逆行者+突破者

 

 

 

 もうすぐパーティーが始まる………

 そう思っても、僕の気持ちが晴れる事は無かった。

 

 あの時から生まれた小さなしこり。

 それが今でも心の片隅にある。

 このしこりがどういうものなのか。

 なぜ生まれたか、なんて事はわかっている。

 ただ………今日まで先延ばしにしてしまっただけ。

 

 だから今もアキトさんのそばを離れていた。

 少なくても、パーティーまでは一人で居たかったから。

 でもそこで、

 意外な人物を見つけてしまった。

 

「あなた、ここで何しているんですか?」

 

 そこに居たのは、

 以前、月であったチハヤさんだった。

 

 

 

「どーも、お久し振りです。チハヤさん」

 

「……………………」

 

 こっちはちゃんと挨拶したのに、向こうはだんまり。

 まあ、無理も無いですけど。

 おそらく、暗殺か破壊活動でも企んでたんでしょうから。

 

「………あなたがこんな所に居るなんてね。

 これも、テンカワ アキトの作戦?」

 

「いーえ、僕はたまたまここに居ただけです。

 あなたの運が悪かっただけですよ」

 

「ほんとにね………」

 

 じりじりと間合いを計っている。

 逃げずに抗戦するつもりですか。

 ……………………。

 まっ、役立ってもらうとしますか。

 

 

「………………っ!!」

 

 相手が飛び込んでくる、その瞬間!

 

 

「ジュース、飲みます?」

 

「…へっ!?」

 

 思いっきり、出端を挫いてやった(笑)

 

 飲もうと思っていたジュースをチハヤさんに投げ渡す。

 

「ちょうどよかったです。

 ちょっと一人になりたかったものでしてね。

 これでチハヤさんを監視するという建て前が出来ました。

 感謝しますよ」

 

 チハヤさんは投げ渡されたジュースと僕を交互に見て、

 僕の言葉の意味を理解すると怒りの表情を作った。

 

「………私をバカにしているつもり?」

 

「別にそういうつもりは無いですよ。

 僕の個人的利益の為に、

 あなたを利用しようとはしていますけど」

 

 ちなみに、チハヤさんが何か行動を起こす前に、

 僕がチハヤさんを殺す自信はありますけど。

 

「そういえば向こうに庭園がありましたね。

 どうせだったらそっちの方に行きましょうか?」

 

 しばらく無言でこっちをにらみつけていた後、

 ジュースを投げ返して庭園の方に歩いていく。

 僕も後をついていく。

 

「……見くびってる事、後悔させてあげる」

 

 できるものなら………ね。

 

 

 

 

 

「そういえば、そんなに憎いですか。アキトさんが?」

 

 なんとなく、チハヤさんに話し掛けてみた。

 庭園に着いてからというもの、

 僕は考え事を、チハヤさんは僕を警戒していて、

 お互いにずっと黙っていたのだ。

 

「当たり前じゃない。

 私の素性、あなただって知ってるでしょう」

 

 返事は期待していなかったが、意外にもすぐに返ってきた。

 

「でも憎いのは、お兄さんの方でしょう?

 アキトさんを憎むのはお門違いだと思いますけど」

 

「何も知らないくせに、勝手なこと言わないでっ!!」

 

 激しく反論してくる。

 まるで、それにすがらなければ生きていけないと言うかのように。

 

 …………まったく、人の生き方に口をはさむなんて、

 僕らしくないのにな。

 

「ねえ、死ぬってどういう事だと思います?」

 

「……………?」

 

 質問の意味がわかりかねるのか、訝しげな表情を作る。

 

「僕はね、死ぬという事は終わりだと思っているんです。

 死んでしまったら、意志も、願いも、夢も、そこで終わりなんです。

 ちなみに記憶とか、形として残った物とかを僕は信じちゃいませんしね。

 そんなもの、時の流れとともに忘れ去られるんですから」

 

 そう、本当の死とは『全てに』忘れ去られること………。

 

「だから、今のあなたの憎しみは無理やり創ったものだと思います。

 もしそうなら、無理やり創ったものに振り回されるなんて、

 良いことなんか一つもありませんよ」

 

「…………………じゃあ、どうしろっていうの?

 大体、あなたは私にどうこう言える立場だと思ってるの?!」

 

 

 それは、たぶん勢いで言った言葉なのだろう。

 でも僕は、その言葉に虚を突かれた。

 それは、確かに本当の事だったから。

 

「………そうですよね……確かにその通りだ。

 僕が人の事をとやかく言うなんて、確かにどうかしてました」

 

「……え?」

 

 自嘲気味に言った僕の返事が意外だったのだろうか。

 でも僕は構わず続ける。

 

「自分勝手で、我が強くて、

 アキトさんが死んだって動揺しないような冷たい奴で、

 そのくせ自分の事になったら、思いっきり足掻くんですから。

 やっぱり僕は、人とは違うんですよね………」

 

 独り言のように淡々と続ける。

 認めたくなかったですが、やっぱり僕は………。

 

「………別に、そんな事当たり前じゃない」

 

「…………………えっ?」

 

 突然のチハヤさんの言葉に、僕は驚愕した。

 

「人間なんて所詮、自分の事しか考えないし、

 あなたより冷たい人なんて、それこそいっぱい居ると思うわよ。

 だから、その………あなたが人と違うなんて事は、無いと、思う」

 

