現地に到着し、私達は一端別れそれぞれの宿泊施設へと向かいました。
 北岡先生達は防犯上の理由で、アクア=クリムゾンが滞在予定の高級ホテルに。
 あそこの警備体制はかなり整ってますからね、賢い判断です。
 そして私達は高くも安くも無い極平凡な観光ホテルへと向かいました。この地で私の正体を知るのは、今の所北辰と北岡先生のみ。
 アクア=クリムゾンでさえ私とは面識がありません。名前ぐらいは伝わっているでしょうが……。
 何時何処で誰の目が光っているか解らない状況ですから、現段階でクリムゾンとの繋がりを匂わす様な行為は避けたいのです。


「しかしまあ、無駄が多い国な事で……これも地球の余裕と言う奴ですか」


 ホテルのベランダから煌びやかにライトアップされているピースランド城を見つめ、私は呟いていました。
 余裕があれば傲慢になり、他人を省みず利己的な行動に走る……。
 果たしてこれは木連にも当てはまるのか?
 長きにわたってギリギリの生活を強いられた反動が、戦後どう出るか今から心配になってきました。
 取らぬ勝利の皮算用とでも言うのでしょうかね。しかし現実問題としてパワーバランスは木連側に傾いている。その勝利の天秤を戻すには用意ならざる手を使うしかないでしょうが。
 その切り札がナデシコなのか、それとも全く別の何かか……。


「博士?」

「ああ、終わりましたか……間に合って良かったです」


 振り向くとそこには、表の傲慢な光など一瞬で掻き消えてしまうほどの輝きがありました。
 うっすらと、初めからそうあるべきだったかのように施された薄い化粧。
 甘い香りが漂う黒髪が揺れ、それと共に藍色の生地がなびきます。


「こんなもの着るのは……は、初めてで」

「舞踏会ですからね、おしゃれをしてもバチは当たりませんよ」


 少し前に地球に来た際、プレゼントとして注文しておいたのですが、思わぬ場面で活用する事ができました。
 しかし始めて履くハイヒールに悪戦苦闘している所を見ると、少々背伸びしすぎたかと反省。
 と言うより仕事のついででしかイツキにこんな事をさせてあげられないとは……最悪ですね、私。


「本当にありがとう……大事にします」

「私としては、今宵貴女と過ごす時間こそ大事にしたいですね……」


“コンコン”


 イツキの腰にゆっくり手を回そうとした瞬間にノックが。狙ったようなタイミングです。
 顔を真っ赤にして大慌てで離れてしまうイツキ……ああ、惜しい。


「何です?」

「時間だ」


 ドア越しに確認した乱入者の正体に更に脱力……北辰、貴方何時から変装士になったので?


「間者たるものいかなる場所にも潜入せねばならんのでな。どうだ、何処からどう見ても我はしがないウエイターだ」

「素材に問題大有りの気がしますけど」

「……矢張り駄目か。実はさっきも赤子に泣かれてしまった」


「特に顔が駄目ですから」

「駄目なのか」

「駄目なんですってば」


 こんな感じで馬鹿みたいな話をしてますが、二人共果たしてこの地から生きて帰れるかどうか……。
 だからと言って悲壮な覚悟をする必要はありませんがね。テンションは高いほど都合が良い。
      





 テンションが無駄に高いのは私達だけではありませんでした。
 会場では既に多くの紳士淑女がごった返し、穏やかながら何処かピリピリするような声を上げていました。
 他愛もない冗談や世間話に織り込まれた別の意図が、そういった空気を生み出しているのやもしれません。
 歩く様も実に計算されており、うっかり肩が触れ合わぬよう細心の注意を払い、もしくはわざと軽く接触して会話のきっかけを生み出そうとする猛者もいました。
 彼らは駆け引きを弄した老獪な人間達です……人が言葉で語り合う事を常としている以上、彼らの力は脅威となる。
 しかし私達は、こうやって同じ舞台に立つ以上同じ戦法を用いなければならない……剣には剣で、言葉には言葉で戦うのです。
 この二つは常に一体。どちらかが頓挫すればすぐさまもう片方の手段を用いる。
 言葉が通じなければ戦となり、戦に疲れれば和平を目指す……私達は彼らに知らせなければならない。
 既に剣と剣による戦いは、失敗したのだと。


