでくれる?」
「え?う、うん。星野がそう言うなら」
「ル・リでしょ、アキトさん」
「ル・・・ルリ・・・ちゃん(てれっ)」
「(ポッ)よ、よろしい」
や、やだ。なんだかあたしまで、照れくさくなってきちゃった。
「あーっ!アキトさんったら、なに二人の世界作ってるんですか!」
「ひどいよ、アキト!私という恋人がいながら・・・」
「誰が、ユリカさんの恋人ですか!嘘言わないでください」
「嘘だなんて、酷いよメグミちゃん。ねー、アキト、本当だよね」
「俺は知らんぞ、そんなもん。・・・・え〜〜い、抱きつくんじゃない!」
「ユリカさん、不潔です!」
「そういうメグミちゃんこそ、アキトの腕に胸を押し付けてる!」
「こ、これは、委員長としてユリカさんの毒牙から、アキトさんを守るためです!」
「ひっど〜い!それって、食券乱用だよ!」
「ユリカさん・・・・・・・漢字、間違ってる」
「い、いいんだもん、これで・・・・・って、なんでヒアリングでわかるんですか!?」
「委員長だからです」
「ぶー!とにかく、アキトは私の・・・・・・・・・・って、なにやってるんですか(怒)」
「ん〜〜〜〜!?メ、メグミちゃん、いきなり、なにを・・・・・・・・」
「アキトさんの顔の、御飯粒を取ってたんです」
「キスしてたじゃない!」
「唇に御飯粒が付いてたんです」
「だったら、手で取ればいいでしょう・・・・・・・・なら私も・・・・・・!」
「こ、こら、ユリカ、おまえまでなにを・・・・・・ん〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!」
「あ〜!ユリカさん、舌まで入れてる!」
「ア、アキト、俺はおまえを、殴らなきゃならねえ。殴らなきゃ気がすまねえんだ!」
「まさに、イヤァ〜〜ンな感じですな!」
目の前の光景を見ていると、あたしの中に、モヤモヤしたものが湧き上がってくる。
これって、ひょっとして嫉妬なのかな。
今日、初めて会った人なのに・・・・・
あたしは、自分自身の感情を持て余していた。
プロス君が「売れる!コレは売れますよ〜〜!」とか言いながら写真を撮る音が、あたしの心に虚しく響いた。
「ねえねえ、アキトさん。これなんかどうかな?」
今日は、転校してきて最初の日曜日。
あたしは、アキトさんに街を案内してもらってるの。
ブティックで、ワンピースを手に取ってみせるあたしに、アキトさんが照れくさそうにしている。
「う、うん。良いんじゃないかな」
「ホント?じゃあじゃあ、こっちはどう?」
「う、うん。良いんじゃないかな」
「じゃあ、これはこれは?」
「い、良いと思うよ」
「・・・・・・・・・・・アキトさん、心がこもってない」
「そ、そんなことは無いよ。ほ、本当に良いと思うよ」
「アキトさん・・・・でも、つまらなそうだし。やっぱり、案内なんか頼んで・・・・・・・迷惑だったかな」
「そ、そんなこと無い!とっても、楽しいよ。それにルリちゃんは・・・・・か、可愛いから、どんな服も似合うよ」
ボッ
そのセリフに、あたしの顔が真っ赤になる。
「そ、そんな・・・・・アキトさんったら」
「ご、ごめん、変なこと言っちゃって。・・・・・・で、でも本当のことだから」
「(ポポッ)あ、ありがとう、アキトさん」
アキトさんの言葉に勇気づけられたあたしは、気になってた事を聞いてみることにした。
「ねえ・・・・・・・・・アキトさん?」
「なに?ルリちゃん」
「あたしの、髪と目って・・・・・・・・・・・・・どう思う?」
銀髪と金眼という、普通と明らかに違う容姿は、あたしの密かなコンプレックスだった。
それを隠すために、普段は必要以上に明るく振舞ってきたの。
「ルリちゃん・・・・・」
