交錯する時の流れ

 

 

第四話その三

 

 

 

 モニターに映るボソン光。

 そして一隻の戦艦が現れる・・・。

 

 

 

 

 

「グラビティブラスト発射スタンバイ!

 ジャンプフィールドに阻まれないようギリギリまで待つんだ!!」

 

 俺の声もかなり焦っていたんだと思う。

 艦長としてクルーに不安を与えるようなことは慎むべきだが、さすがにこれは予想してなかった。

 

 勘弁して欲しい。もともと俺は気が弱いんだけどな・・・・・・。

 

「ジャンプアウト3秒前っ!!」

 

 ハーリー君の声も遠く聞こえるような気がする。

 メインモニターの隅にはオモイカネがわざわざカウントダウンを表示。

 

 ・・・ますます緊張するからやめてくれ。

 

【3】

 

【2】

 

【1】

 

 ―――今だっ!

 

「グラビティブラスト発・・・!」

 

 

 

 

『おっ待たせ〜〜〜!! ぶい!!』

 

 

 

 ズデーーーーンッ!!

 

 

 って、ああ! こけてる場合じゃない!!

 

「ユリカ(君、さん)!?」(俺&提督&ハーリー君)

 

「ミスマル(大佐)!?」(ナカザト&アララギ少佐)

 

 

『ルリちゃん! グラビティブラスト発射!

 ジュン君たちに当てないようにズドンとやっちゃいなさ〜い!!』

 

『了解。グラビティブラスト発射します』

 

「ちょっと待―――!!」

 

 

 ドオォォォォオオオオオンンン!!!

 

                ズガガガガガッ!!!

 

 

「うわああああああっ!!!」(いっぱい)

 

 

 無茶苦茶だ!

 もう少しで直撃していたぞ!?

 

 

『システム掌握、開始します。

 ディア、ブロス、サポートよろしく。

 ラピスはナデシコCの制御を担当して。

 ダッシュ、準備はいい?』

 

【いつでもOK!】

 

『ブローディアが封印されちゃってるから私たち暇なんだよね〜』

 

【ディア! 暇じゃないよ! システムチェック!!】

 

 ルリ君たちはともかく、ディア君やブロス君と会うのはかなり久しぶりだ。

 

【・・・ダメだよルリ姉! プロテクトが掛かってる!】

 

『むぅ〜〜生意気! このこのこのっ・・・!!』

 

『ディア、邪魔。

 こっちのスペースに入ってこないで。仰角が乱れる』

 

『あ〜〜んラピス姉が冷た〜い!』

 

 なにやら向こうの世界(電脳世界のこと)は大変な事になってるようだ。

 

 ちなみにナデシコのシステム掌握能力は結構周知の事実。

 逃亡中のテンカワを追い詰めるときにしばしば使っていたみたいだからな。

 その筋ではかなり有名な話だ。

 

『仕方ありません。直接戦闘に入ります。

 ディアとブロスは敵の攻撃軌道を予測。

 ラピスはそのままで私とダッシュがミナトさんのサポートに全力を尽くします。

 ミナトさん、久しぶりに一暴れしてください』

 

『おっけ〜〜!』

 

『ルリちゃん・・・・艦長は私なのに・・・(涙)』

 

『あ、すみません。どうもナデシコCに乗ってた時の癖みたいで・・・』

 

『ううん。でもここからは私の仕事だからね。

 さ、それじゃあエステバリス隊出撃! アキト! がんばってね!!』

 

『敵はどうやら夜天光の改良型です。

 DFSも持っているようです。

 気をつけてください、アキトさん』

 

『ぶ〜〜〜っ! ルリちゃんひどい!

 私がアキトとお話してたのに〜〜!!』

 

『・・・正妻はわたしですから』

 

『その前に通信は私の仕事ですよ! 二人とも!

 アキトさん! 怪我しないで下さいね!』

 

『アキ・・・・!』

 

『だああああっ!! うるせーーーっ!!

 こちら格納庫! さっさとハッチ開けろ!!』

 

『リョーコの言う通りです!!

 早くしないとヒカルさん達が危ないんですよ!?

 ・・・・さ、行きましょうアキト』

 

『は、ははははははは・・・・』

 

 

 ぞくっ!!

 

 

 な、なんだ今の悪寒は!?

 

「て、提督・・・」

 

「お前も感じたか?

 ・・・・ジュン、周りを見回してみろ」

 

 提督に言われて他のブリッジクルーの様子を確認する。

 

 これは―――殺気?

