「すいません! このロボット、少しお借りします!!」

 私は目の前で整備されていたエステバリスに駆け寄り、近くにいた人にそれだけ告げてコクピットに乗り込んでいく。

「お、おいおい?! 誰だお前!!」

「ごめんなさい! お叱りなら後でちゃんと受けますから!!」

 やや驚いた様子でその人は声をかけてくるけど、私はそのままシートに腰を下ろす。

 普通に考えれば、一般人である私が見ず知らずの機動兵器に乗り込んだところでどうにかなるものではないだろう。

 だけど、このエステバリスがプロスさんの言う通りにIFS対応の機動兵器なのならば話は別だ。

「えっと……あった!」

 見慣れぬ機器がいろいろと設置されている中、ただひとつ、見慣れたIFSのセンサーパッドを見つける。

 そして、右手の袖をまくって掌をセンサーパッドに添え、立ち上がるイメージを伝える。

「お願い、立ち上がって……!」

 すると、このエステバリスは私の言葉に応えるかのように、ゆっくりと体を起こして立ち上がる。

 その動作はとても安定していて、まるで自分の体を動かしているかのように自由に動かせる。

 これなら行けるかも……!

 そんなことを考えていると、何やらさっきの人……眼鏡をかけた、つなぎ姿のおじさんがメガホンで何かを叫びながら私に近付いてくるのが目の端に映る。

『おい、お前! 誰だか知らないが、この非常事態にエステバリスになんか乗り込んでいったい何をするつもりだ!!』

「非常事態だから、こうしているんです!

 このままじゃ、木星蜥蜴の攻撃でナデシコが出航する前にやられちゃいます!

 だから……、だから私が!」

『だからって、お前さんはパイロットじゃないだろうが!

 今日着任予定のパイロットの中に女がいるなんて話、俺は聞いてな…』


ドォォォンッ!!


「……!!」

『うぉっ!!』

 私がおじさんと問答してる間にも木星蜥蜴の攻撃は続き、ミサイルの直撃でも受けたのかドック全体が大きく揺れる。

「確かに私はパイロットじゃないですけど、IFS持ってるからちゃんとこれも動かせます!

 それに、今はパイロットがどうとか言ってられる事態じゃないでしょう!!

 早くしないと、地上の人達が……!」

『あぁ、もう!!

 わぁったよ! 勝手にしやがれ!!』

 さすがにこれ以上は問答を繰り返してる場合じゃないと悟ったのか、おじさんは諦めたようにエステバリスの傍から離れていく。

『ただし! もしも俺の可愛いエステちゃんを傷つけでもしたら、帰ってきたときに酷いからな!!』

「はい!」

『あと、地上に出るならあそこの直通エレベーターを使え! そこに置いてあるライフルも忘れるなよ!!』

 私はおじさんの指示に従って、無骨な銃を手にして物資搬入用のエレベータへと向かっていく。

 本当は、戦いなんて……木星蜥蜴なんて大っ嫌いだった。

 だけどそれ以上に、『無力な私』が大っ嫌いだった。

 かつてのあの時、無力だった私は『あの人』に助けられ、そんな私のために『あの人』は瀕死の重傷を負ってしまった。

 そして、アイちゃんは……!!

 だから、私は戦う。

 『あの人』のように生身で戦うというわけには行かないけど、このロボットを使えば私にだって戦うことはできるはずだ。

 もうこれ以上、私の目の前で誰も傷ついて欲しくないから……!











機動戦艦ナデシコ another story
―― Dual Darkness ――





Chapter1:もう一度、『はじめまして』
stage6






ドォォォンッ!!


