機動戦艦ナデシコ
『影(シャドウ)』
そのガスマスクを被った怪しさ満点の男をアキトは警戒していた。
なにせ、武器がガスマスクに仕掛けられた不気味な装置。
並びに個人用のディストーションフィールドでほとんどの攻撃を無効化にするという奴だ。
それだけのハイテク装備を装備しているにも関わらず、
その装備している奴が何故か凄いと思えないアキトは不思議だった。
(あれ?ユリカとミユキちゃんがいないな。
もしかして、二手に分かれたのか?)
今頃、その二手に分かれて立てこもったミユキは、凍死寸前である。
「おい!!ユリカはどうした!?」
「うん?大事な人質だからあっちに任せた」
(よしっ!ミユキちゃんの方だな!!)
アキトは、誘拐犯の言葉を信じてミユキのいる場所へと走ろうとする。
誘拐犯の言葉を信じるあたり、馬鹿正直過ぎる気がする…。
だが、そんなアキトの行動も目の前に移動したガスマスクに阻まれてしまった。
「何だよ!さっさとお前はどこへでも良いから行っちまえ!!」
「そうは、イカのとんきち!!
俺が用があるのは、てめぇなんだよ!てめぇ!!」
「お、俺に!?」
「まあ、ゆっくり話そうや」
ぷしゅー―――――――…。
すると、ガスマスクからまたもや勢い良くガスがでてくる。
先ほど使ったにも関わらず底無しなのがハイテク技術の賜物なのだろうか?
あっという間にアキトは、周りをガスで囲まれてしまいほとんど前が見えない状態になった。
・・・しかし、相手のガスマスクだけが良く見える。
「……おい、なんでそれだけ見えるんだよ」
「ん?気にするな」
「まあ、いいや、はぁー(ため息)
お前を倒せば先に行けるんだしな!!」
アキトは、走ってガスマスクを顔面ごと叩き壊すつもりで殴りつけた!!
しかし、余りにも当たった感触、実感が無かったので戸惑うのみに終わった。
「あ、あれ?どうして―――ってうわあぁぁぁぁ!!?」
おかしいと思い振り向いたアキトの目の前には、
ガスマスクが7人に増殖していた。
「「「「「「「ふはははははははっ!!話を聞く気になったか!?」」」」」」
「ど、ど、どうなってんだ!?」
「「「「「「「おい!!こら!?話を聞けって言ってるだろうが!!」」」」」」
急に増えて驚いているアキトに対してガスマスクが急に怒り始めた。
しかも全員、ハモって喋られるので余計に混乱してしまう。
理不尽な怒りと言えば、理不尽である。
「わかった!!わかったよ!!
話を聞くから一人代表で喋ってくれ!!」
「「「「「「「そうか!?分かった」」」」」」」
すると、一体のガスマスクの色が赤に変わり、
さらにそのガスマスクのてっぺんに角が生えるという変化が起こった。
「俺が質問するから答えろ」
「お、おう」
他のガスマスク軍団は、二人の周りをぐるりと取り囲む。
アキトの立場からして見れば、とても居心地の悪い状態である。
「お前は、ミスマル ユリカのことが好きか?」
「はぁ!?な、なんでそんなこと答えないといけないんだよ!!」
「良いから答えろ!!てめぇに選択権は、ねぇんだよ!!」
周りのガスマスクが一斉にガスマスクを前に突き出す構えを取る。
何かガスマスクの目の部分が妙にキラキラと光って見えるのは、気のせいだろうか?
(び、ビームでも飛び出してくるのか!?)
「わ、分かったよ……ゆ、ユリカとは、幼馴染だよ(ボソッ)」
「うぅーん、それは俺が求める答えじゃないからボツ」
「おい!!俺は答えたんだから別の質問にしろ!!」
「……まあ、良いか。それは後でわかることだ。
とりあえずだなぁー…、うん、お前はパイロットとして何かしたか?」
「俺がパイロットとして何かしたか?」
「そうだ、体を鍛えたのか?それともシミュレーションをしたのか?
他のメンバーと作戦を立てたのか?一体何をしたのかが俺は知りたい、
あ、別の職業もあったな(ぽんっ)そうだな、その職業のことでもいいや」
「俺は……俺は……」
(俺は、何もしてない。コックになりたいからパイロットのことは、ほとんど何も…。
でも、コックの仕事は、仕事は、しているぞ。何もしてない訳じゃない)
「俺は、コックの仕事をしていた、皆の食べる食事を作ったり、皿洗いをしていたりしていた」
しばらく沈黙が続いた。
だが、ガスマスクはアキトが喋ろうとしたのをきっかけに喋り始めた。
「それは、コックの仕事であってだな?
お前が一流のコックになる為に必要なこと、つまりはだな。
自分の腕を磨くということは、してないんだよ。
そうだな、努力という言葉があってるな。
料理長の料理の手さばきを少しは盗んだのか?
それとも知らない料理を勉強しようとしたのか?
結局、お前はコックとパイロット、どっちも中途半端ということになるな」
一気に喋られたその言葉にアキトは、呆然と聞いていた。
自分がパイロットとして生き残るために何かをした訳じゃない。
それに加えてコックとして時間を惜しんで料理に励んでいたわけでもなかった。
「俺は……俺は……」
そこへ、ロケットランチャーの弾が飛んでくるのが煙幕を破って見えた。
「「えっ?」」
アキトとガスマスクが両方シンクロしてその恐怖の乱入者に声をあげる。
そして、地面に着弾した。
どかーん!!
煙幕が爆風で吹っ飛ぶ中、その向こう側に某人物が立っているのが、
煙幕と一緒に爆風で吹っ飛んでいるアキトには、見ることができた、見たくなかったかもしれないけど。
そう、煙幕から姿を現した彼女はヒーロー!ヒーロー・ミナト!!
「何、惑わされてるの!?」
「え?!ま、惑わされるって一体!?」
唐突な登場に余り付いて行けなかったアキトまだぼーっとしながら答える。
すると、ミナトは、指を一人になって倒れている元の色のガスマスクを指差して叫んだ。
「あれは、敵の妖術よ!!」
「コォラァ!!まるで人を人外の者のように言いやがって!!」
「だって、増えるだなんてそんな非常識なこと、
人間にできる訳が無いでしょうが!!アンタは、妖怪よ!!」
「よ、妖怪って古いな……って、ち、違う!!
あんたが乱入して来たせいでせっかくのチャンスが台無しだ!!」
「あ!!」
そのガスマスクの叫んだ言葉と共に外壁が破られてフラクタルの手がでてきた。
そして、ガスマスクを掴むと自分のコクピットの場所へと誘導しはじめた。
アキトとミナトは、どちらも宇宙に放り出されないように踏ん張るので必死だった。
そして・・・。
「だいたいあんたは、性格変わり過ぎだ!!」
「失礼ね!アンタなんかに会ったことなんか無いでしょうが!!」
そう捨て台詞を吐いて未来から来たアキトは、ナデシコから離れて行こうとした。
しかし、このアキトに果たしてそのセリフを言う資格があったのだろうか?
そんな疑問を残しつつもアキトは、逃げていた。
「あ、ミユキちゃんを忘れてた」
ナデシコでの忘れ物 : キタウラ ミユキ 1名 誘拐したユリカ 1名