とりあえず私たちは、ナデシコが適当な場所に移動している間に自己紹介を始めます。
まず最初に、私の幼馴染でもある艦長のミスマル・ユリカ。
子供のときからのお気楽極楽な性格は変わってないようで、天然なまでに能天気なユリカ姉さんですが、それでいて軍の士官学校での成績は主席だったそうな……
それだけでも驚いたのに、まさか姉さんがこの艦の艦長だとは……
人は見かけによらないという、いい事例ですね。
そんな姉さんと一緒に士官学校で学んでいたと言う、副艦長のアオイ・ジュンさん。
少し気弱そうな感じもしますが、これでもユリカ姉さんに続いて士官学校では次席の成績だったそうです。
続いて、フクベ・ジンのおじいさん。
なんでも元連合軍の提督さんだったそうですが、私は軍事関係についての知識は皆無なのでよく知りません。
戦闘アドバイザーのゴート・ホーリーさん。
この人も元連合軍の方で、今はネルガルの一社員と言うことですが……
どう見てもそのムキムキの体には、キツキツで苦しそうなビジネススーツよりも戦闘服のほうが似合いそうです。
会計役のプロスペクターさん。
まだ少ししか話してないので確信は出来ませんが、おそらくいい人かと。
……ただし、さっきのように突発的にネルガルの製品を売り込んでさえこなければ、ですが。
メインオペレーターのホシノ・ルリさん。
よく言えばクール、悪く言えば無愛想な感じの、11歳の可愛い女の子。
下地はいいので、絶対に笑ったほうが今よりもずっと可愛いと思うんですけど……
彼女はマシンチャイルドと言って遺伝子自体に何か特別な処理を受けているようで、詳しくはよくわからないんですが私たちよりずっと優れた能力を持っているそうです。
操舵士のハルカ・ミナトさん。
気さくで優しそうな、大人のお姉さんって感じの人です。
ユリカ姉さんも、これくらい落ち着いてくれると嬉しいんだけど……
通信士のメグミ・レイナードさん。
私と同い年で、鼻の頭にそばかすの残るちょっと童顔の元声優さん。
もっとも、私はサイゾウさんの手伝いでずっと忙しかったので全然知りませんでしたけど……
「それじゃ次はアヤちゃん、お願いね」
ブリッジのみなさんの紹介を受けた後、ついに私達の番になります。
「あ、はい。えっと、ユウキ・アヤナ、17歳です。
もとはサセボのとある食堂で働いていたんですけど、プロスさんに誘われてナデシコでコックとして働くことになりました」
「えっ?! 17歳……!?」
「嘘っ? 私と同い年……!?
てっきり私より年下で、まだ15歳くらいかと……」
私の言葉にミナトさんとメグミさんが驚きの声をあげ、他の皆さんも同じように驚いた表情を浮かべています。
「中学生、ですか……?
確かにいつも実年齢より幼く見られがちなんですけど、これでもちゃんと17歳なんですよ」
身長がそれほど高くないのと体つきがそれほど発達してないこと、それに加えてぶかぶかの服を好んできていることもあって、普段からやや幼く見られがちです。
まあ、慣れてるから別にいいんですけどね……
「えっと、それでユウキさん。一つだけ確認を取っておきたいんですけど……」
「あ、はい。なんでしょうか?」
プロスさんの言葉に、気を取り直して振り返ります。
「役職の件で、先ほどユウキさんには『コック兼見習いパイロット』として働いてもらうと言いましたが……どうしましょうか?
パイロットに関してはテンカワさんに来ていただけたので、無理をして続けてもらう必要は……」
「あっ………」
その言葉に、私は少し考え込んでしまう。
確かにあの時私がエステバリスに乗り込んだのは他に戦える人がいなかったからであって、言わば成り行きみたいなものだったけど……
でも、あの時の気持ちは今も変わらない。
誰かが傷ついているのを何も出来ずにただ見過ごすことなんて、もうできそうにないから……
「それでいいです。このまま、エステバリスのパイロットとしても働きます」
「……よろしいのですか?