 

「まさか・・・」

 

「ああ。ここに来て一気に某組織の加入者が増えたみたいだな」

 

 そりゃあ、こっちで命がけの戦いをやってるのにいきなりあれじゃ、な。

 

 

『テンカワアキト! アルストロメリアカスタム! 出るぞっ!!』

 

 メインモニターに映ったテンカワの新たな乗機は、ネルガルの新型『アルストロメリア』だった。

 色はテンカワのパーソナルカラーである漆黒。

 それ以外にも間違いなくかなりの改造が施されているのだろう。

 外観からしてアサミちゃんのとだいぶ違うし、なにより加速が異常だ。

 

 ・・・・乗ってるやつも異常だが。

 

 

『スバル・リョーコ! “マルス”! 行くぜっ!!』

 

『アリサ=ファー=ハーテッド! “ルナ”! 出撃します!!』

 

『紫苑零夜! “光神皇”! 行きます!!』

 

 ・・・いたのか零夜ちゃん。

 

 とにかくテンカワに続く三機の専用機。

 赤の『マルス』・白銀の『ルナ』・黄と白の『光神皇』

 ここで近接タイプの戦線参加は心強い。

 

 

「みんな! 敵は完全な近接戦闘タイプだ!

 こっちはヤマダと万葉君が戦闘不能!

 油断するなよ! 手強いぞ!!」

 

『か、万葉ちゃん大丈夫なんですか?』

 

『ったく! ヤマダの野郎なにやってんだ!!』

 

「万葉君は脳震盪を起こしているが大事はない。

 ヤマダはそれでも敵を2機撃墜したんだ。よくやってくれたよ」

 

『へえ、ガイのやつやるじゃないか』

 

『アオイさん。イズミさんとヒカルさんを退がらせて下さい。

 見たところ損傷が激しいようです。後は私たちが』

 

 確かに両機はかなりのダメージを負っているようだ。

 ダメだな。アリサ君に言われるまで気付かないなんて・・・。

 

「わかった。後は頼む。

 二人とも帰艦してくれ。ハーリー君回収を」

 

『助かった〜〜〜!』

 

『・・・まだフルバーストが残ってるけどね』

 

『無理は禁物です、イズミさん』

 

『カザマさん、あなたは?』

 

『心配してくれてありがとうございます、アリサさん。

 でもまだまだ行けますよ』

 

『あ、アサミちゃん。これアサミちゃん用の簡易DFSだって。

 アサミちゃんの得意なナイフ型』

 

『うわあ! ありがとうございます零夜さん!』

 

 じつはアサミちゃんは刃物マニアだってのは一部の親しい人達だけの秘密。

 なんでもご両親が元特殊部隊の一員で、特に母親が刃物関係に精通していたらしい。

 でも前に聞いた話ではお母さんは元整備員だって言ってたけどな?

 なんで整備員が刃物に精通してるのかはやっぱり謎だ。

 ・・・・カザマ家の女性には碌な趣味を持った人がいない。

 

 ともあれこれで戦局はこっちにかなり傾いた。

 スバルさん・アリサ君は近接戦闘型。

 テンカワ・イツキ・零夜ちゃん・アサミちゃんはオールラウンドタイプ。

 危ないところだったがもう大丈夫だろう。

 

「ユリカ! かんなづきにはボソン砲が搭載されている!

 動きを止めないように注意してくれ!」

 

『大丈夫だよジュン君。

 いまさらボソン砲なんかにやられないから』

 

 いつもと変わらない、自信に満ちた能天気な表情。

 不思議とそれが見る者を安心させてくれる。

 

 

 

 

『現れたか! テンカワアキト!!』

 

 南雲の声にあわせて残った四機の夜天光が戦闘を中断してかんなづきの前面に集結する。

 

『これで役者は揃った!

 もはや生餌に用はない!

 全機! 全力を持ってナデシコを撃沈する!!』

 

 同時にかんなづきの射出口から現れる1機の機動兵器。

 それは夜天光を一回り大きくし、さらに禍々しくしたようなフォルムを持っていた。

 主となる武装は何ら変わっていない。

 両腕に供えられているハンドガンも、もちろん錫杖型簡易DFSも。

 

 南雲義政の乗機、夜天光・改だ。

 強化処理を受けた肉体と、専用の強化服を装着することではじめて操縦が可能となるのだろう。

 剣を交えるまでもなくその力の強大さは理解できたが、それはいままで力を温存していたと言うこと。

 まるでテンカワが現れるのを待っていたような、

 ナデシコをいつでも撃沈できるのに“わざと”そうしなかったような言い方だ。

 

 俺たちナデシコが、テンカワを誘き出すための餌でしかないと言いたいのか・・・?

 馬鹿な。ふざけるにも程がある。

 

 

『お前が南雲か。お互い会うのは初めてだったな。

 ・・・・さて、出会ってすぐで悪いんだが・・・覚悟はいいか?』

 

 かんなづきから一直線にナデシコBに襲撃を掛けようとした夜天光たちの前にテンカワが立ち塞がった。

 既に右手にDFSを装備している。

 

『地球圏最強の戦士・・・“漆黒の戦神”テンカワアキト。

 私も一人の戦士だ。

 確かに貴公と戦ってみたいと言う思いはある。

 だが何よりも優先されるべきは閣下の理想! 民の未来! そして正義の勝利!!

 故に! 貴様の相手は既に決まっている!!』

 

『何を言っている!?』

 

 

「テンカワ機直上にボース粒子反応増大中!

