逆行者+突破者

 

 

 

 北斗の蹴りが側頭部めがけて迫ってくる。

 俺は右腕を上げてガードする、が!

 

 グキャッッ!!

 

 ガードした右腕は嫌な音を立てて砕ける。

 筋繊維がズタズタに裂け、骨は複雑骨折は確実だろう。

 だが意に介さず、左手で北斗の蹴り足を掴み、壁に叩きつける。

 

 ドガッ!!

 

 手負いとはいえ、この程度で倒せるとは思ってはいないが。

 

 砕けた右腕はすでに跡形も無く再生している。

 鬼である現在は、末端の怪我はゼロコンマで再生できる。

 肉体的ダメージは、俺にとってはゼロに等しい。

 

 もっとも………何事にも限度はあるがな。

 

 叩きつけられた北斗は、その反動を生かしてこちらに突進してくる。

 その姿はまるで獣っ!

 

 ボゴッッ!!

 

「がっっ!」

 

 朱金を纏った拳を鳩尾に叩き込まれる、が!

 

 ズガッッ!!

 

「ぐっ!」

 

 こちらも北斗の頭頂部に肘鉄を撃ち込む。

 そして北斗が離れ、俺達の間に距離が生まれる。

 

 

 

 これが今までの現状だ。

 腕力と再生力では俺の方が高いが、

 スピードではあちらの方が断然上だ。

 その為、北斗の攻撃を俺が受けて、カウンターを返すの繰り返し。

 こっちは肉体的にはダメージはゼロに見えるが、

 根源的なダメージは確実に溜まっている。

 おまけに北斗にもかなりの回復能力があり、

 無限ともいえる攻撃力『昂氣』があるのだ。

 ………ならば、やるしかないか。

 

 覚悟を決めようとして北斗を見ると、

 北斗はこちらをじっと見つめていた。

 

「…………………」

 

 ……俺はわざと微笑んで話し掛ける。

 

「…………意外か?

 アキト以外でお前と対等に渡り合える者がいる事が」

 

 北斗は応えない。

 ただじっと、こちらを見つめている。

 

「まあ、実際、お前らは本当にすごいよ。

 俺からすれば、人の身体で鬼と互角なんだからな。

 人の身体なんて到底、単式戦闘には向いていないのにだ。

 生物として、素直にお前を尊敬する」

 

 そう………好ましいとさえ……思えるほどに。

 

 ゆっくりと、左腕を自らの頭上に掲げる。

 

「ああ………だからこそ、

 俺は自らの制御を限界まで解放しよう。

 だから北斗、お前も自分の全てを『力』に換えて挑んで来い。

 怒りも、悲しみも、悔しさも、寂しさも、苦しみも、

 疑念も、不安も、信念も、闘志も、迷いも、安らぎも、弱さも、

 技術も、理性も、感情も、本能も、精神も、経験も、魂も、

 あらゆるものを『力』に換えて、俺を殺しに来てみなっ!!」

 

「………………………言われんでも」

 

 その瞬間、北斗が微かに笑った………ように感じた。

 それは狂気か………それとも別の何かかは、わかりかねたが。

 

 北斗の朱金の『昂氣』は、いっそうその輝きを増していき、

 それは次第に、己の右手に集束していく。

 なんて儚く、荒々しい炎だろうか。

 

「………俺にアキトの代わりは出来ない。

 だから………俺は俺の殺り方でお前を滅ぼしてやる」

 

 そう宣言し、俺は『権利』を『行使』した。

 

 

 

 

 周囲の『世界』が、悲鳴を上げた。

 

 

 

 『金属』も、『空気』も、

 

 『時間』も、『空間』も、

 

 『次元』も、『真実』も、

 

 そして『生物』も、

 

 あらゆるものが『力』を刈り取られていく。

 

 その無色で、混沌とした『力』は、

 

 掲げられた左手に集まり、俺が望む『力』に、『腕力』に変換させる。

 

 そして『世界』は『力』を失い、『擬死状態』に陥る。

 

 

 そこに、『異界』が創られたのだ。

 

 

 北斗は『権利』に逆らい、『力』を失わなかった。

 

 …………それでこそ、殺りがいがある。

 

「さあ、人の頂を極めし者よ。

 余裕も、容赦も、躊躇も無用だ。

 『ここ』では『力』が全てを決定付ける。

 ルールは単純、より強い『力』の勝ちだ、ジャンケンより簡単だろ。

 さあ…………殺りあおうぜっ!!」

 

 

 

 先に動いたのは、北斗。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 叫びすら『力』に換え、朱金の『昂氣』に渦巻く右腕を繰り出してくる。

 

 

 俺は静かに、左腕を引き絞る。

 弓に引き絞られた、矢のごとく。

 

 

 そして真正面から、その腕を弾け飛ばした。

 

 

  ごう   げき        かいな
 轟撃の腕

 

 

 

 

 

 拮抗は―――――刹那――――

 

 

 

 

 

 残るは―――――――――破壊

 

 

 

 

 

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