確かにIFS所持者は結構貴重なのですが……コックとして働くの以上に危険にさらされることになってしまうのですよ?」
「はい。それでも構いません」
プロスさんが私のことを心配して言ってくれてるのはわかるんですが、こればかりは譲れません。
そんな私の決意を感じてもらえたのか、プロスさんもそれ以上は私を引き止めようとはせず頷いてくれます。
「……わかりました。
それではせめて私にできることとして、給料などに色々融通を利かせておきましょう。
なんと言っても、コックとパイロットの2職分ですからね」
「えっ?! べ、別に、給料のことは気にしないでも……」
そんなことはまったく考えていなかったので慌ててそう言うけど、プロスさんはやんわりと私の言葉を遮ってきます。
「いえいえ。あなた方パイロットが危険な戦いに赴いているのに、私達はただここで見守るぐらいのことしか出来ませんからね。
ですから、せめてこれぐらいはさせてください」
「は、はあ……」
まあ、プロスさんがそこまで言うのならプロスさんの好きなようにしていただきましょう。
とりあえずそこで私の話は終わりにして、最後にテンカワさんの自己紹介へと移ります。
「それじゃ、次はえっと……テンカワさん、でしたっけ? 自己紹介、お願いします」
……?
気のせいでしょうか?
ユリカ姉さんに呼ばれたとき、テンカワさんは一瞬ものすごく寂しそうな、今にも泣きそうな表情を見せて……
「………ああ、わかった」
すぐにまた笑顔に戻ったのですが、その笑顔もどこか自嘲的なものに見えます。
「俺の名前はテンカワ・アキト。
とりあえずナデシコには、パイロット兼サブオペレーターとして乗り込むことになった」
「サブ、オペレーター……?」
その言葉に、ホシノさんが何やら怪訝そうな表情でテンカワさんに問い返してきます。
私も、それには少しびっくり。パイロットとオペレーターって、兼任できるような職業だったでしょうか……?
そんな私の疑問を打ち消してくれるかのように、テンカワさんは説明を続けます。
「と言っても正規のオペレーターである君ほどの能力はないから、補助ぐらいのことしか出来ないよ。
で、どちらかと言うとパイロットの仕事がメインだから戦闘時のサポートも出来ない。
言ってみれば、艦が暇なときで君が休んでる間の留守番程度ぐらいしか俺にできることってないんだけどね」
「そう、なんですか……?
でも、そんなことならわざわざサブオペレーターなんかつけてもらわなくても、私ひとりで十分だと思うんですが……」
……もしかして、ホシノさんはテンカワさんのことが何か気に入らないのでしょうか?
わざわざテンカワさんから視線を外したままでそうつぶやくのですが、何だかテンカワさんに対する言葉だけは少し棘がある感じです。
そんな雰囲気を察知したのか、プロスさんが慌てて取り繕うように口を挟んできます。
「まあまあ、そんなこと言わないで下さい。
オペレーターがルリさんひとりになってしまうと、どうにも頼りがちになって超過労働をさせてしまいかねませんからね。
そうなってしまわないようにってことです。
それに、テンカワさんはああ言ってますがそれは謙遜してるだけで、彼はオペレート能力もなかなかのものですよ。
なんと言っても、ルリさんが着任される2週間前まではテンカワさんがオモイカネの教育を担当してくれてたんですから」
「そう、なんですか……?」
もう一度同じ台詞で、でも今度は少し驚いたような表情で、ホシノさんはようやくテンカワさんに視線を向けます。
「とは言うものの、ただ話し相手になってあげていただけなんだけどね」
当のテンカワさんは苦笑いを浮かべ、少し照れくさそうに頭をかきながら答えています。
「……そう、なんですか……
まあ、オモイカネがそれでいいと言うのなら私は別に構いません」
『うん♪ もちろん私は大歓迎だよ♪』
ホシノさんの言葉に、テンカワさんの腰にしがみついたままの小さな女の子が満面の笑みを浮かべて頷き返します。
「そう言えば、ひとつ聞いてもいいですか……?」
「どうかしましたか? ユウキさん」
ちょっとした疑問を思い出して私が口を挟むと、プロスさんが私の言葉に反応して視線を向けてきます。
「今の会話で『オモイカネ』って出てきましたけど、それってこの娘のことですよね?」
『うん♪』
私の言葉に、当の本人が嬉しそうに返事を返してきます。
「で、さっきのことなんですけど、この娘はさっき何もないところから急に現れたような気がしたのは気のせいでしょうか……?