あたしは、どんな答えがくるのか恐くて、アキトさんの顔を見ることができない。
・・・・・・・すると、突然強い力で抱き締められたの。
「え?え?え?・・・・・・・・・・・・・・・・ア、アア、アキトさん?」
「ルリちゃん・・・・・僕はルリちゃんの髪、好きだよ」
アキトさんが、あたしの髪に触れながら囁く。
「・・・・・・・・アキトさん」
「初めてルリちゃんに会った時、妖精が舞い降りたのかと思った・・・・・
銀色の髪が、まるで宝石みたいにキラキラと輝いて
・・・あの時、僕は君に魅了されてしまったのかもしれない」
うれしい・・・・・アキトさん。
そんな風に、思ってくれてたんだ。
「それに・・・・・・・・」
抱き締める手を離したアキトさんが、両手であたしの頬に触れると、そっと顔を近づける。
「ルリちゃんの瞳・・・・・・・・・・月のように神秘的で、とっても綺麗だ」
「(キュン)あ・・・・・・・」
アキトさんの真剣な瞳・・・・なんだか吸い込まれそう。
やがて、ゆっくりとアキトさんの唇が近づいてくると、あたしはそっと目を閉じた・・・・・・
「雪・・・・・・」
あたしが、アキトさんと恋人同士になってから、最初のクリスマス。
二人で街を歩く私達の上に、真っ白な結晶が降りだしてきた。
掌で受けると、すぐに溶け出してしまう雪の結晶が、街を白く染め上げていく。
「ホワイトクリスマスか・・・・・・きっと神様が、僕達に送ってくれたプレゼントだね」
アキトさんの微笑みが、あたしの心を暖かくしてくれる。
「うん、きっと神様も、あたし達のことを祝福してくれてるのね」
「でも僕にとって、最高のプレゼントは、ルリちゃんと出会わせてくれたことだよ」
「や、やだ、アキトさんったら・・・・・・・」
アキトさん、いつの間に、あんなに口がうまくなったのかしら。
でも、やっぱり、うれしいな・・・・・えへへ・・・・・・
「あ、あのね、これあたしからのプレゼントなんだけど・・・・・」
あたしは、アキトさんの首に、マフラーをかけた。
「手編みだね、これ。・・・・・ありがとう、ルリちゃん」
「え、えへへ・・・・あんまり上手に、出来なかったんだけどね」
初めて作ったそれは、形はいびつで所々歪んでいて、長さも一人用には長すぎて、端が地面に付きそうだったの。
「そんなことないよ、とっても暖かい。それに・・・・・・・・・・こうすれば、ちょうどいい長さだよ」
そう言ってアキトさんはあたしと向き合うと、余っているマフラーをそっと架けてくれた。
一本のマフラーで繋がれたあたし達は、雪の降りしきる町並みを、ピッタリと寄り添って歩いた。
「あ、あの・・・・・それでルリちゃん、僕からもプレゼントがあるんだ(てれっ)」
「え・・・・?」
途中立ち寄った公園で、アキトさんが差し出したのは、掌に乗るような小さな箱。
「アキトさん、これって・・・・・」
「安物だけど、バイトして買ったんだ。・・・・・・・受け取ってくれるかな?」
「ありがとう、アキトさん。・・・・・・開けても・・・・・良い?」
「うん。・・・・似合うと良いんだけど」
似合うってことは、アクセサリーなのかな・・・・・ひょっとして指輪とか。ま、まさかね・・・・・
あたしは、期待に胸を踊らせながら、フタを開けた。
「これって・・・・・指輪・・・・・!」
あたしは、思わず息を呑んで、アキトさんの顔を見つめる。
「できれば・・・・・・左手の薬指に・・・・・・して欲しいんだ」
「アキトさん・・・・・・・・・それって・・・・・・」
あたしは、うれしさのあまり涙が込み上げてきた。
「つけて・・・・くれるかな?」
「もう、バカ・・・・聞くまでもないでしょう」
あたしが、そっと左手を差し出すと、アキトさんが薬指に指輪をはめてくれた。
