紅の戦神

 

 

第十八話 前編

 

 

 

 

 夢を・・・夢を見ていたんです・・・。

 

 

 夢の中の私は、とても暖かいものに包まれていました・・・。

 

 

 それはとても野性的で・・・

 

 それはとても官能的で・・・

 

 それでいてとても優しい温もり・・・

 

 

 次第に激しく、荒々しく、そして雄々しくなっていく夢を・・・

 

 

 嗚呼、私は見続けていたのです・・・

 

 

 ひたすらに・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 と、言うことで私は犬小屋(特大サイズ)の中で目を覚ました。

 

「む〜〜〜〜〜〜〜・・・?」

 

 ちょっと・・・・体が痛いな。

 って、あれ?

 私、何時の間に寝ちゃったんだろう?

 アー君の驚く顔が見たくて待ってたのに・・・

 

 

 ゴソゴソ・・・

                       ・・・ジャリ!

 

 

 私は伸びをして、横たえていた体を起こす。

 その動きに嵌めていた真紅の首輪の鎖が音を立てたり・・・

 うん、首輪の裏地にクッションを入れといてよかったね。

 

「枝織ちゃん、起きたのかな?」

 

「あ・・・アー君♪」

 

 掛かる声に顔を向けると、そこにはアー君がいた。

 いつものあの優しい笑顔。

 なんだか呼吸が荒いのが少しだけ気になるけど・・・

 

「心配したよ。何やっても目を覚まさないから・・・」

 

 うずらの卵みたいな汗をかきながら何かを後ろに隠すアー君。

 どうやら本当に熟睡していたみたい。

 いや、そう言えばイネスさんがもしかしたら慣れない内は眠くなることがあるかもしれないって言ってたっけ。

 その副作用がもろに現われたんだね。

 

「そうだ! アー君! 見て見て!

 イネスさんに頼んで犬耳をつけて貰ったんだよ・・・って、取れちゃってるぅ(泣)

 う〜〜・・・もう24時間経っちゃったの〜〜〜?」

 

「あはは・・・大丈夫。

 もう十分に堪能させてもら・・・・・・っ!!」

 

「・・・・・・・・・え?」

 

「なななな何でもないっ!! いや寝込みを襲うだなんてそんな!!

 あれ? あ、あははは・・・な、何言ってんだろ俺・・・!!」

 

 誤魔化してるけど思いっきり挙動不審。

 でも私は別段怪しんだりはしなかった。

 だってアー君なら私を傷つけるようなことは絶対にしないもの。

 私はそのままアー君に擦り寄ると、もたれかかるようにしてアー君の首筋に顔を埋める。

 

「アー君・・・・・・私ね、えっちな夢見ちゃった・・・(赤)」

 

「そ、それは夢じゃないかも〜〜・・・・・・げふっ! ごほごほっ!」

 

 今度はあからさまに咳き込みだす。

 私は何も言わずにアー君の背中を擦ってあげた。

 そうしながらさらに深く顔を埋めて・・・・・・ふと気付く。

 

「くんくん・・・・・・あれ? この臭いって・・・」

 

「う・・・・・・」

 

「それに・・・そう言えば体中がベタベタ〜」

 

「うう・・・・・・」

 

「寝惚けててわかんなかったけど・・・・なんか・・・んぅ・・違和感・・が・・・?」

 

「う〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!」

 

 汗が後頭部を大量に流れ、アー君は唸るしか出来なくなる。

 私は半ば呆れながら、それでも少し嬉しくなってアー君の顔を上目使いに覗き込んだ。

 

「・・・アー君、もしかして・・・・・・しちゃった?」

 

 

 バッ!!

 

 

「ごめんっ!!」

 

 神速の体捌きで私から離れ、床に「がんっ!」と額をぶつけて謝るアー君。

 その姿は、なんだかとっても可愛く思えた。

 

「謝って済むことじゃないかもしれないけど・・・・そんなつもりじゃなかったんだ!