それにこの娘、何だかよく見ると所々が半分透けてるような気がしますし……
この娘って、いったい……?」
「そう言えば、いろいろあって忘れてましたけど……」
「確かに不思議よねぇ?」
私の疑問に同意するように、メグミさんとミナトさんが相づちを打ってきます。
「そう、ですね……
私もオモイカネのその姿のことは知りませんでしたので、できれば聞いてみたいです」
そして、オペレータ席に座って前を向いたままのホシノさんも同様に。
「そうだな……俺のほうから説明していいかな?」
「ええ。私もそれほど詳しくは知りませんし、よろしくお願いします」
「わかりました」
プロスさんに一言確認を取った後、テンカワさんが私達の前に出てきて説明を始めます。
「まず、オモイカネと言うのはこの艦のメインコンピュータの名前で、正式名称は『思考型中枢制御システムSVC0272、オモイカネ』と言う。
日本神話にある、天照命を天の岩戸から誘い出したと言う思兼命がその名前の由来だ。
そして、この娘はそのオモイカネが擬人化した姿であり、立体映像なんだ」
「立体、映像……?」
『オモイカネです。よろしくお願いしますね♪』
その娘は自己紹介すると私たちに向けてスカートの端をつまんで持ち上げ、可愛らしく一礼してきます。
「オモイカネのウィンドウもコミュニケと一緒で空間に直接映像を映し出しているし、もしかしたら立体も出来るのかなって思ってやらせてみたら、ことのほかオモイカネ自身が気に入ってしまったってね。
まあ、映像だからこの艦の中でならさっきみたいにどこにでもいきなり現れることができるし、消えることもできる。
その分触れたりすることは出来ないけどね」
テンカワさんの言葉を証明するようにその娘は後ろを振り向き、するりとテンカワさんの体をすり抜けてその姿を消します。
「それに、ここまで完璧な立体映像を作り出すのは結構大変だから普段のオモイカネとのコミュニケーションは通信ウィンドウで行うんだけど。
戦闘時とか、立体映像に余計な手間をかけてる余裕はないしね」
【うん。こんな感じ〜♪】
テンカワさんの前にウィンドウが浮かび上がり、その中にオモイカネからのメッセージが表示されています。
確かに、さっきまでのあの娘の姿はどこから見てもほとんど人間と変わらなく見えましたし、それが本当に立体映像だと言うのなら相当大変な処理が必要なのでしょう。
「だから、ル……君がオモイカネのこの姿を知らなくてもおかしくはないんだ。
君が着任してからのこの10日間、出航の準備やら何やらでずっと手一杯だったろ?」
「……なるほど。その件については、一応納得しました」
ホシノさんはクールな表情のままで小さく頷くと、テンカワさんに向き直ってその顔を覗き込みます。
「後、私の呼び方は別にルリでも結構です。名前なんて、所詮はその人物を表す記号でしかありませんし。
それに、この艦では私が最年少です。気を使ってもらう必要はありません」
テンカワさんが一度名前を呼ぼうとしてわざわざ言い直したのが気になったのか、ホシノさんはぶっきらぼうにそう告げます。
「………わかったよ、ルリちゃん」
まただ。
ホシノさんの言葉に苦笑いを浮かべたテンカワさんは、またさっきと同じようにどこか懐かしそうな、それでいて悲しそうな表情を浮かべてそう答えます。
なぜ、なんでしょうか……?
「ユウキさんもそれで構いませんから」
「あ、うん」
ホシノさんから話を振られ、私は慌ててテンカワさんから視線をそらせてそう答えます。
「それじゃよろしくね、ルリちゃん。私のこともアヤナで構わないから」
「……わかりました」
ホシノ……ルリちゃんはそれで満足したのか、私の言葉に小さく頷いた後再びテンカワさんへと無表情な視線を戻します。
「とりあえず、ブリッジのメインクルーになる皆さんの紹介はそんなところですかね」
そして、全員の紹介が終わったと言うことでプロスさんが場を仕切るように声を張り上げます。
「あとはもうひとり、連合軍のほうから副提督となる方を派遣してもらう手はずになっているんですが……
どうやら、先ほどの騒動で置いてきてしまったようです。着任も、もともとは明日の予定でしたし」
「じゃあ、どうするんですか?」
「どちらにせよ、まだ物資の積み込みも終わっていません。
ですから、その間にでも改めてナデシコに乗り込んでいただきますよ」
「……できれば、このまま置いていきたい気分ですがね」
「それは言わないお約束ですよ、テンカワさん」
冗談なのか本気なのかよくわからないテンカワさんのつぶやきに、これまた冗談か本気かよくわからない返事をプロスさんが返します。
このふたりはその副提督について何かを知っているのでしょうかね?
