逆行者+突破者
第三十話Aルート「遺跡=永遠」
歩く、
地面すら無い所を。
歩く、
前に進んでいるかも定かでないのに。
それでも歩く、
先に在るものを求めて………
そこは白々しいまでの光の底。
白に埋め尽くされた目も眩むような世界。
これはここに住むものが望んだ偽りの安らぎか、
それとも、ただの見栄えの良い鳥篭なのか。
いずれにせよ、そんな世界の果てに、
――――――――その子はいた。
まだ幼いとさえいえる少女。
身を縮め、怯えるように座り込んでいるように見える。
だが、その顔に生者の絶望は無く、
また死者の安らぎも存在しない。
在るのは、哀れなまでの諦観と希望。
…………………誰?………
響く声、そこに怯えを存在しない。
「誰は無いでしょう、これでもここに来るのは二回目なんですから」
…………………ああ、アヤトさん……でしたっけ………
………良くこんな所までこれましたね………
………こんな遺跡の『中』になんて………
「まあね、こういう非常識な事が得意な人が知り合いに多いですから。
それにしても、遺跡のサイバースペースにしては随分殺風景ですね」
………ここは、私の為の檻だからね……………
………それで、なんであなたがここに?………
………私は………アキトさんを呼んだはずですが………
若干、声に非難の色が含まれる。
「アキトさんよりも僕の方が適格でしょ?
わざわざアキトさんを突破者に仕立て上げなくてもね」
………………あなたが………私を救ってくれるの?………
ここで初めて、少女が僕の方を見た。
藁を縋る溺れた者の目。
「そうですね、普段はこんな事はやらないんですけど、
……あなたには哀れみも同情も感じられますから」
他人が聞けば侮蔑ともとれる言葉。
だが言った僕に他意は無く、
聞いた少女も素直に喜んだ。
………………良かった………………
………これでやっと私も、この永遠から抜け出せるんだね………
………やっと私も――――――死ねるんだね………
「…………どうしても、死にたいんですか?」
………もう、生きるのは嫌だから………
………勝手に永遠に放り込まれて、そして死ぬ事すら出来ない………
………私には…………辛すぎるよ………
「でも、所詮そこは永遠では無い。
あなたは、人間にしては長く生き過ぎているだけだ。
たった数千年、数万年生き続けているだけ、
それでも、あなたは死を望みますか?」
長寿、不死身、不老不死………。
多くの人が望む陳腐な願いを、偽りであれ少女は望まずに手に入れた。
そしてそれを、手放そうとしている。
酷く、勿体無く感じた。
………私は………弱いから………
……………もう、生きることは出来ないの………
……………ならせめて―――――死なせて………
その言葉で、僕の覚悟も決まった。
手の平から血が溢れ、一つの処刑具を形作る。
血で作られた、赤い大鎌。
その刃を、少女の首にかける。
「言い残した事はありますか?」
………あなたは、アヤトさんは………………
………………私より強いですよね?………
「ええ、自惚れでもそう思っています。
あなたより、僕の方が強いです」
………じゃあ、一つだけお願いしてもいいですか………
………………私の事、憶えていて下さい………………
「………わかりました」
瞬間、僕は少女の首を刈った。
カシャァァァァァァァンンン!!!
ガラスを砕くような、澄んだ音が鳴り響く。
およそ、人を殺したとは思えない音を奏でながら、
名も知らぬ少女は粉雪のように散っていった。
小さく息を吐く。
「遺跡よ、僕を取り込もうなんて思わない事だね」
空間そのものが、動揺する。
「いくらここがお前の『中』でも、僕には勝てない。
はっきりいって僕はお前の事が嫌いだが、
僕は好き嫌いで殺しはしない。
牙を剥くなら容赦しないが、今なら見逃してやる」
静かに、はっきりと怒りを込めて、僕は言う。
恐れをなしたのか、遺跡は何もしてこない。
若干の失望を感じながら、僕は歩き始めた。
この空っぽの監獄を抜け、
自分の世界に返るために…………。