Prologue.
――――私は不思議な夢を見る。
それは、黒い、哀しい…やさしい心の人の夢。
その曖昧な、風景と音だけの世界の中で…私であるその男の人は黒い鎧を身に付けて必死に闘っている。
…一体それはいつからだったろう? 私がその夢を見ていたのは。
私の記憶をたどってみると、それは桜の花びらが舞う高校のグラウンドであり、赤い太陽に照らされた草原のなかの小さな子供の日々であり……
そしてやっぱり、最後にはいつも――――
――――それは今の私になる前の、『アキト』という人物の夢であることに気づくのだ。
それがなんなのかは、私にはさっぱりわからない。
わかるはずもない。
ただ、なんとなくそれは……『私の前世』なんじゃないかと思いながら、この私――サレナ・クロサキは今までを過ごしてきた。
………そしてこれからも、そうやって過ごしていくのだと思っていたのに。
機動戦艦ナデシコIF 〜メビウスの欠片〜
第1章 『理想は遠すぎて、この手には掴みきれないけれど』
Act1
1.
――――2196年、火星。ユートピア・コロニーのシェルターにて。
低い振動音が、また天井の上から聞こえてきた。
薄暗いオレンジの明かり。どっしりと重く沈みこんだ空気。土埃がぱらぱらと天井から落ちてくる音。隣に座り込んでいる友人のミキが、どうにも絶望感の漂う科白をやけに気楽そうな顔をしながら吐く。
「あーあ。こりゃもう駄目そうだねー…」
途端に周りの人たちから胡乱な眼つきで睨まれ、慌てて素知らぬふりをする彼女。
そんなミキをみて軽くため息をつきながら、私も周りの人達を見習ってシェルターの薄暗い天井を…そして直接は見えない火星の空を見上げてみた。
……上では軍隊が戦争をやっていた。何処からともなく攻めてきた、機械でできた虫みたいな連中と。
でも、先程からの振動なんかを聞いていると、ここがもう長くはないだろうことが素人ながらにもわかってしまう。まったくもって嫌なものだ。
「あん? どしたのサレナ。そんな上ばっか見てて、埃でも食べたいのか?」
――でもまぁ、それがわかっていつつもこうやって冗談を平気で言えるこの友人の神経は、ちょっとおかしいのかもしれない。
目の前のこのショートの茶髪女を見てそう思いつつ、「なんでもない」と素っ気なく返答した私は先程から続けていた作業を再開することにした。
なんのことはない、ミキ以外の知り合いを探しているのである。
それもそのはず、大学の講義中にいきなり避難警報を出されてそのままシェルターに缶詰になった身としては、気になる知り合いがいないかどうか確かめておくのも当然と言えよう。
そうしてさっきからあたりを見渡していたのだが、その知り合いの飄々とした優男―――ヒロィ・バートンはやはりどこにも姿が見えなかった。ついでに言えば、ジニーとロディのでこぼこコンビの姿も見ていない。
かわりにあたりに見えるのは、どこか疲れたような表情をした大勢の他人だけだ。
「ヒロィ、やっぱりいないな…」
首下まで伸びるセミロングの黒い髪の毛と、これまた黒のニットに付着した、天井から落ちてきた細かい破片を振り払いながら私はそう呟く。
と、その私の呟きを耳にしたミキが私のほうを見て言ってきた。
「あー。あいつならあの日はサボるって言ってたし、このシェルターには来てないでしょ」
「…なんだ、そっか」
「なに? そんなに残念かね、サレナくん。なんだかんだ言ってやっぱりアンタあいつにべた惚れじゃんかよ」
途端に意地の悪そうな笑みを浮かべてこちらを見やってくるミキ。
私は少しだけ困った表情を作りながら言葉を返す。
「…そういうのとは違うんだけどな。だいいちアイツ、私のことそういうふうに見てないのわかってるでしょ?」
「まぁいいよー、言わなくたってこっちはわかってるんだしね。二人で勝手にいちゃいちゃしてなってんだ、フン!」
と、辺りのその『空気』に気がつく私。
「―――――…って、それはそうと、ミキ」
「なに?」
「もう少し、静かにしてたほうがいいかもしれない」
「…………ありゃあ」
……ふとまわりを見ると、いつのまにか私たち二人は大勢の人に睨まれていた。
「…これは場所を変えたほうがよさそうな雰囲気だね」
「…ミキが騒ぐからいけないんだろ?」
小声で話し合う私たち二人。
こちらに全面的に非があるのは承知の上なので、さっさと避難することは暗黙の了解である。
「――――お! あそこあたりのスペースなんか、いい感じじゃん。よし、急ぐぞサレナ!」
「りょーかい」
そうと決めれば、手荷物を手早くまとめて一目散にこの場を逃げ出すミキと私。
その直後、後ろから幽かに文句を言う声が聞こえてくる。
「………ったく。こんな状況だってのにピクニック気分かよ」
その刺のある言葉を振り切るようにして、私は空いているそのスペースへと足を急いだ。
「――――ハイ! お兄ちゃん、これ!」
「あぁ、ありがとう…………って、なに? どうしたの??」
「ねぇお兄ちゃん。アイと『デート』しよ!」
……なにやら後ろから聞こえてくる、微笑ましい少女と青年の会話。その会話を耳にしながら私とミキは新しいスペースに身を落ち着ける。
どうやらここらへんの人たちは向こうの連中ほどナーバスにはなってないみたいだ。
これならミキがちょっと位羽目を外しても大丈夫だろう。たぶん。
「…でもさー、実際なんなんだろうね? 上の連中」
そしてこの場に座り込んで早々、ミキはまたもやギリギリのラインの話を持ちかけてくる。
「さぁね。今そんなこと考えてもしょうがないだろ? 軍の連中が頑張ってるんだから、私たちは大人しく待ってればいいんだよ」
しかし、かくいう私の言葉も気休めにもならないと言うか、やはりギリギリのラインかもしれない。一歩間違えれば、ミキと同じく『どうせ私ら全滅だ』みたいな言葉を口に出してしまいそうだ。
―――そう、昨日の昼頃にシェルターを大きな衝撃が襲ってから、みんなだって漠然とそう思い始めている。
なんでも敵の巨大な戦艦がこのユートピア・コロニーのど真ん中に落ちてきたらしくて、ここじゃない他のシェルターでは何人もの人が生き埋めになったって話だ。
そんな中でいっぽうのミキは――私以上に捻くれているこの友人は、どうもさっきから落ち着かないような気がする。
いつもに増してはしゃいで見せたり、何かをしていなければ気がすまないような様子を見せたり……
(ミキのやつ、ひょっとすると………)
……やっぱり、ミキは怖がっているんだろうか?
まさか、いつもなら私以上にアブないことも平気でする、彼女が??