 犬小屋で眠ってる枝織ちゃんを見て・・・そ、その、なんて言うか・・・

 す、少しだけいたずらしてやろうって思ってさ。

 少しだけだよ? どうせちょっとやったらすぐ起きるだろうと思ってたし・・・」

 

「ほほぉ・・・・・・それで?」

 

 床に頭をくっつけたまま謝罪するアー君に、私はなんとか笑いを堪えながら出来るだけ冷たく言った。

 

「し、枝織ちゃん全然起きる気配がなくて・・・!

 俺もだんだんエスカレートして行ったんだ。

 それで気が付いたらあんなことやこんなことを・・・

 眠ったままの枝織ちゃんの顔がなんだか新鮮で・・・って、ああ! 違うぅ〜〜!!」

 

「・・・甲斐性なしのろくでなしだ?」

 

「うぅ・・・なんだか作品が違う気がするけどそこに鬼畜と外道も追加してくれて結構だよ・・・(泣)」

 

 苦笑しながら言う私に、アー君がわけのわからない返答をする。

 どうやら相当追い詰められているらしい。

 仕方ない、そろそろ許してあげよう♪

 

「ふふ・・・う・そ♪」

 

「・・・・・・・・・・・・へっ!?」

 

 私はアー君の目の前にしゃがみ込むと、その頬に優しく手を当てて顔を起こさせた。

 アー君の表情は笑っちゃうくらいに弱気で、捨てられた犬を思わせる。

 簡単に言えば犬チック♪

 きゃ〜〜ん!!

 可愛い!! 可愛過ぎるよ、アー君!!

 

「いいよ、アー君が喜んでくれたならそれで」

 

「し、枝織ちゃん・・・?」

 

 ぎゅーっとアー君の顔を抱きしめる私にアー君は困惑顔だ。

 でもしっかりと抱きしめ返してくれるのはさすが。

 

「アー君が嬉しいことは私も嬉しい。

 アー君が喜んでくれることが私の喜び。

 アー君は私のことを何よりも大切に思ってくれてる。それだけで十分だよ♪」

 

「で、でも俺は・・・・それに寝込みを襲うなんてサイテーだ!」

 

「もぅ、いいのに〜・・・。

 うーん・・・・・・じゃ、こうしよう!」

 

「・・・・・・?」

 

 アー君は自分が許せないと、周りがなんて言っても絶対に許さない。

 だから私は・・・面白いことを提案した。

 これならアー君へのお仕置きにもなるし、なにより私が楽しい。

 

「アー君、罰として明日一日中ずっとコレ付けててくれる?」

 

 そう言って落ちていた犬耳セットをアー君に差し出す。

 

「え・・・・・・って、俺がっ!!?」

 

「うん♪」

 

「いや・・・だ、だって食堂の仕事とかもあるし・・・!」

 

 あたふたと何とか断ろうとするアー君。

 でも駄目。私は許さないの。

 

「駄目〜〜?」

 

「そんな目で見られても・・・・うう、寧ろそんな目で俺を見ないでくれ〜〜〜!」

 

 アー君攻略法その一、アー君は押しに弱い。

 でもただ単に押しまくるんじゃなくて、甘える感じで行くと効果は倍増♪

 

「・・・・・・そっか、そうだよね。

 やっぱりこんなの駄目だよね。

 あーあ、残念! 

 ・・・・・・・・・・・・アー君の鬼畜(ぼそっ)

 

「ぐはっ!!」

 

 枝織はアー君に3700のダメージを与えた!

 アー君攻略法その二、押し過ぎると逃げちゃうからたまには引く。

 そして引きながらも急所攻撃を忘れちゃ駄目。

 

「いつもアー君のことばかり考えて・・・」

 

「あうっ!!」

 

「身も心もぜ〜んぶあげちゃって・・・」

 

「がっはぁっ!!」

 

「なのにお願いの一つも聞いてもらえないんだね・・・」

 

「く、苦しい!! なんだか胸が苦しいぃっ!!」

 

「こーゆーのなんて言うんだっけ・・・・・・ああ、奴隷?

 私、アー君の奴隷だったんだ・・・」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(がくっ)」

 

 ありゃ、動かなくなっちゃった。

 いぢめすぎたかな?

