リターナーズ


プロローグ前編

終末への道標









「やれやれ...結局なにも見つからなかったな」

俺はたった今破壊したばかりの火星の後継者残党のボゾンジャンプ研究用のコロニーを前につぶやいた。

「そして、もう時間は残されていないか、グッ...げほっげほっ」

俺は咳き込む口を手で押さえる、そして咳がおさまったあと口から手を離すと吐血した事が分かる

俺はその震える手を拭いてIFSコンソールに置きブラックサレナを機動させる。

「当然の報いなのかもしれないな...」

因果応報そんな言葉を思いつきながらブラックサレナを母艦であるユーチャリスに収納する。

おそらく俺の命は残り少ない、もって後3日だろう。

最後の可能性に賭けてこの最後のコロニーを襲撃したが残念ながら成果は得られなかった。

ある程度覚悟をしていたことだが心の中に落胆の感情があふれてくる。

やはり俺のような大量虐殺を行なった人殺しは無様に野垂れ死ぬのがお似合いなのかもしれない。

「ラピス、このままドックに帰還するジャンプフィールド展開」

『了解』

ラピスに指示を出しながらジャンプのためのイメージングを開始する。

そう言えばまだ名乗っていなかったな、

俺の名はテンカワアキト、プリンス・オブ・ダークネスの名を持つテロリスト

だが今はただ死を待つだけの男、それが俺だ。



















あの火星の後継者の反乱から数ヶ月、ユリカを助け出し北辰をこの手で倒した後、

俺はナデシコの仲間たちを置いて自分の身体を正常に戻す手段を捜し求めこの宇宙をさまよい続けた。

ユリカに会いたくない訳じゃない、むしろ今すぐ会ってこの腕で抱きしめたい、

そして謝りたかった、守れなかった事を、長い間一人にしてしまった事を。

だがそれと同じくらい今の俺の姿をユリカに見せたくはなかった。

救助された後のユリカの状態についてイネスさんに聞いたところ特に異常は無く

リハビリも順調にこなし身体の衰弱以外は健康その物だと聞き俺は喜んだ。

だが、だからこそ今の俺を見ればユリカは自分を責めるだろう

自分だけが無事なことを、自分のせいで俺が苦しんでしまったと。

俺はユリカにそんな負い目を持ってもらいたくはなかった。

俺の今の状況は自分で望んだ事を行なった結果だからだ。

もう俺の命は長くないそれは変え様の無い事だ、だからせめてユリカに会う時には、

最低でも自分の身体の五感は正常な状態に戻してからにすると決めた。

その為に俺は今まで火星の後継者の残党を狩りながら奴らの研究所の情報や、

俺の体内に埋め込まれたナノマシンの研究データを捜し求めていた。

だが俺の体内に埋め込まれた過剰な量のナノマシンは少しずつ俺の身体を蝕んでいた。

その結果俺の細胞は徐々に自己崩壊を始める事となった。

そして、細胞の自己崩壊を止めるタイムリミットはあと数日以内に訪れる。

そして知りうる全ての手がかりが尽き、もうなにも打つ手がなくなった。

ただ死を待つばかり。

いや、まだやる事が残っている。

やらなければならない事が、まだある。



















そして今、俺は消灯時間のすぎた病院の廊下に立っている。

俺の目の前には病室のドアがひとつある、テンカワユリカの名札がかけられたドアが。

俺は静かにそのドアを開け誰にも見られないうちに病室に入りドアを閉める。

      からっ

ドアを閉める時少し音が出た瞬間、

「だれ?看護婦さん?」

その時、長く待ち焦がれた声を聞いた瞬間俺の目には涙があふれた。

かすれそうになる声を必死に押さえ何とか声を出す。

「ユリカ、俺だ、アキトだ」

「え!アキト...アキト!アキト!!アキト!!」

ユリカは俺の名前を叫びながら必死にベッドから這い出ようとする。

「ユリカ!」

耐え切れず俺はユリカに駆けよって彼女を抱きしめる。

「アキト!ほんとにアキトなんだね!」

「ああ!そうだ!おれだ!アキトだ!」

そうして俺達は涙を流しながらお互いを抱きしめた。

お互いの名前をつぶやきながらただお互いのぬくもりを確かめ合った。

どれだけの時間こうしていただろうか...

数分とも、数時間とも感じられる時間がたち

俺は出来るだけ優しくユリカを身体から離す

「ユリカ...俺はお前に言わなきゃいけない事がある」

「なに?アキト」

「俺はお前を守ることが出来なかった、一生守り続けると誓ったのに」

「そしてお前を長い間一人ぼっちにさせてしまった」

「...すまない...ごめん...本当にごめん」

そして俺は頭を下げ謝った。

ただ謝りたかった、たとえ許されなくても俺は謝らなければならなかった。

どれくらいの時間そうしていただろう。

「ありがとうアキト」

一瞬ユリカがなにを言っているのか理解出来なかった。

「ユリカ?」

思わず顔を上げ彼女の顔を見ると彼女は優しい表情に涙を浮かべ俺を見つめていた。

「ありがとうアキト、私を助けてくれて、

ありがとう私のために無理をしてくれて、

そしてごめんなさい、私の所為で無理をさせてしまって、

ごめんなさいなにも出来なくて、

ごめんなさい、共に助け合うと誓ったのに肝心な時に何も出来なくて」

そういってユリカは俺を包み込む様に抱きしめた、涙を流しながら。

そして俺はユリカの言葉を聞き自然と涙が溢れ出た。

今まで俺の中で張り詰めていたなにかが優しく解かれた。

もういいんだ楽になっていいんだと言われた気がする。

もう迷いは晴れた、そして決心はついた。

「ユリカ...そのままでいい...聞いてくれ、

俺の身体はもう持たない...あと数日で俺は死んでしまう」

一瞬ユリカの身体がビクッと震えるそれでも俺は続ける。

「俺はここまで来るのに何人もの人に迷惑をかけ取り返しのつかないこともした、

俺はそれを償わなければならない」

俺は顔を上げユリカを見つめる。

「俺はこれから誰にも見つからない場所に行きそこで俺の罪の証と共にこの世から消えるつもりだ」

「だめだよ!!そんなの絶対にダメ!!」

「俺が生きていようが死んでいようが、おれが捕まればアカツキ達に迷惑がかかってしまう

今までもう十分に迷惑をかけたし助けてもらった、だからもうこれ以上迷惑はかけられない」

俺はユリカを無視して続ける。

「本当は最後にお前にラーメンを作ってあげたくていろいろがんばったけどもう無理みたいなんだ、

だから...」

「ア...キ.ト...」

「ごめん、そしてありがとうユリカ...

俺が居なくても幸せになって欲しい、本当に」

「アキトまって!!」

「さようならユリカ」

そして俺はユリカから離れ出来る限りの笑顔を浮かべその場から消えさった。


続く