「キャッ!」

 突如ブリッジを襲った大きな揺れに艦長は悲鳴をあげながら尻餅をつき、他の人達も少し体勢を崩して悲鳴をあげています。

 まあ、シートに座っていた私達には別に問題ありませんでしたけど。

 次の瞬間、外の明かりが一斉に落ちて真っ暗になり、2呼吸ほどしたところですぐにまた、今度は薄暗い非常用の明かりが灯る。

「なになに?! いったい何がどうしたの!?」

「おそらく、ドッグ内の電気の供給が断たれて非常用の電源に切り替わったのでしょう」

 慌てた様子のメグミさんに今の状況を冷静に答えながら、オモイカネに状況の確認を急がせます。

 今のはおそらく、木星蜥蜴がこの地下ドッグを狙ってミサイル攻撃を仕掛けてきた衝撃。

 ならば、外の様子はまず間違いなく……

「ホシノ君!」

「はい。地上の連合軍防衛部隊はほぼ全滅、木星蜥蜴による施設への無差別攻撃が始まっている模様です」

「ぬぬぬ……!」

 提督の言葉に私は状況報告を返しますが、こういうことは普通艦長が真っ先に尋ねてくることなのではないでしょうか?

 チラリと視線を後ろに向けると、その艦長はまだ尻餅をついたままで目の端に涙を浮かべながら、お尻をさすっています。

「あいたたたた…… お尻が痛いよ〜」

 この艦長の平然とした様子は、今現在の状況が目に入ってないだけなのか、それともナデシコが発進するまでは自分にできることは何もないことをわかってのことなのか……

 後者であると、できれば信じたいものです。

【ルリ、大変だよ!】

 そんなことを考えていると不意にオモイカネのウィンドウが開き、私はそのウィンドウに視線を移します。

「……なに?」

【今の衝撃で、ドッグの注水ゲートが一個つぶれちゃったみたい。

 このままだと、水が溜まりきる前にドッグがつぶされかねないよ!】

 その少し焦ったような感じのオモイカネの様子に、即座に私はドッグ内の状況を確認。

 確かに途中の水路が埋まったか何かで、右側の注水ゲートからの水の出がわずかなものになっていますね……

「艦長。先ほどの爆発により、注水ゲートのひとつが壊れた模様。

 その影響で、ナデシコが出航可能になるまでの水量がたまるのにもう3分、ないし5分ほどの時間が必要と推測されます」

「えぇ?!」

 私の報告に、ようやく立ち直った艦長が悲鳴のような驚きの声をあげます。

「そ、そんな〜。どうしよう、ジュン君……」

「ど、どうしようって、水がちゃんと溜まらないとナデシコは発進できないんだからどうしようもないよ。

 それまでパイロットの人にがんばってもらうしか……」

「う、うん。そうだね!

 それじゃメグちゃん、そのことをパイロットの人に伝えてください!」

「ハ、ハイ!」

 艦長の言葉に、ようやく落ち着きを取り戻したメグミさんが通信を始めます。

 それはまあいいとして、どうして真っ先に艦長がパニックに陥って副長に助けを求めてしまうんですかね……

「ヤマダさん、ヤマダさん。聞こえますか?」

 メグミさんの呼びかけに応じて、エステバリスのパイロットとの通信が繋がります。

 でも、その通信に出てきたのは……

『ふぇっ?』

「……あら?」

 なにやら、突然開いたコミュニケのウィンドウに思いっきり驚いた様子の女の方でした。

『わっ! わわっ!? な、なにこれ……?』

「おかしいですね。先ほど通信してきたヤマダさんは、こんな可愛らしい感じの方ではなかったと思うんですが……」

 私はウィンドウに映る女性をチラリと一瞥し、通信をつないだメグミさんへと視線を向けます。

「え?! わ、私間違えてないよ! ちゃんと格納庫のエステバリスに通信をつないだんだよ?

 今地上に向かってるエステバリスって、この1機だけだし……」

「なら、通信先はそのエステバリスで間違いないんじゃないですか? 他の誰かがそのエステバリスに乗ってると言うだけで」

「あ、そっか……」

 この人は誰なのかが少し気になりますが、エステバリスに乗ってると言うことはこの方もパイロットなのでしょう。

 なら、今は誰何を詮索してる時間もありませんし、まずは現状の打破が最優先なんですが……

「……艦長?」

 私たちがそんなことを話してる間にも何の反応も見せない艦長を不審に思い私が振り返ってみると、艦長は何かを考え込んでいる様子で、あごに右手の人差し指を当ててキョトンとした表情をしています。