そうして、私が彼女の振る舞いをぼんやりと見ながらそう思っていたその時。
「「「うわあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああっ!!!!!」」」
――――重い激突音、そしてシェルターの扉が倒れる音と共に、そのつんざくような悲鳴が聞こえてきた。
「え!? なに??!」
驚きに満ちた、そして若干の恐怖が混じった顔でその方角を見やるミキ。
私も心臓が高く脈打つのを確かに感じながら、その方向へ視線を走らせる。
「―――――ッ!!!!」
―――そして視界に飛び込んできたのは、一体の虫。
その機械でできた、やけにカラフルな黄色と灰色のボディをした巨大な虫は、その先っちょに付いた小さな頭をクルリと回転させると…ゆっくりとシェルターの中央のほうへと歩み始めた。
「サレナッ!! なにボサッとしてるの、逃げるんだよ!!!」
やけに滑稽に思えたその仕草をぼうっと見ていた私の腕を、ミキは力いっぱい掴んで反対側の出口の方へと引っ張っていく。その強い力に引っ張られていく。
…今のミキの表情はさっきまでとは打って変わって必死な表情だ。周りの人に押されて転ぶまいとしながら、懸命に私の腕を引っ張っている。
そして私とミキの周りには、恐怖で顔が歪みきった人のおびただしい群れがあって。
そしてその、どこか異常としかいいようのない世界で。
私の意識を現実に戻そうとする叫び声が背中から聞こえてきた。
「――――お兄ちゃん!?」
「アイちゃんはお母さんと一緒に逃げて!!」
その、幼い少女の声に思わず振り向く私。
「あれはさっきの二人…―――って……え?」
……そこに私が見たのは、作業用のトラクターで黄色い虫に体当りを仕掛けている青年。
――そのどこか見覚えのある、無造作にカットしたショートの黒髪の、ジーンズとオレンジのパーカーを身につけた青年。
IFS仕様のトラクターを操りながら、必死になって虫を壁に押し付けている青年。
…青い水晶のような、そのどこか見覚えのあるようなペンダントを胸に下げている青年。
――――そう。
何度までも『夢』に見た、その『青年』。
「ミキ!! ごめん、先に行ってて!!!」
「え、ちょっと――――――」
………それから先のことは、よく覚えていない。
必死になって彼へと向かって走って、後ろのほうからまた悲鳴が聞こえてきて、それにも構わず夢中で彼にとびついて。
――――――そして程なく、私の視界は青白い光で埋め尽くされていったから。
2.
「お会計は1029円になります。……はい、ありがとうございました!」
……そしてあれから3ヶ月。何故か私は地球にいて、またまた何故か私は小さな食堂でウェイトレスをしてたりする。
やる気のないようにも他人には聞こえるだろう声を出しながら、私は客の食べ終わった皿を厨房に運ぶ。その先で洗い物をしているのは、例のボサボサ頭の青年―――テンカワ・アキトだ。
「ほらアキト。洗い物二枚追加だよ」
「うっす」
そこで真剣な表情をして皿を洗っていたアキトは、やけに神妙な顔をしながら私にそうとだけ返事をする。
「……?」
「ああ待て、テンカワ。お前ちょっと休憩だ」
「うっす」
そして小さなため息をつきながら、諦め顔でそう言ったサイゾウさん――この店の主人の言葉にも、同じような返事を返すアキト。
…そういえば、この時間帯は――――
―――――キィィィィィィィィィィィィィィィイインッ!!
「……!! あ…あああああああっ……??!」
ふと、上空から甲高い戦闘機の飛行音が聞こえてくる。それを聞いて、片手に持っていたお玉を握り締めたまま硬直するアキト。続いて微かに聞こえてきた機銃の掃射音を耳にしたアキトは、そのままその場にしゃがみこんで頭を抱えてしまった。
それを見届けたサイゾウさんは、やはりな、と言った顔をしながら厨房の奥へと戻っていく。
「……ほら見ろよ。また始まったぜアイツ」
「ホントわけわかんねぇよなー。蜥蜴が怖いんだとよ」
「なに? マジかそれ」
…最早アキトの日課となってしまった、そのただ怯えるだけの行為、『蜥蜴』が怖いというそのどうしようもない感情。
それは戦場を知らない一般市民にとっては不思議なものであり、また滑稽なものでしかないのだろう。店内でひそひそと話をする野次馬を軽く睨みつけながら、私はアキトの代わりに皿洗いをすることにした。
そしてお玉を握りしめたまま、私の横で小刻みに震えているアキト。
やるせないように震えている彼の背中。
―――それは、彼の心に刻まれてしまった、真新しい傷跡。
あのユートピア・コロニーから生還したという『奇跡』の代償とでもいうように、アキトはあの機械でできた虫―――木星蜥蜴に対して強い恐怖感を持つようになってしまった。
…でも、なら私はどうなんだろう?
アキトと一緒にいつのまにか地球へと来ていた自分。
あの悪夢を同じように体験した自分。
私もアキトと同じ経験をしたはずなのに、同じように恐怖を感じたはずなのに…私はこうして平然と皿を洗っていることができる。
そういう事実をまのあたりにすると、やはり自分は冷めた人間、冷たい人間なのではないかと思えてくるのだ。
そんなことを思いながら、すぐそこでうずくまっているアキトの背中を私は眺める。
明らかに見覚えのある、その彼の姿をこうやって何度も私は見ている。
――――――そう。私はここに来てからずっと、テンカワ・アキトという青年のことをこっそりと観察していた。
一緒に地球に来た者同士、当てもないのだし暫くは二人で生活したほうがいいと私が提案して。そしてここに住み込みで働くようになってからもずっと彼のことを見てきたんだ。
なぜなら彼が、私の『夢』に度々出てきた、あの『アキト』という人にあまりにもそっくりだったから。
先に結論から言えば、私の『夢』に出てくる人物はこの年若い青年だろうといって間違いなさそうだった。けれどここにいる彼のほうがずっと若いし、なによりもその雰囲気が全く違う。
…これはどういうことなんだろう?
あの『アキト』という人物は私の前世みたいなものだと思っていたのに、彼がここにいるということは、それは違うということになる。
事態はますます混乱したわけだが、かといって彼に直接、
『小さい頃から私の夢には貴方にそっくりな人が度々出てきました。これは一体どういうことですか?』
なんてことは、聞けない。聞けるわけがない。
「ああ……ああああああああああああああああああっ!!!!!」
……そして私の思索はいつも、アキトの絶叫によって中断されるわけである。
「…いらっしゃいませー!」
それから蜥蜴と軍との味気ない戦闘もやっと終わって。
アキトも平静を取り戻した頃にやってきたその二人の客は、なんというか妙な客だった。
「ここか? ミスター」
「ええ、間違いありませんよ。どうやら今日はもう終わったみたいですね、例のアレは」
そう言ってチラリと厨房のほうに目をやるチョビ髭のおっさん。相方の軍人みたいなゴツイ人は、その雰囲気に相応しいとでもいうようなムッツリ顔を動かそうともしない。
「……お客さん、冷やかしなら帰ってもらえますか?」
厨房から顔をのぞかせつつサイゾウさんが言い放つ。それにたいしておっさんは僅かに微笑んで。
「いえいえ、そういうわけじゃないんですよ。とりあえずワンタンメンをいただきましょうか。ゴート君は何にします?」
「じゃあ私はチャーシューメンで」
「はい、ワンタンとチャーシュー!」
いい加減な調子の声でオーダーを取った私は、奥のテーブルに陣取ったこの二人にお絞りと冷やを調達しにいく。
「…ええと、すいません。ちょっとお尋ねしますが、こちらにテンカワ・アキトさんはお勤めになられていらっしゃいますよね?」
と、いかにも業務用スマイルな顔でチョビ髭がそう尋ねてきた。
「ええ、いますけど。それが何か?」
対する私はいつもの微妙に不貞腐れた笑顔で応酬する。サイゾウさんには後で注意されるが、イヤな客には必須手段だ。
「少しだけ、お話させてもらってもよろしいでしょうか?」
そしてキラリと光るチョビ髭の眼鏡。
「……サイゾウさん?」
「まぁ別に構わんが。代わりにクロサキ、お前が皿洗いしろ」
「はい」
そう言われては仕方ないので腕まくりをしつつ、アキトとチェンジ。さらに私は聞き耳モードを全開に。
一方のアキトはわけがわからないといった感じでおっさん達の側に小走りで駆けていく。
「え、と…なんでしょうか?俺に話って……」
そんなアキトの顔をなんだか確認でもするように眺めたおっさんは、なんだか裏のありそうな笑みを浮かべながら話を開始したのだった。
「まあまあ、アキトさん。そう硬くなさらずに。実は私達はネルガル重工のものなのですが――――」
「…ネルガル?」
と、そのメジャーな企業名を聞いたアキトがかえって身を硬くするのがわかった。ただ、なにか不審がっているようなふうにも見える。…嫌な思い出でもあるんだろうか?