 機動兵器クラス! ジャンプアウトします!!」

 

「そんな! 火星の後継者にはA級ジャンパーはいないはずだ!」

 

 誘拐されたジャンパー達を遺跡に取り込ませたとしても、イメージの同調には時間がかかる。

 テンカワの記憶の中でもかなりの時間が掛かっていたようだし、

 それですら少女漫画という反則アイテムで期間を短縮させていたのだ。

 

 しかし目の前で輝くボソン光は幻ではない。

 

 

『あの男の執念・・・貴様も大変な男に見込まれたものだな』

 

 画面上で不敵な笑いを浮かべる南雲。

 その笑みが示すものは余裕・・・ではなく、勝機だろうか?

 

 

    シャリーーーーン・・・

 

 

 戦場の空気が錫杖を振るう音に凍りつく。

 凛と響くその音に、俺たちは自身の耳を疑った。

 

『!! まさかっ!!』

 

『久しいな? 戦神よ・・・』

 

『貴様は・・・北辰!!』

 

 現れたのは先程の南雲の機体と同じ夜天光・改。

 そしてそれを駆るのはかつての木連四方天の一人、北の北辰。

 

 ナオから聞いた話では北斗に視神経を焼かれ、暗殺者として再起不能になったはず。

 

 

『いかにも。

 ・・・我がここにいることが意外か?』

 

『ああ。予想もしていなかったよ。

 もっとも・・・予感はしていたがな』

 

『ほう・・・?』

 

『この事件が起きたことを聞いたとき、不本意ながらお前のことを最初に思い出した・・・。

 あの時の俺にとってはお前を殺すことこそが全てだったからな!!』

 

 テンカワが言っているのは前回のこと。

 夢を、平穏を、何より愛した家族を奪っていった男―――北辰。

 復讐鬼としてのテンカワが最期に決着をつけた相手。

 今の北辰との直接の関係はないにせよ、そう簡単に割り切れるものじゃない。

 

『・・・・・・今の我にとっても、貴様を滅することのみが全てだ』

 

『やはり・・・か。

 お前は、もしかしたら俺とは表裏一体の存在なのかもな・・・』

 

 この世界は既にテンカワの記憶とは大きく違ってしまっている。

 しかし、それでもこの二人はこうして決し合うのだ。

 なによりも北辰こそがテンカワの中で絶対の存在として君臨している。

 そしてそれは北辰も同じ。

 時を越え、事象の輪廻を越えても変わらないらしい。

 

 

 ピッ!!

 

 

『北辰・・・』

 

 新たなウィンドウに鳶色の瞳を持った少女が映る。

 

『羅刹・・・・いや、北斗か』

 

『貴様の目は完全に潰したと思ったんだがな・・・。

 例え視力を取り戻したとして、もはや負け犬でしかない貴様が今さら何の用だ?

 いつまでも草壁の幻影に縋って、自らの死場すらも放り棄てて・・・』

 

 その声は北斗とは思えないほど優しいものだった。

 少なくとも俺が知る北斗は敵に対してこんな物言いをしたりしない。

 戦いの申し子とも言える彼女がそれを忌避するようなことを口にするのは初めてじゃないか?

 

 先の大戦で何かあったのか?

 あの時のことで俺が北辰について聞いたことと言えば、

 機動兵器戦でアカツキに負け、肉弾戦で北斗に負けたということだけだからな。

 そう言えば北斗は北辰に止めを刺さなかったんだ。

 まさか仲直りしたなんてことはないにせよ、何らかの変化があったのは確かだろう。

 

 

 ・・・ちなみにウィンドウの北斗は何故か妊婦服だった。

 

 

『貴様に焼かれた眼球は確かに2度と再生できぬ。

 今は夜天光のメインカメラと我の視神経を、専用のナノマシンが直結しているに過ぎない。

 ・・・・言ったはずだ。

 これは我が一族の宿命だとな。

 戦う力が残っているなら、自らの勝手な思想で生を終わらせることは許されぬ。

 そして我にとってもこれこそが本望よ』

 

 視神経の直結・・・テンカワとラピス君の関係と重なるところがある。

 だがここまで同じとは・・・・・皮肉だな。

 

『ふん。どこまでも馬鹿なやつだ・・・』

 

 

 ピッ!!

 

 

『馬鹿はあなたよ、北斗くん。一体いつの間に抜け出したの?

 あなたの運動能力によって使用されるエネルギーが

 お腹の子供にどんな影響を与えるか検査しなくちゃならないんだから・・・。

 早く医務室に戻ってきなさい!

 ・・・・・・いえ、そうね。やっぱり迎えに行くわ。そこを動かないで』

 

 イネスさん、そう言う話を今するのはどうかと思うな・・・。

 

『ドクター・・・その前にこの服は何の冗談だ?

 動きにくくてかなわん』

 

『あら? それはマタニティドレスと言って地球では一般的な・・・』

 

『いや、木連にもあったが・・・。

 なぜこんなものを着なくてはいけないんだ?』

 

『それは枝織ちゃんに言うのね。

 それに・・・合意の上だったんでしょ?

