リターナーズ

プロローグ中編

機神達の墓標





「もう行くのかい?」

俺の後ろからアカツキが声をかける。

「ああ、そろそろ行く事にする、いままで何かと迷惑をかけてすまなかった」

「なぁにこっちもビジネスさしっかり利益を上げさせてもらったよいろいろとね

まあギブ&テイクさ」

「ふ、お前らしいな」

俺がそう言うとアカツキは大仰に肩を竦める。

「それでたしか太陽に向かって落っこちるんだっけ?

ずいぶんと豪快で派手な最後だね」

そう、これから俺は太陽の近くまでジャンプしそのままユーチャリスとブラックサレナごと

太陽にむかって落ちるつもりだ。

「証拠を残すわけにはいかないからな。

それに、ユーチャリスもブラックサレナも、もうそろそろ休ませてやりたい」

「そうかい...あ、そうそうユーチャリスの格納庫にいろいろ積ませてもらったよ

使い道の無い危ない代物とか、研究所の連中が勝手に作った不良品とか、

他にもごみ捨て場行きの試作型機動兵器とか、ついでに捨ててきてもらおうと思ってね」

まるで出かけるついでのたのみごとの様に軽く言う。

「別にかまわないがどんな物なんだ?その不良品とやらは」

「見たいかい?ついでにせつめ...ゴホッゴホッ...解説でもするよ」

「そんなに神経質にならなくともイネスさんは今地球に降りているはずだろう。」

「いやいや、念のためさ。ま、気を取り直して行こう」

そういってアカツキは格納庫へと向かう。

そして俺もその後へ続く、正直格納庫の中身に興味がある。


















「これは!...」

それを見て思わず絶句する

「そう君のブラックサレナの原型さ」

そうブラックサレナよりも細身だが機体の各所に付いているブースターのサイズは

ブラックサレナと同等、だが機体の細身のせいでブラックサレナより巨大な印象を受ける

そして一番の違いはブラックサレナはエステバリスの追加装甲、つまり鎧のような物だが

これは完全に単機の機動兵器として完成されている。

「たしかに...『危ない代物』か...」

そう規格外の不良品だ。

人の扱うことが不可能な機動兵器、

使用するパイロットを考慮せず、人の作りうる技術の限界に挑戦した機体。

その結果、パイロットを死に至らしめる加速力と

360度の空間を自由自在に動き回る事が出来る機動力を持ち、なおかつ

その非常識なまでの加速力と機動性に耐える事の出来る剛性を持つ機体が仕上がった。

俺も一度テストをした事がある、

もっとも加速したと思った次の瞬間意識を失い

次に目が覚めたときに俺は医務室のベッドで眠っていた。

後から聞いた話では3日間ほど目が覚めなっかたらしい。

人の操れぬ機体、それがこのプロトサレナだ。

そしてこれのデータを元に追加装甲のブラックサレナ、それとアルストロメリアが出来上がった。

「いいのか?これを捨てても?」

不良品とはいえこの機体はネルガルにとって特別なはずだ。

「いいんだよ、もうデータはほとんど取ったし、もともと君のために作ったようなもんだし、

誰も乗りこなす以前にまともに動かすことも出来ないからね。

データを取り終わった今もう利用価値なんてないんだ」

「そうか...」

特に反論はなかったので隣りの機体に目を向ける。

「これは?」

それはエステバリスよりも二周りは大きい機体だった

その姿はまるで中世の騎士を思わせるかの様に装飾された巨人だった

だが俺はなんとなくこの機体に見覚えがある気がする。

「ああ、これかい?さっきも言った『ごみ捨て場行きの試作型機動兵器』さ。

正確には『新型月面フレームの試作機』の改良型、もともとは前大戦以降あまり利用されなくなった

月面フレームのシェア拡大のためネルガル月研究所の研究者達ががんばって作ったんだけどね、

コストが予定を上回ちゃってさらにこの機体の操作性が結構なじゃじゃ馬ぶりでね