そしてそれには構わず話を続けるおっさん。
「テンカワ・アキトさん。ユートピア・コロニー出身の18歳で、ご両親はネルガルの火星研究所にお勤めになられていた……間違いありませんよね?」
「ええ。そうっスけど」
「あ、申し遅れました。私プロスペクターと言いまして、ネルガルでスカウトみたいなことをやっております。こちらが同僚のゴート君」
どこか不機嫌な様子のアキトに構うことなく、自己紹介をするチョビ髭、もといプロスペクター。
そしておっさんは言葉を続ける。
あっさりとその突然な言葉を投げてくる。
「実はテンカワさん。私たちは貴方をスカウトしにきたのですよ」
「……は?」
その言葉に思わず、間抜けな声を出してしまうアキト。ちゃっかり話を聞いていたサイゾウさんも驚いたような顔を見せた。
おっさんは笑顔のままで話を続けて。
「貴方、火星からいらっしゃったんでしょう? というか、全滅したはずのユートピア・コロニーからどうやって来たか私には不思議でならないんですが……」
「それは……俺も覚えていないんです。気がついたら地球にいました」
途端に感情の度合いが落ちて、アキトの声のトーンが低くなった。そこに狙い済ましたかのようなチョビ髭おっさんの声が入っていく。
「―――もう一度、火星に行ってみたいとは思いませんか?」
「え?」
今度こそ本当に不意打ちだったその言葉を聞いて、アキトはポカンとした表情をする。
「貴方にはコックとして我々のプロジェクトに参加して欲しいのです。詳しいことはここでは言えないのですが、待遇については保証しますよ?
……まぁ、今すぐ結論、というわけにはいかないでしょうから…もし興味が湧かれたのでしたら後日こちらのほうまで連絡下さい」
最後にそう言って、アキトに連絡先の記録されたICプレートを渡すプロスペクター。
アキトはそれを、神妙な面持ちで見つめる。
「では、良い返事を期待してますよ」
そして席を立とうとするチョビ髭。
「……あー、ちょっと待って」
――――って…いかん。思わず横から口を出してしまった。
でもまぁいいか。こうなったらこっちからおっさんに直談判してやる。
「……サレナさん?」
「えーと、すみません。話を聞かせてもらったですけど………ホントに火星に戻れるんですか? だったら私もアキトと一緒に行きたいんですけど」
「へ??」
この喰えないおっさんを目の前にして、どういう言い方が一番いいかをしばし考えてから…私はそうとだけ口にする。とりあえず隣で間抜けな顔をしているアキトは後回しだ。
そしてそれを聞いて、初めて私に気がついたように向き直ってくるチョビ髭。
「…そういえば貴方のお名前は伺っておりませんでしたな」
「サレナ・クロサキ。アキトと一緒で、戦争が始まるまではユートピア・コロニーに住んでいました」
その私の言葉に、目の前のおっさんの目がほんの僅かに宙を泳ぐ。
何かを考えるような素振りを少しだけ見せた後、神妙な顔をして口を開く。
「失礼ですが、身元を確認させてもらってもいいでしょうか?」
「構わないけど」
「では……――――――!」
プロスペクターに指示されたとおりに腕を差し出して、端末で登録されている私の遺伝子IDと照合。その結果を見たおっさんがさらに僅かな間、沈黙した。
そしてその一部始終をあっけに取られたような顔で見ていたアキト。
やがておっさんが口を開く。
「…確かに。ユートピア大学の総合学科2年生ですか……すると地球にはテンカワさんと一緒に来られたので?」
「ええ、むこうのシェルターで知り合って。でも彼が言ったとおり、どうやってきたのかは覚えていませんよ」
「――――成る程。では少々予定を変更して、貴方もスカウトさせていただくとしますかな?」
その言葉を聞いて思わず心の中では思いっきり歓声を上げ、それとは裏腹に軽く微笑んだ私はおっさんに問いかける。
こういうときのポーカーフェイスは最後までが肝心だからね。
「いいですよ。それで、期限はいつまでなんですか?」
「なにしろ予定が詰まっていましてねぇ。少し時間がないのですが、明後日までに結論をお願いします」
そして最後にそう言って、このプロスペクターという男はにっこりと笑みを浮かべた。
そしてそれから夜になって。
サイゾウさんから宛がわれたアキトの部屋――もとは現在一人暮らしをしているバカ息子の部屋だったらしい――で、今後のことを私たちは話し合うことにした。
「…じゃあ、サレナさんはもう決めてるの?」
どこか浮かないような顔をしながら、そう訊いてくるアキト。
でも私にはそれはもう迷う必要のない問題だ。私はアキトの顔を見ながら、その決意をはっきりと口にする。
「もちろん。こんなチャンス、二度とないかもしれないからね。
アキトに便乗させてもらったみたいで悪いけど…ミキたちの、向こうにいるままの友人たちのことはどうしても無事を確認しておきたいからさ。
…それはアキトも一緒でしょ? 職場の人たちのこと、気になるんじゃなかったの?」
私は開け放った窓の枠に腰掛けながら、向かいの椅子に馬乗りになっているアキトにそう問いかける。
でもやっぱりアキトの顔はどこか浮かない様子で。
―――どうもこいつは何かを迷っているように、その時私には見えた。
「確かに、あれから火星がどうなったのかは俺も気になるよ。…でも、今の俺が火星に行って何ができるのかって考えると…ただ震えて膝を抱えているだけで、何もできないんじゃないかって思えて………」