「やあまた」

 北岡先生は既に会場で待っていました。
 彼の周囲には何人もの取り巻きが談笑しています。彼の顧客なのでしょう。


「いやあこれはまた美しい……羨ましいですね」

「ありがとうございます」


 まだ少々笑顔が強張ってはいますが、どうにか礼を返すイツキ。
 戦闘プログラムはともかく、こういった社交マナーや社会規範は、“教育”によってでしか学べません。
 こんな所は我々と全く同じなのです。人に出来る事は殆ど出来て、出来ないことすらやってのける……それが彼女なのです。


「ま、いずれはこっちもいい人捕まえて見せますよ……ああ、ご紹介が遅れました。こちら、私の恩師である超新星氏です」


 私の本名を何の躊躇いも無く周囲の人達に明かす北岡先生。
 まあいいんですが……かく言う私も、イツキと同じで社交術はそれなりに学んでいても、場慣れは全くしていません。
 社交界とは一生縁が無いものとばかり思っていましたが、人生解らないものです。
 だからこそ……先のことが解らないからこそ、“生きる”事は面白い。


「皆様始めまして。私は超、超新星。遺伝子工学を専攻しています」


 ……今やそれどころではなく、機械工学やら人間心理学に関しても精通するようになってしまっていますが。
 元々は私は勉学に熱心な方ではありませんでしたが……必要に迫られ、限られた時間を命一杯使い使い込んだ結果です。


「おお、そうですか。私は……」


 一人の中年紳士が自己紹介したのを皮切りに、次々と周囲の人間から声をかけられました。
 今更慌てても仕方が無く、腹をくくって丁寧に応対していきます。
 笑顔を絶やさず、目をしっかり見据え、他の人が話題に入り込むスキをワザと作る。
 理論では理解していても、いざやってみるととんでもなく骨が折れる作業です。
 北岡先生や彼らは、こんな事を涼しい顔でやってのけるとは……思想体制が自由なだけに、その手数も豊富極まりない。
 一度目の和平交渉が決裂するのも、無理ない……多分上層部は謝罪と賠償をストレートに伝えてしまい、連合側の態度を硬化させたのでしょう。
 ……これが最後のチャンス。三度目以降はありえないでしょう。
 私は責任の重さを感じつつ、言葉と微笑を絶やさずにしていました。




 会話にひとしきりつくと、私は流石に疲弊してため息をついていました。
 これほどまでに地球の人間が話題に富んでいるとは……戦争をやっている星の人間とは思えません。
 まあ木連は、話題といえばゲキガンガーや軍事面での話ぐらいしか無いです。ボキャブラリーが無いんですよねぇ……。
 豪州の一部の士官は、現地住民から映画やスポーツなどを紹介され楽しんでいると聞きます。
 いずれは木連にも、優秀な芸能文化を取り入れなければなりませんね、ゲキガンガー以外の。


「博士、お疲れ様でした」


 私が話し込んでいる間、イツキはずっと壁際に立っていました。


「傍に北岡先生がついていてくれたお陰で助かりました」

「成る程、イツキは美人ですからねぇ。健全な男子なら放っては置かないでしょうから」


 そんな彼女を守ろうともせず、軟弱者と決め付け相手にしなかった同期の学生諸君は、目が腐っていたとしか思えませんね。
 現にそうだったのでしょう。イツキの同期はもうウツキしか残っていません。
 人を見る目が無い者は、世間を見る目も無いのです。そんな者はこの激動の時代では生きていけない。