「あれ……? この人、どこかで見たことのあるような気が……」

 その視線の先には、少し怯えた様子でウィンドウを恐る恐る突っついているエステバリスのパイロットの人が……

「艦長。考え事は後にして、今は作戦の通達を」

「えっと、どこでだったかな〜……

 のどまで出かかっているのに、どうしても思い出せない〜………」

「……艦長」

「ねえ、ジュンくん。どっかで見覚え、ないかな〜?」

「ボ、ボクに聞かれてもそんなことわからないよ」

「…艦長っ」

「あ〜、う〜〜………」

「艦長っ!!」

「ひゃっ?! は、はい!」

 なにやら自分の世界に浸ってしてしまっていた艦長は、私の呼び声にビクッと体を震わせ意識を現実に戻してくれます。

 まったく、この人は本当に今が戦闘中だということがわかっているんでしょうか……

「考え込むのは少し後にして、今はパイロットの確認と作戦の通達をお願いします…!」

「は、はい! わかりました!」

 私の言葉になぜか敬語で返し、ようやく艦長は自分の職務を全うし始めてくれるようです。

 ……それはいいんですけど、どうして他の皆さんは少し怯えたような顔つきで私から目をそらしているのでしょうか?

「えっと、あなたは…」

『オイオイオイ! そこのお前!!

 どうしてお前が、俺のゲキガンガーに乗ってるんだ!?』

『キャッ?! なんかまた出てきたよ〜!!』

 ですが、次の瞬間ヤマダさんからの通信がドアップで割り込んできて、艦長の言葉は遮られてしまいます。

 エステバリスの人はまたしても驚いた様子で、今にも泣き出しそうな勢いでかなり慌てふためいてます。

 もっとも、こんな暑苦しい感じの男の人がいきなりドアップで出てきのですから、驚く気持ちもわからなくはありませんが……

「落ち着いてください。これはただの通信ウィンドウです。

 現在、あなたの乗っているエステバリスを通して通信をつなげているんです」

『そ、そうなんですか……』

 仕方なく私が助け舟を出すと、ようやくその女の人は安心した様子で答えを返してきてくれます。

 そして、気を取り直して艦長が三度通信を再開しようとしますが…… 「ところで、あなたのことなんですが……」

『オイ、そこのお前!

 どうしてお前が俺様のゲキガンガーに乗って、出撃しようとしてるんだ?!』

 またしてもヤマダさんが叫び声を上げて、通信に割り込んできます。

 ……なんて言うか、わけのわからないことばっか言ってものすごく邪魔ですね。

『……げきがんがー?』

 私と同じ感想を持ってくれたのか、コクピットの女の人も不思議そうな表情を浮かべています。

『だーかーらー! 俺のゲキガ…』


ドンッ!