「思った通り、よく似合うよ」
「うん・・・・・」
あたしは、幸せで胸が一杯だった。
「ルリちゃん・・・・」
「あ・・・・・・・!」
アキトさんが、あたしをやさしく抱き締めてくれる。
「ルリちゃん・・・・・・・・今夜は君を、帰したくない」
「アキトさん・・・・・・・・あたしも、今夜はずっと一緒に・・・・・」
もうあたし達の間を阻むものは、何も無かった・・・・・
機動戦艦ナデシコ
アキトの野望
第3話 「緑の恥丘」は任せとけ
「ルリちゃん!ルリちゃん!ねえ、ちょっとルリちゃんってば・・・・・・・・もう〜〜っ!一体どうしちゃったの!?」
無人兵器を撃退した直後、まるで目を開けたまま眠っているかのように、反応が無くなってしまったルリ。
いち早く異常に気づいたミナトが、ルリの身体を揺すっているところだ。
「ミナトさん、どうしたんです?」
「艦長〜〜っ、ルリちゃんの様子がおかしいのよ。まるで眠ってるみたいに、反応が無いの!」
「寝ちゃってるんじゃないですか?きっと、初めての戦闘で緊張しすぎて、どっと疲れが来たんですよ」
「でも、目は開いてるのよ。なのに、なにも見えていないような・・・・・・」
「ミナトさん、ちょっとどいてください。私、こう見えても看護婦の資格をもってるんです」
「ホント、メグミちゃん?」
「はい、静注(静脈注射)とかもやったんですよ」
指で注射を打つゼスチャーをするメグミ。
看護婦姿でないのが、残念だ。
「この場合、あんまり関係ないような気もするけど・・・・・・」
「かまいませんメグミさん、診察しちゃってください。これは、艦長命令です!」
「ちょ、ちょっとユリカ、それよりもまず軍医を呼んだほうが・・・・」
ユリカの無茶な命令に、苦労人のジュンが真っ当な意見を述べる。
「ちょっと、あんた達!そんな小娘のことよりも、今はあのパイロットの正体を調べるのが先よ!」
「むぅ・・・・・」
喚きたてるキノコ頭の横で、フクベはなにやら考え込んでいる。
「確かに、あの戦闘能力は異常だ。一刻も早く調べる必要がある。
ミスター、とりあえず彼女のことは軍医に任せて、我々は天河の調査を・・・・・」
「そのことなんですけど、ゴートさん。私、前にどっかで、アキトさんを見たことがあるんですけど」
「メグちゃんも?実は私もなのよ」
「ミナトさんもですか?」
メグミとミナトが、顔を見合わせる。
「う〜ん・・・・・」
「どうしたの?ジュン君」
「うん・・・ユリカ、僕も以前、彼を見たことがあるような・・・・・」
「え〜!?3人とも、アキトを知ってるの?」
「う〜ん、知ってるっていうか、たしかTVかなにかで見たのよね・・・」
「そうそう!雑誌とかにも載ってましたよ」
「僕はたしか、新聞で・・・・・・」
「え?なになに?ひょっとして、アキトって芸能人なの!?」
「天河アキト・・・・・・言われてみれば、ネルガルの重要人物ファイルに載ってたような・・・・・」
「え、ゴートさん?アキトって、そんなにすごい芸能人なんですか!?」
実際、アキトは世界的な有名人だ。
十代の若さで、しかも、わずか一年で世界的大企業を作り上げた、現代のサクセスストーリーの波紋は、
経済界だけでは収まらなかった。
アキト自身の過去が謎に包まれていることもあって、女性週刊誌やワイドショーなどでも、度々大きく取り上げ
られた。
そのうえ、今や人々の心の支えともなっている、あの「ラピ子ビル」(笑)の生みの親ということで、アキトはもは
や知名度でいったら、アメリカの大統領以上であろう。
では何故、そんな有名人を、すぐに思い出せないのか?
仮に読者の皆さんが、街を歩いていてアメリカ大統領とすれ違ったとして、それに気が付くだろうか?