 だったら文句を言わないの』

 

『う・・・(赤面)』

 

 口調はともかく目が笑ってないよイネスさん・・・。

 それにナデシコCの面々もピリピリとした雰囲気に変わってるみたいだしな。

 そう言った雰囲気に北斗はまったく気付いていないのが一番の問題か。

 

 

 

 

『・・・あやつが子を孕むとはな。

 貴様の子か?』

 

『ああ。

 しかしお前のそう言う顔ははじめて見たな。

 さすがに驚いたか? いきなり孫ができて・・・』

 

『ふん・・・我にあやつの親を名乗る資格などない』

 

『・・・・・・北辰?』

 

 狂人の瞳に一瞬だけ浮かんだ哀情。

 それは俺たちの錯覚だったのかもしれないが。

 

 

 

 

『南雲! テンカワアキトは我が滅ぼす!

 貴様らは一切の手出し無用!!』

 

『承知している!! 六連よ! 私に続け!!』

 

 今まで沈黙を保っていた南雲と六連が再び動き始める!

 話は終わりと言うわけか!

 

『みんな! 北辰は俺が倒す!

 悪いが俺の我儘を聞いてくれ!!』

 

 

 ブウゥゥンッ!!

 

 

 テンカワのアルストロメリアからDFSの白刃が伸びる。

 対して北辰は一際大きい錫杖を振るい、そこに紅い光を燈らせた。

 

『あたりめえだっ! こいつらは任せとけっ!!』

 

『アキトの邪魔はさせません!!』

 

『頼む! リョーコちゃん! アリサちゃん!』

 

 

 ゴオオオォォォォォ・・・

 

 

 テンカワのアルストロメリアカスタムと北辰の夜天光・改。

 黒と赤の両機がバーニアを吹かせながら遠ざかる。

 

 残ったのは南雲の夜天光・改に四機の夜天光。

 戻ってきた数十機のゲキガンモドキとお約束の無人兵器達。

 

 

『六連!! 貴様らは機動兵器隊を足止めしろ!!

 ナデシコさえ墜としてしまえば我々の勝利だ!!』

 

 夜天光・改は言葉通りにまずは俺たちナデシコBを目標にしたようだ。

 迎撃のエステバリス隊には目もくれずに直行してくる。

 

 しかし・・・

 

 

『させません!!』

 

 南雲の進路上にピンポイントでジャンプアウトしたアサミちゃんが立ち塞がり、

 

 

   ガキイィッ!!

 

 

 コクピットを狙って最小限の動きから繰り出された一撃が、錫杖によって防がれる。

 

『くっ・・・・! ナデシコにはテンカワアキト以外にも跳躍戦士が存在したと言うのか!!』

 

『そんなベタベタでカッコの悪い呼ばれ方は心外です!!』

 

 不意を突いた形となり、形勢はアサミちゃんに有利のようだ。

 ファーストアタックでナイフの間合いである懐に飛び込めたために

 性能の劣るはずのアルストロメリアで互角の鍔迫り合いを可能にしている。

 

『なっ!? このような少女が!

 ・・・・・末恐ろしいとはこのことか!!

 しかし!! まだまだ未熟っ!!』

 

 

  ドン!! ドン!!

 

             

 

『―――っ!! きゃあっ!!』

 

 至近距離からのハンドガンの連射に仰け反ったところを押し切られ、弾き飛ばされる。

 その頃にはすでに両機はナデシコBの間近に来ていた。

 

 そして南雲は、輝きを増す錫杖を振り被り今にも投擲しようと構える。

 

 

 ヴィイィィィィィンンンン・・・!!

 

 

 エネルギーの高まりが大気を振動させて音を発する。

 一時的にDFSの収束率を上げると言うテンカワの十八番を簡易版でやろうというらしい。

 ならば直撃すればナデシコが沈むのは避けられない。

 

 だがそうはなり得ないことも俺たちは確信していた。

 

 

『さらばだナデシコ!! 我らの悪夢よ!!』

 

 

    ヴォォォオオオオオッ!!

 

 

 

                        ―――――――ギィンッ!!

 

 

 ナデシコBに迫る紅の一矢を、横から白刃の三日月が弾き飛ばす。

 弾かれた錫杖は自分の意志をもっているかのように主の元へ舞い戻った。

 

 

『おのれ、何奴・・・!?

 ―――真紅の羅刹の腰巾着か!!』

 

『そーゆー覚え方をしないで下さい!!』

 

 割り込んだのは『光神皇』

 その手に携えるはテンカワ達と同じくDFSの刃だ。

 

 DFSの制御が昂気と同等である以上、当然昂気に目覚めた零夜ちゃんにも使用が可能だ。

 相変わらずのブレザー姿のパイロットスーツはどうにかして欲しいけど。

 

 

『逆賊! 南雲義政!!

 あなたの存在が地球・木星間の平和を著しく乱しているのは既に明白!!