 ううん、でもここは譲れないよ。

 

「私って、アー君にとっていったい何なんだろうね・・・」

 

「・・・・・・・・・ありがたく付けさせて貰いますぅ〜・・・(泣)」

 

 勝った♪

 

 

 ということでアー君は、明日一日を犬耳で過ごすことになった。

 だからと言ってプロスさんがシフト変更してくれるはずも無いからあっという間に艦内中の視線を集めるだろう。

 困っているときのアー君はすごく可愛い。

 もともと犬チックな雰囲気があるから、犬耳もぴったし。

 他の女の子たちがこぞってアー君を困らしてくれるだろう。

 

 アー君の恋人として、含むものがないわけじゃない。

 でもそれ以上に可愛いアー君を見ていたいんだよね。

 それに・・・

 

 

 

 

 夜になったら私だけのペットになるんだもんね♪

 

 

 

 


 

 

 

 ナナフシ攻略戦から一ヶ月。今日も今日とて戦争戦争。

 地球圏に点在する木星蜥蜴の勢力は数えるのも馬鹿らしく、

 俺たちナデシコは連合軍との共同戦線という形でその迎撃に当たっている。

 

 しかも艦隊の先頭で。

 

 敵は一隻だけ突出した形のナデシコを、まるで親の仇のように執拗に攻撃する。

 ・・・共同戦線という言葉の意味を今一度じっくり話し合いたい今日この頃だ。

 いくらなんでも扱いが悪すぎないか?

 

 エリナさんあたりに言わせれば

 

「ディストーションフィールドとグラビティブラストを持つナデシコは

 木星蜥蜴を相手に互角に渡り合える地球上で唯一の戦艦なのよ!!」

 

 と鼻高々に宣言してくれるはずだ。

 ナデシコが先頭にいることで後続の艦隊はある程度敵の攻撃を掻い潜ることが出来る。

 そしてもしナデシコが艦隊の中に埋もれてしまったら、

 最強の武器であるグラビティブラストが封じられてしまうのだ。

 アレはその威力は目を見張るものがあるが前方にしか撃てないと言う欠点がある。

 考えてみれば確かにこの布陣はナデシコの性能を最も生かしているのだろう。

 

 だがまあ疎外感は拭いきれんな。

 

 とりあえず俺たちの不満とは無関係に戦闘はどんどん進んでいった。

 

 

 

 

『左舷側、敵展開率増加・・・アキトさ〜ん、顔見せてくださいよ〜』

 

 メグミちゃん、それだけは勘弁してくれ・・・。

 

『第三〜第九までのミサイル、左舷敵戦艦に発射。

 着弾と同時にグラビティブラスト・・・アキト! 艦長命令です! 通信映像を送りなさ〜い!』

 

 うるさいぞユリカ。

 それに今は戦闘中だ。もっと集中しろよな。

 

『ちょっと高度下げるわよ〜・・・アキト君、いい加減に諦めたら?』

 

 放っといてくださいミナトさん。

 

『テンカワ君! 戦闘中の通信映像はパイロットの義務よ!』

 

 そんな義務は聞いたことありませんよエリナさん。

 

『グラビティブラストの発射に伴いディストーションフィールド出力15パーセントダウン。

 ・・・・・・ふふふ、甘いですよアキトさん

 

 

 ピッ!!

 

 

『『『『『きゃ〜〜〜〜〜〜〜!!!』』』』』

 

 そ、それは卑怯だぞルリちゃん!

 

 

 

『〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!』

 

『リョーコ!? リョーコ!! 大丈夫!?』

 

『・・・純情リョーコには刺激が強すぎたみたいね』

 

『みんな〜〜いま戦闘中だよ? 分かってる?

 あ、わかってるよね・・・はい、すみません』

 

『ナ、ナナコさん・・・・・ハッ! ち、違う違う! ああ、俺ってやつはっ!!

 アキトはケンだ!! ナナコさんじゃないだろう!!』

 

 

 

 

「・・・風紀紊乱もここまで来るといっそ爽快ですなぁ〜、はっはっは!」

 

「ミスター、今日は一味違うな・・・」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・(真っ青)」

 

「ん? 副長、どうかしたの?」

 

「そっとしておいて上げてください提督。ただのトラウマですから(ほろり)」

 

「あ、そう・・・。

 ・・・そう言えばテンカワってばどうやって操縦してんのかしら。

 あんな手袋つけててよくIFSなんか使えるわね・・・?」

 

 

 ピッ!!