大勢のガードマンに囲まれていれば、当然気づくはずだ。
だが一人で、まったく普通の格好をしていたら、まず気が付かないだろう。
せいぜい、そっくりさんだな、としか思うまい。
アメリカ大統領が一人で街を歩ける筈が無い、という先入観が目を曇らせ、思考を鈍らせるのだ。
アキトの場合も、それと同じだ。
《ガイア》の会長がこんな所に居る筈が無い、という先入観が、正常な思考能力を失わせるのだ。
酷い時には、プロスのように壊れてしまう程に。
プシューッ(ドアの開く音)
その時、ようやくアキトがブリッジにやって来た。
「アキトアキト!ご苦労様!」
「ただいま、ユリカ・・・・・・・・・・・みんな、なにを難しい顔をしてるんだ?」
そう言いながらも、アキトの目には、ルリちゃん以外の人は写っていない。
放心したようなルリちゃんの様子に、「新必殺技」の効果を確認したアキト。
そう。
冒頭の学園エヴァ風ラブコメは、すべて今現在、ルリちゃんの頭の中で繰り広げられている、言うなれば
白昼夢のようなものだ。
そして、それこそがアキトの「新必殺技」の効果なのだ。
アキトの新たなる必殺技、それは相手の精神に自分のイメージを送りこみ、一種の精神汚染を引き起こす、
恐るべき禁断の秘技!
理屈としては、かつて火星の後継者が、ユリカに対して行ったのと同じようなものだ。
火星の後継者はユリカをコントロールする為に、ユリカに少女マンガ【うるるん】のイメージを送り込んだ。
彼等が大掛かりな装置を使って行ったそれを、S級ジャンパーであるアキトは、意思の力のみで実行できるのだ。
それと同時に、相手の深層心理に秘められた願望を刺激して、理想の恋愛像を浮き彫りにする。
心の底で夢見ていた理想の恋人と、送りこまれたアキトのイメージが融合することにより、アキトが理想の
恋人であると、刷り込みをしてしまうのだ。
従がって、冒頭の物語は全て、ルリちゃん自身の秘められた恋愛願望の表れなのだ。
実際アキトは、恋人の部分を変更しただけで、ストーリーそのものには干渉していない。
ルリちゃんの性格が全然違っていたのは、あれはルリちゃんがそうなりたいと願っている、理想の将来像だか
らだ。
それにしても、相手の精神を直接侵食するとは、もはや人間業とも思えない。
相手の心の壁を侵食する、それこそがアキトの新たなる必殺技
A・T(アキト・天河)フィールドだ!!!!!
そして、それを使いこなすアキトは、もはや今までのアキトではない!
人間を超え、使徒にさえ匹敵する存在
天河アキト初号機だ!!!!!!
凄いぞ!天河アキト!
暴走だ!天河アキト!
押し倒せ!天河アキト!
そして、食え!天河アキト!
最終進化形態鬼畜王アキトはもうすぐだ!!
「ねえねえ、アキトって芸能人だったの?」
「・・・・・・・・・は?」
ユリカのいきなりの質問に、アキトが呆けたような声を出す。
「だって、みんながアキトのこと見たことあるって」
「ああ・・・・・」
納得いった。
確かに、女の子をナンパするのに役立つから、積極的に顔を売ったのは事実だ。
「艦長、そんなことよりもアキトさん疲れてるんですから、休ませてあげましょうよ」
「そうそう、アキト君、私が介抱してあげるからね♪」
「いいえ、看護婦の資格をもってる私の方が、ミナトさんよりも適任です。さ、行きましょうアキトさん(はぁと)」
「ちょっとメグちゃん、抜け駆けはだめよ。こういうことは、ちゃんと公平に決めないと」
「む〜!!二人とも私のアキトから離れなさい!これは艦長命令です!」
アキトの腕を、左右から引っ張るメグミとミナトに、憤慨するユリカ。
後ろでジュンが「ユリカ・・・・(涙)」と呟いているのが、相変わらず涙を誘う光景だ。
「ちょっと、あんた達!そんなことより、天河を調べるのが先よ!」
「キノコ頭提督の言う通りだ。天河、おまえは何者だ?」
「そうですな〜、キノコ頭提督の疑問も解らなくはないですが、何しろ彼は王子様ですからして、はい」