「別に、嫌では無かったんです。彼らは思った以上に紳士的で……でも……」

「でも?」

「初めては……博士と踊りたかったので」


 上目でこちらを見るイツキを見て、拒むような男は世界の敵です。
 私はそっと彼女の手をとり、優雅な旋律が鳴り響くダンスホールへと歩みました。
 ダンスなど二人とも初心者でしたが、互いに一緒でありたいという思いが体を動かしたのでしょう。立派とは言えませんが、二人はピッタリと息を合わせて足を運んでいました。


「私は博士のお陰で私になれた……博士のお陰でここまで来れた……どう、言ったらいいのか私には……」

「その言葉、そっくりそのまま貴女に返します。感謝の言葉もありませんよ、本当に……」


 何度投げ出そうと思ったか。
 幾度も安易な方法にすがろうと思ったか。
 いっそ自ら手を下し“あのお方”との約束を果たそうとした事か……。
 彼女に出会わなければ私は、月での大敗の時点で強行姿勢を取り、力づくで地球を屈服させていたでしょう。  
 そうさせなかったのは……和平という面倒な手順に私を導いたのは、他でもないイツキなのです。
 彼女と目指す未来の為ならば、どれだけ苦闘しようと構わないと思ったから。


「これからもずっと……先の先まで行きましょう。一緒に」

「……はい」


 柔らかいイツキの手を握り、私は呟きます。
 照れが入ったのか、躊躇いがちに返事をする彼女を、私は曲が終わった瞬間に抱きしめていました。

「いやー見ているこっちまで熱くなりそうですよ」


 北岡先生の一団に戻ると、私達は拍手で迎えられました。
 踊った後に不特定多数のギャラリーに見られていた事に気がついたのか、イツキは真っ赤になって俯いてしまいました。シャイですね。


「初めてにしては中々の順応力じゃないですか……クライアントも皆満足してますよ」


 言われて初めて、周囲の人間が只私と世間話をしていた訳ではなかった事に気が付きました。
 彼らは試していたのです……私という人間がいかなるものかを。


「……交渉は愛想とゴマすりが第一ですからね。超さんはそれが判ってらっしゃる」

「何かその言い方だと判っていない人間もいるみたいですが……」

「いるんだよねぇ、ほら」


 露骨に北岡先生が指を指した先には、黒地の金糸銀糸で縁取られたタキシードを着た一人の男。
 私はその姿を見て心臓を鷲掴みされるような感覚を覚えました。




「プリンス・オブ・ダークネス……!」


「“そっち”じゃそういう風に言うんですね……地球じゃアレの事を漆黒の戦神って呼んでるんですよ」

「自ら神を名乗るとは傲慢な」

「名乗ったわけじゃないけどね……態度はほら、傲慢そのものでしょう?」


 確かに声をかけようにも、ああも殺気めいた空気では。
 この場にいる人種をそれほど好き好んでいる訳ではないのでしょう……だからと言ってああも露骨に拒絶してはねえ?
 人を寄り付かせないのは彼自身の名声や覇気などではなく、単なる生々しい戦意であるというのが実に奴らしい。
 矢張り所詮はテロリスト、か。


「ありゃ駄目だね。自分が何故この場にいるのか本気で解かってない」

「貴方もそう思いますか北岡先生……戦場の英雄が必ずしも政治でも活躍できる訳ではないですが、これは酷い」

「一番許せないのは、グラシス卿の孫娘やネルガル会長秘書、それに今回の主賓であるルリ姫に交渉事を投げっぱなしって態度だね」

「僻みですか?」


「あれだけの才女を侍らせて、自分だけのうのうとしているのは趣味じゃない」


 小声で話していた会話に周囲の人達も頷いていた。
 どうやら彼らは、テンカワ=アキトに期待していない。もしくは奴に恨まれるような職を持っているのでしょう。
 例えば軍需産業や経済団体……戦争を本格化させた原因を作ってしまったとはいえ、こうして自らの過ちを悟り和平を論そうとしていると言うのに何て愚かな。
 先入観だけで聞く耳を持たないなど、政治屋にあるまじき態度です。


「超さんが居てくれて本当大助かりですよ。木連のほうがアテになるって説明し易い」

「……そんな事まで彼らに?」

「交渉は事前の根回しが大事、下手な喧嘩はしないに限るってね」


 私は彼の交渉人(ネゴシエーター)としての才能に、脱帽してしまいました。
 北岡先生のこういった行動は、裁判にもプラスに働く事になるでしょう。
 政府に木連を否定するデメリットを指摘してくれれば、向こうも態度を変えてくれるかも知れませんしね。
   


“ガシャアン!!”