そしてそう言って、背もたれに体重を預けて俯くアキト。その体が僅かに沈む。
…それを見た私は思わず軽いため息をつく。
そしてゆっくりと横を向いて霞んだサセボシティの夜景を眺めながら、その夜風を身体に浴びながら…私の思いを少しだけうちあける。
「―――私は、できればアキトにも一緒にきて欲しい。
やっぱり私も一人で火星に行くのは不安だし、お前が一緒に来てくれるなら少しはマシになるかと思えるからね。……もう3ヶ月も一緒の家で暮らしたんだ。お前と私は他人じゃないよ。
―――それに、私とお前の評判がここじゃあまり良くないのはわかっているだろ?」
そしてゆっくりと右手を、その手の甲に刻まれたIFS…インターフェイスフィードバックシステムのタトゥーを見ながら私は呟いた。
アキトも同じようにして、彼のその右の手の甲を眺める。コイツのおかげで、ここに働き先が決まるまでもそれからも、それなりに偏見の目を浴びてきたのだ。
「そうだね。それに俺がこんなんだから…サイゾウさんはまだ我慢してくれているけど、いつまでこうしていられるかわからないし……」
また俯きながらそう言いかけるアキトの言葉をさえぎる私。
「そんなに悲観的に考えなくてもいいじゃない。…私たちの目の前には、もう一度火星に戻れるチャンスがある。そしてそれはもう二度と手に入らないかもしれない。
―――――だったら、なんとしてでもその切符は掴まなくちゃさ。このままここで燻ってたら、まるで逃げてるみたいじゃないか」
そしてそう言った私の顔をハッとした表情でアキトは眺めると、苦笑いを浮かべながら申し訳なさそうに言ってくる。
まるで今はそれが精一杯だとでも言うように。
「うん………でも、ごめんサレナさん。明日まで、ちょっと考えさせてくれないかな?」
「…構わないよ。こういうことは時間をかけて決心したほうがいいからね。
………それじゃ、お休み。いい返事期待してるからね」
ゆっくりと私は立ち上がると、アキトにそう声をかける。小さな微笑を投げかける私。
…まだおやすみのキスをしてやるような間柄じゃないだろう。そう思って軽く手を振ると、私はアキトの部屋を後にした。
――――そしてやはり、今夜も彼の夢を見た。
いつも見るものは決まっていて、それは黒い鎧に包まれた哀しい横顔の『私』。
音のない風景の中にいる、霞んだ『私』。
……じゃあ、それ以前の『私』は、一体どんな人だったんだろう――――――
3.
「いやぁー、助かりました。お二人揃ってOKを出してくれるとは、こちらとしては嬉しい限りですよ」
喜色満面な表情で言うプロス(「おっさん」って呼んでたら、そう呼んでくれと頼まれた)の後に従い、私とアキトはサセボシティの一角にあるドでかいドックの中を歩いていた。
ついでに言うと横にいるアキトはなんだか眠そうな顔をしている。……昨日はずうっと悩んでたんだろうか?
…それはそうと、結局アキトはこの話をOKした。
そう決心するまでに彼が何を考えたのかは私にはわからないが、別に気にする必要はないんだろう。
私にとって重要なのは、彼が今後も私の側にいるということと、火星に行く上で一つの安心材料が増えたということだから。
それから、この件についてサイゾウさんは特に文句を言うこともなく了承してくれた。朝一番にサイゾウさんのところに向かった時には、最悪ぶん殴られるくらいのこともアキトは覚悟していたそうだ。
でもサイゾウさんは、そんな私たちの突然の身勝手をただ軽く笑って許してくれて。
『厄介払いするみたいで、済まねえな……』と言ったときの、少しだけ淋しそうだった別れ際のその顔を思い出す限り…この3ヶ月も全く以って迷惑のかけっぱなしというわけでもなかったんだろうと思う。
「……と言うわけで、先程からお話したとおりあなた方にはネルガルの誇る最新鋭戦艦『ナデシコ』のクルーとして働いていただくわけです、ハイ」
「アキトがコック補助で、私が洗濯班? どーして私は洗濯係なの? ウェイトレスとか期待してたんだけど」
「それがナデシコ食堂のウェイトレスは調理師資格が必要でして。クロサキさん、持ってらっしゃらないでしょう?」
「まぁ、ね」
プロスに渡されて着替えた、黄色と黒の制服を眺めながら軽く返事をする私。
アキトも同じタイプの制服を無難に着こなしてるけど、眠そうな顔のせいでいまいちしまりがない。
そんなことを考えながらプロスについていくと、不意に通路から開けたドック内へと出る。
そしてそこに堂々と鎮座していたのは…
「はぁ〜〜〜…すっげー………」
「………あれが、ナデシコ?」
「はい、そのとおりです。そしてこれからあなた方が我々と生活を共にする空間と言うわけですな」
思わずそうをあげるアキトと、なんだか誇らしげな表情のプロス。
…でも、私はちょっと事情が違う。
その特徴的な2本のブレード、上部にせり出したブリッジ。
そしてまばゆいばかりの輝きに包まれたその白い装甲……。
――――デ・ジャ・ヴュだろうか?
初めて見たはずなのに、どうして……
……どうして私は、この戦艦を知っているような気がするんだろう――――?
「…さあ、それでは行きますよ」
そのプロスの言葉でふと我に返る。
そして私とアキトは目の前に横たわるその戦艦―――『ナデシコ』へと、乗り込んでいった。
4.