「ちょっとあんた達!誰がキノコ頭よ、誰が!」
ゴートとプロスが思わず本音で話してしまったのに、キノコ頭が激怒する。
「落ち着け、ムネ茸!」
「提督・・・・今、あたしの名前、妙な漢字変換しませんでした?」
「・・・・・・・・何のことだ?」
しらをきるフクベ。
やはり、このじじいも同じことを思っていたらしい。
「ルリちゃんの様子がおかしい様だけど、どうしたんだい?」
キノコ達を無視して、ルリちゃんに近づくアキト。
「そうなのよアキト君、さっきからまったく反応が無いの」
「それはいけないね。よし、ここはひとつ僕が診察しよう」
アキトは自分でやっておいて、いけしゃあしゃあと言い放った。
「診察って・・・・・・アキト君、医者じゃないんだから」
「医師免許なら持ってるよ」
ミナトの疑問に答えるアキト。
「え、本当?アキト君」
「ええ〜、アキトさん、そんなこともできるんですか?」
「すっごーい、アキトお医者さんになったんだ。そういえば、子供の頃、二人でお医者さんごっこしたよね♪」
「ユ、ユリカ・・・・・・・!?」
ミナトとメグミが驚きに目を丸くして、ユリカのセリフにジュンが驚愕する。
ちなみにアキトの医師免許は、正真正銘の本物だ。
なんでアキトがそんなものを持ってるかといえば、言うまでも無く、堂々と女の子に触れるからだ。
女をオトすためなら、アキトは努力を惜しまないのだ!
「ルリちゃん、ルリちゃん・・・・」
ルリちゃんの瞳孔反応を確認する為に、左手をルリちゃんの頬に、右手を目の前で振るアキト。
それと同時に、アキトはAT(アキト・天河)フィールドを解除する。
ちなみにこの技、恐ろしい威力ではあるが、IFS体質者にしか通用しない。
そのため本来、TV電波の如く、全方位の広域に影響を与える技であるのだが、ここではルリちゃんにしか影響が無い。
「アキト・・・・・・さん・・・・・」
夢から覚めるルリ。
既にルリの中では、アキトが理想の恋人であるとインプットされており、そこまではアキトの計算通りだった。
只一つの誤算は、夢の中でのルリが、ちょうど今からアキトとホテルでコトに及ぼうとしていた、ということだ。
「アキトさん・・・・好き・・・・」
目の前のアキトと、夢の中のアキトとの区別がつかないルリは、いきなりアキトの首に両手をまわすと、
そのまま唇をアキトの唇に押し付ける。
「んん!?・・・・・・・・・・・・んむ・・・・・・」
一瞬驚いたアキトだが、すぐに冷静になるとルリちゃんを抱き締めて、大人のキスへと移行する。
その様子に女性陣から悲鳴が上がる。
「ル、ルリちゃん!私のアキトに何をやってるんですか!?」
「アキトさん、そんな子供になんて・・・・・不潔です!私がアキトさんに、正しい恋愛を教えてあげます!」
「あっら〜、ルリちゃんやるわね〜。それにしてもアキト君って、凄いテクニシャンね・・・・・・・・・(ポッ)」
「困りましたな〜、艦の風紀が乱れてしまいますな。いくら王子様でも、これはマズイですよ、はい」
「ミスター、それ以前に、犯罪だと思うが・・・・・・・・(汗)」
「ちょっとあんた達、何やってんのよ!ここは戦艦なのよ、解ってんの!?」
「むう、ワシの若い頃を思い出すな・・・・・・・・」(遠い目)
周囲の雑音を無視して、激しく舌を絡める二人。
そのあまりの激しさに、周囲の人間は思わず唾を飲み込む。
もはや、誰も止めようとはせず、一瞬たりとも見逃すまいと、この光景に見入っている。
静まりかえったブリッジに、くちゅくちゅと、粘つく音だけが響き渡る。
やがて唇を離すと、二人の間に、透明な唾液の橋が架かる。
「ルリちゃん・・・・・」
「はあぁ・・・・・アキトさん・・・・・・」
「部屋に行こうか・・・・」
「はい・・・・」
アキトはルリの肩を抱き寄せると、そのまま二人でブリッジから退出する。
後に残されたクルーは、あまりのことに事態を把握できず、呆然と立ちすくむだけだった・・・・・・・・