 この紫苑零夜が! 舞歌様に成り代わってあなたを成敗します!!』

 

 びしっと剣の先で夜天光・改を指し、朗々と告げる零夜ちゃん。

 もっとも本人がブレザー姿ではあまり決まらないが。

 

『言うに事欠いて・・・・平和だと!?

 平和とは何だ!! 貴様らに都合のいいだけの世界か!!

 現在の木連の状況を何も知らぬ小娘が! 軽々しくその言葉を吐くとは!!

 貴様らこそ木連人の恥晒し!!

 真に平和を望むのなら、草壁閣下の理想をなぜ理解しようとしない!!』

 

『黙りなさい!! 何も知らないのはあなたの方です!!』

 

 木連の状況・・・・それは地球からの来訪者による犯罪の急増だ。

 木星に進出しようとする営利企業や派遣された軍ですら、

 そろって治外法権をいいことに好き勝手を極め、しかもその行いが地球に知られることはない。

 地球人は木星人を同じ人間と認めず、まるで植民地か何かのように木連を認識していたと聞く。

 

 俺たちナデシコクルーにすらその情報は漏れてこなかった。

 『彼女達』とテンカワは追いかけっこに忙しかったし、

 木星を出る時点で被害届は握り潰されていたから舞歌さんに届くこともない。

 一ヶ月前の結婚式に木連守備艦隊司令である月臣大佐が参加し、

 俺たちに現状を語るまでは、誰一人としてその可能性に思い至らなかった。

 テンカワですら予想もしていなかったようだ。

 もともとあいつの政治的な能力は高くはないから仕方ないのかもしれないが。

 

 そしてそのことが南雲のような和平反対派という表立った存在だけでなく、

 潜在的な草壁派を多く生み出すきっかけとなってしまった。

 

 

『我らとてただ草壁閣下を盲信しているわけではない!

 木連の民が救われるのならばあまんじて和平を受け入れよう!

 だが現実はどうだ!! 閣下の危惧していた通りではないか!!

 貴様らナデシコが木連をさらなる地獄に変えたのだ!!』

 

 

「待ってくれ!!

 新地球連合政府にも木連の状況に遺憾の意を示している人は多いんだ!

 現にこの試験航行が終わったら、このナデシコBは木星圏に派遣される手筈だった!!」

 

 そう。

 俺たちナデシコBは試験航行の後で部隊を再編成し、月臣大佐の下に派遣される予定だった。

 いわゆるMP――軍警察の木星圏総本部として。

 まあ現クルーで残るのは俺とイツキとナカザトくらいだと思うが。

 さすがに民間人を木星まで引っ張って行くわけにはいかない。

 

『それが何だ! もはや遅すぎる!!

 貴様らはいつもそうだ!!

 端から和平など、成り立つ訳もなかったと言うのに・・・!!』

 

「それについては謝罪する!

 だがこれからは俺たちナデシコが責任を持って木連の秩序を・・・!」

 

『笑止!! 貴様らにそのような器はない!!

 本気で木連を思うことができるのならまず草壁閣下を解放して見せろ!!

 閣下こそが我らを導き、真の秩序をもたらして下さるのだ!!』

 

「そんなことが出来るはずないだろう!

 草壁は戦争を助長するだけだ! なぜそれがわからない!!」

 

『ならば貴様らを打ち倒し、力付くで閣下の大望を果たすまで!!』

 

 くっ・・・やはり説得は不可能か・・・。

 

 

 ズガガガガガガガガッ!!!

 

 

 実質的にナデシコを背負った形の光神皇と睨み合う夜天光・改を下方から銃弾の雨が襲う。

 さっき吹き飛ばされたアサミちゃんのアルストロメリアだ。

 銃弾は全て夜天光・改に命中するも、悉くフィールドに弾かれてしまってダメージには及ばない。

 

『し・・・信じられません!

 普通いきなり女の子の顔に向かって撃ちますか!?

 私の笑顔は商品なんですよ! 国の宝です!!

 こんな屈辱ははじめて受けました!!』

 

 うーむ、歪められてるな〜。

 これさえなければ本当に素直でいいコなんだけど・・・。

 

 アサミちゃんは効果のないライフルを捨て、ナイフ型簡易DFSを手に南雲の隙を窺う。

 

『万一私の顔に傷を付けたりしたらですねぇ〜・・・

 傷つけたりしたら・・・・・・え〜と、ナカザトさん!』

 

 

 ピッ!!

 

 

「南雲ぉっ!! 貴様アサミさんの御尊顔に傷なんか付けてみろ!!

 俺が貴様のピーーー!ピッピーーー!して!!

 あまつさえパオーーーン!!∇〇※Ψξ!!!

 

 

 ブツッ!!

 

 

『・・・・と言うことになります!!』

 

『・・・・・・・・・・・・・不潔・・・・・・・・』

 

 ・・・・俺ナカザトの友人やめたくなって来たよ。

 

 

『貴様ら! 馬鹿にするのもいい加減にしろ!!』

 

 

 うう、言い返せない・・・。

 

『とにかく!! 覚悟しなさい、南雲義政!!