『の〜わ〜〜〜……!!』

 また何か叫ぼうとするヤマダさんを押しやり、今度はプロスさんがウィンドウの中に顔を覗かせてきます。

 プロスさん、ナイスです。これ以上話の腰を折られてはたまりませんからね。

『おや? ユウキさん、いつの間にそんなところに……』

『あ、プロスさん』

 どうやら、プロスさんとこの女の人は顔見知りみたいです。

 まあ、クルーのほとんどはプロスさんがスカウトしてきた人ですから、プロスさんの知らない人のほうが少ないんでしょうが……

「……ユウキさん?」

『はい。彼女は先ほど着任したばかりのうちのコックさんで、ちょうど今さっきまで私が艦内を案内していたのですが……

 どうしてそれが、いつの間にかエステバリスなんかに?』

『……上では戦闘が続いてるみたいですし、誰かがまた傷ついているのかなと思ったらいても立ってもいれなくなって……』

『なるほど。それでエステバリスにですか……』

『はい。自分だけ何もできないでただ誰かに守られていると言うのは、もう嫌なんです!』

 どうやらそのユウキさんはパイロットではないようなのですが、真剣なその表情にプロスさんも何かを考え込んでいます。

『……そうですか。確かに、その気持ちは痛いほどよくわかります。

 ですが、コックの方がエステバリスに乗ってしまうと保険などにいろいろと問題が……』

『でも今は、そんなこと言ってられる状況じゃないと思うんです!!』

 確かに、こうして通信している間にも何度か揺れが感じられ、いまだに危険な状況だと言うことは嫌でも身に染みます。

 まあ、どうやら今は見当違いの場所が攻撃されてるみたいで、先ほどより爆発の衝撃自体は全然小さいんですけど。

『……それもそうですね。

 仕方ありません。とりあえずここは、ユウキさんの役職を『コック兼見習いパイロット』に変更すると言うことで保険のほうも対応させておきましょう。

 ユウキさんも、それで構いませんね?』

『はい!』

 なにやら、ブリッジを無視して向こうのふたりだけで話がまとまってしまっています。

 これを見ていると、なんか艦長抜きのほうがよほどスムーズに話が進むような気が……

「ユウキ? ユウキ、ユウキ………」

 当の艦長は、そんなふたりの会話をよそに何か考え込んでしまっています。

 はっきり言って、どんどんこの艦長の存在意義が揺らいでくる気が……

『それではユウキさん。ナデシコが出航するまでの10分間、時間稼ぎお願いできますか?』

『あ、えっと……』

「横からすいませんが、10分ではなく15分でお願いします。

 先ほどの爆発の影響で注水ゲートがひとつつぶれてしまい、その分水の溜まりが遅くなっていますので」

『……わ、わかりました!』

 少し強張った表情で、だけどはっきりとした返事をユウキさんは返してくれます。

 ……小さな声で「15分も?! ほ、本当に大丈夫かなぁ……」とかつぶやいていた気もするのは、おそらく気のせいでしょう。

 そこまで行くとエレベータが地上に到達した様子で、エステバリスとの相互通信は切れます。

『オ、オイオイ! ちょっと待てよ!?

 俺様のゲキガンガーはいったいどうなるんだ?!』

 その様子を見て、慌てたヤマダさんがウィンドウに飛びついてきますが……

『まったく、いつまでも子供みたいに騒がないでください!』

 横から出てきたプロスさんに、再びウィンドウ外へと押しやられます。

『あなたもプロなら、乗る機体なんかを選ばずとも一流の戦果を上げてきてくださいよ。

 もともと、当社のエステバリスはどれをとっても一級品ばかりなんですから!』

『で、でも、あいつの乗ってるアサルトピットにしか俺のパーソナルデータは入力されていない……』 『そんなものに頼らなくても、戦える人は十分戦えます!

 それよりも、今の状況でユウキさんをひとりにしておくのは非常に危険なんですから早くヤマダさんも出撃してください!!』

『お、俺の名前はダイゴウジ〜………』

 ヤマダさんをいずこかへと押しやっていく鬼のような形相のプロスさんを最後に、格納庫からの通信も切れます。

「……………」

 そして、そのウィンドウの消えた空間を、なんとなく呆けた様子で見守る私達ブリッジ一同。

「……って、みんなして呆けてる場合じゃないような気が」

「……はっ?! そ、そうじゃった。

 ホシノ君は随時エステバリスの状況の確認を。ハルカ君はいつでもナデシコを発進させられるよう準備しておいてくれ」

「はい」

「りょ、りょ〜かい!」

 こうして私達は、いち早く正気を取り戻した提督の指示に従って自分の作業を始めるのでした。





ウィーーーン…… ガチャン



「……あれ?」

 エレベータから出て地上に出ると、辺り一帯には視界を埋め尽くさんばかりの木星蜥蜴の群れ。

 その中に、このドックを守ってくれていたはずの連合軍の機体は見当たりません。

 なんて言うか、もう全滅してしまったんでしょうか……?

「えっと………」

 少し落ち着いて、辺りを丹念に見渡す。

 それでも目に映るのはバッタやジョロばかりで、どうにか使い方を理解したレーダーで辺りの様子を確認してみても味方の識別信号はひとつも見つからない。

「………き」

 そして、思わず立ち尽くしてしまっていた私に木星蜥蜴達はその無機質な視線を私に集中させてくる。

「きゃ〜〜〜〜っっっ!!!」

 一斉に向けられるモノアイの赤い光に本能的な恐怖を感じ、先ほどまでの決意もどこかに思わず逃げ出しそうになってしまう。

 するとエステバリスはそんな私の思いに敏感に反応して、足についたキャタピラを高速回転させて思いっきりこの場から後退して行きます。



バキィッ バキィィッ!!



