機動戦艦ナデシコ

『影(シャドウ)』

 

 

 

 

 

二手に分かれて、コソコソ逃亡中のミユキであったが、

やはり多勢に無勢と言ったところなのか部屋に立てこもっていたりする。

部屋の外から犯人を追い詰めた刑事達一同からこのような説得がされていた。

 

「ミユキちゃ〜ん?大人しくでてきたらゲキガンフィギアあげるよォ!!

 他にも同人誌からビデオに、シール、レアなものだったら超合金の奴あげる!!」

 

「だいふんぱ〜つ…、大きいフンとパーと2、大奮発(ニヤリ)」

 

ドアの向こうから聞こえる声に少し怯え気味のミユキ。

ブラスターを持つ手が震えてカチャカチャと小刻みに音を放っている。

特に最後のセリフのせいで余計に部屋の温度が下がったような気がした。

 

(誰が一世紀前のアニメの奴を欲しがるのよ!!

 もぉーう……だいたいどうしてこうなったのよ!

 そう、会長よ。会長のせいで…。

 …あれ?あれあれ?もしかして…。

 いや、もしかしてというか……会長一人で逃げた?)

 

ミユキの隣でモガモガとうるさい物体がいるが、それを無視してミユキは考える。

何時の間にか息を吐くと白く見えるぐらいに温度が下がっていた。

 

「よぅーし!次は俺様に任せろッ!!

 ウリバタケ特製!ダイエット器具だ!

 これを使えばどんな脂肪もウソみてぇに取れちまう!!!欲しいだろォー!?」

 

「ポロポロ〜ポロポロ〜胸の脂肪も取れていく〜ー…カハッ!」

 

(嫌よ…こんな、こんな終わり方は絶対に嫌…。

 あ、そうか!これって夢なんだ…。

 今頃私は、暖かいベッドの上でぐっすり…。

 それで…、それで――――――――――………)

 

またもや最後のセリフの時に部屋が凍りついたような気がした。

モガモガうるさい物体も段々もがく元気が無くなったのか、音がしなくなっていく。

ミユキも何やらヤバめの笑顔を浮かべながらゆ〜っくりと目を閉じ――。

 

 

 

死ぬぞー…。

 

死ぬぞー…。

 

死ぬぞー…。

 

死ぬぞー…。

 

死ぬぞー…。

 

眠ったら死ぬよ?

 

 

 

「はっ!?」

 

どこかから聞こえてきた問いかけに応えて目を覚ますと部屋は銀世界になっていた。

本棚の本は、露でびしょびしょ。テレビに至っては、でかい氷になっている。

近くに置いてあったぬいぐるみは、つららの涙を流していた。

まさに一種異様な世界が広がっていたが、とにかくこの部屋はでないといけない。

 

―ちなみにここの部屋の主 メグミ・レイナードは、後日この部屋を見て絶叫したらしい。

 

ふとミユキが横を見ると艦長のユリカが凍死しかけていた。

 

「ちょ、ちょっと!?何で死ぬのよ!!

 私の生命線!!死ぬな!!

 寝たら死ぬぞ!?こんな寒さなんかぶっ飛ばしてしまってよ!!」

 

「……む、無理ッス(ガクッ)」

 

「ちょ、ちょっと待ったーーーー!!!!!」

 

艦長を誘拐、監禁した挙句に凍死させるという重罪をしそうなミユキ。

さらに人質が死んだらこの状況を打破する方法が全く思いついていなかった。

もの凄い形相で青白い顔のユリカを縦横にブンブン振りましている。

 

「は、ははっ…」

 

「起きた!?ほらっ!意識を―――」

 

「燃え尽きたぜ……真っ白によぅ…(再びガクッ)」

 

・・・。

 

「真っ白になるなぁー!!」

 

ミユキの一人相撲は、しばらく続く。

 

 

 

「なぁ?何か寒くねぇか?」

 

「気のせい、気のせい♪ほら!説得、説得♪」

 

 

 

 

 

プロスとゴートは、ブリッジに向かっていた。

艦内の異常な事態に対処するべく、艦内のことが一番分かりやすいブリッジに向かっているのだ。

二人共、温度が急上昇しており、上着を脱いで急いでブリッジへと走っていた。

 

「この異常な温度変化は一体なんなのでしょうな?」

 

「艦内の整備不良という点は?」

 

「違いますな、一斉に壊れるということはありえません。

 毎日、一つずつ点検しているのですから、少なくとも最近診たのは大丈夫なはずです」

 

「しかし、そんな時に侵入者がいるのは困った」

 

「もしや、これも敵による攻撃なのかもしれませんな」

 

そして、二人で話しつつ走っていると、前の方にブリッジのドアが見えてきた。

中から話し声が少し漏れているので誰かが中で作業をしているのが分かった。

 

「誰か、現状を把握している人がいるかもしれませんな」

 

そして、ブリッジに入った。

 

「何ですか?それは」

 

「あ、プロスさん!大変です。

 空間が裂けて中からくまのぬいぐるみがでてきました!!」

 

メグミがそうプロスに言うのを二人共黙って聞いていた。

いや、黙って聞いていたというより少し思考が止まっていたのかもしれない。

目の前には、地球のお店で売っているようなくまの等身大の着ぐるみが置いてあった。

瞳のガラス細工は、黒色の安っぽい材質を使っており、表情は、笑っておらず無表情であった。

そのせいで余計に空間から裂けてでてきたこれの怪しさを倍増している。

だが、体毛の毛などは、それなりに良い素材を使っているようだ。

・・・膨らんでいるので中に何かが入っているのが分かる。それが人間かはともかく。

 

「くまってこんな顔していたっけ?」

 

「ぬいぐるみだからかわいく省略されてるのよ」

 

ルリとメグミがじろじろとそのくまのぬいぐるみを見ている。

ここまで怪しい物体にこんなことができるのは、さすがであった。

すると、くまが何だか嫌そうに前を向きながら後ろにさがり始めた。

それに加えて手を左右に振ってルリとメグミが近づいてこないようにしている。

 

「害は無さそうですな」

 

「しかし、装ってるだけかもしれん」

 

      スチャッ!

 

と、マシンガンを自分の席の下から取り出してゴートがくまの頭に赤外線をピンポイントする。

くまは、驚いたようにゴートの方を向いた。

 

「動くな、貴様のそのふざけた格好を脱がす」

 

しかし、ゴートの言葉に逆らって両手を上にあげながら背中を見せて走り出す。

それを見たゴートが慌てて引きがねにやっていた指を動かそうとしたが、

 

「かわいそうですよ」

 

「む、むぅ」

 

結局、そのルリの言葉に取りやめになった。

くまは、プロスに拘束されて御用となった。

 

 

 

 

 

その3にジャンプ!!