『だーーっはっはっはっはっはっ!!!』
「………いきなり品のない高笑いで迎える戦艦はどうかと思うんだけど、アキトはどう思う?」
「うわー、すっげー! アレってロボットですよねプロスさん?」
「あ…あれは…! まったくあの人は何度言ったら気が済むんでしょうか…」
そしてナデシコ艦内。
プロスに案内されてまず格納庫に向かった私たちを出迎えてくれたのは、胸をそらせながら高笑いをする赤ピンクのヘンなロボットだった。
『こらー!!! いい加減に降りて来いこのバカ!』
手すり越しに下を覗いてみると、作業着を着た眼鏡の中年が拡声器越しにロボットに向かって怒鳴っている。
…でも、確かに怒鳴ってはいるのだが、乗っているパイロットはどうも聞いているようには思えない。さっきからわけのわからないポーズを延々と取りつづけている有様だ。
「――それで、なんですかアレ?」
なにやら目を輝かせているアキトの隣で、ため息をついているプロスに問いかける私。
「あれはネルガルの新型機動兵器『エステバリス』ですよクロサキさん。この戦艦の主力兵器のひとつと言ってもいいでしょうな」
「ふぅん。…………って…あ、コケる」
「はい?――って、あああっ?!!」
『お…おわああああああああああっ?!!!』
そして重なる二つの悲鳴。
プロスのその絶叫に続いて、情けない悲鳴と共に低い激突音と地面から伝わってくる振動を感じる。
無茶な姿勢を取り続けていたその機動兵器は、なにやら受身のようなものを取りつつも見事なまでに格納庫内に横転した。
『よし! 今だ、かかれぇ!!』
続いてさっきの眼鏡率いる複数の人間によって機体から引き摺り下ろされるパイロット。そして中から出てきたのは…ものすごく暑苦しそうな雰囲気をした男だった。
さらにその男は、そこら中に聞こえる程の大声で喚き散らす。
「いやぁ、参った参った。しかしすげぇなエステバリスはよぉ!」
まわりの人たちが呆れたような冷たいような目で見ている中、しまいには拳を握り締めて天井へとシャウトする。
「いよっしゃー、燃えてきたぜ! 待っていろ蜥蜴ども、てめぇらはこのガイ様が一匹残らず蹴散らしてやらぁ!!」
…………訂正。完全に暑苦しい男だ、アレは。
極力、関わり合いにならないほうがいいかもしんない。
「…それはいいけど、アンタ足折れてない?」
と、不意に傍らいた整備らしき青年のツッコミに首をかしげるガイとかいう男。
「ん? そういえば、なんか左足がこうジクジクと痛むような……ぁあ?!!」
そしてそのまま全身真っ青になる。あたりから漏れる整備の人たちの大きなため息。
「ったく、ベルトも締めずに機動兵器に乗る奴があるか!! おら、さっさと担架持ってこい!」
なにやら慌しくなる中、その男ガイは眼鏡の号令によっててきぱきと処置されてどこかへと運ばれようとしていって。
できればもう、二度と顔を見たくない感じでもあるんだけど……
「おおーい、そこの少年! 悪いがアサルトピットに俺様の宝物が置いてあるんだ、頼むから取ってきてくれぇぇぇぇぇぇぇぇ……!!」
と、なにやら間延びした声を残しながら、通路のほうへと運ばれている彼。…よりにもよって、アキトが声かけられちゃったみたい。
「……もしかして、俺?」
「だろうね。放って置くとあとがうるさそうだから、取ってきたほうがいいんじゃない?」
困ったように自分の顔を指差すアキト。ため息混じりにそう投げやりな声を返す私。
とかなんとかそんなことを話していると。
『――ミスター。済まないが直ぐにブリッジまで来てくれ』
「うわ! びっくりした」
急に空中に昨日の男、ゴートの顔が表示される。…そっか、これがプロスの話していたコミュニケなんだ。
一方私の反応にちょっと面食らったような様子を見せたゴートはプロスのほうを向き直る。
「よろしいだろうか? ミスター」
「ふむ、済みませんが少しここで待っていてくれませんか? 用が済んだら直ぐに戻りますので」
そう言い残して通路のほうへと引き返すプロス。
一転して静かになった格納庫に残ったのは、私とアキトの二人だけ。
「………じゃあ、ちょっと俺行ってきますね」
そしてまだ困った顔をしながら、アキトも倒れているロボットのほうへと駈けていった。
5.
異様に静かなナデシコのブリッジの中で、私は暇つぶしに今月の“ヴィーナス”を読んでいたわけなんだけれど………
…はぁ、どうもこの緊張感は耐えられないなぁ。
スタジオでの緊張感とはまた全然違う感じだし、その原因っぽい白髪のお爺さんと隣のマッシュルームカットのおじさんはだんまりしたままだし。
――――あ、申し遅れました。私はメグミ・レイナード。この艦の通信士です。
隣に座っているアッシュブロンド…というよりは瑠璃色の髪を両サイドで結んでいる子が、オペレータのホシノ・ルリちゃん。
で、そのまた向こうにいる茶髪のロングヘアの人が操舵士のハルカ・ミナトさんですね。
「ねぇねぇ、ミナトさん。あそこの人って、火星で戦ったっていうフクベ提督ですよね? そんな英雄みたいな人がどうしてこの船に乗っているか、知ってます?」
この緊張に耐えられなくなって、問題の白髪のお爺さんを横目で見ながら一番取っ付きやすそうなミナトさんに小声で話し掛けてみる私。
するとミナトさんも退屈してたみたいで、すぐに話に乗ってきてくれました。
「う〜ん、大方お偉いさんがたくさんお金でも払ってお願いしたんじゃないの? ここだって大企業だし、それくらいはやるでしょ」
「へぇ…そんなもんですかね。
でも、ちょっと残念だなぁ。かっこいい人たちがいっぱいいる職場って聞いたから来たのに、周りにいるのはおじさんとかお爺さんですよ? これってヒドイと思いません??」
「メグちゃんは通信士なんだから、パイロットとかとも色々と話す機会を作れるんじゃない?…あー、後は艦長さんかな?」
「あ! そういえば、まだ来てませんよね?どんな人かな? 艦長って言えばやっぱりクールでかっこいい男の人で……あ、でもまたおじさんだったりしてぇ…」
「―――――艦長は女の人ですよ。
ミスマルユリカ、20歳。連合大学を主席で卒業した才媛だそうです」
…と、だんだん気分が最悪になってきていた私に、救いの手を差し伸べてくれたのか、それとも容赦なくトドメをさしてくれたのか。
真ん中に座っていたルリちゃんは唐突にそう教えてくれました。
「ルリちゃん、それホント?」
ミナトさんが身を乗り出してそう訊きます。
「はい。ちなみに副長さんは男の人ですね。一応艦長のフィアンセだそうです」
「なにそれ〜? それじゃ、ブリッジは全滅じゃないですか!」
「―――オホン!!」
「??」
いきなりスーツ姿のいかつい人、ゴートさんが咳払いをしました。ちょっと声が大きくなっちゃっていたみたい。
「じゃあルリちゃん。パイロットの人って―――」
私が尚も小声で情報を引き出そうとしたその時、
―――――――ズズウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン…!!!
どこか遠くから聞こえてきた地響きとともに、ナデシコのブリッジがかすかに揺れました。
「何事だ、ホシノ!」
「敵襲です。現在地上の軍が応戦に出撃する模様。……ただここに被害が来るのも時間の問題と思われますが」
よくとおる低い声でルリちゃんに問いかけるゴートさんと、事務的な口調で受け答えするルリちゃん。
「…どうしたんですかゴート君!」
「ミスター、どうやら敵襲のようだ。艦長はまだ到着していないのか?」
「どうも途中で車から荷物が飛び出したとかで……それでもそろそろ到着するはずなんですけどねぇ」
それに続いて、ブリッジの扉を開けて走りこんできた眼鏡にチョビ髭のおじさん――――私を勧誘にきたプロスペクターさんがゴートさんと話をしています。
ルリちゃんが前方のスクリーンに色々と状況を投影する一方、私とミナトさんはそれをぼーっと眺めているだけ。
………こんなんで本当にいいのかなぁ?
と、そんな時でした。
なんだか全てのいろんな事にトドメを刺すような人物が大慌てでブリッジの中に飛び込んできたのは。
そしてその長い黒髪の、ピシッとした制服を身に付けた長身の女の人は息を整えて落ち着いたかと思うと…
「はぁあーっ、よかった間にあったぁ!
みっなさーん、私が艦長のミスマルユリカです! ブイッ!!!!」
「「…はぁ? ぶい??」」
「………バカ?」
―――――どうやら前途は思った以上に多難みたい…………
6.
――――いきなりバスドラムみたいに低くて重い音が響いて、格納庫が僅かに揺れた。
「……なんだろ?」
わけもなく不安になってくる私。
ふと下を見れば、通路から大慌てで駈けてくるさっきの整備班の面々。
「アキト! なんだかわからないけど早くしたほうがいいみたい!!」
未だに搭乗席の中でもたついているアキトに、それを見た私は大声でそう呼びかける。
「おお! なんだ、もう搭乗しているのか!! ほれ、発進準備するから急げ!!」
「――――え?」
すると私の言葉を何かと勘違いしたらしい。
その整備班の人はアキトの乗ったエステバリスを向こうに見えるエレベータらしきものへと誘導し始めた。
「……って、なんでアイツは誘導にしたがっているんだよ!!」
よりによってその誘導に素直に従うアキト。
そのわけのわからない状況に慌てて私も下へと降りていく―――ああ、もう!
