『 ・ ・ ・ ルリさん、元気出してくださいの』
ブンッ
ウインドウを閉じる瞬間に、メノウはルリにニコッと人なつっこい笑顔を向けた。
「! くすっ いけませんねメノウちゃんに励まされるようでは」
しばらく消えたウインドウのあった辺りを見ていたが、自嘲気味に笑みを浮かべ呟くと、
「そうです、いつまでも沈んではいけませんね ・ ・ ・ 」
【それに、今は敵なのかもしれませんが、アキトさんは生きていたんです、生きているならいつか必ずまた会えるのですから】
制服の上から胸の辺りを、何か確かめるかのようになぞる、
「ですよね アキトさん」
その手に、あの日アキトが14回目の誕生日プレゼントとして送った瑠璃石のペンダントが確かな存在感を返していた。
機動戦艦 ナデシコ
星ノ記憶
6.
『アメノムラクモ』が自らの相転移砲で消滅し、ナデシコBとナデシコA+が合流したころ。
「整備班のみなさ〜ん、そろそろアキトさんがおっきな『お土産』を持って帰ってきますから、早く受け入れの準備を終わらせてしまいましょう〜!」
「「「「「「「おお〜〜っ!!」」」」」」」
やけに広い格納庫らしき場所で、ツナギを着た少女が忙しそうに、もとい かなり忙しく作業をしている整備員達に向かって号令をかけていた。
「ふぅ〜 何とか間に合いそうですね〜」
作業の進み具合を見ながら、班長らしき少女はニコニコと微笑みながら額の汗を拭った。
此処は、ヒサゴプランのターミナルコロニー『タギリ』内にある、隔離区画の一角、
『遺跡』奪還に成功したアキトの受け入れ作業を急ピッチで進めているところである。
「サクラさん 受け入れの準備はどう?」
「あぁ ミノリさんですか? 大丈夫ですよ〜 何とか間に合いそうですから」
サクラと呼ばれた少女の背後から、長いウェーブのかかった黒髪を靡かせた女性が声をかけてきた、
こちらはサクラと違い統合軍の軍服と階級章をつけている、もちろん限りなく本物に近い偽装だ、ちなみに階級は少佐。
「それにしても、よく準備が間に合ったわね」
ほぼ受け入れ態勢が整った格納庫を見回しながら、ミノリが感心したように声をかけてくる、
「そうですか? そうでもありませよ〜 プロとして当然のことですから」
ニコニコしながらも、どことなく誇らしげに答える。
「ですけど できることなら、こう言う事は余りない方が いいですねぇ」
「それは、私じゃなくてアキトに言ってくれないと」
苦笑するサクラにつられるようにミノリも苦笑を浮かべる、
本来なら、此処ではなくもう少し狭い格納庫を使用する筈だったのだが、
「まったく、ラピスには感謝しないと あの娘が知らせてくれなかったら大変なことになっていたわ」
「予定していた参番格納庫だと、戦艦一隻なんて入りませんからね」
「ジャンプアウトと同時に、格納庫に納まりきらずに同一空間で重複した物質同士が核融合起こしめでたく『タギリ』は宇宙の藻屑となりました と」
手をパッと広げて、爆発する様な仕草をするミノリ、
「あまり想像したくないですねぇ それは」
「ほんとよ、アキトも何考えてるのかしら? ラピスと『会話』できるからよかったものの ・ ・ ・ 」
「それがあるからじゃないのですか? 私はアキトさんが何も考えないで無茶な事をするとは思いませんよ〜」
「そう ・ ・ ・ でしょうけど 無茶は無茶よ」
サクラの笑顔に、多少毒気を抜かれながら答える、
「あは 確かにそうですねぇ
でも、私個人としては喜んでいるんですよ〜」
「?」
嬉しそうに言うサクラに、ミノリが怪訝そうな顔をする。
「偶然でも、あの『ナデシコ』を見ることが出来るんですよ〜 それも私の手でイロイロできるんですよぉ〜
技術者としてこれほど嬉しいことはそうそうありませんっ」
「そ、そう ・ ・ ・ 」
こぶしを握り、力説し始めたサクラに気圧されながら、何とか相づちをうつ、
「それにラピスちゃんの話だと、何でもネルガルの新型機動兵器も有るそうです!