 その言葉に、僕は笑った。

 涙を流しながら。

 

「あ……あはは………ありがとうございます」

 

「……別に慰めた訳じゃないわよ」

 

 それでも、本当に………

 

 

 

 

 

 しばらくすると、本館から銃声が聞こえてきた。

 僕のコミュニケに通信が入る。

 

「はい、アヤトですが」

 

『アヤトか、今どこに居る?』

 

 アキトさんの言葉に、庭園に居るという事を伝える。

 

『なにっ!?今すぐ離れろっ!そこには爆弾があるんだ!!』

 

 ………そばを見渡すと、チハヤさんは居なくなっていた。

 なるほど、そういう事ですか。

 

「大丈夫です、こっちの爆弾は任せてください。

 幸い、心当たりがありますから」

 

『そうか………無茶はするなよ』

 

「ええ、大丈夫ですよ」

 

 そう言って、僕は通信を切った。

 

 

 

 

 

「………来ないで」

 

 爆弾の起爆装置と思われるものを持って、チハヤさんは立っていた。

 

「そのスイッチを押す前に、

 僕はチハヤさんを殺すことが出来ますよ」

 

「…………じゃあなぜ、さっさと殺さないの?」

 

「……………チハヤさんが好きになったから」

 

「っ?!」

 

 チハヤさんが動揺を見せる。

 

「僕を人と言ってくれたから、

 今はアキトさんと同じぐらい好きなんだ。

 だから殺したくない。

 あなたには、生きて欲しい………」

 

 ゆっくりとチハヤさんに近づこうとした、その時!

 

 ズガッッ!!!

 

 突然の横殴りの衝撃に、僕は横に吹き飛ばされた。

 

 

 

 

「ふっ、やっぱり主役は最後に登場するものですよね」

 

 アヤトさんを飛び蹴りで倒し、女の人の方に近づく。

 

「大丈夫でした?いやー、まさに危機一髪でしたね」

 

「へっ?!………え!?」

 

 この状況に混乱しているようだ。

 

「ああ、自己紹介遅れました。

 僕、天狼 深雪って言います。

 短い付き合いですけど、どうぞよろしく」

 

 笑いながら近づき、そして………、

 

 殺気を感じて、後ろに飛ぶ。

 

「………深雪。今、何やろうとしました?」

 

 復活したアヤトさんが、間に割って入ってきた。

 

「なんで邪魔するんですか、怖い顔しちゃって」

 

 心底不思議といった声で僕が言うと、

 

「あなた………チハヤさんを殺そうとしましたね!」

 

「それが、今回の僕の任務ですから」

 

 僕は平然とそう返した。

 

 

 

 

「ここに爆弾が仕掛けられていると仲間から連絡がありましてね。

 そして来てみたらなんか意味深な話ししているじゃないですか。

 その女の人が犯人だというのは察しがつきましたから。

 だから小芝居をして、手っ取り早く殺そうかと」

 

 そんなことを深雪は平然と話して来た。

 

「………最初にあった時とはずいぶん変わりましたね。

 まあ、あなたの本質からしたら当然なんでしょうけど」

 

「さすがアヤトさん、よく分かってらっしゃる」

 

 嬉しそうな声を上げて喜ぶ。

 

「さて、それじゃあどうします?

 このままだと爆弾、爆発しちゃいますよ」

 

 くっ!確かに悠長な事をしている暇は無いか。

 見るとチハヤさんは茫然とこの状況を眺めている。

 今ならっ!!

 

 ガンッ!!

 

「きゃっ!!」

 

 チハヤさんが持っていた起爆装置を蹴り飛ばす。

 高く上がった装置は深雪の方に行く。

 

「はい、任務完了」

 

 パシッ!

 

 深雪は危なげなくキャッチして、

 

 カチッ。

 

「へ?」

 

「……え?」

 

「………あっ!」

 

 

 

 ● ● ● ● ● ● ● ● ●

 

 

 

「あはは…………押しちゃった」(汗)

 

 

 ドォォォォォオオオンンン!!!!

 

 

その3へ続く

 

 

中書き

無識:……………………(死亡中)

アヤト:まったく、こんなところで終わらすなんて反則物ですよ。

ファル:私の出番も作らなかったし、まさに万死に値するわね。

深雪:はーい、一言言いたいんですけど、

   どうして僕がこんなに悪役っぽいんですか?

ア:仕方ないんじゃないかな、一応ライバルだし。

深:うぅ〜、女たらしは黙ってろー!

ア:誰が女たらしですかっ!誰がっ!!

深:そんなんだから、ロリコンとか、抹殺リスト入りだとか言われるんだ〜!

フ:そうだねー、私も不憫でしょうがないよ。

ア:だぁぁぁ!!エンタイトルツーベース君の錆にしてくれるわっ!!!

 

 ドガァァァン!!キュイーン!!バババババ!!スパーンスパーン!!

 

無:…………………(密かに再生中)

 

 

 

代理人の感想

 

・・・・・・コイツ、本当に秘密工作員か?

どこかの自爆王と漫才コンビ組んでヨシモトに殴りこむ方がよっぽど天職なんじゃなかろうか?

アヤトはアヤトでチハヤをたらしてるし(爆笑)。

キャラクター達の意外な横顔が見えたお話でした。(ってそうまとめるか?)