「よーし! それじゃ……え、なに? 発進命令が出た? うし、行くぞ!!」
「あああーっ!! ちょっと待ってぇ!!!!」
―――――――バシュウッ!!
「うそ………」
そして呆然とする私の目の前で、射出されていくアキトの乗ったエステバリス。
それに続いて、遅れたように艦内警報が鳴り出した。
「…ねぇ、もしかして、敵襲なの?」
なんだかイヤな予感がしつつ、私は先程の発進指示をしていた整備の人に尋ねる。その男の人は
「ああ。今は地上の軍が応戦しているが、いつまで持ちこたえるかも分からないって」
「…………うそ」
で、やっぱり帰ってきた答えは最悪の答えだった。
だから私は思わず絶叫してしまう。
「マズイよ、それは!! さっきの機体に乗ってたのはパイロットじゃなくてコックなんだから!」
「なにぃ?!!」
……うん、マズイ。非常にマズイ。
いくらアキトがIFSをつけているって言っても、いきなりあんな大きな機体をそう簡単には動かせないと思うし……だいいちアキトにはあの症状がある。
このままあいつを放って置いたら――――
「ねぇ! 空いている機体はもうないの?!」
「え? ああ、あっちの空戦フレームならもう出撃はできるが……って、おい!! アンタ一体どうする気だよ?!」
畳み掛けるように言葉を発し、その言葉を聞くや否や、そのまま私は一直線にその機体へと走っていく。
慌てて追いかけてくるその男性。振り返りながら右の手の甲を彼にかざす。
「私もIFSをつけているから!! アイツをこのまま送り出していい訳がないんだよ!――――アイツ、蜥蜴とは戦えないんだ!!」
「しかしアンタもパイロットじゃないだろ?!」
「起動の仕方だけ教えて! あとは自分で何とかするから!!」
「ンな無茶なぁ!!!」
7.
「ちょっと艦長! なんでさっさと発進しないのよ、敵はすぐそこまで来てるのよ?!!」
「落ち着け、ムネタケ」
――――さて。さっきからブリッジの状況は膠着したまま、上では艦長・副長と提督・副提督がなにやらずっと議論をしています。
………あ、私ホシノ・ルリです。
「ユリカ?」
副提督の怒声で中断した議論。それをまた繋ぐように艦長に呼びかけるアオイ副艦長。
「このまま艦を発進させても間違いなく集中攻撃を受けます。できれば機動兵器を使ってオトリを出したいんですけど………」
「……パイロットは負傷中、か」
澱むような艦長の言葉に繋ぐように、眼鏡をかけた作業着姿のおじさん…整備班班長のウリバタケセイヤさんが漏らします。
「う、いや……」
彼の射すような視線を受けて言葉に詰まるそのパイロットさん。
なんでも骨にヒビが入ったらしく、その左足には大きなギプスがしてあってこれでは当分戦闘は無理っていった感じを醸し出してますね。
「こうなったら、対空砲火を上に向けて薙ぎ払うのよ!!」
「えー!? それって上で戦っている軍人さんとかはどうするんですか?」
「非人道的よねぇ、敵味方構わず攻撃するっていうのは」
続いて戦闘中の友軍を視界に入れていないようなムネタケ副提督の発言に、たまらず意義を申し立てたメグミさんとミナトさん。
そんな中一人だけ平静そうな顔をしたゴートさんが、プロスさんに問いかけました。
「ミスター、予備のパイロットはいないのか?」
「それが他のパイロットは三日後に搬入する予定でしたので、現在この艦には………」
「おお、そうだ!!!」
と、途端に大声で叫ぶパイロットさん。えーと、名前は…………
「なんですかヤマダ・ジロウさん?」
「あれ? お前ダイゴウジ・ガイって名乗ってなかったか?」
「ちっがーう!!! 違うぞそこの少女!!
それは世を忍ぶための仮初めの名! 俺様の真の名前……そう! 俺様の魂の名前は、『ダイゴウジ・ガイ』なのだあああっ!!」
……振り向かれました。
何故か怒られちゃいました。
さらにシャウトまでされました。………いったいなんなんですか? この人。
「――――それで、なんなんですか? ヤマダさん」
「ああ、艦長! 今の俺の話をさらっと無視しやがったな?!」
「で、なんなんだよ? いい加減にしねぇとシバき倒すぞ」
と、そんなわけのわからない雰囲気の中。こめかみに青筋を立てつつなんとか穏便な口調でウリバタケさんが尋ねます。
それに対して何か当たり前のことを語るような顔をするヤマダさん。
「…いやな。こういったピンチのときってのは、どこからともなく『俺が艦を救ってやる!!』って言って颯爽と登場するヒーローの存在ってのがお約束だと思うのだが」
「そんなマンガの話が現実におきるわけがないでしょ!! アンタたち、いい加減にしなさいよ!!!」
――――あ、副提督がついにキレちゃいましたね。
と、その時でした。
ナデシコの全システムを統括管理するAIであり、私のパートナーである『オモイカネ』が一つの報告をしてきたんです。
その報告を見た私は、ちょっとだけ不可解に思いながらもそのまま艦長へ報告を告げて。
「…艦長。エステバリスが1機出撃しています」
「ええ? 私、発進許可なんて出してないのに?」
私の報告に対し、全然困った様子もなくそんな感想を述べる艦長。
続いていきなり叫びだすヤマダさん。
「おお、やっぱりいたろうが! こう燃えたぎる正義の心を行動に移す純真な少年が――――」
「いいからてめぇは黙ってろ!!」
……ウリバタケさんまでキレちゃいましたね。
「ホシノ。通信をつないでくれ」
「はい」
さて、そんな喧騒を気にしていないかのように私に指示をするゴートさん。
私は手元のIFSパネルを操作して、問題のエステバリスとコンタクト。
『うわ! なんだよいきなり?!』
……で。
その機体に乗っていたのは、なぜか生活班の制服を着た男の人で。どうみても『正義の味方』とかいう人種には見えません。
「あれ? お前あの時の少年……って、なんでおまえが俺様のエステバリスを勝手に動かしてるんだよ!」
『え…いや、なんか成り行きで………』
「なんだと?!!」
「どうやら『正義に燃える少年』じゃなかったようだな、ヤマダ」
さっそくヤマダさんとウリバタケさんと男の人が問答しています。ホントに飽きない人たちですね。
「――――君はなんだね? 所属と名前を言いたまえ」
と、それまで沈黙を保っていたフクベ提督がその重い口を開きます。
その静かな威圧感みたいなものに圧倒されたのか、エステバリスに乗っている男の人は困ったように答えます。
『…テンカワ・アキト。コックです』
「コックぅ?! なんでコックなのにエステに乗って出撃してるんだよ!!」
それに噛み付くヤマダさん。すると男の人は左手の人差し指で困ったように頬をかいて。
『え、出撃って……整備の人に頼まれて、この機体を格納庫にしまうのを手伝ってただけなんだけど。
―――これ、どこまであがれば止まるんです?』
「はぁ? 何言ってんだオマエ??」
「…なんだか双方に重大な思い違いがあるようですな、艦長――――って、艦長? いかがなされました?」
軽いため息をつきながら艦長に話し掛けたプロスさんですが、その艦長の様子がおかしいことに気がついて額に皺を寄せます。
当の艦長は、こんな状況だっていうのになにかを確認するようにテンカワさんの顔を見たままで――――
「ああーーーーーーーーっ!!!」
そして、たぶんその日一番の絶叫を艦長席からあげてきてくれました。
「おわ! いきなりどうしたのユリカ?」
突然大声を上げて皆の注目を集めたと言うのにそれを気にする様子もなく、艦長はとても嬉しそうにエステに乗っている男の人に話しかけ始めて。
「アキト!! アキトでしょう?! 私だよ、ユリカだよ!!」
『え……ユリカって……………もしかして、おまえ』
何故か顔を曇らせるテンカワさん。なんなんでしょうね?