は〜 アキトさん、サクラはとっても幸せです〜〜」
「あ、あはは〜〜 行ってらっしゃあ〜い」
まだ見ぬナデシコAを思い、瞳の奥をキラキラと輝かせているサクラを呼び戻しても無駄だと悟ったのか、ミノリは快く見送ってしまった、
「サクラ班長〜 受け入れ準備完了しました!」
数分後、整備員の1人がサクラに報告しに来たが、
「はぇ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜、ほぁ〜〜〜」
「 ・ ・ ・ は、班長?」
まだ帰ってきていないようだ、瞳の中に星が舞っている、
「はぁ 整備班は所定の位置で待機して もうすぐ出てくるわよ」
サクラの様子に仕方ないといった感じで、かわりにミノリが整備班に指示を出す。
「拾参番格納庫より、コントロールへ 『遺跡』受け入れ準備完了したわ」
続けてウインドウを開き、コントロールルームに受け入れ準備が終わったことを知らせる、本来ならこれはサクラの仕事なのだが ・ ・ ・
『こちらコントロール 了解、
・ ・ ・ ところで、どうしてミノリ少佐が?』
連絡を受け取ったオペレータが不思議そうに、聞き返してくる、
「 ・ ・ ・ アレ」
「ほはぁぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜、ヘ〜〜〜〜〜〜」
『 ・ ・ ・ なるほど』
オペレータにウインドウの角度を変えてあっちの世界に行っているサクラの様子が見せると、オペレータもあっさりと納得していた。
ピッ
『ミノリ、来るよ』
オペレータと苦笑していたミノリの正面にウインドウが開くと、薄桃色の髪を持つ少女、ラピスがいきなり現れた。
「っ わかったわ」
いきなりのラピスの通信に、少し驚いたような素振りを見せたが特に何もいわない、
別にラピスが驚かそうとしているのではなく、今ボソンジャンプの為のオペレーティング作業を同時に行っているので、よそに気を使うだけの余裕が無いだけだと知っているからだ。
その証拠に、ウインドウの向こうのラピスの瞳と髪にはナノマシン活動時特有の銀色の光が奔っている、
フィィィィィィィィ ・ ・ ・
拾参番格納庫の中央辺りに、ボース粒子特有の虹色の光芒が空間から滲み出るように広がっていく。
「帰ってきたわね」
それを見て、ミノリがホッとしたようにつぶやく、
初めは10メートルほどだった、光の繭は数秒後には格納庫を満たすほどの大きさまで広がり、戦艦の形を取り始めた。
フィィィィィィ ・ ・ ・ ・ ・ ・ キィィィィィィィィン
ボース粒子を確認してから実体化するまで約6秒、戦艦クラスの大きさの物では驚異的な早さである。
唯一単独ジャンプできる戦艦、ナデシコA+の実体化までの時間約20秒と比べてもかなり速い。
ジャンプの鍵となるジャンパーの違いだろうか?
「 ・ ・ ・ これが、 ナデシコA」
格納庫内にその姿を現せた白い艦体を見上げてミノリがつぶやく、資料などでは何度も見て見慣れたと思っていたのだが、改めて目の前にすると言葉を失う。
「ネルガル重工のスキャパレリプロジェクトの一貫として建造された機動戦艦、その一番艦 形式番号NERGAL ND−001 通称『ナデシコA』、地球側初めての相転移エンジン及びグラビティブラスト、ディストーションシールドを装備し、メインコンピュータに思考型中枢制御システムSVC0272『オモイカネ』を搭載、前大戦において木連、地球双方に多大な被害を与え、まさに『無敵』を誇った戦艦 ですね〜」
いち早く、と言うかナデシコAが姿を認めた途端に戻ってきたサクラが誰に言うでもなくつぶやく、
「サクラさん ・ ・ ・ 艦の型式番号はともかく、メインコンピュータの開発番号なんてよく覚えているわね」
「いち技術者として、当然ですよ〜」
ニコニコとしながら平然と答える、
「そ、そう【ホントかしら?】」