 行こう!! アサミちゃん!!』

 

『はい! 零夜さん!!』

 

 零夜ちゃんの光神皇が前、アサミちゃんのアルストロメリアが後ろに回り南雲を牽制。

 もちろん、隙あらばいつでも攻撃に移れる体勢だ。

 両者が手に持つのはDFSと簡易DFS。

 いくら夜天光・改のフィールドが強力でもそれ自体を切り裂くことができる。

 それ以前にSクラスを二人相手にして勝てる奴なんか俺は二人しか知らない。

 その二人が誰かなんてのは語る必要性を感じないが。

 

『ふ・・・いいだろう。丁度いいハンデだ。

 生まれ変わった私と夜天光の力! 存分に味わうがいい!!』

 

 南雲は臆することなく二人に対し、錫杖を構えなおす。

 よほど自信があるらしい。

 

 また、六連によって足止めされていたほかのパイロット達も

 二人が戦闘態勢に入ったのを見てナデシコの救援に向かうのをやめ、それぞれの目の前の敵に集中する。

 

 

『一人につきノルマは夜天光一機。

 加えてモドキが十と少しですか・・・。

 結構キツイかも知れませんね・・・』

 

『大丈夫ですか? イツキさん』

 

『ええ。アリサさんも気を付けて下さい。

 モドキはともかく夜天光の動きは異常です』

 

『イツキっ! 辛いのならサポートに徹してろ!

 無理して墜とされたら元も子もねえからな!』

 

『いいえ、やれます!!

 この程度で弱音なんて吐いてたら北斗さんに殺されてしまいますよ!』

 

『へっ! それでこそ四天王だ!

 よ〜し、行くぜ手前ぇらっ!!』

 

『『了解!!』』(アリサ君&イツキ)

 

 

 ピッ!!

 

 

『ジュン君! こっちは周りのバッタさんたちをやっつけちゃおう!』

 

「わかった。

 グラビティブラスト発射準備! 索敵班は火器管制を手伝ってくれ!

 ハーリー君は相転移エンジンの制御を!!」

 

 テンカワのことだ。

 間違いなく勝利するだろう。

 いくら北辰が自身を強化していたとて、あいつには勝てない。

 

「ユキナちゃん、テンカワの戦闘を常にサブモニターに出しておいてくれ!」

 

「了〜解! 通信は?」

 

「いや、モニターだけでいい。

 どうせユリカ達が通信しているはずだ。邪魔はしないで置こう」

 

 やはり夫のことは気になるだろうからな。

 

 いきなり16人もの未亡人を作らないでくれよ? テンカワ。

 俺たちの安全な未来のためにも。

 

 

 


 

 

 

 

「どうした北辰!! 動きが鈍いぞ!!」

 

 俺が繰り出すDFSの斬撃を、奴は何とか防いでいる。

 その手に持つ錫杖型のDFSも俺の攻撃を捌く以外の働きはしていない。

 先ほどからずっと・・・といってもそれほど経っていないが、とにかくこんな調子だ。

 

 しかし油断はしない。

 こいつは確かに俺を滅ぼし、そして消し去ると言ったのだ。

 それがはったりでない事は、望みもしなかった経験からよく知っている。

 

『流石だな。一撃一撃が全て必殺。

 一瞬の油断が間違いなく死を招く・・・・・・』

 

 その通りだ。だが一瞬でも油断するようなかわいい奴じゃないだろう? お前は。

 現に口調にも余裕すら感じられる。

 

『テンカワアキトよ・・・・・・。

 なぜ我がボソンジャンプ技術を使用できたのか気にはならぬのか?』

 

 言いながら北辰は初めて攻勢に移った。

 的確に急所をついてくるのは相変わらず。

 見切るのは容易いが、かといって受け止めないわけにもいかないと言う攻撃。

 それは俺でも同じだ。難なく受け止める。

 

「気にならないといったら嘘になる。

 しかしお前と南雲を倒してしまえばどうとでもなることだ。

 ボソンジャンプは奇襲か、一対多の場合にしか役に立たない。

 ジャンプの瞬間を狙われるのが落ちだからな」

 

 奇襲をかける時、ボソンジャンプほど有効な方法はない。

 俺はそれを身を持って学習している。

 だがこういう一対一の戦いでは何の役にも立たないこともまた同じだ。

 

 状況から考えて間違いなくヤマサキも関わっているのだろうが、奴は所詮科学者。

 北辰・南雲という中心メンバーを失えば火星の後継者が機能することは二度とないはず。

 

『ふ、つまらぬ男よ。

 せっかく貴様の断末魔の前で語ってやろうと思っておったのだがな・・・・・・』

 

「抜かせ! 断末魔を上げるのはお前の方だ!」

 

 一際大きく振りかぶり、斬る。

 しかしそれも錫杖に防がれ、北辰は一度距離をとった。

 

 いくら俺でもこれほどの使い手が防戦一方に入ってしまったら、ダメージを与えるのは難しい。

 アルストロメリアカスタムにもまだ完全には慣れていないしな。

 

 いつの間にやら戦場は火星極冠遺跡の直上、かんなづきの真上に移っていた。

 北辰は俺から一時距離を取ったかと思うとゆっくりとかんなづきの装甲の上に降り立つ。

 

『ここで決着をつけよう。

 我と貴様の・・・最後の戦場だ。

 ここほど最適な場所は他にあるまい』

 

 ふ・・・確かにな。

 全ては遺跡に始まり遺跡に終わる。

 古代火星人だか何だか知らないが、俺の人生はとことんそいつらに弄ばれているようだ。

 

「ユリカ! これから遺跡直上で奴との決着をつける!