「やっぱり覚えていてくれたのね!!」
『―――って、お前! もしかしなくても“あの”ミスマル・ユリカか?!』
「そうだよ! 火星でお隣さんだったユリカだよ!!」
『ちょ、ちょっと待て! なんでお前がそこにいるんだよ?! だいいちそこ、ナデシコのブリッジだろ?!!』
「ユリカはナデシコの艦長さんなんだよ、えっへん!」
『なんじゃそりゃーーーーーーーーーーーーっ!!!』
「ユリカ、時間がない。彼に手早く命令を」
艦長の隣に立っていたアオイ副長が、このままだとずっと戻ってこなさそうな艦長に進言します。
フィアンセという立場からしては、心中穏やかじゃないんでしょうね。………まぁ、私にはよくわかりませんが。
そしてテンカワさんのほうを向き直る艦長。
「あ、うん。――――お願い、わたしの話しを聞いてアキト」
『な、なんだよ? いきなり真剣な表情をして……』
そして途端に真剣な表情になる艦長と面食らった様子のテンカワさん。
「お願いだから聞いて、アキト。
―――今、このドックは敵襲を受けているの。ナデシコが発進するまでにはまだ時間がかかるし、このまま出撃しても確実にやられるわ。
…だから、アキトの乗ったエステバリスがたった一つの戦闘可能な戦力である以上…今は貴方に私たちクルーの命を預けることにします」
『え、敵襲? それに地上って……ちょっと待て?! 俺に戦闘をやれってのか?!!』
尚も真摯な瞳でテンカワさんを説得(?)する艦長と、どうやら状況がさっぱり飲み込めていない様子のテンカワさん。
「ええアキト、私にはわかっているわ。アキトはやさしい人、こういう争いごとを好まない人だって。
…でもアキトは私のために、みんなのために戦ってくれる」
『いやもしもし?……ユリカさん??』
「だから私はアキトを信じる!! 待っててねアキト、すぐに貴方を迎えに行くから!」
『おいこらちょっと待てユリカーー!!!』
………ああもう、こういう茶番は見てられません!
「―――エステバリス、地上に出ます」
『え?……………!!』
――地上はすでにバッタ、及びジョロと呼ばれている木星蜥蜴の虫型機動兵器によって制圧されていました。
テンカワさんの周りにはもはやバッタたちの姿しか見えません。
そしてその無数のバッタたちが一斉に、その無機質な赤い目をアキトさんの乗るエステバリスのほうへと向けてきます。
「テンカワ、よく聞け。ナデシコがそちらに向かうまであと10分はかかる。………攻撃は最小限でいい。とにかく敵を引きつけつつ、沿岸まで逃げきるんだ」
『……は……い……』
ゴートさんの指示にかすれた声で答えるテンカワさん。
正直、不安要素でいっぱいです。
「では、健闘を祈る」
「ルリちゃん、私たちも発進準備急ぐよ」
でも、そして艦長が私にそう言ってきたその時。オモイカネから新たな報告が入ってきました。
「了解………って、艦長。エレベータがもう一基稼動してますが? こちらは空戦フレームみたいです」
「え?」
8.
エステバリスのアサルトピットの中、俺の身体はやはりいつものように震えだしてしまう。
周りにはあのバッタたちが一斉に俺のことを睨んでいて、もう喉はカラカラに渇いてしまっていて。
そして頭の中は真っ白になってしまって―――――
「ちくしょう…なんで震えが止まんないんだよ…! 今はこんなことしてる場合じゃないっていうのに……!!」
気がつけば目の前のバッタから発射された、一発のミサイル。
それは何故かゆっくりと飛んでいるように感じられて。
…そのままだと、自分はコナゴナに消し飛んでしまうって思ったときに、頭の中で何かがフッ飛んだ気がした。
「…うおおおおおおおおおおおっ!!!!」
急にめまぐるしく変わり始める視界。
間一髪でミサイルを左にかわした機体を、そのまま直進させていく。……止まってしまえば、もう二度と自分は動けないような気がしたから。
だから、この機体は疾り続ける。
―――右前方から旋回してくるバッタが一匹。そいつの体当りをかわすように高くジャンプする。
急に開けた眼下の視界は、なにか作り物のように思えそうになって……でもこの身体に伝わってくる感触が、今はリアルなんだって思い知らせてくる。
「海は………あっちか!」
―――――もう、無我夢中だった。恐怖も何も、そんな感覚は全部麻痺してしまっていた。
バランスをなんとか取りながら着地して、目指す方向に向かって一気に加速する。
IFSを握る右手の震えはもう止まっていて、かわりにうっすらと汗が滲んでいる。
…でもそんなことには構わず、突っ込んでくるバッタの顔面に思いっきり拳を叩きつけていた。
吹き飛んでいくバッタ。反動で停止しかけた機体の向きを整えながら、回線の向こうのゴートさんに怒鳴りながら尋ねる。
「ゴートさん!! この機体、なんか武装はないんですか?!!」
『現在の状態で使えるのはイミディエット・ナイフとワイヤード・フィストだけだ。
イミディエット・ナイフは文字通り、脚部に収納されている近接戦闘用のナイフだ。ワイヤード・フィストというのは腕部に仕込まれた近接中距離用攻撃手段で、お前のイメージに反応して起動する。
もうすぐクロサキが予備のラピッド・ライフルを持ってそちらに向かうから、無理はするな』
「クロサキ…?――――――サレナさんですか?!!」
『そうだ。それまでなんとか持ちこたえてくれ』
「そうは言っても……って、うわっ!!」
突然の振動で揺れるアサルトピット。
横から突っ込んできたジョロに体当りを喰らい、危うく転倒しそうになった機体をなんとか踏ん張って持ちこたえさせる。
「このォオオオオオオオオオオッ!!!」
左の拳をジョロの背中に叩きつけて引き剥がし、わき目もふらずに再び前に向かってフル加速をかけた。……現在の時間はあれからまだ2分。
「くそっ!! まだ8分もあるのかよ!」
『――――アキト!! 無事でいる?!』
と、いきなりサレナさんから通信が入ってきた。
「サレナさん?!」
『今お前の後方にいるから! そのままそこで待ってろ!!』
「あ、はい!」
9.
