逆行者+突破者

第二十一話「青天×霹靂」

 

 

 

 コンテストの日、

 俺は怪しい人からある依頼を頼まれている最中だった。

 その人は、ひたすら怪しかった。帽子とサングラスで顔を隠しているし。

 ………………、

 ……つーか、それ変装ですか?アカツキさん?

 

「………つまり要約すると、

 アキトと枝織ちゃんが外に出て行ったから、

 今から追跡して捕まえて来い、って訳ですか、アカツキさん?」

 

「ははは!アカツキって誰の事だい?

 僕は通りすがりの戦うお兄さんだよ。

 まあ、それはそれとして………引き受けてくれるかい?」

 

「断わる………つーか無理だ」

 

 あんなデタラメーズの追いかけっこに、一般人が太刀打ちできるかっての。

 

「そんなわけだから、俺を厄介事に巻き込むのはやめてください」

 

 そういって去ろうとした時、

 

「………純米吟醸を一箱」

 

「オーケイ」

 

 俺の返事は即答だった。

 

 

 

 

「しかし………依頼しといてなんだが、

 本当に捕まえられるのかい?」

 

「ふっ、任せてください。

 こう見えても俺はプロですよ。

 まずヒースのデータにより二人の行きそうなルートを絞り込む。

 さらにさっき(賄賂を使って)手に入れたファルの『選見』で行く場所もわかりました。

 方向音痴も考慮してますから信頼できます。

 後はそれを辿っていけば必ず追いつけます」

 

「だが、二人に追いつけるスピードが無ければイタチごっこだよ」

 

 確かに二人と互角以上のスピードが無ければ追いつく事など出来ない。

 だが………その点も抜かりは無い!

 俺は持ってきた新兵器を見せる。

 

「それは………百華くんが乗っていた自転車かい?」

 

「ええ、それをレストアしてフルチューンしました。

 その速度は誰の知覚をも許さない!!

 その名も、ラディカル・グッド・スチール君っ!!」

 

 ふっふっふっ、この秘密兵器さえあれば、

 たとえあのデタラメーズだろうと、追いついてみせる!

 

「そんな訳で、俺は今すぐ行きますので、

 後の事は頼みます」

 

「ああ、僕も後で零夜ちゃんと行くかもしれないから、

 その時はよろしく」

 

 そしてラディカル・グッド・スチール君にまたがり、

 

 キュリリリリッッッ!!!

 

「ツバキ!いっきまーーーーす!!!」

 

 バキュゥゥゥゥゥゥンンンン!!!!

 

 朝焼けの空へと、俺は旅立った………。

 

 

 

 

 その後………。

 

 

 

 

「前輪が沈む前に後輪を進ませ!

 後輪が沈む前に前輪を進ませる!!

 これぞ、自転車水上走行の極意っ!!!」

 

 

 

 

「車どもっ!そこをどけっ!!

 自転車様のお通りだっ!!!」

 

 

 

 

「今だ!ニトロ点火っ!!

 俺は自転車という限界を超えてみせるっ!!!」

 

 

 

 

 ………ちなみにこの後、アキト達と共に、

 『怪奇!街を駆け巡る暴走自転車!?』

 などという汚名を着せられてしまうのだが………、

 

 

 まっ、まあ、細かい事は置いといて(汗)、

 このような必死の追跡劇により、俺はついに………、

 

 

「見つけたっっ!!」

 

 ガキャキュギャリリリリリッッッ!!!

 

 スピンターンで華麗に着地を決める………がっ!

 

 ガチャン、ガラガラガラ!!!