 皆に注意するように言っておいてくれ!」

 

『うん、わかった。アキト、大丈夫?』

 

「ああ。だが妙だ。さっきからちっともまともに戦おうとしない。

 いったい何を企んでいるのか・・・・・・」

 

 時間稼ぎ・・・ということは無いだろう。

 稼いだところで有利になるのはこっちだ。それがわからない奴ではない。

 あいつの性格上、まず間違いなく何らかの罠が張ってあるんだろうが・・・。

 

「とにかく倒さないわけにも行かないからな。

 北辰が攻撃に移らない以上、北斗との戦いのように周りに被害が出ることはないと思うが・・・」

 

 嫌な予感だけは拭い去ることが出来ない。

 何度も奴に出し抜かれてきた身としては、な。

 

 俺は北辰の待つ、かんなづきの甲板へと急ぎ降り立った。

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・いくらなんでも回りくど過ぎるな」

 

 アキトの戦いを医務室に常備されているモニターで見ていた俺はそう思わざるを得なかった。

 明らかに不自然。戦う気がないように見えてもどこか必殺の気配を漂わせている。

 つまりは勝つ自信があると言うことだ。

 

「そうかしら?

 アキト君相手に手が出せないと言うことは考えられない?」

 

 さっきまで隣りで俺の体を調べていた女――確かイネスとか言ったか。

 そいつがなにやら正体不明の薬品を調合しながら返答する。

 

 ・・・まさか俺に飲ませる気じゃないだろうな?

 暴れるぞ? 本気で。

 

「北辰とアキトじゃ確かにアキトのほうが数段格上だがな。

 あの男が何の勝算もなく戦いを挑むことはあり得ない。

 暗殺者とはそう言うものだ」

 

「それはわかるけど・・・。

 どう考えてもあの男がアキト君に勝てるとは思えないのよ。

 それよりも私が今興味があるのは北辰がボソンジャンプで現れたと言う事実ね」

 

 調合を終えたらしい紫色の粉末をラベルの張ってないビンに入れて薬棚にしまうイネス。

 どうやら俺に使うつもりはないらしいが、その試作品・未と書かれた棚が異様に気になる。

 飛厘の部屋にも似たようなものがあったしな。

 

「生体跳躍のことなら向こうにはヤマサキがいる。

 俺に処理を施したのは奴だからな。別に気にすることでもないんじゃないか?」

 

「そうじゃないわ。あの男はチューリップを使わずにジャンプして見せたでしょう?

 あれをするには跳ぶ本人がA級ジャンパーであるか。

 または火星極冠遺跡を正確にコントロールする必要があるの」

 

 なぜだかイネスの表情がだんだん輝いていっているような気がする。

 

 ・・・・・・地雷踏んだか?

 

 

「うふふ、あなたみたいに真面目に私の説明を聞いてくれる人は久しぶりだわ。

 せっかくだから詳しく優しくコンパクトに説明するわね!」

 

「いや、要点だけで構わ・・・・・・」

 

「まず! 北辰がA級ジャンパーであるという仮説はなくなるわ。

 A級ジャンパーに後天的になることは不可能。

 なぜならA級ジャンパーはある時期に火星で生まれ育った者だけの突然変異とも言えるものだから。

 つまりテラフォーミングに使われたナノマシンが遺跡の干渉を受け、

 それらを体内に取り込んだ者の体を遺伝子的に変異させてると言うことね。

 遺跡を完全に解析することが出来たら可能かもしれないけど、時間的側面から言ってまず無理。

 それ以前に遺跡のメカニズムを解明するなんて、現代の科学じゃ到底不可能なんだけどね」

 

 俺の要求はあえなく却下されたようだ。

 既に自分の世界に入ってしまっている。

 逃げ出してもいいが、ここ以外にアキトの戦闘を見れる施設まで辿り着ける自信がない。

 

「・・・奴が火星育ちだったと言う可能性は?」

 

 興味がないわけでもないし、別に構わんか。

 北辰の奴も相変わらずのらりくらりとしているし。

 

「あのね・・・あなたの父親のことでしょうに。

 でもまあその可能性はゼロね。

 木星人でA級ジャンパーは万葉さんだけ。しかも彼女はランダムジャンプで木連に辿り着いた。

 歴史的に見ても木星人の中に火星生まれの人を見つけるのは不可能だわ」

 