「……ねぇプロスさん? あの『サレナ』って女の人、誰なんですか?」
「ええとですね艦長。彼女はテンカワさんのユートピア・コロニーでのお知り合いだそうで、地球にも一緒にいらっしゃったそうですよ」
「ふーん………って、え?―――それって、もしかして……」
「それよりユリカ。あの『テンカワ』って、誰なんだい?」
「アキトは私の王子様だけど……………うーん………」
「お、王子…さま…???」
「ねーえ? 艦長と副長が一緒にトリップしちゃったけど、どうするの?」
「………やっぱりバカ」
―――とかなんとか、そんなブリッジの1シーンは置いといて。
10.
『…ふう。なんとか無事みたいだね』
画面越しに安堵のため息をつくサレナさん。その息を静かに吐く姿に、僅かに緩んでいるその目元にふとした安堵感を覚える。
でも、そうやって心配してくれるのは嬉しいんだけど、なんでそんなに俺に構ってくれるんだろうか………?
『まだ一息つくのは早いぞ、クロサキ』
「ゴートさん」
と、緩みかけた緊張の糸をつむぎなおすように、ゴートさんが厳しい顔で告げてきた。
『これから私が二人の指揮を取る。指示のとおりに動くんだ』
「「――――はい」」
『まずはクロサキ。お前の空戦フレームが先導しながら2キロ先の海に向かって蛇行しながら進め。
その後をテンカワの陸戦フレームが離されないように真直ぐ追尾。クロサキは被弾の危険が高いから、テンカワがその分サポートをしっかりしろ』
威嚇射撃を片手でするサレナさんからライフルを受け取りつつ、ゴートさんの説明を真剣に聞く。
まさか自分がこうやって実戦のさなかにいるなんてことは予想もしていなかったけれど…………そう、今は生き抜くことだけを考えないと。
『以上だ。では、作戦を開始する!』
「「了解!!」」
そうして再び動き始める俺とサレナさんのエステバリス。パネルに表示されているエネルギーの残量はもう半分以下だ。
前方から飛来するバッタたちをライフルで牽制、時には撃墜しつつ、ひたすらに疾る。―――そう、ただひたすらに。
頭の中が再び真っ白になっていくような気がして、でもそれは今までの恐怖感とかとは全く別のものだとはっきり分かっていて―――――――
11.
「………ほう、二人ともなかなかやるな。それになかなかのコンビネーションだ」
「っていうより、ゴートのおっさん!! あのクロサキってパイロット、本当にエステに乗るのは初めてなのか?!!
なんで素人があんなに高度な機動を簡単にやってのけてるんだよ!!!」
「確かに。彼女の動きは以前にも機動兵器を扱ったことがあるみたいに見えますねぇ」
「それよりエンジンのほうはどうだ? ホシノ」
「相転移エンジン、出力安定。臨界越えました。…………艦長、いけますよ」
「はい。…では、ND-001ナデシコ、発進します。
このまま3番ハッチより海底に進行し、その後反転しつつ海上に浮上するとともに、引きつけた敵を一気に撃破します!!」
「りょーかぁい。それじゃあ、いっくわよぉ…!」
12.
……突如、サレナさんの機体にバッタからのミサイルが着弾するのが見えた。
「――――サレナさん?!!」
『大丈夫、思ったよりもこの機体、装甲が厚いみたい! それよりももっと急ぐよ!!』
「はい!!」
気を取り直して、さらにスパートを駆ける。…………目標地点まであと500メートル!
「400…………350……………………300…………」
―――――――追撃してくるバッタを振り向きざまにライフルで撃墜しつつ、サレナさんの後を必死になって追う。
「……250………………200………………150…………」
――――――前を先導して飛行するサレナさんの機体が、そしてサレナさんが。とても遠くの存在であるように思えて………
「…………100…………………50……………」
――――そして、そんな思いを必死で打ち消して…!!
『よし! 2機とも海面に着地しろ!!』
「『え?………はいっ!!』」
ゴートさんのちょっと意味不明な指示に疑問をもちつつ、思い切って眼下の海へと飛び込んでいく。
何とか落下速度を調整しつつ、海面に近づいたその時、
『………これは、ナデシコ?』
ちょっとびっくりしたような、サレナさんの声が聞こえてくる。
俺たち二人が立っているのは、白く輝くナデシコのブリッジの上だった。
『おまたせ! アキト!!』
そして回線越しに現れる、ユリカの笑顔。
「………はやかったな、ユリカ」
『貴方のために急いできたの!』
そんなユリカの笑顔を見ていたら、今までの緊張が一気に解けて急に気が抜けてしまった。
――――とりあえず、これで俺の役目は終わりか。……じゃあ後は任せたよ、ユリカ。
そしてナデシコは、ゆっくりと浮上してゆく。
13.
「艦長。グラビティブラストの発射準備、整いました」
足元のオペレータ席から、ルリちゃんがそう報告してくる。
「了解。それじゃ、目標敵全部まとめて……てぇーーーっ!!」
胸の中に潜んでいる、もやもやしたものを振り払うように私はそう叫ぶ。
そして目の前のバッタの一群に向かっていく、長い長い光。
「……敵影、完全に消滅しました。こちら側の被害は0です」
「地球連合軍のほうの被害は軽傷、重傷含めて80数名だそうです。でも幸い、死者はいないそうですよ」
「そう……。では警戒態勢を解除。通常シフトに移行してください」
ルリちゃんとメグミちゃんの報告に返答しながら、私は静かに安堵のため息をついた。
「――――ユリカ?」
「ううん、大丈夫だよジュン君。ただ、今日はびっくりすることがあったからね」
訝しげな表情で尋ねてくるジュン君に私は笑顔で答える。
確かにあのサレナさんって人の存在はちょっと気になるけど…………でも、こうしてまたアキトと逢えたんだから!
「嘘でしょ? なんでこんな……偶然に決まっているわよ!!」
「ムネタケ。どうやら我々の思っていた以上にこの艦は優秀らしいな」
「あれ? どうしたのメグミちゃん。なんだかご機嫌そうな顔してるけど」
「さっきのパイロットさん、ちょっといいなーって思いません?」
「くっそおおおっ!! 俺様の活躍の場があああああっ!!!!」
「………ほんと、バカばっか」
14.
――――アサルトピットの中で一人、私は膝を抱えていた。
通信回線は切ってある。今だけは、誰にも邪魔して欲しくない。
そして目の前に映るその海と空をぼんやりと見つめながら、私は小さく呟いた。
「……やっぱり、私はこの戦艦を、この機体を……この狭い空間を知っている気がする…………」
ここに来たのは正解だったのかもしれない。
モニター越しに見た、数人の人物……その中に少なくとも二人、夢の中で見たことのあった気がする人がいたんだ。
そう。もし『彼』が――――『アキト』が私の前世の記憶でないのなら……ここにいればきっと、その答えが見つかるだろう―――――――
この閉鎖された空間の中で私は…穏やかな夜の海に浮かんでいるような気持ちの中、一つの決意を固めていた。
(Act2へ)