「それでは自己紹介も終わったことですし、とりあえずこの辺で一時解散と言うことで。
テンカワさん、ユウキさん。
よろしければ、おふたりの部屋への案内をかねて艦内をご案内しようと思うのですが……いかがですか?」
「一応、案内してもらうまでもなくこの艦の構造は熟知してるんですが……」
プロスさんの提案に、テンカワさんが苦笑しながら答えます。
できれば私としては、もう少しテンカワさんとご一緒したいのですが……
そんな思いが通じたのか、プロスさんが重ねてテンカワさんを説得してくれます。
「まあまあ、そんなこと言わないで下さいよ。
一応、これから一緒に働くことになるクルーにあいさつ回りをしておくのも悪くはないでしょう?」
「……それもそうか」
「そう言うことで、ユウキさんもよろしいですよね?」
「あ、はい!」
プロスさんに振られ、私は慌てて返事を返します。
「あっ! それなら私も来たばっかだし、一緒に行く〜!!!」
そんな私達の会話にユリカ姉さんが身を乗り出して来ますが……
「艦長は、ダメだ」
後ろからゴートさんに首根っこを抑えられ、捕まってしまいます。
「え〜?! どうしてですか〜……」
「艦長にはまだ反省が足らんようだからな。
着任予定の時間を5時間も遅刻してきたことや、戦闘中のパイロットを危険にさらしたこと。
他にも艦長としての自覚が足らんようだし、心構えもなっとらんようだ。
ここは一つ、実際の航海が始まってしまう前に艦長にはじっくりと話を聞いてもらう必要がある」
「そ、そんな〜……
う〜、アヤちゃ〜ん………」
ユリカ姉さんは涙目になって私に助けを求めてきますが……たまにはいい薬でしょう。
私が姉さんのせいで危険な目に会ったのは確かですし、姉さんの性格的にもう少ししっかりと艦長としての自覚を持ってもらったほうがいいです。
……もちろん、この程度で姉さんの性格が改善されるとは到底思えませんが………
「それではそう言うことで、ここではなんだしブリーフィングルームにでも行こうか。
もしよろしければ、提督もご一緒願えますか?」
「うむ」
「あぅ〜〜〜……
ぷろすさ〜〜ん……、アヤちゃ〜ん………」
そして、ゴートさんに引きずられていく姉さんの姿を眺めながら、私たちもプロスさんに先導されてブリッジを後にするのでした。
あとがき、です
う〜ん、おかしいな………
がんばって書いたはずなのに、物語的に全然進んでないような……(自爆)
しかも、何でかまた中途半端な量だったから前後編になっちゃってるし(核爆)
とりあえずまあ、オモイカネの性格がTV版のときよりずっと人間らしく(子供っぽく?)なってることの説明がついたからいいか……(苦笑)
ルリと接触する前からアキトという話し相手がいたから、少し人間らしく成長してると言う感じです。
女の子型に化けるのは……なんとなくだったりして(爆)
オモイカネのウィンドウ自体が何もない空中に描画されたものなのだから、立体映像も出来るかなぁって感じで。
(一応、物語的にも意味はある……と思うんですけどね(苦笑))
ちなみに、ユリカとアヤナの関係は姉妹同然に……ユリカとしては実の姉妹以上に仲のいい幼馴染です。
決して百合化はしませんので、予めご了承のほどを……(爆)
とりあえずそんな感じで。
代理人の感想
・・・・・ああ、それでどことなく苦労性だったんですね、アヤナちゃん(爆)。
あと、アキト君は相変わらず内心を隠すのがお苦手のようで(笑)。