 そう言い終えると嬉しそうだった顔が打って変わって真剣になる。

 

「情報では既に遺跡は彼らの手中に落ちてしまったみたいだけど・・・。

 手に入れたからといってもコントロールできなければ何の役にも立たないのよ、あれは。

 そしてコントロールするにはA級ジャンパーを生け贄にする必要がある・・・。

 だとしても取り込んだジャンパーと遺跡のイメージングを同調させるにはやっぱりかなりの時間が掛かるわ。

 ・・・つまり北辰がジャンプできる要素が見当たらないのよ。

 それこそ何かの隠し種でもなければね」

 

 生け贄・・・・・・その一言が俺の耳に残る。

 確かアキトの過去ではミスマルユリカがその贄に挙げられたと言っていた。

 

 有ったかもしれないもうひとつの未来。

 話を聞いた後も別に思うことはなく、ただ納得したぐらいだった。アキトはアキトなのだから。

 俺にとっては今とこれから以外はどうでもいいことだしな。

 

「奴らは跳べる・・・それでいいだろう。それに今跳躍しても役に立たん」

 

 どっちにしろここで奴らは死ぬ。

 モニターを見る限り、どいつもこちらの戦闘力に劣っているからだ。

 例え数があっても総合的に少ない戦力で挑んできたのが奴らの敗因。

 

 せめてヒットアンドアウェイくらいにするべきだったんじゃないか? 頭数はあるんだし。

 いきなり総力戦に持ち込むのは愚策中の愚策だ。

 

「身も蓋もないわね・・・。

 あ、そう言えば知ってる?

 ブローディアに搭載されているAI、ディアちゃんとブロス君を初めとしたオモイカネシリーズはね、

 遺跡の情報を元にネルガルがコピーしたものなのよ。

 そこで私が立てた仮説が・・・・」

 

 イネスが完全説明モードに入ったのを見計らって、俺はモニターに視線を戻した。

 一見したところではアキトが北辰をかんなづきの外壁にたたきつけ、

 今にも止めを刺そうとしている所に見える。

 

 だが相変わらず北辰は余裕だ。

 何を企んでいようと死ねば終わりだろうに・・・・・・。それとも自爆でもするつもりか?

 

 俺の思考をよそに、アキトはとどめの一撃を振り下ろした。

 

 

 

 

 

 

「なあドクター。都市・・・いや遺跡と言うのは確か四角い箱の形をしてるんだったな?」

 

 俺の目はモニターに吸いつけられたままだった。その状態でとりあえずイネスを正気に戻す。

 説明が欲しかったからだ。今見ている光景に。

 

「えっ? ええそうね。ジャンパーを取り込んだときは花が咲くように開くらしいけど。

 基本的には立方体だったはずよ」

 

「・・・・・・微妙なところだな。立方体に見えなくもないが・・・。

 少なくとも花には見えないぞ?」

 

「? 北斗くん、いったい何を・・・・・・!!」

 

 

 ガタンッ!!

 

 

 怪訝な顔をしながら俺の視線の先――つまりはモニターを見やったイネスは、

 そのまま座っていた椅子が倒れるのも構わずに立ち上がった。

 

「大変・・・・!!」

 

 そう呟くと突然身を翻して医務室を出て行こうとする。

 

「おい、どこへ・・・!?」

 

「ブリッジに行くわ!! とりあえず状況を説明しないと!! あなたも付いて来て!!」

 

 有無を言わさぬその形相に俺は思わず従った。

 ベッドから跳ね起きるとイネスの後に続く。速度は遅いが迷ってしまってはしょうがないからな。

 

「ドクター!! あれは一体何なんだ!? それに何をそんなに慌てている!?」

 

「なんてこと! 最悪ね!

 当たって欲しくない仮説に限って当たってしまうんだから・・・!!」

 

 普段あまり運動をしない役職だからか、既に息を切らしているイネスを俺は抱えた。

 

「道を教えろ! で!? 当たって欲しくない仮説ってのは!?」

 

「あとはこのまま真っ直ぐよ・・・!

 さっき言ったでしょう? 遺跡が自分の意志で・・・って」

 

 ・・・聞いてなかった。

 

 速度を上げた俺はあっという間にひとつのドアの前に来る。

 

 

 プシュ!!

 

 

 軽い圧搾音。いつもと変わらない。

 だがブリッジの連中は揃って蒼ざめた顔で正面モニターを見ていた。

 

 

 

「火星の後継者は遺跡をコントロールしていたんじゃない。

 彼らは・・・・・・」

 

 イネスの声がブリッジに響く。

 

 

 

 

「彼らは協力・・・いえ、取引していたのよ。・・・・・・自我を確立した遺跡と」

 

 

 

 モニターは金色の触手にその四肢を奪われたアキトの姿を映しつづけていた・・・・・・。

 

 

 


 

 なかがきその3

 一気に登場人物が増殖。

 さすがにここまで多いとこんがらがって来ますねー。

 では次でラストです。

 

 

NEXT