 

 

『説明しましょう!

 アキト君が現在装着しているのは私が作ったアニマルユニットの一つ、その名もパピヨンフォーム!

 類似品にレトリバーフォームやテリアフォーム、バーナードフォームなどがあるわ!

 そしてそれらを含めた全てのユニットはIFSによる思考制御システムを組み込んでいるため

 通常のIFSの使用にも何ら支障をきたさないの!

 でも現在私はアキト君の映像データの収集中!

 とっても忙しいので以後下らない説明催促で呼び出さないように!!』

 

 

 ブツッ!!

 

 

「・・・悪かったわよ」

 

 

 

 

 

 う゛〜〜〜〜・・・一体どうしてこんなことになってしまったんだ〜〜〜!!

 ・・・って、自業自得だったよな(汗)

 これからはもう少し自制を努めるようにしよう。

 

『アー君! アー君!

 お耳ぴくぴくして〜〜〜〜〜!』

 

「・・・・・・・・・・・・・(ぴくぴく)」

 

『きゃ〜〜〜〜〜〜〜〜!!!』(女性クルー)

 

『しっぽぶんぶんして〜〜〜〜!!』

 

「・・・・・・・・・・・・・(ぶんぶんぶんぶんっ!)」

 

『きゃ〜〜〜!! きゃ〜〜〜〜!!』(女性クルー)

 

『や〜〜ん! ぷにぷにしたい〜〜〜〜!』

 

『した〜〜〜〜〜〜〜〜い!!!』(女性クルー)

 

「はいはい、あとで好きなだけやらしてあげるから・・・」

 

 なかばヤケ・・・(汗)

 

『アンタ達! おふざけはそれくらいにしなさい!

 んなことやってて撃墜されたら死ぬまで笑ってやるからね!』

 

『は〜〜〜〜〜〜〜い!』(女性クルー)

 

「お、俺は好きでやってるんじゃないのに・・・(泣)」

 

 理不尽なお叱りに疲労の溜め息をつく俺・・・。

 そう。

 その時の俺はかなり精神的に余裕がなく、

 何時の間にか照準が敵味方両方にロックオンしていたことに全く気付いていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 ちゅどどどど〜〜〜〜ん!!!!

 

 

「・・・・・・何?」

 

『テ、テンカワ機! 連合軍第八艦隊旗艦“ハマカンザシ”撃沈!』

 

 メグミちゃんの慌てた声。

 ウィンドウの隅には、確かに煙を噴いて落ちていくトビウメ級戦艦の艦影が映っていた・・・。

 ・・・・・・機関部直撃だ。

 

『なななな何やってるのアキトっ!!?』

 

『テテテテンカワ!! ア、アンタちょっと虫の居所が悪いからって・・・!!』

 

「ち、違うっ! 俺は何もやってないぞっ!!」

 

 何が・・・・・・そうか! オモイカネの反抗期!!

 俺はルリちゃんのコミュニケに秘匿通信を入れた。

 

「ルリちゃん! もしかしてオモイカネが・・・」

 

『オモイカネ、ちゃんとアキトさんの映像を私の秘蔵ファイルに保存して下さいね。

 は? 戦闘? んなもんはテキトーでいいんです。さっさと全滅させちゃってください』

 

 聞いちゃいない・・・。

 っていうか助長してどうするよ、ルリちゃん。

 

くすくす・・・嗚呼、アキトさんは私の物「ルリちゃん!!」・・・っ!!

 は、はいっ!! 何か仰いましたかアキトさん!』

 

「すぐに連合軍に後退の指示を出すんだ!