 突然響き渡ったガラスの割れる音に、私達は振り向いていました。 


「ぐっ!!」


 赤毛の愛らしい少女と踊っていたテンカワ=アキトの表情が歪んでいます。
 ……ってあれは!!


「……枝織ちゃん、君は何者なんだい?」


 やっぱり枝織ちゃんでしたか……。
 ダンスに誘ってあらかじめ仕込んでおいた食用ナイフで仕留めるつもりだったのでしょう。
 しかし運がなかった……あのまま気が付かずにいれば確実に終わっていたものを。


「アー君のお友達だよ。でも、それは今日だけのはずだったのに〜……どうして、痛い思いをしてまで避けたの?」


“ポタッ!”

 フロアに流れ落ちた鮮血に周囲が蒼然となりましたが、それを更に煽る様な事態が起こってしまいました。


“ブン!”

“ブゥン!”


「?!」

「あ、貴方は!!」


 聞きなれた、それでいて地球上ではまずありえない粒子の発振音。
 驚き慌て人の波が引いていくのが手にとるように判りました。
 そこにいた騒乱の元凶は……。


「ウツキ!!」 

「それにカイトもいますね」



 イツキは今にも飛び出しそうな勢いでしたが、黙って首を振って彼女を止めておきます。
 ……ここで戦うのは得策ではない。 


「カイトが割ったグラス……その確認に一瞬、視線を君から外した時に、君の繰り出す凶器が見えたんだ」

「ふ〜ん、凄い偶然だよね」

「偶然じゃないさ……俺はちゃんとお前の動きが見えていた!」

「待って。今はまだ、仕掛ける時ではない!」


 ふむ……テンカワ=アキトとカイトの個人レベルでの仲はそれほど悪くはないようですね。
 でも“良い人”なだけで世界の平和を掴めるかと言えばそうではないですからねぇ。 



「だが、問題はそんな事じゃ無い!!君は……何故殺気も無く人を殺せる!!」

「だって、お父様に言われてたんだもん。テンカワ=アキトを楽にしてあげろ、って。お父様の言う事は、ちゃんと守らないと駄目なんだよ?」

「そんな、理由で君は……人を!!」

「だって、どうせ今日が終ったらもう会わないでしょう?なら、別にアー君が死んでも、私には全然関係無いじゃない。それに、アー君を殺してあげないと、私が父様に怒られちゃう」

「君は……危険すぎる。殺意が存在しなければ、俺にも君の攻撃は捌けないだろう。殺気がなければ、君の動きは捉えられないだろう。だから、本気でいかせてもらう!!」
 


 自分だけが違うといった風によくも。
 貴様も同じだと言うのに……腹に一物持っている分枝織ちゃんよりも遥かに性質が悪い。
 明確な目的無きままに振るう力は、正義では無いのですよ。


『普段から腹に一物以上抱えている超さんにいわれちゃあね……』

『おやおやこれは手厳し』


“ヒュン!!” 


 一瞬目を離した隙に何かが空気を薙ぎ、一直線に突っ込んでいきました。


“ドスッ” 


 まだ幼さが残る、柔らかな少女の肉体目掛けて。


 
 


「アクアっ! アクアしっかりなさい!!」


 介抱している女性と同じく、私も血の気を失っていました。
 まさか、こんな……こんな結果が起こるとは!!