「それから ・ ・ ・ あっ あれが『遺跡』ですね〜」
小さな”?”を頭に浮かべているミノリを尻目に、サクラは次々とウインドウを開きナデシコAの状態をチェックする。
「は〜 『遺跡』ってこんな形していたんですか〜」
その中の一枚に映っている黄金に輝く『遺跡』を見て、サクラがぼけっとした感じで言う、
「 ・ ・ ・ ? あら 『遺跡』って確か正方形の形じゃなかったかしら?」
サクラが見ているウインドウを覗き込みながら、ミノリが不思議そうに言う。
「そうですね〜 資料だと”そう”ですけど ・ ・ ・ ”これ”は華のようですよ〜」
サクラの言うように、それは何かの華のように見えた。
「でもまぁ、『遺跡』には違いないみたいだし いいでしょ」
「あは、そうですね〜 サクラも”こっち”の方がきれいで気に入りました」
「そうね、ただの箱よりはいいかもね、
・ ・ ・ ところで、アキトは?」
ナデシコAや『遺跡』の出現で忘れかけていたが、これらをジャンプさせてきたアキトの姿がない、
「え〜〜〜〜と、 あっ あれじゃないですか?」
「ん? どこ」
サクラがナデシコAの本来なら艦橋が乗っている筈の辺りを指さす、
そこにはナデシコの白いカラーリングに溶け込んでいるかのような、白い機動兵器が立っていた。
「え〜〜と、 多分これがラピスちゃんの言っていた新型機動兵器だと思います」
ウインドウを操作し、『サレナ』が映るように調整する、
「きっと、この中に乗っているんじゃないですか? 生体反応も有りますし」
「それにしては出てこないし、連絡も来ないわね」
なんの反応も無い事に少し怪訝そうに言う、
「そうですねぇ〜 きっと疲れて居眠りでもしているんでしょう」
ポエポエっとした感じでサクラは言うが、ミノリは眉をひそめた。
「【おかしいわね ・ ・ ・ でも可能性は無いわけでもないし、無理もしてるから もしかしてっ!!】」
嫌な予感がした、そしてミノリがそう感じた瞬間、
『ミノリッ アキトの様子が変だよ! 意識レベル低下っ 脈拍・呼吸数も共に低下!
このままだとアキトが!!』
滅多な事では取り乱した事の無いラピスが、血の気が引いた青白い顔でウインドウに映し出された、
アキトと『会話』する能力が有る為に、いち早く異常がわかったのだろう。
「 っ!! サクラさん! あの新型機動兵器のハッチを急いで開いて!」
「ほぇ? は、はいっ! A班のみなさんっ 機動兵器を降ろしてアキトさんを出してあげてくださいっ!」
「それから特別医療班を! 急いでっ」
ラピスの叫び声を皮切りに、ナデシコAのボソンジャンプで一端静まっていた格納庫内が慌ただしく動き始めた。
夢を見ている
いつも見ている夢
目を覚ませば
忘れてしまう
そんな
夢
その夢の中
一人の少女が居る
少しだけ、
人との関わり方が不器用な娘
だけど、
とても優しい娘
大切な娘
いつまでも
一緒にいてあげたかった娘
だけど、
その娘のことが
思い出せない
大切な娘だった筈なのに
何も覚えていない
側に居てあげたかったのに
何もわからない
いつから、こうなってしまったのだろう?
あの娘に逢いたい。
そう夢の中で願いつつ
オレは現実の世界へと戻っていく
そんな夢を、見ていた事も忘れて
「う ・ ・ ・ 」
目を覚ますと、見慣れた天井が広がっていた、
【タギリの特別医療室か】
素早く目を動かして今自分が居る状況を確認する、
【何とか 戻ってこれたみたいだな】
「オヤオヤオヤ、ようやくお目覚めかい?」
「!!」
起き抜けに最も聞きたくない声がアキトの耳を打った、いやいついかなる場所で聞こうとも、最も聞きたくない声が、
「ヤマサキか」
意識していないのに声から感情が消えていく、
「これはご挨拶だね〜 あ、そうか寝起きで機嫌が悪いのかな?」
妙にとぼけたような印象を与える笑顔を浮かべた男が、アキトの側に立っていた、
「いやいや〜、大変だったね キミのナノマシンが暴走したんだって?