 ……その進路上にいたバッタをなぎ倒しながら。

「……ふぇ?」

 その様子を見て、思わず気の抜けた声を私はあげてしまう。

 だけど、気を抜いていられるのもつかの間、すぐに近くにいた別のバッタが私を追いかけて接近してくる。

「こ、こっちに来ないで〜〜〜!!!」



バババッ! バババババッ!!



 続いて、無意識に飛びかかってきたバッタを片っ端からライフルで撃ち落していく。

 ただ、これはきちんと敵を攻撃しようとしているわけではなく、言うなれば突然飛びかかってきた台所の黒い悪魔に対して無意識に丸めた新聞紙で防衛行動を取っているのと同じこと。

 それだけなのに、IFSは見事に反応して次々とバッタを撃ち落していく。

 プロスさんがあそこまで誇らしげに言うだけあって、思ってた以上にこのエステバリスと言う機体の性能はいいみたい。

 そんなことを考えながらも当たるを幸いにライフルを乱射し、1機、また1機と近付いてくるバッタを撃ち落していく。

「も、もしかして、この調子なら何とかやれそうかな……?」

 そう思って辺りを見渡してみるけど、私の周りを囲む木星蜥蜴の数は一向に減っていないように思える。

 それどころか、私に迫ってくる木星蜥蜴の数がどんどん増えて来ている気も……

 どうやら、滅茶苦茶な動きで逃げ回る私を彼らは強敵と認識してくれたらしい。

 これはこれでちゃんと敵の注意をひきつけて、プロスさんの頼みを達成できているからいいんだけど……

「ひゃぁっ?!」

 バッタのミサイルをジャンプしてかわし、ジョロのマシンガンに追い立てられるようにその場からあとずさる。

 はっきり言って、このまま戦い続けるのは少しヤバイかもしれない。

 それでも、ドッグの中のみんなのためにもここで私がやられるわけにはいかないし、私だってまだ死にたくない。

 足のキャタピラを駆使して駆け回り、飛び跳ね、時には振り返ってライフルを撃ちながらも逃げ回っていく。

 だけど、次の瞬間!


ピッ!

『思い出した!! アヤちゃんだ、アヤちゃん! なっつかし〜〜♪』


「ひっ?!」

 突然目の前に展開した通信用ウィンドウとやらに私の視界はふさがれ、ドアップで表示される満面の笑みを浮かべた女性の顔に私は驚いてビクッと体を震わせてしまう。

 だけど、今はちょうどバッタのミサイル攻撃をかわそうと地面を蹴って飛び上がろうとしていたところ。

 その反応にもIFSは忠実に反応して、エステバリスはバランスを崩わせてしまう。

 そして、不自然な体勢で飛び上がったエステバリスは十分な跳躍高度を得ることが出来ず……


ドドドドォーーーーン!!!


「きゃんっ?!!」

 無数のミサイルのすべてをかわしきることが出来ず、直撃を喰らって吹き飛ばされ、地面に叩きつけられる。


ドガッ!! ドガッドガッ! ズシャーーーッッッ!!


「キャァァーーーー!!」

 爆発と、地面に叩きつけられた衝撃とそのあと何度かバウンドする激しい衝撃に私は耐えることが出来ず、シートに頭を強く打ち付けてしまう。

 ごめんなさい。エステバリス壊しちゃいましたね……

 やっぱ、私なんかの力じゃみんなを守れないのかな……

 過去の光景が朦朧とした頭の中をフラッシュバックし、最後に、火星で私を助けてくれた黒衣の人の笑顔が横切る。

『………!』

 意識を失う直前、一瞬エステバリスのモニタの隅にあの人の姿を見た気がして、私はどこか満ち足りた思いでそのまま意識を失うのでした………











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