「お、お姉さま……無事ですか?」

「何で……何で私を庇ったりするの!!」

「……お父様も……お母様も……お爺様までもが居なくなって……最後に私だけだ何て……嫌だもの……」

「そんな……っ!」



 枝織ちゃんが放った凶刃の餌食となったのは、あのアクア=クリムゾンだったのです。
 不測の事態は起こると思っていましたが……! だから責任能力を持たない者を前に出したくは無かったのです!!
 考え無しに只気分だけで人を殺せるような彼女は特に……。



「博士! ど、どうしたら……」

「……我々は枝織ちゃんを止めますよ」

「そんな!!」


「彼女ならば大丈夫、失血はそれほどではありません……今危険なのは枝織ちゃんの進行方向上にいる、ありとあらゆる物体もしくは生命体です。これ以上彼女が何かすれば、今までの和平計画が全て水の泡です!!」

「!! 了解!!」


 私より先んじて駆け出したイツキでしたが、私はといえばウツキを眺めていました。
 物言わぬ血まみれの友の身体を抱き寄せ、咆哮するその姿はかつても……。


「……北岡先生、そして皆様。適当な所に退避を」
 


 来賓の方に別れを告げ、私も走り出しました。
 ……未来が予測できればどれだけ楽か。
 過ちが起こると解っているならば、幾らでも対処は出来るのに。
 しかしそれをやっては反則でしょう……限りなく100に近付いても必ず潜む1の罠。
 これを掻い潜る事もまた“生きる”事、最初から解っていて逃げていては、それは“生きる”とは言えません……。


「北辰!! 今何処です?!」

『超か。どうやら一騒ぎあったようだな』


 通信機の向こう側から騒がしい音が響いてきます。
 怒声と銃声、それに悲鳴?! まさか間に合わなかった?!


『連合の犬が潜り込んでおった。我も適当に始末していたが今は別の者が相手をしている』

「別の?」

『お主も良く知っている男だ……終わったようだな』


『北辰!! 貴様かぁぁぁぁぁぁぁ!!!』

“ザッ!!”


 どうやら白兵戦に縺れ込まれた様で……切れてしまいました。
 カイト君が先行していたとは……これでは北辰はこちらには来れません。
 漆黒の戦神が枝織ちゃん……そして北斗君に追いつく前に全てを終わらせたいのですが……。


“バッ!”
 


 建物から出た途端急に頭上に花開いた藍色の華に、暫し見入ってしまいました。
 ……白ですか。



“タッ!”

「目標は已然逃走中! 何者かが彼女のナビゲートとして同行を……どうしました?」


 先に行っていたイツキですが若干の遠回りをしていたようで。
 それにしてもスカートでビル3階分の高さから飛び降りるのは……。


「あーいえいえ……忘れて下さいハイ」

「?」
 

 “機械”の様に目標に集中できないのもまた……。
 まあ馬鹿やっても最後に結果を導き出せればいいんですから。


「では急ぎましょう。舞歌様に大見得切った以上、必ずあの子を連れて帰らないと」

『私も微力ながらお手伝いしましょう』


 意外な声が聞こえてきたので、私達は二人揃って目を見開いていました。


「あ、貴方は……!!」

「ご無沙汰しております、博士」

「お久しぶりですね。しかし貴方が出張る程状況は逼迫を?」
 


 ウツキと同じ純白の制服を着込んだ男は苦々しげに答えます。


「……夜明けまでに事態が収束しない様ならば、クリムゾンは必要なオプション全てを使用すると」

「それはまずい」


 つまりはピースランドに対する武力投入をも躊躇わないとの事です。
 そんな事をすれば両者の関係は終り、豪州は貴重な情報入手源をまた一つ失う事になる……。


「夜更かしが過ぎましたね……言う事を聞かないおませさんには、少々手荒な真似をしてでも帰って貰わないとね、月臣君」


 腰にぶら下げていた心刀を取り出し、私は呟きます。
 これを本格的に抜くのは……イツキを助けた時以来です。


       

その3