 ナデシコは原因不明の事態により敵味方の識別が不可能になった、って!」

 

『識別不能・・・あ、例の反抗期ですね! 何時の間に・・・!』

 

「ああ、俺はDFSで敵チューリップを破壊してくる。

 ユリカ達には上手く言っておいてくれ」

 

「わかりました、気を付けて下さいね」

 

 秘匿通信を切り、俺はDFSを構えて敵陣に飛び込んだ。

 ついでに視線を巡らせると・・・やはりリョーコちゃん達もか。

 あーあ、こりゃあとでプロスさんが黙ってないだろうな。

 

 

 

 

 

 

「何! 何なの!? 何が起きたの〜〜〜!!?」

 

 アキトさんに続くような形で味方に攻撃を開始するエステバリス隊。

 こちらはまずユリカさんがパニックに陥りました。

 それにしてもオモイカネ・・・

 平気な顔して私の言うことを聞きながら反乱を起こすとはいい度胸ですね。

 少しばかりお仕置きが必要みたいです。

 

「エステバリス隊、味方を攻撃してます〜〜〜!」

 

「味方を攻撃〜〜〜!?」

 

 ミナトさんの報告にさらに混乱するユリカさん。

 見てる分には面白いんですけど、そうも言ってられないので私は即座に報告を続けます。

 

「攻撃誘導装置に異常はありません。

 ナデシコのエステバリスは全て敵を攻撃しています。

 ・・・・あとアキトさんが単独でチューリップの破壊に向かいました」

 

「敵って! 敵はあっちにしかいないじゃない!」

 

 今のオモイカネにとってはみんな敵なんです。

 こっちもそっちもあっちもどっちも、み〜〜んな、敵。

 ま、今まで散々邪険にされてたんですから仕方ないといえば仕方ないですよね。

 

「アカツキ機! スバル機!

 ヒカルさんもイズミさんも枝織ちゃんもヤマダさんも!!

 皆さん全員敵味方関係なく攻撃してま〜〜〜〜す!!」

 

「何で〜〜〜〜!?

 攻撃止め止め〜〜〜〜!!」

 

 あらら・・・ユリカさんが癇癪を起こしてしまいました。

 気持ちは分かるけど・・・いま攻撃を止めるわけには行きません。

 

「敵、至近距離。

 今攻撃を中止したらナデシコは沈みます」

 

 アキトさんが本気を出したらその範囲内ではありませんが。

 

「う〜〜〜! 敵だけ! 敵だけ攻撃〜〜!!」

 

『我々は敵を攻撃しているつもりだっ!!』

 

「だってだって〜〜〜!!」

 

 珍しく苛立ったような口調のアカツキさん。

 でも原因がわからない以上、ユリカさんも立場的に軍も纏めて攻撃しろだなんて言えませんしね。

 

 

 すぱーーーんっ!!

 

 

 艦長の混乱を止めたのは・・・なんとムネタケ提督でした。

 手に持った大きなハリセンでユリカさんの後頭部をはたいたみたいです。

 

「ちょっと艦長! 落ち着きなさい!

 アンタが真っ先に取り乱してどーすんのっ!!?」

 

「い、痛いです提督・・・・って、そんなものどこから出したんですか〜〜〜?」

 

 ちょっと泣いてる・・・ほんとに痛そうですね。

 

「うっさいわね! 気にするんじゃないわよ!

 とにかく落ち着いて態勢を立て直しなさい!!」

 

「で、でも〜〜・・・・ああ! わかりました!

 分かりましたから無言で振り被らないで下さい〜〜!!」

 

「・・・バカ」

 

 ・・・・・は!

 あまりの馬鹿らしさに封印していたはずのセリフを・・・!

 誰も・・・聞いてませんよね?

 

『おい! こっちなんとかしてくれよ〜〜!!』

 

『・・・ま、なるようになるわね』

 

「なるようになっちゃいけません!

 全機! 誘導系兵装の使用を中断!

 直線系もしくは非誘導系で出来る限り応戦してください!」

 

 立ち直ったユリカさんが毅然とした態度で命令を下します。

 と言っても現状ではそうする以外に手段はないのですが。

 

『そんなこと言われても〜〜〜!』

 

『ああ、誘導システムどころか火器管制システムもおかしくなっちまってるぜ?』

 

『うんうん、勝手にミサイルが出てっちゃてるよね』

 

 そうです。

 先程からエステの火器管制がオモイカネの支配下に置かれ、誘導どころか発射まで勝手にやっちゃってます。

 誘導系実弾兵器を多数搭載している砲戦フレームなんかはまさにばら撒くって言葉がぴったりですね。

 

「ルリちゃん! エステバリスのミサイル管制をオーバーヒートさせちゃって!

