逆行者+突破者
第二十七話「すれ違い×死闘」
………重要なのは、見極める事。
自分ひとりだけで望みを叶えるのは至極困難。
千里眼にも勝る広い視野で世界を見、
その状況を見極めなければならない。
そしてその状況を己の望むものにするには、
自分自身すら一つの駒にする覚悟が必要。
神のように全てを知り、何も出来ないのでは話にならない。
プレイヤーとマリオネットを同時に演じなければ、
僕の望みは叶えられない。
ビー!!ビー!!ビー!!
『艦内の乗組員全員に告ぐ……我等の大切な同胞である東 舞歌殿が……殺された』
………………そう。
今は………行動するべき時だ。
二本の刀が入ったジュラルミンケースを持ち、
僕は部屋を出て行った。
……………くっそぉ。
アキトと共にシャクヤクの中を逃げながら、
俺は心の中で悪態を突いていた。
和平会談は木連側の無茶な要求で破談となった。
まあ、未来を知る俺から見れば、
99%そうなるとは、思っていたんだけどな。
白鳥さんは、アキトが助けた。
だが、東 舞歌を殺されてしまった。
今は現れたDから辛くも戦術的後退をした所だ。
仲間という枷があるアキトと、協調性が無い俺では、
二人がかりとはいえDと戦うのは得策ではないと思ったからな。
「ちいっ、厄介な状況になったな。
アキト、ダメージの方はどうだ?」
「ああ、ちょっと貰いすぎたかな……、ツバキは?」
「俺のほうは大丈夫だ」
しかし、そう簡単には逃がしてはくれないか………な。
ふいに、俺は立ち止まった。
「………?、ツバキ……どうした?」
「アキト、先に格納庫に行け」
「なっ、何を言って……」
「いいからっ!!
俺の心配はしなくていい、奥の手も持ってる事だしな」
アキトの目を逸らさずに語る。
「………わかった、それなら一応これを……」
アキトは内ポケットから何かを取り出し、渡してくる。
「………お前、これはっ!」
「多分、必要になると思うから……、気をつけろよっ!」
そう言って、アキトは再び駆け出して行った。
なにか予感めいたものでも働いたのだろうか。
もっとも、本当に考えを知ったならば、
無理にでも止めたかもしれないな、アキトなら。
「……気をつけるのはお前の方だ、アキト。
ガキに気を取られてバカに殺されるなよ……」
ポケットにそれを押し込み、俺は小さく独り言を呟いた。
瞬間、朱い殺気が空間を満たす。
ドゴォォォォォォォン!!!
壁が砕け、朱い殺気は形を成して現れた。
身に纏う朱金は、傷だらけの今ですら輝きを失わない。
いや、その苛烈な狂気が歯止めを壊してしまったのだろう。
正に、『真紅の羅刹』に相応しい姿で、北斗はそこに立っていた。
……スケアクロウを持ってこれなかったのは、ちょっと痛いな。
無い物ねだりを諦め、静かに北斗を見つめる。
「……………アキトは………どこだ?」
言葉と共に、殺気が俺にぶつけられる。
「悪いな、今のお前をアキトに会わせる訳にはいかない」
「ならば………死ね」
静かに宣言して、俺の方に向かってくる。
「………殺ってみな」
苦笑を浮かべながら、俺も北斗に向かって突進する。
あたしは待っていた。
アイツが来るのを、ずっと待っていた。
でも………来たのはアイツじゃなかった。
でもそれが正しい。
その人を止めるのが今回のあたしの仕事だから。
………でも………それでもあたしは、アイツが来るのを望んでいた。
アイツを殺したい………でも今は、仕事に集中しなくちゃ。
落胆の溜め息と共に、蒼銀の輝きを持つ人を見つめる。
「………そこを、どいてくれないか?」
悲しそうな、苦しそうな、同情したような声でその人は言う。
「―――嫌」
そう言うと、あたしは両腕と両足に紫電を走らせた。