いやワタシとしては、そんなヤワなモノを造った覚えは無いんだけど」
「 ・ ・ ・ 」
が、それを無視するかのようにベットから起き上がる。
「おやまぁ つれないね〜 せっかく どんな状態なのか説明しようと思ったんだけど」
そんなアキトの反応を楽しむように、ヤマサキは更に話しかける。
「 ・ ・ ・ で?」
完全に感情の消えた声と表情でアキトがヤマサキを見る、
「まぁ そんなに急がなくてもいいじゃないか、どうだい? お茶でも」
「キサマ ・ ・ ・ 」
「おっと、そんなに怖い顔しなくても いいんじゃない」
殺気をともなったアキトの視線を受けながらも、変わらずヘラヘラと笑みを浮かべているが、他の研究員は殺気に押され、皆壁際にまで下がっている。
ヤマサキとて殺気を感じていないわけではないし、それを受け流せるほどの力量をもっている訳でも無い、
ただ知っているだけだ、アキトには自分を殺せないと、いくら殺気立とうともそれはただの虚勢に過ぎないと、
「おや? どこに行くんだい」
「貴様がそれだけふざけているなら、特に問題はないと言うことだろ、
ならこれ以上貴様に付き合う義理はない」
殺気立ったままそう言うと、アキトはヤマサキに背を向ける、
「おやまぁ 嫌われたのかな?」
わざとらしく肩を竦める、が別に残念がっている様子ではなく、そのままアキトを見送る、
「フッ 威勢がいいなナンバー056」
「ッ!」
ジャッ
いきなり背後に現れた気配に対して、反射的に間合いを取る、
「此処まで近づかねば気づかぬとは ・ ・ ・ 所詮は欠陥品か」
「なんだと ・ ・ ・ 」
相手を確認したアキトの顔に怒りの色が現れる、
「”欠陥品”を”欠陥品”と呼んだ迄のこと、問題はあるまい」
爬虫類を思わせる薄気味悪い笑いを張り付けた男は、アキトの殺気を軽く受け流す、
「それとも、自分は完成品だとでも思って ・ ・ ・ 」
ブォンッ
振り抜かれた拳の風圧で、編み笠がはじき飛ばされる、が瞬き一つしない。
「 ・ ・ ・ 思っていたか」
「オレを、番号で呼ぶな」
「ほぉ それは怒っているのか? クククッ
この程度で心を乱すとは、やはり”欠陥品” 未熟者よのぉ ナンバー056」
「貴様ぁ!!」
アキトの顔に無数の光の紋様が奔る、
ガキィッ
ゴッ!
ゴガシャッ!!
「ぐぁっ」
アキトの拳が唸りを上げるが、軽く受け止められ逆に叩きつけられる。
「クカカカカッ 人形は人形らしくしておればいい」
笑みを更に強めて嗤う、
「あまり乱暴にしないでくださいよ、なんだかんだと言っても”ソレ”は私の大事なモルモット、なんだからね」
「ククク ・ ・ ・ わかっておる」
後ろからかけられたヤマサキの声に嗤いながら答えると、そのまま倒れているアキトに近づく、
「どうした? もう終わりかナンバー056」
「オレを 番号で呼ぶな ・ ・ ・ オレは『アキト』だ」
ぶつかったショックで散乱した医療器具を払いのけ立ち上がり、
「オレは モルモットじゃない」
怒気を込めてそう言い切る、が
「フハハハハッ 『アキト』だと?
くだらん、その名も所詮与えられたもの、番号となんの差がある?」
「(ギリッ)」
それに答えることなく、アキトは構えをとる。
「ほぅ 多少はやる気になったか ・ ・ ・ そうでなくてはつまらん」
それを見て、同じように構えをとる、
2つの殺気が生まれる、1つは相手を燃やし尽くすような、もう1つは相手を凍りつかせてしまうような、対照的な殺気が、
「な、なんなんだこいつらは・・・」
二人の殺気に十分な距離をとって避難していた研究員達ですら身動き出来なくなる、一人ヤマサキだけはいつものヘラヘラした態度のままだが、
「「 ・ ・ ・ 」」
数秒の沈黙の後、
「ハァァァッ!!」
「カァァァッ!!」
ドガッ! ガッ ドドドッ! バキャッ
気合いと共に正面から打ち合う、相手の拳を受け止め、逸らし、自分の拳を打ち込む。
ガスッ!
「カッハ ・ ・ ・ 」
幾度目かの打ち合いでアキトが弾き飛ばされた、
「滅」
態勢を崩したアキトに止めを刺そうと、間合いを詰め、
ゴウッ!