 みなさんはナデシコ付近で密集体制!

 最小限の迎撃でアキトがチューリップを破壊するまで持ち堪えて下さい!!」

 

「ミ、ミスマル・・・相変わらず思い切った方法を使うな・・・(汗)」

 

 まったくです・・・が。

 なるほど、そうすればこれ以上の味方への被害を抑えることが出来ますね。

 かなり力づくですけど。

 

「了解。エステバリス全機のミサイル発射機構を物理的に破壊。

 それに伴って有効迎撃率が27パーセント下がります」

 

「枝織ちゃんとヤマダさんは遊撃して味方艦の撤退を援護!

 グラビティブラスト広域放射!!」

 

 !! 正気ですか!?

 そんなことをしたら・・・

 

「それではディストーションフィールドの発生率が下がります!

 これ以上は敵攻撃を受けきれません!!」

 

 私と同じことを思ったのか、慌ててメグミさんが進言します。

 でもユリカさんは全く平気な顔で・・・

 

「いいから! いいから!

 グラビティブラスト! ―――――っ!!」

 

「・・・了解。グラビティブラスト発射」

 

 

 ドゴォォォォオオオオオンンン!!!!

 

 

 少しだけ躊躇いながらも私は命令に従いグラビティブラストを発射しました。

 目の前で多くのバッタ達が黒い閃光に飲み込まれていきます。

 

「虫型無人兵器五割方消滅。ただし戦艦クラスに対してはノーダメージです」

 

「敵戦艦、グラビティブラスト充填開始!

 相転移エンジン反応低下につきディストーションフィールド消失!

 どどどどどうするんですかユリカさん!!?」

 

「メグちゃん落ち着こうよ。なるようにしかならないんだから・・・」

 

「ハルカ・ミナト! あなたねえ!!

 状況がわかってるの!!?」

 

 状況・・・つまり、現在ナデシコは無敵の盾であるディストーションフィールドが使用不可。

 そこに現段階における戦艦搭載可能な兵器の中でも最高峰のグラビティブラストがその砲塔を向けています。

 簡単に言えば絶体絶命、大ピンチってやつ。

 

「ナデシコの危機・・・・・・・!! 僕の出番か!!」

 

「喧しいっ!! 黙って座ってなさい!!」

 

 ナデシコのピンチに微力ながらも・・・本当に微々たる物ですが、立ち上がったのはアオイさん。

 しかし提督の振り向き様の一撃にあえなくダウン。

 ・・・でもなにげにあなたが一番慌ててませんか提督。

 

〜〜・・・・何するんですか!!」

 

「まあまあ副長、落ち着いてください。

 それにいま副長が出て行っても被害額が増えるだけですし・・・」

 

「くっ・・・そんなこと! やってみなければ分からないでしょう!

 ユリカ! 出撃許可を!!」

 

「あ、ジュン君いたの?」

 

「ユリカ〜〜〜〜(泣)」

 

 お約束ですね。

 ご愁傷様。でももう少し自分の分というものを弁えましょう。

 

「落ち着けよジュン、俺たちの仕事は機動兵器戦じゃないだろうが」

 

「うむ、餅は餅屋だ」

 

 ナカザトさんとゴートさん(仕事がない人たちとも言う)がアオイさんを押さえ込んだ頃、

 とうとう最悪の情報が飛び込んできました。

 

 

「反応さらに増大! 攻撃来ます!!」

 

 

 モニターに映る敵戦艦。

 今まさに放とうとしているその主砲、グラビティブラストの輝き。

 私たちはその一瞬先の未来に、思わず身を強張らせました。

 

 その時・・・

 

 

 

 

『咆えろ!! 我が内なる竜よ!!

 秘剣!! 咆竜斬!!!』

 

 

 力強いあの人の気合の声。

 そして現われた漆黒の竜が私たちの目の前の敵戦艦を易々と食い破ります!

 

 

 ギュォオオオオオオオォォォォォッッッ!!!!

 

 

『アキト(さん、君)!!』(女性ブリッジクルー)

 

 ・・・む?