 

 酷使しすぎたラディカル・グッド・スチール君は、

 そのままバラバラに壊れてしまった。

 

 ありがとう………そしてさようなら………(涙)

 

 

 さてと、

 見た感じ、ちょうどアキトが枝織ちゃんを捕まえた所だった。

 今は二人ともこっちを見て唖然としている。

 

「ツ……ツバキ?………よく追いついてこられたな……」

 

「ふっふっふっ、俺をなめてもらっては困るな」

 

「………すごーい。アー君以外で枝織に追いついてこれるなんて」

 

 枝織ちゃんは俺を不思議そうな目で見ている。

 ……そういや、こういう風に会うのは初めてか。

 

「とりあえず初めまして、

 アキトの友人でツバキ アヤトっていう。

 ツバ吉、ツーさん、ツバキお兄さん、

 どれでも好きな呼び方でいいぞ」

 

「うーんと………じゃあ、ツーちゃん!」

 

「微妙に違う気がしないでもないが、

 今の俺にはつっこむ気力も無いから、それで良し」

 

 いやほんと、今回はマジで疲れたよ。

 早く帰って寝よ。

 

「そっ、そうだ!ツバキ、助けてくれ!!」

 

 なんだ?いきなりアキトが懇願してくる。

 

「あのね〜、アー君とここに入ろうとしてたの」

 

 枝織ちゃんが指差した方向には、

 

 

 『ガラスの城』

 

 

「…………助けてくれ(泣)」

 

「はっはっはっ、じゃあ達者でな、アキト!」

 

 アキトを振り解き、さっさと帰ろうとする。

 

「あっさり見捨てるなぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「ええい!はなせ、見苦しい!

 どうせ無駄な抵抗なんだ、さっさと諦めろ!」

 

「……………………、

 そうか……無駄なのか」

 

 その瞬間、アキトの目に危険な色が浮かび上がる。

 

「だったらな……………、

 お前も道連れだぁぁぁぁぁ!!!」

 

 なにぃぃぃぃぃ?!!

 驚く間も無く、スリーパーホールドで俺を締め上げるアキト。

 

「枝織ちゃん、ツバキも入りたいってさ」

 

「うん、いいよ」

 

 やめろ!!ヘルプミー!!いやだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!

 

 

 

 

 

 その後、ツバキはダウンしたので、

 僕ことアヤトが出てきました。

 

「じゃあ、アーちゃんだね!」

 

 ………いや、アキトさんと差別化させなくちゃならないのは分かるんですが、

 なぜに同じ年齢で僕だけちゃん付け………(泣)

 

 

 

 とりあえず考えたのは、このままではアキトさんのとばっちりがくるという事。

 そして、僕がお仕置き対策として行った事は………、

 

「枝織ちゃん、お風呂はいるならアキトさんも誘えば?」

 

「うん、そうだね」

 

 

 

「あっ、替えの下着どうしよう」

 

「ああ、だったらこのカードで買いに行けばいいよ」

 

 といってアキトさんのカードを渡す。

 

 

 

 などなど、とにかくアキトさんに犠牲になってもらうという事。

 そうすれば自然と、僕に対するお仕置きは減る!!………………多分。

 

 

 

 

 そうして、アキトさんと枝織ちゃんを、

 いっしょのベットで眠らすまでに追い込んだ。

 

 ふう、ここまでやれば、もう十分かな。

 

 

 

「…………ねえ」

 

 寝ていたと思っていた枝織ちゃんから声をかけられる。

 

「ツーちゃんとアーちゃんも、枝織や北ちゃんと同じなの?」

 

 ………人工的に作られた二重人格の彼女達、

 それと、イレギュラーな僕達………か。

 

「いいえ、まったく違いますよ」

 

 自嘲的に笑う。

 

「さっきもアキトさんが言ったように、

 あなた達はやっぱり違う存在なんです、どれだけお互いが必要としていようとね。

 それに比べて僕達は………、

 基本的に同じなのに、本質的に違う者同士。

 元々は同じだから、二人に分かれている必要性はまったく無いんです」

 

 だから………僕はアイツを殺さなくちゃならない。

 

「う〜〜、よく分からない」

 

「はは、分からなくて構いません。

 つまりはね、枝織ちゃんは好き勝手に生きていいってことですよ」

 

 そう、人間は、人間らしい悩みを抱えて生きていくんです。

 

「さっ、早く寝ましょう」

 

「ん、おやすみ」

 

 そうして、僕はベットの横の床で眠りについた。

 

 

 アイツを殺すことを夢見ながら………。

 

 

 

 

 

 その2へ