拳が振り抜かれた。
が、
アキトにとどく寸前で、止まっていた、いや止められていた。
「 ・ ・ ・ 」
無造作に突き出されたナイフが、首筋に触れるかどうかの位置で止められている、
動きを止めるのが一瞬でも遅ければ、確実に喉を裂かれていただろう。
「フッ ナンバー053か」
自分とアキトの間に割って入ったモノを確認して、嗤う。
ナンバー053と呼ばれたのは、18歳ほどの流れるような黒髪を持つ少女、
ただ、その表情は手にしているナイフと同じような冷たさを持っていた。
「モルモット風情の接近に気づかんとは、我もまだまだか」
突きつけられたナイフからゆっくりと身を引きつつ、己を嘲るように呟く、
が、それは同時にナンバー053と呼んだ少女を、侮蔑する響きも有った。
「!!」
「アキト、駄目」
アキトが飛びかかろうとするが、少女がそれを制する、
「どうした? 女の影に隠れるか」
「貴様ぁぁ!」
明らかにアキトを挑発するものだが、血が昇っているアキトにそんな判断は出来ない、
少女の制止を振り切り、前に出る、
「やめなさい!」
凛とした声が、特別医療室内に響く。
「ほぅ」
「あ ・ ・ ・ 」
「 ・ ・ ・ 」
3人がそれぞれの反応を示す、
「これはこれは、クサカベ少佐ではないですか」
それまで、傍観者を決め込んでいたヤマサキが部屋に入ってきた人物、クサカベ・ミノリ少佐をおどけた口調で迎えるが、それは無視された。
「北辰、それ以上私の部下に対する誹謗は 許しません」
「そう睨まないでもらいたい、少々悪戯が過ぎただけではないか 御令嬢様」
北辰はそう言って嗤う、楽しそうに、
「もう一度言うわ、それ以上の誹謗は許しません」
北辰を睨むミノリ、
「クックックッ 心得た 御令嬢様」
その視線を心地よさそうに、厭らしい笑みを浮かべながら受け止める、
が流石にもう続けるつもりは無いのか、最初にアキトに弾き飛ばされた編み笠を拾い上げる。
「北辰っ」
「やめなさい! アキト」
「くっ」
今にも飛び出しそうなアキトを制すると、ヤマサキに視線を向け、
「それで博士、アキトの検査結果どうでした」
「はいはい、っと 特に問題ありませんよ。
ナノマシンの一部が跳躍時の過負荷に耐えきれずに、多少暴走したようで、
今回のは、制御装置でもあるマシンチャイルドのナンバー077との時空連結とか、新しく付けたモノに慣れていなかったのが影響してるようで ・ ・ ・ 」
手元のカルテを見ながら答える、
簡単に言っているが、通常ナノマシンが暴走するようなことがあれば、即死につながる事もある。
「それじゃあ」
ミノリの発した声には何かを確認する雰囲気があった、
「まぁ そう言うことです。
ところで、クサカベ少佐そろそろナンバー056を私のラボに戻し ・ ・ ・ 」
「問題は無いようね、なら行くわよアキト、メイ」
ヤマサキの言葉を遮り、アキトと少女に声をかける。
「了解」
「 ・ ・ ・ わかった」
北辰を睨み付けているアキトの背をメイと呼ばれた少女が押しながら特別医務室から出ていく、
「 ・ ・ ・ て、くれませんか やはり」
無視されても特に気にする素振りは無い、
「それから、北辰」
ぶつぶつ言っているヤマサキを再び黙殺する、
「何か?」
編み笠をかぶった北辰が視線を上げる、
「私を『御令嬢』と呼ばないで」
「 ・ ・ ・ 心得た」
が、ミノリは北辰の返事を聴く前に特別医務室から出ていった。
「はぁ〜〜、何で研究員の俺達が掃除なんて ・ ・ ・ 」
「言うな、虚しくなるだけだ」
「ほらっそこ! 無駄口たたいてないでテキパキ手を動かす!」
「「へ〜〜い」」
台風が通り過ぎていった後のように散乱している室内を、それまで退避していた白衣を着た研究員達がブツブツ言いながら片付けていた。
が、ブツブツ言っている割に何故かその手際はいい、
アキトと北辰が顔を合わす度に同じ事を繰り返しているので、悲しいかな片付けに慣れてしまっていた。
そんな中ヤマサキだけは、何時ものように飄々と掃除風景を眺めている、
「まったく、ナンバー056にも困ったものだね」
「フッ そう仕向けている貴様が言っても説得力はない」
わかっていて”それ”にのる北辰も人の事は言えないのだが、
「ハ ハ ハ まっ確かに そうだよね」
本当に笑っているのか、いないのか判断に困る笑い声が響く、
「で、我を此処に呼んだ理由は?
まさか彼奴をからかう為だけ、ではあるまい」
それまで、アキト達が出て行ったドアに向けていた視線を、ヤマサキに合わせる。
「 ・ ・ ・ おおっと、そう言えば忘れていたね、
いやね、 今回の事で例のシステムのデータも取れたことだし、キミ達に組み込もうかと思っていたんだ」
ポンッと手を打つ仕種をして、何やら分厚いファイルを取り出す。
「ほぉ ・ ・ ・ 」
それを聞いた北辰の顔に、再び爬虫類の笑みが浮かんだ。