結局試作機を一機だけ造って企画だおれになちゃったんだ」

「成功の影に、失敗ありだな」

「でも実はこの話にもまだ続きがあってね、

実は月面の研究所に居た技術者が廃棄するはずだった試作機をかってに持ち出してしまってね

勝手に自分で改造しちゃったんだよ、かなり趣味に走って」

「趣味?まあ、確かに趣味の入ったデザインだな」

「そう趣味...彼は、まぁ..なんというか...ロボットマニアでねアニメとかゲームとかの

なんでもそういった物をモデルにして自分のオリジナルロボットを造るのが夢だったんだって」

なんというか...ガイとウリバタケさんを足して2で割ったような人物を想像した。

「その結果、機体の剛性とディストーションフィールドの主力を高めるために

機体の各部のブースターの変わりにフィールド発生器を装備し機動力が犠牲になった、

その代わりに背部ブースターを強化して突進力を上げ...

格闘戦に特化した頑丈な機体に仕上ったわけ、そんでもって主力武器はこの機体サイズの刀。

この機体でもっとも効果的な戦闘法は主に、『肉を斬らせて骨を絶つ』てやつ。

なんていう機動兵器としては非常識極まりない代物になっていてねデータもまともに取れないんだ

まぁそんな訳で君に持って行ってもらおうと思ってね」

「別にかまわんが...なんだか粗大ゴミ収集業者のような気分になってきた」

「まあ、やってもらうことは似たようなもんだけどね、

で、最後のコンテナの中には企画段階で没になった物とか、研究所の連中が勝手に作った不良品とかが

まとめてはいっているから」

「わかった...にしても話を聞いている間にずいぶんと時間がたったな

そろそろ行くことにする...お前の解説、様になっててなかなか面白かった」

「そうかい。まあ満足してもらったのなら結構...

本当に行くのかい?こんなこと言える筋合いじゃないけど、

やろうと思えば残りの時間をユリカくんと一緒にすごすこともできるんだよ」

「......けじめみたいなものだ、

俺は自分の身体が元に戻らない限り皆の所に帰らないと決めていた

そして時間が切れた...それにもう別れは告げてきた」

「ラピスくんは怒るよ君が何も言わずに置いて行かれたと知ったら」

「たぶんな、だが時間がたてば納得してくれるよあの子は頭のいい子だ

俺の身体の事と俺の決意は前から話してあった。だから納得してくれるさ」

「君はそう言うけど彼女意外と頑固な所があるからね一度へそを曲げるとなかなか機嫌を直さないよ」

「......がんばってくれ」

「なにを!?」

「冗談はともかくラピスの事、たのむぞ」

「ああ、まかせたまえ。我々が責任を持って彼女を預かる」

「なにからなにまで世話になったな」

そう言い俺はアカツキに向き合い手を差し出す。

「今まで俺の都合でいろいろ無理を聞いてもらってすまなかった。

どれだけ感謝してもし足りない、本当にありがとう」

「どういたしまして。さっきも言ったけど、こちらもいい仕事をさせてもらったよ」

俺とアカツキそのまま握手をする。

「ネルガルの更なる成功をあの世で祈っているよ」

「こちらも君の冥福を祈っているよ」

そして俺達は別れた。

















「ダッシュ、相転移エンジン稼動ラピスが居なくて悪いがよろしく頼む。

これが最後の航海になる、目的地は太陽.....すまんなこんなことに付き合せて」

『気にしないで覚悟は出来てる、最後にラピスと会えないのは残念だけど我慢する』

「すまんな本当に...ジャンプフィールド展開」

『了解、

ジャンプフィールド展開、

ディストーションフィールド出力正常、

システムオールグリーン、

イメージングをどうぞいつでも行けます』

「イメージ、目標地点水星より二〇万km...

ジャンプ!!

俺の叫びと同時にユーチャリスはネルガルのドックから姿を消した

こうして、俺は最後の航海へ出発した。



続く