 エリナさん、なにやらさりげなくアキトさんのことを名前で呼んでますね。

 

 

『ユリカ! あまり無茶をするな!

 俺があと少し遅れていたらどうなっていたか・・・!!』

 

「でもアキトは来てくれたじゃない! やっぱりアキトはユリカの王子様だね!」

 

『・・・・・・・・・・・・。

 まったく・・・世話の焼ける艦長だな』

 

 絶句し、苦笑するアキトさん。

 その頭の犬耳のおかげでまったくと言っていいほど決まってませんが。

 

「連合軍艦隊の戦線離脱を確認!

 なんかもーすっごい文句言ってきてます! 通信切っちゃっていいですか!?」

 

 そりゃあいきなり旗艦を沈められちゃ、文句の一つも言いたくなるでしょう。

 ・・・でももしアキトさんにそんなこと言おうものならその人は万死に値します。

 

「切っちゃえ、切っちゃえ!」

 

「はーい! じゃ、ぷつっと!」

 

 か、軽いですね・・・ミナトさん&メグミさん。

 まあ戦闘中に文句言ってくるのもどうかと思うんで問題ないでしょう。

 

 

 結局、戦闘は援護から戻ってきた枝織さんとアキトさんの最強タッグでなんとか無事に終了。

 とはいえもともと敵の数はとんでもない大きさです。

 二人が戦艦を中心に墜とし、他の方々で残敵掃討をしましたが作業は夕方まで続きました。

 連合軍の艦隊は、また攻撃されては適わないので協力してくれないみたい。

 

 ただ・・・ユリカさんの機転もあってか、連合軍の被害はほとんどありませんでした。

 提督の変貌がここでも影響したみたいです。

 一番酷いのは初めにアキトさんが撃墜した旗艦『ハマカンザシ』で、あとは戦闘機や機動兵器だけ。

 数だけならば結構大きいですが、奇跡的に死人は一人も出ていません。

 

 ユリカさんの機転・・・つまり防御を捨てて連合軍艦隊への追撃部隊を蹴散らしたことです。

 援護として、チューリップの破壊に向かったアキトさんを除いた中での最強のパイロットである

 枝織さんを向かわせたことも大きいですが、敵主砲を前にして防御を捨てるのはかなり思い切った策。

 何がユリカさんをそこまで踏み切らせたのか・・・もちろんアキトさんです。

 ユリカさんはアキトさんが助けに来てくれることを信じていたのでしょう。

 でも・・・・・・それは危険なような気がします。

 あまりにアキトさんに頼り切っているような気がします。

 アキトさんは気付いておられるのでしょうか?

 

 それとも・・・これは私の気のせい?

 ユリカさんはアキトさんの実力を信じた上で、ああいう判断を下したとも考えられます。

 

 盲信か信頼か・・・それを決めるのはやはりユリカさん自身でしかないんですよね・・・。

 

 

 

 


 

 あとがき

 

 ではまず、今回の『犬耳アー君』を提供してくださったきつねずみさんに海よりも深い感謝を!!

 ありがとうございました!!

 ・・・さて、知らない方もいらっしゃると思うので補足しますと、

 今回のネタはもともときつねずみさんが感想以外掲示板にて書き込まれたネタを使っています。

 アキトが犬耳になったら、という感じです。

 最近はもっぱらシリアス傾向だった本作ですが、

 こうしてほのぼのを入れることが出来たのも、全てはきつねずみさんのおかげ。

 今一度、本当にありがとうございました!

 

 で、話は変わりますが傾向もがらりと変わります(笑)

 つまり『萌え』はここまで。ここからは『燃え』の世界です!

 熱血! 熱血! また熱血!!

 さあそんな漢の世界への入り口はすぐそこだ!!

 

 

GO!

 

 

 

代理人の中感想

 

う〜む・・・萌えかどうかはわかりませんが本当にほのぼのしてますな・・・・・。

アキト駄目亭主化・・・甲斐性ないし、ロクデナシだし・・・・そのまんまですな(爆)。

あ、そうそう。やはりこれはやっておかないと。

 

 

 

 

「緑麗さん、貴方はもっと堕落しました(びしぃっ!)」

 

 

ああ、なにかとても久しぶりのような(爆)。