逆行者+突破者

第二十話「氷≠水」

 

 

 

 なにげなく、展望室の来てみると、すでに先客がいた。

 

「なに二人して黄昏ているんですか、アキトさん、ナオさん」

 

「………そっちこそ、頬の紅葉、まだ残ってるぞ」

 

「…………言わないでくださいよ」

 

 

 

 

 ナデシコに帰って、アキトさんとナオさんは地獄だった。

 アキトさんはダンスで北斗さん(枝織さんだっけな?)と踊っていたのが原因らしい。

 ナオさんも敵の御一人と事故とはいえキスしてしまったのがいけなかった。

 ………まあ、ここまではいつもの事と、言えなくもないんですが、

 なぜか僕にも飛び火が来てしまって、

 

 

 帰ってくるなり、メティスにチハヤさんのことで詰め寄られた。

 まあ、情報源とかは分かっちゃいるんですけどね。

 なので正直にチハヤさんとのやり取りを話したら、

 いきなりメティスが涙目になり、

 

「この…………バカァ!!」

 

 バチィィィィン!!

 

 

 ………………とまあ、そんなことがあったんですよね。

 おかげで他の皆さんからは白い目で見られるし、

 某組織の人達はまた突っかかってくるし。

 

「「「………はぁ」」」

 

 三人同時に、力ない溜息をついた。

 

 

 

 

 

「一番星コンテスト?」

 

 ポスターに書いてあった事を声に出して改めて驚く。

 優勝者にはアキトくんと二人でアイドルデビューか。

 しかしナデシコって、平気でこういうイベントやるよね。

 まっ、私としては面白そうだからいいんだけど。

 でもそれより、今の私はやることがある。

 

 

 おっ!いたいた!

 そっと目標の背後に近づき、

 

 ガンッ!!

 

 小気味良く、私のフリッカージャブがアヤトくんの後頭部に炸裂する。

 

「………なんでいきなりファルさんに殴られなければならないんですか?」

 

「理由、ちょっと考えれば分かると思うんだけど」

 

 アヤトくんは渋い顔を浮かべる。

 

「メティスの事なら、僕に反論に余地はありませんけど。

 大体、メティスがなぜ怒ったのかが、僕には分かりかねるんですから」

 

 その言葉を聞いて、私は心底ため息をつく。

 

「あのね、鈍感だったり朴念仁だったりするのはいいんだけど、

 せめてデリカシーとか、常識とかはわきまえなさいよ」

 

 アヤトくんはさらに不機嫌な顔を作る。

 

「僕はアキトさんみたいに対人関係について器用じゃないんです。

 それに、メティスが僕の事を嫌いになったんなら、

 無理に好きになってもらおうとは思いません。

 僕はメティスの事、好きなんですけど………去る者追わず、です」

 

 そう言って、アヤトくんは去っていく。

 ふう、まったく………

 

「ヒース、盗み聞きしてたのはわかってるんだよ。

 とりあえず出て来なさい」

 

『…………了解』

 

 申し訳無さそうにウィンドウが現れる。

 

「単刀直入に聞くわよ、さっきのアヤトくんの考え、人間関係として有りだと思う?」

 

『……………………………………肯定』

 

「うん、そこまでは私も否定しないよ。

 でも、恋愛関係としてはどう?」

 

『否定!』

 

 私はニッと笑う。

 

「なんだ、ヒースは乙女心とかわかってるじゃない」

 

 まっ、親があんなんだから、自然と成長したのかな。

 子供は人類の父であるとも言うしね。

 

「………アキトくんは優柔不断で怖がり。

 アヤトくんはわがままで物事割り切りすぎ。

 極端すぎるよね、二人とも」

 

 

 

 

 

 

 部屋で僕がちょっとふてくされていると、

 アキトさんから緊急回線で格納庫に集まってくれと言われた。

 

 なんだろ?

 

 とりあえず格納庫に向かってみる。

 

 

 

 

 来てみると事情はすぐに知らされた。

 優華部隊とその他二名がナデシコにやってくるらしい。

 こっちがチューリップを全部破壊してしまったために、

 帰れなくなってしまったのだ。

 

 そして、一台の連絡船がナデシコの前に止まる。

 

 

 

「どーも、ご迷惑おかけします〜。

 始めましての人も、そうでない人も、こんばんは!

 天狼 深雪です♪

 趣味は刀の手入れとお菓子作り♪

 特技は家事全般と暗殺技能です♪

 どうぞよろしく☆」

 

 

 

 

「天翔○閃キャンセル牙○・零式ぃぃぃぃぃっっっ!!!」

 

 ザシュッッ!!ズバガァァァァァンン!!!

 

 血飛沫を撒き散らしながら吹き飛ぶ深雪。

 

「ふう、脊髄反射的に諸悪を滅ぼしてしまった………」

 

「………ちょっとやり過ぎじゃないのかな?

 アヤトだって西欧に行った時、似たような事やったんだし」

 

 冷や汗をたらしながら、アキトさんが言ってくるが、

 

「いやっ、深雪は語尾に☆をつけた!そこが決め手ですね」

 

 ハートは許せるが星は許せません。

 

 

 

「ああっ、大丈夫かい!?深雪君!」

 

 高杉さんが倒れている深雪に駆け寄る。

 

「……すいません、僕はここまでのようです。

 高杉さん……今まで優しくしてくれて……ありがとうございました」

 

 そう言い終えると、深雪は眠るように力を失った。

 

「深雪君っ!!深雪くーーーーん!!」

 

 

 

 

「………茶番、まだ続くならこのまま首切り落としますよ」

 

 高杉さんの首にエンタイトルツーベース君をつきつけて問う。

 

「あっ、あはははははは……、

 金属バットで切るって、そりゃまた不思議な。

 いやっ、マジで切れそうなので試さなくていいです!

 ほら、深雪君も起きる起きる!!」

 

 まったく、手間かけさせないでくださいよ。

 

 

 

 

 

 その後…………、

 

 

「………ナオ様〜〜〜〜!!」

 

「やっぱり居た〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」

 

 

 

「やっほ〜、アー君お久しぶり!!」

 

 シィィィィィィィィィンンンン………

 

 

 ………うん、些細な事だ。問題無い!(開き直り)

 こんな事、ナデシコでは日常茶飯事じゃないか!

 

『…………………肯定』

 

 ほら、ヒースもそうだって言ってるし!

 

 

 

 

 

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